Part104
119 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/14(水) 23:51:43.33 ID:NoxjAlgP
――開門都市、南大通りを見下ろす防壁
ザァァァァァァ! ザァァァァァァ!
獣人軍人「冷えてきたな」
土木師弟「ええ、おそらくもう日が消えます。
雨のせいで判りませんが」
東の砦将「どうなっている?」
義勇軍弓兵「動かないでください。包帯が巻けません」
鬼呼抜刀隊「六、七……八番隊まで確認。
どうやら日没とこの雨で敵は後退した模様」
獣人軍人「やっと、か」
土木師弟「マスケットが雨で使えなくなったのが大きいですね」
東の砦将「しかし、大門周辺はずいぶん取られたな」
義勇軍弓兵「ええ……」
鬼呼抜刀隊「決戦は明朝夜明けですか」
獣人軍人「この雨がいつまで持つかによるでしょうが」
土木師弟「ちょっと不自然な気がしますからね」
東の砦将「ん?」
土木師弟「この地方でこの季節に、ここまでの豪雨は珍しい」
東の砦将「そういえば、そうだな」
義勇軍弓兵「どうしますか、司令官」
東の砦将「そうだな……」
120 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/14(水) 23:53:13.51 ID:NoxjAlgP
鬼呼抜刀隊「いっそ夜襲を掛けて、切れるだけ切ってやりましょうか」
獣人軍人「夜襲ならば、地の利のあるこちらが圧倒的に有利です」
東の砦将「辞めておけ」
鬼呼抜刀隊「なぜ?」
東の砦将「俺たちの出番は、そこじゃねぇよ。
おそらく、明日の朝までに次の手が撃てないようじゃ……」
義勇軍弓兵「?」
土木師弟「……そうですね」
ふわふわ、ふわぁん。とことことこ……
東の砦将「?」
ふわり
小妖精「くりるたい」
義勇軍弓兵「なんだ? 妖精族かい、おまえは?」
鬼呼抜刀隊「どこから来たんだ? おちびさん」
東の砦将「忽鄰塔?」
小妖精「くりるたいニ呼バレテキタ」
獣人軍人「どういうことなのだ?」
小妖精「魔王様ハくりるたいヲ招集サレタ。コノ街デ。今晩」
123 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/14(水) 23:59:29.84 ID:NoxjAlgP
土木師弟「まさか、こんな戦地で!?」
東の砦将「ははははっ。ようし! お前らっ!!」
義勇軍弓兵「はいっ?」
東の砦将「勝ち目が出てきたぞ。補給部隊を編制しろ、
隊伍を組んで人数確認。周辺の家だったらどこでも良い。
後でこっちがお詫びしてやるから分宿だ。
ねぐらを探して入り込め。交代で休憩だ。軍人っ」
獣人軍人「はっ!」
東の砦将「おそらく、ここの防衛軍には4千人からの俺たちの兵士が
いるはずだ。把握し切れちゃいないが、再編成しろ。
2時間でやれ。隊長格を片っ端から格上げして、
500ずつ八つに分けて掌握させておけ。
土木子弟さんよっ」
土木師弟「はっ」
東の砦将「悪いが、大通りに防衛柵を作るために作業を
指示してくれ。それから、人数を庁舎に回して食料を運ばせる。
全部出させるぞ。おそらく、雨は明け方にはやむ」
土木師弟「そうですか?」
東の砦将「おそらく、な。止んだ時点で炊き出しをする。
準備をしておいてくれ。女衆もあとでいかせるからな」
土木師弟「はい」
東の砦将「お前ら、よく聞いてくれ!
魔王が忽鄰塔を招集した。
あの思慮深い魔王が苦し紛れに援軍を呼び集めるわけがない。
絶対にある。
逆転の秘策がな。だから、今晩は耐えろ。
俺たちの後ろには、あの切れ者の魔王がついている!」
136 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:17:25.76 ID:SB4LPYUP
――開門都市、南大門付近、薄い布で遮られた天幕
ザァァァァー
光の銃兵「寒いな」
光の槍兵「ああ、冷たい雨だ」
ぼちゃ、ぼちゃ、ぼちゃっ
カノーネ兵「もうちょっと詰めてくれ」
光の銃兵「無理は言わないでくれ、この天幕はもう一杯なんだ」
光の槍兵「そうだ、他を当たってくれ」
カノーネ部隊長「詰めてやってくれないか。
どこも瓦礫ばかりで、雨をしのげる場所は殆ど無いんだ」
ザァァァァー
地方領主の私兵「ははははっ。酒を回せっ!」
斥候兵「くそっ」
光の銃兵「誰か食い物を持っていないか?」
光の槍兵「……」
カノーネ兵「……」
農奴槍兵「腹、減ったな」
農奴突撃兵「ああ」
光の銃兵「なぁ、これで終わるのかな」
光の槍兵「……」
カノーネ兵「聞いた話じゃ、これから魔界の都市を
いくつも攻めるんだと。
貴族一人に付き、一つづつの街を与えるために」
農奴槍兵「それじゃ、帰るなんて出来やしない」
農奴突撃兵「ああ……」
138 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:18:39.58 ID:SB4LPYUP
光の銃兵「いま、何時くらいだ」
光の槍兵「まだ日が暮れてから3時間ってとこだろう」
カノーネ部隊長「今夜は寝れないな」
カノーネ兵 こくり
農奴槍兵「なんでだ?」
斥候兵「寝ている間に魔族が攻めてきたら、
反撃も出来ずに死んじまう」
農奴槍兵「こんな真っ暗な中でかよ?」
光の銃兵「ここはあいつらの街なんだぞ。
あいつらが生まれ育った街なんだ。
暗闇だって自由に動けるに決まっているじゃないか。
俺だって自分の村ならそれくらい出来るさ」
光の槍兵「……」
カノーネ兵「……そうだよな」
農奴槍兵 こくり
農奴突撃兵「……ここはあいつらの住処だもんな」
地方領主の私兵「はぁっはっはっ! 今日は前祝いだ!」
斥候兵「実は、俺たちの後方には、南部連合の軍も来ているらしい」
光の銃兵「南部連合? 湖畔修道会の?」
光の槍兵「魔族との戦いの援軍に来てくれたのかっ」
斥候兵「いいや、違う。“他人の土地を力尽くで奪うのは
光の精霊の教えではない”――だってよ」
農奴槍兵「……」
農奴突撃兵「そうか……」
光の銃兵「いいさ。とにかく少しでも、身体を休めよう。
日が開けたら、好きだろうが嫌いだろうが、
殺しあいをしなきゃならないんだ」
144 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:25:00.28 ID:SB4LPYUP
――開門都市、中央庁舎、夜半
紋様の長「忽鄰塔、ですと!?」
火竜大公「そうだ」
紋様の長「なぜそのような。このような危急の時に」
火竜公女「このような危急の時だからでありまする」
紋様の長「公女。ではなぜそこに魔王どのがおられぬ」
青年商人「魔王殿は行かれましたよ」
火竜大公「……」ばふぅ
紋様の長「どこに!?」
鬼呼の姫巫女「魔王殿は、この青年に自らの代理を任せて、
外へと行ったのだ。供さえ連れずにな」
妖精女王「……魔王さま」
東の砦将「街はまだ危険な状態だって云うのに」
火竜公女「……仕方ありませぬ。止められぬものがあるのですから」
青年商人「忠誠を誓うのと、頼り切るのは自ずと意味が
違うはずでしょう。魔王殿は魔王殿の仕事をされるために
自らの役割を全うされに行ったのですよ。
実際問題、それがなんなのかは判りませんけれど、
あの二人は一緒にいないと性能が著しく落ちる気がしますし」
火竜大公「黒騎士殿か?」
火竜公女「さようでござりまする」
紋様の長「代理と云われたがあなたは何者なのだ?」
145 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:26:47.02 ID:SB4LPYUP
青年商人「取るに足りない商人です。縁あって魔王殿と
人間界では幾つかの商いを共にさせてもらっておりました」
火竜大公「魔王どの公認の、魔王とでもいうかな。
身元は、我ら竜族が引き受けよう。
我が後見を受けて居ると思っても良い」
紋様の長「そうでしたか」
鬼呼の姫巫女「この青年がどのような力を持っているかは判らぬが
この青年の言葉を受けた魔王の顔にみるみる生気が蘇り、
いくつもの策を授けた後に街へと飛び出したのは真実だ」
妖精女王「魔王様が心配です」
東の砦将「では魔王の策ってのは、なんなんだ?」
青年商人「それを説明する前に、魔王殿の望みを説明しましょう。
魔王殿の願い――狙いは講和です」
紋様の長「講和、か」
鬼呼の姫巫女「うむ」
東の砦将「……」
火竜公女「驚きませぬね」
火竜大公「皆もうすうすは判っておったよ。
あの魔王殿は、どこまでもどこまでも困難な道を歩まれるとな」
紋様の長「しかしこのような逆境にあって」
鬼呼の姫巫女 こくり
青年商人「さて、始めわたしはこの開門都市の放棄を
考えていました。この開門都市を聖鍵遠征軍に明け渡し、
もちろん糧食や財産を持ってですが、魔界奥地へと撤退する」
火竜大公「……」
147 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:29:22.17 ID:SB4LPYUP
青年商人「そのような策を、二、三の都市で繰り返せば
聖鍵遠征軍はそれぞれの都市を守るために、
防御部隊をさかざるを得ない。
人間界からの補給線は長く伸びきるでしょう。
そうして少人数に分散したところを討つ」
東の砦将「うむ」
青年商人「砦将、この戦術をいかが思いますか?」
東の砦将「そのようにすれば、被害は出ても勝利は
間違いなかっただろうな」
青年商人「わたしもそう思います。魔界は大きい。
撤退をしながら各個撃破をしてゆけば勝利は手に入る。
重ねて云いますが、この策は今からでも可能です。
そうすれば、勝利だけならば手に入る。
しかし、魔王殿はそれでは不満だという。
魔王殿が願うのは勝利よりももっと先にあるものだからです。
あの人は、基本的に欲張りなんですよ」
火竜大公「はっはっはっは」
紋様の長「確かに」
青年商人「魔王殿が願ったのは、聖鍵遠征軍との講和です。
この際、期間は問わない。短時間の休戦でも良い。
まずは同じテーブルに着き、話合う。
そうしなければ魔界と人間界の未来は
血塗られたものになってしまうでしょうからね。
もし先ほどの作戦を実行に移し、
この開門都市を聖鍵遠征軍に明け渡せば、
この都市は徹底した略奪に合うでしょう。
民は逃げ出せたとしても、犠牲者は奴隷にされ売られますし
あらゆる神殿からは装飾がはがされ、公園も噴水もアーチも
全てが破壊される。
そうなれば、この都市を大事に思う住民は聖鍵遠征軍を許さない。
また、撤退しながらの反抗作戦、焦土作戦は成功するでしょうが
それでは次の遠征軍にはどうするのか?
また同じ作戦で迎え撃つのか? そのような考えは通らない。
1回そうなってしまえば、魔界側から人間界へと攻め入り
禍根を断つという議論もわき起こるに違いない。
講和のチャンスは、この都市を奪わせてはいない、今が最後です」
148 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:31:05.27 ID:SB4LPYUP
火竜大公「しかし、我らが都合だけで出来ることではない」
紋様の長「そうです。我らが如何に望もうが、
彼らが認めなければ講和はならない。
そもそも人間がこの魔界へと侵攻してきたのではないですか」
鬼呼の姫巫女「しかり」
妖精女王「……」
東の砦将「まぁ、なんだかんだ云って
上の方と講和がなったとしても、もう戦いの疲労も激しいし、
前線は血に酔っている。この雨で少しは頭が冷えるだろうが」
火竜公女「やはり、難しいのでありまするか……」
青年商人「いえ、まずは問題を分解するべきです」
火竜大公「分解とは?」
青年商人「“解決できない理由ではなく解決策を考えろ”
これは我らが商人のことわざです。
まず第一に、講和に反対する勢力は魔族の中にはいるのですか?」
火竜大公「ふむ、それはいるだろう。
この戦で家族を失ったものとてすでにいるのだ」
紋様の長「はい」
鬼呼の姫巫女「そうだな。だが……。
こう言っては悪いが、今ならば、まだ間に合うともいえる。
先ほどの話にもあったが、戦には負けた。家族は失った。
しかも守るべきだった都市は奪われた、
では納得も行かないだろう。
都市を守りきってこそ、遺族も死に意義を見いだせるのだ」
妖精女王「そうですね……」
青年商人「もちろん我らから出来る限りの配慮はしましょう。
では、魔族側の表だった反対勢力はないと云うことで、
この件は一旦よいと云うことにしましょう。
――忽鄰塔で見てもらう、と云うこともありますしね。
次の問題は、人間側です」
火竜大公「それが最大の問題だ」
149 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:32:47.68 ID:SB4LPYUP
青年商人「魔王殿がわたしを代理に選ばれたのも、
それが理由の一つです」
鬼呼の姫巫女「とは?」
青年商人「わたしが人間で、人間の事情に明るいからです。
あそこに集まっている多くの人間も、一枚岩ではないのです。
あの中には四つの勢力がある。
四つの勢力は、それぞれの理由があって魔界へと攻めてきた。
全てを一緒に考えては、物事が解決しないでしょう。
一つ一つ個別に解きほぐす必要がある」
火竜大公「よっつ……?」
紋様の長「聞こう」
青年商人「まず第一に、貴族や国王達です。
彼らは欲に駆られてこの地にやってきたのです。
略奪をするため、新しい資源を得るため、奴隷を得るため。
そして何よりも、新しい領土を得るために、です」
火竜大公「ふむ」
紋様の長「欲深い亡者め」
鬼呼の姫巫女「とはいえ、それは理解できる。
例えば蒼魔族がそうであった。正邪を云えば切りはないが
欲望は我ら魔族だとて持たないわけではない。
それは戦乱の歴史が証明している」
青年商人「彼らを説得する方法はありません。
所詮は豺狼の輩なのですからね。言葉が通じるはずがない。
とはいえ、彼らは欲に駆られているゆえに、ある意味敏感です。
勝ち目がないと判れば、容易く尻尾を丸める。
彼らの兵力は、あの20万のうち、
おおよそ数万と云うところでしょう。
彼らだけでこの遠征を維持する力は到底ないのです。
ですから、彼らへの対応は後回しでよい。
他の全ての勢力が引き上げれば、彼らも引き上げざるを得ない」
155 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:45:05.92 ID:SB4LPYUP
火竜大公「続けてくれ」
青年商人「次には聖王国、王弟元帥です。
彼は通常の諸侯や王族とは違う。彼独自の思惑があるのでしょう。
その思惑とは、聖王国の権威を高め、
中央大陸の意思を統一するということ。
そのためには、魔界への攻略が必要だった」
鬼呼の姫巫女「なぜ?」
青年商人「人間界では、もはや褒美として与える土地が
ないからですよ。簡単に云えばね」
妖精女王「そんな理由で……」
東の砦将「くだらねぇ貴族の思惑だな」
青年商人「――それが私欲とは言いません。
実際問題、意志の統一がされれば人間同士の戦は減るのです。
魔界でたとえるならば、彼は魔王を目指しているのですよ。
野望は大きいが、同時に彼は利にも聡い実際的な人間です。
彼があそこに立っているのは、
あの場所がまだ彼に利をもたらすからでしょう。
彼の説得は並や大抵のことでは出来ない。
……まぁ、手札の一枚や二枚はありますがね。
魔王の言葉を借りるなら、後に禍根は残したくはない」
紋様の長「残りの二つは?」
青年商人「次は教会です。聖光教会は、地上で崇拝されている
光の精霊を崇める教会のうち最大のもので、この聖光教会が
今回の遠征の理論的な背景となっている。
教会は独自の兵力は殆ど持っていませんが、
今回の遠征軍はその全員が教会の信者だと云っても良いでしょう。
彼らは、この開門都市には
光の精霊の宝物『聖骸』があると主張している。
それを取り返すための、聖なる遠征なのだというのが
今回の戦争の大義名分なのです」
鬼呼の姫巫女「そのような物は存在しないのに」
青年商人「最後の一つは、今回の遠征軍の最大多数を占めている
ごく普通の民、農奴達や開拓民、志願兵達です」
157 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:47:32.59 ID:SB4LPYUP
東の砦将「そいつらも勢力に数えるのか?」
青年商人「20万人のうち、優に15万人はいるのですからね。
彼らを動かしているのは、死への恐怖、教会への恐怖。
そして魔族への恐怖……。つまり、色んな種類の絶望や恐怖です」
火竜大公「飢餓……か」
青年商人「ええ。それはとても大きい。
そして飢餓以外にも異質な存在に対する恐怖も
また、大きいのです
魔族と人間の間には殆ど交流らしき交流がなかった。
それが恐怖を育てたともいえます。それを教会や
貴族達が利用しているのですね」
火竜公女「その四者を攻略しなければならないのですね?」
青年商人「そうなります」
火竜大公「貴族や王達は、後回しにすると云っていたな?
では、残りは三者か。何か、案があるのか?」
青年商人「まず、教会ですが、これは魔王殿の仕事です」
鬼呼の姫巫女「は?」
青年商人「教会にももちろん勢力拡大などの欲求はあります。
この欲求は、つまりは経済行為ですね。
ですからそれに対抗する策はわたしでも取れる。
その部分については何らかの策を考えることも出来るでしょう。
しかし“魔族は光の精霊の子なのかどうか?”とか
“光の精霊の宝である聖骸は実在するのか?”などという
論争は、これは宗教的な問答であって、
わたしの専門とするところではありません。
魔王殿に任せます。
もし何らかの神殿の司祭なり神官長が
引き受けてくれるなら、それでもよい。
大事なのは、まず戦争を止めることです。
そのためには間隙が必要なのですが、どうなのですかね。
教会というのは、そこまで狂っているのですかね……」
160 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:53:19.32 ID:SB4LPYUP
鬼呼の姫巫女「狂う……?」
青年商人「この開門都市には光の精霊の宝物『聖骸』がある。
その言い分は、どこまでが本音……信仰で、どこまでが
利益を得るための本音なのか?
信じているのは、教会の中で何割いるのか?
いや、何割などと云う多い数ではなくて、
もしかして、ほんの一握りなのではないかとすら思います。
……そもそも、あの第一次遠征軍からしてがおかしいのですから。
しかし、当面必要なのは、間隙です。
……少なくとも、教会が一時的にひるめばいい。
教会が指導力を一時的に発揮できなくなればそれで十分です。
こちらが欲しいのは、交渉の可能性と時間的猶予ですからね。
そうして、一瞬のひるみが間隙を産めば
実際に交渉を成功させる材料は別にある」
妖精女王「しかし、ひるませるとは云っても」
火竜大公「それについては、よかろう」
紋様の長「しかしっ」
青年商人「どういう事です?」
火竜大公「任せろ、と出掛けたものがいるからさ」ぶふぅ
青年商人「やれやれ」
火竜大公「他にも考えなければいけないことは多いのだ」
鬼呼の姫巫女「となると、元帥とやらか」
青年商人「次は、王弟元帥。
あの聖鍵遠征軍の軍事的な背骨ですね。
彼を引かせる必要がある。
やっかいなのは、彼が単独で立っているのではないという事です。
彼はその軍事的才幹とカリスマ性により、
王族や民衆、そして教会からの信任を受けている。
逆にいうと柱を一本くらい外しても彼は倒れないし、
支えている柱の側も彼の保護を受けているから
なかなかに崩れない。
では、彼を取り除いてしまえばよいかというと
それもなかなかに考え物です。彼を取り除いてしまえば
あの遠征軍は確かに烏合の衆になるかも知れませんが
逆に言うと、収拾のつかない暴徒の群になる可能性も高い」
火竜大公「どうするのだ?」
162 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/15(木) 00:56:19.08 ID:SB4LPYUP
青年商人「手はあります」
東の砦将「あるのか!?」
火竜公女「これでも悪辣、陰険、非道、冷血漢の名を
欲しいままにするほどの男ゆえな」
青年商人「放っておいてください。
……魔王殿が長年暖められていた策もありますしね。
しかし、これがなかなかに難しく、二つ懸念がありますね」
妖精女王「二つの懸念とは?」
青年商人「教会をひるませる、と云う策です。
この策が早すぎても遅すぎてもいけない。
ひるむというのは、おそらく一時的なものでしょうからね。
精神的に立て直して、教会が王弟元帥の援護に回ると困ります。
援護そのものと云うよりも、教会と王弟元帥が一枚岩だと、
切り崩すのは難しい……。
タイミングは、説得とあっている必要がある。
ここまで来れば、運否天賦です。
もう一つは、聖王国および、王弟元帥の意地です」
東の砦将「意地か。判る気もするな」
火竜公女「殿方は、それが大きくてかないませぬ」
青年商人「こればかりは、損得とは別の話ですからね」
火竜大公「ふむ。……商人殿。
全てをならしてみて、この話の勝率はどれほどか?」
青年商人「ただこの場を生き残るだけならば、4割。
数週間の休戦ならば2割。
講和、平和条約となれば、これはもう奇跡の類かと」
紋様の長「それほどに細い道か」
鬼呼の姫巫女「何故に?」
青年商人「無知があるからです。人間側にも、魔族側にも。
わたし達は出会いました。出会って、日にちが浅すぎるのです。
互いの違いと共通点を知り合おうとせずに、
傷つけ合ってしまった。互いに互いが怖いのですよ。
損得で話をまとめたとしても、そこは変えようがない」