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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part19


968 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 15:02:11.70 ID:I63MLpWkP,/
魔王「明日は、その……あれだろう?」
勇者「ああ、開門都市の連絡議会だ」
魔王「行くのだろう?」
勇者「あー。一応な。黒騎士が魔王の名代として出てるから
 何とかかんとか、形になってるわけで」
魔王「それはそうだが」
勇者「なんだ、なんかまずいのか?」
 
しゅるん、しゅるるん
魔王「まずくはないのだが、そのぅ、火竜王がな」
勇者「あー。あいつか? 確かに最初に会ったときは
 聞き分けのない頑固親父だったけれど、最近は協力的だぞ?
 特に娘が周辺魔族代表として、連絡議会の議員になって
 開門都市に住むようになってから、文句は言ってきてないぜ?」
魔王「や、それが問題の中心なんだが」
勇者「?」
魔王「あー。こほんっ。こほんっ。会議が終わったら
 まっすぐ帰ってくるのだぞ?」
勇者「いや、今回は街の大通りで縁日をやるっていうから」
魔王「縁日?」

971 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 15:07:56.96 ID:I63MLpWkP
勇者「東方のお祭りらしい。傭兵将軍の提案でな」
魔王「ふむ」
勇者「色々無料で、安いけれど珍しい食い物をだしたり
 夜に明かりをとも灯したりするんだってさ。
 あと、囃子とか言う音楽を流すんだと」
魔王「交流が目的か」
勇者「うん、人間商人と魔族の関係はまだぴりぴりしてるしな。
 これでも、この間の商店焼き討ちの頃よりは随分
 マシになったんだけどなぁ」
魔王「占領して、植民地にする意味がわかったか?」
勇者「あー。身にしみたよ」
魔王「今回は不幸な事例だがな。人間の聖鍵軍の統治が
 あまりにもひどかったのが災いしたな」
勇者「商人が魔族をあまり酷く扱ってこなかったのと
 東の砦将の評判が悪くなかったことだけが救いだよ」

972 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 15:20:00.01 ID:I63MLpWkP
魔王「少し落ち着いてくれればいいが」
勇者「まぁ、なんとかするさ。こっちは魔王の代理だ。
 上座に座って睨んでるだけで、大抵の議員はよい子になるって」
魔王「ふむ、そうか……。ところで今回の会議の議題は?」
勇者「傷病者治癒と保護の観点から病院を建てたいと」
魔王「ほう、良い着眼点だな」
勇者「火竜公女の発案でな。慈善事業ってわけじゃないけど
 火竜族から資金の半分と、加工用の石材を供出しても
 良いって云う打診を受けて居るぞ。
 この工事で大量の作業者が必要だし、それで周辺の
 貧しい魔族が街に流入して、言葉は悪いけれど
 “悪い感情が薄まる”効果を期待して、とか」
魔王「公共工事か。その経済効果に着目するとは
 瞠目すべきセンスだな」
勇者「それで、なんか縁日にもみんなで行くそうだ。
 火竜公女はそういってたぞ? 林檎飴がどうとか。
 帰りはそれで遅くなりそう」
 
魔王「へー」
勇者「顔を見せて住民の不安を払拭するのも役目なんだと」
魔王「へー」

63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 18:45:11.38 ID:I63MLpWkP
――冬の王宮
冬寂王「こ、こんなことになるとは」ぐったり
執事「若、大丈夫でございますか?」
冬寂王「強い氷酒をくれ。――いや、酒は自殺行為だな。
 茶をくれ。うんと濃くしたヤツだ」
執事「ははっ」
将官「王よ、次の一団が控えの間に」
冬寂王「うう、判った。五分だけ、五分だけ休憩をくれ」
執事「若、お茶でございます」
冬寂王「とんでもないことになってしまった」
執事「さようですなぁ。これはまったく」
 
ごちゃらぁ
冬寂王「早まった決断だったのだろうか」
執事「いえいえ、決断自体は決して」
冬寂王「しかしこの惨状では……」
執事「はぁ、いかんともしがたいですな」

71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 18:53:04.67 ID:I63MLpWkP
冬寂王「まさか、あの協定でここまで書類や陳情、
 嘆願に取引が増えるとは」 執事「予想外でしたな」
冬寂王「そもそも税などと云うのは、
 春と秋の2回にわけて、地主が城の倉庫へ運んできて
 終わりだったではないか」
執事「さようで」
冬寂王「内政など、堤が切れたら賦役の発布し、
 軍を養い食わせる程度であったのに、
 ここまで仕事が増えるのか!?」
執事「南氷海の西側を通るルートと、港の使用権。
 それに商人から上がる税収に、移民の申請……。
 王一人で捌くのは無理がありますな」
冬寂王「そうだ。我が国の文官はどうした?
 税務官も居ただろうに」
執事「あまりの激務に一週間で倒れましたな。
 そもそも税務官など親子二人でやっていた仕事です。
 これは我が国も、中央の大国のように
 専用の役人を雇用しなければなりませんかなぁ」
将官「あのー。王? そろそろ次の商人を通して
 よろしいでしょうか?」
冬寂王「ええい、通せ!」

73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 18:58:49.17 ID:I63MLpWkP
商人子弟「お初にお目にかかります、王よ!!」
ごちゃらぁ
冬寂王「おお、良く来たな、若き商人殿よ」
商人子弟「はぁ」
執事「こっちか?」 将官「その山は、探しました。こっちでは?」
冬寂王「それともこれか? 違うではないか!」
商人子弟「何を探しておられるのですか?」
冬寂王「ああ、すまんな。立て込んでいて。
 商人殿はニシンの交易であったか?
 商人殿があらかじめ出しておいた書状が届いていたはずなのだが
 確かここらに置いたと……それから今月の税の
 とりまとめも。すまぬ、取り紛れてしまって」
商人子弟「ああ、それなら」 すたすたすた
 
ひょい。
商人子弟「これですね。紹介状です。……税のとりまとめは」
 ひょい 「おそらく、この帳簿でしょう」
 ひょい 「嘆願書はこれ。今月分は、
 紐でまとめてあるようですね。几帳面だけど乱暴だなぁ」

78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19:06:17.82 ID:I63MLpWkP
冬寂王「おお! 助かった。時間の節約になった」
執事「いやはや、毎日が戦争ですな」
将官「しかも乱戦気味です。消耗戦かも」
冬寂王「して、商人殿。ニシンであったかな?」
商人子弟「違います。僕は商人の家の三男坊でして
 ニシンを含む交易は次男の兄さんが、
 商会と金貸しは長男の兄さんが継いだせいで、
 仕事がないんですよ」
冬寂王「ふむふむ。それは大変だな。して、我が宮殿に
 どのような用件で参ったのだ?」
商人子弟「この紹介状を……」
「育てるのには飽きた。
 あとは浴びるほど仕事を与えて
 現場でこき使ってやってくれ。
        ――紅」
冬寂王「……」
商人子弟「この宮殿で小さな船でも貸してくれるなら
 僕も商売やら情報集めやらでお役に立てると思うんですよ。
 一応商人の家の子ですからね」 ほやん
冬寂王「ふむ。いや、良いところにきた。あははは」 がしっ
執事「この国は、有望な若者を歓迎しますぞ」 がしっ

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19:13:27.57 ID:I63MLpWkP
――開門都市、大通りの縁日
 
〜♪ 〜〜♪
勇者「へぇ、随分賑やかだな」
東の砦将「ああ、思いつきの突貫企画にしちゃ、良い線行ってるな」
勇者「良い匂いだ」
東の砦将「こいつぁ、焼き豚だな?
 おい懐かしいな! おい、黒騎士。一切れ買おうぜ」
勇者「おう、そうしよう、そうしよう!」
東の砦将「冷たいエールもなっ」
人間商人「らっしゃい!」 勇者「その良く味の染みてそうなところを4切れくれ!」
人間商人「ほいよ! 金貨2枚で良いよ!」
勇者「そんなに安くていいのかい?」
人間商人「この祭りの販売物の仕入れは、
 半額は都市の委員会さんがもってくれるんだとさ。
 それで今日は大盤振る舞いって訳だ!」
勇者「そうだったのか〜。うっわぁ、良い匂いだなぁ!」
人間商人「そりゃそうだ。この焼き豚は、砂丘の国の
 秘伝のスパイスで味付けしてあるんだから。
 兄ちゃん、良い買い物をしたよ!」

90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19:22:34.47 ID:I63MLpWkP
東の砦将「エールをくれ、ジョッキで二杯だ!」
魔族商人「こりゃぁ、東の大将じゃねぇですか」
東の砦将「ああ、すまねぇな。邪魔をして」
魔族商人「いやいや、とんでもねぇ。二杯ですね?
 きゅっと冷えた所を出しますから、待っててくだせえよ」
東の砦将「たのんだぜ。……どうだい? 案配は」
魔族商人「盛況ですねぇ。打ち壊し団も、今日ばっかりは
 出ねぇと思いますよ。こんなに楽しい祭りなんだもの」
東の砦将「だといいがなぁ」
魔族商人「なんせ、戦いがないのが一番ですや。
 もうね、戦争はまっぴらごめんですよ。焼け出されるのも
 おわれるのも、そりゃぁ辛いもんでがしょう?」
東の砦将「ああ、誓ってそんなことには
 成らないようにするととっつぁんに約束するよ」
魔族商人「はははは! 人間の約束かぁ……。
 でも、将軍様のだもんな! この都市ならそれも
 ありかもしれないなぁ。ほら、二杯だよ! 冷たいよ!」
東の砦将「おお、酒手はここに置くぜっ」

93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19:26:36.58 ID:I63MLpWkP
 
〜♪ 〜〜♪
勇者「おー。大将、買ってきたぜ?」
東の砦将「こっちもエール仕入れてきたぞ」
勇者「食おう、食おう」
東の砦将「よしきた。くっはぁ! んめぇなぁ!」
勇者「この火傷しそうな所を噛みちぎって、じゅわーってのがな!」
東の砦将「そいつを、この冷たいエールで流し込むと!
 最高だな、おい。やっぱ食い物ってのはこうじゃなきゃ!」
 
〜♪ 〜〜♪
火竜公女「ここにおったかや」
魔族娘「あ、あの……ここ、こ、こんばんわっ」
勇者「あ?」
東の砦将「出たよ」
火竜公女「出た、とはなんですか。
 視察も公務だと再三言っておいたではないですか。
 それをお二人でこっそりと」
勇者「べ、べつにこっそりって訳じゃないし」
東の砦将「なぁ? 部下にだって云ってきたし」
勇者「俺……部下居ない……」

98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19:32:23.87 ID:I63MLpWkP
魔族娘「ご、ご、ご……あぅあぅ」
火竜公女「妾を振り切って出掛けるのがすでに
 やましさの証です、黒騎士殿っ!」
勇者「は、はいぃ?」
火竜公女「妾は黒騎士殿の妻なのです。
 なんて連れない態度なのですか?
 火竜の一族でも涙が大河となってしまいましょう」
勇者「妻じゃないです」
火竜公女「そのような手練手管を用いずとも
 妾の心も身体も、我が君の物」
勇者「俺のじゃないしっ。何の関係もしてませんしっ」
魔族娘「ご、ご、ご。ごめんなさいっ」
勇者「いや、魔族娘は悪くないから」
魔族娘「いえ、その……黒騎士様が、出掛けたの……
 その……云ってしまった……ので、その
 ご、ごめんなさい」
勇者「まぁ、どっちにしろ、すぐばれたよ。うん」 がくり

104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19:39:47.33 ID:I63MLpWkP
 
〜♪ 〜〜♪
東の砦将「それにしても、着飾ってるじゃないか?」
火竜公女「当然です。……だって東の砦将様が、
 “縁日って云えば、庶民の娘も着飾ってくる”って
 仰ったんじゃありませんか?」
勇者「でも、ちょっと布すくなくね?」
東の砦将「ははは! そうだそうだ、云ったんだっけ。
 それになんだなぁ、見ようによっては、東の衣装に
 似て無くもないような、奇天烈なような……」
火竜公女「急いでしらべさせたのですよ。
 仕立てさせるのに手間がかかりましたが」
勇者「俺スルー……」
魔族娘「ううう、なんか、みなさんが……その……
 み、見てるような……」
東の砦将「おお、魔族の嬢ちゃんも可愛い格好させてもらって」
火竜公女「この娘に着替えさせるのに手間取ったのですわ。
 まったくとんだ愚図ですこと」
魔族娘「す、す、すみません……その、ごめんなさい」

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19:45:50.35 ID:I63MLpWkP
火竜公女「いいえ。良いんですっ」
魔族娘 びくっ
火竜公女「たかが下女とは云っても我が君に仕える以上
 最低限この程度、と云うたしなみと
 美麗さが必要なのです。
 だいたい、魔族の未婚の女性が
 肉体を誇示しなくてどうしますっ!」
魔族娘「それは竜族のことであって……ごにょごにょ……」
火竜公女「魔族の常識ですっ」
魔族娘「ひゃ、ひゃ……ひゃいっ!」
  
勇者「おー。焼き馬鈴薯だよ、こんなとこまで」
  東の砦将「あれはこのあたりの食い物だぞ」
  勇者「そういえば魔界原産だったっけ。食うか?」
  東の砦将「食おう、食おう! 美味いぞ!」
火竜公女「我が君?」
  
勇者「美味いな、バターが最高だな!」
  東の砦将「だろう? このまろやかな岩塩がな」
火竜公女「わ が き み っ!!」
勇者「はいっ!?」

109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19:53:09.65 ID:I63MLpWkP
火竜公女「いかがです?」 くるんっ
勇者「いかがって? 良い縁日だな」
火竜公女「いかがでしょう?」 ふわり、くるんっ
魔族娘「ご、ご、ごめんなさい、黒騎士様」
勇者「美味いぞ、馬鈴薯食うか?」
火竜公女「い、い、いかがですか!?」 くるんっ
  
勇者「えーと」
  東の砦将(小声)「おい、その、あんだろ、もうちょっとこう」
  勇者(小声)「へ?」
  東の砦将(小声)「服褒めるとかさ」
火竜公女 ゴゴゴゴゴ
勇者「あー、うん! よく似合ってるぞっ。
 公女はスタイルが良いからどんな服でも似合うけれど、
 今日のは異国情緒が合って素敵だな!
 ……その、ちょっと露出が多いような
 気がしないでもないが、祭りだしな!」
  
東の砦将「あ、馬鹿。それは褒めすぎだ、知らんからなっ」
火竜公女「そ、そ、そうですかっ!? 我が君っ!
 妾はっ。妾は三国一の果報者でございます!」

123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20:04:29.19 ID:I63MLpWkP
――冬越しの村、魔王の屋敷、執務室
魔王「ふむ……」
メイド長「今月に入って、もう2度ですから」
魔王「間隔も短くなってきているな」
メイド長「ええ、限界かと……」
魔王「あと、どれくらい余裕がある?」
メイド長「早ければ、早いに越したことはありませんが。
 そうですね……一週間程度なら」
魔王「よかろう。一週間後だ」
メイド長「……心中、お察しいたします」
魔王「いや、なに。二年近くだ。良くもったものさ。
 いずれこの日が来るとは判っていた」
メイド長「はいっ」
魔王「冥府宮に我が寝台を運ばせておけ」
メイド長「承りました」
魔王「人間界の仕事の後始末を急がねばな」
メイド長「はい」
魔王「そのような顔をするな」
メイド長「……」
魔王「すぐに戻れる。すぐにまた会えるさ」

128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20:12:48.73 ID:I63MLpWkP
――鉄の国、郊外の丘の上
しゅいんっ!
魔王「ふぅ、こちらはまだ空気が湿っているな」
メイド姉「頭の中がくわんくわんします……」
勇者「大丈夫か」
メイド姉「は、はい……」
魔王「無理はせず、大きく息を吸え」
勇者「考えてみたら転移呪文は初体験だったな」
メイド姉「はい。なんだか、目眩みたいで……。
 ふぅ、もう大丈夫です」
魔王「転移酔いだな、仕方がない」
勇者「ゆっくり歩けば、回復するだろう」
 
ざっ、ざくっ、ざくっ
魔王「街までは、20分と云うところか」
勇者「そんなもんかな」
メイド姉「あれが鉄の国の都ですか! 大きいですねぇ!」
魔王「うむ、煙がたなびいているだろう?
 数多くの工房が並んでおるのだ」

132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20:18:25.84 ID:I63MLpWkP
勇者「それにしても、今日は何の仕事なんだ?」
魔王「ああ、頼んでおいた機械の試作が出来たそうでな」
勇者「見に来たのか? メイド姉も?」
魔王「最近、わたしの仕事を色々教えておるのだ。
 貴族よりも商人よりも筋が良いぞ」
メイド姉「そんなこと、ないです……」
魔王「ほれ、市街地に入るぞ」
 
門衛「止まれ!」
 門衛「どこからやってきた、商人か?」
 魔王「冬の国の学者だ。これが身分証明」
 
門衛「冬の国の国王印。そうでしたか! どうぞっ!」
魔王「身分も、役に立つものだな」
勇者「面倒がないのはありがたいよ、ほんと」
メイド姉「すごいですねぇ! 家がみんな石で出来てますよ?」
魔王「こらこら、上ばかり見ては危ないぞ」

135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20:23:40.86 ID:I63MLpWkP
勇者「で、どこへ行くんだ?」
メイド姉「どこでしょう?」
魔王「うむ、判らん」
勇者「なんだよ、頼りないな。手紙を見せろよ」
魔王「これだ」 ぺらっ
勇者「ああ、これは川沿いの職人街だな」
メイド姉「お詳しいのですね!」
勇者「勇者は風来坊だからな、色んな街でもめ事を
 解決する旅だから地理だけは詳しくなるんだよ」
メイド姉「すごい特技ですよ」
魔王「わたしの物だからな。ふふんっ」
勇者「はいはい」
魔王「ほほう、あれは鉄か? こちらの工房では、銀細工か」
勇者「興味津々だな」
魔王「現場を見るのは初めてだからな」
勇者「今日は、何の工房にいくんだ? 武器か、農具か?」
魔王「工房自体は、銅の鋳造を行っている工房だ。
 だが武器でも農具でもないな」

141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20:28:42.95 ID:I63MLpWkP
魔王「勇者とは以前、教育について話したことがあったな」
勇者「ああ、そうだな」
メイド姉「……」
魔王「わたしは、教育はこの世界においてもっともっと
 大きな力を持っているのじゃないかと思う」
勇者「……ふむ」
魔王「本当の世界の広さは誰にも判らないほど広いのだ。
 それを人間は……魂ある存在は、己の常識や、知識に
 当てはめて知ったつもりになる」
勇者「それは、覚えがあるなぁ。
 自分のやり方しかないと思い込んだり、
 自分が正しいと思い込んだり」
メイド姉「はい……」
魔王「それらの闇を払うには、教育が必要だ。
 しかも、教育がより重要である理由は
 “教育が重要であるという事実”も教育がないと
 理解されないという点にある」
勇者「ん? ちょっと難しいぞ」

144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20:39:19.79 ID:I63MLpWkP
メイド姉「それは、そうなんです」
勇者「判るのか? メイド姉は?」
メイド姉「はい。そのぅ……
 たとえば、農奴は、教育が、つまり知識が少なくて
 “もっと良い世界がある”事もよく判ってないんです。
 だからずっと貧しいんです」
勇者「でも、地主だのなんだのは良い生活してるだろ?
 そういうの見てるじゃないか」
メイド姉「でも、“そっちに行く方法”が判らないんです。
 ううん、正確には“そっちに行けるかもしれない”って
 事すらも判らないんです」
勇者「……」
魔王「……」
メイド姉「それは、とても不幸なことです。
 だからわたしには当主様の話はよく判ります」
勇者「そっか……」