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魔女「ハッピーハロウィン・オーバーナイト」
Part1

魔女「ハッピーハロウィン・オーバーナイト」
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1 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:30:24.97 ID:nHt9fow6o
ハロウィン。
起源をたどれば宗教的な意味合いもあったそうだが、この国ではただのお祭りの日だ。
この日になればそれぞれが思い思いの仮装をし、騒ぎ楽しむ。
魔女。ゾンビ。ドラキュラにゴースト。狼男や死神。
最近ではその範疇に収まらず、創作物の登場人物にまで変身するのも珍しくないと聞く。
異なる文化の風習は、この国でも随分と広まったようだ。
……僕にはあまり、関係のないことだが。

2 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:31:49.80 ID:nHt9fow6o
……
自室に響く、タイピングの音。
カタカタカタカタ……ピタッ
男「行き詰まった……」
タイプする手を止めて、ネクタイを緩める。
男(どうも最近ペースが良くない)
男(というか悪すぎる)
男(進捗が悪いから色んな時間削ってんのにな……)
男「ふぃ〜〜〜」コキッコキッ
男(ん、そういや期限まであと何時間かな……)チラッ
男「って!? もうこんな時間? 嘘だろ!?」
男「もう日、越えてるじゃん……」

3 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:34:52.77 ID:nHt9fow6o
男(せめて少しでも、文章に関わる仕事をって自分で決めたのは確かだけど)
男(最初のうちは意気揚々としてたっていうのに)
男(期限期限アンド期限。そして相手方の機嫌をうかがう)
男「はぁ〜〜〜。今日も打ち合わせ終わったら、直帰でパソコンにむかってカタカタカタカタ……」
男「まだスーツから着替えてすらねー」
男(どうしてこうなった)
男「……ったくよ」
男「だいたい、何だよアイツ! 確かに下だよ? 立場は僕のほうが下だけどさ!?」
『あのですね、ちょっと頼みたい仕事ができたんですけど。できないことはない……ですよね?』
男「そう言って、面倒な仕事だけ回しやがって……!」
男(……)
男(とは言え仕事しないと食っていけないしなあ)

4 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:36:40.16 ID:nHt9fow6o
男(結局強く言えずに引き受けてしまう僕にも問題があるのだろうか)
男(昔はもっと違う何かを期待してたような……)
机の上にあったボツの草案をくしゃくしゃっと丸める。
背もたれに体重を預けたまま、天井に向かって投げた。
手元に落ちてくるはずが、狙いのそれた草案は壁に当たってそのままあらぬ方向へ。
ガシャン
男「ぬあああああ!?」
ブラウン管の上に乗っていた、飛空船のプラモデルに直撃し落下させた。
男(未完成だったのに……ああ、マストが折れて)
男(これも前は、暇さえあれば組み立ててたのになあ……あ、ホコリ)
幻想の世界の空を飛んでいく船は、床に墜落していた。
男「……はあ」
男「……自業自得か。仕方ない」
そう言って立ち上がったときだった。

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/26(水) 22:37:49.95 ID:IVEx8V0r0
期待

6 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:41:00.37 ID:nHt9fow6o
爆音が耳をつんざいた。
窓の外からは強い光。

7 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:41:46.98 ID:nHt9fow6o
男「っ!? か、カミナリ!? ……驚いたー」
男(結構近かったなあ)
男「どれどれ……」ガラガラ
男(? おっかしいな。雨も降っていないんだけど……。あ、近所の家の電気がつき始めた)
男(あれだけデカい音だったら皆飛び起きるよな)
男(青天の霹靂ってやつなのか? ……夜だけど)
しかし悲劇に気がついたのは、その後だった。

8 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:43:18.59 ID:nHt9fow6o
男「まあいい。気持ちを切り替えて、仕事再開するか」
男「……ん?」
男(……おかしいな。パソコンのディスプレイが消えている……)
男(電源を落とした覚えはない……スリープ時間にはまだ早いはずだ……)
男「……」
男「……」
男(何だか胸がバクバクしてきたぞ。落ち着け、一旦落ち着こう……)スーハー
男「うん、何かの拍子にたまたま電源が落ちたんだな。うん」
男「うん、あんまりパソコン詳しくないしな。よし。ポチっとね、起動してね」ポチッ
PC「」
男「あれ? なんだ、ちょっと押す力が弱かったかな? ポチっとな」ポチッ
PC「」

9 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:45:27.43 ID:nHt9fow6o
男「ははは。こいつぅ。どうした? ちょっと機嫌が悪くなったのかな?」ポチッ
PC「」
男「まさかじゃないけどさ、さっきの雷? もしかして怖かった?」ポチッ
PC「」
男「僕も怖かった、結構ビビるよね。でも大丈夫だよ。家に落ちてもさ平気だよ? うん」ポチッ
PC「」
男「だからさ、機嫌治せよ」ポチッ
PC「」
男「……」ポチッポチッポチッポチッ
PC「」
男「……」ポチッポチッポチッポチッポチッポチッポチッポチッポチッポチッポチッポチッポチッポチッ

10 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:46:38.16 ID:nHt9fow6o
男「……ふぅ」
天を仰ぐ。仰げば尊し。さよならデータ。
男(終わったな)
男(完全に終わった)
男(バックアップはまだある。だけど、今持っていかれてしまった量が大き過ぎる……これじゃ間に合わない)
男(それに。それ以上に心がもう……)
落ちた飛空船を見る。
ポッキリとマストが折れている。
男(何とか期限にだけは間に合わせようと、必死でやってきてこれか)
男(……う)
男(……うう)
男「……いや、泣いてないし。全然平気だし。ダメージないし。むしろ漲ってるし」
精一杯虚勢を張るものの、聞く相手はいなかった。
男(……外の空気吸お。コンビニでも行くか)
コートを手に取った。

11 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:48:12.32 ID:nHt9fow6o
コンビニ
「ありがとうございましたーっ」
男「う……肌寒い。夜はもう冷えてくるなあ」
男「指先も冷えて」
男「今買ったミルクココアが……」ガサコソ
男「おお、温かい。お前くらいだよ僕に温かいのは……」
すぐに飲む気にはならず、カイロ代わりに触れた。
男(今からどうするかな。もう朝の時間にも近いくらいだが)
男(部屋に帰ってもなあ。すぐには寝付けそうにないし)
男(……ちょっと夜の町をブラブラすっかな)

12 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:49:22.86 ID:nHt9fow6o
夜歩くのは好きだった。
昼と違う風景が、別世界に迷い込んだような気持ちになる。
男(気持ちになるだけですがね)
男(お、月が出てる。青白い光で……、なかなかに良い形だな)
子供のころ、僕は月を見るのが好きだった。
神秘的な光にロマンを感じていたのだ。
男(そういや母さんから留守電入ってたな)
『年末年始はどうするの?』
『あんたも忙しいとは思うけれど、たまには帰ってきなさいね』
男(……今年も終わりが近くなったなあ。あと2ヶ月か)
男(どうすっかな。これから)

13 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:50:42.73 ID:nHt9fow6o
月に手を伸ばした。
もちろんつかめる訳はない。
男(そう言えば今日って。十月の終わりだから、確か……)
と、そのときだった。
ふっと、月と僕との間を何かが素早く通り過ぎた。
男(……何だ?)
確かめようと目を向けると。そこにいたのは。

14 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:51:20.35 ID:nHt9fow6o
輝く月に照らされていたのは黒い三角帽に黒いマント。
傍らには背丈ほどもある箒。
どこからどう見ても、魔女だった。

15 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:52:28.19 ID:nHt9fow6o
男「……」
ライトブルーに爛々と輝く瞳が、唖然としていた僕をとらえる。
そして、口を開いた。
魔女「☪☞♂♡⁇」
男「……は?」
魔女「☏☞☈☓」
男「あの、何て……」
男(外国の人かな?)
魔女「★☏☞☏◎♪★☏☞☏◎♪」ブツブツ
男「何をおっしゃってーー」
魔女「分かるか?」
喋った。

16 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:53:51.67 ID:nHt9fow6o
魔女「突然の無礼を詫びる」
男「い、いえ」
男(変わった喋りかたをする)
魔女「いくつかキミに尋ねたいことがある……良いだろうか?」
男「え? ……ええ」
男「いいですよ。自分に分かることであれば、何でも」
魔女「そうか、感謝しよう。まず、ここはどこだ?」
男「どこ……って。えっと、北区の」
魔女「国だ。まず国を教えてほしい」
男「国……? 日本、ですが」
魔女「にほん? 聞いたことがない……辺境か、あるいは踏まれない東の地か?」
男「ひ、東の地? まあ極東の国と呼ばれることもあります、が……」
魔女「そう、か。ということは私は成功したのか……」
男(えっと……この子は何なのかな?)

17 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:55:16.50 ID:nHt9fow6o
格好はまさに魔女。非常に整った顔立ちをしていて、印象的な瞳の色をしていた。
腰近くにまで伸びている長い髪に、ウェーブがゆるやかにかかっている。
年のころはどうだろう。他人の年齢を当てることはあまり得意ではないが、まだ十代と言っても通用するのではないだろうか。
魔女「……ふむ。それで、ここはにほんという国の都市部に当たるのだろうか」
男「え? あ、ああ。そうですね、それなりに栄えているほうだと思いますが」
男(外国から来たのか? いや、それでも自分のいる国が分からない、なんてあるか?)
魔女「今は夜だな? 暗くなってどれくらいたつ?」
男「もうしばらくすると明け方になると思います」
魔女「……私が行使したのは昼だ。時間に差が?」ブツブツ
男(何やら難しい顔をして呟いているが。もしかして、犯罪的な何かだったらどうしよう)
魔女「……あるいは別の要素があったのだろうか」ブツブツ
男(何かしらの被害にあったような様子には見受けられないが……)
男「……ちょっと、いいですかね?」
魔女「すまない。没頭していた。何だ?」
男「あなたは、その。どういった方なんですかね?」
魔女「む。そうか、自己紹介がまだであったな」

18 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:57:28.03 ID:nHt9fow6o
魔女「私は……」
魔女「私は、魔女だ。……偉大な魔女だ」
男「えぇ……」
魔女「もちろん魔女とは魔法を使う女性すべてを指すこともあるが、私は魔女として正式に認定されている」
魔女「かの大国、☪♣♬☾から証を授かっている」
男(何て言った? どこの国?)
魔女「それで、その……そうだ。異国の文化を調べるよう、そう言われ……命じられた」
魔女「そして、この国に来たのだ……魔法を行使してな」

19 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:59:09.56 ID:nHt9fow6o
男(えーと)
男(本気で言っているのかな?)
男(この子、自分がファンタジーの世界からやってきたって)
男(……! ……あ、そうか!)
突然の出会いに戸惑うばかりだったが、ようやく合点がいった。
今日は何の日か、思い出せば良かったのだ。
十月最後の日。ハロウィン。
魔女。ゾンビ。ドラキュラにゴースト。狼男や死神。
それぞれが思い思いの仮装をし、騒ぎ楽しむお祭りの日。

20 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 22:59:59.63 ID:nHt9fow6o
男「なるほどね」ボソ
男(この子は演じて、なりきっているわけだ。『異世界から来た魔女』に)
魔女「?」
少しだけ残念な気もしつつ、目の前の少女の可愛い企みに気がついて安心した。
男(確かに似合っている。これ以上ないほどに)
男(ただ、少し気が早いんじゃないだろうか)
男(今日は確かにハロウィンだけど、まだ朝も来ていないのに)
男「ははっ……そうか、そうですよね。どう見ても魔女だ。すいません、察しが悪くて」
魔女「む? そうだな。確かに、この格好は魔女しかせぬ。特徴的ではあるな」
男「しかし、よくできていますね、その服。質感も、そこらで売っているようなものには見えない」
魔女「そうであろう? この装いは、かつて西の大魔女と詠われた私のお、ではなく、知り合いから譲り受けたものなのだ」フフン

21 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 23:01:08.47 ID:nHt9fow6o
男(結構値が張りそうだな……けど)
男「とは言え、この時期ですし。その格好は寒くないですか?」
いくら立派でも、このマントだけでは防寒の用をなさないだろう。
マントの下は薄着のようだった。全体的にダーク色で統一されていたが、所々にあしらわれているピンクが映えている。
魔女「そのようなことはない。この外套はーー」
男「あ、そうだ。良ければこれ、飲みます?」ガサガサ
魔女「……?」キョトン
男「さっきコンビニで買ったんですけど、やっぱりいらないかなって思ってて。もちろん、まだ開けてないですし。良かったらですけど」
魔女「……」
手にしたミルクココアをしげしげと見つめ、そして僕の顔を見る。交互にそれを繰り返す。
魔女「これは飲み物か? どうやって飲むのだ? ここを開けるのか?」
男(へえー凄いな)
ファンタジー的な異世界から来たのであれば、見たこともないのが正しいわけか。
細かい設定もしっかり造りこんでいることに内心賞賛を送りつつ、僕は丁寧に飲み方を教えた。

22 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 23:02:20.27 ID:nHt9fow6o
おそるおそる、といった様子で。
魔女「……!」
非常に驚いた顔で缶を見つめた。
魔女「甘い! そして、美味しい。気に入ったぞ!」
男「ただただ甘いだけじゃないから、いいですよね。僕もそれ好きなんですよ」
魔女「感謝しよう。まさか、即このようなもてなしを受けるとは思わなかった」ゴクゴク
彼女は自分よりも年下に見える。
しかし、その堂々とした物言いはあまりに彼女に似合っていた。

23 : ◆Jiax/7r6DNu8 :2016/10/26(水) 23:02:59.31 ID:nHt9fow6o
魔女「ありがとう。素晴らしいものであったぞ」
見る間に飲みきると、彼女は満足げに頷く。
男「喜んでいただけて光栄です」
魔女「うむ」
男(まるで主と従者の会話だな)
だが不快ではない。
その芝居がかった喋り方がなかなか面白い。

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