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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part110


296 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/13(金) 19:30:49.14 ID:rH.ZqWkP
魔王「そうか。……人間は驚愕の種族だから」
勇者「へ?」
――あなたが魔王をさぼっているから、
 わたしのところにまで案件が持ち込まれているんですよ。
 いい加減に本気を出して仕事をしてください
 正直、少しがっかりしました。
 もう少し熱を冷ましてください。
 あなたのやるべき事は、目先の軍を防ぐことではない。
魔王「いや。青年商人にめちゃくちゃに言われてな」
勇者「なんて?」
魔王「えーっと……。足手まといだから、とっとと勇者を
 探し出して、そっちで仕事をしろ、みたいな」
勇者「云うなぁ、あいつ」
女騎士「同盟の指導者ですか」
魔王「あれはあれで傑物なのだ。
 聞けば先物に売り浴びせに
 取り付け騒ぎに果ては為替操作までしていた。
 まさにやりたい放題だ。
 鬼畜だぞ。
 わたしよりずっとえげつない。
 確かに経済圏がひとつしかなかった中央大陸において
 商人の活躍の余地は少なかったのだが、
 逆に言えばその中でどれだけ飢えて未来を
 求めていたことやら。
 あれはあれで、ある種の英傑だ。
 魔王を名乗るだなんて冗談にしたってはまりすぎだぞ」
勇者「?」
魔王「い、いや。こっちの話だ」
女騎士「勇者に、魔王か……」
――あなたの戦闘能力は勇者の全開時の40%以下でしかない。
 でも、そんな数値上の比較は関係ない。
 約束をしたならば、果たして。

297 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/13(金) 19:32:00.79 ID:rH.ZqWkP
コオォォン……
勇者「……下はどうなっているだろうな」
魔王「遠征軍は今にも雪崩を打って開門都市に
 流入しようとしている……。
 最悪は市街戦、その後、虐殺。
 怒りに駆られた魔族側は報復措置として、開門都市を逆包囲。
 人間達は開門都市に籠もったまま、
 数ヶ月の飢えを経てそのまま全滅」
女騎士「南部連合も援軍を出したんだ。その数は三万に迫る。
 ゲートのあった大空洞を抜けた救援軍は、形としては
 遠征軍の補給線を断って後背をついた。
 兵糧攻めにはなっているけれど、
 数の上でも戦闘能力の上でも、遠征軍は未だ圧倒的な
 優位性を持っている。良くて、膠着の泥沼戦。
 悪ければ、殲滅戦。どちらにしてもこの場で戦争は終わらず、
 その戦果は地上へと飛び火して、全ての国々を焼き尽くす」
勇者「……」
魔王「でも、そうはさせないと思っている人もいる。
 青年商人は判っているし、火竜公女、東の砦将もいる」
勇者「メイド姉と貴族子弟もいるしな」
女騎士「冬寂王や鉄腕王、軍人子弟にもこちらに来ている」
魔王「それなら、まだチャンスはある」
女騎士 こくり
勇者「まぁな。魔法使いもいる。
 あいつは昔から、頼りになるやつだし……」
魔王「そうか」
女騎士「……」
勇者(……まだなんか隠している気はするんだけどさ)

322 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 03:37:58.12 ID:6OFcHF6P
――開門都市、近郊、遠征軍本陣
ゴゴゴォォン! ゴゴゴォォォン!
大主教「司祭よ」
ころり。ころり。
従軍大司祭「はっ。はいっ」
大主教「ふふ。どうした、震えているでは無いか。
 ……恐ろしいのか? 天のおののきが。それとも、我か」
従軍大司祭 がばっ 「い、いえっ」 がくがく
ころり。ころり。
大主教「時は満ちた。きゃつらの、すくなくとも1人は
 死んだのだ。そして精霊への道が現れた」
従軍大司祭「――っ」
百合騎士団隊長「では」
大主教「喜びの野……。“次なる輪廻”への架け橋」
従軍大司祭「次なる……輪廻?」
大主教「悠久を永遠へとする力だ」
従軍大司祭(判らない……。大主教は何を考えているのだ。
 い、いや。大主教は……。何になってしまったのだっ)

323 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 03:39:35.42 ID:6OFcHF6P
大主教「これより我は出陣する」
従軍大司祭「そ、それは。南部連合方面へ?
 それとも開門都市にとどめを刺しに?
 いえ、どちらにしろ、まだ腕のお怪我も
 癒えてておりませんっ。大主教様にもしもがあればっ」
大主教「もはや、そのようなことは些末な問題だ」
従軍大司祭「しかしっ」
大主教「……あの暗殺者。良い仕事をしたが
 それでは腕が動かぬ程度のこと。
 刻一刻とこの双玉の瞳に力が満ちてくる。
 今を置いて時はない。
 あの塔を我より先に登るものがあれば、
 全ては水泡に帰す……。大隊長」
百合騎士団隊長「はっ」
大主教「これより、汝を光の筆頭騎士とする」
百合騎士団隊長「ありがとうございます」
大主教「地には混沌が充ちている。
 それはたとえようもなく美しい。
 もはや既存の権力は全て無用となった。
 この混沌の中で、大陸の全ての国家、
 魔界の全ての部族は解体されなくてはならぬ。
 光の再生には混沌こそがふさわしく
 それがこの終局を言祝ぐ最高のフィナーレとなろう。
 この地を混沌で充たせ」
百合騎士団隊長「承りました」

324 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 03:41:33.32 ID:6OFcHF6P
大主教「大司祭」
従軍大司祭「はっ、はひっ」がくがく
大主教「我々、光の教団は長きにわたり地上世界の
 信仰の庇護者、精霊の代弁者として活動を続けてきた。
 欲にまみれた貴族。権勢を誇る王族。目先しか見えぬ商人。
 愚妹にして貪欲な農夫達の全てを真理という光において
 善導してきたのだ。
 それもこれも、光の恩寵。
 それが精霊の意志ゆえだ。
 しかしながら、彼らは彼らの罪を意識しないばかりか
 我らが教会をも取り込み、権勢の道具と見なすに至る。
 手を取り合うべき時期は過ぎ去った。
 我らは我らの王国を打ち立て、
 この地を教会の教えで充たさなければならぬ」
従軍大司祭(なっ!? なんという馬鹿げたことをっ。
 正気なのですか、大主教!?
 いや、狂気であるはずがない。しかし、それは……。
 それがどれくらい途方もない世迷い事か判らぬはずもない。
 我ら聖光教会がどれほどの信者の数を誇ろうと
 それのみにて国という、いわば俗界の機構を運営できるという
 事にはならないではありませんか!?
 我らにはその技術も経験も不足しているっ。
 そもそも、今更に表舞台に立つ意味がありませぬ。
 特定の国を持たないからこそ、我らは多くの国に
 信者を得ることが出来たっ。我ら最大の武器である
 国境を越えた共通の組織という利点を捨てて……
 捨てて……。
 いや、捨てずに国を持つ。
 ――それは)
百合騎士団隊長「世界を精霊の御名の元に。
 “全てを精霊の下に”。くすくすくすっ」
大主教「その役目は、大司祭に任せる。存分に腕を振るえ」
従軍大司祭「っ!!」

325 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 03:42:56.18 ID:6OFcHF6P
従軍大司祭「お待ちくださいっ! お待ちください大主教様!
 そのようなことをすれば、この世にどのような災厄と
 混乱が巻き起こることかっ! どうかご再考をっ!」
百合騎士団隊長「その混乱を“美しい”と仰せです」にっこり
従軍大司祭「しかしそれではっ! あまりにも多くの命が
 無為に失われ」
大主教「いずれ同じ事」
従軍大司祭「は?」
大主教「もはや天の塔は起動したのだ。
 精霊も聖骸もその姿を現した。となればいずれ同じ事。
 この世界の混乱は、次へは持ち越されぬ。
 であるならば、終末には炎こそがふさわしい」
従軍大司祭「な……なにを……?」
大主教「判らぬか。いや、それはいい。
 しかし信じることも出来ないとは、聖職者として失格だな」
従軍大司祭「え? あ、あっ……」がくっ ずるずるっ
百合騎士団隊長「なんの迷いがありましょう。
 この身には精霊の穢れ無き光が充ちています。
 わたしは迷いません。わたしは決して穢れてはいない。
 穢れなど、しない。この身には汚泥など触れ得ない。
 わたしは信仰します。わたしは帰依します。
 喜びの野に。悪夢のない影無き国を信仰します。
 お連れください、大主教猊下っ」
大主教「よかろう」
 ぎゅぐ。ぐちゅる。ぞぎゅ……。ご……とん……
従軍大司祭「がはっ……。ごぼっ、ごぼっ……な……にを……」
大主教「後は任せたぞ。筆頭騎士にして女司祭よ」

328 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 04:02:29.44 ID:6OFcHF6P
――地下城塞基底部、地底湖
女魔法使い「……魔力回路の補強を」
メイド長「お任せください」
明星雲雀「ピィピィ……」
女魔法使い「……大丈夫」
メイド長「――」
女魔法使い「この両手の刻印があるうちは」
明星雲雀「だ、だって! 刻印から血が……。
 それに、こんな魔力を流してちゃ持ちませんよぅ」
女魔法使い「貯めてある」
明星雲雀「それにしたって!!」
女魔法使い「なんのために。――なんのために」
メイド長(なんて言う魔力ですか!? こ、これはっ。
 量だけならば、勇者様よりもっ)
女魔法使い「葦が原での合戦も、忽鄰塔でもっ。
 勇者の心の叫びを無視してまで、手のひらに爪を食い込ませ
 唇をかみ切る思いをして耐えたっ。
 ――わたしのこの胸に咲く誇りはこの程度で揺らぎはしない」
メイド長(……)
明星雲雀「ピッ! これ……これはっ!」
女魔法使い「……」
メイド長「“天塔”内部に侵入者有り。これはおそらく」

329 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 04:04:10.28 ID:6OFcHF6P
女魔法使い「……怪物」
メイド長「人間ですが、人間ではない。
 ……過去の魔王の亡霊の力を受け継いだ、
 魔王にあらざる魔王っ」
女魔法使い「魔王の力と精霊の奇跡を兼ね備えるもの」
メイド長「やはり……」
キィィン!!!
明星雲雀「っ!?」
メイド長「刻印がっ!」
女魔法使い「……」
明星雲雀「無理だったんですよ! 魔力による仮想通路に!
 本来あの塔は1人で登るもの。
 その塔に4人も登らせるなんて! ピィピィピィ!
 術の強度が不足して
 崩壊するに決まっているじゃないですかっ」
女魔法使い「強度……」
明星雲雀「へ?」
女魔法使い「……回路、強化。強度、上げて」
メイド長「出来ます。可能ですが、それには安定して高出力の、
 そして魔王様の波形特性を持った魔力供給が必要ですっ。
 4人ですよ!? そんな強度を実現するためにはっ
 少なくとも歴代魔王の三倍……3人分はないとっ」
明星雲雀「だから不可能だってっ!」
女魔法使い「……不可能はない」
ビィィィッ!
メイド長「〜っ!」

330 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 04:05:50.97 ID:6OFcHF6P
メイド長「そ、その腕……。ま、まさか。そ、そんなに!?
 なんでっ? どうして生きていられるんですっ!?」
明星雲雀「ピ、ピ、ピィィ!?」
女魔法使い「右手に54、左手に54。
 ……合わせて、108の刻印。
 その刻印に三年で蓄えた魔力と……みんなの、死」
メイド長「……っ」
明星雲雀「ピ、ピ……」がくがく
女魔法使い「……勇者には、見せられない。
 嫌われてしまうから」
メイド長「そんなっ」
女魔法使い「……綺麗な肌じゃない。
 死の穢れと、魔力の、こびりついた腕」
バチィッ!
明星雲雀「刻印がっ!? 灼けて消えちゃうっ」
女魔法使い「それが嬉しい。役に立てる力がっ。
 怪物も、精霊も関係ないっ。いくつの刻印が弾けてもっ
 わたしがここにいる限り、勇者の道を照らす。
 わたしは勇者の道を照らすものっ、
 勇者に何かがあれば必ず駆けつけっ、
 その願いを叶える。
 あの日。
 あの夕暮れの中でっ! 足下の闇を恐れるあまり
 その闇の中を駆けだした勇者を追うことも
 出来なかったあたしの戦場はここだっ。
 譲らないっ。引かないっ! 負けるつもりはないっ」

331 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 04:08:04.76 ID:6OFcHF6P
メイド長「回路を強化、魔力経路を計算して再配分。
 ターミナルを形成して、循環組織を形成しますっ」
明星雲雀「え、あ……あ」 パタパタ
女魔法使い「助かる」
メイド長「180秒お待ちを」
バチィっ!!
明星雲雀「ご主人っ!」
女魔法使い「……関係ない。くすぐったいくらい。
 この刻印の弾け飛ぶ痛みの一つ一つが勇者への恩返し。
 春の日だまりで、のんびりしながらごろごろしてるみたい」
明星雲雀「そんな顔色じゃないですよぅ!」
メイド長(……っ)
女魔法使い「タツタになる?」
明星雲雀「嫌ーっ! タツタは嫌ーっ! そうじゃなくて!!」
女魔法使い「……ゆずらない。
 譲る事なんて、出来はしない。
 わたしの居場所はここにしかない。
 武器も使えない。人と交流も出来ない。
 可愛い表情も出来ない。甘えることも出来ない。
 動けば戦を引き起こす広域魔法しか使えない。
 わたしは……人を殺めすぎる。
 わたしは勇者よりもずっと兵器として特化されている。
 勇者が魔族の殲滅ではなく共存を望むのなら
 わたしはきっと勇者の隣にはいられない。
 血の代価を……これでしか払えない」
メイド長(それは……)

333 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 04:17:04.63 ID:6OFcHF6P
明星雲雀「ご主人じゃなくたっていいじゃないですか
 血の代価なんて、そんな言葉は何十回も聞きましたけれど
 何もご主人が流さなくたって! この世界には他に何人も
 いるじゃないですか! 何百人も、何千人も!」
女魔法使い「それじゃ」
バチィッ!
女魔法使い「恥ずかしくて、仲間って云えない」 にこり
メイド長「循環回路形成。……つづいて吸収回路を構築」
明星雲雀「だからって」
女魔法使い「『冗長系』って、云った」
メイド長(……?)
女魔法使い「冗長化は機構に何らかの障害が
 発生した場合に対して、
 障害発生後でも機構としての機能を
 維持し続けられるように予備の機構を
 バックアップとして配置すること。
 こうして得られる安全性を冗長性と呼び
 バックアップの部品を冗長系と呼ぶ」
――魔王の代わりは、わたしがする。
メイド長「始めからっ!?」
バチィッ!
女魔法使い「憧れた。……あの大図書館で魔王を見た時に。
 あの凛々しさに。聡明さに。未来を望む強さと優しさに。
 なにより。
 “あなたが欲しい”と勇者に云える勇気に。
 涙が出るほど悔しくて、胸を焦がすほどに憧れた。
 魔王の告白なんて成功率は1%も無かったのに。
 でもそんな確率なんかで一瞥もせずに、
 ただまっすぐに勇者を目指した魂にさに。
 あたしには云えなかったけれど、それを云えた女性に。
 わたしは憧れて、守ろうと思った。
 だからこそっ!
 相手が、化物でもっ!
 『大魔王』でもっ! 私たち三人は、勇者を守る。
 この身に刻んだ穢れた刻印の全てに賭けてっ。
 勇者が願う未来を、その手にっ!」

335 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 04:50:31.29 ID:6OFcHF6P
――光の塔、その道程
……コオォォン
女騎士「だーかーらー! “ひとつまみ”ってのは
 指先でつまめる量。なんで“ひとつかみ”と いっしょにするっ」
勇者「そんなこと云ったって」
魔王「ま、魔界には様々な氏族がいるからな。
 そう言う曖昧な表現は争乱を招く元になるのだ」
女騎士「へー」
勇者「冷たい視線だっ」
魔王「理不尽だぞ、女騎士っ」
女騎士「食料を無駄にするのは、修道会の教えに反する」
勇者「それはそうだけど」
魔王「食事なんてメイド長に頼めばいいのだ。
 あちこちに酒場だってある。自分で作れなくとも
 なんの問題も発生しないっ。些末な問題だ」
女騎士「そう? ……勇者」
勇者「ん、なんだ?」
女騎士「はい。ビスケット」ひょい
勇者「ん。さんきゅ」ぱくっ
魔王「っ!?」

336 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 04:55:06.61 ID:6OFcHF6P
女騎士「そして勇者。美味しい?」
勇者「うん、美味いな。もっきゅもっきゅ」
魔王「な、な、なにを……っ」
女騎士「そうか。もっとあるぞ」なでなで
魔王「何をしているのだっ!?」
女騎士「何って。……馴致だ」
魔王「馴致だとっ!?」
女騎士「いや、言葉が悪かった。……餌付けだ」
魔王「同じ意味だっ! 勇者も、何を馴染んでいるっ」
勇者「さくさく歩こうぜ、先は長いんだから」
魔王「〜っ!!」
女騎士「魔王。悪いことは云わない。料理を習おう。
 別にすごく上手である必要はないんだ。
 普通の男なら知らないが、勇者は空腹になれば
 普通の料理でさえあれば大抵ご馳走だと思って食べてくれる。
 食事はいいぞ。食事をしている勇者は無防備だからな」
魔王「無防備……なのか?」
女騎士 こくり
 勇者「おーい、置いていくぞー」
女騎士「勇者は、お腹一杯の時と寝てる時はすごく可愛いぞ」
魔王「う、うむ」

337 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 04:57:52.36 ID:6OFcHF6P
女騎士「もふもふもさせてくれるようになったしな」
魔王「しかし、慣れるのはいいが、それはそれで
 ときめきがなくなるという意味合いでは負けというか
 ある種の本末転倒を感じないでもないではないか」
女騎士「こちらは一杯一杯だ。ときめきどころか
 心臓が暴走しているのだから、問題ない」
魔王「勇者の側の問題だ。勇者にだって動揺してもらいたい。
 そうでなくては公平ではないぞ。
 こちら側ばかりが動揺するのは魔王としての沽券に関わるっ」
女騎士「沽券で勝てるなら世話がない。
 まずは勝つ。具体的に云うと、同衾だ。
 ときめきはその後に考える」
魔王「な、なんという実利的な……」
女騎士「これが老師から教わった策だ。まずは勝て!
 相手を負かすのはそれからでも遅くはない」
魔王「わたしが女騎士に軍略を語られるとは……」
  勇者「なにやってんだよ。急ぐって云っただろう?」
魔王「あ、ああ。済まない」
女騎士「道中の雑談だ。無言だと却って早く疲れる」
勇者「なんの話だ?」
魔王「いや、なんの話というか。そのぅ……。し、塩だ」
勇者「塩?」
魔王「あ、いや。帰ったら多少料理を習おうかと」
女騎士「うん、そう言う話だ」

338 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/14(土) 05:01:05.77 ID:6OFcHF6P
勇者「いいんじゃないか。よっと」
とったったっ
魔王「うん。何か食べさせてやるぞ、勇者!」
勇者「腕は同じくらいなんだ。いっしょに作ろうぜ」
魔王「それもいいな。二人で料理をすると楽しいぞ。
 出来上がりは今まで不幸だったけど……」
女騎士「うん。そのときはわたしも一緒に……」
…………ィン……
勇者「どした? 女騎士」
女騎士「あ、いや」
魔王「なにかあったのか?」
女騎士「ん。ちょっと」
勇者「ちょっとって?」
女騎士「勇者、魔王。ほら、荷物降ろして」
勇者「なんでだよ」
魔王「……」
女騎士「わたしが後から持っていってあげるよ。
 “瞬動祈祷”――ほら、持続時間も強度もあげておいたぞ。
 これでさくさく登れ?」
勇者(胸がざわざわする……)
魔王「危険が迫っているのか?」
勇者「そうなんだな、女騎士っ!?」