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覗かれる妻
Part1

覗かれる妻〜裕子の決意〜
http://www.moedb.net/articles/1417965840

「あ〜、うちの店もこれくらい
 おいしいもの出さないとやっぱり駄目よね〜」
有機栽培された食材を使用した
週替わりメニューが売り物の小さなレストラン。
そこでランチを食べながら、
裕子は友人にそう話しかけた。
今週のランチ、
「シンガポール風チキンライス」
を注文した2人は、
チキンの茹で汁を使って炊き上げたご飯を
堪能しているところだった。
「でも、レストラン
 というよりもカフェなんでしょ、
 裕子さんのところのお店は」
裕子と食事を共にする友人、珠代は、
テーブル越しに裕子を見つめ、
微笑みながらそう声をかける。
長女が通う幼稚園で知り合った裕子に
初めてランチを誘われ、
珠代は駅前の裏通りにオープンしたばかりの
レストランにやってきた。
2歳になる下の娘は実家の母親に預けてきた。
4歳になった長女は今日もまた幼稚園だ。
入園して2ヶ月程度、
すっかり幼稚園に慣れた長女は、
毎朝、はしゃぎながら
通園バスに乗り込んで幼稚園に通っている。
浩介と珠代が今のアパートに越してきたのは、
次女が産まれてからである。
実家がそれほど遠くないとはいえ、
近所には珠代の同年代の友人はなかなかいなかった。
勿論、公園で娘たちを遊ばせていれば、
自分と同じような世代の女性に
出会うことも多かったが、
特に深く付き合うというわけでもなかった。
しかし、今春の長女の幼稚園入園をきっかけに、
それは少しばかり変わりそうであった。
珠代は、今後友人となれそうな女性達、
何人かに出会うことになった。
それは珠代が幼稚園PTAの役員に
なったことが大きかった。
PTA役員は全部で25名ほど。
当然、どの役員も子供を
幼稚園に通わせている母親ばかりだ。
役員決定後まだ1ヶ月程度だが、
既に会合は頻繁に開かれ、
互いの親密度は一気に増していた。
珠代は「ベルマーク係」として、
子供たちから集められるベルマークの集計とりまとめ、
という役割を担うことになった。
意識しない人間にとっては、
もはや疎遠なものといった印象だが、
ベルマークは食品、文房具、洗顔商品その他、
依然として多くの商品に印刷されている。
子供たちはそれを切り取り、
教室内の専用箱に随時提出をしている。
ポイント数、形も様々であり、
その仕分け、集計作業は簡単なものではない。
金銭が絡んでくるだけに、
ミスも許されない業務だ。
どう進めるべきかいろいろと試行錯誤する中、
一緒に相談をする相手が、
同じ「ベルマーク係」となった裕子であった。
裕子には、今年5歳になる、
年中クラスに通う息子がいた。
裕子と珠代は、お互いの家はやや離れていたが、
連絡を取り合うことも多く、
互いの境遇についても
少しずつ語り合う仲となっていた。
話題はやはり子供のことが中心であった。
性格、食べ物の好み、
好きなTV・キャラクター、
そして病気のこと・・・。
語り合うことはいくらでもある。
男の子と女の子では随分と違いがあり、
それがまた面白く、話を弾ませた。
そんな子供達の会話が一段落したときに、
裕子が口にしたのが、
レストランの食事を褒めるそのセリフであった。
「そうだけどね〜、
 でもやばいのよ、ほんと、私のとこ」
細かく刻んだ長葱の入った
チキン風味のスープを飲みながら、
裕子が珠代に答える。
裕子が言うには、彼女の夫は
15年近く真面目に勤めていた
中堅商社を昨年突然退職し、
自宅そばに小さなカフェを
オープンしたとのことだった。
会社員時代のコネクションを利用し、
南米から輸入した珈琲豆を
自家焙煎するのが売り物のその店は、
オープン当初は物珍しさもあり
客で溢れかえったのだが、
数ヶ月も経つうちに、少しずつ客足も遠のき、
現状では相当苦戦しているとのことであった。
「そんなに深刻なの?」
「うん。まじでやばいって感じ」
そのあっけらかんとした様子からは、
深刻さがどの程度なのか、
珠代にもなかなかつかみかねた。
「ご主人も大変でしょうねえ」
「いいのよ、あの人は。
 マイペースでやってるんだから。
 私のことなんかいつもほったらかしよ」
突き放したようなその言い方にも、
珠代は、裕子の夫への愛情を感じ取る。
「いいんじゃない、
 マイペースでやってれば。
 寛治君も元気に暴れまわってることだし」
寛治君というのが、裕子の息子の名前だ。
ウルトラマンが好きで、
家中を走り回っているらしい。
「まあ、そうだけどねえ・・・・」
裕子はそう答えながら、
ふと告白するかのように、
珠代の目を見て言った。
「実はね、急なんだけど、
 私、働こうかなって思ってて・・・」
「えっ、働くの?」
蒸したチキンを辛目の特製ソースに
つけていた手を思わず置き、
珠代は驚いてそう言った。
「うん・・・・。って言うか、
 もう決めちゃったんだけど・・・・」
「ちょっと待って、裕子さん!
 じゃ、ベルマーク係はどうなっちゃうのよ!!」
珠代が冗談めいて、裕子に迫る。
「珠代さん、ごめん、任せた!
 ・・・・・・ってのは冗談でさ、
 ははは。大丈夫、
 働くと言ってもパートで、
 毎日じゃないみたいだから」
薄いピンクのポロシャツに、
白いタイトジーンズという格好の裕子は、
珠代にそう説明する。
ローライズのそのジーンズは、
ちらちらと裕子の背中の
白い素肌を見え隠れさせている。
「主人がね、声かけられたみたいなの、
 奥さんをパートで働かせてみませんかって」
「へえ」
「何でも主人のカフェへの
 援助が絡んでるみたいでね。
 その仕事先はカフェの内装をした事務所なんだけど」
「あら、よさそうな仕事じゃない」
店内ではコールドプレイの新作が
上品な音量で流されている。
話を弾ませる2人のテーブルは、
窓際に置かれていた。
夏を思わせるような日差しが、
窓から差し込み、
テーブルをまぶしく照らしている。
窓からは忙しげに歩き去る人々、
そして狭い道を乱暴に進む車の姿が見える。
ランチを共にする2人の人妻。
ともに長身でスラリとした体型に、
整った顔立ちをしていた。
レストランの中でも2人はひときわ目立ち、
数人でランチをとる営業途中の会社員のグループも、
先程からちらちらと視線を投げかけていた。
「じゃ、裕子さん、
 それで少しはお金が助かるわね」
「そうなの。
 勤務時間もそんなに大変じゃなさそうだし、
 それに家からすぐのところだから。
 いいかなって思ってさ」
食後に出されたフルーツティーを飲みながら、
2人はくつろぎの一時を楽しんでいた。
欧州から輸入されたというその飲み物は、
まるでワインのように赤い。
店員によれば、
それはハイビスカスの赤ということで、
ビタミンが豊富に含まれ
美肌効果もあるとのことだった。
夏季メニューのためアイスとして
提供されたそのドリンクは、
主婦をターゲットにした
レストランらしいものであった。
「ねえ、珠代さん、
 ところでマイホームのほうはどうなったの?」
裕子が自らの話題を変えるように、
珠代に訊いた。
唐突なその質問に、珠代は少し戸惑う。
「えっと、工事はもう開始したのかな。
 上棟まではまだまだだけどね」
「場所はそんなに遠くじゃないんだよね」
「そうね。東京には一駅遠くなっちゃうけど、
 家から駅までの時間は今とそんなに変わらないかな」
「土地の件で少し揉めてるとか
 言ってたじゃない・・・・、
 じゃ、あれはうまく行ったの?」
「・・・う、うん。何とかね」
その裕子の質問に、
珠代は斉藤の家での一夜のことを思い出す。
それはまだ先週のことだった。
男達に激しく抱かれた感覚が蘇り、
体が僅かに熱くなるのを、珠代は感じる。
もっと・・・・・、もっと激しく・・・・・・
自分から、夫以外の男の体を求めた光景が、
珠代の脳裏に鮮明に映し出される・・・・。
「珠代さん、どうかした?」
会話を途切らせ、
何かを思い出すような表情をする珠代に、
裕子が声をかける。
「・・・ううん、何でもないわ」
そんな珠代を見つめながら、裕子は言う。
「でも、珠代さん、
 綺麗よね・・・。ほんと、
 年上には見えないわ」
「・・・年上って、
 失礼ねえ。たった3ヶ月じゃないのよ!」
珠代がふざけた口調で答える。
珠代と裕子は誕生日が僅かに
3ヶ月違うだけの同じ34歳であった。
2人にとってそれはちょっとした驚きであり、
親密になるきっかけにもなっていた。
「でも綺麗・・・・・・。
 何か、肌のつやとかますます
 磨きがかかった気がするけど。
 最近いいことあった?」
「べ、別にないわよ・・・」
裕子に指摘され、珠代はまた、
斉藤との行為を想い出す。
自分の本当の姿を知ってしまった女は、
やはり何か違った風に
見えてしまうのだろうか・・・・。
そんな思いを打ち消すかのように、
珠代は裕子に言葉をかける。
「裕子さんだって、
 そんなにスタイルいいくせに・・・・。
 パート始めたら人気出るわよ、絶対に」
「やめてよ〜」
「でも、とにかく楽しみね、そのお仕事」
「うーん、まあ、
 お仕事はどうでもいいんだけど、
 頂けるお給料は楽しみね〜」
「そりゃそうね」
同世代の友人と他愛もない
会話をしながら昼食をとる。
そんな当たり前だけど、
子供がいる母親には
なかなか手が届かない幸せを、
2人は今、感じていた。
=====
40を前にし、私は、
周囲の反対を押し切り、
それまで15年近く勤めてきた中堅商社を退職し、
自宅近くで小さなカフェを始めた。
元々飲食業には興味はなかったが、
昨年、同期入社の社員が突然病死し、
それ以降、自分の人生について
いろいろと考えた末の決断であった。
中間管理職としての職務、
意味の無い会議の連続、
朝晩の殺人的な通勤ラッシュ、
その全てに対する疑問を、
大半の人々はうまくやり過ごしながら、
退職の日まで完走するのだろう。
しかし私には、
どうしてもそれができなかった。
辞めるきっかけを探し始めたとき、
たまたま仕事の絡みで、
とある南米の珈琲園と知り合い、
日本への進出を図りたいということで、
こちらから一方的に提案をし、
いつのまにか退職、
そしてカフェ開店の準備へと
一気に突き進んでしまった。
「大変だと思うけど、応援してるからね」
退職以降、妻、裕子はその不安を隠しながら、
夫である私に励ましの言葉をかけ続けてくれた。
そして、カフェ「ミスティ・マウンテン」
はオープンした。
駅からはやや離れてはいるが、
通行量の多い幹線道路からの便はよく、
近くには小さな短期大学もある。
開店当初は思った以上のにぎわいを見せ、
会社時代の同僚社員たちも多く訪問してくれた。
女子大生のアルバイトも採用し、
滑り出しはなかなかに順調といえた。
しかしオープン1年も経たない
うちに事業は行き詰まり、
先行きは不透明なものとなっていく。
想像以上にランニングコストがかかり、
当初用意した資金も急速に消化、
それ以上の融資を銀行から獲得するのも難しく、
悪質な金融業者に手を出す
しかない状況に追い込まれていた。
そのときに私に手を差し伸べたのが、
近所で設計事務所を経営している山口という男性だった。
50過ぎの山口は、既に20年以上の実績がある、