犬娘「魔王になるっ!」
Part3
25 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:34:22.19 ID:aCpzcjHAO
ーー船上ーー
犬娘「ふんふ〜ん」
術師「機嫌がよろしいわね」
メイド剣士「私もなんだかスカッとしましたよ」
術師「頭空っぽにして戦うのは面白いですわね」
メイド剣士「確かに、そうかも知れませんね」
犬娘「ねーねー、世界最強の真の魔王様ってどんな人かな〜?」
メイド剣士「そう言えばコトーは世界一強い魔物が集う土地でもありましたね」
術師「うふふ、オリファン以上に血に飢えた獣が蔓延っている国、そこに君臨する真の魔王様!」
メイド剣士「……術師さん明るい……」
犬娘「術師さんはバトル大好きなんだね〜!」
やがて三人を乗せた船はオリファンの北、魔王の国コトーに辿り着いた
ーーコトーの国ーー
街は意外と人間も多く、非常に賑やかである
平和な現在に真の魔王と呼ばれる者が、かつて拠点として選んだコトーは大きな島であり、工業や水産業が盛んになったこともあって世界有数の豊かな国になっていた
コトーでは建国の主の魔王がそのまま生きているため、住民の結束が非常に固く、揉め事もほとんど起こらない平和な島になっている
この島の魔王こそが真の魔王であり、それがコトーの民の誇りでもあった
26 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:50:23.33 ID:aCpzcjHAO
犬娘「さて、どうやって魔王様に会おう?」
術師「腕の立ちそうな方にバトルを挑みましょう」
メイド剣士「いつもなら脳筋とバカにしますが、この土地なら一度バトルする価値がありますね」
術師「あら、私脳筋と思われてるのかしら?」
犬娘「のーきん、のーきん!」
楽しそうな犬魔王様
そこにちょうど屈強そうな竜人の娘を見つける
術師「すみません、竜人様、私たち腕試しをしたいのですが」
メイド剣士は腕試しと言う言葉に若干ウキウキしてしまう自分を感じた
竜女「お、面白い娘だな」
竜女「魔王様に会うために魔物たちが戦う、蠱毒の壺と言う闘技場がある。 行ってみるがよい」
丁度コトー王に会うという目的にも叶うシステムである
しかし、西の森、オリファン、コトーと、なぜみんなバトル好きなのか
だが術師はこの状況にすごく興奮しているようだ
術師「よろしいわ……アドレナリンは私の主食……」
メイド剣士「以降何も食べないで下さると食費が助かります」
術師「あなたはパンしか食べないのかしら?」
メイド剣士は術師に言葉で勝てないのが少し腑に落ちない
戦闘バカのくせに
27 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:54:07.22 ID:aCpzcjHAO
…………
そんなわけで、三人は蠱毒の壺の舞台に立つことになった
最大で五人まで参加できるが、一人で参加する者も多い
正に腕試しのためだけの闘技場のようだ
術師「メイド剣士さん、ワクワクしますわね?」
メイド剣士「同意求めないで下さいますか」
術師「ふん、熱い気持ちは隠せてなくてよ」
メイド剣士「はっ、こう見えても剣士ですので」
目の前では細身だが長身の女性が、五匹の屈強そうな魔物を一人で蹴散らしている
メイド剣士「うわ、うちの魔王様より強いんじゃないですか?」
術師「実に面白いファイターですわ……、時に、その魔王様は何処へ?」
メイド剣士「あ」
周囲を見渡すと犬娘はまた屋台で何やら買い食いをしている
メイド剣士「あの娘は食欲魔王なの?」
術師「いつか美味しいご飯をご馳走したいわ」
メイド剣士「まあ私も嫌いではないですが」
術師「では是非ご馳走させて下さいね」
メイド剣士は術師がいけ好かないと思うこともあるが、この人は悪人ではない、そこは確信を持てる
28 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:59:33.18 ID:aCpzcjHAO
犬娘「もぐもご」
術師「あらあら、はしたないですわよ」
犬娘「んぐ」
犬娘「あの人仲間に誘おうよ!」
メイド剣士「またですかっ!?」
術師「面白いですわね、何か得る物がある方が戦いも燃えますわ」
メイド剣士「くう……、致し方ありません」
術師「しかしあの方ここでも上位の方のようですから、いきなりはやらせていただけないと思いますわよ」
メイド剣士「面倒です……」
犬娘「私、楽しみ〜」
術師「ついてますわよ」
術師は犬娘の口についたソースを拭うと、係の者を見つけ、闘技場の詳細を聞く
参加人数は最大五人まで
審判は蘇生魔法が使えるので、死ぬ気、殺す気でやること
倒れてしばらく起きあがらないと強制退場
戦闘終了まで蘇生は可能
勝った方は相手が持つものならなんでももらえる、つまり全てを失う覚悟で臨むこと
ランクは五段階、ランクAからEまで
ランクBで魔王と謁見できる
ランクCからは負けてもファイトマネーが支払われる
この権利や幾つかの権利、生命は奪えない
メイド剣士「想像していましたが脳筋ここに極まれりですね」
術師「初めはランクEからですわ、まあ雑魚は私に任せて下さいな」
29 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:02:12.62 ID:aCpzcjHAO
会場の盛り上がりで、あの女性が勝ち上がったことがわかる
術師は闘技場に登録を済ませると腹拵えに屋台で何やら買ってきた
ソースの匂いが漂う麺のようだ
メイド剣士「美味しそうですね」
術師「奢りですわ」
メイド剣士「パーティーのお金、術師さんが管理しますか?」
術師「そう言うのはあなたがやりなさいな、はい、これ」
メイド剣士「では、そうします、いただきます」
犬娘「美味しいよ!」
メイド剣士「ああ、さっき食べてた奴ですか」
術師「私のお金も預けておきますわ」
そう言うと術師はメイド剣士に分厚い札束を渡す
メイド剣士「わわっ」
術師「だいたい二万Gくらいです」
犬娘「すごー!」
メイド剣士「大金ですね」
術師「長い旅ですからね、なるべく、と思いまして」
メイド剣士「全財産ではない、と言うことですか」
術師「そんなに持ち歩けませんわ」
どうやらすごいお金持ちのようだ
術師「お金だけあってもつまりませんからね」
メイド剣士「それで森の門番ですか」
術師「楽しい仕事でしたわ」
雑談していると、自分たちの対戦相手が決まったようだ
30 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:06:34.64 ID:aCpzcjHAO
D、Eランクのバトルはこことは違う野戦場で行われるらしい
係員に案内される
対戦相手は粗野な山賊だ
しかし五人いる
山賊A「おお、上玉だ!」
山賊B「負けたら奴隷だぞ!」
山賊C「あっちの元気そうなちびっ子は俺のだ!」
山賊D「じゃあ気の強そうなちびっ子」
山賊E「眠そうな姉ちゃんも美人だぜ!」
やれやれ、と術師はスカートを払う
術師「捕らぬ狸の皮算用と言う言葉、御存知かしら?」
門番として戦い続けていた術師には、相手を見ればだいたいの強さが把握できる
こいつらはEランクそのままの実力でしかあるまい
術師「係員さん、私たちは三人で参加しますが、今回は私一人で戦っても宜しいですか?」
係員「構いませんよ、その場合も三人全員の持ち物を賭けていただきますが」
係員「あと、山賊たちはあんな事を言ってますが人道に反する取引は認めませんので」
術師は係員をまじまじと見つめた
ランクA……
この潜在魔力なら余裕でそのレベルの強さがありそうだ
しかし見た目はひょろひょろした役人風情、恐らく蘇生魔法も使える魔導師なのだろう
31 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:10:09.90 ID:aCpzcjHAO
術師「安心しましたわ」
術師は山賊たちを冷たい視線で睨み付けると挑発するように手をひらひらさせる
術師「では、来なさい」
山賊たちは挑発的なポーズとたった一人で挑む無謀さにいきり立って攻めてくる
しかしそこまで術師の思惑通り
最初に飛び出した三人は鉄板に顔をぶつけ、そのまま押し潰される
術師「たわいないですわ」
メイド剣士「挑発しまくりですね」
犬娘「やっぱり強いよ〜!」
鉄板を辛うじてかわした二人も、次の瞬間鉄線で貫かれ、あっさりと戦いは終わった
術師「弱すぎでなくて?」
犬娘「術師さんが強過ぎ!」
メイド剣士「しばらくは暇そうですね」
係員「それまで、しかしEランクでここまでやったのはあなたが初めてです」
術師「御手数お掛けしますわ」
係員は五人に蘇生魔法をかけると、身包みを剥いで放逐した
係員「もう少し面白い戦いが出来るようになってから来なさい」
そう言うと、犬娘たちに振り返る
係員「必要な装備やアイテムが無いならこちらで換金致しますよ」
メイド剣士「助かります」
メイド剣士は山賊たちの持ち物を調べたが、やはりろくな物が無いので全て換金してもらうことにした
32 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:16:30.03 ID:aCpzcjHAO
メイド剣士「上位に食い込めば結構儲かりそうですね」
術師「ランクを上げるには各ランク五勝ですか、数日かかりそうですわね」
犬娘「次は私が戦うね!」
術師「相手次第ですわね」
……しかし、結局Cランクまで全く面白い戦いは無かった
術師「明日からBランク……もうコトー王様と謁見できますが」
犬娘「みんなたいしたこと無いのかな〜」
術師「魔王様は御自身が思われているより強くてよ」
メイド剣士「そうですよ、少なくとも私はヤマナミで偵察任務も行うメイド隊でメイド長様に認められていましたが」
術師「御自慢?」
メイド剣士「事実です、……その私から見ても魔王様はお強い」
犬娘「そうなのかな〜」
術師「しかしそうなると魔王様が戦った勇者と言う男、半端な実力では有りませんわね」
メイド剣士「出会せば死の覚悟が必要でしょうか……」
術師「ぞくぞくしますわ」
犬娘「ええっ、恐いなあ」
術師「流石に私達も腕を磨かなくてはなりませんわね」
メイド剣士「分かっています」
犬娘「ここでAランクで鍛えまくったらいいよ!」
術師「しばらくは滞在しますか」
33 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:22:38.53 ID:aCpzcjHAO
翌日、Bランク第一試合も術師は一人で戦う
対戦相手はそこそこの猛者であろうが、Cランクの手応えからすると大した相手では無さそうだ
少なくとも術師からすれば
メイド剣士「そう言えば術師さんの移動手段はなんなんでしょう?」
犬娘「ぱっ、と目の前から消えちゃうよね〜!」
メイド剣士「魔王様でも捉えられないなら魔法で移動している可能性が高いですね」
敵の戦士の攻撃をその移動手段でかわす術師
たちまち上空に現れ、見せパンをちらつかせながら鉄球の雨を降らせる
メイド剣士「強過ぎて面白みがありませんね」
やはり狼主の門番をやっていただけはある
犬娘「また儲かっちゃったね!」
メイド剣士「次は少しは手応えがあると良いんですが」
二回戦、敵方には獣人や竜人のパーティーが現れた
術師「やっと骨がありそうな相手が来ましたわ」
メイド剣士「では三人で?」
術師「コンビネーションの練習をしておきましょう」
術師「オリファンの獣さんと戦ったように、魔王様が仕掛け、私が誘い、あなたが倒し、残れば三人がかり、ですわ」
メイド剣士「細やかな戦術はその度組み換えるんですね」
術師「そうです、奇策は必要ありませんわ」
34 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:27:51.35 ID:aCpzcjHAO
竜人A「さっきまでの戦い、見させて戴いた」
竜人B「Aランクに勝ち上がる最後の戦いに相応しい」
なるほど、つまりほぼAランクの実力者なのだ
術師「私が全力を見せたことなど無くてよ」
メイド剣士「確かに」
犬娘「行くよ〜?」
獣人A「元気だな、同族!」
獣人B「嫁に欲しい!」
獣人C「可愛い〜!」
敵を散開させる犬娘の突撃
左に逃げる者に術師の鉄線、右に逃げる者にメイド剣士の一閃
更に犬娘が右に追撃、竜人Bを倒す
術師「見事ですわ」
術師は巨大な鉄球を発生させ、三人の獣人を押し潰す
メイド剣士「やっぱりハッタリじゃありませんね、半端ないです!」
竜人A「はっはっは、こいつはここに来て化け物に当たったわ!」
メイド剣士「余裕が有りますか?」
メイド剣士の剣閃、しかし竜人Aは片手でそれをさばく
術師「お引きなさい、メイドさん!」
メイド剣士「はっ!」
竜人Aはゆっくりと、その正体を現した
術師「……ドラゴンですか、やりがいがありますわ!」
犬娘「てええ〜い!」
犬娘の先制アッパーが竜の顎を捉える
ドラゴン「がはあっ!」
竜はそのまま首を振り、犬娘を弾き飛ばす
35 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:30:35.40 ID:aCpzcjHAO
術師は巨大鉄球をいくつか浴びせかけるが、流石にタフだ
本物のドラゴンには物理攻撃が通りづらいようだ
術師「ふむ、少し苦手な魔法を使いますわよ」
しかし、竜が術師を牽制するように炎を吐く
メイド剣士「くっ、刃が通らない……っ!」
メイド剣士は必死に剣を浴びせかけるが、技術が不足しているのか竜の鱗を裂けない
しかし、竜の攻撃もかわす
術師「ワクワクしてきましたわ……!」
術師に強い力が集まる
術師「御砕け散り下さいな!」
振り上げた手の先に、真っ赤に燃える鉄球が現れる
術師「はあっ!」
落ちてくる火球
竜は咄嗟に身をかわす
ドラゴン「くそっ!」
術師「デカいのにお速いですわ!」
メイド剣士「通れ、通れえっ!」
メイド剣士は竜の鱗を削ぐように剣を打ち込む
しかし通らない
メイド剣士「手強い……!」
術師「少し知恵をお使いなさいな、らしくないですわよ」
メイド剣士「はっ!」
竜の炎がメイド剣士を焼く
直前、犬娘がメイド剣士を抱き上げ、跳ぶ!
メイド剣士「も、申し訳ありません、魔王様……!」
犬娘「ドンマイ!」
36 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:36:26.43 ID:aCpzcjHAO
術師「仕方有りません、最強の技を使いますわよ」
術師「巻き込まれてお亡くなりになっても恨まないで下さいね!」
係員「いかん、闘技場に結界を!」
軍人「はい!」
犬娘「攻撃が来る!」
術師「神の杖……味わいなさいな!」
術師は巨大な燃え盛る銀の槍を召喚する!
犬娘「逃げられるのは……あそこだ!」
術師の最強魔法、神の杖が竜に突き刺さると、フィールド全体が爆炎に包まれた
メイド剣士「すご……無茶苦茶ですっ!」
犬娘「熱い熱い熱い!!」
犬娘はメイド剣士を抱えたまま、術師の隣までジャンプした
しかし重力に負ける頃になっても炎は収まってない
術師「力仕事は苦手でしてよ!」
術師は二人を捕まえ、なんとか滞空している
係員「よし、冷却開始!」
軍人「はい!」
ドロドロに溶けた舞台から竜を浮遊魔法で拾い上げ、蘇生をかける
恐ろしいほどの魔法技術だ
犬娘「あの人も欲しいな〜!」
術師「流石にあの人は引き抜けませんわ、どう見てもコトー王様の側近クラスでしょう」
犬娘「残念!」
ーー船上ーー
犬娘「ふんふ〜ん」
術師「機嫌がよろしいわね」
メイド剣士「私もなんだかスカッとしましたよ」
術師「頭空っぽにして戦うのは面白いですわね」
メイド剣士「確かに、そうかも知れませんね」
犬娘「ねーねー、世界最強の真の魔王様ってどんな人かな〜?」
メイド剣士「そう言えばコトーは世界一強い魔物が集う土地でもありましたね」
術師「うふふ、オリファン以上に血に飢えた獣が蔓延っている国、そこに君臨する真の魔王様!」
メイド剣士「……術師さん明るい……」
犬娘「術師さんはバトル大好きなんだね〜!」
やがて三人を乗せた船はオリファンの北、魔王の国コトーに辿り着いた
ーーコトーの国ーー
街は意外と人間も多く、非常に賑やかである
平和な現在に真の魔王と呼ばれる者が、かつて拠点として選んだコトーは大きな島であり、工業や水産業が盛んになったこともあって世界有数の豊かな国になっていた
コトーでは建国の主の魔王がそのまま生きているため、住民の結束が非常に固く、揉め事もほとんど起こらない平和な島になっている
この島の魔王こそが真の魔王であり、それがコトーの民の誇りでもあった
26 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:50:23.33 ID:aCpzcjHAO
犬娘「さて、どうやって魔王様に会おう?」
術師「腕の立ちそうな方にバトルを挑みましょう」
メイド剣士「いつもなら脳筋とバカにしますが、この土地なら一度バトルする価値がありますね」
術師「あら、私脳筋と思われてるのかしら?」
犬娘「のーきん、のーきん!」
楽しそうな犬魔王様
そこにちょうど屈強そうな竜人の娘を見つける
術師「すみません、竜人様、私たち腕試しをしたいのですが」
メイド剣士は腕試しと言う言葉に若干ウキウキしてしまう自分を感じた
竜女「お、面白い娘だな」
竜女「魔王様に会うために魔物たちが戦う、蠱毒の壺と言う闘技場がある。 行ってみるがよい」
丁度コトー王に会うという目的にも叶うシステムである
しかし、西の森、オリファン、コトーと、なぜみんなバトル好きなのか
だが術師はこの状況にすごく興奮しているようだ
術師「よろしいわ……アドレナリンは私の主食……」
メイド剣士「以降何も食べないで下さると食費が助かります」
術師「あなたはパンしか食べないのかしら?」
メイド剣士は術師に言葉で勝てないのが少し腑に落ちない
戦闘バカのくせに
27 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:54:07.22 ID:aCpzcjHAO
…………
そんなわけで、三人は蠱毒の壺の舞台に立つことになった
最大で五人まで参加できるが、一人で参加する者も多い
正に腕試しのためだけの闘技場のようだ
術師「メイド剣士さん、ワクワクしますわね?」
メイド剣士「同意求めないで下さいますか」
術師「ふん、熱い気持ちは隠せてなくてよ」
メイド剣士「はっ、こう見えても剣士ですので」
目の前では細身だが長身の女性が、五匹の屈強そうな魔物を一人で蹴散らしている
メイド剣士「うわ、うちの魔王様より強いんじゃないですか?」
術師「実に面白いファイターですわ……、時に、その魔王様は何処へ?」
メイド剣士「あ」
周囲を見渡すと犬娘はまた屋台で何やら買い食いをしている
メイド剣士「あの娘は食欲魔王なの?」
術師「いつか美味しいご飯をご馳走したいわ」
メイド剣士「まあ私も嫌いではないですが」
術師「では是非ご馳走させて下さいね」
メイド剣士は術師がいけ好かないと思うこともあるが、この人は悪人ではない、そこは確信を持てる
28 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 03:59:33.18 ID:aCpzcjHAO
犬娘「もぐもご」
術師「あらあら、はしたないですわよ」
犬娘「んぐ」
犬娘「あの人仲間に誘おうよ!」
メイド剣士「またですかっ!?」
術師「面白いですわね、何か得る物がある方が戦いも燃えますわ」
メイド剣士「くう……、致し方ありません」
術師「しかしあの方ここでも上位の方のようですから、いきなりはやらせていただけないと思いますわよ」
メイド剣士「面倒です……」
犬娘「私、楽しみ〜」
術師「ついてますわよ」
術師は犬娘の口についたソースを拭うと、係の者を見つけ、闘技場の詳細を聞く
参加人数は最大五人まで
審判は蘇生魔法が使えるので、死ぬ気、殺す気でやること
倒れてしばらく起きあがらないと強制退場
戦闘終了まで蘇生は可能
勝った方は相手が持つものならなんでももらえる、つまり全てを失う覚悟で臨むこと
ランクは五段階、ランクAからEまで
ランクBで魔王と謁見できる
ランクCからは負けてもファイトマネーが支払われる
この権利や幾つかの権利、生命は奪えない
メイド剣士「想像していましたが脳筋ここに極まれりですね」
術師「初めはランクEからですわ、まあ雑魚は私に任せて下さいな」
29 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:02:12.62 ID:aCpzcjHAO
会場の盛り上がりで、あの女性が勝ち上がったことがわかる
術師は闘技場に登録を済ませると腹拵えに屋台で何やら買ってきた
ソースの匂いが漂う麺のようだ
メイド剣士「美味しそうですね」
術師「奢りですわ」
メイド剣士「パーティーのお金、術師さんが管理しますか?」
術師「そう言うのはあなたがやりなさいな、はい、これ」
メイド剣士「では、そうします、いただきます」
犬娘「美味しいよ!」
メイド剣士「ああ、さっき食べてた奴ですか」
術師「私のお金も預けておきますわ」
そう言うと術師はメイド剣士に分厚い札束を渡す
メイド剣士「わわっ」
術師「だいたい二万Gくらいです」
犬娘「すごー!」
メイド剣士「大金ですね」
術師「長い旅ですからね、なるべく、と思いまして」
メイド剣士「全財産ではない、と言うことですか」
術師「そんなに持ち歩けませんわ」
どうやらすごいお金持ちのようだ
術師「お金だけあってもつまりませんからね」
メイド剣士「それで森の門番ですか」
術師「楽しい仕事でしたわ」
雑談していると、自分たちの対戦相手が決まったようだ
D、Eランクのバトルはこことは違う野戦場で行われるらしい
係員に案内される
対戦相手は粗野な山賊だ
しかし五人いる
山賊A「おお、上玉だ!」
山賊B「負けたら奴隷だぞ!」
山賊C「あっちの元気そうなちびっ子は俺のだ!」
山賊D「じゃあ気の強そうなちびっ子」
山賊E「眠そうな姉ちゃんも美人だぜ!」
やれやれ、と術師はスカートを払う
術師「捕らぬ狸の皮算用と言う言葉、御存知かしら?」
門番として戦い続けていた術師には、相手を見ればだいたいの強さが把握できる
こいつらはEランクそのままの実力でしかあるまい
術師「係員さん、私たちは三人で参加しますが、今回は私一人で戦っても宜しいですか?」
係員「構いませんよ、その場合も三人全員の持ち物を賭けていただきますが」
係員「あと、山賊たちはあんな事を言ってますが人道に反する取引は認めませんので」
術師は係員をまじまじと見つめた
ランクA……
この潜在魔力なら余裕でそのレベルの強さがありそうだ
しかし見た目はひょろひょろした役人風情、恐らく蘇生魔法も使える魔導師なのだろう
31 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:10:09.90 ID:aCpzcjHAO
術師「安心しましたわ」
術師は山賊たちを冷たい視線で睨み付けると挑発するように手をひらひらさせる
術師「では、来なさい」
山賊たちは挑発的なポーズとたった一人で挑む無謀さにいきり立って攻めてくる
しかしそこまで術師の思惑通り
最初に飛び出した三人は鉄板に顔をぶつけ、そのまま押し潰される
術師「たわいないですわ」
メイド剣士「挑発しまくりですね」
犬娘「やっぱり強いよ〜!」
鉄板を辛うじてかわした二人も、次の瞬間鉄線で貫かれ、あっさりと戦いは終わった
術師「弱すぎでなくて?」
犬娘「術師さんが強過ぎ!」
メイド剣士「しばらくは暇そうですね」
係員「それまで、しかしEランクでここまでやったのはあなたが初めてです」
術師「御手数お掛けしますわ」
係員は五人に蘇生魔法をかけると、身包みを剥いで放逐した
係員「もう少し面白い戦いが出来るようになってから来なさい」
そう言うと、犬娘たちに振り返る
係員「必要な装備やアイテムが無いならこちらで換金致しますよ」
メイド剣士「助かります」
メイド剣士は山賊たちの持ち物を調べたが、やはりろくな物が無いので全て換金してもらうことにした
32 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:16:30.03 ID:aCpzcjHAO
メイド剣士「上位に食い込めば結構儲かりそうですね」
術師「ランクを上げるには各ランク五勝ですか、数日かかりそうですわね」
犬娘「次は私が戦うね!」
術師「相手次第ですわね」
……しかし、結局Cランクまで全く面白い戦いは無かった
術師「明日からBランク……もうコトー王様と謁見できますが」
犬娘「みんなたいしたこと無いのかな〜」
術師「魔王様は御自身が思われているより強くてよ」
メイド剣士「そうですよ、少なくとも私はヤマナミで偵察任務も行うメイド隊でメイド長様に認められていましたが」
術師「御自慢?」
メイド剣士「事実です、……その私から見ても魔王様はお強い」
犬娘「そうなのかな〜」
術師「しかしそうなると魔王様が戦った勇者と言う男、半端な実力では有りませんわね」
メイド剣士「出会せば死の覚悟が必要でしょうか……」
術師「ぞくぞくしますわ」
犬娘「ええっ、恐いなあ」
術師「流石に私達も腕を磨かなくてはなりませんわね」
メイド剣士「分かっています」
犬娘「ここでAランクで鍛えまくったらいいよ!」
術師「しばらくは滞在しますか」
33 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:22:38.53 ID:aCpzcjHAO
翌日、Bランク第一試合も術師は一人で戦う
対戦相手はそこそこの猛者であろうが、Cランクの手応えからすると大した相手では無さそうだ
少なくとも術師からすれば
メイド剣士「そう言えば術師さんの移動手段はなんなんでしょう?」
犬娘「ぱっ、と目の前から消えちゃうよね〜!」
メイド剣士「魔王様でも捉えられないなら魔法で移動している可能性が高いですね」
敵の戦士の攻撃をその移動手段でかわす術師
たちまち上空に現れ、見せパンをちらつかせながら鉄球の雨を降らせる
メイド剣士「強過ぎて面白みがありませんね」
やはり狼主の門番をやっていただけはある
犬娘「また儲かっちゃったね!」
メイド剣士「次は少しは手応えがあると良いんですが」
二回戦、敵方には獣人や竜人のパーティーが現れた
術師「やっと骨がありそうな相手が来ましたわ」
メイド剣士「では三人で?」
術師「コンビネーションの練習をしておきましょう」
術師「オリファンの獣さんと戦ったように、魔王様が仕掛け、私が誘い、あなたが倒し、残れば三人がかり、ですわ」
メイド剣士「細やかな戦術はその度組み換えるんですね」
術師「そうです、奇策は必要ありませんわ」
34 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:27:51.35 ID:aCpzcjHAO
竜人A「さっきまでの戦い、見させて戴いた」
竜人B「Aランクに勝ち上がる最後の戦いに相応しい」
なるほど、つまりほぼAランクの実力者なのだ
術師「私が全力を見せたことなど無くてよ」
メイド剣士「確かに」
犬娘「行くよ〜?」
獣人A「元気だな、同族!」
獣人B「嫁に欲しい!」
獣人C「可愛い〜!」
敵を散開させる犬娘の突撃
左に逃げる者に術師の鉄線、右に逃げる者にメイド剣士の一閃
更に犬娘が右に追撃、竜人Bを倒す
術師「見事ですわ」
術師は巨大な鉄球を発生させ、三人の獣人を押し潰す
メイド剣士「やっぱりハッタリじゃありませんね、半端ないです!」
竜人A「はっはっは、こいつはここに来て化け物に当たったわ!」
メイド剣士「余裕が有りますか?」
メイド剣士の剣閃、しかし竜人Aは片手でそれをさばく
術師「お引きなさい、メイドさん!」
メイド剣士「はっ!」
竜人Aはゆっくりと、その正体を現した
術師「……ドラゴンですか、やりがいがありますわ!」
犬娘「てええ〜い!」
犬娘の先制アッパーが竜の顎を捉える
ドラゴン「がはあっ!」
竜はそのまま首を振り、犬娘を弾き飛ばす
35 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:30:35.40 ID:aCpzcjHAO
術師は巨大鉄球をいくつか浴びせかけるが、流石にタフだ
本物のドラゴンには物理攻撃が通りづらいようだ
術師「ふむ、少し苦手な魔法を使いますわよ」
しかし、竜が術師を牽制するように炎を吐く
メイド剣士「くっ、刃が通らない……っ!」
メイド剣士は必死に剣を浴びせかけるが、技術が不足しているのか竜の鱗を裂けない
しかし、竜の攻撃もかわす
術師「ワクワクしてきましたわ……!」
術師に強い力が集まる
術師「御砕け散り下さいな!」
振り上げた手の先に、真っ赤に燃える鉄球が現れる
術師「はあっ!」
落ちてくる火球
竜は咄嗟に身をかわす
ドラゴン「くそっ!」
術師「デカいのにお速いですわ!」
メイド剣士「通れ、通れえっ!」
メイド剣士は竜の鱗を削ぐように剣を打ち込む
しかし通らない
メイド剣士「手強い……!」
術師「少し知恵をお使いなさいな、らしくないですわよ」
メイド剣士「はっ!」
竜の炎がメイド剣士を焼く
直前、犬娘がメイド剣士を抱き上げ、跳ぶ!
メイド剣士「も、申し訳ありません、魔王様……!」
犬娘「ドンマイ!」
36 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/06(水) 04:36:26.43 ID:aCpzcjHAO
術師「仕方有りません、最強の技を使いますわよ」
術師「巻き込まれてお亡くなりになっても恨まないで下さいね!」
係員「いかん、闘技場に結界を!」
軍人「はい!」
犬娘「攻撃が来る!」
術師「神の杖……味わいなさいな!」
術師は巨大な燃え盛る銀の槍を召喚する!
犬娘「逃げられるのは……あそこだ!」
術師の最強魔法、神の杖が竜に突き刺さると、フィールド全体が爆炎に包まれた
メイド剣士「すご……無茶苦茶ですっ!」
犬娘「熱い熱い熱い!!」
犬娘はメイド剣士を抱えたまま、術師の隣までジャンプした
しかし重力に負ける頃になっても炎は収まってない
術師「力仕事は苦手でしてよ!」
術師は二人を捕まえ、なんとか滞空している
係員「よし、冷却開始!」
軍人「はい!」
ドロドロに溶けた舞台から竜を浮遊魔法で拾い上げ、蘇生をかける
恐ろしいほどの魔法技術だ
犬娘「あの人も欲しいな〜!」
術師「流石にあの人は引き抜けませんわ、どう見てもコトー王様の側近クラスでしょう」
犬娘「残念!」