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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part13


222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:10:40.71 ID:Lbanm5QNP
魔王「戦争は争いの一形態だが、争いの全てが
 戦争ではない。もっと他の方法で腕比べをしてもいいし
 村の子供達が競って可愛い娘に花を届けるのも争いだ」
魔王「また、争いは関係の一形態だが、関係の全てが
 争いなわけではない。友好的な関係や支援関係だって
 この世にあるのは事実だ」
メイド姉「じゃぁ、なんで戦争なんか」
魔王「それはわからないが、存在するんだよ」
メイド姉「……なぜ。なぜ?」
魔王「私は、必要だからだと思う」
メイド姉「そんなものが必要だなんておかしいです」
魔王「『いずれ卒業するために必要』だと。
 逆説的だが、そう言う事象もあるのかも知れない。
 最初から大人として生を受けることが出来ないように」
メイド姉「……」
魔王「いずれにせよ、私には判らないことだらけだ」

224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:16:55.21 ID:Lbanm5QNP
――極光島沖合、南部諸王国艦隊
兵士「快晴! 風向き良しっ!」
兵士「腕が鳴るな」
士官「この分なら朝焼けのうちに上陸だ。
 見ていろよ魔族め、人間の武力、思い知らせてやる」
兵士「斧の手入れは怠りないか」
兵士「ぬかりない」
士官「反射光が目に入る。炭と油を混ぜて、
 金属には塗っておけ」
兵士「わかりましたっ!」
 
ごぼごぼごぼ
兵士「ん? 北東に大規模な気泡ッ」
艦長「なんだ? このような場所で……」

227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:24:35.32 ID:Lbanm5QNP
 
ごぼごぼごぼ
 ごばっ! ざばっ! ざばばばぁんっ!!
兵士「てっ! 敵襲ぅぅぅっ!! 巨大烏賊ですっ!」 兵士「射てぇ! 射てぇ!!!」
士官「な、なん……だと……!?」
兵士「うわぁぁ!! 空だ、空にもいるっ!」
兵士「ハーピーだぁっ! 耳をふさげぇ!」
艦長「石弓隊っ! 頭上を狙えっ!
 斧隊は触手を切り落とせっ!!」
兵士「うわぁぁ! うわぁっ!」
兵士「離れろっ! こいつ離れやがれっ!」
士官「勇戦せよっ! 一歩も退くなっ!」
 
ミシィ、ミシィッ!!
兵士「み、水の中から魚人が狙って」
兵士「ぎゃぁぁ!?」

230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:28:46.14 ID:Lbanm5QNP
兵士「死ねっ! 貴様ら魔族は、魔界へと帰れっ!」
兵士「遊軍艦が魚人の切り込み攻撃を受けています!!」
士官「支援だ! 回頭っ! 回頭しろ、操舵手っ!」
操舵手「舵輪が効きませんっ!」
兵士「触手が、艦長っ!!」
 
ミシィ、ミシィッ!!
艦長「この音は、船体全てからっ!?」
兵士「18番、沈没っ!!」
兵士「灼けるっ! くそぉ、こいつら。酸をっ」
士官「水をっ! 水を掛けてくれっ!」
兵士「斧じゃダメだっ! 火矢を射込めっ!」
艦長「ダメだっ! やめろっ!!
 遊軍艦を燃やすつもりかっ!?」
兵士「先行艦隊、壊滅っ!」
艦長「転進だっ! 船足を止めるなぁ!!」

240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:43:36.44 ID:Lbanm5QNP
――南部諸王国軍、軍議
白夜王「……」
氷雪女王「戦船200隻のうち、かえってこれたのは15隻
 生き残ったのは500人足らず……と」
冬の王子「大敗、ですね」
白夜王「……っ」
鉄槌王「ふんっ。ワシは反対したではないか。
 水棲魔族への攻略無くして数で押し切ろうなどと
 自殺行為ではないかと」
白夜王「うっ、うるさいっ!!」
鉄槌王「うるさいとはなんだ!!
 貴様は大口を叩いていたではないか!!
 勇気があれば敗れることはないなどと。
 この様は何だ。指揮官のみおめおめと逃げ戻り」
白夜王「我は王族なのだっ、生き残る義務があるっ」

243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:48:13.67 ID:Lbanm5QNP
鉄槌王「それもこれも、貴様が旗艦を転舵させている
 あいだ身を挺してかばってくれた冬の国の戦船の
 おかげではないかっ!!」
白夜王「頼んだわけではないわっ!」
冬の王子「……ッ」
鉄槌王「心中、お察しいたす」
氷雪女王「冬の王は勇敢な方でした」
冬の王子「いえ、父らしい最期でした」
白夜王「はんっ! らしいもらしくないも無かろう。
 そもそもあの島が奪われたのも、冬の王がしっかりと
 防備を固めていなかったためではないか。
 命をかけてかばったくらいでその失点が
 消えるわけでもないわっ」
鉄槌王「貴様ッ。南部の武人の矜恃を何処へやった!?」
氷雪女王「そうです。あの当時、聖鍵遠征でわれら
 南部諸王国の兵力は殆ど出はからっていました。
 総力を挙げた侵攻作戦だったのです。
 それこそ、人間世界の防備がおろそかになるほどの」

249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:53:30.09 ID:Lbanm5QNP
白夜王「それを云うならば、今回の作戦だって
 聖王国と光の教会からの提案によるもの。
 その提案を断れる南部諸王国かどうか、
 お前達も自分の胸に手を当てて考えてみるがいい。
 そうだっ!
 貴様もっ!
 貴様もっ!
 そこの小僧、お前もだっ!!」
白夜王「冬の王に罪がないというのなら、
 我の罪もないわっ。
 我は艦隊を率い、総意によって総大将を勤めたまで。
 その依頼は聖王国と光の教会からだったのだ。
 200の船が壊滅したからどうだというのだ。
 これでまた新しい船が手に入るではないかっ!」
鉄槌王「云わせておけば……」
 
バンッ!!
冬の王子「黙れっ」

253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:57:22.10 ID:Lbanm5QNP
白夜王 びくっ
氷雪女王「……王子」
冬の王子「父は父の信じるところ為し、
 その過程で命を落としたのだ。そのことで、白夜王。
 貴公を責める気持ちは私にも、冬の民の1人に
 至るまで持ってはいないっ」
白夜王「ほらみろ、そうではないかっ」
冬の王子「しかし、だからといって
 この海戦敗北の責任を免れえるはずもない。
 無策によって6000の将兵の命を散らしたのだ。
 その意味、この会議に集った王族であれば
 判らないはずは無いと考える」
白夜王「誰に向かって口をきいている、
 くちばしの黄色いひよっこがっ」
鉄槌王「この会議に出た時点で、各国の代表だ。
 わきまえよ、白夜王っ」

260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 21:05:04.42 ID:Lbanm5QNP
白夜王「はっ! よかろう。貴様らがそう言うならば、
 どのような責任でもとろうさ。はん? なんだ?
 我の首でも欲しいのか? 我の首があれば、
 中央や教会が納得するとでも?」
鉄槌王「……」
氷雪女王「常識的に考えて、賦役か資金援助でしょうね」
白夜王「良かろう、払おうではないか。
 だがな、冬の。聞いておるぞ?」
冬の王子「何をです」
白夜王「冬の国が最近なにやら、湖畔修道会と1人の
 天才学者をおしたてて、巨大な利益を独占していると。
 何でも新しい作物や風車を通して、
 かの『同盟』までをも巻き込み、
 多額の戦費をたくわえているそうではないか」
冬の王子「農業に工夫を加えたのは事実だ」
白夜王「そのうえで、なお白夜の国からの資金援助を
 欲するというのか? 冬の国は金の亡者というわけだ。
 南海の槍武王の末裔が聞いてあきれるわっ!」
鉄槌王「……貴様ぬけぬけと」

266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 21:08:18.82 ID:Lbanm5QNP
冬の王子「……潮時、か」
氷雪女王「?」
冬の王子「いえ、会議を続けましょう」
鉄槌王「そうだな。こうなっては善後策をうたねばならん」
氷雪女王「とはいえ、中央からの要請を放置するわけにも
 行かないでしょう。このままでは財政にどのような
 圧力を掛けられるか」
冬の王子「使者はなんと?」
氷雪女王「追加の援助が必要であれば、戦船で払う、と」
鉄槌王「ふんっ。どうやっても戦争をさせなければ
 気がすまんようだな。自分たちは安全なところに
 隠れておれば、どんな命令でも出せるというわけだ」
氷雪女王「どれだけの犠牲が出ればよいのか」
冬の王子「聞いてください。会議の方々。
 中央や光の教会は意図は、戦意の高揚です。
 勝てば良し、もし負けたとしてもその被害をテコに、
 魔族の脅威を全世界に訴えて、次の聖鍵遠征軍を
 起こすつもりだとしか思えません」

270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 21:15:43.04 ID:Lbanm5QNP
冬の王子「どちらにせよ、我らの手には選択権がない」
白夜王「それみろ。結局は狗にすぎん」
鉄槌王「……」 氷雪女王「……」
冬の王子「犬で結構。犬なりの意地の見せ方を
 白夜王にはお目に掛けるとしよう」
鉄槌王「まさかっ」
氷雪女王「いけませんっ」
冬寂王「いまを持って、冬寂王の名を継がせていただこう。
 この冬のあいだに、第二次極光島奪還作戦を決行する」
鉄槌王「本気なのかっ!?」
冬寂王「私は若輩ゆえ、何の発言権もなかったが
 その罪の重さは魂で感じている。
 ここでもう一度懺悔させていただきたい。。
 勇者を行かせたのは、
 勇者を葬り去ったのは我ら四人の罪だ。
 南部諸王国の罪なのだ。
 この世界から星が一つ消えたのは
 この会議が追うべき重責をたった1人の勇者に
 負わせたからだ」

271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 21:18:52.99 ID:Lbanm5QNP
鉄槌王「……」 氷雪女王「……」
白夜王「たかが兵卒の1人ではないかっ!」
冬寂王「中央の太鼓持ちに成り下がった輩には判らぬ。
 王族には、王族なりの信義というものがあるのだ。
 それは時に非情であり……。
 ――我が父のように、背くこともある。
 その王族は一生の間恥を背負ってゆくのだ」
冬寂王「私は前王の子として、極光島を奪還し
 勇者が為すべきだった光の千分の一でも
 南部の王国にて肩代わりしなければならない」
白夜王「出来るかな、小童が」
冬寂王「その答えは戦場で証明しよう。失敬」
バタンッ!
執事「若様……」
冬寂王「会議は決裂だ。……至急、女騎士へ使いを出せ」
執事「女騎士に?」
冬寂王「この戦には総司令官が必要だ」

383 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 00:46:53.45 ID:vGBiMEoLP
――大陸街道、関所
義勇軍兵「ああ、そうだ。俺も南氷海での戦いへ参加する」
若い傭兵「俺もだ、もし南氷海へ行くのなら一緒に行かせてくれ」
遊歴騎士「わがはいもそうだ。是非頼む」
関所の兵士「おおいな、今日だけで15人は通ったぞ」
関所の兵士「ああ、何時にない勢いだな」
義勇軍兵「今回の遠征は、とうとう若い英雄、
 冬寂王が立たれると聞いたんだ」
若い傭兵「ああ、槍武王の末裔、代々勇猛をもってなる
 冬の国の若い王が軍を挙げるときいたぞ」
遊歴騎士「しかも、将軍は若く美しい、あの伝説の
 女騎士だというじゃないか」
義勇軍兵「おお! 勇者の右の翼と呼ばれた!!」
若い傭兵「聞いたことがあるぞ!」
遊歴騎士「『黒点の射手』と呼ばれた左の翼、弓兵と並んで
 魔王軍の並み居る将軍をたった四人で次々と打ち破った
 勇者の仲間。伝説の英雄の一人だ!」

386 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 00:52:08.64 ID:vGBiMEoLP
義勇軍兵「実は俺の家族も後から来るんだ」
若い傭兵「そうなのか? 奇遇だな。俺もだ」
遊歴騎士「お前たち何を。戦場に家族づれだと?」
義勇軍兵「いや、そういう訳じゃないんだが」
若い傭兵「うむ。実を言えば、最近冬の国は豊かになったと
 聞いてな。商業も盛んになってきたとか」
遊歴騎士「そんな噂があるのか?」
義勇軍兵「ああ。農奴の税も、賦役や作物ではなく
 銀貨で治めても良いと云うことらしいんだ」
若い傭兵「俺もそう聞いた。銀貨で払って良いのならば
 傭兵の給金で払えるじゃないか? 俺たちの家族は
 やっと解放された農奴なんだ。冬の国へ行けば
 小さな畑でも手に入れるかもしれない」
遊歴騎士「そんなうまい話があるものか」
義勇軍兵「ダメで元々だ。どうせ戦って死んでいくしか
 俺たちみたいな半端者には残されていないんだ」

393 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 00:56:24.31 ID:vGBiMEoLP
遊歴騎士「まぁ、そうともいえるが」
若い傭兵「湖畔修道院の修道士が、紹介状を書いてくれたしな」
義勇軍兵「紹介状?」
若い傭兵「ああ、これをもってゆけば、
 馬鈴薯の種芋をくれるというんだ」
義勇軍兵「種芋? なんだそれは」
遊歴騎士「わがはいもしらんな」
義勇軍兵「小麦の種のような物らしい」
義勇軍兵「ふむ、すぐにくれればいいのに。道中食べれたろうに」
若い傭兵「いや、それをつかって、
 馬鈴薯を増やして欲しいと云うことなんだろう。
 俺たちの家族は、もうずっと長い間、
 自分たちの畑というものに憧れてきたんだよ」
遊歴騎士「その気持ちはわからんでも無いな」
義勇軍兵「なぁ、俺にもその紹介状はもらえるだろうか?」
若い傭兵「ああ。この紹介状をくれた修道士は、
 人数は向こうで相談してくれと云っていたんだ。
 家族が来たら俺と一緒に行ってみようじゃないか」

395 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:01:48.55 ID:vGBiMEoLP
――冬越しの村、夜の修道院
ばすん、どすん! ばたん!
女騎士「よし、こうだっ! この荷物めっ!」
女騎士「えいっ! えやっ!
 何で素直に荷造りされないんだっ! えやっ!」
こんこん
女騎士「開いている、済まないが今手を離せないんだ」
魔王「夜半、すまない。良いだろうか」
女騎士「あ? ああっと。す、すまない。学士様だったのか
 わたしはてっきり修道士かと」
魔王「いや、修道士殿に頼んでお邪魔させて貰ったのだ」
女騎士「そうだったのか」
魔王「……」きょろきょろ
女騎士「すごい有様だろう?」
魔王「もう、荷造りはされたのだな」
女騎士「もともと女らしさに欠ける性格でな。
 その気になれば旅支度など簡単に整ってしまう」

397 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:06:51.65 ID:vGBiMEoLP
魔王「そうなのか。……よいかな?」
女騎士「ああ。すまないな散らかっていて。
 その寝台に腰を掛けてくれ」
魔王「……」
女騎士「……えいっ! とやっ!」
魔王「……」
女騎士「どうしたんだ? 学士様」
魔王「いや、なんだか慌ただしくてな」
女騎士「ああ。わたしの出発か?」
魔王「うん」
女騎士「指名頂いたことだし。せいぜい暴れ回ってくるよ。
 心配はしなくて良い。修道会の仕事はわたしなんか居なくても
 全て滞りなく回るようになっている。
 そもそも最初からわたし抜きでも回っていたんだ。
 わたしは運営にはとんと不向きだからな」
魔王「そうではない」
女騎士「……」
魔王「そうではないんだが」

399 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:10:36.35 ID:vGBiMEoLP
女騎士「なんだ、随分歯切れが悪いな」
魔王「……」
女騎士「わたしのことなら心配はいらない。
 確かに勇者に及ばないかもしれないが、
 そこらの魔族にやられるような鍛え方はしていないよ。
 あははははっ。
 たとえ船が沈んだって泳いで帰ってこれる。うん」
魔王「……」
女騎士「どうした?」
魔王「その……。この一年間、わたしの我が儘に
 さんざん付き合わせて」
女騎士「馬鈴薯のことか? 四輪作かな? 最初に云ったけれど
 それらはぜんぶ我が修道会の理念に照らして正しいから
 協力したんだ……。
 だから遠慮することなど無い。
 むしろ修道会一同、深く感謝している」
魔王「そうではなく、学院の指導だとか」
女騎士「ああ。剣と軍事教練か〜」
魔王「そうだ」

408 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:17:43.30 ID:vGBiMEoLP
女騎士「あれは良い運動になる。ストレス解消にも。
 それにね。適度な燃焼をさせないと脂肪が肉についてしまう。
 肥えてしまうからなぁ〜」ちらっ
魔王「ううっ……。うう」
女騎士「言い返してこないのか。
 貧乳だの何だの。つまらないな。
 その点ではあの眼鏡メイドの方が手強いか」
魔王「その、女騎士殿は」
女騎士「うん?」
魔王「わたしは……その、幼いときから、ずっと……
 部屋の中で育ってな。狭い家ではなかったのだが。
 一人で……育ってな」
女騎士「貴族の出だったのね」
魔王「うん、そんなものなのだ……」
女騎士「それで?」
魔王「だから、同性の親しい人は一人しかいなくて。
 それはメイド長な訳だが」
女騎士「ふむ」
魔王「その、女騎士殿は。わたしにとって、いってみれば」
女騎士「……」
魔王「友達に一番近い存在だというように、
 わたしの推測では、先日、そう結論したのだ」

410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:22:07.69 ID:vGBiMEoLP
女騎士「……」
魔王「もちろん、女騎士殿がどう思ってるかと
 わたしの推論は何の関係もなくてだな、
 これはいわばわたしの側の勝手な定義付けというか、
 境界条件の曖昧な主観的な分類に過ぎないのだとは
 判っているんだがな」
女騎士「……」
魔王「その女騎士殿が、将軍として戦場に出向く。
 この戦は何もわたしと無関係なわけではない。
 状況に照らせば、わたしの意志がバタフライ効果的に
 影響を及ぼしたことは想像に難くないのだ。
 しかし、それなのにわたしは……」
女騎士「……」
魔王「わたしは、まだ躊躇ってしまい、
 手を下せない事がいくつもあるのだ。
 わたしは、こんなにも愚かで弱い。
 毎日のように愚かになっていくような気さえする。
 ――例えば、硝石と黒色火薬がそうだ」

414 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:26:28.45 ID:vGBiMEoLP
魔王「それがあれば戦局は有利に展開できるのは判っている。
 死者の数を2桁オーダーで減らせる可能性もある。
 密かに冶金師への依頼も行い、研究も進めていた。
 でも、それでもどうしても踏ん切りがつかないのだ。
 それを手渡せば、戦には勝てるかもしれない。
 でも、それを手渡してしまったら、
 もう二度と戻れないのではないか。
 そう思うと、笑ってくれるが良い。
 手が震えそうになる」
女騎士「……」
魔王「あの日わたしは誓ったはずだった。
 勇者の手を取って。……どんなことでもすると。
 願いを叶えるためだったならば、
 たとえこの身体がこの命が
 どこともしれぬ道ばたで腐れ果てようと気にはしないと。
 幼いときから学んできた書物と情報海以外の
 何かを見るためにだったら
 どんな物だろうが生け贄に差し出しても良いと。
 ……でも。
 なぜだか判らないが、わたしはどんどんと
 弱くなってゆく。どのような技術でも渡してしまい
 その結果世界がどう変わるか見てみればいいのに。
 ……その勇気がでないんだ」