Part11
271 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:25:35.90 ID:Ni+y2sHMo
青白……って。
いくらなんでも長くないだろうか。
青と白は、一向に消え失せない。というか、むしろはっきりと色濃くなっている。
男(……?)
何かがおかしい。
男(この色、この色はーー)
これは分かる。空の色だ。というか、空だ。白いのは、雲だ。
僕が今見ているのは空だ。
眩しいほどの光が差している。晴天だ。
晴れ晴れとした、気持ちの良い青空だ。
男(……青空?)
視点をずらすと、地平線が見え、そして大地が見えた。
男(随分と広い平野だなあ……)
さきほどからびゅうびゅうと音がする。
身体の感覚が妙だ。
ごく最近、どこかで体験したような。
272 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:26:55.21 ID:Ni+y2sHMo
色形さまざまなものが目に入った。
なんだろう、キラキラ輝くものもある。
男「おぉ……」
男(綺麗だな)
目を凝らしてみると、それが町並みだと分かった。
奇妙な形の屋根が多い。
ひと際高くて大きい建物が見える。
男(まるで城のように見えるなあ)
273 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:27:24.90 ID:Ni+y2sHMo
しかし、びゅうびゅうと音がする。うるさい。
びゅうびゅうというかぼうぼうというか。風切り音が。……風切り音?
視界の隅で何かがクネクネと意志を持ったように動いていた。
よく見れば、僕のネクタイ。踊っている。
男「……」
男(もしかして、これはとんでもない状況になっているんじゃないか……?)
自由落下していた。
274 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:28:27.94 ID:Ni+y2sHMo
男「おおおおおおーーーー!? おおおぉぉっおっおーーーーー?」
落ちている、落ちている。このままだと大地に叩きつけられてぺしゃんこになってしまう。
バタバタともがくも、ぐるぐると身体が回るばかりで、なす術がない。
男(何かよく分からないうちに死んでしまうのか、僕は?)
もちろん死ぬ覚悟なんて出来ていない。
まだ、やってないことがある。やりたいことがある。
死ぬにはまだ早すぎる。
275 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:28:53.55 ID:Ni+y2sHMo
だけど、せめて死ぬのなら。
最期に、彼女の顔をもう一度見たいと思った。
それを願った。
何かを掴もうと手を伸ばした。
その手がぎゅっと掴まれた。
魔女「……」
唖然とした彼女の表情を見た。
やっぱり死にたくないと思った。
276 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:29:39.09 ID:Ni+y2sHMo
空を飛ぶことは悪くなかった。
彼女が手を握っていたからかもしれない。
魔女「な、なな、な。何で。き、き、キミが……こ、ここに?」
男「……僕もよく分からないんですけど、えっと。今はどういう……」
魔女「……ま、まさか? いや、しかしそんな……」ブツブツ
男(僕は、まさか)
魔女「そんなことが起きるのか? いや、しかし……」ブツブツ
魔女「そうか。そ、それしか考えられぬ。いや、間違いない……」
男「……あの?」
魔女「……魔法は、想いだ。想いを形にする……」
277 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:30:20.65 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……どうやら。どうやら。私とキミは、同じ想いを抱いていたのだ。し、しかも強烈にだ」
魔女「その強烈な想いが、キミに世界を超えさせてしまったようだ……」
えっとつまり。
今僕がいる場所は。
278 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:31:19.50 ID:Ni+y2sHMo
男「……」
魔女「ど、どうするか。どうする? とりあえずは一旦城に……」
男「……突然の無礼を失礼します」
魔女「? な、何を言って……」
男「いくつかあなたに尋ねたいことがあるんですが、良いですか?」
魔女「あ、ああ」
男「感謝します。まず、ここはどこですか?」
魔女「? 場所? 一体なにをキミは……! ……そうか、これ、は。そうか、ふふふ。……よし」
魔女「どこ、か。ここは、南のエリアの」
男「国です。まず国を教えてほしい」
魔女「国だと……? この国は、かの大国ーー
僕の演技に彼女は嬉しそうに応える。
279 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:32:07.70 ID:Ni+y2sHMo
男「初めての場所で、知っている人などいません」
彼女は微笑み、箒を持たないほうの手で、僕の手をぎゅっと握り返してくれる。
男「……だから、頼みがあります」
魔女「何だ?」
280 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:33:11.87 ID:Ni+y2sHMo
魔女は魔法を使うという。
それは知っている。
男「今日一日、僕と一緒にいてくれませんか?」
281 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:34:05.99 ID:Ni+y2sHMo
続まーす。次で終わりです。
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/01(火) 03:57:50.55 ID:g85B7WwP0
乙
待ってる
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/01(火) 03:57:55.71 ID:IydxTpBA0
ちょっとハロウィン行ってくるわ…
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/01(火) 11:23:00.14 ID:dIMPf9PBo
終わりかと思ったら続くのか
良いぞ続けよ
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/01(火) 11:50:57.06 ID:a8K3BhNuo
きゅんキュンくる…
286 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/01(火) 11:52:59.97 ID:QVfgq//Mo
乙
このまま居残っちゃうんだろうか。出来れば千と千尋みたいにきっちり帰って欲しいな
そうでないとありきたりな異世界転生物とほとんど変わらないし
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/01(火) 12:17:52.55 ID:fUVP8hPeO
続け
288 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 22:55:59.80 ID:Ni+y2sHMo
……
自室に響く、タイピングの音。
カタカタカタカタ……ピタッ
男「行き詰まった……」
タイプする手を止めて、ネクタイを緩める。
男「この先はどうすればいいんだ……」
黒猫「にゃあ」
男「……お前に聞いてもな」
何か物を言いたげな瞳をこちらに向けたが、鳴くこともせずに所定の位置ーー薄型テレビの上に飛び乗ると、ごろんと寝た。
男「器用な奴だな。そんなところで寝るとは」
289 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 22:58:18.00 ID:Ni+y2sHMo
締め切りが近い。また嫌味を言われるかもしれない。
男「休憩入れるか……ん? 留守電入ってる。母さんか」
『年末年始はどうするの?』
『忙しいのかもしれないけれど、たまには帰って顔見せてね』
290 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 23:01:55.72 ID:Ni+y2sHMo
冷蔵庫を開けて、飲み物を取り出した。
電子レンジに入れて、温める。
男「……甘い」
あれからどれくらい経ったのだろうか。
思えば短い間の出来事だったのだ。あの日のハロウィンと、その翌日。
男(あれから僕は日本に戻って、それから……)
コンコン
思考を遮ったのはノックの音だった。
男「はい、どちら様ですか?」
291 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/01(火) 23:16:04.05 ID:dIMPf9PBo
『今日一日』か
292 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 23:16:20.68 ID:Ni+y2sHMo
ドアを開けるやいなや。
童女「とりっかとりー!」
爛々と瞳を輝かせている。
ピンク色のワンピースに身を包み、嬉しそうに僕に手を差し出した。
童女「とりっかとりー!」
男「何の御用でしょうか?」
童女「うしししししし。お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」
男「お菓子はないから、いたずらしていいぞ」
童女「む、むぅー」
頬をぷくりと膨らませる。くそう、可愛い。
男「どうしたどうした、いたずらしないのか?」
293 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 23:24:45.23 ID:Ni+y2sHMo
童女「マーマ! パパがイジワルする!」
魔女「だったら、パパのちい飛空船にいたずらするしかないな! 仕方ない!」
橙のチュニックを着た彼女は、娘の後ろで楽しそうに微笑んでいた。
そして僕の部屋の中をぷかぷかと泳いでいる、小さな飛空船を指差す。
船首に取り付けられた金貨がぴかぴかと輝いている。
男「ま、待てっ! それは駄目だ。こっちからもあっちからも、材料集めて作ったんだぞ!」
童女「うしし。お菓子がなかったらいたずらしていいもーん!」
男「くっ。し、仕方あるまい。コレを渡すから、僕の飛空船に手を出すのは止めてくれ!」
童女「あ、ばあばの! かぼちゃきんときだぁーうししししし。いただきます!」
294 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 23:32:12.57 ID:Ni+y2sHMo
魔女「調子はどう?」
男「ちょっと行き詰まってて。そのまま書けばいいだけなんだけどね」
黒猫「主。先ほど言われたことを今まで考えていましたが、やはりここは猫を出すべきではないでしょうか」
男「お前はいっつも猫を出したがるよね。だから聞いても意味がない」
黒猫「何を。我輩と主の故郷では、かつて我が一族が語り手である有名な作品がーー」
男「はいはい」
黒猫「にゃあ」
295 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 23:35:59.12 ID:Ni+y2sHMo
男「そう言えば、母さんが孫の顔見たい見たいってうるさいんだ。この前帰ったばっかりなのに」
魔女「孫というものはすぐに見たくなるものらしい、仕方あるまい。私の父も同じだろう?」
これは勅令だ!と大げさなことをすぐに言い出すのは正直やめて欲しい。
男「まあ、向こうの年始に帰る予定だから……えーと今から……」
使う暦が2つあると色々と大変だ。計算は単純なんだけど。
黒猫「あまり慌てずに食べなさい。喉に詰まらせてもいけない。そして余裕があれば、少し我輩に」
童女「うしし、やっぱりおいしいー」
男「今からお出かけするんだから。服、汚さないように気をつけてね」
296 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 23:40:45.42 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……ふふふ」
男「どうしたの?」
魔女「やはり私は偉大な魔女だった、と思って」
魔女「あのとき。あちらの世界のハロウィンの日。自分が望む魔法を、思い切って使って良かった」
男「知っているよ、君が偉大な魔女っていうのは」
男「僕が一番ね」
魔女「それは嬉しい」
多分君よりも。
297 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/01(火) 23:43:28.49 ID:IydxTpBA0
落として上げるパターンや!
298 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 23:59:24.05 ID:Ni+y2sHMo
……
男「よし、行こうか」
魔女「ええ。ハッピー・ハロウィン」
童女「とりっかとりー!」
黒猫「にゃあ」
大きな扉を開けると、青空が突き抜ける。
皆の歓声が聞こえた。
見ると、ビジネススーツ姿の集団がこちらに手を振っている。
隣にいるのは……あれは十二単?
299 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 23:59:59.68 ID:Ni+y2sHMo
ハロウィン。
起源をたどれば宗教的な意味合いもあったそうだが、この国ではただのお祭りの日だ。
この日になればそれぞれが思い思いの仮装をし、騒ぎ楽しむ。
会社員。女子高生。警察官に消防士。野球選手や宇宙飛行士。
最近ではその範疇に収まらず、創作物の登場人物にまで変身するのも珍しくないと聞く。
異なる文化の風習は、この国でも随分と広まったようだ。
……その発端はと言えば、スーツ姿でこの国に落ちてきた僕なのだが。
300 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/02(水) 00:02:08.90 ID:OnbIn5k3o
僕たちの乗っている飛空船はすでに繋留されており、広場へと空中タラップが伸びていた。
娘を抱きかかえ、側に寄り添う彼女の手を握る。
魔女「今日一日ーー」
男「?」
魔女「次の日も一日、その次の日も、その次も。これからもずっと一緒にーー」
魔女が微笑む。
僕の魔法は解けそうにない。
fin
301 :
◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/02(水) 00:03:49.54 ID:OnbIn5k3o
読んでいただきありがとうございました。ハロウィンは終わりましたね。
それでは。
302 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/02(水) 00:06:14.65 ID:ngCDuI9D0
乙
えがった
303 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/02(水) 00:07:57.34 ID:C9O5xvCxo
乙
最後は安易なハッピーエンドになっちゃったかな
途中まで凄く良かったから残念
304 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/02(水) 00:14:46.89 ID:gQao9FXA0
魔女可愛すぎ
最高に良かった。乙
305 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/02(水) 00:20:34.89 ID:aZf3nO3g0
面白い
乙
306 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/02(水) 02:07:19.04 ID:em3kLRRf0
雰囲気が凄く好きです。とても面白かった