Part5
103 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:21:44.53 ID:regnWSG0o
家電量販店
魔女「何だあれは? 奇妙な形だ……この店は一体?」
店頭に並ぶ高性能掃除機が彼女の気を引いたようだ。
どうせだからと入ってみることにした。
さすがにこの場所で魔女と騎士は少し浮いたが、気にしても仕方がないと割り切る。
男「これですか? 部屋に置いておくだけで、勝手に掃除してくれるんですよ」
魔女「働き者だな! これが私の部屋にあれば、私も説教を聞かずにすむな」
男「部屋散らかっているんですか?」
魔女「……。あ、あれは何だろうか? 行ってみよう!」
男「……おや?」
104 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:22:33.48 ID:regnWSG0o
魔女「この箱が冷えるのか?」
男「食糧をこの中に入れて保存するんです」
魔女「似たようなものが私の国にもあるぞ」
魔女「これは何なのだ?」
男「この中に食べ物や飲み物を入れると、温まって出てくるんですよ」
魔女「何とまあ」
魔女「ああああああああああああああ゛」
男「だ、大丈夫ですか?」
魔女「むぅ。ぐいぐい背中を揉まれたが……よく分からないな。こんなものが必要なのか?」
男「みんな疲れているんですよ」
105 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:25:13.00 ID:regnWSG0o
魔女「む。また知らぬ魔女かと思えば、映っているのは私ではないか」
魔女「そうか、これが私を映しているのだな……?」
魔女「……。……」クルックルッ
カメラの方向にくるくる回る。
男「何しているんです?」
魔女「うむ。どの角度から私を見れば、偉大な魔女らしく見えるかと思ってな」
男「どこから見ても魔女らしく見えますよ」
魔女「そうだろうか……。む! この角度は良いようだな」
魔女「どうだ? この角度」クルッ
男「あー。偉大さが増してますね」
魔女「うむ。これからキミが私を見るときは、この角度を優先するように」
106 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:28:31.89 ID:regnWSG0o
昼食はオープンカフェでとることに決めた。
彼女は飲み物にミルクココアを頼んだ。
魔女「あ……」
それまで楽しげにしていた彼女だったが、運ばれてきた食事にそれを見つけて表情が固まった。
男(……グリーンピース?)
魔女「こ、こいつはこの国にもいたのか……」ゴクリ
男「もしかして苦手なんですか?」
魔女「……いや。別に食べられないことはない。もちろん大丈夫だ。私は偉大な魔女だからな」
魔女「が、そうだな。あえて食べようとは思わないだけだ。大した栄養もなさそうに見える」
魔女「その形や大きさもな、私はどうかと思うぞ。ころころと転がっては非常に食べにくい」
魔女「もちろん決して食べられないことはない。この私が好き嫌いなどと」
魔女「あくまでも客観視された正しい意見だ」
目をそらしたままだった。そのまま矢継ぎ早にまくし立てる。
男「……」
魔女「まさかキミは疑っているのか? 失敬だな!」
男「何も言っていないですけど」
魔女「このような小さきものに私が心惑わされるとでも?」
男「では、どうぞ召し上がって下さい。きっと美味しいですよ」
魔女「……う」
107 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:30:13.78 ID:regnWSG0o
男「……」
目をそらし続ける彼女を見つめた。
魔女「……」
男「……」
魔女「……すまない。本当は苦手で食べられないんだ」シュン
男「っくく、ははははは。別に謝らなくても、顔を見れば分かりますよ」
魔女「む……キミはいじわるだ」
男「無理して食べなくても。こっちのサンドウィッチ食べましょう」
108 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:33:08.44 ID:regnWSG0o
魔女「この味は、私がよく食べているものと近い気がするぞ」モグモグ
男「でしたら、違うの頼んだほうが良かったかもしれないですね」
魔女「いや、これでいい。近い部分があると知るのも楽しい」モグモグ
天気がよかった。秋の柔らかな日差しが、辺りを暖めている。
見ると何匹かの猫が、ごろんと気持ちよさそうにひなたぼっこをしていた。
男「……どういうところなんです?」
魔女「ん?」
男「あなたの国の話です。魔法の国なんですよね? 良ければ、話が聞きたい」
少し驚いた後、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。
109 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:34:38.61 ID:regnWSG0o
いくつかの話から見えてきたのは、魔女や騎士が存在しドラゴンが炎を吐く、まさにそのものの世界だった。
モンスターのような害敵もいるものの、彼女の国では平和が守られ、そして彼女はその国を愛していた。
魔女「君臨しているのは王とはいえ、何でもできるというわけではない。制限されることも多い」
男「そうなんですか。お姫さま……王女はいらっしゃるんですか?」
魔女「む。キミはそのようなことが気になるのか? ……まあよい。王女はいる」
男「悪者に囚われているとか?」
きょとんとした。
魔女「ふふふ。他の国でそのような話を聞いたことはあるが。私の国ではそんなことはないよ。あまり外には出られないようだがな」
男(囚われの姫はいないのか。少し残念な気もする……というのは変かな?)
110 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:36:52.13 ID:regnWSG0o
男「飛空船?」
魔女「ああ。と言っても、無数にあるわけではない。王室や軍が所有する数隻のみだ」
男「……凄いなあ。一度でいいから乗ってみたい」
魔女「そうか。……もしも、将来。キミが私の国に来ることがあったら乗れるようはからってやろう」
男「それは夢のような話です。ありがたい」
彼女は微笑んだ。
魔女「そうだな。夢のような話だ」
111 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:39:03.22 ID:regnWSG0o
黒猫「にゃあ」
見ると、さっきまでひなたぼっこをしていた黒猫が、彼女の足元にちょこんと礼儀正しく座っていた。
妙に絵になる。やはり魔女と黒猫だからだろうか。
魔女「ふむ。何か私に話があるのか?」
黒猫「にゃあ」
魔女「む。何と……。まさか」
黒猫「にゃあ」
魔女「お前たちの組織網もあなどれんな」
黒猫「にゃあ」
魔女「そうか、それは助かった。覚えておこう」
黒猫「にゃあ」シュタッ
112 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:41:02.82 ID:regnWSG0o
男「なんて言ってたんです?」
魔女「え!? う、うん。えーとな、そうだな、挨拶をしておきたかったと」
男「はは。礼儀正しい猫だったんですね」
黒猫「にゃ」
男「え? 今度は僕に?」
見ると足元にいた。
黒猫「にゃあ」
男「ええっと。何、かな?」
魔女「『失礼のないように』と言っておる」
男「ああ、そうなんですか」
魔女「ん、それから……『キミはとても素敵だ』とのことだ」
男「お前そう見えるんだ?」
黒猫「にゃ?」
魔女「……」
ふと顔を上げると彼女は明後日の方向を見ていた。
113 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 11:42:58.56 ID:regnWSG0o
次は夜…か明日でせう。では。
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/28(金) 19:10:28.37 ID:IsE57YZ3O
いいいみでじれったいな
115 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:10:13.77 ID:regnWSG0o
遊園地
ハロウィンのおかげで、モンスターの襲撃を受けたかのような光景だった。
ここでも彼女は注目の的になりかけたが、彼女の興味はもっぱらアトラクションに向けられた。
魔女「よし、次はあれだ! 次はあれに乗るぞ!」
男「え、すぐに、ですか?」ヨロヨロ
絶叫系はどうだろうかと思ったが、予想に反してお気に召したようだった。
初めは怪訝な表情を見せていたものの、すぐに楽しくなったらしい。
曰く、箒に乗る感覚に似ているとのこと。
魔女「変に曲がりくねっているな。どんな感覚になるんだろうか」ワクワク
男「……さ、さあ、どうでしょうかね」
帽子が飛ぶといけないので、まだ後ろで順番を待っている小さな女の子に被せていた。
女の子は魔女になったと嬉しそうにはしゃぎ、母親が箒も預かってくれた。
116 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:19:55.81 ID:regnWSG0o
男(そろそろかな……お)
彼女が出口から出てきた。
僕は見学である。寒いのは苦手なのだ。寒いというより凍えるってほどだと思うが。
男(マイナス三十度の世界はどうだろうか)
魔女「……む? 終わりか?」
男「どうでした?」
魔女「いや、そうだな。その、少し、迷ったかな……?」
男「へ?」
魔女「……すまぬ。正直に言うと、面白さがあまり良く分からなかった。すまない……」
男「い、いや! 謝ることじゃないですよ。そっか、あんまり面白くなかったかー」ハハハ
男(そういえば、昨夜会ったときも平然としていたな……寒いのは得意なのか?)
117 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:27:16.69 ID:regnWSG0o
……しくじった。
男「あの、大丈夫ですか……?」
魔女「少し驚いただけだ……平気だ」
お化け屋敷。
大丈夫だろうと高をくくったのが良くなかったのだろうか。
魔女『何が出てくるのだ、ここは……!? あ……』
そこが何のアトラクションなのか、理解した瞬間彼女の表情は強張った。
道中は僕のマントをぎゅうと握り締め、俯いたままだった。できるだけ急いだ。
魔女「よい。気にするな。これは私の問題だ」
顔が青白い。
男(ハロウィンということで力を入れた特別仕様だったみたいだし)
男(もっと慎重になればよかった)
男「少し休憩しましょうか」
魔女「いや良い。大丈夫だ。次は、あれに行こう」
おずおずとそれを指差した。
男「え、あれ……ですか?」
魔女「……すぐ、行こう」
118 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:28:26.10 ID:regnWSG0o
男「……」ゴクリ
魔女「ふふふ。心が躍るな?」
高い。高い。地面が遠い。遠い地面。
大丈夫だろうか。何だか少しベルトが緩い気がする。
男「こ、こういうの好きなんですね? ま、まあ。僕も嫌いじゃないですけどね?」
魔女「む? 楽しいだろう? しかし、もしやキミは……」
「じゃ行きますよー5、」
男「ちょ、ちょ、ちょちょちょと。ちょっとだけ待ってもらっていいですかね!?」
魔女「そう心配するな。万が一のことがあっても、私が掴まえてやろう。キミが地面に激突してぺしゃんこになる前に」
男「た、頼みましたよ」
魔女「頼まれた!」
男「……万が一のことなんて、ありませ
魔女「よし。
ガシャン
男「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ
魔女「あはははははは
119 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:36:31.02 ID:regnWSG0o
……
魔女「とりっかとりーとはどういう意味だ? 皆が口々に言っていた」
休憩所にて、インターバルの重要性を実感していた僕に、彼女が問いかけた。
男「とりっかとりー? ……ああ、ハロウィンの」
魔女「今日の日のお祭りだったな。関係があるのか?」
男「お菓子くれないといたずらするぞ」
魔女「?」
男「そういった決まり文句なんです。ハロウィンの日。子供が仮装をして、色んな家を訪ねて歩くんです」
男「そこで大人に向かってそれを言う。いたずらをされたくない大人は」
魔女「お菓子を差し出す」
男「そういうことです」
魔女「随分と面白いことをするのだな。よし。うしし」
爛々と瞳を輝かせている。
120 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:37:11.70 ID:regnWSG0o
魔女「とりっかとりー!」
男「……」
魔女「と、とりっかとりー!」
男「……」
魔女「お、お菓子くれないといたずらするぞ!」
男「どうぞ」
魔女「いじわるするでない」ムゥ
男(つい、したくなる)
魔女「む。そういうことなら、次はあれだ。空をぐるぐる回る船に乗ろう!」
男「う……」
121 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:39:18.95 ID:regnWSG0o
比較的小さい規模の遊園地ではあったが、観覧車は結構高くまで上昇する。
徐々に広がっていく景色に、彼女はいたく感動したようだった。
魔女「……美しいな」
彼女は一心に見つめていた。
まるで二度とこの景色を忘れぬように、と。
魔女「私の国の風景も美しいんだ」
男「それはいつか見てみたいものです」
魔女「キミもきっと感嘆の声をあげるに違いない」
太陽は大きく傾いていた。
彼女の黒い三角帽や黒いマントを、不思議な色に染めている。
男(この衣装はこんな色だっただろうか?)
122 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:40:03.61 ID:regnWSG0o
魔女「あれは?」
街の景観に気になるものを見つける度に、彼女は尋ねた。
男「水族館ですね。海の動物たちや植物などが公開されているところです」
魔女「海のものを見るのか。では、あれは何だ?」
男「ええっと、競技を行ったり、それを観戦したり。そういった場所です。屋根があるから悪天候でも大丈夫なんですよ」
魔女「ふむ。あそこは? 湖のようなものが見える」
男「あれは公園。夏になれば花火が打ち上がります。たくさん人が来ますよ」
魔女「花火か、良いな」
尋ねられるままに答えた。
魔女「私が知らない場所ばかりだ」
それらの場所を周る時間はもうないように思った。
でももし訪れたなら、彼女はどんな反応をするだろうか。
魚たちを見たり、スポーツ観戦したり、花火を見たり。
123 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:40:47.68 ID:regnWSG0o
魔女「もうそろそろ日が暮れるな」
ぽつりと呟いたその声が、僕を現実に引き戻した。
男「つ、次に行くところですけど、さっき考えたことがありまして」
咄嗟に言葉を口にする。
魔女「何か当てがあるのか?」
男「ずっと考えていたんですけど。そういったイベントにやっぱり参加してみるのが楽しいかなって」
魔女「……いべんと」
男「今からでも参加できそうなものがいくつかあってーー」
124 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/28(金) 23:45:09.33 ID:regnWSG0o
今日は以上です、続きは明日。