Part118
691 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 02:18:05.80 ID:KvXPKcsP
王弟元帥「時には耐える戦もあるさ」
参謀軍師「閣下……」
王弟元帥「聖王国も、中央の国家群も今回の遠征では
多くを失った。資金も、資材も、時も、人材もだ。
勝てない以上、堪え忍ぶしか無かろう」
生き残り傭兵「勝手な言いぐさを。
南部の国々や魔族が何も失わなかったとでも思っているのか。
上から目線で気にくわないぜ」
器用な少年「ったくだっ!」
貴族子弟「まぁまぁ」
メイド姉「ええ。王弟閣下は判ってくださいますよ」
王弟元帥「お前達も、いつ我が利用するかも知れぬと
用心に用心を重ねておくことだな」
メイド姉「利用して頂けるのを待っているんです。
こちらは利用させて頂いているんですから、心苦しいですよ。
いつでもご利用くださいね」 にこにこ
ばさっ!
聖王国騎士「閣下! 空に、巨大な鳥がッ!」
王弟元帥「鳥だと?」
参謀軍師「何が起きたのです」
ざわざわ……ざわざわ……
聖王国将官「あれは……」
692 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 02:19:25.59 ID:KvXPKcsP
斥候兵「鳥だって?」
光の銃兵「ああ、鳥だ。見ろ! あんなにキラキラして」
光の槍兵「綺麗だ……」
カノーネ部隊長「あれは精霊様の使いなのか……」
カノーネ兵「うっわぁ、こんな物が見えるだなんて」
器用な少年「すっげぇなぁ!! おい!」
貴族子弟「これはなんと麗しい……」
メイド姉「……さま」
王弟元帥「これが魔界の鳥なのか」
参謀軍師「このようなことは初めてですな」
メイド姉「当主、さま? ……勇者、さま?」 ぽろっ
王弟元帥「ん?」
参謀軍師「どうしたのですか?」
器用な少年「お、おい! 姉ちゃん!
なんでだよっ。
泣き出すなんて、腹でも痛くしたかっ?
泣かないでくれよ」
貴族子弟「メイド姉……」
メイド姉「いえ、違います。そうじゃなくて」
ぽろぽろ
王弟元帥「……学士よ」
メイド姉「なんだか、胸がいっぱいで。
なんででしょうか。急に沢山のことを思い出してしまって」
貴族子弟「……」
メイド姉「懐かしくて切なくて、嬉しいような悲しいような。
随分遠くへ来てしまったのに、ふるさとに帰ってきたような。
会いたい人が沢山いて、行きたいところが沢山あるのに……。
ひとりぼっちなのが誇らしいような……。
先生。……先生は、お元気ですか?
当主様、勇者様……。妹……。わたしは、ここにいますよ?」
695 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 02:29:19.30 ID:KvXPKcsP
――おおぞらをとぶ 魔界の荒野
副官「そうか! 遠征軍が休戦をっ!」
獣人武将「おお!」
獣人兵「か、勝ったのか!? 俺たちはっ」
遠征軍捕虜「……」
遠征軍士官「肩を落とすな。仕方あるまい」
副官「はい。戦争は終わるんです」
遠征軍捕虜「終わる、のか」
遠征軍士官「俺たちは裏切り者だ」
獣人武将「裏切り? 人間の考えることは小難しくて判らないな」
獣人兵「そうだぞ。力を合わせなければ、魔物に殺されていた。
助け合ったら、戦争が終わっていただけだ」
副官「その通りです」
獣人武将「俺たちの族長だって、そのくらい許してくれるさ」
獣人兵「銀虎公……。族長の魂に栄光有れ!!」
遠征軍捕虜「やはり、無謀な戦だったんだ」
遠征軍士官「そうだな。こんなところまで来て。
俺たちは何をしてたんだろう。何を求めていたんだろう」
副官「斥候の報告はっ?」
斥候「はっ! 西方4里に大型の魔物の痕跡はありません!」
獣人武将「移動しますか、司令官殿」
獣人兵「おう!」
696 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 02:32:35.85 ID:KvXPKcsP
遠征軍捕虜「俺たちは、どうすればいい?」
遠征軍士官「……処刑か? せめて捕虜達は」
副官「馬鹿を云わないでください。これ以上血を流しては
きっと……わたしの大将だって怒りますよ。
戦争が終わるのならば、生きて帰る努力をしてください」
遠征軍捕虜「生きて……帰る?」
遠征軍士官「帰れるのか、俺たちは……?」
副官「わたしには保証できませんが、
とりあえず開門都市に向かいましょう。
停戦と云うことは、おそらく何らかの交渉に入ったはずです」
獣人武将「まずは生き残ること。武勲はその次だ。
武勲ばかり焦るのは真の武人とは云えぬ。
大将だってそう言っていた」
獣人兵「命を掛けるのは、武人の誇りと主君を
守るためだけでよい……なんてなぁ!
ああ、そうさ。俺たちの大将はそうやって死んじまったが
そりゃぁ、みごとな最期だったんだぜ?」
遠征軍捕虜「……」
遠征軍士官「すまん、感謝する」
きらきらきらきら……
副官「え」
獣人武将「あ。あれはっ」
遠征軍捕虜「鳥?」
遠征軍士官「なんて神々しい……」
副官「……」
獣人武将「大将」
遠征軍士官「帰りたいな……」
遠征軍捕虜「……帰って、これのことを話したい」
遠征軍士官「ああ……。妻に、子に。
この美しい鳥について話したいよ……」
697 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 02:35:46.25 ID:KvXPKcsP
――おおぞらをとぶ 大空洞
こぉぉん……こぉぉん……
鬼呼の旅人「もう一息で峠を越えるぞ」
人間の商人「ああ、任せておけ!」
こぉぉん……こぉぉん……
鬼呼の旅人「しかし、売れるのかね、楽器なんて」
人間の商人「これは上物だ。聖都の職人が作った三弦琴だぞ?
もちろん売れるさ。なんとか売りたいんだ」
鬼呼の旅人「だって戦争をしているって云うじゃないか」
こぉぉん……こぉぉん……
人間の商人「いつまでも続く戦争なんて有るものか。
戦争をやってたからこそ、音楽の一つも恋しくなる。
乾けば水が欲しくなるようにさ。
だからこういうのは切らしちゃダメなんだ。
文化が無くっちゃ平和になんかなりゃしない。
そいつがおいらの商人としての……」
鬼呼の旅人「どうした?」
ばぁっさっ! ばぁっさっ! ばぁっさっ!
人間の商人「っ!?」
鬼呼の旅人「な、なななっ!!
人間の商人「黄金の羽ね……っ!」
鬼呼の旅人「なんて立派な鳥なんだっ!」
702 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 02:47:21.49 ID:KvXPKcsP
――おおぞらをとぶ 冬の国、冬越し村
小さな村人「ほーぅい! ほぅい!」
中年の村人「寒いねぇ」
鋳掛け職人「まったくだぁよ」
小さな村人「今年の冬は、それでもすこぅし楽かもなや」
中年の村人「そうかもなぁ。年越したらわかんねけんども。
馬鈴薯一杯とれたから、うちは本当に良かった」
鋳掛け職人「冬籠もりの準備は終わったけぇ?」
小さな村人「ああ、うちも今年はよくがんばっただぁよ」
中年の村人「ベーコンは美味しくできただよぉ。
カブも沢山あるだ。これで冬の間に、豚っ子が子供を産んで、
春にはまた森に放してやれるだぁよ」
鋳掛け職人「人が増えたのか、農具の修理の仕事が
沢山たまっているだ。冬の間に幾つか新しいのを作って
春になったら売ってみようかと思うんだよ」
小さな村人「そりゃいいねぇ! 本当に良いことだ!」
メイド妹「こんにちはーっ!」 ぶんぶんっ
商人子弟「こんにちは、精が出ますね」
従僕「こんにちはですっ」 ぱたぱた
中年の村人「ああ、これはお屋敷のお嬢さんでないかい」
鋳掛け職人「それに……?」
商人子弟「ああ、わたしはお城勤めの役人なんですよ」
従僕「はいです!」
中年の村人「あんれまぁ! ああ、そうだそうだ!
お前さんは、あの屋敷で、しばらく住んでらっしゃった
坊っちゃんでないかい?」
鋳掛け職人「そう言えば、見たことがあるような」
703 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 02:49:55.08 ID:KvXPKcsP
メイド妹「そうだよぉ。今度はね、この村にも
冬の間のお仕事が作れるか、見に来たんだよ」
商人子弟 にこにこ
中年の村人「冬の間の?」
商人子弟「冬の間、開拓民の皆さんは、農作業が出来ませんよね。
その間に頼める仕事がないかと思いまして」
鋳掛け職人「俺っちは鋳掛けやなんだけど。
それは、工房での仕事みたいなものなのかい?」
小さな村人「なんだいね、その仕事というのは?」
メイド妹「うーん。なんだっけ?」
商人子弟「幾つか話はあるので、詳しくは村長さんとも
相談してから決めさせて頂くことになるかと思うのですが
羽毛いりの服の縫製や、紡績を考えているんですよ」
従僕「です♪」
中年の村人「紡績ってなんだい?」
メイド妹「織物だよ?」
商人子弟「はい」
中年の村人「ああ! それなら、家の中でも出来るだぁね。
でもそれは難しくはないんかい?
俺たちはそんなに難しいことは出来ないんだよ。
ははは。土よ豚っ子の相手ばかりしてるから」
メイド妹「女の子でも、お年寄りでも出来るようにするんだって」
商人子弟「ええ。詳しいことは温かいところでお話ししますよ」
中年の村人「おお! そういやそうだ。
村長さんのところに案内するだぁよ。
おらぁ、スモモの樽を届けるんだった」
鋳掛け職人「ああ、頼んだよぉ。おいらも鍬を届けなきゃ」
705 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 02:54:53.98 ID:KvXPKcsP
メイド妹「ん〜♪」
商人子弟「どうしました」
中年の村人「ああ、判るでよ」にこり
メイド妹「良ぃ〜匂い♪ パイだぁ」
商人子弟「ほう!」
従僕「はうはう!」
中年の村人「酒場で焼いているんだよ。
脂ののった鱒をパイに包んでこんがり焼いて、
輪切りにして出すんだ。美味しいよぉ」
メイド妹「輪切り? うわぁ。知らない料理だ!」
中年の村人「お嬢に習ってから、工夫したって云っていたよ。
バターのソースを掛けてあるんだよ。
ちょっと高いけれど、村の連中の一番のご馳走だぁよ」
鋳掛け職人「んだんだ」
メイド妹「食べたいなぁ! 食べたいなぁ〜」 きらきら
商人子弟「はははは。判りましたよ、そんな眼で見ないでください」
従僕「ふふふっ。僕も食べるのですっ」
中年の村人「今年の冬も豊作だったから、酒場も繁盛して
――え、あ。ああっ!」
鋳掛け職人「なんだってんだいまったく……あ」
きらきらきらきらきら……
メイド妹「綺麗っ!」
商人子弟「これはっ……」
従僕「おっきな鳥ですっ! すごぉい!!」
メイド妹「すごい、すごい、すごいよぉ!
ね、見てみて! お姉ちゃんあれす」
商人子弟「――」
メイド妹「……って。えへへ。お姉ちゃんは居ないんだった」
商人子弟「大丈夫。彼女もどこかで見ていますよ」 ぽむん
メイド妹「うんっ。……すごいねぇ、綺麗だねぇ。
精霊様のお使いみたいだねぇ……。
なんて云う鳥なんだろう。
ああ、お姉ちゃんが無事でありますように」
709 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:05:53.85 ID:KvXPKcsP
――おおぞらをとぶ 赤馬の国、交易市場
きらきらきらきら……
交易商人「なんだ? なんて綺麗なんだっ!」
開拓民「ありゃぁ、すごい!」
遊牧の男「精霊様の御使いなのか……?」
羊飼いの女「精霊様……」
交易商人「飛んでいく。……北のほうに飛んでいくな」
開拓民「雄々しくて、美しくて……すごいものを見ちまった」
遊牧の男「……」
ヒツジ「めぇええええ……」
羊飼いの女「あ。ごめん、ごめん! 寒かったよね」
交易商人「ははははっ! いやぁ、とんでもないものを見たぞ。
あはははっ! 今日はもう商売はやめだっ! 飲みに行く。
さぁさ、皆さん寄っといで!
ここにあるのは元祖冬の国の馬鈴薯だ!!
なんと一袋が金貨5枚!!
小麦だったら20枚するこのご時世に金貨5枚!
儲けは無しの大特価! あんなすごいものを見たんだ。
そこの兄さんも姉さんも買っていきな。
それであたしと、酒の一杯でも飲もうじゃないか!」
開拓民「あははは、そりゃいい!」
羊飼いの女「そ、その。えっと。このおチビちゃんとじゃ、
ダメですか? この子です」
交易商人「ああ、いいよ。それじゃぁ、二袋持ってお行き」
開拓民「太っ腹だね!」
遊牧の男「俺にも一袋くれ」
交易商人「ははは、そうさ。あたしらは験を担ぐんだ。
あの大きな鳥は、きっと商売の守護精霊に違いないよ!
さぁさ、よっておゆき! 冬の国の馬鈴薯だよ!
甘くて美味しい、ほっくほくの馬鈴薯だよ!!
買ってお行き! 今日は精霊に捧げる大特価だ!!」
710 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:14:18.34 ID:KvXPKcsP
――おおぞらをとぶ 湖の国、修道会
修道士「清拭を」
修道士補佐「はい。腕を出してくださいね」
貧しい農民「お願ぇします。お願ぇします。
この娘っ子は身体が弱くて、どうしても病気なんかには
やりたくないんです……」
農民の娘「あの……」
修道士「ああ。お金ですか? 良いんですよ、寄付ですから。
無いならないで無理に寄付なんかしなくても」
修道士補佐「安心してください。ここは王立の修道院ですから。
この種痘は女王の私費で行なわれてるんですよ」
貧しい農民「ありがとうごぜぇます! 精霊様! 女王様!」
農民の娘「ひゃっ」
修道士「冷たいけれど、我慢してくださいね。
ちょっと痛いですよ。刺しますから。
でもこれをしておくと、疱瘡にかからなくなるんです」
農民の娘「がまん、する……」
修道士「ちょっとだけですよ」
農民の娘「っ!」 びくんっ
修道士「はい、もう終わりです」
農民の娘「おわり」
修道士補佐「はい。もう平気ですよ」
農民の娘「だいじょうぶだったよ」
修道士「良くできましたね」 にこり
713 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/22(日) 03:23:35.31 ID:KvXPKcsP
修道士補佐「では、お名前だけ記載しますので、教えてください」
貧しい農民「へぇ、では」
農民の娘「ねー。おとーさん、おとーさん?」
貧しい農民「どした? おらは、修道士さんと話があるだよ」
農民の娘「きらきらしてるよ?」
修道士補佐「あれは……」
貧しい農民「へ?」
きらきらきら……
農民の娘「とり、だよ?」
修道士「あれは、不死鳥では」
修道士補佐「精霊様のっ?」
貧しい農民「なんて綺麗なんだろう」
農民の娘「きれーだねぇ! すごい!」ぴょんっ、ぴょんっ!
修道士「精霊よ」 くたっ
修道士補佐「修道士様」
修道士「祈りましょう」
修道士補佐「は、はいっ」 ぺたっ
貧しい農民「あ、ああ……。こら」
農民の娘「あ、はい!」
修道士「精霊よ。貧しき我らの行く末に、ひとときの平安と
一日の糧を。我らが克己が力となり、力が優しさとなり、
優しさが明日の支えとなりますように……」
修道士補佐「感謝と共に祈りを捧げます……」
貧しい農民「捧げます」
農民の娘「ささげます……」