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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part101


714 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 00:56:36.04 ID:quxpU4cP
パチパチ、メラメラ。
女騎士「わたしは、自信がないんだ。
 わたしは湖畔修道会で騎士になり、
 剣技も祈祷も人よりもずっと早く身につけてきた。
 みんなはわたしにとても良くしてくれた。
 天才だともてはやされもしたよ。
 勇者の再来、いや、真実の勇者だとも云われた。
 自分でも思っていた。
 わたしは出来るじゃないかと。
 相当にすごい力なんじゃないかって」
執事「……」
女騎士「でも、勇者に出会ってそんな考えは吹き飛んだ。
 わたしがどんなに早く動いても、どんなに強く剣を振っても
 勇者はその先にいっているんだ。
 わたしが高速詠唱をする間に、勇者は無詠唱攻撃呪文を
 2つは放っている……。
 勇者の戦闘センスの鋭さはわたしのそれよりも高すぎて、
 時には勇者がどんな連携を望んでいるか判らなくなる。
 勇者の見ている世界が判らないんだ。
 わたしは勇者に追いつきたくて必死だけど、
 勇者はいつでも寂しそうで、わたしに優しくて
 わたしは自分の無力さに押しつぶされそうになる」
執事「そうですね……」
女魔法使い「……かんけーない」
女騎士「え?」
女魔法使い「……それでも、一緒にいればいい。それだけ。簡単」
女騎士「……」
女魔法使い「……最後まで一緒にいれば、勝ち。
 今は判らなくても、いずれ判れば、勝ち」
女騎士「そう、かな」
女魔法使い「……勝つ気がないなら酒場に帰ればいい」
女騎士「そんなことはない」むっ

715 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 00:57:42.47 ID:quxpU4cP
女騎士「最後までたっているのは得意だ。
 重装甲に身を包んだ教会の騎士は全兵科のうち
 もっとも装甲の厚い、鉄壁の防御力を誇るのだからな」
執事「ぜっぺ」
ひゅばっ!!
女騎士「なにか?」
執事「いえ……。おほん、おほん」
女騎士「こう言っては悪いが、ただ立っているだけで、
 あっちへふらふら、こっちへふらふらしているような
 寝不足魔道士はわたしのような克己心や自制心は
 望むべくも無いだろう」えへんっ
女魔法使い「……胸も、態度ほど大きくなればいいのに」
女騎士 かちん
執事「ま、ま! ここはひとつっ」
女騎士「ふっ。そうだな。光の神のしもべは
 くだらないことは気に掛けないのだ」
女魔法使い「……ゆずらない」
女騎士「ふんっ。それはこっちの台詞だ」
執事「これに気が付かないのですから信じられません。
 それこそが勇者の資質なのかと疑うくらいですよ」ぼそぼそ
女魔法使い「……寝る」もそもそ
女騎士「何をしているんだ!? 勇者の次の見張りはわたしだ。
 そこはわたしの場所だぞ」
女魔法使い「……けち」
執事「先が思いやられますなぁ」

732 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 01:24:49.30 ID:quxpU4cP
――開門都市、庁舎、執務室
鬼呼の姫巫女「――殿、――殿っ!!」
鬼呼執政「……どのっ」
鬼呼の姫巫女「魔王殿っ!!」
魔王「っ。すまない。続けてくれ」
鬼呼の姫巫女「……限界と見えるぞ。魔王殿。
 睡眠し、食事を取らなければ」
鬼呼執政「お顔の色が真っ青ですよ」
魔王「元から戸外生活は苦手の屋内派なのだ」
鬼呼の姫巫女「そんな冗談を言っている場合ではない」
鬼呼執政「ええ。このまま魔王殿がお倒れになられては、
 それだけでこの開門都市は陥落してしまいます」
      ……ォォン!
魔王「……眠れなくてな」
鬼呼の姫巫女「あの大砲か。確かに恐ろしげな音だな」
庁舎職員「無理もありません」
魔王「……会いたい人に会えない。それだけだ」
鬼呼の姫巫女「――」
魔王「いや、忘れてくれ」
鬼呼の姫巫女「それは……」
こんこんっ
魔王「誰だろう?」
庁舎職員「見て参ります」

733 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 01:26:48.84 ID:quxpU4cP
かちゃり
火竜公女「魔王どのっ。ただいま帰参いたしました」
魔王「公女。わたしは、あなたには落ちて頂こうと」
鬼呼の姫巫女「ふふふっ。こうなると思っていた。
 公女、良く帰ってきてくれたな!」
青年商人「ご無沙汰していますね」
魔王「商人殿ではないかっ」 がたりっ
鬼呼の姫巫女「この方は?」
魔王「ああ、この方は」
火竜公女「人間界有数の商人の組織『同盟』の幹部の一人にして
 人界の魔王とよばれるかた。商人殿でありまする」
魔王「え?」
青年商人「魔王とか勘弁してください」
火竜公女「妾の良人と紹介すればお気が済むのかや?」
青年商人「……この件が終わったら苛烈な報復を決意していますからね」
火竜公女「どのような仕置きでも受けましょう」
魔王「どういう事なのだ?」
火竜公女「魔王殿に頼まれていた、援軍でございまする」
青年商人「それにしても、しょぼくれていますね。
 学士殿。
 あの日のわたしに詰め寄ってきたあなたからは
 想像もつかないほどだ。
 手元にあれば、水でも掛けるところです」

736 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 01:31:16.08 ID:quxpU4cP
魔王「商人殿。それはないであろう。
 いまや、開門都市の危急の際なのだ。
 そもそも身なりに構ったことなど無いのだ、わたしは」
青年商人「そういう話ではありませんよ。
 あまりにも狼狽しすぎていて、みっともないと云ったんです」
鬼呼執政「み、みっとも!?」
魔王「っ!」
青年商人「怒りましたか? 早く回転数を上げてください」
火竜公女「何を、商人殿……?」
青年商人「あなたが魔王をさぼっているから、
 わたしのところにまで案件が持ち込まれているんですよ。
 いい加減に本気を出して仕事をしてください」
魔王「している。しているではないかっ」
青年商人「出来ていません」
火竜公女「っ!?」
青年商人「そもそも魔王の仕事はなんですか?
 都市防備の指揮ですか? 前線司令ですか?
 ただでさえあなたはそういう資質がないというのに。
 人がいないというのならばともかく、
 いながら使っていないだけではないですか」
魔王「……っ」
青年商人「あなたの持ち味は、無限にも思えるほど
 遠くを見渡す視界の広さと、味方も敵もないほどに
 透徹したバランス感覚。その冷たい論理とはうらはらに
 呆れるくらいにお人好しで理想家で、本当は全員を助けたいと
 死にものぐるいで願っている決死さだったのじゃありませんか?
  あなたは二番目に強力な絆は損得勘定だと云った。
 それは一番が神聖だったからではないのですか?
 正直、少しがっかりしました。
 もっと回転をあげて思考速度を早めてください。
  大事な臣下を失って、その痛みにすくんでいるのは判ります。
 だからといって、あなたの歩いている道から
 犠牲者がいなくなるなんて事はない。
 その数を数えているくらいなら、
 一人でも減らすために仕事を始める頃合いじゃないんですか?
  あなたのやるべき事は、目先の軍を防ぐことではない」

738 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 01:34:18.87 ID:quxpU4cP
魔王「……」
青年商人「違いますか?」
魔王「済まなかった。その通りだ」
火竜公女「魔王どの……」
鬼呼執政「魔王さまっ!?」
青年商人「宜しい」
魔王「二分時間をくれ」
青年商人「……」 火竜公女「……」
鬼呼の姫巫女「……」
魔王「――優れた問いか。
 忘れていた。最初の問いは常に
 “いま問えばよいのは何か?”だ」
青年商人「そうです」
魔王「その答えにして次の問いは“わたしはこの戦役の
 着地点をどのような位置にしたいのか?”だな」
青年商人「はい」
魔王「だとすれば、答えは決まっている。
 ……人間にも魔族にもこれ以上の被害を出させないように、
 双方に矛を収めさせる。そして平和条約だ。
 もしこの都市が落ちれば魔族は人間を恨む。
 人間は魔界をただの新しい植民地と見なすだろう。
 それは千年にわたる争いの幕開けだ。
 この開門都市こそはその瀬戸際。
 血に染まった歴史を見ぬためにこの都市を守らなければならない」
青年商人「しかし守るだけでは意味がない」
魔王「そうだ。守りきりさえすればば、
 聖鍵遠征軍が軍を引くというのは希望的観測に過ぎない。
 なんとしてでも、あの軍に我らが希望を理解させ、
 交渉のテーブルにつかせる必要がある」

739 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 01:36:06.72 ID:quxpU4cP
青年商人「承りました」
火竜公女 こくり
魔王「は?」
青年商人「このことを話すのは非常に気が重く、
 わたしとしても痛恨の出来事であり、汗顔悔悟の至りなのですが
 とある権謀術柵に巻き込まれた結果、
 現在わたしは魔王を名乗るに至っているのです」
火竜公女「身から出た錆でありまする」
魔王「それは……」
青年商人「ええ、理解しなくても構いません。
 むしろあまり深い理解はわたしを傷つけると察してください。
 ともあれ、そのような事態で、
 わたしにもこの都市を救う義務があります。
 ですから、もちろん救う、などというお約束は出来ませんが
 それでも、この場は――お任せあれ」
魔王「……」
青年商人「この執務室は私と公女が借り受けます。
 ふむ……」
 ぺらっ、ぺらっ
魔王「それらの報告は……」
青年商人「このような報告、庁舎の職員と砦将に
 任せればいいのです。魔王どのには、魔王どのの仕事があるはず」
火竜公女「妾も覚悟を決めました。
 この都市を救うために全てを賭けて戦う覚悟を」

740 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 01:38:18.91 ID:quxpU4cP
魔王「しかし、わたしがここでっ」
青年商人「足手まといだと云っているのです」
火竜公女 にこり
魔王「あしで、まとい?」
青年商人「はい。勇者のいない魔王は、足手まといです」
火竜公女「ゆえに妾達が、ここは支えまする」
魔王「――」
青年商人「探しに行ってください。見ていられません」
魔王「しかし。わたしたちは……。
 わたしと勇者は、いずれあの祭壇の前で……。
 それが、契約で……。
 だからわたしと勇者は、もう。
 もう……」
バタンっ!!
伝令兵「魔王様っ!!!」
火竜公女「何事ですかっ! 云いなさいっ!」
伝令兵「ただいま、防壁、南部大門が突破されましたっ!!」
魔王「なぜだっ!? 南側の壁は確かに亀裂が入っていたが、
 それだとしても、一挙に大門まで粉砕されたというのか?
 いったい何があったというのだ!?」
伝令兵「聖鍵遠征軍は、想像も出来ない行為をっ。
 あ、あいつらは、その……。人間を……。人間が……」
青年商人「落ち着いてください」
伝令兵「人間が、爆発したんですっ。
 何十人かのいつもの狂信者が槍で突撃をしてきたかと思ったら
 その身体ごと、巨大な爆発がっ。
 砦将はすぐさま防御軍を結集され南通り一帯は
 市街戦になっています! なにとぞご避難を、魔王様っ!」

806 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 18:54:05.04 ID:quxpU4cP
――開門都市、南大通り、六番街
東の砦将「隊伍を組めっ! 長槍兵! 戦列を崩すなっ」
竜族軍曹「左右の商店を崩せっ!」
人間衛兵「しかしっ」
東の砦将「いまは防ぎきるのだ! そうでなくても略奪にあう。
 くずせ! バリケードを作れ!!」
竜族軍曹「そうだっ! 弓兵配置は終わったかっ!?」
   耳長弓兵娘「配置完了しましたっ!」
東の砦将「矢の尽きるまで撃ち込めっ! 地の利はこちらにある。
 街路を封鎖して、敵をここで足止めするんだっ!
 全ての通用門封鎖っ! 防備部隊を配置っ!」
ゴウゥゥン!! ゴォォン!
光の銃兵「左右へ散開しながら前進っ!!」
光の突撃兵「精霊は求めたもうっ!」
  ゴウゥゥン!! ゴォォン!
東の砦将(展開がにぶい……?)
竜族軍曹「どうやら遠征軍も攻めあぐねている様子」
東の砦将「指揮がなっちゃいないな。どういうことだ」
竜族軍曹「マスケットの砲声も少ないですな」
東の砦将「……。押し戻せ! 何はともあれ、
 連中はまだ統制が取れていないようだっ!
 いまならまだ押し返せる。――短弓で左右の家の上から
 応戦しろ! 小刻みに動けっ」

807 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 18:56:08.50 ID:quxpU4cP
竜族軍曹「足を止めるな!! 槍兵中隊、前進っ!」
ザッザッザッ!
人間槍兵「我らに自由をっ!」
蒼魔槍兵「我が地に平安をっ!」
キィン! ガキィン!!
隻腕の獣人男「うぉぉ!!! どけどけぇぇ!!
 命が惜しければ逃げるがいいや。ここは一歩も通さねぇ!
 のど笛噛みちぎってでもお前達を進めさせはしないぞ」
中年の義勇兵「押せ! 押せ!」
ゴウゥゥン!! ゴォォン!
  ゴウゥゥン!! ゴォォン!
東の砦将「八番切り込み隊! 紫神殿通りを迂回して、
 南大通りの左翼から敵に突っ込め!! 射手は援護を!
 獣牙族の動ける範囲を増やせ、屋根の上の自由を奪われるな」
竜族軍曹「動け! 足を止めるな!!
 敵は多いのだ、こちらが遊兵をつくると押し込まれるぞっ」
東の砦将「おい、副官。門の外の状――ちっ!」
人間衛兵「は? 砦将」
東の砦将「なんでもねぇ。不便を実感していただけだ。
 防壁はどうなっている?」
竜族軍曹「南門近くの防御用司令部に遠征軍が
 群がっているようだ。あそこには義勇兵しか居ない、まずいぞっ」
東の砦将「俺が行くっ。鬼呼抜刀隊、ついてこいっ!!」

811 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 19:24:28.31 ID:quxpU4cP
――魔界、白詰草の草原、開門都市、西方2里
タカタ、タカタ、タカタ、タカタ
メイド姉「お気を悪くされてはいませんか?」
勇者「なにが?」
メイド姉「いえ、その。わたしが勇者を名乗るだなんて」
勇者「ああ。びっくりしたけどさ。面白かった」
メイド姉「はい。あの……」
勇者「……」
メイド姉「勇者様が、1つじゃなくても良いんだって」
勇者「え?」
メイド姉「昔、仰ったじゃありませんか。
 教会は1つじゃなくても良い。って。
 そして湖畔修道会が冬の国では正式な教会として認められて」
勇者「うん」
メイド姉「だから、思ったんです。
 勇者も、一人でなくても良いんじゃないかって。
 ……すみません。なんだか、何を云えばいいかよく判らなくて」
勇者「勇者の力が欲しかったの?」
メイド姉「いいえ。……むしろ勇者の苦しみを」
勇者「?」
メイド姉「わたしにも背負える荷物があるのではないかと。
 わたしが流せる血があるのではないかと、そう思いました。
 わたし達は、自らの負債を勇者様や当主様に
 押しつけているのではないかって。
 目には見えないから、実感できないから
 罪の意識もなく罪を重ねているのではないかと」
勇者「……」

812 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 19:26:41.78 ID:quxpU4cP
タカタ、タカタ、タカタ、タカタ
メイド姉「当主様も勇者様も優しいから。
 もしかしたら、払いすぎてはしまわないかと。
 それが心配です。
 あの冬の夜、凍り付くような納屋の中で
 別に特別なことでもなんでもないかのように
 わたし達姉妹を救ってくれたように。
  特別なことでもなんでもないことのように、
 世界を救ってしまうかも知れないのが心配です。
  そんなお二人だから、
 それがあんまりにも当たり前のことのように感じてしまって。
 どんなに大事に思っているか、どんなに感謝しているかを
 伝えることも忘れて、当たり前になってしまうのが心配です。
  当主様も勇者様も、血を流すことに馴れすぎているから」
勇者「そんなことは、ないよ」
メイド姉「それを確認したいんです。勇者になって。
 勇者でいると云うことが、どれだけの痛苦を要求されるか。
 どれだけの恐怖を強いられるか」
勇者「……」
メイド姉「膝がガクガクしますよね。
 喉は干上がって、身体は木で出来たかのように
 思い通りに動かないし、
 頭は熱に浮かされたようにぼやけている割に、視界は鮮やかで。
 みんなの不安そうな顔も苦しそうな呟きも
 いやになるほどはっきり聞き取れて。
 手綱を握る手のひらは、汗で滑って。
  滑稽で臆病ですよね、わたし。
 全然向いてないって、よく判ります」
勇者「相当に場慣れして見えたよ」
メイド姉「それはもう。自分のお葬式に参加してる気分で
 生きていますからね。ふふっ」

815 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 19:29:19.10 ID:quxpU4cP
タカタ、タカタ、タカタ、タカタ
メイド姉「止めないで、下さいね」
勇者「……」
メイド姉「チャンスがあるのならば、賭けてみたい。
 わたしはやはり、
 わたし達がそこまで馬鹿だとは思いたくないんです。
 わたし達は自由なのですから。
 縛られたままでいる幸福も、世界にはあるって知っています。
 でも、それでも飛び立ってゆく鳥を留めることが出来ないように
 わたし達は明日を探しに飛び出してゆける。
 本当は誰だって知っているはずなんです」
勇者「うん」
メイド姉「そのために血が必要なら、
 その席を譲るわけにはいきません。
 たとえ相手が勇者様にであっても、当主様にでも。
 その席は、言い出しっぺであるわたしの座るべき場所なんですよ」
勇者「……」
メイド姉「元帥さまだって判ってくれますよ」
勇者「……」
   傭兵弓士「おいっ! 開門都市が見えたぞ!」
   ちび助傭兵「煙が上がっているな」
   貴族子弟「持ちこたえている証拠ですよ」
メイド姉「間に合いましたか」ほっ
勇者「――っ!」 キンッ
   傭兵弓士「え?」
メイド姉「どうしたんですか?」
勇者「なっ。……死? 火薬? 破裂、血、硝煙、破壊」

817 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/13(火) 19:30:57.09 ID:quxpU4cP
貴族子弟「どうしたんです!? なにが?」
勇者「死んだ。何かが……。な、これっ……。
 気持ち悪いぞ、なんだこの真っ黒なのはっ」
   傭兵弓士「黒煙が発生。大規模攻撃か!?」
   ちび助傭兵「斥候に出るっ! 若造、フォローっ」
   若造傭兵「判った、行けっ!」
生き残り傭兵「何が起きているんだ。どうする、代理?」
メイド姉「進みましょう」
勇者「悪いな」
貴族子弟「え?」
勇者「つきあえるのは、ここまでだ」
勇者「“飛行呪”っ! “加速呪”っ! “雷鎧呪”っ!
 術式展開っ、“天翔音速術式”っ!!」
キュゥンっ!
メイド姉「勇者さまっ!」
勇者「縛りプレイだとかそんな事、もう知るかっ。
 俺の目の前で、お前らいったいどれだけっ……。
 やるなって云ってるのにっ。
 なんでお前らはそうなんだ。壊したり、殺したりっ。
 そういうのはさっ!」
 ひゅばっ!
器用な少年「すげぇ、なんだ、それっ」
勇者「いい加減飽きたって云ってるんだよっ!!」