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旅男「ルビーイーターか……」

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Part1
1 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:08:57.97 ID:yPL7nX5AO
SF
オリジナル
地の文多め

2 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:11:39.11 ID:yPL7nX5AO
巨大なビルが一つ、不自然に砂漠に建っている
そのビルには十五メートル程の芋虫のような、蜥蜴のような生き物が張り付いている
それを遠目に眺めていた旅人風の男が呟いた
旅男「アイアンイーター狩りか、つまんね〜な〜」
後ろから瓦礫に隠れている小柄な茶色の髪の少年が声をかける
茶髪「旅男、あれ倒したらいくらもらえるんだ?」
旅男「三十万から百万、一応アレも資源だからな〜」
茶髪「ひと月は遊べるんじゃね?」
旅男「アホ、コストってもんがあるんだよ」
旅男「俺の薬に五万、メンテ代十万、サンルビーガンを一回使えばだいたい三〜五万」
茶髪「命懸けて倒すには割にあわねーな」
旅男「そーいうこった」
しかし、旅男は小太刀の柄に赤い石を嵌め込むと、アイアンイーターと呼ばれた鯨のように巨大なモンスターに挑みかかった
その速度、跳躍力は人間のそれでは無い
茶髪「すごいな、アーティフィシャルヒューマン……」
旅男が巨大な鯨に小太刀を突き立てると、鉄の身体がゆるゆると焼け切れていく……
脳を焼き斬り殆ど抵抗させずアイアンイーターにとどめを刺した
旅男「鉄骨なんぞ美味か無いだろ、次はルビーを食っててくれや」

3 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:15:44.37 ID:yPL7nX5AO
ーー地下街ーー
あたりには小さな鉄のボールのような物が飛んでいる
完全監視社会では当たり前の光景だ
イーター狩りなどの際を除けば破壊するだけで鉄の腕輪と牢獄の臭いランチにありつける
食えない人間は良く壊すが、イーターを狩る者達には縁の無い話だ
酒場の親父が旅男に声をかける
酒場親父「よ、英雄さんのお帰りか」
旅男「親父、いくらだった?」
酒場親父「見事なもんだ、七十になったぜ」
旅男はニヤリと笑うことでそれに答える
茶髪「やったじゃねーか、またしばらく遊んでいられるな」
旅男「遊んでる訳じゃねえ、冷却期間がいるんだよ」
茶髪「奢ってくれるんだろ?」
旅男「当たり前みたいにタカるんじゃねーよ!」
しかし、テーブルに着くとホッとしたのか旅男はランチ二人前と酒を頼んだ
茶髪「冷却するのに酒飲むのかよ」
旅男「気化熱でよく冷えるんだよ!」
茶髪「博士ちゃんがそれ嘘だって言ってたぞ」
旅男「良いだろ、別に害がある訳じゃなし」
酒場親父「お待たせ、クレジットはちゃんと管理されてるから心配するな」
旅男「誰もちょろまかさねーのは分かってるって」
旅男「完全監視社会様々だぜ」

4 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:18:04.54 ID:yPL7nX5AO
美味い飯と酒を楽しんでいると、写真とにらめっこしながら藍色のドレスを着た見慣れない少女がやってきた
藍「……旅男さんですか?」
茶髪「……」
旅男「何赤くなってるんだマセ餓鬼」
藍「博士があなたの世話になれと……」
旅男「はあっ!?」
旅男「あの餓鬼また厄介ごと……」
そこまで言って旅男は椅子に沈んだ
いつものことである
自身のメンテナンスを任せていることもあって、若干十四歳の科学者に旅男は頭が上がらない
孤児院を作れるほど子供を押し付けられて、その全員に里親を見つけてやったのはそんな昔の話ではない
中には茶髪のようにどこにも貰われたがらない子供もいる
しかし世の中にはアイアンイーターやルビーイーターだけではなく、グリーンメーカーやマンイーターなんて厄介なモンスターもいるのだ
こんな世界で子供を連れ歩くのは狂気の沙汰だ
さて、今回はこの藍色の見るからに育ちの良さそうな娘の面倒を見ろと言うことらしい
しかし、藍色の娘に手を触れてそれが何時もの話ではないことを旅男は悟った
旅男「お前……、俺と同じか」
藍「細胞活性タイプです、お役に立てます……」

5 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:19:53.88 ID:yPL7nX5AO
旅男「細胞活性……、怪我し放題ってか」
藍「致命傷は治せませんが、AHなら腕一本くらいなら……」
AHとはアーティフィシャルヒューマンの略称である
元々細胞活性の高いAHは人工的に蜥蜴の尻尾のように手足を再生する遺伝子が組み込まれている
旅男「ま、マセガキよりは役に立つか」
茶髪「俺だってルビーガンは撃てる!」
旅男「そのうちグリーンメーカーに種植え付けられて森になれ、バカたれめ」
グリーンメーカーとは、炭水化物と見れば種を植え付け緑の大地を作るイーターの一種だ
旅男はとりあえず一言だけ文句を言いに博士のラボに出向いた
旅男「博士、入るぜ」
博士「入室の挨拶は部屋に入る前にするものだよ」
博士と呼ばれた少女はパソコンのキーボードを弾きながら顔も上げず旅男に言葉を返す
博士「君はこの世界がなんでこうなってしまったか知ってるかい?」
旅男「あー、義務教育の範囲だろ」
旅男「まず太陽光を結晶に閉じ込めるサンルビーテクノロジーが生まれた」
旅男「強欲な人類は太陽に直接エネルギーを取りに行った」
旅男「そのせいで地球は氷河期になったが、サンルビーが高騰して金持ちは益々太陽を食いに行った」


6 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:22:16.13 ID:yPL7nX5AO
旅男「やがて事故が起きた」
旅男「大量のサンルビーが地球に降り、世界中の氷が溶け大洪水、その後砂漠化だ」
旅男「現状を解決しようと投入したナノマシンは人工生物として進化」
旅男「今世の中を荒らしてるイーターの誕生だ」
博士「荒っぽい説明だが概ねその通りだ、過ぎた欲求は不幸を招く」
博士「だが世界を緑に戻せるのはAHの君たちだけだ」
博士「イーターが狂った原因を突き止め、またはグリーンメーカーに正しい土地を与え、世界に緑を」
旅男「分かってるが、好きにやらせてくれや」
博士「構わないよ、どうせ私達は寿命を与えられていない」
博士「のんびり行こう」
茶髪「博士もAHなんだね」
博士はやっと顔を上げる
博士「そうだよ、紳士君」
旅男「今日は一言文句を言いに来たんだよ」
博士「文句?」
博士「御礼ではなく?」
旅男「手間なんだよ、AH一人余分に養うのは」
旅男「月一で五万もする補正エネルギー薬飲まなきゃ活動停止しちまうんだからな」
博士「私は今月薬を飲んだかな?」
旅男「ちょ、勘弁してくれ、あんたが止まったら誰が俺のメンテを……」
博士「ああ、カレンダーにチェック入ってるな」

7 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:24:23.86 ID:yPL7nX5AO
旅男「頼むぜ全く」
博士「活動停止したら君の好きなように君の好きな貧乳を弄るといい」
旅男「貧乳好きだがガキは嫌いなんだよ!」
博士「私は大分大人だと思うのだが」
旅男「弄られたいのかよ!」
博士「知識欲はある」
旅男「お断りだわ!」
博士「冗談だ、止まってたらそこのエネルギー剤を注射してくれ」
旅男「ああ、分かってる、あんまり研究にのめり込むなよ」
博士「ルビーガンの新型、プロミネンスモデルが出来たぞ」
旅男「話を聞けよ!」
藍「あの、私も貧乳だから好きですか?」
旅男「いきなり何を言ってるんだお前は!」
博士「一人で突っ込んでると血圧上がるぞ」
旅男「あんたのせいだろ!」
博士「まあまあ、ほら、これを持って行ってルビーイーターの一匹でも捕まえてこい」
博士「ルビーイーターの最低討伐報酬が三億に上がったらしいぞ」
旅男「またどこぞのオールドタイプが討伐失敗したのか」
博士「二百人くらい死んだらしいな」
旅男「ただでさえ人口減ってるのにな……」
博士「出現ポイント出しておくか?」
旅男「命が惜しいからまだいいよ」
博士「そうか」

8 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:26:21.37 ID:yPL7nX5AO
茶髪「もったいねーな、一生食えるのに」
旅男「その前に一生が終わるわ」
茶髪「それもそうか」
博士「とりあえず丁都B地区のナノマシン製造工場のメインコンピューターにアクセスしてみたい、護衛を頼む」
博士「B地区って魅惑の響きだな」
旅男「オッサンかお前は!」
茶髪「なんでB地区が魅惑の響きなんだ?」
藍「……さ、さあ?」
旅男「知らなくて良いんだよ、行くぞおら!」
ラボを出ると丸い帽子をかぶった娘と鉢合わせた
帽子「あれ、はかせー、どっか行くの?」
博士「あれ、帽子ちゃん今日メンテだった?」
帽子「違うよー、旅男にたかりに来たの、アイアンイーター狩ったんでしょ?」
旅男「いい加減にしろよお前ら……」
博士「今からB地区に行くから一緒に行こう、メンテ代はサービスにするから」
帽子「おっけー、報酬は旅男にデンジャラストリカブトケーキおごってもらうね」
旅男「何その暗殺されそうな名前のケーキ」
帽子「トリカブトくらいいちころの美味しい特大ケーキだよ!」
旅男「なんか聞いただけで頭痛くなってきたわ……」
旅男「つかなんで俺が報酬出すんだよ!」

9 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:28:58.32 ID:yPL7nX5AO
博士「研究費でみんなで食べよう」
旅男「なんの研究だよ」
博士「AHの細胞活性と糖分の関係性について」
藍「藍もモルモットになります!」
旅男「簡単にモルモットになりたがったらいけません!」
ーー丁都B地区ーー
丁都はどこも砂漠であるが、所々にまだアイアンイーターに食われていないビルが残っている
ほんの少しだがグリーンメーカーによる森もある
しかしそこはおおよそたくさんの人間が死んだ戦場跡だ
旅男「グリーンメーカーがいるなら気をつけないとな」
茶髪「勝てる?」
旅男「どうだかな、最近進化種のグリーンメーカーやマンイーターが目撃されてるらしいぜ」
茶髪「こえー……」
博士「進化して、AHイーターなんて呼ばれてるのもいるぞ、わっはっは」
旅男「どこが笑えるんだそれ……」
話をしていると、向こうから土煙が上がってきた
旅男「おっと、噂をすればグリーンメーカーか」
博士「緑化プログラムを打ってみたい、捕らえてくれ」
旅男「素手で、無傷でか?」
旅男「死ぬ覚悟してくれ」
博士「蜘蛛の糸あるぞ」
旅男「そういう便利なものあるなら先に出してくれよ!」

10 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:31:44.19 ID:yPL7nX5AO
蜘蛛の糸とは文字通り蜘蛛の糸である
科学的に合成された太く強力な蜘蛛の糸を制圧用兵器として加工した物だ
旅男「帽子、足止め頼むわ」
帽子「おっけ」
帽子が新型のルビーガンでグリーンメーカーを牽制する
グリーンメーカーは蛇行しながら突っ込んでくる
そこに旅男が蜘蛛の糸を専用のランチャーで打ち出す
旅男「ヒット!」
旅男「かわせ!」
慣性で吹っ飛んでくるグリーンメーカー
藍も博士もAHであり、身体能力は高い
博士は茶髪を抱きかかえ、跳ぶ
博士「貧乳だから抱かれ心地悪かろう、許せ!」
旅男「貧乳強調するな!」
茶髪「……」
旅男「お前も照れてるんじゃねえマセ餓鬼!」
五メートル程の昆虫のような形のグリーンメーカーは、蜘蛛の糸に脚を絡め取られて転んだ
旅男「よっしゃ、止まった!」
博士「よしよし、仕事のできる奴らは好きだ」
博士「グリーンメーカーのような好んで人間を襲うタイプは報酬も良いぞ」
帽子「やったね」
博士「まあコイツはプログラミングしてから野に放つんだがな」
旅男「今回はどれくらいの規模の森が出来るかな?」

11 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:35:04.47 ID:yPL7nX5AO
博士「大きさから言って君に以前作ってもらった森くらいの大きさにはなるんじゃないか?」
旅男「森作りが一番いい仕事だな」
藍「私もその森を見てみたいです!」
帽子「あそこはオアシスもあって良い森だよ〜」
茶髪「俺も行ったことある、すげー蚊がいる」
帽子「夢を壊さない、そこ」
博士「まあ生態系が蘇っているんだから良い傾向だろう」
博士「さて……」
また博士はパソコンに向かい黙々と作業を始めた
博士「パターンが決まってるんだよね、こいつらの脳味噌のプログラム」
博士「誰かが意図的に書いた物なのは間違いないんだが」
博士「果たして誰がどこで書いた物やら……」
カチャカチャとキーボードを叩く音が響く
茶髪「あちい……」
旅男「四十度くらいか」
帽子「まだ涼しいね」
茶髪「まじかよ……」
藍「私も慣れてないので暑いです……」
旅男「しょうがねえ、冷やしてやるよ」
旅男は足元をルビーガンで撃つ
砂がたちまち凍りついた
同じ作業を何度か繰り返す
旅男「冷却してくるわ」
旅男の持つルビーガンが赤熱している
旅男はその銃を持って走り出した

12 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:37:23.41 ID:yPL7nX5AO
博士「冷却線モード上手く機能したな」
帽子「流石は博士のルビーガン」
茶髪「サンルビーあんなに使っても大丈夫なのか?」
帽子「そんなに減ってないよ、サンルビー一個でもルビーガンを四十回使える程のエネルギーがあるんだよ」
博士「早々無くなられたら困る、人類最高の発明品にして世界に氷河期をもたらしたサンルビーだからな」
博士「まあだから今は宇宙でのサンルビーの製造は一部を残し禁止されたんだがな」
博士「っと、これでOK」
博士「後は自動で空中窒素固定を始めて光合成、水蒸気を吸着し、土を作り種を植えて草原や森を広げていく」
博士「制御下のグリーンメーカーの数が増えれば丁国中が森になるのも時間の問題だ」
旅男「ただいま」
博士「帰ったらメンテだな」
旅男「頼むわ、本当なら冷却期間にするつもりだったからな」
博士「それは悪かった」
茶髪「これからどこに行くのさ?」
博士「B地区地下工場」
博士「アイアンイーターに食われてないならもうすぐ着くよ」
帽子「小型イーターとか居そうだけど」
藍「怖いですね」
帽子「守ったげるよ〜、藍ちゃんだっけ?」

13 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/09/26(金) 21:40:13.28 ID:yPL7nX5AO
旅男「まあ二、三体なら殺るが多ければ引き返そう」
博士「期待してるよ」
ーーB地区地下工場ーー
この地下施設はナノマシン製造の為に作られた工場であり、稼働は全自動で行われていた
本来機械のメンテナンスのための人員がいるはずだが、現在は閉鎖されているため、完全な無人である
博士はナノマシン製造過程に何等かのバグが入っていた可能性を探るため、この工場のメインコンピューターにアクセスし捜査する権限を得ていた
博士「完全管理社会なんて研究者には窮屈な事だが、書類一つでこんな大きな施設のコンピューターにもアクセス出来るのは有り難いな」
旅男「早めに済ませてくれよ、イーターの気配がする」
帽子「こんな狭い通路でルビー型が出たら即死だね」
旅男「それは居ないだろ、だがマンイーターだと不味い」
博士「迷い込んでくる可能性はあるが、餌もないとこに籠もってないと思うぞ、いるならアイアンイーターだろうな」
旅男「それなら楽だが、施設が死んでる可能性があるぞ」
博士「そうなんだよな、早めに全部データを吸い上げるわ」
博士は端末に自前のノートを繋ぎメインコンピューターにアクセスを始めた