Part21
376 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15:57:38.85 ID:CkBATQ0gP
――開門都市、街外れ
ひゅわんっ!
魔王「やはり勇者の転移魔法は便利だな」
勇者「運び屋は任せてくれよ」
メイド長「まおー様のよりずっと転移酔いが少ないですね」
魔王「うん、久しぶりの魔界だ!」
メイド長「そうですね、緑色の太陽。懐かしいですわ」
魔王「ここは――うん。大体判った、都市の南の外れだな」
勇者「そうだ、丘を下れば開門都市の南門に出る」
魔王「よし、ではここでお別れだ」
勇者「いや、街までは送るよ」
魔王「いいや、ダメだ。勇者は街に近づくな」
勇者「へ?」
魔王「と、とにかく禁止だ。
……そんな、そのぅ。火竜の小娘に会いに行かなくても……」
勇者「?」
魔王「ええい。勇者!」
勇者「おう?」
魔王「もふもふさせろ!」 わしゃわしゃ!
378 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:03:27.05 ID:CkBATQ0gP
勇者「なっ、なんだよいきなり!」
メイド長「あらあら、まぁまぁ」
魔王「なぁに。ちょっとした燃料補給だ」
勇者「――大丈夫なのか?」
魔王「勇者は心配性だな。男が廃るぞ」
勇者「とは云ってもなぁ」
魔王「大丈夫だ。今エネルギーを貰ったからな。
先代たちが束になってかかってきたところで
負ける気はしない」
勇者「……」
魔王「それに、やっとここまで来た。
わたしにも開門都市の明るい空気が感じられるぞ。
人間と魔族が一緒に暮らしている街があるじゃないか。
もう、丘の頂上は見え始めているんだ」
勇者「ああ、そうだな」
魔王「だから行ってくるぞ――わたしの勇者」
勇者「おう、いってきやがれ。――俺の魔王」
魔王・勇者「「また会おう、すぐにでも」」
383 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:07:45.08 ID:CkBATQ0gP
――冬越し村、実りの秋
小さな村人「ほーうぃ! ほーうぃ!」
中年の村人「おんや、こんにちはぁ」
羊毛職人「こんにちはぁ!」
小さな村人「きょうは一杯だぁね、どうするんだい?」
羊毛職人「ああ、もう秋だからねぇ。チーズの仕込みをしないと」
小さな村人「ああ、そうかぁ。今年はどんな案配だい?」
中年の村人「アーモンド入りのは作るだか?」
羊毛職人「良いよぉ、ミルクの出も良いし。
もちろんアーモンド入りのも作るだぁよ。
クローバーの葉をたっぷり食べてるせいかなぁ。
今年のミルクは、すごく甘いだよ」
小さな村人「そりゃぁ、良いことを聞いただよ」
中年の村人「小麦か馬鈴薯ととりかえてくれるだか?」
羊毛職人「もちろんだよ。銀貨でもかまわないよ?」
小さな村人「そういや、銀貨も使うようになっだぁね」
中年の村人「そうだなや。うちは埋めて貯めてるだよ」
羊毛職人「あんれまぁ。そうだね、用心せんとね」
386 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:11:55.63 ID:CkBATQ0gP
小さな村人「こっちは馬鈴薯の畑に、灰と魚カスを撒くだよ」
中年の村人「撒くのかい?」
羊毛職人「魚カスってなんだべ?」
小さな村人「教会で教えて貰った、肥料だなや。
大地の恵みが弱らないように撒くと良いらしいだよ」
中年の村人「でも、お金がかかるんがなぁ」
羊毛職人「そうなのかぁ」
小さな村人「まぁ、でも、たいした金額じゃねぇさ。
修道士様が教えてくれた馬鈴薯で作った金だ。
その修道院にお返ししたって罰は当たらないべ」
中年の村人「そりゃ、そうかもしれんなぁ」
小さな村人「それに、撒かないと馬鈴薯は病気に
なりやすいっていうべさ。うちんとこは小麦の畑は
減らしたから、馬鈴薯病気になったら困っちまう」
中年の村人「そうか、そうか。おらんとこも撒くかなぁ」
羊毛職人「おらは、自分の腹にニシン詰めてぇな」
小さな村人「あははは! 酒場でバター焼きを詰めるべ」
中年の村人「ああ、そりゃいいだなや!」
羊毛職人「チーズが一杯売れたら考えるだぁよ」
小さな村人「そうすべなぁ!」
387 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:17:57.20 ID:CkBATQ0gP
――聖王都、貴族院
がやがやがや
軍閥貴族「――開門都市を放棄して――」
富裕貴族「おめおめと――退却――とは」
司教「精霊の――にも――処罰――」
軍閥貴族「さすがは――弱腰の貴族――」
富裕貴族「――妾腹――な」
司教「王国臣民――100万の――」
軍閥貴族「この罰――」
富裕貴族「極刑――磔刑――」
司教「塩――すりこみ――焼きごて――」
がやがやがや
軍閥貴族「判決を――」
富裕貴族「いや、いまこそ――軍事法廷――」
司教「しかるべき――宗教裁判――」
軍閥貴族「敵前逃亡――任務放棄――」
富裕貴族「王国に対する裏切り――利敵行為――」
司教「神聖冒涜――」
392 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:23:15.26 ID:CkBATQ0gP
司令官「ちがうのだ! 居並ぶ王国重鎮の方々!
聖なる光の精霊教会の方々! 我は決して決して
王国を裏切ったわけではないっ!」
軍閥貴族「何を言う! あの開門都市を落とすのにどれだけ
血が流れたか判っているのかっ!」
富裕貴族「二年ですぞ! 二年の準備期間と、多額の戦費。
それこそこの大陸を搾り取るように作った戦費を浪費した
あの第2回遠征の全てを、貴公は無にされた!」
司教「魔界を光の教えに導くのが精霊様のご意志だったのです。
あなたは教会信徒9500万人の願いと希望を侮辱なされた」
司令官「違うっ! そ、そ、そうだ!
わ、われは逃げたわけでは無い。
そっ、そうだ。援軍に向かったまで! 我は決して逃げてなど」
軍閥貴族「黙れ、怯懦の輩がっ!」
司令官「あのとき、開門都市は恐ろしい敵の攻撃に
晒されていたのだっ。戦略上の決断は司令官の権限だっ」
軍閥貴族「ふんっ」
司教「ではどのような敵だというのです」
396 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:29:51.24 ID:CkBATQ0gP
司令官「そ、それは……水と、炎と……影と、死の魔物……」
軍閥貴族「見たのか?」
司令官「姿を見ることが出来るような相手ではないのだっ。
夜陰の乗じた卑怯な奇襲が繰り返され、我が部下達は次々と
倒れていった! け、警備体制は崩壊し、士気は減衰。
と、とても統治を維持できるような状態ではなかったっ。
そ、そうだ!
反乱だ! 反乱も起きたっ!」
軍閥貴族「ほほう」
司令官「魔族どもが反乱を起こしたのだ。
我ら一万の将兵は死力を尽くして戦った。
戦って戦って戦い抜いた!
我が剣は血糊と刃こぼれで使い物にならなくなったのだ!
あれはまさに死線だった。我らは九死に一生を得て帰ったのだ。
我は、精霊より預かった、聖王国の宝とも云える
遠征軍を失わずに連れ帰ろうとしただけだっ!!」
軍閥貴族「あははは」
富裕貴族「くくく、はははは」
司令官「笑うなっ! な、何がおかしい!?」
軍閥貴族「開門都市に駐留していた軍は約9000。
その九千が千も減らずに極光島沖に現れたという。
それだけの軍勢を温存しうる死線とはどのようなものか。
貴公は500の兵卒も失わないうちから撤退をしたのかっ」
400 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:36:26.34 ID:CkBATQ0gP
司令官「〜っ!!」
軍閥貴族「恥を知れっ!」
司令官「だがしかし!
我らが現れたおかげで極光島の戦役に終止符が打たれたのは
確かではないか! 我が増援で人類の版図であるあの島の
奪還は成ったのだ!
極光島攻略の第一の功は我にあるはずだっ!!」
富裕貴族「軍監および教会の情報によれば、
すでにあの時点で戦闘は一旦の終結を向かえ、
極光島城塞は南部諸王国軍に包囲された状態にあったと云います。
貴公の――あえて聖鍵軍とは云いますまい。
貴公の私軍はその戦いの最後に現われ、
しかも魔族の残存兵力を殲滅するでもなく、いたずらに兵を失い、
魔族の突破を許しただけではありませんか」
司教「8000の兵のうち2500も失い、申し開きのしようも
あるものか!!」
司令官「我らは広大なる魔界の辺境に荒野を彷徨い、
疲れ果てていたのだ。あのような突撃など、悪夢の突撃などっ
防ぎうるはずもない。あれは天与の災いだったのだっ!」
407 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:50:00.91 ID:CkBATQ0gP
軍閥貴族「いい加減聞き苦しいわっ」
富裕貴族「ふっ。吠える犬は溺れても治らぬようですな」
司令官「東の砦将だっ! ヤツがっ!
ヤツが魔族と謀り、我を陥れたのだ! 慈悲を!
どうかもう一度機会をっ! 我ほど魔界に詳しい
将はいないはず! 必ずやあの蛮族の土地を
聖王の膝下に捧げるっ! どうか、どうかっ!」
軍閥貴族「いかがいたす? 司教殿」
司教「ここで一つの罪を許すことは
聖なる教会の信徒9500万人にたいする罪を犯すこと。
わたしの心は悲しみで裂けそうですが。
くくくっ。 この病犬の罪は磔刑が相応しいものでしょう」
司令官「待ってくれ! 今少し、今少しの猶予を!」
軍閥貴族「軍律に照らしても貴公の極刑は避けられぬ」
司令官「東の砦将めぇ! 下賤の生まれの夷狄めっ!
薄汚い傭兵めっ! 許さぬ、魔族と通じおって許さぬぅっ!」
富裕貴族「狂ったか」
司教「醜い狂いざまですな」
410 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:57:19.64 ID:CkBATQ0gP
――冬の国、王宮、予算編纂室
商人子弟「うわぁん、忙しいよ。どうなってんだよ」
将官「だ、大丈夫ですか?」
従僕「僕お茶を入れてきますっ」
商人子弟「お茶なんか良い! 逃げるな! 整理しろ!」
従僕「ふぇぇーん。もう目がしばしばしますぅ」
商人子弟「ちょっと泣きべその方がもてるんだ。
お前みたいなショタっ子は特になっ! 下兄貴が云ってたぞ」
従僕「ふぇぇぇーん。ふぇぇーん」
将官「容赦がありませんね」
商人子弟「冬寂王が僕に判らせてくれたんだ……。
容赦なんかしてると自分の方が酷い目に会うって」
将官「なるほど」
商人子弟「見ろ、この書類の山をっ!」
どでーん!!
将官「でも、商人子弟さんが来るまではこの六倍
あったんですよ。もはや残敵掃討戦ではないですか」
商人子弟「王国経営する気無かったとした思えない!」
414 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:02:41.41 ID:CkBATQ0gP
将官「いや、冬寂王はあれでも名君って云われてるんですけどね」
商人子弟「そうなのか……。ノリで統治してるんじゃなかったのか」
従僕「そうですよ! 王様は格好良いですよ?」
商人子弟「とはいえなぁ、この惨状はなー」
将官「まぁ、三国通商協定や極光島奪還が成功するまでは
こうじゃなかったんですよ。その頃から書類仕事が
莫大に増えてしまったわけで」
商人子弟「ふむふむ。……その辺に解決のヒントがあるのかな?」
将官「そうなんですか?」
商人子弟「“問題を考えてはいけない。解決方法を考えよ”
これが先生の教えだ。ちょっと聞かせてくれないか?」
将官「もちろんかまいませんが」
商人子弟「おい、従僕くん。お茶を頼む」
従僕「ふぁい! あの、ぼ、僕の分も良いですか?」
商人子弟「ああ、いいぞ。将官さんの分もだ」
従僕「はいっ! すぐ入れてきます!!」
たたたっ
416 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:07:33.57 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「わんこみたいなヤツだな」
将官「可愛いですね」
商人子弟「しっかり仕込んでやらにゃぁ、僕が死んでしまう」
将官「そうですねぇ、これは流石に……」
ごちゃらぁ
商人子弟「で、話の続きなのだけど」
将官「そうですねぇ、どこから始めましょうかね……。
うーん、お役に立つかどうかは判りませんが。
例えば、南部諸王国には貴族領が無いんですよ」
商人子弟「そうなのか? でも、書類には、男爵だの侯爵だの
色々出てくるぞ?」
将官「うーん、その辺が難しいんですけれどね。
恩貸地ってわかりますか?」
商人子弟「授業で聞いてるから、だいたいは。
王が臣下に土地を与えるということだろう?
報酬として与える物だったと思うけれど」
将官「そうです。それが判ると早いですね。
南部諸王国は冬が長く貧しいわけです。基本的に貧乏国ですね。
本来は人が住むには適していなかったわけですよ。
昔は今よりももっとそうでした。暖房とかが不十分でしたし」
417 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:14:42.38 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「ふむふむ」
将官「ですから、国なんて偉そうなことを云っても、
それほどたいした組織じゃないんですよ。人も少ないし。
王とは名ばかりの、領主の親玉みたいな存在が
一人で土地の隅々まで見てれば良かったわけです。
どうせ監視が必要な土地はちょっぴりで、ほとんどは
耕作に適さない深い森や荒れ地や山地なんですからね」
従僕「熱いお茶を入れてきましたぁ」
商人子弟「おお、ありがとう。……うん、続けて」
将官「ですから貴族という名前がついていても、
大陸中央部とは意味合いが違うんです。
大陸中央部では、貴族というのは王から恩貸地を授かった
多くの場合、武力を持った領主です」
商人子弟「ふむふむ」
将官「当然、授かった土地は自分の物ですから、
自分で――もちろん農奴にやらせるわけですが、
開拓したり耕作したりして、作物も自由に取り立てます。
通行税なども貴族が自由に設定して取り立てますね。
賦役といって、農奴を強制労働させるのも自由です。
ですから大河や港を領地にもつ貴族は金持ちになります」
418 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:21:17.88 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「ふむふむ。ああ、それで同じ国の中でも
何回も通行税を取られたり、
場所によって税が違ったりするのか」
将官「そうですね」
将官「王の側から見ると、王の直轄地は、
つまり自分が貴族であるのと同様に経営を行います。
開墾や税の設定などは王自身が決めるわけですね。
それ以外に臣下の貴族からの上納金が入ってきます。
さらには商人や教会からの献金もありますね。
ですから収入が複数あって、普段から税の処理は複雑です。
そのため、税収人が沢山いるし、担当の文官も多い」
将官「そこへ行くと南部諸王国は土地も痩せているし
貴族に対して恩貸地を与えるほどの良い土地もない。
南部諸王国で云う貴族というのは、名誉職であるか
宮廷内での位を表すんですよ」
商人子弟「それで文官の数が足りないのか……」
将官「付け加えると、軍の招集にも大きな差があります」
商人子弟「へ? 税と何か関係があるのか?」
将官「ええ。中央部では、王はもちろん軍をもっていますが、
その数はけして多くないんですよ。
そうですね……霧の国のような大国でも700程度ではない
でしょうか?」
421 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:25:57.46 ID:CkBATQ0gP
将官「王は戦争を行う場合、貴族に召集令を発布するんです。
貴族は土地を与えて貰っている代償として、
この招集に応じる義務があります。
貴族はさらに臣下の騎士や戦士に招集を掛けます。
こうして軍が集まるんですよ。
軍の規模は、王の直属の配下の十数倍になることが殆どです。
こうした招集は、当たり前の話ですが
集合までに時間がかかります。
また、あまり長い間拘束は出来ません、
貴族の側に負担があつまりますからね。
でも、メリットとしてはお金が殆どかからないという点が
あります」
商人子弟「なぜだい? 戦争するには金が必要だろう?」
将官「自分の軍を食べさせるのは貴族が自腹でやるんですよ。
“自分の臣下の面倒は自分で見る”。そういう機構なんです。
王は王の直下の軍だけ用意して食べさせれば良いんですね」
商人子弟「なんだか貴族には損ばかりに聞こえるな」
将官「いや、そんなことはないですよ。
だって、戦争で勝てば、土地がもらえるんですからね」
商人子弟「ああ、そういうことか。
恩貸地はそう言う循環で機能する訳なんだね」
将官「そうですね。ですから魔界への侵攻は多くの貴族の
関心を集めないではおかないんです」
422 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:31:39.75 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「つまり、貴族は賭けをしているわけだ。
自分の君主が勝てば、自分も儲かると」
将官「その通りです」
商人子弟「南部諸王国はどこが違うんだ?
というか、南部諸王国は貴族が居ないのだから
軍もすごく少ないんじゃないのか?」
将官「南部諸王国の軍は、中央と違って常備軍なんですよ」
商人子弟「ああ、それも授業で聞いたなぁ。
軍事のことだからあまり覚えてもいないけれど……」
将官「南部諸王国の軍の最大の目的は、魔族の侵攻を防ぐこと
ですよね。そのような目的では、召集令を出してから集合する
貴族の軍では動きが遅くて間に合わない」
商人子弟「当たり前だな」
将官「だから、常備軍。つまり“常に待機している軍”が
必要なんですよ。当然招集なんて無いから、貴族の下でも
ない。全員が王の直下にいるわけです。わたしもそうですよ」
商人子弟「だがしかし、先ほどとは逆のデメリットがあるだろう?
つまり、常駐故に集合はきわめて高速。長い間拘束しても
専用の軍なので不満は少ない。
しかし、多量の金を食うはずだ」
将官「そうですね」
425 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:36:43.83 ID:CkBATQ0gP
将官「その弱点を、中央からの支援金がまかなってるわけです」
商人子弟「ああ、勘定項目の中でとがっているあれだな」
将官「そうです」
商人子弟「……」
将官「判って頂けましたか?」
商人子弟「だいたいな」
従僕「僕も少し難しかったけど、わかりました!」にぱぁ
商人子弟(だが、それはつまり……)
従僕「つまり、僕たちの兵隊さんは、魔界に行っちゃったり
しないで、僕らを守ってくれるって事ですよね?」にこっ
将官「そうだよ、えらいね」なでなで
商人子弟(そういうことだ。……防衛目的の部隊。
それに金を出すと云うことは、もちろん魔族の侵略を
食い止めるという目的もあるだろうが……
“美味しい獲物、つまり魔界の領土”を南部諸王国には取らせない
そんな思惑もあるんじゃなかろうか……)
将官「どうしました?」
商人子弟「いや、ちょっと考え事を」
430 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:42:01.79 ID:CkBATQ0gP
将官「こんな話で参考になれば幸いですけれど」
従僕「なりました?」
商人子弟「十分に」
将官「え? 本当ですか? あれだけでっ?」
商人子弟「ああ、先生に沢山教わったからね。
まず、話には出てこなかったけれど、中央の貴族制度には
問題が他にもあると思う」
将官「どんなでしょう?」
商人子弟「それは一部の貴族が、
――たとえば地主とか、商人とか、大工房、
あるいは傭兵部隊でもいい。そう言った勢力と癒着するのを
防げないって事じゃないかな。
だって貴族には税制の自由があるわけだろう?
だからその種の癒着がおこって、税が不公平になる。
実家は商人だからよくわかる。
毎年納める賄賂の額は、そりゃ相当なものだ。
もちろんその賄賂で港や運河の使用権を融通して貰ったり
するんだけどね。
時にはライバル商人の妨害を依頼することもある」
将官「ああ、そういうこともありますね。
わたしたち南の田舎者が都会に行くとすぐ
騙されて、ケツの毛まで抜かれるなんて聞きます」
432 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:47:05.86 ID:CkBATQ0gP
商人子弟「それにもう一つは、
賄賂に似ているけれどコネや袖の下だろうね」
将官「コネ、でありますか」
商人子弟「うん。そういう制度で動いているって事は
例えば役人や責任有る立場になるときに
誰かの血縁であったり、賄賂を納められるかどうかが
重要って事になってしまう。
役人になってしまえば甘い汁が吸えるわけだから
最初の段階で袖の下を使ったり、例えば血縁関係を
使って潜り込んだりするのは当たり前になる」
将官「そういえば、そんなのも聞き及びますねぇ。
都会の人の親戚自慢ってのはそう言うとこから来るんでしょうか」
商人子弟「これが答えだ」
将官「へ?」
商人子弟「判らないかな? つまり、大陸中央では
“能力ややる気があっても出世できない”傾向がある。
ならば、南部諸王国の答えは一つ」
将官「!」
商人子弟「広く一般から役人を募る。そしてその能力と
やる気に応じて給金を出す。――賄賂との、決別だ」