Part107
172 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 06:11:20.16 ID:4RteqQsP
鉄国少尉「しかし、手加減をして勝てる相手ではありません。
そもそも全力を尽くしても勝てるか否か」
将官「そうですね……」
冬寂王「今を生きる我らは未来に対しての責務を負っているのだ。
ここで手をゆるめることは明日に対する裏切りだろう」
鉄腕王「……うむ」
軍人子弟「そうでござるね」
将官「勝算はどれほどあるのです?」
軍人子弟「開門都市からのこの親書を信じれば、まず」
将官「まず?」
軍人子弟「五割でござろうね」
鉄国少尉「策を持ってしても、ですか」
軍人子弟「時にはそういう戦もあるでござるよ。
そもそも策とは不利だから講じているのでござる。
昨日の戦で判り申したが、
遠征軍はどうやら全軍では行動がとれぬ様子。
と、いうよりも、王弟将軍の指揮権が半減しているでござる」
鉄国少尉「そのようですね。昨日はあそこまで攻めて叩いても
本陣からは援軍の動きも、そもそも報告の行き来もなかったとの
密偵から知らせが入っています」
将官「ふむ。……何らかの齟齬でもあるのですかね」
冬寂王「遠征軍もまた我らと同じように多数の国家群からなる
寄せ集めの軍隊だ。
馴れぬ異境の地で、意見が割れると云うこともあるだろう」
173 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 06:12:29.79 ID:4RteqQsP
軍人子弟「そうでござろうね。
我らと違って、参加諸侯は恩賞の土地目当てが殆ど。
そこらあたりが原因かと思うでござる。
王弟元帥とやらは確かに軍事的才能は秀でているでござろうが、
致命的な弱点があるでござる」
将官「弱点? そのような物があるのですか?」
冬寂王「はははは。“それ”を弱点というのは
いささか可哀想な気がせんでもないな」
鉄腕王「なんだそれは?」
軍人子弟「それは“一人しかいない”と云うことでござるよ」
鉄国少尉「確かに」
将官「それは当たり前ですが、それが弱点になるんですか?」
軍人子弟「2つの前線で指揮は執れないでござるよ。
夜明けを切っ掛けに開門都市とこちらで連携した戦術で
遠征軍を引きずり回すでござる。
遠征軍に亀裂が入っているのであれば、
その機動で必ずや無理が露呈するでござる」
羽妖精侍女「都市ハ助カリマスカ?」
鉄腕王「大船に乗ったつもりでいてくれや」
冬寂王「軍人子弟殿は、その親書を深く信頼しているのだな」
軍人子弟「蔓穂ヶ原の戦いにおいて我らを助けるために
駆けつけてくれた魔族の二人の将軍の一人が、
開門都市で指揮を執っているでござる。
砦将殿とはあの戦役の折、酒を酌み交わしたでござる。
あの御仁であれば、必ずや役目を全うされるでござろう。
それに……」
冬寂王「それに?」
軍人子弟「この親書の封蝋の紋章には見覚えがあるでござるよ」
鉄腕王「封蝋」
軍人子弟「懐かしき学舎の、でござる。
二人の師匠が揃って見ているのでござる。
拙者が恥ずかしい真似をすることは出来ないでござるよ」
175 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 06:18:30.94 ID:4RteqQsP
――開門都市、南大門、大通り付近
義勇軍弓兵「明るくなってきた……」
人間作業員「夜明けだ」
東の砦将「さぁって、今日が運命の一日か」
青年商人「そうなりますね」
東の砦将「すげぇくそ度胸だな」
青年商人「いやいや。そんなことはありません。
しかし、顔色を変えると足元を見られますからね。
それに最初はそちらの手番です」
東の砦将「“とりあえず火をつけろ”とはね」
青年商人「やはり相当に無茶ですかね」
東の砦将「普通の将軍なら引き受けねぇだろうな」
青年商人「でしょうね」
東の砦将「でも、こちらも一応族長って事になってるし
このまま縮こまって守ってれば勝てるかって云う話でもあるしな。
また、勝って良い相手かと問われれば、そりゃ悩むさ。
別に俺が人間だからって訳じゃないぞ。
ただ、曲がりなりにも開門都市を預かっていたからな。
やはり夢は見ちまうさ」
青年商人「夢、ですか」
東の砦将「喧嘩はしても、一緒にやってくことも
出来るんじゃねぇかってな」
青年商人「そんな事は最初から自明ですよ」
東の砦将「そうなのかい?」
青年商人「ええ、最初に出会った時から判りきっていました」
東の砦将「あいつらにも判ってくれりゃぁいいけれどな。
さぁて、そろそろはじめるぜ?」
青年商人「よろしくお願いします」
東の砦将「よーし、火をつけろ! 金物をならせっ!!
門の付近で火事が起きて騒ぎを起こせば、
抜け駆けされたと誤解をした遠征軍の先方部隊は
飛び起きてしゃにむに突撃してくるぞ! 火矢を射込め!
灯りを目当てに射撃で数を減らせ! 乱戦を演出するんだッ!」
青年商人「略奪貴族部隊の眼を、南門に引きつけるのです!
斥候を集中させて、北門の包囲を解かせる。
この一戦で状況を打破しますよっ」
176 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 06:22:20.80 ID:4RteqQsP
――開門都市、南通り正門付近、遠征軍の天幕
ダダダッ! ガササッ!
見張り兵「領主様っ!」
貴族領主「見えておるわ、このうつけめが! 皆をたたき起こせ!」
見張り兵「は、はいっ!」
ごおおおお!
私兵隊長「あの炎はっ!?」高慢な騎士「さては、川蝉の領地か、霧の国の抜け駆けか!」
貴族領主「このままでは一番槍を奪われるっ。
農奴達を正門に突撃させろっ。いや、我が領土の騎士を投入だ!
急げ! 農奴などは信用がならぬっ」
私兵隊長「判りました! 整列っ! 整列っ!」
高慢な騎士「腕が鳴りますな、領主殿」
貴族領主「ふっ。強力無双の騎士どもにかかれば魔族どもばらなど」
高慢な騎士「はーっはっはっは! 我に任せれば
全て平らげてご覧に入れようっ!」
バサッ!
見張り兵「炎上は継続中! 霧の国、塩の国の兵団や、傭兵部隊が
動き始めました! 正門付近では戦闘が始まっております、
すごい音です!!」
貴族領主「こうしてはいられぬっ」
高慢な騎士「陽も登りつつある、暗闇は払われたっ!
今日こそ小癪な魔族どもをこの世界から抹殺してご覧に入れる!」
観測兵「開戦っ! 夜明けを待たずして、激突が起きていますっ」
伝令兵「早速部隊が正門打破を成功させましたっ!!」
177 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 06:25:03.93 ID:4RteqQsP
――開門都市近郊、南部連合軍、中枢
将官「開門都市、南門付近に動き有り! 火の手ですっ」
軍人子弟「いよいよでござるな」
鉄国少尉「はっ!」
冬寂王「決戦になるのか?」
軍人子弟「出来れば仕留めたいでござるね」
将官「このような時に、女騎士将軍がいてくだされば……」
冬寂王「それは言うな。彼女には彼女の仕事があるのだろう」
鉄腕王「そうなのか?」
軍人子弟「あるでござろうね」
鉄腕王「この一大事になんの仕事が」
軍人子弟「勇者一行の仕事でござるよ」
鉄国少尉「そうですね。我らのことは我らでやらないと」
将官 こくり
冬寂王「そうだな」
斥候「遠征軍後陣、突出してきますっ!」
鉄腕王「ふっ」
軍人子弟「先にこちらを叩くつもりでござるか。いや……」
鉄国少尉「ええ……。突進してくるのは約6000。
そのほかの部隊は、一丸になって力を蓄えています」
鉄腕王「決死隊か」
178 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/10(火) 06:33:16.41 ID:4RteqQsP
軍人子弟「……」
鉄国少尉「お気持ちは判りますが、避けられませんよ」
軍人子弟「無用の情けは武人の恥でもあり
傲慢でもあるでござろうね」
鉄国少尉「そうです」
冬寂王「血が必要なのだ。この瞬間を乗り越えるためには」
鉄腕王「我らの血で払いたくなければ敵の血であがなうしかない」
軍人子弟「騎馬隊っ!!」
騎馬隊「はっ!!」
軍人子弟「縦列突撃準備っ! 敵の突出部隊は軽装歩兵中心。
マスケットは含まれていても少数でござる!
これを機動兵力にて一撃するでござる。
ただし、敵の狙いは、この兵力を持って
自らのマスケット射程圏内に我らをおびき出すことっ。
くれぐれも突出を控えよ。角笛の二点呼にて退却っ!」
騎馬隊隊長「復唱します! 縦列突撃後、角笛の二点呼にて退却」
軍人子弟「よしっ! 指揮は鉄国少尉っ」
鉄国少尉「お任せあれっ!」
軍人子弟「まだ序盤でござる。太刀の一合わせ目に過ぎぬでござる。
いまは、敵の首よりも混乱が欲しい。
逃げる敵があれば、深追い無用。ただし、意気はくじくべし!」
鉄国少尉「かしこまりましたっ!」
将官「我ら歩兵部隊は?」
179 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 06:34:58.77 ID:4RteqQsP
軍人子弟「このまま前進。緩やかに回り込みながら開門都市に接近。
遠征軍の本陣に圧力を加え続けるでござる」
鉄国少尉 こくり
軍人子弟「遠征軍の貴族達や王族達、それに教会勢力は、
安心しているのでござる。
――たとえ多少の軋轢はあってもいざとなれば王弟の軍が
守ってくれる、と。
それゆえ、その安心ゆえに、絶対的な高所から狩るかのように
人殺し、魔族殺しを行なっていることが出来るのでござる。
我らは身を切られるような痛みを持って
この戦場に立っているでござるが、きゃつらはその痛みを
感じることもないままに、ぬくぬくと略奪をしているだけ。
これでは交渉など出来ようはずもないのでござる。
安全? 守ってくれる? 一方的な攻撃?
そのような保証はこの戦場にはどこにもないということを
我らが教えてやる必要があるでござるっ」
冬寂王「気が付くかな、遠征軍は」
軍人子弟「気が付いたにしろ手遅れでござるよ。
数が多いという武器が、今度は奴らの首を絞めるでござる。
あの全軍を統率することは、たとえ王弟将軍であろうと
今からは不可能でござる」
将官「了解です。防御陣形のまま迂回侵攻っ」
軍人子弟「直属ライフル部隊は、このまま予定どおりの地点を
移動しつつ、狙撃により遠征軍の指揮系統を破壊するでござる!
遠征軍の大半は、戦闘には不慣れな素人。
士気も決して高くはない。
指示がなければ判断できない部隊でござる。
貴族の鎧や戦馬を集中的に狙撃っ! 指揮系統を分断っ!」
ゴオォォーン!!
鉄国少尉「始まりましたな。いってきます! 護民卿っ!」
軍人子弟「我らの明日のためにっ!」
182 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 07:17:26.21 ID:4RteqQsP
――地下城塞基底部、地底湖
明星雲雀「ピィピィピィ」
女魔法使い「……ここ」
魔王「こんなところがあったとは……」
勇者「ここは、開門都市の」
女魔法使い「そう。岩盤空洞」
メイド長「まおーさまっ!」ひしっ
魔王「メイド長ではないかっ」
勇者「よっ」
メイド長「心配しましたよ」
魔王「魔法使いの手伝いはどうなった?」
メイド長「もちろん完璧です」
勇者「手伝い?」
女魔法使い「借りた」こくり
魔王「殆ど脅迫のようにメイド長を連れて行ったのだ」
ガシャ
女騎士「わたしもいる」
勇者「女騎士っ!」
女騎士「勇者、ぼろぼろだな」
明星雲雀「みんなぼろぼろですよぅ。ぴぃぴぃ」
女魔法使い「説明をする」
メイド長「そうですね」
184 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 07:18:31.70 ID:4RteqQsP
魔王「説明。生け贄の祭壇……か」
女魔法使い「そう。ここが生け贄の祭壇。
正確には開門都市全域が、そう。
それは、勇者か魔王の死を感知して起動する力場形成装置」
メイド長「ずいぶん古く、精巧なものです。
この魔法的な装置の修理と手入れは非常に微細なレベルでの
掃除が必要でして、通常の方法では不可能でした」
魔王「それでメイド長が必要だったのか」
メイド長「ええ、メイドゴーストであれば透過しつつ
掃除できますからね」
勇者「いくら修理したからって、
魔王を生け贄にするつもりなんて俺にはないからなっ」
明星雲雀「ピィピィピィ」
女魔法使い「問題ない」
勇者「だいたい何でかあいつら何かを犠牲にすれば
何か得られるとか本気で信じ込んでるから始末に負えない。
それは要するに何かを犠牲にすれば、貰えて当然って云う
さもしい乞食根性だっていい加減気が付けって……
えーっと。……問題ないのか?」
女魔法使い「ない」
明星雲雀「……ピィ」
女魔法使い「この装置は、魔王や勇者という存在が消滅する時に
発生する巨大な関係性のエネルギーと魔力を変換して
起動するもの。残った片割れを精霊の住む場所へと案内する」
勇者「精霊の住む場所って……異次元とか?」
女魔法使い「精霊にそんな概念はない。そんなに都合は良くない。
精霊がいるのは、あの……碧の、太陽」
メイド長 こくり
魔王「あの太陽にっ!?」
185 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 07:20:24.89 ID:4RteqQsP
勇者「魔界のか!? なんだってそんな所にいるんだよっ」
女魔法使い「大破砕の後の混乱、茫然自失、あるいは昏睡。
それから覚めた精霊の眼に移ったのは荒廃した世界。
これから荒廃してゆかざるを得ない世界。
人間と魔族……つまり、大地の精霊の血を引く力弱き民と
それ以外の精霊の血を引く猛々しい民の間には
すでに憎しみの眼が撒かれていた。
それも、炎の精霊族たる彼女と、
大地の精霊と人間の間に生まれた彼女の恋した青年。
――最初の勇者が惹かれあったせい。
二人の恋がおごり高ぶった精霊の選民思想に火をつけて
この世界を引き裂きかねない荒廃をもたらした。
この世界は広いけれど、それでも憎しみ合う2つの民を
住まわせるほどの広さはなかった。
だから、彼女は魔族――精霊の血を引く民を
この大地の底へと閉じ込めた。
それは人間の自由さをねたみ、恐れ、縛り付けようとした
自らの一族への永劫の罰。幽閉の煉獄。
でも、罪深き自らの民以上に彼女は自分自身を責めた。
救いきれなかった自分を。
選べなかった自分を。
そして、彼女はこの真っ暗な地底世界の、
せめてもの灯りになることを望んだ。
彼女は炎の精霊としてその身を焦がし、
“光の精霊になった”」
メイド長「……」
女魔法使い「魔界には、この空洞には灯りがなかったから。
炎の娘が魔族と呼ばれる者たちに“世界”を与えるためには
それしか方法がなかった。
彼女は今でもその身を焦がしながら、焼ける身体に心を
縛り付けて、何人もの魔王を、そして勇者を待ち続けている」
魔王「では……」
勇者「まさか……」
女魔法使い「そう。あの碧の太陽が、彼女の骸。
――光の聖骸。光の精霊の、罪に満ちた、亡骸」
魔王「いったいどれだけの時を」
女魔法使い「その時間は、この世界において意味をなさない。
時間を刻むべき世界が切り替わるほどの時がたった」
186 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 07:23:07.12 ID:4RteqQsP
勇者「……そか」
女騎士「……」
女魔法使い「……時間を掛けて研究した。私の魔力ならば
魔王が死んだ時に匹敵する魔力を作り出して、
維持することが出来る」
魔王「まさかっ!? そうなのかっ?」
勇者「魔法使いが出来るって云うのなら、出来るんだろうな」
明星雲雀「……ぴぃ」
女魔法使い「任せて」
女騎士「……ああ、任せても平気だ」
ブゥゥウン
メイド長「魔力回路の整備も完璧です」
女魔法使い「私が回路を起動させて、『天塔』を作る。
力場で作られた高さ1500里の塔。その先に精霊はいる。
起動が成功したら、すぐに魔王と勇者、女騎士は
塔へと突入する。塔の中は完全に無人のはず。
作りたてだから。後は最上階で精霊を説得する」
魔王「女騎士も?」
女騎士「ひどいな。魔王は。
まさか勇者と二人だけで行くつもりだったのか?」
魔王「いや、そういうわけではないが」
勇者「そういえば、いつの間にこっちに来てたんだ。女騎士は。
よくここまでたどり着けたな」
女騎士「……魔法使いの案内で」
明星雲雀「ご主人様はねっ! ほんとはっ!」
女魔法使い「……“捕縛式”」
明星雲雀「ピギャン!」
187 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 07:24:21.92 ID:4RteqQsP
メイド長「まおー様……」
魔王「世話を掛けるな」
メイド長「いえ。これもメイドの役目ですから。
ですけれど、帰ってきてくださいね」
魔王「それは」
勇者「もちろんだぞ。絶対帰すから」
魔王「勇者、今回ばかりはそうとばかりも」
メイド長「今回はお供できません。申し訳ありません。勇者様」
勇者「おうよ」
メイド長「期待して良いですね?」
勇者「もち」
メイド長「それ、虚勢ですよね?」
勇者「よく判ったなっ」
メイド長「いえ。虚勢も張れないような人間だったら
始末していたところです」
魔王「メイド長っ!」
勇者「いや、良いって良いって。それにさ。
大変なのは俺らばっかりじゃないしさ。
そもそも俺たちなんて精霊に面会して
説得するだけの楽な任務だぜ?
考えてみれば、下に居残って都市を守る方が
絶対にキツイって。戦争なんだぞ?」
メイド長「そんな事はないかと思いますが」
魔王「いや、勇者の云うことももっともだ。
都市のみんなにも、よろしく伝えてくれ」
勇者「俺からも頼む。……メイド姉にも、会えたらな」
メイド長「へ?」
188 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/10(火) 07:26:54.71 ID:4RteqQsP
魔王「メイド姉が?」
勇者「来てるよ」
メイド長「来てるって……」
勇者「近くで、軍を率いているよ」
メイド長「何をやっているんですかっ。あの娘はっ!?」
勇者「勇者」
メイド長「え? ええ?」
魔王「勇者?」
勇者「ああ。……勇者を名乗るんだってさ。くくっ」
魔王「――。あははははっ」
勇者「最高だろ?」
魔王「まったくだ!」
メイド長「笑い事ですかっ」
魔王「いやさ。覚悟を決めた人間のなんと眩しいことか」
勇者「あいつは本物だよ。俺より勇者かも知れないな」
メイド長「まったく。あの娘は、メイドの道を諦めて正解です。
おとなしい内省的な性格なのに、
表に出る行動だけは断固意地っ張りでとんでもないんですから」
魔王「メイド長によく似てる」
勇者「そうな!」
189 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/10(火) 07:28:25.46 ID:4RteqQsP
女騎士「……」
女魔法使い「……」
勇者「まぁ。上の件は、任しておけって」
魔王「本来の役目だからな」
メイド長「緊張感を持ってください」
女騎士「すまない……」
女魔法使い「謝る必要なんて無い。
私は私の思うがままに誠を通しているし。
――それで、十分」
女騎士「十分、なのか」
女魔法使い「中に入ったら、打ち合わせ通りに」
女騎士「判った」
明星雲雀「やっぱり無茶ですよぅ。もっと準備をして」
女魔法使い「準備の時間はない。
今ならば、あの怪物より先に『天塔』へ入れる。
でも、先行されたならば追いつくことは出来ない」
明星雲雀「だからって……」
女魔法使い「忘れてはいけない。魔王は戦闘では無力。
勇者の戦闘能力は、無力化の祈願によって十分の一。
もう、あの怪物を止める手段はない。
誰も気がついてないけれど、もう詰んでいる。
魔族軍も南部連合軍も、もはや遠征軍さえも
――すでに壊滅しているに等しい」
191 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/10(火) 07:31:10.05 ID:4RteqQsP
女騎士「そうだな」
女魔法使い「……私たちは何?」
女騎士「勇者の仲間、だ」
女魔法使い こくり
女騎士「だけど」
女魔法使い「……あの化物が戦場で暴れ始めたら
膨大な数の犠牲者が出る。わたしはそれでも良い。
ううん……その方が良い。
けれど、それでは勇者が納得しない」
女騎士「そうだな……」
明星雲雀「馬鹿ですよぅ。本当に」
女魔法使い「……それで、いい。それが、いい」
女騎士「……」
女魔法使い「魔王はそろそろ気がついている。
収斂力が高まるという意味について。
――それは魔王というシステムの根幹だから。
略奪、戦乱、疲弊、飢餓、崩壊。
それが魔王という機構の存在意義。
『世界を後退させる収斂力の顕現』」
女騎士「魔法使いの話はいつも難しいよ」