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ブラックホール「なにぶん、悪気や悪意はないもので」
Part1

ブラックホール「なにぶん、悪気や悪意はないもので」
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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 21:21:37.63 ID:PudWixl40
「ちょっと想像してみて。もしも、私とあなたの距離が、10光年離れていると仮定して」
唐突にそんなことを言われても困る。
10光年という距離がどれほどのものなのか。
いまいちピンと来ないながらも、耳を傾ける。
「それがどのような意味を持つかと言うと、どれだけ高性能な望遠鏡を使っても、10年前のお互いの姿しか観測出来ないということなの」
「へぇ」
なんとなく、言ってる意味はわかる。
10光年先には、光が伝わるのに10年かかる。
だから、10年のタイムラグが生じるのだろう。
「だからあなたが望遠鏡を覗いて、たとえ私に一目惚れしたとしても、それは10年前の私」
「そしたら俺は、完全にロリコンになるな」
「そう。そして私は、ショタコンになるの」
小難しい話題のわりに結論はくだらなかった。

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 21:25:43.01 ID:PudWixl40
「私はショタのあなたに告白すると思う」
「そしたら俺もロリのお前に告白するよ」
「でもそれがお互いに伝わるのは10年後」
望遠鏡を覗いて、好きだと口にする。しかし。
その口の動きが伝わるのには、10年を要する。
口パクの告白でしかないのに、もどかしい。
「10年後の私は、あなたの告白を喜べない」
「どうしてだ?」
「あなたが恋したのは、10年前の私だから」
なるほど。そうなるのか。それは非常に困る。
どうにか出来ないものか、悩みに悩んだ末に。
とても簡単な解決策があることに、気づいた。
「だったら俺は、1秒ごとに、告白するよ」
すると、吃驚したような顔をして、赤面した。
「……10年後の私は、きっとドン引きするわ」
「でも、そうすれば伝わるだろ」
「ええ、あなたが重いってことは伝わるわね」
「思いだって、想いだって、伝わる筈だ」
「なるほど。光速の想いは、重いわけね」
「どういう意味だ?」
「質量ある物質は光の速さに近づくにつれ、どんどん重くなるのよ。それで、動けなくなる」
言葉に質量があるかは不明だがしっくりきた。

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 21:28:01.45 ID:PudWixl40
「でも、どうかしらね」
「なんのことだ?」
「そんなに好きと言われると、軽くなるかも」
そう言われると、そんな気もする。チャラい。
「じゃあ、1年に一度、とか?」
「そうね。その頻度なら、ロマンチックかも」
うっとり頬を染められ、照れ隠しに嘆息した。
「女って、面倒くさいな」
「男って、頭が悪すぎる」
頭が良い女と話すのは、楽しい。
頭が良くなりたいとは思わない。
たぶん、楽しく、なくなるから。
「でも、会って話せないのは寂しいな」
「だからこそ、愛しいと思えるんじゃない?」
「直接会って、話して、触れ合うのが一番だ」
「下心が見え見えよ。最低ね」
とか言いつつも、上機嫌で、クスクス笑った。

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 21:30:15.48 ID:PudWixl40
「ワープとか出来たらいいのにな」
「瞬間移動みたいな?」
「そうそう、それそれ」
瞬間移動や転移魔法があれば、すごく便利だ。
「でも、そこに居るのは10年後の私なのよ?」
「あっ」
「それが、好きな相手だと、認識できる?」
どうだろう。想い人を、認識出来るだろうか。
「やっぱり、直接会わない方がいいかもね」
「そ、そんな……!」
「どんな答えでも、きっと軽く感じちゃうわ」
10年後の姿の相手を、認識出来たとして。
それでも、好きだと、伝えたとして。
結局は、お互い、出会ったばかりなわけで。
ましてや、10年前の相手に恋していた癖に。
その告白に、どれほどの重みがあるのだろう。

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 21:33:29.71 ID:PudWixl40
「だからこそ、光速は超えられないのかもね」
それは聞き覚えがある。光速は超えられない。
軽くならないように、ズルを、しないように。
そんな風に世界の法則は出来ているのだろう。
「でも、俺は……」
「空間の跳躍も、もちろんズルだから」
「そんなことはわかってるけど!」
わかっていても、届けたい気持ちがあるんだ。
「やっぱり、あなたって重すぎ」
そうなのだろうか。でも、軽くなるのは嫌だ。
「……まるで、ブラックホールみたいね」
「えっ?」
「重すぎて、抜け出せられなくなりそう」
「……悪かったな」
貶されていると思って、拗ねると、笑われた。
「あっ。落ち込んだ」
「ほっといてくれ」
「またそうやって、私を飲み込もうとする」
別にそんなつもりはない。闇に堕ちただけだ。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 21:35:27.82 ID:PudWixl40
「ブラックホールのことを教えてあげる」
完全にへそを曲げても、おかまいなしに語る。
「そもそも重さというのは、空間の歪みなの」
「空間の歪み?」
「おっ? 興味あるんだ?」
つい反応してしまい、ブラックホール失格だ。
「質量ある物質の存在は、空間を歪ませる」
「なんか、カッコいいな」
「でしょ? 一番重いのが、ブラックホール」
なるほど。最強の重力魔法を操るラスボスか。
「なんか、くだらない妄想してない?」
「男のロマンだ」
「やっぱり、男って、頭が悪すぎる」
呆れて嘆息しながらも楽しそうに話を続ける。
「ブラックホールは、空間の落とし穴なのよ」
「悪い奴なのか?」
「悪気や悪意はないと思うけどね」
余計にタチが悪いな。それが自分とか悲しい。

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 21:37:42.67 ID:PudWixl40
「私たちの身の回りにも、空間の歪みはある」
「たとえば?」
「地球だって、月を離さないでしょ?」
そう言われるとそうだ。月は地球の虜である。
「その地球も、太陽に囚われていて、太陽でさえ、天の川銀河の中心にあるとされる、ブラックホールに捕まって、永遠に離れられないの」
なにそれ。ブラックホールって、すごすぎる。
「だから、重たいあなたは、とても魅力的よ」
なにそれ。そんな褒め方されると嬉しすぎる。
「だったら、その、俺と……」
今しかないと思い、モジモジと告ろうとして。
「もっと強引に出来ないの?」
なんか、ガッカリされたので、言い訳をする。
「なにぶん、悪気や悪意はないもので」
「ちなみに、私は悪気や悪意がありまくりよ」
薄々わかってはいたが、タチが悪い女である。

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 21:40:21.99 ID:PudWixl40
「もしもお前が、10光年先に居たとしても」
落ち着いて、冷静に、学んだことを活かして。
「俺の想いは、決して、君のことを離さない」
これでいい。これでいいのか? 大丈夫なのか?
「……カッコつけすぎ」
「あっ……すみません」
ダメだね。いいわけなかった。振られました。
「振られても、離さないんでしょ?」
「えっ?」
「何度振られても離してくれないんでしょ?」
「いや、それはさすがに……」
ただのストーカーじゃんと、引き下がったら。
「離さないで」
「あ、はい」
「二度と、離れるつもりはないから」
「お、おう」
「1年ごとに、今と同じ言葉を、私に言って」
「それはいくらなんでも恥ずかしいというか」
「言いなさい」
「あ、はい」
「約束よ」
「……わかったよ」
「これから、よろしくね?」
「ああ……こちらこそ、よろしく」
なんか逆に捕まってしまって告白は成功した。
【10光年先の相手への告白の仕方】
FIN

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 21:43:36.95 ID:PudWixl40
引き続き、もう一作品、投稿します。
とはいえ、本編とは一切関係ありませんので、興味ある方だけでお愉しみください。
それでは以下、おまけです。