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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part1


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 16:50:11.37 ID:s4r1gUtjP
魔王「どーしてもか?」
勇者「アホ云うな。お前のせいでいくつの国が
 滅んだと思ってるんだ」
魔王「南の森林皇国のことか?」
勇者「空は黒く染まり、人々は貧困にしずんでいった」
魔王「考え無しに森林伐採して木炭作りまくって
 公害で自滅したんだろう」
勇者「公害……?」
魔王「あー。えーっと。そうか、まだ判らないか」
勇者「誤魔化すなっ! 聖王国の大臣憑依だって
 魔族の仕業じゃないかっ!」
魔王「欲の皮の突っ張った大臣が政権奪取と
 王族の姫君大集合ハーレムを作ろうとして失敗しただけだ。
 そもそも逮捕された後に魔族の洗脳とか言い出すのは
 人間の悪人の悪い習慣だと思うぞ」

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 16:55:18.10 ID:s4r1gUtjP
勇者「ごまかすのか……許せん……」
魔王「誤魔化してない」
勇者「南部諸王国と戦争はどうなんだ。俺は戦場で
 何百という人間が魔族の軍勢に倒されているのを
 この目で見てきたんだ」
魔王「それで?」
勇者「は? 人間世界を侵略してきた魔王、貴様を
 許しはしない!」
魔王「どちらが侵略したかという点については見解の相違だ。
 こちらにはこちらの言い分はあるが、まぁ、戦争してるのは
 事実だなー」
勇者「貴様は悪だ」
魔王「じゃぁ、悪でも良いけど。当然私を殺した後には
 南部諸王国の王族も全部抹殺して回るんだろうな?」

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 16:59:14.49 ID:s4r1gUtjP
勇者「は? 悪はお前だけだ」
魔王「人間が魔族を殺していないとでも?
 魔族は悪で人間が善だって誰が決めたんだ?」
勇者「……っ」
魔王「そこで『俺が法だ!』とか『俺が神だっ!』とか
 『俺がガンダムだっ!』とか云えたら、お前も
 もうちょっと生きるのが楽なのになぁ……」
勇者「うるさいっ!!」
魔王「勇者は好きだから、この話はやめてやる」
勇者「好きとか云うな」
魔王「この資料を見ろ」
勇者「なんだ、これ……羊皮紙じゃないのか?
 薄くて白くてつるつるだ……」
魔王「プリンタ用紙だ。それはどうでもいい。書いてある
 ことが重要なんだ」
勇者「……えっと、需要爆発……雇用? 曲線?
 消費動向……経済依存率?」

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:06:53.97 ID:s4r1gUtjP
魔王「わかったか?」
勇者「なんだこれは。邪神の儀式か?」
魔王「違う。経済的視点から見た巨大消費市場としての
 戦争の効用だ」
勇者「……効用?」
魔王「そうだ」
勇者「戦争に意味なんてあるものかっ。
 貴様ら魔族が人間世界を滅ぼすための侵略だ」
魔王「勇者がどーシテもと云うなら、ちゃんと戦ってやる」
勇者「っ」
魔王「話によっては、討たれてやっても良い」
勇者「その首差し出せ」
魔王「だから、半日ほど話を聞け」
勇者「……」
魔王「これは100年ぶりのチャンスなのだ」

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:11:55.79 ID:s4r1gUtjP
勇者「良いだろう、話せ」
魔王「じゃぁ、説明する。手元の資料の一ページ目を」
ぺらっ
勇者「表だ」
魔王「グラフというのだ。……これは中央大陸のこの
 50年の消費量と景気を可視化したものだ」
勇者「……え」
魔王「気がついたように、我らが戦争を始めた15年前
 から中央大陸の景気は上昇局面に入った」
勇者「……嘘だっ」
魔王「嘘ではない。2ページ目を見るが良い。
 こちらには各種統計資料が添付されている」
勇者「戦争で数多くの死者が……」
魔王「戦争を始めてから人間世界の人口は順調に増加を始
 めている」
勇者「そんなのは理屈で考えておかしいだろうっ。
 戦争で人が死ぬことはあっても、人が増える道理など
 あるものかっ」

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:15:50.07 ID:s4r1gUtjP
魔王「まぁ、一般解はそうだな。
 しかし、この世界における戦前の常識では違う。
 戦前の――まぁ、この戦前は数百年続いたわけだが
 世界では、人間の死因は疫病と飢餓だったのだ」
勇者「……」
魔王「この二つは非常に強大な敵で
 人間はこの二つを結局500年以上克服できなかった。
 人口は増えるどころか、時に疫病が猛威を振るい
 国単位で滅亡することも少なくなかった」
勇者「疫病も飢餓も人間には御し得ないものだ。
 神が人間に与えた試練と行ってもいい。
 魔族の侵略と一緒にするなっ!」
魔王「まぁ、降りかかるについてはそうかも知れないな。
 しかし、だから克服できないとか、克服してはいけないと
 いうものでもなかろう?」
勇者「それは……」

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:23:52.82 ID:s4r1gUtjP
魔王「現に戦争が開始されてからこれら二つの
 原因にする死者は30%まで低下した」
勇者「理由は? ……なぜ?  魔族の暴威を見かねた神の恩寵か」
魔王「私は結構長生きしてるが、神など見たことはないよ。
 理由は明白だ。最大の原因は中央大陸危機会議の設立だよ」
勇者「……?」
魔王「つまり、魔族との戦争に対して、人間の王国
 連合を組んだからだ」
勇者「それで、なぜ死者が減るんだ……?」
魔王「食料の多い国が少ない国へ送ったり、医療の
 進歩した国や農業技術の進歩した国が指導を行なった
 からだな」
勇者「それこそ人間の手柄じゃないかっ!」
魔王「その程度のことも魔族と喧嘩しなければ
 実行できない人間が大きな事を言ってはいけないよ」

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:31:05.78 ID:s4r1gUtjP
勇者「……」
魔王「そんなに悔しがるな。魔族だって大差は
 ない事情だった」
勇者「そう……なのか……?」
魔王「戦国だったからな。地方豪族や領主が次々と
 王を名乗っては一族郎党血まみれの戦いを送っていた」
勇者「……」
魔王「まぁ、そんな事情で、戦争は人間と魔族を救った」
勇者「……」
魔王「そんなに唇をかむな。血が出てしまうぞ?」
勇者「触るなっ!」
魔王「……君が望まない限り、触れないよ」
勇者「……」
魔王「私の言い分も判ってくれるか?」
勇者「……」

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:35:13.26 ID:s4r1gUtjP
勇者「戦争に意味が……結果的にあったかも知れない」
魔王「そう言ってもらえるとほっとするよ」
勇者「だが続けて良い理由にはなってない。
 始めて良い理由にもなっていない。
 お前は戦争犯罪人だ。いますぐ戦争を中止して
 戦争犯罪者として法廷に立つんだ」
魔王「んー」
勇者「私利私欲でやった訳じゃないってのは
 いまの話で、ちょっとだけ判った。
 俺が付き添ってやるから投降しろ」
魔王「それは難しいな」
勇者「なぜだ?」
魔王「理由は二つある。6ページ目の資料を見てくれ」
ぺらり
魔王「ここに消費市場としての『南部諸王国』と
 『中央大陸』の物流の関係が記してある」

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:41:53.98 ID:s4r1gUtjP
勇者「物流……?」
魔王「まぁ、早い話、物の流れだ。食べ物や着るものや、
 生活用品から武器、鉄、木材に至るまで全てだな」
勇者「これは『南部諸王国』でどんどん使ってるのか?」
魔王「そうだ。戦争は何でも大量に消費されるからな」
勇者「……『南部諸王国』はどうやって支払ってるんだ?」
魔王「ん?」
勇者「だって物を買ったらお金が必要だろう?」
魔王「ああ、良いところに気がついたな。偉いぞ」
勇者「撫でようとするなっ」
魔王「うっかりだ。そう、許可がない限り触れない。
 私は契約を重視するタイプなのだ」
勇者「どうやって購入してるんだよ」
魔王「中央大陸危機会議決議による、戦時支援基金でだ」
勇者「……?」
魔王「わからないか。つまり、全世界が戦争中の
 『南部諸王国』に義援金を送ってるんだ」
勇者「そうだったのか!! 人間の善の心に祝福を!
 どうだ魔王、これが人間のもつ優しさだ」

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:46:14.18 ID:s4r1gUtjP
魔王「まぁ、そのお金で中央大陸の数多くの国は
 自分の国の品物を買ってもらってるんだ。
 つまり、お小遣いを上げて自分の店の商品を
 買わせているだけさ」
勇者「……?」
魔王「このランクの説明は多少難しいかな。……つまり、
 富をため込むってのは『お金持ち』にはなれても
 『豊か』にはなれないんだ。
 お金を渡して、使ってもらう。物もお金も流れが
 よどみなく太いことが豊かなんだよ」
勇者「……難しい」
魔王「まぁ、そう言う物なんだ。
 全部を自分でやったりせずに、得意な分野で協力する。
 これは理論的に正しいことだ。
 麦と塩、木材と鉄を交換することで国も人々の暮らしも
 豊かになる」
勇者「それはまぁ、何となく判る。王立広場の市場みたいな
 もんだろう?」
魔王「うん、そのとおりだ」

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:49:30.81 ID:s4r1gUtjP
勇者「でも、この場合、違うだろう」
魔王「違うとは?」
勇者「中央大陸の国家は、戦争で疲弊した『南部諸王国』に
 善意からお金を送ってるんだ。結果として、その物流?
 が良くなったとしても、送ったお金は自分の物じゃないか」
魔王「ふむ」
勇者「つまり特産品同士を交換してるわけじゃない」
魔王「してるんだよ」
勇者「与えているだけじゃないのか?」
魔王「『南部諸王国』は、中央大陸に安全を
 輸出しているんだ。つまり、戦争で血を流して
 人間世界を防衛することでお金を得ている。
 ――見たことがあるんだろう?
 人間世界の『全て』が戦火にまみれていたのかい?」
勇者「……」
魔王「新しく発明された馬車、豊かな光、豊富なご馳走
 毎晩のように舞踏会を開いている国はなかったかい?
 ブドウ畑で酔いしれている貴族はいなかったかい?」

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:53:30.25 ID:s4r1gUtjP
勇者「……それは」
魔王「つまり、そういうことだ。人間社会は
 『南部諸王国』の巨大消費と防衛ラインという存在に
 現在依存しているんだ」
勇者「い、ぞ……ん?」
魔王「そうだ、頼っている。溺れているというような意味だな」
勇者「でも、大多数の人間は戦う力なんて持っていないんだ。
 そのためには、『南部諸王国』の戦士団や騎士団に
 守ってもらい、せめて食料を送るしかない。
 その何処がいけないって云うんだよっ!!」
魔王「まぁ、感情的にはそれが真実だろう。
 そこまで否定したりはしない。
 でも同時に、経済的にこの市場が無くなると
 人間社会の物流や為替が破滅するのも確かなことだ」
勇者「破滅……?」
魔王「そうさ。その資料にあるだろう? これだけの
 巨大消費がなくなったら、中央大陸の生産者は
 大ダメージを受ける。特に鉄鋼業や造船業がね。
 このダメージは波及して、数十万の死者がでる」

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 17:56:58.63 ID:s4r1gUtjP
勇者「そんな……」
魔王「まぁ魔王の云うことだから嘘かも知れないけどね」
勇者「嘘なのか?」
魔王「少なくとも私は本気だ。もしかしたら避ける方法が
 あるかも知れないけれど、私は知らない」
勇者「……」
魔王「さて、この物流と依存型のいびつな経済構造が
 二つの理由のうち、一つだ」
勇者「まだ……あるのか」
魔王「もう一つは比較的簡単に説明できる」
勇者「……」
魔王「説明が簡単なだけで問題が簡単なわけではないが」
勇者「どういう理由なんだ?」
魔王「魔族との大戦争で人間社会は結束した。
 物流が改善されて、医療技術もひろまって
 疫病と飢餓は少なくなったと云っただろう?」
勇者「ああ、云ってたな」

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:00:13.15 ID:s4r1gUtjP
魔王「アレは説明の半分なんだ。確かに物流が以前よりは
 活発になった。以前は国民の半分が餓死するような国の
 隣では大豊作の国があり、協力なんてしなかったからね」
勇者「うん……」
魔王「だが、物流が改善されたとはいえ、この世界の
 食料生産そのものが劇的に向上した訳じゃない」
勇者「……?」
魔王「判らないのかい? ……つまり、まだ餓死者は
 いるんだよ」
勇者「ああ。旅の途中でいくつもの村で、飢えた子供を見たよ」
魔王「そんな世界で、『大戦争による死者』が居なく
 なったらどうなる? 長い戦争で剣を振るう以外に
 生きる術を知らない何十万人もの人間が中央大陸に
 あふれるんだ。彼らは生きているから食料を必要とする。
 人間は増えるぞ? ――でも、食料はそこまで増えない。
 この世界にはまだ輪作の概念すらないんだ」
勇者「そんな……」
魔王「それが現実なんだ」

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:04:32.19 ID:s4r1gUtjP
勇者「だって、だって」
魔王「だいたい、何で君は1人でここにいるんだ?」
勇者「……へ?」
魔王「腐っても魔王城だぞ。そりゃ警備をくぐり抜けて
 こんな所まで来れちゃう君は突然変異というか、
 それこそ冗談みたいな奇跡だけど」
勇者「何を言ってるんだ?」
魔王「戦争を終わらせるのは、軍の仕事だろう?
 君は勇者じゃないのか?」
勇者「勇者だよっ。それが俺の天命だっ」
魔王「敵の王の命を単身仕留めるのは
 暗殺者の仕事じゃないのかい?」
勇者「……っ!?」
魔王「多分ね。……人間の王たちも判っているよ」
魔王「この戦争が終わったら、勝っても負けても
 人間は滅びてしまうって」
勇者「……」
魔王「だから君を1人で送り出したんだよ」

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:07:55.85 ID:s4r1gUtjP
勇者「……」
魔王「一方的なことを云ってしまったけれど、それは
 魔族の側も事情は一緒でね。知っていると思うけれど
 一口に魔族といっても、その内情は様々なんだ。
 有角族や飛翼族、鉄蹄族。スライムや遊びコウモリ
 なんていう低級なヤツらも沢山いる。
 悪戯好きなだけの種族も多いけれど、有力な氏族は
 ひどく好戦的だし、種族中心主義だ」
勇者「そうなのか……」
魔王「うん、そうなんだ。
 私はね……見ての通り、腕も細いし、ひ弱で華奢だろ?」
勇者「魔法で戦うんじゃないのか?」
魔王「そりゃまぁ、使えるけれど。
 大魔法使いというほどじゃない」
勇者「なら、どうして魔王になれたんだ?」
魔王「要領とタイミングと、なんだろう。
 ……多分、偶然で」

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:18:08.19 ID:s4r1gUtjP
魔王「私の一族は変わり者が多くて、魔界の端っこで  長年研究をしていてね。私の専門は経済なんだ」
勇者「経済ってなんだ?」
魔王「信じられないなぁ、人間の文明の程度は」
勇者「なんかむかつく」
魔王「魔族も人のことは云えない。
 この戦争が終わったら、たとえ魔族の側が
 勝ち残ったとしても、前にも増した乱世が始まるよ。
 今度は人間の土地を舞台にして、奴隷を奪い合う
 恐ろしい時代が幕を開けるだろう。
 有力な魔族は人間の王国を次々と勝手に略奪して
 それぞれを自分たちの『植民地』と呼ぶ時代だ。
 裕福になった戦闘的な氏族は
 その富で弱小氏族を従えたり、より大きな戦力を
 調えて魔族統一を目指すだろうけれど
 いまよりもっと混沌とした魔界はたやすく統一なんか
 出来るわけが無くて、いまよりずっと多くの
 血が流れるだろうね」

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:22:11.68 ID:s4r1gUtjP
勇者「植民地?」
魔王「他人の土地に攻め込んで支配して、
 自分たちの場所であるかのように利益を吸い上げること」
勇者「許されるわけ、無いっ」
魔王「人間が勝ったら魔族の土地に同じ事をするだろうね」
勇者「人間は、そんなことっ」
魔王「……」
勇者「……」
魔王「しないって、云えないだろう?」
勇者「……」
魔王「まぁ、いろんな世界がそうやって滅びていったんだ」
勇者「世界?」
魔王「ああ、それは私たち一族の研究だよ。
 気にしないで。でも、私は……」

53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:26:43.76 ID:s4r1gUtjP
魔王「私は、まだ見たことがない物が見たいんだ」
勇者「……」
魔王「勇者になら、判るかも知れないと思ったんだよ」
勇者「何を、だよ」
魔王「言葉では言い表せないけれど」
勇者「お前学者なんだろ?」
魔王「学者……? ああ、うん、そんな物だ」
勇者「じゃぁ、説明しろよ」
魔王「うーん、つまり」
勇者「……」
魔王「『あの丘の向こうに何があるんだろう?』って
 思ったことはないかい? 『この船の向かう先には
 何があるんだろう?』ってワクワクした覚えは?」
勇者「そりゃ……あるけど。わりと、沢山」
魔王「そうだろう? 勇者だものな!」
勇者「何でそんなに嬉しそうなんだよ」

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:30:05.56 ID:s4r1gUtjP
魔王「だから、そう言う物が見たいんだ」
勇者「……勇者になりたいのか?」
魔王「近い。でも、違う。だって私は学者
 なのだろうし、いまのこの身は魔王だ……」
勇者「……」
魔王「やってて幸せとは云えないけれど
 責任を感じるし他の誰かに押しつける気はない。
 勇者じゃない私が、勇者になりたいなんて
 そんな夢物語で時間を浪費するつもりはないんだ。
 けれど」
魔王「見たことがない物は、見てみたい」
勇者「……そか」
魔王「だから、もう一度云う。
 『この我のものとなれ、勇者よ』
 私が望む未だ見ぬ物を探すために
 私の瞳、私の明かり、私の剣となって欲しい」
勇者「断る」

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/03(木) 18:34:02.22 ID:s4r1gUtjP
魔王「だめか?」
勇者「だめ」
魔王「絶対か?」
勇者「絶対」
魔王「交渉の余地はないのか?」
勇者「ない」
魔王「……」
勇者「……ないぞ? ほんとだぞ」
魔王「あると見た」
勇者「くぁ、なんでそこで上目遣いなんだよ。
 学者がとって良い態度かよっ」
魔王「学者であると同時に私は経済屋なんだ。
 経済屋は決して諦めない。どんなことにでも
 妥協して明日を目指すんだ」
勇者「なんだか俺より勇者っぽい」