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魔女「ハッピーハロウィン・オーバーナイト」
Part10


238 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:19:53.45 ID:Ni+y2sHMo
男「……ごめんなさい」
僕も謝らなければならないことがあった。
魔女「……? 何がだ?」
男「あなたを思い違いしていたことです。ずっと仮装をしていると思っていたことです」
魔女「良い。もう良い」
魔女「確かに、そのことに気がついたときは衝撃を受けた。だが同時にキミの優しさを知ることもできた」
魔女「キミは『魔女の演技をする人』にわざわざ付き合ってくれていたんだろう?」
男「いえ、それは……」
魔女「それに私はキミの思い違いを知っていて、あえてそのままにしておいたんだ。キミに真実を知らせることなんてすぐにできたのに」
そう言うと、彼女は手首を箒に向け、クイッと動かした。
何も触れていないはずの箒は、彼女の手に吸い込まれるように移動し収まった。

239 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:20:38.15 ID:Ni+y2sHMo
男「凄い」
魔女「これを見せれば、すぐに知らせることができただろうに。私はそれをしなかった……怖くて」
魔女「キミが思い違いをしていることに気がつくまでは、大っぴらに行なっていたのだがな。偶然にも、キミは目にしなかったようだ」シュイン
男「あなたを見ることで精一杯で。箒まで見る余裕がなかったんです」
魔女「……あまり変なことを言うな。私はもう泣き顔をキミに見せたくはない。……変だから」
男「可愛いですよ」
魔女「や、やめろと言った! やめろと言ったぞ!」

240 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:22:04.60 ID:Ni+y2sHMo
それから、話をした。
家族や友人たちの話。今の生活や仕事のこと。
かつての趣味や子供のころの夢。
ゆっくりと二人で話した。
彼女は僕の話に、笑ったり困ったり。
あるいは、怒ったりはにかんだりしながら、話をしてくれた。
男(……やっぱり)
本当の魔女だと知ったところで何も変わらない。
僕が好きになった女の子だった。

241 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:23:51.20 ID:Ni+y2sHMo
……
空が幻想的な色合いになっていた。
夜が明けるのが近い。太陽が近づいて、夜は去ろうとしている。
短い沈黙のあと、彼女は呟いた。
魔女「もう、行かなくてはな」
手が離れた。

242 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:24:47.32 ID:Ni+y2sHMo
男「どうしてもですか?」
魔女「……どうしてもだ」
男「もう、こちらに来ることはできないんですか?」
魔女「絶対とは言えない。だが、とても難しいだろう。いつになるかも分からぬ」
魔女「……」
魔女「私はもうここに来ることができない」

243 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:27:32.68 ID:Ni+y2sHMo
曖昧なものに僕を付き合わせるわけにはいかない。
そう考えたのか。
彼女は格好良かった。もちろん魔女の姿ではなく、彼女自身が。
男「そうですか。なら、仕方ないな。仕方がないことですね」
だから、格好つけた。せめて良く見えるように。
魔女「……ふふふふ」
バレバレなのは承知の上だ。

244 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:31:22.98 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……実は」
男「? 何です?」
魔女「私がキミに隠していたことが、まだある」
悪戯っぽく僕を見た。
男「今は仮初めの姿で、本当は山ほどもある巨大な竜だとか?」
きょとんとした。
魔女「突飛なことを言う。……だったらどうする?」
男「肩に乗せてもらう。そのときはできるだけ乙女の肌に触れぬよう、紳士的に振舞いましょう」
魔女「ふふふ。私も変だとは言われていたが、キミも随分と変な奴だな」
そうかな。

245 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:32:10.79 ID:Ni+y2sHMo
魔女「私は……」
魔女「☪♣♬☾から来たといったがーー」
魔女「固有名詞は上手く伝わらないようだな……、まあいい」
魔女「私は、その国の王女なのだ」
男「……わお」

246 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:33:26.51 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……とても良い国だ。私は愛している。だが日々の公務に追われていた。身分ゆえ行動も制限され、外出もままならぬ」
魔女「それでも仕方ないと自分に言い聞かせてきた。だが、私もそのうち大人になる」
魔女「伴侶を、という声も聞こえてきた」
魔女「恋も碌に知らなかったのにな」
魔女「それが嫌だった。だから、西の大魔女と呼ばれ、師でもある、私のおばに相談したのだ」
魔女「おばは私にこの魔法を教え、力添えをして下さった」

247 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:34:24.70 ID:Ni+y2sHMo
空を仰ぐと、腕を空に伸ばし、僕にはよく聞き取れない言葉で何かを呟く。
魔女「☞☀☁☂☞☪☯☞☀☁☂☞☪☯……」
ゴロゴロゴロ…
遠くから雷の音が聞こえてくる。
気配は少しずつ重くなり、空気の流れが増したように感じられた。
魔女「……私が望む場所に私を連れて行ってくれる」
魔女「キミが使いたいと言っていた魔法だ」
男「転移魔法……?」
魔女「ああ。誰しもが簡単に扱えるものではない。今も、おばの補助があって行使できている」
魔女「おばと約束をした」
魔女「……一日だけ。この魔法で私が望む場所に行き、そして城に帰ってくること」

248 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:35:17.18 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……」
魔女「私がこの魔法で強く望んだ場所。どうしても行きたい場所があった」
魔女「心から私が想った場所。それはーー」
僕に振り返ると、微笑んだ。

249 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:36:48.81 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……私が恋に落ちる相手。その人の側に行きたい」
 

250 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:37:38.57 ID:Ni+y2sHMo
魔女「キミに初めて会ったとき、すぐに分かったよ。私の魔法は成功したのだと」
魔女「まさか。異世界にまで飛んでしまうとは、さすがのおばさまも思うまい」
魔女「……ふふふ。あのとき。転移魔法について尋ねられたあのとき」
魔女「どうやってここに来れたのかという質問には困ったよ」
魔女「だって」
魔女「キミに、告白をしているようなものだろう?」
悪戯っぽく笑った。

251 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:42:16.42 ID:Ni+y2sHMo
男「……おかしな子だな、って思ってた」
魔女「知っていた。どう考えても、変な話だ。出会ってすぐに、一日付き合ってくれ、なんて」
魔女「それは私の世界でも同じだ。だけど、キミは付き合ってくれた」
魔女「何ひとつ文句も言わず。……キミは優しいな」
男「いえ、それは……」
魔女「私の『笑った顔や泣いた顔を見た』と、キミは言った」
魔女「とても嬉しい。嬉しいことだ。少し考えるだけなのに、胸が苦しくなるくらいだよ」
魔女「だけど、キミは知っているのだろうか?」

252 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:44:22.69 ID:Ni+y2sHMo
魔女「変な子だな、って私を怪訝に思ったり」
魔女「箒で飛ぶと言われて焦ったり」
魔女「……私の食欲に少しあきれたような顔をしたり」ボソ
魔女「驚いたり、悔やんだり、恥ずかしそうにしたり」
魔女「……傷ついた顔をしたり」
魔女「そして、何より私に優しく微笑んでくれる」
魔女「キミが私を見つめていたように、私もキミを見つめていた」

253 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:45:26.68 ID:Ni+y2sHMo
魔女「だから、聞きたいことがある」
魔女「……今、キミは。私のことをどう思ってるだろう?」

254 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:48:01.52 ID:Ni+y2sHMo
正直に言った。
何も飾らず、素直に想っているままを。

255 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:48:51.33 ID:Ni+y2sHMo
魔女「ふふ……ふふふふふ! そうか、私と同じだな。おそろいだ、おそろい!」クルクル

256 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:50:40.07 ID:Ni+y2sHMo
魔女「よ、よし……よし! こ、この際だ!」
男「?」
魔女「も、もう一つだけ、キミに我がままを言おうと思う」
魔女「もう一つだけだ」
男「僕にできることなら何でもしましょう。なんせ、主様の騎士ですからね」
魔女「……き、騎士じゃなくて良い。いや、今は騎士でないほうが良い」
男「?」
魔女「め、命令ではない。命令をする間柄では決してできないことだ」
男「? 何です?」
魔女「ぅ…………」
男「?」
とても長い沈黙のあと、とてもとても小さな声で彼女は言った。
恋人たちがする口づけというものを、してみたいのだ、と。

257 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:51:37.33 ID:Ni+y2sHMo
……
 
 

258 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:53:29.42 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……本当に、お菓子のように甘いものだったとは思わなかったぞ」
そう言って、悪戯をした子供のように笑った。

259 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:54:37.92 ID:Ni+y2sHMo
ゴロゴロゴロゴロ……
雷鳴が唸る。
もう、時間はなかった。
僕は魔法を使えなかったが、それが分かった。
魔女「……時間だな」

260 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 02:56:56.05 ID:Ni+y2sHMo
魔女「それではな。……元気で」
宙に浮く箒に、ちょこんと横向きに乗る。
男「しまった」
魔女「?」
男「箒で空を飛ぶこと、経験しておけば良かったと思って」
魔女「なら、今からでもーー」
男「次」
魔女「え?」
男「次の機会には、お願いします。そのときには手をぎゅっと握ってください」
魔女「……ああ。そうしよう、約束する」

261 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:14:18.63 ID:Ni+y2sHMo
男(魔法とは、想いを形にする技術)
僅かの間の、彼女の講義を思い出した。
彼女を中心に、世界は渦を巻いている。
そんなイメージが浮かんだ。
箒に乗り、空を飛ぶ彼女。
風が唸り、雷鳴が轟く。
大きな力が徐々に蓄積され、そして何かに達しようとしている。
それが感じられた。
彼女が振り返り、僕に小さく微笑む。
男(……ああ、もうこれで)
男(……)
男(そうだ)

262 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:16:26.81 ID:Ni+y2sHMo
魔法に負けないよう、力の限り叫んだ。
男「さっき言ってましたけど!」
魔女「?」
男「僕が優しいから、一日付き合ってたなんて言ってました!」
男「それは間違いだ!」
男「だって!」
男「僕も楽しかったんです!!」
男「あなたと一緒にいることが、とても楽しかった!」
男「僕はあなたと一緒にいたいと思った!!!」
男「だから、あなたと一緒にいたんです!」
男「一緒にいれて、楽しかった!!」
魔女「……ありがとう」ニッコリ

263 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:18:01.66 ID:Ni+y2sHMo
幸せなハロウィンだった。
……いや、今はハロウィンの翌日か。
だったら。
幸せなハロウィンと、その次の日だ。

264 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:18:34.43 ID:Ni+y2sHMo
魔女「まったく! 素晴らしい時間だった! かつて私が夢見ていたよりはるかに!」
魔女「見るものすべてが面白かった! 聞くものすべてが楽しかった!」
魔女「何より、カッコよい騎士が側にいてくれた!」
魔女「私はこの日があったというだけで、ずっと幸せになれる」
魔女「私は幸せものだな!」
満面の笑みで、ぽろりと涙をこぼした。

265 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:19:05.77 ID:Ni+y2sHMo
魔女「……さよなら」
もう少し一緒にいたかった。
いや、少しじゃ足りないか。
男「さよなら」
僕も魔法が使えたら。
そうしたら、あなたと一緒にいられるのに。
もっとずっと一緒にいたかった。

266 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:20:31.05 ID:Ni+y2sHMo
爆音が耳をつんざいた。
 

267 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:22:31.93 ID:Ni+y2sHMo
男(これが魔法か)
視界が青白く染まっていく。
青白く、青白く……
強烈な光に眩暈を覚えた。だが、最後まで見ておこうと決めた。
彼女の姿が光に埋もれる。
黒い三角帽に黒いマント。背丈ほどもある箒。
彼女が見えなくなっていく。
彼女の微笑が……
光が、視界のすべてを満たして、満たして、世界がまるで光につつまれたかのようで、
それで、天地がぐらりと
そのうち上下も分からないまま……

268 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:23:16.47 ID:Ni+y2sHMo
青白く、
青白く……
 

269 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:23:51.18 ID:Ni+y2sHMo
青白く、
青白く……
 

270 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/11/01(火) 03:24:25.33 ID:Ni+y2sHMo
青白く、
青白く……
 

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