Part102
839 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 20:15:17.00 ID:quxpU4cP
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、南部連合軍、丘の上
……オォォン!!
うおおおっ!!
鉄腕王「なんだっ」
斥候兵「報告申し上げます! 前方遠征軍で大きな動きがありっ」
鉄腕王「見れば判るっ! 詳細をっ」
斥候兵「それは現時点ではっ」
軍人子弟「何か動きがござったな。
こちらではない、とすると……。
開門都市防備軍との戦いに何らかの動きが」
鉄国少尉「防壁が破られたのでしょうか」
将官「その可能性はあるな」
冬寂王「いや、前方の陣ぞなえにも変化が」
鉄腕王「なんだと?」
軍人子弟「これは、突撃陣形……」
鉄国少尉「王弟元帥は持久戦を望んでいたのではありませんか?」
女騎士「王弟元帥の望みとは別に、そうせざるを得ないのだろう。
おそらく、防壁の一部が崩れたのだ。
前方の遠征軍が市街への侵入を開始した。
そうなれば、我らは、撤退するか、
突撃を仕掛けて援軍に向かうかの二択を強いられる。
あれは、意思表示だ。
近寄るならば、食らいつき、蹂躙すると云うな」
冬寂王「うむ……」
鉄腕王「仕方あるまい。どだいここまで来て
一戦も交えぬと云うことに無理があったのだ」
840 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 20:16:28.93 ID:quxpU4cP
軍人子弟「鋼盾の準備をさせるでござる」
鉄国少尉「了解しました。……馬車に装甲板を取り付けよ!」
羽妖精侍女「魔王サマ……」
女騎士「何かが、おかしい……」
軍人子弟「どうしたでござるか?」
女騎士「いや、おかしい。違和感がある。ここまで露骨な。
……余裕のない動きをする司令官か? 何が起きている?」
冬寂王「何が気になるのだ?」
女騎士「わかりませんが……。
遠征軍の陣地で、何か大規模な問題が発生していると見えます。
突破のチャンスなのか、罠なのか……」
冬寂王「チャンスだ」
鉄腕王「気にしたって仕方がねぇ」
鉄国少尉「装甲馬車、第一波準備良しっ!」
将官「――それは?」
軍人子弟「堡塁と車両の両方を兼ね備えた策でござるよ。
樫で作られた丈夫な馬車を鉄の装甲板で強化したものでござる。
8輪を持ち、多少の砲撃でも移動可能なうえに、
その気になれば人力で押してゆくことも出来る。
この車両20台を弾よけとして押し上げてゆくでござる」
女騎士「ふっ。考えたじゃないか」
軍人子弟「誰一人、死なせたくないでござるからね。
しかし、それも、騎士師匠が約束を守ってくれていれば、
の話でござる」
845 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 20:22:30.40 ID:quxpU4cP
女騎士「任せて欲しいな。
――ライフル部隊! 多少狭いが馬車に乗り込めっ!
射撃準備をして火薬も持ち込めよっ!」
将官「それは……?」
軍人子弟「あの部隊は、狙撃用の銃兵部隊でござる。
数は少ないでござるが騎士師匠が鍛えた勇士でござるね。
その射程距離と攻撃力を生かすためには、
安心して銃撃が出来る砲座が必要でござる。
あの馬車は重装甲でござるが、
銃眼とよばれる小さな窓がついているでござる。
いわば、移動用の小さな砦といえるでござろう。
防御に安心が出来るからこそ、
狙撃などと云うことが可能になるのでござる」
鉄国少尉「こちらの兵を守る砦になりつつ、武器にもなるのです」
女騎士「数が少ない銃兵を生かして、敵の力を発揮させない
方策というわけだ。この程度の事はさせてもらわないと」
将官「そうかっ。うむ!」
軍人子弟「そして歩兵部隊には、下部の尖った鉄の盾を運ばせる。
この杭のように尖った部分は、地面にさして即席の壁を
作り出すことが出来るでござる」
女騎士「この2つで、こちらの陣地は柔軟に運用する」
冬寂王「……やるな」
鉄腕王「よっし! 鉄腕国、遠征部隊っ!
および南部連合、連合軍!!
眼前の聖鍵遠征軍後方防御部隊との間に戦端を開くっ
命を無駄にするなっ! 敵はマスケットだ。
鉄壁と装甲馬車を弾よけにしろ! 敵に突撃戦力はないか
あってもごく少数だ! 第一射を撃たせろっ!」
軍人子弟「皆の味方を信じるでござる!
この盾も車両も、鉄の国の鉄工ギルドが
総力を挙げて研究したもの!
マスケットの弾は20歩離れた場所から撃っても
貫くことは出来ないでござる! 工兵は縦線塹壕の準備!
急ぐでござるっ!!」
853 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 20:42:44.57 ID:quxpU4cP
――聖鍵遠征軍、本陣上空
ひゅばぁぁぁぁああっ!!
勇者「つぐみっ!」
夢魔鶫「御身の側に」
勇者「魔王は!?」
夢魔鶫「判りません。しかし、防壁の一部が破られ、
聖鍵遠征軍は開門都市内部に侵入した模様」
勇者「こんな事になったら約束も糞も関係あるかぁっ!」
――転移は禁止。上級呪文も禁止。勇者呪文もダメ。
とにかく、勇者としての力を使ってはいけない。
それを狙っている相手がいる。
最後のその時まで、勇者は力を使ってはダメ。
そうでないと……止められる人がいなくなる。
勇者「知ったことかっ。招嵐っ!!」
夢魔鶫「これは……」
勇者「気象制御だ。あいにくこれだけの広域となると、
ごっそり魔力使っちまうが。そんなんどうでもいいっ」
夢魔鶫「ですが、御身が」
勇者「温度低下系は苦手なんだ、離れてろ」
夢魔鶫「はい……」
ぱたぱたぱたぱたっ
(……大気中の水分を凝固させる。
中心だけ冷やすと、雪や霙になってしまうから、
全体を攪拌してゆく。
暖かい空気の流れから水を絞り出すイメージが重要)
勇者「雷鳴よ、大気を切り裂き、黒雲を呼べっ。
全てを包む豪雨をもって結界とせよっ。“招嵐万雨呪”っ!」
857 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 20:50:57.31 ID:quxpU4cP
――開門都市近郊、聖鍵遠征軍中枢
地方領主「行けっ! 突撃だぁ!」
小国国王「防壁は崩れたのだ、数で押せ! 攻めこめぇ!!」
光の銃兵「うわぁぁぁ!! 精霊は求めたもうっ!」
光の槍兵「勝った! 勝ったんだ!! 食い物をよこせぇ!!」
カノーネ兵「撃てぇ! 敵は弱っているぞ。撃ちつくせっ!!」
小国国王「団長、構えて乗り遅れまいぞっ!」
小国騎士団長「ははっ!」
小国国王「開門都市が陥落したとなれば、
その財貨はいかほどになろうか?
こたびの遠征には多大な費用がかかっているのだ。
城にいち早く乗り込み、全ての宝物を略奪せよっ」
ドォオォォン!! ドォォオン!!
地方領主「進め! 進めぇ! 今回の遠征第一の功は我らのものだ!
王弟元帥閣下と大主教猊下に覚えて頂くためにも、農奴どもよ!
死にものぐるいで進め!
死体なぞ放っておけ、そいつらは犬の餌にもなりはせぬ!
進んで進んで、火薬の尽きるまで魔族どもを撃ち殺すのだっ!!」
ドォオォォン!! ドォォオン!!
ゴォォォォン! ズドォォーン!!
農奴槍兵「もう、ダメだ……。俺は我慢できないっ」
農奴突撃兵「なっ。どうするつもりなんだよ?」
農奴槍兵「このどさくさに紛れて、領主様の糧食を盗むんだ」
農奴突撃兵「えっ!?」
農奴歩兵 ごくり
農奴槍兵「領主様だけは毎日肉やミルクやパンをどっさり
食っている。俺たちから巻き上げた食料でだ。
王弟元帥閣下が奪ってきてくれた食料を奴らは俺たちから
取り上げて、これ見よがしに浪費しているんだ」
859 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 20:52:48.98 ID:quxpU4cP
農奴突撃兵「そ、それは、反乱っじゃ……」ごくり
農奴歩兵「おい、い、いいのかっ」
農奴槍兵「反乱なんかじゃない。
だってこのままじゃ、俺らは突っ込まされて、
結局は戦いで死ぬだけじゃないか。
死ぬくらいなら、最後にパンを食って死にたい……」
農奴突撃兵「……」
ドォオォォン!! ドォォオン!!
農奴槍兵「それに、いま領主の騎馬部隊は
開門都市に突撃をしていて、食料をたっぷり詰め込んだ
天幕も馬車も、見張りを数人置いているだけだ。
これは反乱なんかじゃない。
褒美を前払いしてもらいたいだけなんだ」
農奴突撃兵「う、うん」
ドォオォォン!! ドォォオン!!
農奴歩兵「そうだ。食料を奪って配ろうじゃないか」
農奴突撃兵「えっ!?」
農奴歩兵「だって、開門都市はもう陥落するんだろう?
そうすれば、食料だってどっさり手に入るはずだ。
だとすれば、俺たち兵士が少しくらい食ったって
問題ないじゃないか。
どうせ俺たちだけじゃない。みんなだって腹が減っているんだ」
農奴槍兵「そうだなっ。精霊様だってお許しになるはずだ」
農奴突撃兵「奪って、食料をばらまきながら軍の反対側に抜けよう」
農奴歩兵「そうだな。それなら他の奴らにも、声を掛けないと」
866 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 21:25:08.46 ID:quxpU4cP
――開門都市近郊、聖鍵遠征軍本陣内、豪奢な天幕
ちゅぷ、くちゃぁ。ころり、ころり。
大主教「……動いた」
従軍大司祭「は?」
大主教「至急、司祭を集めよ。全てのだ。
かねてから用意させていた祈祷を行なわせる」
従軍大司祭「対黒騎士の、ですか?」
大主教「急がせよ」
従軍大司祭「は、はいっ! ただいま!」
大主教「司祭よ」
見習い司祭「はっ、はいっ!」
大主教「天幕の布を二重に。雨が降る」
見習い司祭「え? 今日も良い天気ですけれど」
大主教「いいや、降るのだ」
ちゅぷ、くちゃぁ。
見習い司祭「は、はいっ。そ、そ、それは?」 がくがくがく
大主教「精霊の光を見せてくれる、わしの眼だ。
口蓋は脳と通じる髄液を出すという。
舌の上でころがす度に、
我が心は清澄なる恩恵の光で満たされるだよ。
くっくっくっ。ふぅっふっふっふ」
見習い司祭「す、す、すっ。すみませんっ」
大主教「やはり、これだけの“死”に我慢しきれずに
誘われいでたか。……黒騎士よ。
魔王の首で門を開けることになるかと思ったが、
もはやどちらでも構わぬ。
いや、“勇者”であればさらに都合がよい。
その力も我が使いこなして見せよう。
必ずや捕縛祈祷で捉え……その力の全てを奪い取るのだ」
871 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 21:31:35.37 ID:quxpU4cP
――聖鍵遠征軍、本陣上空
ゴォォォオオオオ!!
勇者「気圧低下……。こっから冷却して……っ」
ゴォォォオオオオ!!
勇者「招雨っ!! 来たれぇ!!」
ザアァァァァアア!!!
勇者「よっしゃ。――んじゃま、今度は落雷でもサービスすっか」
勇者(……当てたくはないな。適当な鐘楼とか、地面とかにでも)
ビギィン!!
勇者「なっ。んだ……これっ」
ギリギリギリっ
勇者「力が……。吸われ……っ」
夢魔鶫「主上っ!! 主上っ!」
勇者「逃げろ、つぐみ……」
夢魔鶫「主上っ。このままでは落下してしまいますっ。
飛行を、魔力をっ!! このままでは、嵐に巻き込まれてっ」
ギリギリギリっ
勇者「……だめ、っぽ。……うっわぁ、二回目。
かっこわる……。痛いなんて……もんじゃ……」
夢魔鶫「主上〜っ!!」
勇者「……魔王。……だって……こんな……」
874 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 21:35:54.77 ID:quxpU4cP
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、後方戦線
軍人子弟「急げ! まだ馬が使えるっ」
ザッザッザッ
鉄国少尉「まだマスケットは届かないぞ!
落ち着いて作業と進軍を進めろっ!」
女騎士「マスケットの射程ぎりぎりまで装甲馬車を進めよう」
軍人子弟「了解したでござる」
鉄国少尉「馬車と馬車の間は五十歩の間隔を守れ。
前線に到着したら鉄盾の配置を忘れるな!
命を守る盾だぞっ」
ザッザッザッ
将官「医療部隊の配置完了」
女騎士「……」
鉄腕王「どうしたい? 騎士将軍」
軍人子弟「まだなにか?」
女騎士「いや。なんでもない。ただ……」
軍人子弟「?」
女騎士「胸の奥がざわざわするんだ」
ゴゥゥン!!
878 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 21:40:51.64 ID:quxpU4cP
伝令兵「前線接触!! 遠征軍のマスケット銃撃が始まりました!
しかしまだ遠距離なことと我がほうの装備もあり、実質被害無し」
軍人子弟「威嚇でござる! 進め!
いまのうちに有利な位置を取るのでござる!」
冬寂王「はじまるな」
鉄腕王「ああ。大丈夫だ。あの男は、人一倍小心者だ。
だから勝つためならこすっからいことでもやる」
冬寂王「ずいぶん褒めるではないか」
鉄腕王「女に弱いところ位だな。ダメなのは」
冬寂王「はっはっはっ。貴君と一緒だな」
ゴォォン! ドオッォン!
軍人子弟「よしっ。車止めにて固定っ! 合図を」
女騎士「……」
軍人子弟「宜しいですか、騎士師匠」
女騎士「ん。ああ。すまない」
軍人子弟「……師匠っ」
女騎士「なんだ?」
軍人子弟「采配をよこすでござるよ」
女騎士「え?」
軍人子弟「……大丈夫でござる。ここは任されたでござる」
女騎士「子弟……」
軍人子弟「今は駆け出す時でござるよ。
心配で心配でたまらぬのでござろう?
今ならば騎士団を都市の反対側に迂回させることも
不可能ではござらん。ここはいいでござる。騎士師匠」
女騎士 こくり
軍人子弟「ご武運をっ!」びしっ
女騎士「感謝するぞ! 我が弟子よっ!」ばっ
「お前は、まだまだだっ。終わったらまたしごいてやるから
死んだりしては駄目だからなっ」
軍人子弟「それはお互い様でござるよ。
……街を人々を頼むでござるっ。そして再びっ」
892 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 22:16:29.57 ID:quxpU4cP
――5年前、魔界の小さな村
ガチャリ
勇者「……」
きしり、きしり……
かちゃり
勇者 そぉっ
執事「……こんな夜更けに、どちらに夜這いですかな〜」
勇者「ちょ。爺さん、なんてことをっ」びしっ
執事「もがっ。もがっ。こ、呼吸がっ。げふっげふっ」
勇者「あ、ごめん」
執事「危うく殺されてしまうところでしたぞっ!」
勇者「良いじゃないか、もう十分生きただろう?」
執事「さっぱりした顔をして鬼も顔負けな恫喝台詞をっ!?」
勇者「あ、いや。すまん。悪気はないんだ」
執事「一般会話へたくそですからね。勇者は。童貞ですから」
勇者「童貞で悪いか」
執事「いえいえ、にょっほっほ。……さてはぱふぱふに?
こんな小さな村にはぱふぱふ酒場もありませんぞ」
勇者「えっと、ちょっと、星を見に」
執事「ほしぃぃぃ?」じとー
勇者「いや、すんません。嘘つきました」
執事「判れば宜しい。さ、庭にでも出ましょうか」
893 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 22:25:32.97 ID:quxpU4cP
執事「……良い風ですな。確かに星も綺麗だ」
勇者「そうだな。綺麗だ……」
そよそよそよ……
勇者「……」
執事「……」
勇者「んじゃ」
執事「……」
勇者「えっと、さ」
執事「ええ」
勇者「行くよ」しゅたっ
執事「はい」
勇者「止めないのか」
執事「止めて良いのか、考えているのです」
勇者「……」
執事「わたし達は、あなたに科せられた枷のようなものですから。
あなたにとっては、やはり重荷なのか、
窮屈なのかとも考えます。
そもそも……この際ですから聞いてしまいますが
あなたが世界を救う理由は、無いような気さえする」
勇者「……」
執事「聞いて良ければ。……どうしてですか?」
勇者「他にやること無いからだよ」
執事「……」
勇者「だってそうじゃん。魔法使えるし、剣技も使えるけれどさ。
こんな化け物、学院でも騎士団でも雇ってくれないよ。
どこに行っても歓迎されるけれど、
ずっと住んでくれなんて云う村も町もなかっただろう?
“有り難いには有り難いけれど、
ずーっといられても困っちゃうのよね〜”とか。
勇者って、そういう感じじゃん?」
897 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 22:38:38.56 ID:quxpU4cP
勇者「おれ、頭悪いから、よく分かんないだけどさ。
――多分、おれ人間じゃないんだ。
だって人間は俺に優しくはないもの。
でも人間じゃなかったらなんだろうって考えると、
俺ってやっぱり勇者なんだよね。
しかたない。
人間に生まれたこと無いから、なんで嫌われるかは
よく判らないんだけどさ」
執事「……」
勇者「弱いってさ。弱くて一杯いるってさ。
すげー暴力的だよ。
弱い奴らが不幸になると、
それが真実かどうかなんてお構いなしに
近場にいる強いやつを一斉に指さして、お前が悪だって言うんだ。
そんでもってそれに抗議をすると、
“ほら、やっぱり私たちを責めるんだ! こいつは悪だ!”
って大喜びしてさ。そう言うのってすごい暴力的だ。
そういう意味では、俺はたしかに、救う理由なんて無いけどさ」
執事「……はい」
勇者「でもさー、やっぱりさー」
執事「……」
勇者「全部を嫌いになるのは、無理」 にかっ
執事「……」
勇者「だって、みんな健気なんだもん。優しいし、温かいしさ。
ただ、そういうのが、俺に向かってないってだけでさ。
基本的に人間は良いやつばっかりだ。
じいちゃんが、最後には帳尻があったって言ってたけれど
幸せだけなんてないんだよな。
たぶん、帳尻が合うだけ。
全てはモザイク模様で、白と黒とのコントラスト。
白だけとか、黒だけとか、そういう手に入れ方は出来ないんだな。
たぶん“全部もらう”か“全部要らない”かしか
選べないセットメニューなんだよ。
……だから、俺がどんなに辛くても、
誰かにとっては大事なこの世界は、壊しちゃいけない」
898 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 22:41:16.74 ID:quxpU4cP
執事「勇者……」
勇者「爺さんとか、あの二人と一緒にいるとさぁ」
執事「……」
勇者「なんか、人間みたいな気分で、楽しいわけだ」てへっ
執事「……」
勇者「だから倒してきてやるよ。魔王を。
それくらいの幸せは、受け取った」
執事「……」
勇者「それにさ。やっぱ、もてたい訳よ」
執事「そう、ですか……」
勇者「童貞だから」
執事「童貞ですからね」
勇者「期待しちゃう訳よ」
執事「そりゃしますな。期待こそ青春ですから」
勇者「だから」
執事「?」
勇者「そのうち、なんつーか。ほらよ、なんつーかな!」
執事「はい」
勇者「“わたしのものになってくれ”なんて云ってくれる人が
……俺にだって現われるかも知れないじゃん?
魔物殺すのと都市壊すのくらいしかできないけどさ。
俺は人間じゃないから、仲間はずれだけどさ。
そんなのは、俺のセットメニューに
入ってないなんて判ってるんだけれどさ。
そう言うこと云ってもらえるのは、人間なんだろうなって。
――でも、
そういうの、期待しちゃうんだよ。馬鹿だから」