料理人と薬学士
Part1
1 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:13:35.48 ID:IlYXT6yAO
オリジナルファンタジーものです
一度に書きためてゆっくり更新します
地の文多いです
国語弱いし完成度も低めで拙いですが、応援よろしくお願いします
2 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:16:40.52 ID:IlYXT6yAO
高山地帯の村を東に少し降りた辺り、深い森がある
薬学士はそこで薬の材料になりそうな植物や鉱石を探して歩いていた
薬学士「ん〜、この辺り、キノコいっぱい生えてるなぁ〜」
薬学士「とは言え、迂闊に食べてお腹を壊しても困るし」
薬学士「薬学士を名乗ってるのに度々寝込むとか、有り得ないよね〜」
薬学士は身長も140センチ代の超小柄で、十五歳と言わないとお母さんの手を握ってアメを舐めていても違和感のない風貌である
そんな薬学士が暗くて深い森の中を、ふわふわ、プカプカと歩く様は、まるで闇夜のクラゲさながらである
薬学士「誰かキノコに詳しい人いないかなぁ……」
そんな薬学士を見つけて、食おうとする魔物も居ないわけがない
犬様の魔物「ぐるるる……」
その腹を空かせた魔物も例外なく、美味しそうなクラゲのように揺れる銀の長髪に見とれ、涎を垂らしていた
しかし魔物が駆け寄ろうとしたその時、大きな二つの目が光を引きつつその魔物を睨みつけ、それと同時に、赤いビー玉様の物体が投げられる
魔物「……キャウン!」
ブシッと言う音と共に弾ける赤弾は、魔物の顎を吹き飛ばすほどの威力を見せた
3 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:19:27.87 ID:IlYXT6yAO
薬学士「あうっ、威力調整間違えたぁ」
薬学士「ごめんね……」
薬学士は、もう暮れかけた森の中で自分を襲った魔物の墓を掘り始めた
薬学士「ふー、ふー」
薬学士「泥だらけになっちゃった……お風呂入りたい……」
薬学士は半分泣きべそをかきながら森の中で家路を急ぐ
ふと、赤々と燃える火の熱を感じた
料理人「……」パチパチ……
薬学士「……!」
薬学士「すみませ〜ん! こんにちは〜!」ブンブン
もはやこんばんはの時間であるし、暗闇で手を振っても見えるはずもないが、基本的なところでは抜かりなくボケている薬学士である
料理人「人……?」
その人物に出会った時の薬学士の最初の印象は、山賊か熊か、と言ったところであった
だが落ち着いて見てみれば、その人物、料理人は身長こそ170を超えてはいたが、神秘的な黒のショートに黒い目で可愛らしさも携えていた
年もまだ十六を数えたばかりである
料理人「キミみたいな可愛い子が、こんな夜の森で何をしてるの?」
薬学士にしてみればそれこそが相手に質問したかったことである
薬学士「あ、あの、あなたは?」
4 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:21:52.82 ID:IlYXT6yAO
料理人「……」
料理人「……迷った」グスッ
薬学士「……」
料理人「うう、恥ずかしい……」シクシク
大きな体で弱気な料理人が可愛くて、薬学士はいっぺんに彼女が好きになった
薬学士「そんなことないよ〜!」ダキッ
料理人「!?」
料理人(ヤバい、鼻血でそう)
薬学士「あ、ごめん、私泥だらけだった……」
…………
薬学士「ここから村までは三十分くらいだよ?」
薬学士「道は覚えてるから、一緒にいこ?」
料理人「うん、ありがとう……キミ可愛いね」
薬学士「あなたも可愛いよ〜!」
料理人「えうっ!?」
料理人「いやいや、こんな体格で可愛いわけないし……」ジワッ
正直、目の前の妖精に可愛いなどと言われると思わなかった料理人は思わず涙ぐんでしまった
その涙で火を消してすぐに彼女の家に押し掛けてしまいたいくらい衝撃的だった
料理人「……ところで、ここって魔物が出ると思うんだけど……」
薬学士「出るね」
薬学士「でも大丈夫、私が守ってあげるからね!」
料理人「えうっ!?」
料理人(どちらかと言えば私が守る側だと思うんですが……)
5 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:26:00.91 ID:IlYXT6yAO
料理人は焚き火に水と土をかけて消すと、念入りに踏みつける
火が消えれば一層暗くなったが、何故か薬学士の辺りが明るい
薬学士「これ? 今ね、ヒカリキノコの粉末をかけてるんだよ」ポスポス
料理人の疑問を悟ったように解説する薬学士
薬学士「私の灯りを追ってきてね? 足下には気をつけて!」
料理人「あ、あの」
薬学士「どうかした?」
料理人の問い掛けに妖精が振り返る
料理人「キミの名前は?」
薬学士「私? 薬学士だよ?」
料理人「そう……私は料理人、その、」
料理人「よろしく」
薬学士「うん!」
二人は暗闇の中、魔物を倒しながら薬学士の村、高山の麓を目指した
…………
薬学士「着きました〜!」
料理人「おお、助かった」
薬学士「私の家はこっちだよ!」
薬学士「汚れちゃったからお風呂入ろ〜?」
料理人「有り難いなあ」
薬学士「一緒に入っちゃう?」クププ
口元に小さく握った手を当てて笑う薬学士は、とても可愛い
料理人(いたずら妖精さんや、いたずら妖精さんがおるで!)
村に入ってすぐに、薬学士の家に着いた
薬学士一人が住んでいるとは思えないくらいの、大きな屋敷だ……
薬学士「ちょっと待っててね〜!」パタパタ
6 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:32:56.77 ID:IlYXT6yAO
泥まみれの体でゆったりと腰を掛けるわけにも行かず、料理人はしばらく家の中を走り回る輝く妖精さんを眺めていた
料理人(可愛いよ〜お人形さんだよ〜)
薬学士「あ、私の服流石に合わないと思うんだけど替えはある?」
料理人「うん、一人旅の途中だしね」
薬学士「そっか、どこか行く宛があるの?」
そもそもここは山奥の田舎の村で、山を越えても山が続くような最果てである
街を目指すならこんなところには居るはずもない
料理人「私は……この辺りでお店でも開こうかと思って」
薬学士「ほえ?」
こんな田舎で、と言い掛けたが、何か事情があるのかも知れなかった
薬学士(これ以上は聞かない方が良いのかな……?)
料理人「……」
…………
料理人「なんか悪いね」チャプッ
薬学士「いいんだよっ、気にしないで!」ゴシゴシ
二人は早速一緒に風呂に入って、お互いの背中を流したりしていた
料理人「うん、今晩の晩御飯は私が作るよ」
薬学士「ほんと? やったあ!」
…………
薬学士「湯船広くてよかったあ〜」アハハ
料理人「ごめんね、狭くしちゃって」
薬学士「ううん!」フルフル
笑顔で首を振る薬学士
7 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:35:40.48 ID:IlYXT6yAO
女同士で過ちなどあるはずがないと断じて思っている料理人も、思わず引き込まれそうな笑顔である
料理人(いいなあ、こんな可愛い生き物に生まれたかった)
薬学士「あ、そうだ、私昼はほとんど山に入るか部屋にこもってるんだ」
薬学士「予定が決まるまでうちでお留守番してくれないかなあ?」
料理人「いいよ!」
特に宿なども決めていない料理人には願ったり叶ったりな申し出である
それにこれはここに定住する足掛かりになる
出来ればこのふわふわの妖精を守ってやりたい気持ちも芽生えていた
そしてこの申し出は、本来お願いしなければならない立場の料理人を気遣って言ってくれたような気もする
迷子から救ってくれた恩返しもしなければならないだろう
…………
現在この世界には、破壊神を封じる五百余柱の魔王と、人間の王がせめぎ合って生活をしている
中には魔王同士の戦争や人間と魔王の同盟などもあるのだが、魔王を倒す度に危険な破壊神が現れるため、人間に敵対的な魔王はとても危険な存在として君臨していた
料理人の街もそんな魔王に目を付けられた人間の王の街であった
8 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:38:46.07 ID:IlYXT6yAO
料理人「ようするに、私は戦争から逃げ出してきたんだよ」チャッチャッ
料理人「そんな後ろめたいこととか悲しいことがあったわけじゃないんだけど」カン
料理人「あんまり周りの人が亡くなっていくのも嫌で……さ」チャプッ
料理人「はい、できた!」ゴトッ
薬学士「わあ〜!」
料理人は語りながらあっと言う間にテーブル一杯の料理を作り上げた
山で取ったばかりの香りきのこのパスタや川魚のマリネ、塩焼き、スープ、きのこサラダ、山菜の天ぷらなどなど……
薬学士にはちょっと作れないレベルの彩りの鮮やかな料理ばかりが一瞬で作られ並べられていく様が余りにインパクトが強くて、あまり話を聞いてなかったのは内緒である
元より若干大食いの気のある薬学士には、その大量の料理が輝く宝石のように見えた
薬学士「ほう……」ポタポタ
料理人「薬学士……涎すごいよ? じゃあ、いただいちゃおうか」ガタッ
薬学士「いたらきまーっ!」パンッ
料理人「いただきます」クスッ
薬学士「うまーっ!!」パクパクモグモグ
料理人「わあ、すごい食欲……なんか嬉しいなあ」
薬学士「だって美味しいよっ」
料理人「足りなかったら作り足すから慌てないでいいよ」フフッ
9 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:43:56.48 ID:IlYXT6yAO
二人は偶然にもお互い孤児であったことや、謎の師匠に仕えていたこと、旅の果てにこの村に着いたことなど、沢山の共通点を持っていた
初めから一目惚れに近くはあったが、あっと言う間に二人は仲良くなって、その日は一つのベッドで眠りについた
翌日ーー
薬学士「さて、今日は料理人さんの生活用品を買いにでかけるよ!」
料理人「気を使わないで、自分で揃えるから……」
薬学士「だいじょーぶ! わたしお金持ちだから!」ブイ
料理人「……怪しいお金?」
薬学士「ではないっ」
その朝、料理人が並べるハムエッグやトーストサンドやサラダを嬉しそうに頬張る薬学士
料理人はそれをハムスターを見るような目で見つめながら、朝食を終えた
食後、道具屋や寝具屋を巡る
巡りながら、時折薬学士が石を弄っている
薬学士「ん〜、流石にもうこの辺りには落ちてないかあ……」
料理人「何を探してるの?」
薬学士「魔晶石って石なんだけど、知ってる?」
料理人「魔晶石?」
薬学士「見た目は普通の石だけど削るとピンク色に光るんだよ」
薬学士「鑑定眼が無いとなかなか分からないけどね〜」
10 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:48:42.68 ID:IlYXT6yAO
料理人「それは何に使うものなの?」
薬学士「魔法剣から万能薬までなんでも」
料理人「はあ、そんなすごいものがあるの?」
薬学士「今は秘術って言われる程レアになってるから、取り引きも殆どされてないし、知らなくても無理はないかな?」
薬学士「取り扱いも難しいから迂闊に触らない方がいいかも」
料理人「そっか、薬学士はそれでお金持ちなのか……」
薬学士「まあね」テヒヒ
魔晶石、その純度の高い物を、哲学者の石と呼ぶ
哲学者の石は、伝説の七魔女以外、未だに誰も完成させたことがないと言われている不老不死を司るアイテムである
その劣化版である魔晶石は、当然自然に結晶化することは極めて稀であるが、薬学士はこの山奥でわずかにそれを採掘することに成功していた
この事は表沙汰になれば、一部の力を求める魔王に攻められてもおかしくない事柄である
薬学士「だから、内緒ね?」ニシシ
料理人(なんとなくただ者じゃないとは思ってたけど……)
料理人(まさかこの子魔王の眷族……?)
料理人(……いや、だから悪いって事も無いか)
料理人(そうじゃなくて知り合い、と言うなら、私だって……)
11 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:52:27.84 ID:IlYXT6yAO
…………
薬学士「でね、東の森を北に行くと北湖があって、そこから川が流れてるの」
料理人「私、たぶんそこの川で魚取ったよ」
薬学士「料理人ちゃんが迷ってたのはあの辺りだね〜」
料理人「う……思い出した」グスン
薬学士「ごめん」ナデナデ
薬学士「でね、そこを少し南に行った所がキノコの群生地」
薬学士「北は高い山があるだけ、西も山を越えたら海」
薬学士「南に降りれば大きな街もあるよ」
料理人「ああ、そっちから来たんだ」
薬学士「そっちしか開けてないもんね」
料理人「ああ、それもそうか」
料理人「この辺りには魔王はいないの?」
薬学士「四人の魔王と二人の王がいるって聞いたけどそれから勢力図が変わってるかも分からないね〜」
料理人「ほとんどの魔王は隠れ住んでるし、分かりづらいのは仕方ないのかな」
薬学士「うっかり正体がバレたら命を狙われることもあり得るしね〜」
料理人「……」
料理人「……そうだね」
薬学士(あ、なんか地雷踏んだ?)
薬学士「一度家に帰ってお昼にしようか?」
料理人「うん、お昼も任せて!」
12 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:58:01.33 ID:IlYXT6yAO
…………
薬学士が椅子で涎を垂れ流しながらスライムのように揺れている
料理人は、大皿一杯の野菜炒めやカプレーゼ、バターライスなど、どんどん作っていく
料理人「色々野菜やスパイスが買えたから料理の幅が広がって助かったよ」
料理人「こんな田舎であんなに商品を揃えてやっていけるのかな?」
薬学士「まあまあ沢山の人が住んでるのに、お店はそんなに無いからね〜」
料理人「ここの住民は何の仕事をして生活してるの?」
薬学士「山仕事や鍛冶が多いかなあ? 石を切ったり狩猟したり、あと学者さんなんかもいるよ」
そう噂をしていると、薬学士の家の扉が突然開いた
学者「おおおおお……」
料理人は一瞬メガネのアンデットが入ってきたのかと思って身構えてしまった
学者「……おなか減った……」パタン
薬学士「が、学者ちゃんも一緒に食べよ?」
学者「いただきます」シャキーン
料理人「?!」
学者の風貌自体は薬学士に似ている
身長はかろうじて160あるが、少し絵の具のようなもので汚れた薄い金の長髪がふわふわしている
何やら色々羽のついた大きな丸い帽子も、薬学士が愛用する帽子に似ている
13 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 02:03:44.36 ID:IlYXT6yAO
ただ、分厚いメガネにみすぼらしい衣服を更にだらしなく着込んでいる様は、一段も二段も彼女の魅力を落としていた
更には二十歳になったばかりであるのに、もはや老人のようなダレっぷり
料理人「仕方ない、ちょっと追加で作るから、食べてていいよ」
薬学士「ううん、一緒に食べたい!」
料理人「……仕方ないな」ポッ
料理人「ちょっと急ぐね」トントン
学者「死ぬぅ……死ぬぅ……」
料理人は初対面ながら、大人なんだからしっかりしろ、と激しく突っ込みたくなった
料理人「これ飲んでて」
学者「おおおお、スープですかい?」ゾゾゾ
学者「ごちそうサマーあ!」
料理人「はやっ」
料理人「作りがいあるなあ」
料理人は手早く小麦粉と卵をこねてキャベツを細切れにし、軽く混ぜ合わせて海鮮や豚肉をトッピング、焼いていく
料理人「あと何品作ろうかなあ?」
もはやテーブルでは二人の獣が今にもお皿を食べだしそうな雰囲気である
料理人「夜の仕込みもしたいんだけど、まずはこいつらの腹を満たさねば……」
とりあえずキャベツの残りを全部サラダにして、席についた
料理人「食べよっ」
薬学士「ほえっ、食べていいの?」ジュルッ
学者「いただきますう」パンッ
14 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 02:09:39.27 ID:IlYXT6yAO
戦争のような食卓、大皿に盛り付けた料理は小皿に取り分けた瞬間に蒸発していく……
料理人(食べられない)アハハ……
学者「むがぐがごもぐう」
料理人「口に入れたまま喋らない」
学者「むちゃくちゃ美味しいですよこれ! 何者ですかあなた!? 私は学者です。」
むちゃくちゃはアンタの喋り方だ、と突っ込みたいのを我慢する
料理人「普通の料理人だよ」
薬学士「学者ちゃんは毎日研究室に一日中籠もってて、いつもお腹を空かせてるんだよ〜」
料理人「はあ……不健康だな」
料理人「薬学士がいいなら、毎日食べに来させて」
学者「マジですかっ!? おおおお」
料理人「うるさい」
学者は爛々とした目で薬学士を見つめる
薬学士「いーよ、って言うかいつも食べに来てるし」
料理人「本当に駄目人間なんだな」
学者「面目ない……」
料理人「そもそもなんの研究してるの?」
学者「鉱石の解析や魔晶石の結晶化過程の研究、魔法菌類による土壌の変質などの研究ですねえ、はい、あと……」ペラペラペラペラ
料理人「……意外とまともな学者なんだな……」
学者の喋るそれは料理人には到底理解できないお話だった
料理人「人間見た目では馬鹿にできないなあ」
オリジナルファンタジーものです
一度に書きためてゆっくり更新します
地の文多いです
国語弱いし完成度も低めで拙いですが、応援よろしくお願いします
2 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:16:40.52 ID:IlYXT6yAO
高山地帯の村を東に少し降りた辺り、深い森がある
薬学士はそこで薬の材料になりそうな植物や鉱石を探して歩いていた
薬学士「ん〜、この辺り、キノコいっぱい生えてるなぁ〜」
薬学士「とは言え、迂闊に食べてお腹を壊しても困るし」
薬学士「薬学士を名乗ってるのに度々寝込むとか、有り得ないよね〜」
薬学士は身長も140センチ代の超小柄で、十五歳と言わないとお母さんの手を握ってアメを舐めていても違和感のない風貌である
そんな薬学士が暗くて深い森の中を、ふわふわ、プカプカと歩く様は、まるで闇夜のクラゲさながらである
薬学士「誰かキノコに詳しい人いないかなぁ……」
そんな薬学士を見つけて、食おうとする魔物も居ないわけがない
犬様の魔物「ぐるるる……」
その腹を空かせた魔物も例外なく、美味しそうなクラゲのように揺れる銀の長髪に見とれ、涎を垂らしていた
しかし魔物が駆け寄ろうとしたその時、大きな二つの目が光を引きつつその魔物を睨みつけ、それと同時に、赤いビー玉様の物体が投げられる
魔物「……キャウン!」
ブシッと言う音と共に弾ける赤弾は、魔物の顎を吹き飛ばすほどの威力を見せた
3 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:19:27.87 ID:IlYXT6yAO
薬学士「あうっ、威力調整間違えたぁ」
薬学士「ごめんね……」
薬学士は、もう暮れかけた森の中で自分を襲った魔物の墓を掘り始めた
薬学士「ふー、ふー」
薬学士「泥だらけになっちゃった……お風呂入りたい……」
薬学士は半分泣きべそをかきながら森の中で家路を急ぐ
ふと、赤々と燃える火の熱を感じた
料理人「……」パチパチ……
薬学士「……!」
薬学士「すみませ〜ん! こんにちは〜!」ブンブン
もはやこんばんはの時間であるし、暗闇で手を振っても見えるはずもないが、基本的なところでは抜かりなくボケている薬学士である
料理人「人……?」
その人物に出会った時の薬学士の最初の印象は、山賊か熊か、と言ったところであった
だが落ち着いて見てみれば、その人物、料理人は身長こそ170を超えてはいたが、神秘的な黒のショートに黒い目で可愛らしさも携えていた
年もまだ十六を数えたばかりである
料理人「キミみたいな可愛い子が、こんな夜の森で何をしてるの?」
薬学士にしてみればそれこそが相手に質問したかったことである
薬学士「あ、あの、あなたは?」
4 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:21:52.82 ID:IlYXT6yAO
料理人「……」
料理人「……迷った」グスッ
薬学士「……」
料理人「うう、恥ずかしい……」シクシク
大きな体で弱気な料理人が可愛くて、薬学士はいっぺんに彼女が好きになった
薬学士「そんなことないよ〜!」ダキッ
料理人「!?」
料理人(ヤバい、鼻血でそう)
薬学士「あ、ごめん、私泥だらけだった……」
…………
薬学士「ここから村までは三十分くらいだよ?」
薬学士「道は覚えてるから、一緒にいこ?」
料理人「うん、ありがとう……キミ可愛いね」
薬学士「あなたも可愛いよ〜!」
料理人「えうっ!?」
料理人「いやいや、こんな体格で可愛いわけないし……」ジワッ
正直、目の前の妖精に可愛いなどと言われると思わなかった料理人は思わず涙ぐんでしまった
その涙で火を消してすぐに彼女の家に押し掛けてしまいたいくらい衝撃的だった
料理人「……ところで、ここって魔物が出ると思うんだけど……」
薬学士「出るね」
薬学士「でも大丈夫、私が守ってあげるからね!」
料理人「えうっ!?」
料理人(どちらかと言えば私が守る側だと思うんですが……)
5 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:26:00.91 ID:IlYXT6yAO
料理人は焚き火に水と土をかけて消すと、念入りに踏みつける
火が消えれば一層暗くなったが、何故か薬学士の辺りが明るい
薬学士「これ? 今ね、ヒカリキノコの粉末をかけてるんだよ」ポスポス
料理人の疑問を悟ったように解説する薬学士
薬学士「私の灯りを追ってきてね? 足下には気をつけて!」
料理人「あ、あの」
薬学士「どうかした?」
料理人の問い掛けに妖精が振り返る
料理人「キミの名前は?」
薬学士「私? 薬学士だよ?」
料理人「そう……私は料理人、その、」
料理人「よろしく」
薬学士「うん!」
二人は暗闇の中、魔物を倒しながら薬学士の村、高山の麓を目指した
…………
薬学士「着きました〜!」
料理人「おお、助かった」
薬学士「私の家はこっちだよ!」
薬学士「汚れちゃったからお風呂入ろ〜?」
料理人「有り難いなあ」
薬学士「一緒に入っちゃう?」クププ
口元に小さく握った手を当てて笑う薬学士は、とても可愛い
料理人(いたずら妖精さんや、いたずら妖精さんがおるで!)
村に入ってすぐに、薬学士の家に着いた
薬学士一人が住んでいるとは思えないくらいの、大きな屋敷だ……
薬学士「ちょっと待っててね〜!」パタパタ
泥まみれの体でゆったりと腰を掛けるわけにも行かず、料理人はしばらく家の中を走り回る輝く妖精さんを眺めていた
料理人(可愛いよ〜お人形さんだよ〜)
薬学士「あ、私の服流石に合わないと思うんだけど替えはある?」
料理人「うん、一人旅の途中だしね」
薬学士「そっか、どこか行く宛があるの?」
そもそもここは山奥の田舎の村で、山を越えても山が続くような最果てである
街を目指すならこんなところには居るはずもない
料理人「私は……この辺りでお店でも開こうかと思って」
薬学士「ほえ?」
こんな田舎で、と言い掛けたが、何か事情があるのかも知れなかった
薬学士(これ以上は聞かない方が良いのかな……?)
料理人「……」
…………
料理人「なんか悪いね」チャプッ
薬学士「いいんだよっ、気にしないで!」ゴシゴシ
二人は早速一緒に風呂に入って、お互いの背中を流したりしていた
料理人「うん、今晩の晩御飯は私が作るよ」
薬学士「ほんと? やったあ!」
…………
薬学士「湯船広くてよかったあ〜」アハハ
料理人「ごめんね、狭くしちゃって」
薬学士「ううん!」フルフル
笑顔で首を振る薬学士
7 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:35:40.48 ID:IlYXT6yAO
女同士で過ちなどあるはずがないと断じて思っている料理人も、思わず引き込まれそうな笑顔である
料理人(いいなあ、こんな可愛い生き物に生まれたかった)
薬学士「あ、そうだ、私昼はほとんど山に入るか部屋にこもってるんだ」
薬学士「予定が決まるまでうちでお留守番してくれないかなあ?」
料理人「いいよ!」
特に宿なども決めていない料理人には願ったり叶ったりな申し出である
それにこれはここに定住する足掛かりになる
出来ればこのふわふわの妖精を守ってやりたい気持ちも芽生えていた
そしてこの申し出は、本来お願いしなければならない立場の料理人を気遣って言ってくれたような気もする
迷子から救ってくれた恩返しもしなければならないだろう
…………
現在この世界には、破壊神を封じる五百余柱の魔王と、人間の王がせめぎ合って生活をしている
中には魔王同士の戦争や人間と魔王の同盟などもあるのだが、魔王を倒す度に危険な破壊神が現れるため、人間に敵対的な魔王はとても危険な存在として君臨していた
料理人の街もそんな魔王に目を付けられた人間の王の街であった
8 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:38:46.07 ID:IlYXT6yAO
料理人「ようするに、私は戦争から逃げ出してきたんだよ」チャッチャッ
料理人「そんな後ろめたいこととか悲しいことがあったわけじゃないんだけど」カン
料理人「あんまり周りの人が亡くなっていくのも嫌で……さ」チャプッ
料理人「はい、できた!」ゴトッ
薬学士「わあ〜!」
料理人は語りながらあっと言う間にテーブル一杯の料理を作り上げた
山で取ったばかりの香りきのこのパスタや川魚のマリネ、塩焼き、スープ、きのこサラダ、山菜の天ぷらなどなど……
薬学士にはちょっと作れないレベルの彩りの鮮やかな料理ばかりが一瞬で作られ並べられていく様が余りにインパクトが強くて、あまり話を聞いてなかったのは内緒である
元より若干大食いの気のある薬学士には、その大量の料理が輝く宝石のように見えた
薬学士「ほう……」ポタポタ
料理人「薬学士……涎すごいよ? じゃあ、いただいちゃおうか」ガタッ
薬学士「いたらきまーっ!」パンッ
料理人「いただきます」クスッ
薬学士「うまーっ!!」パクパクモグモグ
料理人「わあ、すごい食欲……なんか嬉しいなあ」
薬学士「だって美味しいよっ」
料理人「足りなかったら作り足すから慌てないでいいよ」フフッ
9 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:43:56.48 ID:IlYXT6yAO
二人は偶然にもお互い孤児であったことや、謎の師匠に仕えていたこと、旅の果てにこの村に着いたことなど、沢山の共通点を持っていた
初めから一目惚れに近くはあったが、あっと言う間に二人は仲良くなって、その日は一つのベッドで眠りについた
翌日ーー
薬学士「さて、今日は料理人さんの生活用品を買いにでかけるよ!」
料理人「気を使わないで、自分で揃えるから……」
薬学士「だいじょーぶ! わたしお金持ちだから!」ブイ
料理人「……怪しいお金?」
薬学士「ではないっ」
その朝、料理人が並べるハムエッグやトーストサンドやサラダを嬉しそうに頬張る薬学士
料理人はそれをハムスターを見るような目で見つめながら、朝食を終えた
食後、道具屋や寝具屋を巡る
巡りながら、時折薬学士が石を弄っている
薬学士「ん〜、流石にもうこの辺りには落ちてないかあ……」
料理人「何を探してるの?」
薬学士「魔晶石って石なんだけど、知ってる?」
料理人「魔晶石?」
薬学士「見た目は普通の石だけど削るとピンク色に光るんだよ」
薬学士「鑑定眼が無いとなかなか分からないけどね〜」
10 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:48:42.68 ID:IlYXT6yAO
料理人「それは何に使うものなの?」
薬学士「魔法剣から万能薬までなんでも」
料理人「はあ、そんなすごいものがあるの?」
薬学士「今は秘術って言われる程レアになってるから、取り引きも殆どされてないし、知らなくても無理はないかな?」
薬学士「取り扱いも難しいから迂闊に触らない方がいいかも」
料理人「そっか、薬学士はそれでお金持ちなのか……」
薬学士「まあね」テヒヒ
魔晶石、その純度の高い物を、哲学者の石と呼ぶ
哲学者の石は、伝説の七魔女以外、未だに誰も完成させたことがないと言われている不老不死を司るアイテムである
その劣化版である魔晶石は、当然自然に結晶化することは極めて稀であるが、薬学士はこの山奥でわずかにそれを採掘することに成功していた
この事は表沙汰になれば、一部の力を求める魔王に攻められてもおかしくない事柄である
薬学士「だから、内緒ね?」ニシシ
料理人(なんとなくただ者じゃないとは思ってたけど……)
料理人(まさかこの子魔王の眷族……?)
料理人(……いや、だから悪いって事も無いか)
料理人(そうじゃなくて知り合い、と言うなら、私だって……)
11 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:52:27.84 ID:IlYXT6yAO
…………
薬学士「でね、東の森を北に行くと北湖があって、そこから川が流れてるの」
料理人「私、たぶんそこの川で魚取ったよ」
薬学士「料理人ちゃんが迷ってたのはあの辺りだね〜」
料理人「う……思い出した」グスン
薬学士「ごめん」ナデナデ
薬学士「でね、そこを少し南に行った所がキノコの群生地」
薬学士「北は高い山があるだけ、西も山を越えたら海」
薬学士「南に降りれば大きな街もあるよ」
料理人「ああ、そっちから来たんだ」
薬学士「そっちしか開けてないもんね」
料理人「ああ、それもそうか」
料理人「この辺りには魔王はいないの?」
薬学士「四人の魔王と二人の王がいるって聞いたけどそれから勢力図が変わってるかも分からないね〜」
料理人「ほとんどの魔王は隠れ住んでるし、分かりづらいのは仕方ないのかな」
薬学士「うっかり正体がバレたら命を狙われることもあり得るしね〜」
料理人「……」
料理人「……そうだね」
薬学士(あ、なんか地雷踏んだ?)
薬学士「一度家に帰ってお昼にしようか?」
料理人「うん、お昼も任せて!」
12 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 01:58:01.33 ID:IlYXT6yAO
…………
薬学士が椅子で涎を垂れ流しながらスライムのように揺れている
料理人は、大皿一杯の野菜炒めやカプレーゼ、バターライスなど、どんどん作っていく
料理人「色々野菜やスパイスが買えたから料理の幅が広がって助かったよ」
料理人「こんな田舎であんなに商品を揃えてやっていけるのかな?」
薬学士「まあまあ沢山の人が住んでるのに、お店はそんなに無いからね〜」
料理人「ここの住民は何の仕事をして生活してるの?」
薬学士「山仕事や鍛冶が多いかなあ? 石を切ったり狩猟したり、あと学者さんなんかもいるよ」
そう噂をしていると、薬学士の家の扉が突然開いた
学者「おおおおお……」
料理人は一瞬メガネのアンデットが入ってきたのかと思って身構えてしまった
学者「……おなか減った……」パタン
薬学士「が、学者ちゃんも一緒に食べよ?」
学者「いただきます」シャキーン
料理人「?!」
学者の風貌自体は薬学士に似ている
身長はかろうじて160あるが、少し絵の具のようなもので汚れた薄い金の長髪がふわふわしている
何やら色々羽のついた大きな丸い帽子も、薬学士が愛用する帽子に似ている
13 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 02:03:44.36 ID:IlYXT6yAO
ただ、分厚いメガネにみすぼらしい衣服を更にだらしなく着込んでいる様は、一段も二段も彼女の魅力を落としていた
更には二十歳になったばかりであるのに、もはや老人のようなダレっぷり
料理人「仕方ない、ちょっと追加で作るから、食べてていいよ」
薬学士「ううん、一緒に食べたい!」
料理人「……仕方ないな」ポッ
料理人「ちょっと急ぐね」トントン
学者「死ぬぅ……死ぬぅ……」
料理人は初対面ながら、大人なんだからしっかりしろ、と激しく突っ込みたくなった
料理人「これ飲んでて」
学者「おおおお、スープですかい?」ゾゾゾ
学者「ごちそうサマーあ!」
料理人「はやっ」
料理人「作りがいあるなあ」
料理人は手早く小麦粉と卵をこねてキャベツを細切れにし、軽く混ぜ合わせて海鮮や豚肉をトッピング、焼いていく
料理人「あと何品作ろうかなあ?」
もはやテーブルでは二人の獣が今にもお皿を食べだしそうな雰囲気である
料理人「夜の仕込みもしたいんだけど、まずはこいつらの腹を満たさねば……」
とりあえずキャベツの残りを全部サラダにして、席についた
料理人「食べよっ」
薬学士「ほえっ、食べていいの?」ジュルッ
学者「いただきますう」パンッ
14 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/14(金) 02:09:39.27 ID:IlYXT6yAO
戦争のような食卓、大皿に盛り付けた料理は小皿に取り分けた瞬間に蒸発していく……
料理人(食べられない)アハハ……
学者「むがぐがごもぐう」
料理人「口に入れたまま喋らない」
学者「むちゃくちゃ美味しいですよこれ! 何者ですかあなた!? 私は学者です。」
むちゃくちゃはアンタの喋り方だ、と突っ込みたいのを我慢する
料理人「普通の料理人だよ」
薬学士「学者ちゃんは毎日研究室に一日中籠もってて、いつもお腹を空かせてるんだよ〜」
料理人「はあ……不健康だな」
料理人「薬学士がいいなら、毎日食べに来させて」
学者「マジですかっ!? おおおお」
料理人「うるさい」
学者は爛々とした目で薬学士を見つめる
薬学士「いーよ、って言うかいつも食べに来てるし」
料理人「本当に駄目人間なんだな」
学者「面目ない……」
料理人「そもそもなんの研究してるの?」
学者「鉱石の解析や魔晶石の結晶化過程の研究、魔法菌類による土壌の変質などの研究ですねえ、はい、あと……」ペラペラペラペラ
料理人「……意外とまともな学者なんだな……」
学者の喋るそれは料理人には到底理解できないお話だった
料理人「人間見た目では馬鹿にできないなあ」