Part119
714 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:25:58.55 ID:KvXPKcsP
――おおぞらをとぶ 聖王国、冬薔薇の庭園
辣腕会計「こちらが今月分の収支報告となっております」
聖国王「ほう! 早くも黒字転換か」
国務大臣「それはそれは!」 ほくほく
辣腕会計「元々仕組みは出来上がっておりましたからね」
聖国王「しかし、これは。これだけの利益は大きいな」
国務大臣「ええ……」
辣腕会計「はい、自負しております」
聖国王「これだけ儲かるとなると、教会も黙っていないであろう」
辣腕会計「そうですか?」
聖国王「これは元来教会が行なっていた税収や金貸しの業務と
一部被っている事業だ。教会の収益を奪って上げた利益と
云うことになるのではないか?」
国務大臣「そうですのう……」
辣腕会計「そんな事はありませんよ」
聖国王「とは?」
辣腕会計「この業務を開始してから日が浅いですが、
王都に訪れる商人の数は前年同月比で+45%となっています。
わが“同盟”で行われる幾つかの金融審査を求めて
商人の流入が大きくなっているのです。
彼らは利にさとい商売人ですから、
移動を空荷で行う事はありません。
自然に王都には荷が集まり、新しい商売が始まる。
人々も集まりますし、街には活気が戻ります。
現に、この期間中は、教会の利益も増加しています」
聖国王「戦争中なのにか?」
辣腕会計「全ての民が魔界へ行ったわけではありません。
効率よく工作をするためにも、流動的な労働力が
多少あった方がよいのですよ」
聖国王「ふむ……」
715 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:30:04.28 ID:KvXPKcsP
国務大臣「そうであれば、こんなに素晴らしいことはありませんな」
辣腕会計「今回の提案は、こちらの書状にも書きましたが
免税特権、および河船税の撤廃についてでして」
聖国王「ふむ」
国務大臣「馬鹿な! そのようなことをすれば
我が国の国庫は破綻してしまうわ!!」
辣腕会計「それは固定観念による思い込みです。
この試算書に眼を通してくだされば判るはず。
いままでどおりの輸出入量であっても、
荷揚げ税だけで税収はまかなえるのです。
むしろ、河船税の撤廃すれば大河を用いた交易は活発になり」
国務大臣「それは机上の計算というものであり」
辣腕会計「計算は机上で行なうものです」
聖国王「やれやれ。かしましいことだ。
……しかし、このような改革。
自分が国元を離れた間にやったと知ればあいつは怒るかな。
いや、笑うか。あいつなら。
出来ることを出来ぬと云い、逃げるわたしを誰よりも軽蔑し、
誰よりも守ってくれたあいつならば……」
国務大臣「そもそも河船税を廃止と云うが
それには領主会議の内諾が必要であり……え?」
辣腕会計「あ……」
聖国王「なんだというのだ?」
国務大臣「へ、陛下っ! あれをご覧下さいっ!」
聖国王「おおっ!!」
きらきらきら……。きらきらきら……。
辣腕会計「なんですか、あれは! なんて大きく、美しい!」
聖国王「吉兆か……。あれは、瑞兆であるな?」
国務大臣「御意でございます」
聖国王「美しいな、なんて美しいのだ。
……あれはまさにこの世界を守護するものに違い有るまい。
あれを見よ。ははははっ。聖王国だ、伝統だと云ったところで
あの鳥の美しさにはとても敵わぬ。ははははっ。
素晴らしいな。ああ、気分が晴れるようだ。
誰ぞ! 誰ぞっ! 祝いの酒を持つが良いっ!」
716 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:32:38.15 ID:KvXPKcsP
――おおぞらをとぶ 大陸の全て
……なんて綺麗なんだろう
……きっと精霊様の御使いよ。お祈りしましょうね。
……うん、ママ。おいのり、する。
……綺麗だぁ。よぉし、もうひとがんばりするべぇ。
……ほーぅい、ほーぅい! 休憩にしよう。あの鳥を見て。
……やめた。こんなところで戦うなんてばからしい。
なぁ、あんたもやめにしないか?
俺は故郷で牛を飼って暮らしているのが性に合ってるみたいだ。
……うわぁ! 鳥だ! 奇跡だ! 恩寵だ!
む、キた! ひらめいた! この直感を曲にしなければ!
どこだぁ、羊皮紙はどこだぁ!?
……ありがとうございます。今日も馬鈴薯が沢山取れました。
……うわぁ、帰って母ちゃんにも話そう。すげぇ……なぁ……。
……ばあさんや、すごいものがみえるよ。
……いやですねぇ、わたしだって見ていますよぅ。
……ありがとう、お祈りします。
……ありがとう。
718 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:40:33.35 ID:KvXPKcsP
――おおぞらをとぶ 世界の果て、青空の彼方
光の精霊「あ……。こんなに。こんなに……。
ありがとうが、祈りが……。
くるくると舞って、溢れて、こぼれて……」
勇者「な?」
魔王「うむ」 にこり
光の精霊「はい。……嘘じゃなかった。
無意味じゃ……、無かった。
罪だったかも知れないけれど
間違いだったかも知れないけれど……。
不必要じゃ、無かった」 ぽろぽろ
勇者「うん」
魔王「そうだ。……出会いだから。恋も、戦も。
そこで何かは起きてしまうけれど、あなたは最善を尽くした」
光の精霊「はい……っ」
勇者「俺たちもな」
魔王「うん」
光の精霊「ごめんなさい。……最期まで巻き込みました」
勇者「いや、まぁ。織り込み済みだ。こうなっちゃうと思ってたし」
魔王「まぁ、あの塔が無くなれば上空千里だしな。
死ぬ覚悟は出来てたさ。……勇者と一緒だし問題はない。
いや、女騎士に悪いか」
光の精霊「でも、それじゃっ!」
勇者「まぁまぁ。済んだことはがたがた言わない」
魔王「そうだぞ。気にしすぎるのはよく無い。
わたしはそれを勇者と出会ってから学んだのだ。
料理と気配りは“適当”が一番だ」
光の精霊「……っ」
勇者「それに、ほら!」
魔王「うん、あなたにだって、迎えが来たよ?」
719 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:42:05.83 ID:KvXPKcsP
黒髪の少年「――」
光の精霊「え。あ……」
黒髪の少年「――」 にこり
光の精霊「ああっ! そんなの……。そんなのってっ!!」
勇者「あの男の子が、彼なのか?」
魔王「この鳥は、本来彼の持ち物なんだそうだ。伝説ではね」
黒髪の少年「――」こくり
光の精霊「はいっ! ……はいっ!」 ぽろぽろっ
勇者「何を話しているんだろう?」
魔王「なんだって良いではないか。
わたし達が世話を焼かなくたって。
あの顔を見れば、嬉しい話だってすぐわかるだろう?」
勇者「そりゃそうか」
魔王「うん」
黒髪の少年「――?」
光の精霊「ええ。……ずっとずっと謝りたかったです。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
何千回謝っても赦されないかも知れないけれど」
黒髪の少年「――」 ぽくっ!
光の精霊「ひぇっ!?」
勇者「あ、殴った」
魔王「容赦ないところも似てるな」
勇者「誰に?」
魔王「無自覚だ」
720 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:44:07.41 ID:KvXPKcsP
黒髪の少年「――」
光の精霊「はいっ! お供します。
いえ、どこまでだって!
この世界の果てにだって。宇宙の彼方にだって。
ええ。はい……。
この世界は大好きだけど、愛しいけれど。
哀しくて寂しくて、別れがたいけれど。
でも、ちょっとだけ……。
それは、きっと……少しだけですから」
黒髪の少年「――」
光の精霊「ううん。違うんです。みんな優しかったですから。
きっと、いいえ。絶対に。
これは幸せな終わりなんです」
勇者「……」
魔王「……」 ぎゅっ
黒髪の少年「――」
光の精霊「最善じゃなくても良いんです。
最善なんかじゃなくても幸せなんだって。
失われたものは還ってこないけれど
犯した罪は消えないけれど
でもそれは無駄じゃなかったって。
後悔を肯定する訳じゃないけれど
赦すべき時が来たんだって。
そう、教えて貰いました。
彼らが歩き出すのなら、わたしも立ち止まってちゃいけないって。
“明日”が好きならば、歩かなきゃいけないって」
黒髪の少年「――」ぶんぶんっ
勇者「おうっ! なんだか判らないけどしっかりやれ!!」
魔王「何を言ってるのか判るのか?」
勇者「いや、なんとなく。妙に親近感を感じるぞ、あいつに」
722 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:46:29.28 ID:KvXPKcsP
さらさらさらさら……
勇者「この藍色の光は?」
魔王「おそらく、お別れなんだろう」
黒髪の少年「――」
光の精霊「勇者、魔王。……あなたたちに、無限の感謝を」
勇者「気にするな。俺は頼まれたことを、やっただけ。
でもさ。俺は……。
俺は、精霊の願いをかなえられたのかな。
世界は、救われたか? いや、精霊は、救われたか?」
光の精霊「はい。勇者よ。
あなたはわたしの願い以上をかなえてくれました」
勇者「良かった」ほっ
魔王「我らは祖先の恩を返すことが出来たのか?
あの災厄の時、なんの罪もない一人の少女を生け贄にして
自分たちの命をあがなった欲望の民の恩を」
光の精霊「最初から借りなどなかったのです。
ですが、はい。魔王よ。
あなたの言葉を借りるのならば、この上なく。
わたしは全てを返して頂きました」
魔王「その言葉は嬉しい。自分でも意外なほどにだ」にこり
勇者「じゃぁ、貸し借りは、無しだな」
魔王「この世界はきっとやっていける」
黒髪の少年「――」
光の精霊「はい。……ええ。
……名残は尽きませんが、わたし達は行きます」
勇者「うん」
724 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:48:10.44 ID:KvXPKcsP
――にょほほほほほ。勇者、勇者もお元気で!!
おっぱいの道は、まだまだけわしーのですぞ!
勇者「え? えっ!?」
――なぁ、あれはよい戦だったなぁ! あっはっはっは。
我が胸の誇りは輝きながら星になって魔王殿を見守ろう!
魔王「え!? ああっ。そんな」じわぁっ
黒髪の少年「――」
光の精霊「さようなら。勇者、魔王。ありがとう」
勇者「うん……。うんっ!! うんっ!!」
魔王「お別れだ。……ありがとうっ」
黒髪の少年「――」
光の精霊「はい……。ずっと……。
ずっと一緒……です……」
きらきらきら……
きらきらきら……
勇者「……」ごしっ
魔王「……」
きら……きら……
勇者「……行っちゃったな」
魔王「ああ。辛かったけれど……楽しかったな」
勇者「だな。……ここって、どれくらい持つのかな」
魔王「じきに崩壊するだろう。疑似空間か、結界だろうし」
勇者「そか」
魔王「勇者。あの……」
勇者「?」
魔王「そのぅ、お願いが……あるのだけど」
ピシッ。
……ジャキン。
魔王「最期に……」
726 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:56:23.94 ID:KvXPKcsP
――それから
冬寂王――南部連合会議の初代議長に。早く妃を!
と云う声が耳に痛いらしいが未だに独身。
英断の王の誉れ高く、南部を繁栄に導いている。
聖国王――南部連合と正式に国交を樹立した初めての
中央諸国の王として、遅咲きの執政を開始する。
中央集権国家として保守に属しながらもゆっくりとした
改革を進める。
王弟元帥――遠征軍立案の戦争犯罪者として一時拘留されるも
結果としては無罪となる。その後蒼魔族の領地にて戦後復興の
ために辣腕を振るい、交易路建設や鉱山業の発展に尽力する。
戦役の責任者として厳しい批判も多いが、身近に接した
領民にも部下にも大きな信頼を得ている。
火竜大公――初代大氏族会議の議長として長い間その豪腕を
振るうが、開門都市戦役の2年後、病にて床につき、翌年死亡。
大勢に見守られた大往生を遂げる。晩年は鬼呼の姫巫女と共に
教育のための学舎を多く作り、人間界との関係正常化に寄与する。
青年商人――およそ一ヶ月の間魔王として復興のために昼夜を
問わぬ激務をこなすが、その後自治への道をつけると
性に合わないと言い置いて商人へと戻る。魔王としての激務の
代価として一人の魔界氏族の姫を連れていったとのことだが
商業的守秘義務により詳細は知れない。
東の砦将――その後、開門都市にて魔界大氏族、衛門族の長として
自治委員会を切り盛りして政治家としての非凡な才覚を見せる。
副官と共に行なった開放政策は、開門都市を大きく発展させた。
いち早く活版印刷を地下世界へ運び入れるなどその業績は
高い評価を受けている。
メイド姉――開門都市南部の荒れ地を開拓し、村を創る。
その後村は一年もたたずにふくれあがり、幾つかの私塾や
学院を中心とした学究街に。
人間も魔族も受け入れる教育、研究施設は王族や身分有る
子弟達の武者修行や出会いの場として留学先の筆頭候補になる。
727 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:57:23.95 ID:KvXPKcsP
商人子弟、軍人子弟、貴族子弟――それぞれに国に尽くして
活躍をする日々を送る。最近では誰が最初に結婚するかについて
チキンレースの様相を呈してきた(妖精侍女と商人子弟という
観測が下馬評である)。三人の協力で出来た南部を貫く石造りの
街道は、なぜか“学士の道”と呼ばれている。
土木子弟、奏楽子弟――皆の予想を裏切り、結婚はしなかった模様。
しかしいつでも一緒に暮らし、どう見ても出来ている。
周囲の追求は笑ってかわしているが幸せそう。商会の依頼で魔界や
人間界のあちこちに橋を架ける事業に着手している。
奏楽子弟の作った曲は各地の吟遊詩人に歌われ、開門都市の戦いを
繰り返させない強力な抑止力となった。
メイド妹――なんと冬の宮殿にて宮廷料理長に就任。
しかし生来の食いしん坊が顔を出すと、魔界の果てでも
聖王国でも食べ歩きの旅に出てしまうので、いままでの料理長
(いまでは副料理長)を泣かせている。将来は王妃に?
なんていう予想もあるが本人は至って暢気な様子。
メイド長――戦いが終わった後、冬越し村に戻り、
屋敷を掃除して静かに暮らす。たまの来訪者を迎える以外
何もせず、何も語らず。何も明かそうとはしない。
屋敷はいつでも清潔で彼女の仕事は完璧だが、
彼女を召し抱えようとするどのような貴族や王族も
彼女を得るには至らない。
執事――開門都市戦役後、勇敢な従軍司祭の証言により
大きく損傷した遺体が発見される。
最期まで微塵もひるまなかった様子がうかがえ、
冬寂王の希望により、その亡骸は冬の国の王宮庭園に葬られる。
女魔法使い――行方不明。しかし、ごきげん殺人事件シリーズは
未完ではなく、続刊である。
一説によると原稿はすでに完成しており
挿絵作者の都合で遅れているとか、
活版商人の都合で遅れているとか様々に云われている。
もちろん、あんな狂った作品を好む一部の好事家には、だが。
女騎士――行方不明。
魔王――行方不明。
勇者――行方不明。
731 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 04:11:35.06 ID:KvXPKcsP
――えぴろーぐ
そよそよそよ……。そよそよそよ……。
魔王「って」
勇者「おい。なんだここはっ!?」
女騎士「何だここはとは、そんなのわたしが聞きたいぞっ!?」
勇者「どうなったんだよ、魔王っ!」
魔王「何でわたしに聞くのだっ!?」
女騎士「わたしより頭が良いだろうっ」
魔王「なぜそこで胸を張るっ?」
女騎士「張ってないとただでさえ負けてるのに、見栄えが悪い」
勇者「いや、負けても良いと思うんだけど……」
魔王「ふむ。土も、風も本物だ。
――どうやら、現実的な世界のようだな」
勇者「女騎士はどうしてたんだ? 身体は大丈夫なのかっ!?」
魔王「そういえばそうだ。なぜここに?」
女騎士「いや。わたしにも判らない。
……大きな鳥にさらわれたと思ったら気が遠くなって。
気が付いたらここにいたんだ」
勇者「そっか……。まぁ、積もる話は後にして。
ここはどこなんだ? どういう場所なんだ。草原みたいだけど」
魔王「太陽からして地上界であることは間違いないが」
女騎士「見覚えのない場所だな……」
732 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 04:13:20.31 ID:KvXPKcsP
勇者「まぁいいや。転移呪文で帰ればさ。
うぁ!? 魔力不足でつかえないっ!」
魔王「む。……それじゃわたし。
あ、あれ? こっちもだめだぞ。なんでなのだっ」
女騎士「どうもわたしも、戦闘能力が下がったような感じだな」
勇者「……後遺症かな」
魔王「バックアップが大量発生したから、
世界の容量的な問題かも知れないな……」
女騎士「話が見えないぞ」
勇者「まぁ当面の問題は解決したってことさ」
魔王「うん。女騎士、世話を掛けた」
女騎士「いや。いいんだ……。
わたしは、自分の大事なものを守れただけで、満足だ」
魔王「では、勇者の残りの人生はわたしが責任を持って」
女騎士「ちょっと待て。それは話が別だ」
勇者「あぅあぅ」
魔王「……ふむ。草からして、どうも冬の国があったのとは
別の大陸ではないかな。植生がまったく違う」
女騎士「大陸?」
魔王「ああ。別の陸地だよ。理論的には存在したはずだろうが
確認するには至らなかった。
転移で飛ばされたのか
不死鳥の背から降ろされたのかは判らないが。
どうやらわたし達は生きているようだ」
734 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 04:15:21.46 ID:KvXPKcsP
女騎士「そう、か……。よかった」ぎゅっ
勇者「うぉ!」
魔王「ゆ、勇者に抱きつくなっ!」
女騎士「抱きしめるさっ! 魔王も抱きしめてやるっ」ぎゅぅっ!
勇者「うわっ!」 魔王「うわぁっ!」 ずでんっ!
女騎士「生きてるんだ! 生きてるんだぞっ!
それだけですごいじゃないかっ!
ここがどこだって構うもんかっ! だって生きてるんだっ!」
勇者「あははははっ! 全くだぜっ!」
魔王「まったく、子供のようにはしゃいでっ」
女騎士「魔王だってにこにこしているじゃないか」
魔王「それは、その……嬉しくないはずがない」
女騎士「ふふぅん。勇者を独り占めできると思ってたのか?」
魔王「それは違うぞ。そういう抜け駆けはしないのだ。
それに、その……。もし女騎士がいなかったら、
きっと罪悪感で勇者とくっつけなくなってしまう……」
女騎士「ふふふっ。そう言うことにしておいてやる。
はっはっっはっ! なんだか嬉しいな!
嬉しくて、楽しくて……弾けそうだ。
子供の頃の祭日の朝みたいにっ」
勇者「ああ。良い風と、日差しだ……」
魔王「終わったからな。……やっぱり、世界は綺麗だ」
737 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 04:18:54.71 ID:KvXPKcsP
女騎士「なぁ、二人とも。実はさ……」
勇者「ん?」
魔王「なんだ?」
女騎士 くぅぅ。きゅるる……
勇者「ぷくーっ」
魔王「あはははははっ」
女騎士「仕方ないではないかっ。緊張してたし、
わたしはずっと下の方で戦っていたんだぞっ?」
勇者「悪い悪い。なんかあったっけ?」
魔王「いや、荷物は手持ち以外何にもないな」
女騎士「困ったな」
勇者「ま、いいさ」
女騎士「へ?」
勇者「なぁ、お二人さん」
魔王「?」
勇者「あの丘の向こうに、何があるか知りたくはないか?
――もしかしたら森があるかも知れない。
でなければ小川なんかあったりするかも知れないし、
動物が居るかも。
人がいたりするかも知れないし、街があったりするかもだぜ?」
魔王「……ああ。そうだ。それは、まだ見ていないな」 ぱぁっ
女騎士「うん、行こう。一緒に!」 にこっ
勇者「何があるかな?」
女騎士「そうだなぁ……」
魔王「なんだって良いんだ。
一緒に行ければ、どんなことでも乗り越えられるさ。
それに何が起きたって幸せだけは約束できる。
丘の向こうには、きっと“明日”があるんだから」
//The over side of that hill.
//End of log.
//Automatic description macro "Marmalade" is over.