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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part113


437 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/16(月) 19:54:02.21 ID:VaDFVbYP
――開門都市、9つの丘の神殿の鐘楼
ざぁざぁ〜っ……
器用な少年「風が出てきたなぁ」
若造傭兵「この高さだ。仕方ない」
生き残り傭兵「気をつけろよ」
器用な少年「まかせとけよぅ。いいのかな」
――ゴォォン――どけぇ、どけぇ――精霊は――
生き残り傭兵「いっちまおう」
若造傭兵 こくり
器用な少年「んじゃ、鳴らすぜ。……重いっ。
 なんて重いんだよ、このやろう。んっせぇっ!!」
若造傭兵「……」
生き残り傭兵 ごくり
器用な少年「よいっしょぅ!!」
――ァン。カラァン! カラァン!! カラァン!!
若造傭兵「よし」
カラァン! カラァン!! カラァン!!
 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!
生き残り傭兵「他のみんなも成功させたか。
 九つの鐘が鳴っている。ははっ!
 みんなぽかんと見上げてるぜ! 遠征軍も、都市の連中も!」
器用な少年「そりゃいいけれど、
 どーやって逃げ出すんだよ、こっから!」
若造傭兵「そいつぁ姉ちゃんがどうにかすんだろうよ。
 俺たちはほんの一分か二分、
 連中を呆気にとらせりゃそれでいいのさ」

438 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/16(月) 19:55:54.32 ID:VaDFVbYP
――開門都市近郊、世界の終わりのような戦場
 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!
  斥候兵「え?」
  光の銃兵「な……」
  光の槍兵「なんだ、この音は」
 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!
鉄国騎士「音が……」
軍人子弟「音が降ってくるで……ござる……」
 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!
光の農奴兵「どこから……」
光の傷病兵「大聖堂の鐘みてぇな……」
光の少年兵「なんて綺麗な音なんだろう」
奏楽子弟「陽が差し込んでくる」
 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!
獣人軍人「風が吹いてくる……」
巨人作業員「オォ……砲声が、やんだ……」
義勇軍弓兵「静かだ……。戦場なのに」
土木師弟(雲が、切れる……。奏楽子弟……)
 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!
王弟元帥「なんだっ。鐘の音ではないか。
 貴族軍が占領を達成したのか。この音は、この風はっ」
  ザクッザクッザクッ
聖王国将官「元帥閣下っ。お気を付けくださいっ」
ザクッザクッザクッ
貴族子弟「――」
王弟元帥「……ここで来るか」
メイド姉「お目にかかりに参りました。王弟閣下」にこり

461 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 00:41:50.23 ID:Afl8afoP
――開門都市近郊、遠征軍本陣、その中央
 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!
王弟元帥「約束どおり、というわけか」
メイド姉「はい、お約束どおり」
王弟元帥「それにしては援軍の姿が見えないが?」
メイド姉「いずれ参ります」
王弟元帥「ここは戦場だ、女子供の来るところではない」
メイド姉「勇者だ。と申し上げたはずです」
王弟元帥「……退くつもりはないということか」
メイド姉「退いて頂く交渉をしに来たのですから」
王弟元帥「この期に及んで。この血と硝煙の香りに満ちた
 裂壊と怒号の戦場においてそのような綺麗事を語るか。
 ここは死と鋼鉄がその意を通す場所だ。
 宣告しておいたはずだ。次に出会う時は戦場だと。
 我は我の意志を通すためならば、娘。
 そのはらわたを串刺しにすることも厭わぬ」
聖王国将官「閣下……っ」
メイド姉「王弟閣下はそのようなことはなさりません」
王弟元帥「なぜそのようなことが云えるっ」
メイド姉「この戦場に存在する勢力、軍勢のうち、
 私の麾下にあると観測されるものは一つもないからです。
 で、ある以上、この場で私を殺したとしても、
 それは王弟閣下が、目障りにわめき立てる小娘一人を
 腹立ち紛れに黙らせた、と云うことに過ぎません。
 戦場に満ちる問題を一個として解決することにはならない。
 それは個人的なただの気晴らし。
 ……王弟閣下はそのようなことはしません」
王弟元帥「ずいぶん高く買ったものだな」

463 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 00:43:42.16 ID:Afl8afoP
メイド姉「そのようなことをするくらいならば
 私を生かしておき出来るだけの情報を絞ろうとする。
 もしくは何らかの勢力に対しての
 外向的な取引材料になるのならば身柄を拘束しようとする。
 その方が妥当です。
 合理的、と云う意味では、中央諸国家で
 もっとも信用に値する方だと思っています」
王弟元帥「……。自らが云ったように、拘束されると
 云うことは考えぬのか。若い娘の身で」
メイド姉「我が身可愛さをここで出すくらいなら
 そもそもこの戦場に立つ資格はない。
 そう思いませんか?」にこり
 ……ァァン。カラァァン。
王弟元帥「この鐘の音も、そなたか?」
メイド姉「そうかもしれませんね」
 あ、あの娘は……?
  王弟閣下になにを……あの娘……まさか
 まさかって……まさか、魔族?
  い、いや人間に見えるぞ、誰なんだ
 ざわざわざわ……
王弟元帥「よかろう。前置きは終わりだ。
 聞こうではないか。その方の要求を」
メイド姉「戦争の終結。遠征軍の撤退です」
王弟元帥「出来るはずもない」
メイド姉「この都市は都市国家としての主権を持っています。
 また、遠征軍が通ってきた領土は
 この地に済む氏族の支配領域七つを侵犯しています。
 遠征軍が犯してきた犯罪的行為を続けることは、
 遠征軍およびそれぞれの所属国家に
 百年にわたる大きな負債を背負わせるでしょう」

464 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 00:45:55.43 ID:Afl8afoP
王弟元帥「この度の遠征は先にも述べたとおり、
 教会の宗教的号令に従って自発的に集った
 自由意志の民衆による聖遺物奪還運動なのだ。
 その運動を国家の責に帰そうとする論には賛成できない」
貴族子弟「そのような言い逃れが通るとでも?」
王弟元帥「どのような道理であろうと、
 道理を守るには相応の力が必要だ」
貴族子弟「どのような理不尽でも暴力が伴えば
 この世界においてまかり通ると聞こえますね」
王弟元帥「真実であろうさ」
貴族子弟「……っ」
メイド姉「力とは……。暴力とは常に相対的なものです。
 “有るか、無いか”などという
 粗雑な議論をするつもりはありません。
 相手との相対的な差違のみが意味を持つのですから
 絶対量は意味がない」
王弟元帥「賢者の言葉だな。だが、それがどうした」
ザカっ!!
参謀軍師「王弟閣下っ!!」
王弟元帥「どうしたっ」
聖王国将官「何があったのです」
参謀軍師「そ、それがっ」ちらっ
王弟元帥「申せ」
参謀軍師「は、はいっ。それが、まだ遠距離ではありますが
 徒歩一日以内の地点に、魔族の援軍、数万が集結を」
メイド姉「――」
王弟元帥「数万だと……」
参謀軍師「いえ、それは最低限でして。
 ……とどまる様子はありません。
 この様子では、数日のうちに十万を超える恐れも」

465 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 00:48:16.40 ID:Afl8afoP
メイド姉「――」 にこにこ
王弟元帥「これが。……これがその方の援軍か」
メイド姉「そうとって頂いても構いませんよ?」
貴族子弟(よく言う。……その数は、軍勢なんかじゃない。
 忽鄰塔にあつまってきた非武装の魔族の民だ。
 魔王の戦いを見届けるために集まった氏族に過ぎないじゃないか。
 数はそりゃ確かに十万にふくれあがるかも知れないが、
 所詮は泡だ。マスケットでつつけば、パチンと割れる)
メイド姉「……」
王弟元帥「……」 ぎろっ
聖王国将官「い、いかがいたしましょう」
メイド姉「……」
王弟元帥「……はったりだな」
貴族子弟(なっ!? だからといって、気が付くのかっ!?)
メイド姉「とは?」
王弟元帥「この短期間でそれほどの援軍を組織できるはずもない。
 もし組織できるのであれば、とっくに現われて
 我が軍に一撃を食らわせているはずだ。
 で、有るならば、その軍勢は幻術による偽りか
 なんらかの策……。
 たとえば、偽の軍装によっていつわった烏合の衆なのだ。
 それだけの戦力を温存する理由は、無い」
メイド姉「それでも、構わないのではありませんか?」
王弟元帥「なぜだ」
メイド姉「いま、重要なのは“開門都市を包囲していた遠征軍が
 二週間をおいてもなお都市攻略に成功していない”という事実。
 ここに“包囲していたはずの遠征軍が、十万の魔族によって
 逆に包囲されている”という事実を加えれば……。
 ……軍が本物か、偽りかなどというのは
 些末な違いに過ぎないかと思います」
聖王国将官「そ、それは……」
王弟元帥「軍の士気、ひいては我が掌握能力に問題があると?」

466 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 00:50:51.51 ID:Afl8afoP
メイド姉「普段であるならば問題はないでしょう。
 しかし、良くも悪くも王弟閣下の仰ったように、
 この遠征軍の大儀は信仰です。
 精神的支柱を王弟閣下のカリスマだけに
 依存するわけにはいかない。
 それが可能であったとしても、です。
 そして、今のこの乱戦は、信仰の中心が揺らいでいるせい。
 ……ちがいますか?」
王弟元帥「好きに解釈すれば良かろう」
メイド姉「この状況下において戦闘を継続すればどうなります」
聖王国将官「……」
貴族子弟(流れは悪くないのか……。しかし、先が読めない。
 相手が悪い。いくら我が姉弟弟子とはいってもなぁ)
メイド姉「どちらが勝つにせよ、双方に壊滅的なダメージが残る。
 そのようなことは百害あって一理もないではありませんか」
王弟元帥「確かにそうなる可能性が高いだろう。
 しかし、では撤退をしてどうなる?
 この戦を始めたのは教会だ。
 では教会が責任を取るのか? 否だっ。
 責任など取りはしない。
 そして、責任を誰も取らぬ以上、
 この遠征に財をつぎ込み財政難に陥った諸侯は
 秩序を保つことが出来なくなるだろう。
 そうなってしまっては略奪が横行し、
 中央国家群でも小競り合いが頻発することは想像に難くない。
 この魔界で富を。少なくとも、富の予感を手に入れない限り
 中央諸国家のふくれあがった欲望は制御不能なのだっ。
 それはつまり、中央諸国家体制の崩壊。
 その方の云う“壊滅的なダメージ”だ」
メイド姉「そんなっ」
王弟元帥「撤退しても戦っても、我がほうには壊滅的な被害が出る。
 ならばここは戦って魔族や南部連合にも
 ダメージを与えておくべきなのだ。
 そうすれば復興の時間に、外部から侵略をされずに済む。
 違うかな? 学士の娘よ。それが国家の安全保障ではないか」

467 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 00:52:58.61 ID:Afl8afoP
ザッザッザッ
東の砦将「そいつは、族長としていかがなもんかね。
 自滅しながらの巻き添え攻撃のような策略とは
 下策としか言いようがないと思いますぜ」
青年商人「遠征軍の責任者“ではない”以上、
 仕方ない判断かと思いますよ」
聖王国将官「お前達は何者だっ!」
東の砦将「何者かと聞かれてますが」
青年商人「一番乗りだと思ったんですが、ね。
 ですから、あの方の知己にはいつも驚かされる」
東の砦将「このお嬢さんは?」
青年商人「あの方の家で会いました。そうですね?」
メイド姉「はい、ご無沙汰しています」ぺこりっ
貴族子弟(青年商人。同盟の有力商人、十人委員会の一人。
 かつて出会った時よりもすごみをましたなぁ。
 師匠並だぞ、この迫力は)
王弟元帥「貴公らは何者か。
 このような戦場のまっただ中に何をしに来た?」
東の砦将「それがしは。あー。あの開門都市の氏族長。
 人間で云うところの市長を務めている。砦将といいますな」
青年商人「あの都市の防衛軍最高責任者
 その代理というところでしょうか。青年商人と申します」
聖王国将官「っ!? 銃士っ! こいつらをっ!」
王弟元帥「やめろっ!!」
聖王国将官「〜っ!?」
東の砦将「良い判断ですな」 ……すっ

470 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 01:31:44.78 ID:Afl8afoP
王弟元帥「いつカノーネを鹵獲した?」
東の砦将「いや、一台くらいならね」
王弟元帥「揃ってお出ましとはなんの話だ。
 降伏でもしに来たのか? ふふんっ」
青年商人「馬鹿を云わないでください。スカウトしに来たんですよ」
王弟元帥「は?」
青年商人「聖王国の王弟将軍と云えば、
 中央大陸でも名の知られた英雄。カリスマですからね。
 合理的思考と切れすぎる戦略で
 早くから名を馳せた戦場の風雲児。
 戦術戦略のみならず、外交や財政にも果断な判断能力をもつ
 大陸最大級の人材です」
王弟元帥「ずいぶんと詳しいのだな、人間の事情に」
青年商人「私は人間ですよ。人間が魔族の軍を
 率いていては変ですか?」
王弟元帥「いや……。そうか。
 『同盟』に異端の商人がいると風の噂で聞いた。
 小麦相場で大陸中の金貨をさらったというのは……」
東の砦将「はぁ!? そんなことまでやってたのかぁ?」
青年商人「人聞きが悪いですよ。ほんのちょっぴりじゃないですか」
聖王国将官「――“小麦を統べる商人王”」 がくがくっ
メイド姉「ふふふっ」
王弟元帥「その男が何を求める」
青年商人「ですからスカウト。人材の勧誘と、一つの質問を」

471 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 01:33:51.24 ID:Afl8afoP
王弟元帥「――どいつもこいつも、戦場である弁えもなく」
ザッ
冬寂王「であるならば」
王弟元帥「おまえは、冬寂王っ!」
冬寂王「率直な降伏勧告は、我が方のみということかな」
王弟元帥「降伏勧告だと。南部連合に?
 中央大陸の秩序の破壊者に下げる頭など無いわっ」
冬寂王「南部連合に下げろ、とは云わぬさ。
 ……ここに書状がある。修道会からだ」
聖王国将官「修道会、から……?」
王弟元帥「なにを」
貴族子弟「そうきましたか。……ずいぶん思い切りますね」
メイド姉「冬寂王様」
冬寂王「どうした? 学士よ」
メイド姉「……なにとぞ慈悲を」
冬寂王「判っている」 こくり
王弟元帥「何を言っているっ」
冬寂王「まぁ、時間を掛けて読むが良かろう。
 言葉を飾ってあるが、中身はこうだ。
 “人の国に入り込んで戦を行なうようなものは、破門する”
 それだけだよ」
王弟元帥「破門……」
聖王国将官「それは」

472 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 01:35:54.16 ID:Afl8afoP
貴族子弟「もちろん、聖光教会を奉じる聖王国にとっては
 直接何らかの影響があるわけではありません。
 もちろんお気づきだと思いますが、この書状の意味は」
――天然痘の接種は、受けさせない。
聖王国将官「〜っ!」
貴族子弟「そのようなことになれば、5年、10年を待たずに
 国は寂れ、人々は移住し……。交易の順路からも外された
 地方の村のような惨状になるかと」
メイド姉「私はそのような交渉方法を好ましいとは思いません」
冬寂王「もちろんだ。だが、学士よ。
 そもそも、戦争とは好ましいことではないのだ。
 そして、チャンスがあるのならば、
 どんな手段を使ってもそれを終わらせる。
 この交渉の場はな、我が南部連合の兵士の命であがなった
 数少ない空隙だと云うことも忘れて貰っては、困る。
 もはやここに至っては、交戦行為を一刻も早く終わらせることが
 慈悲であると知ってくれ」
王弟元帥「破門を引き下げる代わりに、降伏しろと?」
冬寂王「そうだ」
王弟元帥「遠征軍は我一人の意志で動かせる軍ではない。
 大主教猊下の号令によって動く、複数の国家、
 そして多くの領主の参加する軍だ。
 我のみが破門を免れたとしてどのような責任も取れぬ」
青年商人「逃げ口上はやめてください。
 どう考えても、どう見ても、
 あなたが実質上の意志決定者であることは疑う余地がない」
王弟元帥「ここまで混沌と狂信に染まった軍を
 撤退させる難しさが判らない貴君らではあるまいっ。
 すでに賽は投げられた。一矢は射られたのだ。
 もはや雌雄を決するしかないのが判らないのか。
 時の流れは、人間か、魔族かのどちらか一方を選ぶと
 その意思を表したのだ。
 この世界は、両者を住まわせるに
 十分な広さがないとなぜ判らぬっ。
 世界はそれほど寛大ではないのだっ」

474 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 01:41:35.63 ID:Afl8afoP
メイド姉「争いを始めるのに精霊を理由に用い、
 今また争いを継続するために世界を言い訳にするのですか?
 ――たしかに。
 確かに“彼女”は間違ったかも知れない」
東の砦将「は?」
メイド姉「確かに“彼女”は間違ったかも知れない。
 わたし達がこんなにも愚かなのは、
 彼女がわたし達に炎の熱さを教えなかったから。
 わたし達はゆりかごの中でそれを学ばずに
 育ってしまったのかも知れない。
 それは彼女の罪なのかも知れない。
 しかしいつまで彼女と彼女の罪に甘えるつもりですか、我々はっ」
聖王国将官「何を……。何を言っているのだ?」
メイド姉「“彼女”に……。
 光の精霊にいつまで甘えているのかと問うているんですっ。
 争いを始めるのに“彼女”の名前をいつまで使うのですか?
 人を殺すのに彼女の名前を用いて正当化するなどと云う
 卑劣な責任回避をいつまで続けるおつもりですかっ。
 “この世界は、両者を住まわせるに十分な広さがない”?
 世界の許可が必要なのですかっ!?
 わたし達が……。
 今! ここにいるわたし達が、今この瞬間に責を取らずして
 どこの誰にその責任を押しつけようというのですかっ。
 確かに民は愚かかもしれません。
 しかし、彼らは望むと望まざるとに関わらず、
 その責任を取るのです。
 飢え、寒さ、貧困、戦。
 ――つまるところ、望まぬ死という形で。
 王弟閣下。あなたは英雄ではないのですか。
 私はそう思っています。あなたもあの細い道を歩く一人だと」
王弟元帥「何を望むのだっ。勇者よ。
 世界を守るというのならば――。
 世界を変えるというのならば、我にその方の力を見せるが良いっ」
メイド姉「望むのは平和。ほんの少しの譲歩。
 そしてわずかな共感と、刹那のふれ合い。
 それだけしか望みません。
 それだけで、わたし達は立派にやっていける。
 その後のことは“みんな”が上手く形にしてくれる。
 私はそれを信じています。
 だって信じて貰えなければ、私は人間でさえなかったんですから。
 あの日、あの夜。あの馬小屋の中で
 虫けらのままで死んでいたんですから」

476 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/17(火) 01:42:24.23 ID:Afl8afoP
青年商人「……」
冬寂王「……」
王弟元帥「その戯れ言を通すだけの力が、
 その方にあるというのか」
メイド姉「私に武力はありませんから」
王弟元帥「お前の援軍とやらは、
 全て集まるのにまだ十日もかかるのだぞ」
メイド姉「では、私が連れてきた本当の援軍をご紹介しましょう」
聖王国将官「なっ!?」 きょろきょろ
王弟元帥「見せてみるがいいさ。
 その方の甘い理想論をかなえる力とやらを」
メイド姉「はい……。王弟閣下、手をお借りしますね」
     ぱぁぁああああああ!!!
王弟元帥「そ……それはっ……」
メイド姉「――“ひかりのたま”です。
 これは、彼女の残した恩寵。
 光の精霊自らがこの世界へと残した、忘れ得ぬ炎」
聖王国将官「ま、ま、まさかっ」
――な、なんだあの光は!? ――ま、まさか精霊さま!?
 あの娘っこは、精霊様の使いだったのか!?
 間違いない、この光は……
 なんて優しい、綺麗な光なんだ……。
 身体の痛みがみんな、何もかんも無くなっていくようだ。
 精霊の巫女様に違いねぇ……
メイド姉「はい。勇者の名において。
 これが“聖骸”であると、ここに告げましょう。
 そしてこの聖遺物を……。王弟閣下に贈ります」
東の砦将「っ!?」
青年商人「……ははっ! ははははははっ!
 これはすごい。すごいなっ!」
王弟元帥「なぜっ!? 何をしている、なぜそうなるっ!?」