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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part106


89 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 00:53:14.93 ID:EFPdgVwP
魔王「何を言って……」
勇者「解決策を、そろそろ教えてくれ」
女魔法使い「……全てを完全に幸せにするのは、不可能」
勇者「それでも良い。そんなの、当たり前だ」
女魔法使い「……多くの反発要素が出る。それらは全て放置する。
 なぜならそれらはこの世界が負うべき問題でもあるのだから」
魔王「そして?」
女魔法使い「根源にアクセスをして、反発力の発生源を停止させる。
 その根源は“彼女”。
 “彼女”が世界を救いたいと、
 平和にしたい、いつまでもいつまでも微睡みの中のような、
 時がたつのも緩やかな緑豊かで
 牧歌的な世界でいて欲しいと願っていること。
 その願いそのものが、収斂要素の発生原因」
勇者「……精霊が。やっぱり、まだ待っているんだな」
魔王「炎のカリクティス。そんな伝説だったのか……」
女魔法使い「それが彼女の願いだったから。
 自らの恋をも捨てて願った未来だったから。
 でも、彼女のそれを正しに行くのならば、
 勇者も魔王も同じ間違いをするわけにはいかない。
 “世界を救う保護者”に“世界を管理する保護者”を
 説得することが出来るはずもない。
 そう。
 いま――選択の時は来た」
勇者・魔王「……」

90 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 00:56:33.43 ID:EFPdgVwP
女魔法使い「かたや、永遠の世界。
 それは永久を過ごす微睡みの世界。
 もちろん完全な平和ではない。
 戦争もあるし、人間と魔族は互いに滅ぼし合おうとする。
 それでもそこはある意味理想郷。
 無数の魔王と無数の勇者が現われて互いに戦い、
 争いは常に伝説となる。でも、それは世界の背景。
 普通の村人までもが戦で命を落とすことは少ない。
 昔見た、小さなあの村は、いつまでもそのままに
 人々は変わらぬ日々を送る」
勇者「変わらない……」
女魔法使い「人間は新しい技術を開発もせず、
 王は王のまま、農奴は農奴のまま。
 それが当たり前。“当然ゆえの幸福”。その永遠。
 苦しみと不幸はそのままに、喜びと幸せもそのままに……。
 決して破滅することのない日常が寄せては返す波のように。
 彼女がかつて愛したその世界のそのままに、何度も繰り返される」
ザアアァァァ……
女魔法使い「かたや、解放された世界。
 闇の帷の中、明かりを持たぬ旅人のように心細く
 未知の旅を強要される世界。
 そこでは激しい戦が起きる。
 新しい技術が開発され、世界は拡大し、変化を遂げ続ける。
 産業や経済発展はおびただしい数の人間を幸せにするだろうけれど
 同時におびただしい数の不幸な人々を作り出しもする。
 わたしは伝承学者だから、詳しくは判らないけれど
 全てが滅びる可能性も、少なくはない。
 それはあるいは破滅への回廊なのかも知れない」
魔王「……」
女魔法使い「全ての美しいものは消え去り、
 全ての優しかった思い出は壊れ
 勇者も魔王も産まれず、
 戦いは歴史となり、決して“伝説”になってはくれない。
 なぜならばもはや救済はないのだから。
 でも、それはありとあらゆる可能性の萌芽。
 人々は幸福になるための希望を胸に旅をする。
 不安と引き替えに手に入れるのが、その胸に点る希望。
 そして、誰もが未来が判らないゆえに、全力で生きる。
 昨日とは違う今日、今日とは違う明日を求めて。
 それは彼女がかつて愛した世界ではない。
 誰も見たことのない新しい世界。……新しい、明日」

91 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 00:59:03.94 ID:EFPdgVwP
女魔法使い「前者を選ぶのならば、簡単。
 どちらかがどちらかを殺し、『天塔』を登ればいい。
 ううん、今やそんな手間を掛けることもない。
 強大なる反発力が教会に結集したいま、
 どうあっても前者に引き戻される流れが出来ている。
 ――でも後者を選びたいのであれば」
魔王「『天塔』を登って、彼女を説得しなければならない」
女魔法使い「……そう。だけど、それは容易ではない。
 彼女はもう何十人もの魔王や勇者の訪問を受けている」
勇者「それは、俺たち以外じゃ出来ない仕事だな」
魔王「そうだな」
女魔法使い「……選ぶの?」
勇者「そのつもりで準備してくれたんだろう?」
魔王「丘の向こうは、どうやらその塔の向こうにしかないんみたいだ」
女魔法使い「世界の人々は、二人を憎むかも知れない。
 肝心の時には助けてくれなかったと。
 勇者のことも魔王のことも裏切り者だと思うかも知れない。
 世界を滅ぼしたと云われるかも知れない」
ザアアァァァ……
勇者「それは、きついけれど。でもさ」
魔王「全てが滅びる可能性がある世界ならば
 全てが救われる可能性があるかも知れないだろう?
 火薬が一万人の命を奪う世界には、
 種痘が十万の命を救う歴史があるかも知れない」
勇者「全ては黒と白のモザイクなんだよな。
 一つの瓶に入った色んな色のキャンディーみたいに。
 赤いのだけ、とか、青いのだけは選べない。
 “帳尻が合う”事を信じる」
女魔法使い「そう……」

92 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 01:01:42.52 ID:EFPdgVwP
勇者「残った片方が、なんとか落ちをつけるだろう」
魔王「勇者なら、きっと見届けてくれる」
女魔法使い「たとえ、それを選んでも
 どうにもならないかも知れない。
 何らかのトラブルで祭壇が反応しないかも知れない。
 反発力の妨害が発生し『天塔』を登れないかも知れない。
 “彼女”に拒絶されて説得が失敗するかも知れない。
 それでも?
 そのために、どちらかが確実に命を落とすとしても?」
魔王「どちらか、ではない。わたしだ。
 そもそもこれはわたしの旅なのだ。
 わたしはあの大広間で勇者に命を救われた。
 わたしの命はとっくに終わっていたのだ。
 勇者だったら確実に彼女を説得してくれる」
勇者「魔王の旅なら魔王が最後までやるべきだろ!
 俺が塔を起動させてやるから、上で説得しやがれ。
 そもそも説得はそっちの得意ジャンルじゃないか」
魔王「わたしはわたしの都合で勇者を犠牲にするつもりはないっ!」
勇者「都合の話を混ぜてるんじゃないってのっ!」
女魔法使い「……判った。最初の約束を守る」
勇者「約束……?」
女魔法使い「大丈夫。勇者も魔王も。
 ……こんなところがゴールじゃないから」

94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 01:20:50.92 ID:EFPdgVwP
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、後方戦線
聖王国将官「夜明けまで、あと数時間もないな」
参謀軍師「まことに」
聖王国将官「王弟元帥閣下はいかがされる御つもりなのか」
参謀軍師「……」
聖王国将官「聖鍵遠征軍は規模こそ保っているものの
 その内側はシロアリのかじりつくした巨木のように
 虚ろになりはてつつある。
 このままでは日を置かずに倒れてしまうやもしれんのだ」
参謀軍師(そのとおりだ……)
聖王国将官「前方には、もはや城門を打ち破ったとは言え、
 抵抗を続ける都市。後方には南部連合の得体の知れない軍。
 ましてやここは異境、魔界のただ中、
 補給も転進も容易くは行かぬ地で、兵にも怯えと動揺が走っている」
参謀軍師「ですな」
聖王国将官「だからこそっ!」
参謀軍師「しかし、だからといって、事ここに至っては
 いたずらに騒ぎ立てることは
 その崩壊を加速させてしまう結果にしかならぬのです」
聖王国将官「……いつからこんなことに。
 全てが順調に進んでいたはずではないか。
 我らがなんの手違いを犯したというのかっ!?」

95 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 01:22:06.84 ID:EFPdgVwP
ばさりっ
王弟元帥「そうぼやくな」
参謀軍師「元帥閣下」
聖王国将官「多少はお休みに?」
王弟元帥「戦場だ。数日寝なかったところで、問題はない。
 我らがなんの落ち度もなかったとて、状況は好転しない。
 それもこの世の習いというやつだ」
参謀軍師「……は」
王弟元帥「しかし、どちらにせよ方針の大きな転換を
 迫られるだろうな。聖鍵遠征軍の指揮系統は麻痺をしすぎた」
参謀軍師「その通りです」
聖王国将官「我らが後衛は王弟元帥閣下の元、
 ほぼ完全な掌握を維持していますが、
 本営ともなればどれほどの混乱があることか」
参謀軍師「……」
聖王国将官「これらも全て功を焦った貴族や王族軍と
 それらを感化している教会勢力の裏切りともいえる行為のせい」
王弟元帥「裏切り……かな」
聖王国将官「とは?」
王弟元帥「彼らにせよ、彼らの利、思惑で動いている。
 それを裏切りと断じるわけにも行かぬのか、とな」
参謀軍師「……やはり教会の動きは不審ですね」
聖王国将官「聖光教会ですか?」
参謀軍師「ともすればこの戦役の失敗さえも
 望んでいるかのような言動が目立ちます。
 教会、と云うよりも大主教がですが」

96 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 01:24:53.66 ID:EFPdgVwP
王弟元帥「……」
聖王国将官「焦っているのでしょうか」
王弟元帥「焦っているのでは無かろう」
参謀軍師「“光の聖骸”ですか。その伝説を利用して
 湖畔修道会に傾きかけた民の人心を引き戻したいと
 云うことなのでしょう。
 ……狂信を利用して信仰を引き戻す。
 どちらもどちらですな」
王弟元帥「勇者は疎まれているのかもな」
参謀軍師「は?」
王弟元帥(あるいは、魔王も勇者もすげ替えて
 新しい教会の支配体制を切り開くおつもりか。
 ……しかしそれになんの利益がある?
 教会はすでに十分な権力を持っている。
 この上何を望むというのだ。
 湖畔修道会とて、時間を掛ければ飲み込むことは
 けして不可能ではないだろうに。
 時間……。
 老齢ゆえの焦りなのか?
 その程度なのか、大司教は?)
参謀軍師「しかし、目下のところはなんとしてでも
 目の前の膠着状態を脱却しなければなりません」
王弟元帥「うむ。――ことここに至っては、
 我らの側にも誤りは許されん。
 目前の戦の勝敗はともかく、
 今後の展開を考えれば僅差での勝利などは大敗に等しい」
参謀軍師「はい。この魔界から生きて帰るための方策を
 立てるべき時期です」
聖王国将官 こくり

97 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 01:28:12.22 ID:EFPdgVwP
ばさっ
聖王国将官「これは」
参謀軍師「付近および防壁の詳細な見取り図です。
 軍議には必要でしょう?
 しかし、なかなかに堅固な陣容ですね。開門都市も。
 南部連合軍も。もちろん押しつぶすことは出来る」
聖王国将官「しかしこちらにも多大な犠牲を払う」
王弟元帥「そして、その犠牲は、魔界奥深くまで
 攻め入ってしまった遠征軍にとって、
 すぐさまの全滅ではないにしろ壊滅の予告に等しい」
参謀軍師「許される損害の許容ラインは、2万……でしょうかね」
聖王国将官「少ないな……」
王弟元帥(2万か。……南部連合軍には新式の銃があり、
 一方開門都市は粘り強い司令官と、まだ左右の塔が残っている。
 城門が破れてなお持ちこたえる士気の高さは何故だ……。
 それほどまでに信任厚い指揮官が陣頭に立っているのか。
 そして、我が遠征軍の内部には不破の火種がくすぶっている)
聖王国将官「……?」
王弟元帥「局所の戦術よりも、ここでは戦略的判断が
 重要となるだろうな」
参謀軍師「はい」
王弟元帥「我らは四つの問題を抱えている。
 一つ、開門都市の抵抗。二つ、南部連合軍。
 三つ、遠征軍内部の士気の低下および、軍規の乱れ。
 これは補給の問題を含んでいる。
 四つ、聖光教会との協力関係の破綻だ」
参謀軍師「破綻、まで想定しますか」
王弟元帥「現在のところそこまで至っていないとは言え、
 集まる報告はすでにそれを指し示しつつある。
 ここでいう“我ら”は遠征軍そのものではなく、
 この天幕の内側を指す。
 聖光教会はすでに聖王国の支持、支援なくして
 独自の方法で遠征軍を制御できると考えているようだな。
 もしくは“制御の必要がないと判断をしている”」

99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage_saga]:2009/11/08(日) 01:29:59.92 ID:EFPdgVwP
聖王国将官「……そう思えます」
王弟元帥「我はこの四つの問題に対して、
 全ての戦列で同時並列に勝利を収めることは
 この時点に至っては不可能であると考える。
 何らかの手段を用いて、最低2つ、出来れば3つの問題に
 足止めをくらわせ、膠着させなければならない。
 ――もっとも望ましいのは、開門都市への戦力集中だ。
 そのために他の3つの問題を一時的にでも
 凍結させることが必要となる」
参謀軍師「しかしそれは難しいでしょう。
 開門都市はもはや落ちかけた果実。
 諸王国の王族や貴族、領主達が群がっています。
 確かに数字の上で戦力をけしかけることは出来ますが
 それでは戦力を集中運用したとはいえない。
 現に、昨日、跳ね上げ門を突破してから市街戦に持込んだものの
 その状態ですら一進一退を繰り返している。
 これは明らかに前線の指揮系統が麻痺をして、
 無駄な損害を増やしている状況です。
 そこへさらに王弟閣下が出向いても、
 貴族や領主どもからは
 手柄を奪いに来たとしか見なされぬでしょう。
 説得は不可能ではないでしょうが、時間がかかる。
 短時間で説得を行なうためには、最低でも
 遠征軍の士気の問題および、教会の態度の問題を
 解決する必要があります。
 さらに実際の都市攻略となれば後方の連合軍の追撃を
 押さえなければならない」
聖王国将官「……では、南部連合軍を叩くというのは?」
参謀軍師「もちろんそれが正攻法で、教会や貴族達に
 望まれていることでもあるでしょう。
 しかし勝てはするでしょうが、どこまで損害が大きくなることか。
 もし2万の損害を出せば、遠征軍そのものが
 中期的に壊滅する恐れがあります。
 仮に損害がそれよりも下回ったとしても、
 その隙に諸王侯や貴族達が開門都市の占領に手間取り
 犠牲を増やせば同じ事」
王弟元帥「なにより、南部連合とこの場で戦ったとしても、
 我ら中央諸国家にとっても南部連合にとっても
 手に入れられるものが少なすぎる。
 ここは異郷なのだ。
 兵を失うのは大きなダメージだが、その大きな傷手に見合うほどの
 賠償金も領地も手に入れることは出来ないだろう。
 得が、無い。しかし、その一方、我らに後列を任せた貴族達は
 開門都市で略奪を行なうだろう。それこそ屍肉をあさるようにな」
参謀軍師「そうですね……」

100 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 01:31:41.34 ID:EFPdgVwP
王弟元帥「……」
参謀軍師「どうされました?」
王弟元帥(それも選択肢の1つか……)
参謀軍師「リスクは大きいですが、検討に値する策が1つあります」
王弟元帥「好ましい手法ではないな」
聖王国将官「は?」
参謀軍師「しかし、短期間に遠征軍の中枢を掌握しない限り
 無意味な兵の損失は続くでしょう。
 兵力の補充が聞かない上に、補給もままならないこの環境下で
 指揮系統が乱れれば、それこそ遠征軍は
 取り返しのつかないことになります」
王弟元帥「やはり指揮系統の一本化がもっとも重要であったのだ。
 ……あのとき、軍を分割したことが指揮系統の二重化を招いた。
 悔やんでも悔やみきれぬが」
聖王国将官「まさか……。それは」
王弟元帥「そうなるな」
聖王国将官 ごくり
参謀軍師「もとより我らが奉じているのは教会であって
 大主教個人ではありません。
 大陸の秩序を守っているのであって
 教会の栄光を守っているわけではないのですから。
 信仰の守り手と世俗の守護者では、自ずとその職域が違います。
 戦の指揮とは、明らかに世俗の領域です。
 その領域に立ち入れば利害が食い違うのは当然です。
 この件の切っ掛けは教会と云って良いでしょう」
聖王国将官「それは仰るとおりですが。
 そ、それでも、だ、だ、大主教ですよ?
 精霊のもっとも高位のしもべである大主教を弑するだなんて……」
参謀軍師「損害を押さえられる可能性で語るべきです」
王弟元帥「それにしても、あの者は何を見ているのやら」
聖王国将官「は?」

101 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 01:32:59.17 ID:EFPdgVwP
王弟元帥「紅の学士、だったか。
 ――あの燃える瞳の娘だ。
 あの娘の打った手が、我をじわじわと苦しめている。
 蒼魔族の居留地で補給を十全に出来なかったことが痛いな。
 そして、あの地に釘付けになって失った一週間。
 ここに来て、それが響いている」
参謀軍師「そうですね。意図してやったとは思いがたいですが」
王弟元帥「それはどうかな」
参謀軍師「とは?」
王弟元帥「あの胆力と知略は女にしておくには惜しいほどさ。
 あの人材が中央に出でず南部連合に出てしまったことが
 大きな変転の一端ではあるのだろうが。
 しかし、あれで終わりと云うことはあるまい。
 我らが教会とどのような関係を築くにせよ、
 あの女は夜が明ければ戦場に現われるだろう。
 どのような形だろうと援軍を率いてな」
聖王国将官「楽しそうですね」
王弟元帥「そのようなことはない。大陸の安定にとって
 あのような思想の持ち主は害悪以外の何者でもない。
 必要あれば慈悲無く躊躇いなく刈り取るまで。くくくっ」
参謀軍師「必要、ですか」
王弟元帥「いくら我でも、死んだ者を生き返らせることは出来ない。
 “あのとき生かしておけば”と後で思うくらいならば
 なるべく殺さずに利用したい。殺さずに済めば、な。
 しかしあの娘。私に利用されることを肯んじるかどうか」
参謀軍師「そうですね」
王弟元帥「我であれば、そのようなことは許さないがな。
 あの娘の誇りの高さと置き場所を試す戦場となるだろう」
聖王国将官「周辺警戒を厳命いたします」
王弟元帥「教会への対応、南部同盟軍との交戦、
 そして、あの娘の勢力との戦い。
 ……計画を立てられるような戦いにはなりそうもないな、これは」
バサッ!
伝令兵「王弟閣下ッ!」
王弟元帥「何事か」

103 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/11/08(日) 01:35:21.42 ID:EFPdgVwP
斥候兵「はっ! 連合軍が、陣を移しましたっ。
 いつのまにか東より回り込み都市に接近っ!」
バサッ!
光の伝令兵「ご注進です、閣下! ただいま、貴族領主軍の一部が
 都市開門部分に夜襲攻撃を強行っ!!」
聖王国将官「ばかな!? あの都市は魔族の都市。
 ろくに構造も判らぬ都市で強行夜襲による市街戦だと!?」
参謀軍師「功に焦りましたね」
聖王国将官「南部連合への距離は」
斥候兵「はいっ! 都市までの距離は5里。我が後衛軍の
 当方2里を移動中。ただし幾つかの部隊に軍を分割して
 行動をしているようで、詳細は不明ですっ」
参謀軍師「王弟閣下! 都市に入り込まれてはやっかいです」
聖王国将官「……いや、それは糧食の消費をはやめるだけでは?」
王弟元帥「この行動、もはや都市との連絡は成立していると
 見て良いだろうな。夜明けも待たずに始めるとはっ」
参謀軍師「しかし、これでは、どこに軍が潜んでいるか。
 都市に向かっていると報告された軍も虚偽の進軍、
 実は連合軍の本隊は我が軍の南方から未だに
 狙っているという可能性も」
聖王国将官「斥候を増やそうと決意した矢先に。機先を制された」
王弟元帥「かまわん。軍を再編。
 こうなれば、遠征軍の本隊を巻き込んで、数の圧力で
 一気に南部連合軍および、城壁周辺の魔族を叩くまでだ。
 ただし市街戦は避ける。そこまでの余力はないっ。
 魔族もこれがチャンスと出陣してくる可能性が高いっ」
参謀軍師「結局は力押しですか」
王弟元帥「数による飽和攻撃が我が軍最大の武器には違いない。
 後は有機的な連携だが、今回ばかりは我も前線に出ざるを得ない。
 ふっ。本気の遠征軍の底力、見たいというのならば見せよう」

171 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/10(火) 06:10:11.26 ID:4RteqQsP
――開門都市近郊、南部連合軍、中枢
伝令「遠征軍内部で慌ただしい動き有りッ。内部で再編成の模様っ」
冬寂王「気が付かれたようだな」
鉄腕王「まぁ、そうだろう」
軍人子弟「予想済みでござるよ。装甲馬車を急がせるでござる」
鉄国少尉「了解っ」
将官「重いのが難点ですね、あれ」
羽妖精侍女「妖精ニハ動カセマセンデス」
冬寂王「なぁに。赤馬の国の駿馬がいる」
鉄腕王「奴らはどう出るか」
軍人子弟「おそらく会戦を望むでござろう」
鉄国少尉「ですね」
将官「ふむ」
軍人子弟「遠征軍の最大の武器は数。
 平原で横一線になり激突するような戦になれば圧倒的有利。
 こちらに小細工をさせる隙を与えないのが基本でござる。
 都市軍と合流されたとしても、籠城されるよりはそちらを
 選ぶでござろうね」
将官「引き受けるのですか?」
軍人子弟「……」
羽妖精侍女「ござるハ難シイ顔デス」
軍人子弟「昨日もはっきりしたでござる。
 マスケットはたしかに強力な武器でござるが、強力すぎる。
 多くの死者を出すでござる。
 こちらが死にたくなければ、相手を多く殺すしかない。
 歯止めの利かない武器でござる……。
 拙者は軍人ゆえに死を厭うことはないでござる。
 我が南部連合軍は全て軍人。
 王命を果たすため、義を貫くため戦う覚悟はあるでござるが
 相手は、銃を持った農奴に過ぎぬと考えると
 気が進まぬ戦ではござるな」