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アンパンマンは涙を流せない
Part1


1 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:33:52.89 ID:i0YGmWPl0
ということに気づいてから、なんか厨二病が発動したので
妄想SSを勝手に書いていこうと思う。

2 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:35:03.79 ID:i0YGmWPl0
優しき心を持ち
全ての者に対して慈悲深く
自らを傷つけてまでも施しを与え
空を自由に駆ける
両の拳は分厚い鉄板すらも貫き
その体は何物も寄せつけない
ただ
ただ一つ、彼には欠点がある
そして、そのたった一つの欠点が故に
彼は
涙を流せない

3 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:37:01.43 ID:i0YGmWPl0
「パトロールに行ってきます」
「いってらっしゃーい」
皆の声がアンパンマンを送り出す。パン工場の煙突から、
アンパンマンは勢い良く飛び出していった。
その勢いのまま森の方へと向かう。
目の前には青く広がる空。眼下には一面緑の絨毯。
心地良い風を感じながら、赤いマントがなびいている。
何も変わったことは無い。穏やかな一日の始まり。
アンパンマンが、森を抜ける小道にさしかかると、
楽しそうな子供たちの声が聞こえてきた。
小学校の子供たちが、列を成して歩いている。先導しているのはみみ先生だ。
「あ、アンパンマンだ!」「おーいアンパンマン!」「パトロール頑張ってね!」
空を指差して、子供たちがアンパンマンへと声をかけた。
それに答えるように、アンパンマンは手を大きく振る。
アンパンマンはそのまま気持ち良さそうに飛び続けた。

4 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:38:55.13 ID:i0YGmWPl0
森を抜けると今度は広大な野原が広がっていた。
色とりどりの花々が、鮮やかに世界を彩る。
「今日もいい天気だなぁ」
アンパンマンの声は弾んでいた。今日は困っている人の声も聞こえない。
バイキンマンが悪さをする様子も無い。平和な、幸せな一日。
そういえば、さっきの子供たちはピクニックをしているみたいだった。
もし、このまま何も起こらなければ、お昼ごろお邪魔するのいいかもしれない。
楽しい光景を想像していたら、アンパンマンの顔にも自然と笑みが浮かんでいた。
その時だった。

5 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:41:54.96 ID:i0YGmWPl0
遠く、子供たちがいた森の方で、一瞬眩い光が見えた。
爆音。
その光に遅れること数秒。アンパンマンの耳に爆音が届いた。
それは聞いたことの無いような音だった。バイキンマンのものとは違う。
もっと、何か、不純物を多分に含んでいるような、そんな音。
微動だに出来ないアンパンマンを動かしたのは、二回目の爆音だった。
今度は街の方から聞こえた。
しかし、異変はそれで収まらなかった。
異変が異変を呼ぶように、次々と爆発音が耳に入ってきた。
あちらこちらで煙が昇っている。
こんな状況をアンパンマンは知らない。

6 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:42:47.32 ID:i0YGmWPl0
一日に起こる異変は、いつも一つ限りだった。
そちらの方へ飛んでいけば、バイキンマンが居て、悪さをしている。
起こりうる問題はすぐに解決出来た。
それは単純な図式によって成り立っていた。
しかし今はどうしていいか分からない。
どこへ飛んでいけばいいのかが分からない。
世界が、自分達の世界が、大きな何かに蝕まれていった。

7 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:46:54.14 ID:i0YGmWPl0
「アンパンマン!」
聞きなれた声が耳に入った。アンパンマンは視線を声の方へと向ける。
「食パンマン…」
すぐ傍まで食パンマンが飛んできていた。
この異変に食パンマンも気付いているのだろう。その顔は不安で塗り潰されていた。
「一体どうなっているんですか?この状況は」
「僕にも分からない。どうすればいいのか分からないんだ」
「アンパンマン!こんな時に私達が解決しないでどうするんです!?」
しかし、二人が持っているカードは全く一緒だった。こんな状況で出せるカードは無い。
臨機応変という言葉は存在しなかった。
相手を頼りにしても、解決方法が提示されるはずもなかった。

8 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:48:03.52 ID:i0YGmWPl0
「とにかく、私はバイキンマンの所へ向かいます!
 この騒ぎもまたバイキンマンの仕業かもしれない」
その言葉を占める大半が、食パンマンの希望であることに、アンパンマンは気付いていた。
「じゃあ僕は一度パン工場に戻ってみます」
二人は顔を見合わせ、お互いの健闘を祈るように、一度だけ大きく頷いた。
そして、自らの目的地へと飛び去っていった。

9 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:51:57.51 ID:i0YGmWPl0
パン工場のドアが開いた。
アンパンマンがパトロールに行ってから、暫く経ってのことだった。
ノックは無かった。唐突に、勢い良く、ドアは開かれた。
その音に驚いたバタ子さんは、身をすくめ、声を出せずにいた。
ジャムおじさんも、異変に気付く。けれどいつものように、
優しい口調でドアの方へと話しかけた。
「おやおや、見慣れないお客さんだね。私らのパンを食べにきたのかい?」
ドアには数人の男が立っていた。皆一様の服を身にまとっている。
身長はジャムおじさんよりも高く、その顔は小さい。
この世界では珍しい体格をしていた。

10 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:53:05.58 ID:i0YGmWPl0
中心に立っていた男は、張り付いたような笑みを浮かべていた。
「ヤーヤーヤーヤー。これはこれはパン工場の皆さん、ごきげんよう。
 あいにくお腹がいっぱいでね。パンはご遠慮しておこう」
「おや、そうかい。それじゃあどうしたんだい?」
その問いに答えること無く、一人の男が無遠慮に中へと入ってきた。
「これが、かの有名なアンパンマンを製造する工場か。素晴らしい」
「そうだよ。凄いだろう。でも君、勝手に人の家に入ってはいけないよ」
ジャムおじさんは、あくまでルールを守ろうとした。
この世界のルール。単純明快な図式にのみ構成されているルール。
悪いことをした者には、注意しなくてはならない。

11 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:54:17.66 ID:i0YGmWPl0
男が振り向いた。その顔には、不気味な笑みが張り付いたままだった。
「ヤーヤーヤーヤー。この技術は我々の想像の範疇を超えているよ。理解しがたい。
 それ故に、失うのは非常にもったいないとしか言いようが無いね」
「さっきから何を言っているんだい?」
「うんうんうんうん。我々にとって、障害となる因子。分かるかい?そう、アンパンマンだよ」
「おや、アンパンマンならさっき、パトロールに行ってしまったよ。でもすぐ帰って来ることだろう。
 そうだ、美味しいお菓子があるんだよ。帰って来るまで、一緒にお茶でも飲むかい?」
 
心なしか、ジャムおじさんの口調は早まっていた。
お茶を取りに行こうとしたジャムおじさんを、男は制止する。

12 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:57:38.56 ID:i0YGmWPl0
「アンパンマンの能力はまさに冗談と言える代物だ。
 不死身の肉体を持ち、空を自由に飛び回る。
 そしてその拳は、巨大な岩さえ打ち砕くと聞いている。
 しかしながら、喜ばしい事に、我々は安全なのだよ。安心してもらいたい。
 なぜならこうして、今、パン工場に立っているのだから」
「…君たちは、何をしに来たんだい?」
男は、何も答えず、懐から取り出した物をジャムおじさんへと突き付けた。
それは、ジャムおじさんにとって、初めて見る物体だった。
鈍い光を放ち、この世界には存在しない概念で固められている。
ジャムおじさんの額に、冷たい金属の感触が伝わった。
「バタ子さんや、アンパンマンを呼んできてくれないかい?」
突き付けられた拳銃。
死、という概念。
笑みを浮かべる男。
その全てがルールの外からやってきた。

13 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/02(水) 22:59:07.38 ID:i0YGmWPl0
それでもジャムおじさんは自分のルールに従った。
危機が迫ったのなら、アンパンマンを呼ばなくてはならない。
手の平には、今まで掻いた事の無い汗が滲んでいる。
視線の先にいるバタ子さんに、不安を与えたくは無かったが、
声は微かに震えてしまった。彼女は口元に手をあて、固まったように動かない。
「バタ子さん。アンパンマンを…」
「それには及ばない」
ジャムおじさんの言葉を遮るように、乾いた破裂音がパン工場に響き渡った。

16 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/03(木) 18:58:07.35 ID:K1mSpJS+0
「頑張ってね!アンパンマーン!」
空に向けて子供たちは手を振っていた。アンパンマンも答えるように手を振っている。
暖かい太陽の光に、子供たちは目を細めた。
アンパンマンは視界の外へと飛び去っていった。
「今日は楽しいピークニック!みんなで楽しいピクニック!」
楽しそうに、誰かが歌い出した。それにつられて、いつのまにか子供たち全員が歌い出していた。
「ほらほら。みんな、ちゃんと歩きなさい」
振り向いて、そう子供たちに注意を促すのは、みみ先生だった。
困った顔をしているものの、その表情は幸せに満ちている。
楽しくお喋りしながら、子供たちは森の小道を歩き続けた。

17 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/03(木) 18:59:28.32 ID:K1mSpJS+0
「あーぁ。早くお昼ご飯食べたいなぁ〜」
「僕もお腹減っちゃったよ」
歩きながら、カバ夫くんとピョン吉くんはお腹に手を当てていた。
「もう。二人とも食いしん坊なんだから。あとちょっとなんだから我慢しなさい」
ウサ子ちゃんのその口調は、まるで二人の母親のようだ。
それに反抗するようにカバ夫くんが声高に言う。
「だって、今日のお昼はどんぶりまん3人の特製丼なんだよ!」
その目は真剣そのものだ。カバ夫くんの迫力に、子供たちの視線はどんぶりまん達に注がれた。
「そうそう。あたしのてんどんは世界一ざんすからねぇ。皆たのしみにするざんす」
「何を言ってるのかね。ミーのカツドンが世界一ね」
「オラの釜飯が世界一だべ〜」
いつものごとく、3人の小競り合いが始まる。その光景を見ながら楽しそうに笑う子供たち。
当の3人も、いつのまにか笑い声に包まれていた。
その時、確実に迫っている異変に、誰も気付かないでいた。

18 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/03(木) 19:01:43.93 ID:K1mSpJS+0
丁度、森の広場が見えてきた頃だった。
耳をつんざくような、甲高い金属音が響いた。
「キャー」そう声をあげたのはウサ子ちゃん。
「うわぁ」情けない声をあげているのはカバ夫くん。
皆それぞれ、得意の反応を示した。何かおかしな事が起こった時にする反応。
答えが先に分かっている時の、お決まりの反応だった。
「みんな大丈夫?」
すぐさま、みみ先生が子供たちに声をかける。この世界でのルール。
「うん大丈夫だよ、先生」
子供たちがそう答えようとした時
どさり
と、音がした。何かが地面に倒れこむ音。

19 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/03(木) 19:07:14.31 ID:K1mSpJS+0
音のした方向へ、皆が視線を向ける。
そこに倒れていたのは、かまめしどんだった。
けれどその違和感に、そこにいる誰もが声を出せずにいた。
かまめしどんの頭部、釜の部分が粉々に砕けていた。地面には釜飯が散らばっている。
その瞬間、なぜだろうか、見慣れているはずの釜飯が、
得体のしれない奇妙な何かに見えてしょうがなかった。
「きゃああああああああああ」
ウサ子ちゃんが、生まれて初めての悲鳴を上げた。
ルールにそぐわない、平和な世界を切り裂く声。
その悲鳴が合図だっかのように、森の影から多くの男が現れた。
「子供たちはなるべく傷つけずに捕らえろ。抵抗するものは殺して構わん」
男の一人が静かな声で言う。一斉に男たちの手によって子供らが捕らえられた。
無機質な、無駄の無い動き。
叫び声と悲鳴が、森の木々へと吸い込まれていった。

20 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/03(木) 19:10:35.48 ID:K1mSpJS+0
初めての状況だった。
カツドンマンは動けずにいた。
自分達のルールに当てはめることが出来ない。
かまめしどんは、いつもの弱弱しい声を出すことなく、
釜の大半が醜くひしゃげ、地面に伏せている。
子供たちは聞き慣れない悲鳴をあげている。
それらに対して、男達は一切の反応を見せていない。
こんな光景は見たことが無い。
それでも、一つだけ、カツドンマンにはするべき事が分かっていた。
子供たちを助けなくてはいけない。
子供たちが連れ去られそうになっている。その犯人がバイキンマンでなくても構わない。
今、子供を助けるのが、カツドンマンの出せるただ一つの答えだった。
「子供たちから手を離すね!」
その声に、男達は振り向きもしなかった。無意識に息を呑んだ。
自分の知らないルールに打ちのめされる。
カツドンマンの世界が、ぐにゃりと、形を歪めていく。
「こ、子供たちから、手を離すね!」
そう叫んで、カツドンマンは男達へと向かっていった。

21 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/03(木) 19:12:49.81 ID:K1mSpJS+0
-----カツドンマンは、地面から立ち上がった。全身砂まみれだった。
辺りを見回す。けれど目に入るのは、森の木々と、青い空。
そして地面に伏しているかまめしどんだけだった。
男達も、子供たちも、みみ先生も、この場から消え去っていた。
「てんどんまんは?」
ふと気付いたように、カツドンマンは友の名前を口にした。
記憶には、自分と同じように男達と戦うてんどんまんの姿があった。
連れ去られてしまったのだろうか。
もしくは、傷付いてどこかに倒れているのだろうか。
どちらにしても、探さなくてはいけない。
懸命に、周囲に目を凝らした。遠くの方、森の広場の中心で、何か動く物があった。
カツドンマンは広場へと走っていった。

22 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/03(木) 19:16:28.52 ID:K1mSpJS+0
広場の中心には木が一本立っていた。陽の光を遮るように葉が広がっている。
その木陰の中に、てんどんまんが座っていた。
「てんどんまん、大丈夫かね?」
カツドンマンがすぐに駆け寄る。
てんどんまんは、その体を木に縛り付けられ、口はテープで塞がれていた。
そしてぐったりと、首をもたげている。
てんどんまんが、カツドンマンに気付いた。目を見開き、涙を流しながら、弱弱しくうなっている。
「大丈夫ね。今すぐ助けてやるからね」
口元のテープを一気に剥がす。テープが剥がされると同時に、
てんどんまんはかすれた声で何かを言った。
乾いた息に混じって、カツドンマンには聞き取れなかった。
「どうしたね?もしかして、あいつらに天丼を抜かれてしまったのかね?
 安心するね。今すぐミーのカツドンを分けてやるからね」
その言葉にてんどんまんは大きく反応した。けれど力が出ず、カツドンマンを止めることが出来ない。
「大丈夫だから。ちょっと待つね。空っぽのどんぶりじゃ可哀相だからね。」
そう言いながら、カツドンマンがてんどんまんの蓋を開ける。

23 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/03(木) 19:27:27.94 ID:K1mSpJS+0
ピン
と、ガラスを爪はじいたような、小気味良い音がした。
カツドンマンが覗くと、予想に反し、中は空っぽでは無かった。
見知らぬ緑の球体がひしめきあっていた。
それが何であるかカツドンマンには分からなかった。考えることも出来なかった。
この世界には存在しない異質な物体。
M67破片手榴弾。
てんどんまんの涙が、地面へと落ちていく。
「開けては…ダメざんす…」
その叫びは、眩い光と爆音に包まれ、カツドンマンに届くことはなかった。

27 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/05(土) 00:15:38.88 ID:LFIm09ZV0
「はじめまして、バイキンマン」
バイキン工場の中、いつの間にか一人の男が立っている。
バイキンマンは声も出せずに振り向いた。
いつ入って来たのか。
なぜそれが分からないのか。
もしこっそり入って来たと言うなら、頭から煙を出して怒鳴ることが出来るはずなのに。
なぜ・・・
「お前ら誰だ!オレ様の城に勝手に入ってきやがって。さっさと出てけ!」
なぜ、自分の声は震えているのか。

28 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/05(土) 00:19:30.42 ID:LFIm09ZV0
「バイキンマン、あなたはアンパンマンを倒したいですか?」
「なにぃ?」
「言うなれば、私達はあなたの味方ですよ。
 私達にとってもアンパンマンは邪魔な存在だ。
 一緒にアンパンマンを倒しましょう」
男は笑みを浮かべている。
その異様な雰囲気に、バイキンマンはたじろいだ。
「いいから出てけ!」
「協力と言っても、実際に手を下すのは我々がやります。
だからあなたには、アンパンマンに関する情報を提供していただきたい」
「うるさい出てけ!オレ様は誰の手も借りん。何よりお前らが気に食わない!」
「そう、ですか。それは残念だ。我々は今、非常に悲しい気持ちになりました」
言葉とは裏腹に、男は変わらない笑みを浮かべていた。
バイキンマンの声が大きくなっていた。
「分かったらさっさと出てけ!」
男は溜息をつく。やれやれ、とでも言いたげに首を振った。
「致し方無い。こういう方法を取らせていただく」
男が手の平を、肩の位置に上げた。

29 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/05(土) 00:29:17.66 ID:LFIm09ZV0
それが合図だったのか、複数の男達が突如現れた。
男の肩には誰かが担がれている。バイキンマンの表情が強張った。
「何するのよ!レディにヒドいじゃない!」
「ドキンちゃん!!」
後ろ手を縛られたドキンちゃんが、床へと転がされる。
「いったーい。もうホントいい加減にしなさいよね!」
ドキンちゃんは、まだ自分のルールに基づいていた。
けれどその姿を見て、バイキンマンの中では何かが変化していった。
「ドキンちゃんを離せ!」
「えぇもちろん。あなたが協力するとおっしゃってくれるのなら」
「バイキンマン!早くこいつら追っ払ってよ」
男達と、ドキンちゃん。
二つの世界の狭間に、バイキンマンは立っていた。
バイキンマンは拳を握り締める。
「バイキンマン!」
ドキンちゃんの声に、バイキンマンは突然走り出した。
男達に背を向けて、この場から逃げ去るように走り出した。
それはルールとは違う行動だった。
「なんなのよもぉ!バイキンマンのバカァ!」
それは普段のドキンちゃんが言う台詞。ルールに基づいた台詞。
なのに、ドキンちゃんの声は、困惑の色で溢れていた。
不安な眼差しで、男達を見上げる。
何か大きなものに、呑み込まれていくようだった。

30 :ローカルルール変更議論中@VIP+:[]2009/12/05(土) 00:35:04.36 ID:LFIm09ZV0
「あららら。バイキンマンが逃げ出してしまいましたよ、ドキンちゃん」
男達が楽しそうに笑っている。
「あんたたち、何者なの?」
「あぁ。そういえば自己紹介がまだでしたね。
 しかし残念なことに、我々は、あなたがたのような、
 個々別なキャラクターを反映する名前を持ち合わせていないんですよ。
 名前を持っていることには持っているのですが、それは単なる記号にすぎない」
「何訳分かんないこと言ってんのよ。もうここには用は無いんでしょ。
 この縄ほどいて、早く出て行きなさいよ!」
「ですから、我々を呼ぶときには、総称を使っていただくに他ならないわけです」
「いいから、早く、出て行きなさいよ」
自分の知らない応答に、ドキンちゃんの声は小さく、かぼそくなっていった。
「なので我々を呼ぶ際には、人数や個々に関わらず、是非こう呼んで頂きたい」
ドキンちゃんの視線を受けて、男の笑みは一層強くなる。
「人間、とね」