魔法使い「メラしか使えない」
Part5
63 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:20:47.63 ID:i1fryCAAO
ぼごん、と言う音と共にドラゴンの頭がはじける
流石に頭を失っては竜と言えど命はない
こちらも指が折れた……
私はふらふらになりながら導師を起こす
導師「……あ……お師匠様……」
どうやら命は有るようだ
女兵士の方も起こしに行く
女兵士「前衛なのに真っ先にぶっ倒れて……申し訳ないっす」
そんなことよりドラゴンをさばこう
ついに憧れの竜の肉が手に入った
女兵士の剣で竜を裂く
血抜きをしてはらわたを取り出し、丁寧に皮を剥ぐ
これも高級品だ
持てるだけ持って帰ろう
そして肉をさばく
流石にこれだけの量を全部持ち帰るのは無理がある
ここでいくらか食べていこう
導師「んふふ」
野生の導師はのりのりである
塔の中で料理すると換気の問題で良くない
ひとまずドラゴンを導師の魔法と女兵士の腕力で塔から引きずり落とす
何か忘れてる気がするが……
気のせいか
ドラゴンを丁寧にさばき、大量の肉を手に入れた
とりあえず竜の皮を縫い合わせ袋を作りそこに詰め込んだ
これで最低三日は食べられる
残りは干し肉に
それでもまだまだ肉は余っている
悔しいが山野に返すしかない……が
64 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:23:01.64 ID:i1fryCAAO
その残った肉はこの場でステーキとハンバーグにする
どれだけ食べられるかは分からないが
まずは一枚、上等な腰の肉を焼く
塩胡椒する
肉汁が溢れ出し、芳醇な香りがあたりに広がる
導師「ん〜〜!」
女兵士「こっ、これは……」
二人のよだれがヤバい事になっている
焼いた一枚を三つに分けてとりあえず初めてのドラゴン肉を味わおう
導師「いただきますう〜!」
女兵士「いただきまっす!」
魔法使い「いただき」
口に入れた瞬間香ばしさと甘さが広がる
噛む度に旨味と脂の甘味が広がる
魔法使い「美味いっ!」
導師「美味しい!」
女兵士「ひゃ〜、最高!」
竜肉の薬効なのか全身の疲れが溶けるように無くなっていく
65 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:25:37.73 ID:i1fryCAAO
目的のドラゴンステーキを腹一杯食べた
もう一度ドラゴンと戦うのはキツいが、また食べたい
骨も薬品にできるので持ち帰りたいが、荷物は一杯なので諦めて放置
後で取りに来よう
さて、帰る前にハンバーグの下拵えでもしようかな
女兵士「さっきから何か忘れてないっすか?」
魔法使い「…………モツも食べてみるか」
女兵士「いや、そう言う話じゃなかったような」
導師「あーーーっ!」
あ、お姫様忘れてた
また塔に登らないと駄目なのか
面倒だから勇者に登らせたいが、まだ来る様子は無い
仕方ない
私達はまたゾンビだの仔竜だのを倒しつつ塔を登る
最初よりも楽々登れた
竜肉の効能で戦闘力が上がっているようだ
そして再び扉の前に立つ
私が鍵をメラで焼き切ると女兵士が力任せに扉を開いた
奥から可愛らしい女性の声がする
姫だろう
勇者であれば感動のシーンだろうが、私達には竜肉のついででしかない
消化イベントだ
姫「勇者様……じゃ無いみたいね」
姫「くっさ!」
姫「どこの田舎娘?」
なんだろう、どうでもいい相手に罵られると怒りが倍加する
66 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:27:29.96 ID:i1fryCAAO
魔法使い「置いてく?」
導師「ですね、なんか豪華な部屋でのんびりしてるみたいだし」
女兵士「これ、あのドラゴンが集めたのかな?」
女兵士が宝石に触るとお姫様の怒号が飛ぶ
姫「勝手に触らないで下さる?!」
姫「これは捕らわれた私を不憫に思ったお父様がわざわざ集めて下さった物なの、あなたのような下々の者が……」
言い終える前に平手打ちした
お姫様の首根っこを掴んで塔から落とす振りをする
姫「きゃあああああっ!」
どうもこの姫が城に帰っても良いことが無さそうだ
事故って事でちょっと落としてみるか
姫「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
魔法使い「他に言う事ある?」
魔法使い「辞世の句とか」
ちょっとからかっただけだが姫は泣き出した
導師「どうせ嘘泣きですけどそろそろ許してあげましょう」
魔法使い「うん、私も腕力無いから腕が痺れてきた」
女兵士「魔法使いですもんね」
姫「早く……助けて……」
おや、ガチ泣きでしたか
私は姫を引き戻してベッドに座った
ドラゴンの肉の薬効が切れてきたかも知れない
67 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:32:16.90 ID:i1fryCAAO
魔法使い「捕らわれてる間ご飯は何を食べてたの?」
姫「一応竜の使いが運んでくれた人間の料理を……」
姫「……ぐすっ」
薬が効き過ぎたようだ
魔法使い「竜の使いとやらが来たら面倒だし、降りる?」
女兵士「そっすね」
導師「姫様お腹空いてませんか?」
姫「えっと、空いてます」
導師「じゃあお肉食べます?」
姫「えっ?」
塔から降りると導師は非常食に吊り下げた袋から肉を取り出す
導師が選んだ肉……あれ多分巨人の肉だ
しかし姫は調理したその肉を美味しそうに食べた
導師「いたずらが過ぎましたかね?」
魔法使い「別に変な肉じゃないし、美味いし」
よく分からないフォローをしておいた
魔法使い「ここで勇者が来るのを待とうと思う、お姫様もそれでいい?」
お姫様は力無く頷いた
姫「勇者様、早く助けに来てください……」
勇者の事は特に好きでもないが、こんな性悪の相手をさせるのは申し訳ない気もする
何よりあの勇者はお人好し過ぎる
その夜はドラゴン肉の残りを食べ、姫にも振る舞った
姫「こんな上等なお肉……初めて食べましたわ」
魔法使い「ドラゴン肉です」
姫「えっ」
魔法使い「あなたを閉じ込めていたにっくきドラゴン肉です」
姫「は?」
68 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:35:25.03 ID:i1fryCAAO
姫「えええ〜〜〜っ!!」
導師「最高級の肉料理なのは間違いないですよ」
女兵士「私なんか生涯食べることも無かっただろうってくらい上等な肉ですよ?」
姫「ま、まあそれは分かりますわ……でも良く話をしていたものだから……あのドラゴンと……若干ショックで……」
そこでお姫様は気付いた
気付いてしまった
姫「昼のは、昼のお肉は?」
導師「あれは王国の街道を閉ざしていた、にっくき巨人の肉です」
姫「ふう……」
あ、気絶した
この姫も一週間くらい旅すれば野性に染まるのに
欲は大事だが分け与えることも同じだけ大事だ
獣の世界で独り占めなんかしたら殺される
そういう自然の摂理を学んでもらいたい
魔法使い「水を汲んでこようかな?」
導師「塔の北側に泉がありましたよ」
魔法使い「良く見てるね」
私はロバの非常食から荷物を下ろし、水袋だけを背負わせて連れて行く
姫「私も手伝わせてください」
は?
なんで?
姫「今回のことでよく分かりました、自分が口にする物はしっかり起源を調べないとダメだって……」
魔法使い「ちょっと成長したね」
69 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:38:27.03 ID:i1fryCAAO
魔法使い「私マージマタンゴ美味しそうに思うんだけど、どう?」
姫「あれ絶対毒ありますよね?」
魔法使い「青紫色のキノコだもんね」
姫「はあ……、私もそれくらい野生に染まった方が良いんですかね……」
魔法使い「まあオークの肉を躊躇なく食べられるくらいには」
姫「無理ですわ!」
魔法使い「自然の中では食える物は食わないと死ぬ」
魔法使い「しばらくは干した蟹モンスターの肉のスープやキノコ、山野草を食べてもらう」
姫「分かりましたわ……他に食べるもの無いんですよね……?」
魔法使い「味は最高に良いから、そこだけは保証する」
姫「あー、楽しみで仕方ありませんわ!」
まだ嫌味を言えるなら、元気だ
ドラゴンの肉が効いてるようだ
そう言えばドラゴンの肉には魔力を補う働きもあるのだが、私は魔力が尽きたことがない
メラ百発撃つと達人級の魔法使いでも疲弊する
私の魔力には底が無い……
泉に到着する
綺麗な水でお姫様も満足したようだ
水袋を洗ってから綺麗な水を貯める
姫「……この美味しい水も野生の物ですわね」
魔法使い「そう」
70 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:43:27.62 ID:i1fryCAAO
姫「私も少しはあなたのように強く……」
魔法使い「ん?」
姫「何でもありませんわ!」
その後ほとんど魔物の居なくなった塔で私達は眠った
火に当たれる野宿の方が楽ではあるが、塔の中の方が魔物の心配は少ない
やがて夜が明けた
この日も勇者は来ない
私達は付近の森で香草を取ったりした
肉はたくさん残っている
そろそろ魚も食べたいな
半魚人って食えるのかな?
釣るか
野草やキノコを採る間、ずっとお姫様も付いてきた
虫にも怖じないし、どうやら少し野生児に近付いてきたようだ
今のお姫様なら勇者を任せられる
後は動物を解体する所を見せてやろうかな?
まあ肉は大量に有るので当分そんな機会は無いが
姫「そう言えばあなた達は何のために旅をしてますの?」
姫「やっぱり魔王を倒すため……?」
どうも魔王を根っからの悪魔とするのも間違ってる気がしてきた
それに本質的な目的からはずれる
魔法使い「私にかけられた呪いを解くために」
姫「呪い……」
姫「西の魔法の町では?」
魔法使い「解けなかった」
姫「あらまあ……しつこい呪いですわね」
その言い方だと台所の汚れみたいだな
71 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:46:00.82 ID:i1fryCAAO
姫「ん〜、もう一つ可能性が有るとすれば、エルフの森ですかね?」
魔法使い「エルフ?」
姫「南の国が何度か交戦してるので危険ではありますが……長寿のエルフ達は私達の想像もつかないような秘術を持っていると聞きます」
姫「有名なのは飲み薬ですわね」
魔法使い「あの魔力を限界まで漲らせると言う……」
姫「そう、だから呪いを解く秘術もひょっとしたら……」
魔法使い「……有り難い情報」
姫「あなたのお役に立てて幸いですわ」
次の目標が決まった
私達が塔に帰ると導師と女兵士二人の他に人影が見えた
あれは……
魔法使い「あれ、勇者」
姫「えっ、勇者様?」
勇者は私に気付いた
港以来だろうか
少しは強くなったかな?
勇者「魔法使い!」
勇者は横にいるお姫様にも気付かず私に手を振った
ハグされる
魔法使い「こっちがあなたのお姫様」
私はお姫様を勇者に突き出した
勇者「あ、姫様、お助けに参りました……ってもう助けられてますね」
勇者「すごいな、ドラゴンを倒したのか?」
魔法使い「危なかった」
勇者「ひょっとしてあの巨人を倒したのも……」
魔法使い「私」
72 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:47:59.02 ID:i1fryCAAO
勇者「すごいな!」
勇者「なあ、魔法使い、やっぱり僕と魔王を倒しに行かないか?」
魔法使い「しつこい男は嫌われる」
魔法使い「それに……」
勇者「?」
魔法使い「私には魔王が悪の権化とは思えない」
魔法使い「今回も不戦協定を破ったのは浅ましい人間の王」
勇者「そ、そうなのか」
魔法使い「勇者、できれば王室に入りあの王を止めて欲しい」
魔法使い「お姫様」
姫「は、はい」
魔法使い「戦争、止められる?」
姫「……私にできるでしょうか?」
魔法使い「巨人の肉も竜の肉も平らげたお姫様が何を怖じ気づくの?」
お姫様は笑った
可愛い笑顔だった
勇者を任せるに足る…………
姫「私、やってみます!」
姫「勇者様もお力をお貸し下さいませ!」
お姫様は勇者に伏して頼み込んだ
勇者「ひ、姫様」
勇者「お顔をお上げ下さい」
魔法使い「勇者、戦士と武道家は?」
勇者「……城で享楽に耽っている……」
魔法使い「一人でここまで?」
勇者「ああ」
魔法使い「強くなったね……」
勇者「……君ほどじゃないさ」
ぼごん、と言う音と共にドラゴンの頭がはじける
流石に頭を失っては竜と言えど命はない
こちらも指が折れた……
私はふらふらになりながら導師を起こす
導師「……あ……お師匠様……」
どうやら命は有るようだ
女兵士の方も起こしに行く
女兵士「前衛なのに真っ先にぶっ倒れて……申し訳ないっす」
そんなことよりドラゴンをさばこう
ついに憧れの竜の肉が手に入った
女兵士の剣で竜を裂く
血抜きをしてはらわたを取り出し、丁寧に皮を剥ぐ
これも高級品だ
持てるだけ持って帰ろう
そして肉をさばく
流石にこれだけの量を全部持ち帰るのは無理がある
ここでいくらか食べていこう
導師「んふふ」
野生の導師はのりのりである
塔の中で料理すると換気の問題で良くない
ひとまずドラゴンを導師の魔法と女兵士の腕力で塔から引きずり落とす
何か忘れてる気がするが……
気のせいか
ドラゴンを丁寧にさばき、大量の肉を手に入れた
とりあえず竜の皮を縫い合わせ袋を作りそこに詰め込んだ
これで最低三日は食べられる
残りは干し肉に
それでもまだまだ肉は余っている
悔しいが山野に返すしかない……が
64 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:23:01.64 ID:i1fryCAAO
その残った肉はこの場でステーキとハンバーグにする
どれだけ食べられるかは分からないが
まずは一枚、上等な腰の肉を焼く
塩胡椒する
肉汁が溢れ出し、芳醇な香りがあたりに広がる
導師「ん〜〜!」
女兵士「こっ、これは……」
二人のよだれがヤバい事になっている
焼いた一枚を三つに分けてとりあえず初めてのドラゴン肉を味わおう
導師「いただきますう〜!」
女兵士「いただきまっす!」
魔法使い「いただき」
口に入れた瞬間香ばしさと甘さが広がる
噛む度に旨味と脂の甘味が広がる
魔法使い「美味いっ!」
導師「美味しい!」
女兵士「ひゃ〜、最高!」
竜肉の薬効なのか全身の疲れが溶けるように無くなっていく
65 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:25:37.73 ID:i1fryCAAO
目的のドラゴンステーキを腹一杯食べた
もう一度ドラゴンと戦うのはキツいが、また食べたい
骨も薬品にできるので持ち帰りたいが、荷物は一杯なので諦めて放置
後で取りに来よう
さて、帰る前にハンバーグの下拵えでもしようかな
女兵士「さっきから何か忘れてないっすか?」
魔法使い「…………モツも食べてみるか」
女兵士「いや、そう言う話じゃなかったような」
導師「あーーーっ!」
あ、お姫様忘れてた
また塔に登らないと駄目なのか
面倒だから勇者に登らせたいが、まだ来る様子は無い
仕方ない
私達はまたゾンビだの仔竜だのを倒しつつ塔を登る
最初よりも楽々登れた
竜肉の効能で戦闘力が上がっているようだ
そして再び扉の前に立つ
私が鍵をメラで焼き切ると女兵士が力任せに扉を開いた
奥から可愛らしい女性の声がする
姫だろう
勇者であれば感動のシーンだろうが、私達には竜肉のついででしかない
消化イベントだ
姫「勇者様……じゃ無いみたいね」
姫「くっさ!」
姫「どこの田舎娘?」
なんだろう、どうでもいい相手に罵られると怒りが倍加する
66 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:27:29.96 ID:i1fryCAAO
魔法使い「置いてく?」
導師「ですね、なんか豪華な部屋でのんびりしてるみたいだし」
女兵士「これ、あのドラゴンが集めたのかな?」
女兵士が宝石に触るとお姫様の怒号が飛ぶ
姫「勝手に触らないで下さる?!」
姫「これは捕らわれた私を不憫に思ったお父様がわざわざ集めて下さった物なの、あなたのような下々の者が……」
言い終える前に平手打ちした
お姫様の首根っこを掴んで塔から落とす振りをする
姫「きゃあああああっ!」
どうもこの姫が城に帰っても良いことが無さそうだ
事故って事でちょっと落としてみるか
姫「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
魔法使い「他に言う事ある?」
魔法使い「辞世の句とか」
ちょっとからかっただけだが姫は泣き出した
導師「どうせ嘘泣きですけどそろそろ許してあげましょう」
魔法使い「うん、私も腕力無いから腕が痺れてきた」
女兵士「魔法使いですもんね」
姫「早く……助けて……」
おや、ガチ泣きでしたか
私は姫を引き戻してベッドに座った
ドラゴンの肉の薬効が切れてきたかも知れない
67 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:32:16.90 ID:i1fryCAAO
魔法使い「捕らわれてる間ご飯は何を食べてたの?」
姫「一応竜の使いが運んでくれた人間の料理を……」
姫「……ぐすっ」
薬が効き過ぎたようだ
魔法使い「竜の使いとやらが来たら面倒だし、降りる?」
女兵士「そっすね」
導師「姫様お腹空いてませんか?」
姫「えっと、空いてます」
導師「じゃあお肉食べます?」
姫「えっ?」
塔から降りると導師は非常食に吊り下げた袋から肉を取り出す
導師が選んだ肉……あれ多分巨人の肉だ
しかし姫は調理したその肉を美味しそうに食べた
導師「いたずらが過ぎましたかね?」
魔法使い「別に変な肉じゃないし、美味いし」
よく分からないフォローをしておいた
魔法使い「ここで勇者が来るのを待とうと思う、お姫様もそれでいい?」
お姫様は力無く頷いた
姫「勇者様、早く助けに来てください……」
勇者の事は特に好きでもないが、こんな性悪の相手をさせるのは申し訳ない気もする
何よりあの勇者はお人好し過ぎる
その夜はドラゴン肉の残りを食べ、姫にも振る舞った
姫「こんな上等なお肉……初めて食べましたわ」
魔法使い「ドラゴン肉です」
姫「えっ」
魔法使い「あなたを閉じ込めていたにっくきドラゴン肉です」
姫「は?」
姫「えええ〜〜〜っ!!」
導師「最高級の肉料理なのは間違いないですよ」
女兵士「私なんか生涯食べることも無かっただろうってくらい上等な肉ですよ?」
姫「ま、まあそれは分かりますわ……でも良く話をしていたものだから……あのドラゴンと……若干ショックで……」
そこでお姫様は気付いた
気付いてしまった
姫「昼のは、昼のお肉は?」
導師「あれは王国の街道を閉ざしていた、にっくき巨人の肉です」
姫「ふう……」
あ、気絶した
この姫も一週間くらい旅すれば野性に染まるのに
欲は大事だが分け与えることも同じだけ大事だ
獣の世界で独り占めなんかしたら殺される
そういう自然の摂理を学んでもらいたい
魔法使い「水を汲んでこようかな?」
導師「塔の北側に泉がありましたよ」
魔法使い「良く見てるね」
私はロバの非常食から荷物を下ろし、水袋だけを背負わせて連れて行く
姫「私も手伝わせてください」
は?
なんで?
姫「今回のことでよく分かりました、自分が口にする物はしっかり起源を調べないとダメだって……」
魔法使い「ちょっと成長したね」
69 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:38:27.03 ID:i1fryCAAO
魔法使い「私マージマタンゴ美味しそうに思うんだけど、どう?」
姫「あれ絶対毒ありますよね?」
魔法使い「青紫色のキノコだもんね」
姫「はあ……、私もそれくらい野生に染まった方が良いんですかね……」
魔法使い「まあオークの肉を躊躇なく食べられるくらいには」
姫「無理ですわ!」
魔法使い「自然の中では食える物は食わないと死ぬ」
魔法使い「しばらくは干した蟹モンスターの肉のスープやキノコ、山野草を食べてもらう」
姫「分かりましたわ……他に食べるもの無いんですよね……?」
魔法使い「味は最高に良いから、そこだけは保証する」
姫「あー、楽しみで仕方ありませんわ!」
まだ嫌味を言えるなら、元気だ
ドラゴンの肉が効いてるようだ
そう言えばドラゴンの肉には魔力を補う働きもあるのだが、私は魔力が尽きたことがない
メラ百発撃つと達人級の魔法使いでも疲弊する
私の魔力には底が無い……
泉に到着する
綺麗な水でお姫様も満足したようだ
水袋を洗ってから綺麗な水を貯める
姫「……この美味しい水も野生の物ですわね」
魔法使い「そう」
70 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:43:27.62 ID:i1fryCAAO
姫「私も少しはあなたのように強く……」
魔法使い「ん?」
姫「何でもありませんわ!」
その後ほとんど魔物の居なくなった塔で私達は眠った
火に当たれる野宿の方が楽ではあるが、塔の中の方が魔物の心配は少ない
やがて夜が明けた
この日も勇者は来ない
私達は付近の森で香草を取ったりした
肉はたくさん残っている
そろそろ魚も食べたいな
半魚人って食えるのかな?
釣るか
野草やキノコを採る間、ずっとお姫様も付いてきた
虫にも怖じないし、どうやら少し野生児に近付いてきたようだ
今のお姫様なら勇者を任せられる
後は動物を解体する所を見せてやろうかな?
まあ肉は大量に有るので当分そんな機会は無いが
姫「そう言えばあなた達は何のために旅をしてますの?」
姫「やっぱり魔王を倒すため……?」
どうも魔王を根っからの悪魔とするのも間違ってる気がしてきた
それに本質的な目的からはずれる
魔法使い「私にかけられた呪いを解くために」
姫「呪い……」
姫「西の魔法の町では?」
魔法使い「解けなかった」
姫「あらまあ……しつこい呪いですわね」
その言い方だと台所の汚れみたいだな
71 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:46:00.82 ID:i1fryCAAO
姫「ん〜、もう一つ可能性が有るとすれば、エルフの森ですかね?」
魔法使い「エルフ?」
姫「南の国が何度か交戦してるので危険ではありますが……長寿のエルフ達は私達の想像もつかないような秘術を持っていると聞きます」
姫「有名なのは飲み薬ですわね」
魔法使い「あの魔力を限界まで漲らせると言う……」
姫「そう、だから呪いを解く秘術もひょっとしたら……」
魔法使い「……有り難い情報」
姫「あなたのお役に立てて幸いですわ」
次の目標が決まった
私達が塔に帰ると導師と女兵士二人の他に人影が見えた
あれは……
魔法使い「あれ、勇者」
姫「えっ、勇者様?」
勇者は私に気付いた
港以来だろうか
少しは強くなったかな?
勇者「魔法使い!」
勇者は横にいるお姫様にも気付かず私に手を振った
ハグされる
魔法使い「こっちがあなたのお姫様」
私はお姫様を勇者に突き出した
勇者「あ、姫様、お助けに参りました……ってもう助けられてますね」
勇者「すごいな、ドラゴンを倒したのか?」
魔法使い「危なかった」
勇者「ひょっとしてあの巨人を倒したのも……」
魔法使い「私」
72 : ◆J9pjHtW.ylNB :2014/12/07(日) 22:47:59.02 ID:i1fryCAAO
勇者「すごいな!」
勇者「なあ、魔法使い、やっぱり僕と魔王を倒しに行かないか?」
魔法使い「しつこい男は嫌われる」
魔法使い「それに……」
勇者「?」
魔法使い「私には魔王が悪の権化とは思えない」
魔法使い「今回も不戦協定を破ったのは浅ましい人間の王」
勇者「そ、そうなのか」
魔法使い「勇者、できれば王室に入りあの王を止めて欲しい」
魔法使い「お姫様」
姫「は、はい」
魔法使い「戦争、止められる?」
姫「……私にできるでしょうか?」
魔法使い「巨人の肉も竜の肉も平らげたお姫様が何を怖じ気づくの?」
お姫様は笑った
可愛い笑顔だった
勇者を任せるに足る…………
姫「私、やってみます!」
姫「勇者様もお力をお貸し下さいませ!」
お姫様は勇者に伏して頼み込んだ
勇者「ひ、姫様」
勇者「お顔をお上げ下さい」
魔法使い「勇者、戦士と武道家は?」
勇者「……城で享楽に耽っている……」
魔法使い「一人でここまで?」
勇者「ああ」
魔法使い「強くなったね……」
勇者「……君ほどじゃないさ」