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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part114


477 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 01:44:14.24 ID:Afl8afoP
メイド姉「私の援軍は、あなたです」
王弟元帥「!」
メイド姉「王弟閣下が、私の援軍です。
 魔族が人間に、ではありません。
 開門都市が、聖なる光教会に、でもありません。
 わたしが、あなた個人に“聖骸”を贈ります。
 あなたであれば、この“聖骸”を守り、
 正しく用いてくれると信じるからです。
 あなたであれば、聖鍵遠征軍を退けるに当たって
 私のもっとも有力な援軍になってくださるからです」
東の砦将「……こいつぁ。奇襲なんてものじゃねぇや」
参謀軍師(何と言うことを考えるのですか、この娘は!!
 確かに、この衆人環視の中、これだけ多くの将兵が見つめる中で
 聖遺物を取り出されては……。
 我々の大義の上で、無碍にするわけにはいかない。
 この“聖骸”を求めてはるばるとやってきたという
 それが目的の組織である以上、こうして贈られてしまえば、
 これ以上開門都市を攻略、攻撃をするという理由自体が
 消失してしまう。
 その上、この清らかなる光、偽物であるとはとても云えない。
 何よりも将兵達は一瞬で納得してしまった。
 この宝玉が“聖骸”であると信じてしまった。
 その“聖骸”を個人間であろうが、こうして贈られるというのは
 ある意味で、開門都市が頭を下げたに等しい。
 国家としては礼を返さぬ訳には行かぬ。
 しかも狡猾なのは、たとえ我々が礼を尽くさなければならぬと
 しても、開門都市も魔族も実際には一歩も譲ってはいない、
 何ら妥協も譲歩も、実際にはしていないという点だ。
 これは個人間の贈答に過ぎないと娘は明言している。
 ……多くの将兵は満足感を得るが、領地や賠償金などのやりとりは
 発生しないようになっている。この娘、そこまで計算をして……)
冬寂王「重いな。……王弟殿」

479 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 01:45:22.50 ID:Afl8afoP
参謀軍師(そうだ。まさにその通りだ。
 その上、これはとてつもなく重い決断を迫られる贈答物でもある。
 この“聖骸”を受け取ったとして、聖王国の取り得る道は三つ。
 第1の案は“聖骸”を聖光教会に献上する、というものだ。
 しかし、それはもはや政治的にそこまでのうまみはない。
 聖光教会はおのずの領分を越えて国家への干渉を強めている。
 また、この学士という娘は“正しく使ってくれると信じる”と
 断言した。つまり、それは、この“聖骸”を教会に譲るなど
 という手段に出ればそれ相応の報復を覚悟しろと云う
 恫喝であると云えなくもない……。
  一方、この“聖骸”を聖王国そのものが管理すると
 云うことも考えられる。これが第2の案だ。
 ……その場合、“聖骸”を所有する聖王国王家は
 光の精霊由縁の血筋を持つ王家として、
 中央諸国家の数多の王家とは別格の正当性を持つだろう。
 まさに、支配権を天より携わった選ばれた王家だ。
 この正当性は、旧来の秩序を維持したいという聖王国の政策上
 巨大な、余りにも巨大な利点だ。
 民衆も歓呼の声を上げて歓迎するだろう。
 ……しかし、この方法は二つの注意点がある。
 一つには、贈り物は、贈り物であると云うことだ。
 この“聖骸”の由来を語る時“魔界で贈られた”という縁起に
 触れざるを得ない。つまり、この方法を採るのならば、以降
 魔界とは何らかの形で友好的な関係を構築する必要がある。
 もう一点は、もし聖王国がこのようにして“聖骸”を
 管理するのだとすれば、教会との確執は免れないという点だ。
  第3の管理方法として、修道会と接近しそこに管理を委託する
 という事も考えられる。その場合、種痘の優先的な割り当てなど
 利点を得られる。これは国の民意を高める上でも有効だろうが、
 聖王国の目指す旧来型の権力構造に、修道会とその背後に控える
 南部連合からなんらかの圧力がかかる可能性は十二分に検討する
 必要がある。また第2の管理方法――聖王国の直接管理と
 同じように、教会との確執は避けられない。
 選ぶとすれば、2……だろうが。だとしても魔界には礼を尽くし
 この戦争はなんとしてでも終結させなければならない。
 戦争を続けるためには1しかないが、それでさえ
 “相手から聖骸を与えられておきながらも虐殺の限りを尽くした”
 という余りにも外聞の悪い戦争継続方法になり、
 士気はどん底にまで落ち込むだろう……)

482 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 02:12:03.56 ID:Afl8afoP
王弟元帥「我の――我のっ。
 我の何を信じるというのだとっ」
冬寂王「能力だろう?」
聖王国将官「それは……」
貴族子弟「能力であれば一級品なのは判りますからね。
 実際容赦のない攻撃ですよ、本当に」
メイド姉「そうですか? 私は人柄も加味しましたよ?」
東の砦将「世間話みたいな雰囲気で、いけしゃぁしゃぁと」
青年商人「そういう一門なんですよ、彼らはね」
王弟元帥「巫山戯た事をっ。このような茶番をっ」
青年商人「ではお尋ねしますが、王弟閣下。
 王弟閣下こそ茶番をしているのではないのですか?」
王弟元帥「……なにを」
青年商人「なぜ無能な兄王を、殺さないのですか?
 なぜ元帥という位置になど留まり続けているのですか?
 全ての貴族に望まれ、何度となくその示唆を受け、
 唆されながらも、王よりも巨大な名声を得てしてもなお、
 なぜ元帥などという茶番を演じているのですか?」
聖王国将官「それは……」
王弟元帥「……っ。そのようなことっ」
青年商人「それが茶番でないのならば、
 彼女の言葉も茶番ではないのですよ。
 そして彼女の行為を茶番だと貶めるのならば、
 貴方のやっていることも茶番に他ならない。
 己の選んだ細い道。彼女はそう言いましたが
 貴方が貴方自身の掟に従い守るべき対象があるように
 彼女にもそれがある。
 そしてそれは茶番などと云う安っぽい言葉で
 片付けられるようなことではないっ」

484 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 02:17:13.81 ID:Afl8afoP
東の砦将「……」
青年商人「さて、どうするんですか?
 もう一押ししなければなりませんか?」
王弟元帥「……その玉を、受け取ろう」
メイド姉「ありがとうございます」
冬寂王「これで、やっと……」
王弟元帥「それが我が国の国益に叶い。
 もっとも我の影響力を最大化できる手法だから選ぶまでだ。
 善意や好意などからでは断じてない。
 ……大陸は、教会の影響を受けすぎていたのだ」
聖王国将官「……閣下」
貴族子弟(素直さに欠けるね、まったく)
メイド姉「そうであっても構いません。
 いえ、だからこそ。それだからこそ手を取り合う意味があります。
 突発的な善意や好意からではなく、わたし達は利益を共有できる。
 それは二つの種族が今後もこの狭い世界の中で過ごすために
 必須の条件なのですから」
――損得勘定は、我ら共通の言葉だと。
青年商人「……そうでしたね。貴女はいつもそう言っていた」
 ぱぁぁぁああああ!!!!
東の砦将「なんて華麗な輝きなんだ」
メイド姉「この宝玉も、新しい持ち主を歓迎しています」
ゆらぁ、がさっ。がさっ。
百合騎士団隊長「ゆるさない。ゆるさない。
 そんなのはゆるされない。
 そんなのは、精霊の救いじゃない。
 そんなものは、赤き救済ではない。
 そんな結末は認めない。
 そんな救われかたはなかった。
 なかった。
 私にはなかった。
 貴女は精霊の巫女じゃない。
 それが聖骸であるはずがない。
 悪魔。――悪魔の使い。貴女は、悪魔のっ」
ゴゥゥゥーン!!

510 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/18(水) 17:39:56.74 ID:G90fcMMP
――光の塔、その道程
……シャゴォォォン!!! ……ィンィンィン……!!
女騎士「っ! ……はぁ。……はぁ」
大主教「しのぐのか。ふはははっ。それはなんだ?
 結界祈祷か? 見知らぬ術だな。
 ……修道会の秘術とみえる。光壁系の派生祈祷だな?」
女騎士「……はぁ、はぁ。……全周囲の衝撃相殺奇跡だ」
大主教「しかし、衝撃や物理的圧力だけではなく
 電撃まで防ぐとは……。見事な術だな」
女騎士(くっ。このままじゃ……)
大主教「だが、いつまで続く? いくつ躱せる?」
女騎士「云っただろうっ!? 限りなくだとっ」
大主教「よかろうっ! 今一度っ!
 24音! 集いて唱和せよっ!! “超高域雷撃滅呪”っ!!」
女騎士「間に合えっ! “光砦祈祷”ッ!!」
バチバチィ! ギュダン、ズシャァァァ!!
だんっ。ずしゃぁっ!
女騎士「かふっ……。がはっぁ……」ばたっ
大主教「空間の電位擾乱までは無効化できないようだな」
女騎士「これくらい……。げふっ……かはっ……」
大主教「喀血か。肺が灼けたか。ははははっ」
女騎士「これしきの傷……っ」
こつん
女騎士(これは……。なんでこれがここにっ!?)
――そんな顔をするな。勇者。
 ほら、荷物は置け。
 鎧も脱げ。今更関係ないから。
女騎士(置いて行ったのかっ。あの馬鹿ッ!
 何でこれをっ!? 重さなんて関係ないのにっ。
 何でこいつまで……。あの馬鹿勇者ッ!
 それじゃ。それじゃぁあいつ、丸腰じゃないかっ!?)

512 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/18(水) 17:41:34.50 ID:G90fcMMP
大主教「どうした? 青ざめて。
 追いつかれたか、絶望に?
 ……良かろう。古のあの言葉を贈ろうではないか」
女騎士「何を言う気だ、化物」
大主教「――世界の半分を与えよう。我が膝下に屈するがいい」
女騎士「……っ」
大主教「その方の剣技はまさしく世界最高峰の一角。
 今この場にいるのも都合がよい。
 新しく生まれ変わり“喜びの野”を統べるにあたり
 我にはこの両腕に変わる“手”が必要だろう。
 ――世界の半分を与えよう。
 その苦痛と恐怖を終了させ、我が配下となるがいい」
女騎士「ははっ」
大主教「……?」
女騎士「そうかそうか。
 ……本来はこういう言葉なんだな、勇者。
 こうして下卑て響くのが、本物。
 だとしたら……。
 やっぱり、その魔王は……奇跡だ。
 当たり前か、わたしの親友だもんな」
大主教「何を言っているのだ?」
女騎士「空々しいよ。なんて虚しく響くんだ。
 お前の言葉は。最初から中身なんか無い。
 お前はわたしに興味なんてさっぱり無いよな。
 ただ単純に、便利な人形が一つ欲しいだけだ」
大主教「その何処がおかしい?」
女騎士「いいや、おかしくはない。
 その要求は判るよ。そう言う手下も欲しいだろうさ。
 大魔王なんだから」
大主教「やっと認めたか」

513 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/18(水) 17:42:36.80 ID:G90fcMMP
女騎士「ああ。大魔王だ。……魔王じゃない。
 魔物の王ではなくて、魔物の王から生まれた変異。
 魔物の王のすらも見下ろす、異常体だ。
 その力は精霊にも匹敵する、史上最悪の化物」
大主教「自らの分をわきまえたか」
女騎士「だけどね」 ジャキッ
大主教「――っ」
女騎士「わたしは魔王の方がよほど好きだっ。
 お前は、大魔王かも知れないっ。
 でも“王”じゃないっ。
 民を思わない孤独な人形遣いだっ。
 はぁぁっ! せいやぁっ!!」
ギンッ! ギキンッ! ジャギィンっ!!
大主教「何をしているッ?
 そのような攻撃で“やみのころも”は解けはしないっ」
女騎士「お前はお前の思うとおりの世界を弄びたいだけだっ。
 “新世界”? “次なる輪廻”? “喜びの野”!?
 虚ろな目をした人間がお前をあがめる芝居小屋じゃないか。
 そんな所に君臨するのが楽しいのか。そんな空虚な世界がっ」
ギィィン!!
大主教「なぜそれを否定するっ。それこそが!
 まさにそれこそが炎の娘、光の精霊が願った
 完全なる調和の世界だッ!
 お前も聖職者であれば判るだろうっ。
 そこにどれほどの幸せがあるのか。
 民の苦痛も不安もなく安寧と平安が支配する
 これほどの慈悲があるか?
 だれも憎まず、争わず、永遠にあり続ける。
 いいや、ありえんっ。
 それが最高の楽園でなくてなんだというッ!!」
女騎士「お前の歪んだ欲望と、
 “彼女”の祈りを一緒にするなぁっ!!」
――その珠を、受け取ろう。
ザシュゥッ!!

514 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/18(水) 17:44:19.21 ID:G90fcMMP
大主教「!?」
女騎士「はぁっ。はぁっ……。行けるじゃないか」
大主教「なぜ。なぜだ!?」
女騎士「はぁぁっ!! 切り裂けぇっ!!」
ザシャッ! ザシュゥ!!
大主教「なぜ“やみのころも”がっ。
 絶対の防御がっ。
 ……馬鹿な。誰がッ!?
 だれが“ひかりのたま”を見つけだしたというのだ!?
 あの失われた聖遺物を。
 何処の誰が掲げたというのだっ!?
 あれを扱えるのは勇者のみのはずっ」
女騎士「霧が晴れてきた……ぞ。
 かはっ、かはっ……。
 ……やはり本体は、細いじゃないか。
 経ばかり唱えている、やせこけた、身体だッ」
大主教「……っ。それがどのような影響がある。
 我にはまだ無限の法術と、再生能力がある。
 “やみのころも”は大魔王のもつ力の一つに過ぎぬっ」
女騎士「だからどうしたっ」
ヒュバッ! ギィン! ギキィン!
 キンッ! キンッ! ドカァッ!!
大主教「はぁっ! “光壁祈祷”っ! “斬撃祈祷”っ!
 “光波雷撃呪”っ!! “六連”っ!」
女騎士「っ!!」 バシンッ! グシャッ
ドンドンドンドンッ!! ガキィッ!!
大主教「“やみのころも”が晴れたからどうしたというのだ!?
 現にお前はそこに虫けらのように転がっているではないか。
 認めよっ! 認めて屈するがいいっ!!」

515 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/18(水) 17:48:38.74 ID:G90fcMMP
女騎士「あはっ。……はははは」
ゆらっ
大主教「何を笑う。血にまみれ、盾も鎧も砕け散った姿で」
女騎士「盾か……確かに」 からん
大主教「諦めよ」
女騎士「いや。答えてなかったと思って」
大主教「……」
女騎士「世界の半分。だったな……。
 答えるよ。確かに魅力的なお誘いだけど
 半分じゃ、少なすぎる」
大主教「……少ない?」
女騎士「ああ、お断りってことさ」
大主教「貴様……」
 キンッ! キンッ! ジャキンッ!! ザシュ!!
女騎士「判らないだろうなッ!
 好きな人がいるって事が。
 大事な人を思うと云うことがっ。
 敬慕、忠節、至誠、そして誓約。
 騎士の持つ全てがお前には理解できないだろうっ?
 そして、何よりもこの胸に咲く思いがっ。
 勇者といると暖かいんだ。
 まるで春の芝生の昼寝みたいに。
 雪の日の暖炉の前のうたた寝みたいに。
 勇者と話すと楽しいんだ。
 年越し祭りの朝目覚めた子供みたいに。
 友達と駆け出す草原のようにっ。
 勇者に微笑まれると嬉しいんだ。
 この世界で何よりも大事なものに触れたみたいにッ」

516 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/18(水) 17:52:06.37 ID:G90fcMMP
大主教「なっ!?」
女騎士「わたしは“世界の全て”を持っているっ!!
 勇者を思っているから。あいつに微笑んでもらったから。
 あいつを思い出すだけで。
 勇者の拗ねた子供みたいな笑顔を思い出すだけで
 勇者の癖っ毛の黒髪を思い出すだけでっ。
 この胸には風が吹くんだ。
 魂の内側に“世界の全て”を感じるんだっ。
 勇者を思うだけで、わたしは“世界の全て”を
 簡単に手に入れられる。
 騎士としたって、1人の女としてだって。
  そんなわたしに、たった“半分”で褒美を語るなんて
 お前みたいに貧しい大魔王は願い下げだっ!!」
大主教「……っ!」
女騎士「わたしがこの思いを失わない限り。
 “世界の全て”がわたしの味方。滅びろ、化物ッ!!」
大主教「だがしかしっ。“斬撃祈祷六連”っ!」
ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!
女騎士「っく! こんなっ……。斬撃がっ」
大主教「どんなに大口を叩いた所で、
 現にお前は立っているのもやっとではないかっ」
ドヒュンッ!
大主教「っ!? 火球っ! だれだ、この魔力っ!!」

520 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/18(水) 18:08:24.49 ID:G90fcMMP
――地下城塞基底部、地底湖
バチィッ!!
メイド長「っ! また刻印がっ」
女魔法使い「……問題、無い」
メイド長「ですがっ」
女魔法使い「この刻印の一つ一つが生まれなかった魔王。
 ……悲しい思いを受け継ぐ宿命を背負う魔族。
 刻印が一つ砕けるたびに、1人の魔王が天の塔を
 登ると思えば、痛くなんて無い」
メイド長「ですがっ! 持ちません」
女魔法使い「……持つよ」
メイド長「――」
女魔法使い「持つよ。無限に。限りなく」
メイド長「しかしっ」
バチィッ!!
女魔法使い「だって……」
メイド長「あ……」
女魔法使い「この胸には勇者が居る。
 わたしの中に勇者の横顔が鮮やかに残っている。
 勇者を見ていると優しい気持ち。
 みんな家に帰る夕暮れの街みたいに。
 初めて頭を撫でてもらった穏やかな出会いみたいに。
 勇者の声を聞くと嬉しい。
 わたしにはない明るさと強さを持っているから。
 勇者の声にならない優しさを感じるから。
 勇者の視線を追うと胸が締め付けられる。
 手に入らないと思ってた夢を送られたみたいに」
メイド長(なんで……。何でそんな顔で微笑むんですか……)

521 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/18(水) 18:10:22.81 ID:G90fcMMP
女魔法使い「だからっ!!」
バチィッ!!
メイド長「っ!?」
明星雲雀「ピィピィピィ! だ、だめですよご主人!
 そんなことをしたら魂が焼き切れちゃいますよっ!!」
女魔法使い「負けられないっ。負けられないんだよっ!!
 そんな枯れ枝みたいな、エゴの固まりの化物にはっ!
 いつまでもいつまでもっ。
 負け犬に甘んじている
 あたしだと思って欲しくはないなぁ!!」
バキィン!! バンッ!! バンッ!!
メイド長(なんて魔力っ。こんな、こんな力がっ!)
女魔法使い「判らないか。
 ――判らないだろうなぁ、お前“達”には。
 何千回生きようと、いいや!
 何千回も生きれば生きるほど判らないだろうなぁっ!
 あたしには云える。
 “たかが大魔王風情には”ッ!
 最初だけが真実なんだよ。
 何千回もやり直したのが間違いなんだよっ。
 “もう一度だけやり直す”?
 そんなものはな、ねぇんだよっ!!
 ――惜しいのは判るよ。別れが辛いのも判る。
 でも、だからって、悔しいからって。
 “もう一回”を繰り返しちゃだめな事ってのが
 この世界の中にはあるんだよっ!!
 この胸の思いはあたしだけのものだっ。
 お前らなんかには判らない。触れさせないっ。
 うらやましいか?
 うらやましいだろう。この黄金の思いがッ。
 お前達はたとえあと一万回繰り返したって
 二度とこの思いに触れることは出来ないんだ。
 だって。
 だってこの想いの中で、わたしの中でっ。
 勇者はいつも微笑んでいるっ!
 だから、最初を最後にするっ!
 悪い夢を終わらせるっ。この胸の黒い闇を吐き出してッ。
 たとえあたしが勇者の隣にいられなくてもっ!!」

523 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/18(水) 18:25:16.43 ID:G90fcMMP
――光の塔、その道程
ドヒュンッ! ドヒュンッ! ドヒュンッ!
女騎士(感じる。魔法使いの援護をっ)
大主教「空間から直接、だと!? 遠隔魔法なのかっ。
 そのような魔術式、教会の古文書にも無いぞっ」
女騎士「あの無表情っ娘だって願い下げだって言ってる」
ボォォォッ! ドヒュンっ!!
大主教「“光壁双盾”ッ!」
バシュッ!
大主教「これしきで、我がどうにかなるとっ」
女騎士「思って、いるっ!!」
ザシュッ!
大主教「なっ。なんだっ。それはっ。なぜっ!?」
女騎士「はははっ」
大主教「なぜ防御を……。“光壁”を貫ける。
 いや……すりぬけ……る!?」
――剣がふわってぶれて、霞んで消える技な。
 気配も消えてしまう技。あれは……。
女騎士「はははっ。……見たこともないんだろう」