料理人と薬学士
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108 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:14:49.08 ID:iF91AmcAO
次の瞬間、ごりっと言う重い音がした
薬学士(南港ちゃ〜ん)
南港「ん? ……おうっそこで待っているのじゃ!」
料理人は後ろが激しく気になったが、火を使う作業をしているのであまり振り向けない
しばらくすると薬学士に肩を叩かれた
料理人「ん?」
料理人「何そのはこ……」
薬学士は自分の背丈ほどの箱の隣に立っていた
薬学士「冷蔵庫出来たよ〜!」
料理人「……!」
料理人「やったあ!」ダキッ
薬学士「えへへ〜」
南港「儂も今重力操作したのじゃ!」
料理人「はいはい、偉いね」ナデナデ
南港「えへへ〜」
料理人「老婆でなければ可愛いな」
南港「老婆でなければは余計じゃ!」
料理人「……これで食材を更に長く保存できるなあ」
南港「毎日美味いもの食えるのか?」
料理人「頑張るよ、っと肉焦げるとこだった」
薬学士「テーブルで待ってよ?」
南港「うむ、座るか、しかし良い香りじゃ」
料理人(そう言えば南港も大食だったな)
料理人(狩人くんが釣ったデカい魚は何にでも使えるな)
料理人(ん、野菜とマスで煮込みスープだな)
料理人(味付けに塩漬けも使おう)
109 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:17:17.30 ID:iF91AmcAO
料理人「肉料理ばっかりだが、今日は猪が穫れたからね」
料理人「まあハンバーグやカレーが大好きな幼児が二人いるからいいか」
南港「幼児ではないのじゃ!」
薬学士「老婆?」
秋風「弟子……!」
薬学士「すみませんごめんなさいすみません」
…………
料理人「じゃあ、いただきます!」
全員「いただきま〜す!」
狩人「肉も魚も美味しいです」
学者「ふむふむ、ワイン用意して良かったでやす」
南港「用意が良いのじゃ!」
料理人「やっぱり飲むのか?」
秋風「いただこう」
料理人「魔王たちは飲まない方が良くないか?」
薬学士「…おかわり!」モグモグ
料理人「速いな!」
秋風「ううっ……ぐすっ」
料理人「速いな!」
南港「きゃはははは!」
料理人「こっちは笑い上戸か」
狩人「食べないと無くなりますよ!」
料理人「うん……」
学者「ツッコミ二人が食べてる間にぼけ倒しかましますぞ!」
薬学士「おかわり!」
そんなにぎやかな生活を始めて、あっという間に一週間が過ぎた
…………
料理人「……」ニヘラ
料理人「……」ウフッ
南港「包丁を見てニヤニヤしてるのは怖いし気持ち悪いのじゃ」
110 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:19:41.53 ID:iF91AmcAO
料理人「やっと包丁が出来たんだよ〜」
南港「一週間前にレプリカで作ってた奴じゃのう」
料理人「あの時はまさか四本も包丁作ったのかと思ったよ」
料理人は南港の魔王に止められてもニヤニヤが止まらない
切れ味最高でどれだけ使っても切れ味が変わらず、仮に折れても元に戻る
料理人「えへへ///」
南港「ツッコミきれんのじゃ」
秋風「変態だな」
南港「いきなり後ろに立つでない!」
秋風「ドキドキしてるな」サワサワ
料理人「誰が変態だって?」
秋風「まあそれはそれ」
料理人「話をそらしたよこのセクハラ魔王」
秋風「そいつの試し斬りしてみないか?」
料理人「?」
薬学士「それは一応魔法剣として作ってるから、出力を確認しておきたいの」
学者「それは一見の価値がありやすな」
料理人「ん〜、まあ包丁一刀流を極めてくるか」
秋風「よし、山に行こう」
…………
料理人「このあたりでいいか」
秋風「ん、絶対街に向けて放つなよ」
料理人「?」
一瞬何を言ってるのかわからなかった
所詮包丁ではないのか、と
思っていた
料理人「とりあえずあの小石でも狙ってみるか……」
111 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:21:54.82 ID:iF91AmcAO
薬学士「あ、料理人ちゃん」
料理人「ん?」
薬学士「山もやめた方が良いと思う」
料理人「へ?」
更に意味が分からない
今狙ったのは小石である
軽く魔力を込めて振ってみるだけじゃないのか
山も街もそんなに近くないし……
だが嫌な予感がし始めた、誰もいないはずの小さい丘に向かって、一応試し斬りなので最大限の魔力を込めて振ってみる
……
丘に向けて振ったつもりが、海に向かっていた
一瞬何が起こったのか分からなかった
秋風「……」オー
薬学士「……」プルプル
学者「……」ガクガク
狩人「」
南港「……」ウンウン
料理人「アホか」
料理人「威力有りすぎだろ!! 山も街も確かにヤバいわ!」
秋風「名付けて、破壊神キラー!」キラーン
料理人「そんな物騒な名前つけるなマイ包丁に!」
小さいとは言え丘を削るとは、いくら破壊神でも過剰防衛になるのではないか
薬学士「魔力の込め方で威力調整できるよ」
秋風「お前の元々のポテンシャルは予想より高かったな」
薬学士「試しにお師匠さまの魔晶石で高純度化の実験をしたんだ」
112 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:26:38.25 ID:iF91AmcAO
調整するために、何度か振ってみる
だんだん地面が削れていくのが少し楽しくなってくる
秋風「文字通り、荒削りだな」
薬学士「やっぱり大型魔晶石数個分は規格外れですね〜」
南港「ま、これでも魔王狩りには足りんじゃろうな」
料理人「……そんなに強いの?!」
南港「うん」
南港は頷くと料理人の包丁を受け取り、振った
べこん、と言う音と共に目の前の一生懸命削っていた丘が、一撃で崖に変わっていた
薬学士「……」プルプル
学者「……」アガガ
狩人「」
料理人「あ、狩人息してない!」
秋風「まあ魔王だしな」
料理人「そんなに強いとは聞いてない!」
秋風「そうか?」
秋風「大楠はこんな丘程に小さかったのか?」
料理人「……」ゾクッ
南港「お前は今まで魔力制御をしきれて居なかったんじゃから、魔晶石を使ってコントロールの練習をするのじゃ」
秋風「魔王に並ぶくらいにはなるだろうな」
料理人「……でもそれじゃ魔王狩りなんて……」
南港「聖都北の国に任せておけ」
南港「あそこは元々聖都を護る騎士団であったはず」
南港「料理人が太刀打ちできるはずが無いのじゃ」
秋風「そう言うことだ」
113 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:29:25.04 ID:iF91AmcAO
南港「しかし今ので少し分かった」
南港「魔王狩りも魔法剣を持っとるかもな」
秋風「ふむ……」
料理人「それにしても南港がこんな力を隠してるなんて」
南港「嫌われるのは嫌じゃし」
料理人「おんぶしなくて良かったんじゃないの?」
南港「甘えたいお年頃なんじゃ!」
薬学士「老婆なのに?」
南港「婆孝行、させたい時には孫はなしじゃ」
料理人「……え、子供いたの?」
南港「言ってみただけじゃ!」
秋風「まあ魔王として生きることが分かってて子作りなんてできんだろ」
秋風「察しろ」
料理人「……辛いな、魔王」
南港「別に」
秋風「……そうだな、可愛い弟子にも良い料理人にもこうやって出会えたんだ」
秋風「辛いばかりではない……」
料理人は、じゃああんたはなんで泣き上戸なんだよ、と聞きたくなった
だがそれは酷いこと
たぶん今までに、何回も、
もしかしたら大楠の魔王が死んだ時だって独り泣いていたんだろう……
例えば彼女らや薬学士達が死んだら、料理人の心はどれほど傷付くか……
自分ならそんな苦しみに耐えられるだろうか……?
ただそう考えて、料理人は言葉を飲み込んだ
114 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:31:25.23 ID:iF91AmcAO
横を見ると、薬学士と目が合う
同じ事を考えていたのかも知れない
……また、この家族を、失ったら……
そんな苦しみをまた彼女達に与えることになったら……
嫌だ……
そんなのは嫌だ
護りたい
皆を護りたい
人間も、魔王も、関係なく……
ただ一緒に居たい
……この時、料理人の心に小さな火が灯った
…………
深夜ーー
薬学士の部屋の前に、料理人は立っていた
料理人(……)トントン
薬学士(はぁい)
料理人「私」
薬学士(……)カチャッ
薬学士「入って〜」ニッコリ
薬学士の笑顔を見て、料理人は思わず彼女を抱きしめる
料理人「……あのさ」
薬学士は料理人の雰囲気で何事か悟ったが、ただ彼女を抱きしめ返す
料理人「……黙って聞いてくれ」
薬学士「……うん」
料理人「……私を」
料理人「私を彼女達と同じにして欲しい」
115 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:33:40.80 ID:iF91AmcAO
…………
翌朝ーー
料理人「……」
薬学士「……」
料理人「……」ジリジリ
南港「……焦げてるぞ」
料理人「ぐわあっ!」
料理人「長年共にした鍋が……」ガクッ
料理人の言葉に、薬学士が一瞬だけビクッと反応する
南港「珍しいのう」
南港「……お主大楠の出らしいの?」
料理人「ん? ……うん」
南港「敵を討ちたかったのか?」
料理人「それはね……でも今は生きていたいから」
南港「そうじゃな」
南港「身内の身を守るための修業なら見てやるぞ」
料理人「なんか屈辱的だからいい」ビシッ
南港「デコピンの威力が上がったのじゃ〜!」シクシク
料理人「……鍋変えなきゃ……」
料理人「今日はとりあえず冒険用の鍋でいいや」
南港「冒険用の鍋って……骨の髄まで料理人じゃのう」
料理人「……そう育てられたからね」
南港「儂と大楠の奴も年が近いのは分かるか?」
料理人「ああ、なんとなく」
料理人「何が言いたいの?」
南港「……儂と奴とは同期だった、それだけじゃ」
料理人「……そう」
南港「儂の方が辛かったわい」
料理人「……分かるよそれくらい」
116 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:36:19.91 ID:iF91AmcAO
南港「分かっとらん!」
料理人「分かってる!」ビシッ
南港「分かっとらん! デコピンばっかりしおって!」シクシク
南港「儂の飯が焦げる!」
料理人「あっ……くそっ」
南港「……友を亡くすのは、辛い……儂だって同じじゃ」
南港「儂が言いたいのはそれだけじゃ」
料理人「……分かってるよっ!」
料理人「もう……」
料理人「ちょっとお皿並べて」
料理人「友達でしょ?」
南港「……儂の飯のためじゃ」ガチャガチャ
南港「お前みたいな小娘友達なんかじゃないわあ」グスッ
薬学士「……」
秋風「……阿呆め……」
学者「……とりあえずご飯を食うでやんす」
学者「ご飯を食えば元気になるじゃないでやんすか」
学者「元気になれば前向きになれるじゃないでやんすか」
学者「前向きになれば猟ができるんでやす」
学者「猟ができればご飯が食べられるじゃないでやんすか」
学者「……私は何が言いたかったんでしょ?」
秋風「知らん」
料理人「……ぷっ」
薬学士「あはっ、あはは!」
南港「ぎゃははははは!」
……その後秋風も学者も笑い出して、もう誰も辛い話はしなくなった
117 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:39:23.75 ID:iF91AmcAO
ーー昼
薬学士の家にコンコン、とノックする音が響く
それは運命の訪問者ーー
南港「はいはい、待つのじゃ〜!」
南港が扉を開けると、そこにいたのは赤髪の少女である
容姿はメガネを取った学者と言えば良いだろうか
身長は学者より少し低いが、美しい顔立ちをしている
南港「……西浜の……」
西浜「……」
西浜と呼ばれた少女は、喋らない
南港「相変わらず元気いっぱいじゃのう!」ニカッ
西浜「……」フ……
料理人「……めちゃくちゃ暗いけど」
南港「おう、料理人、こいつは西浜の魔王じゃ、儂と仲良しなんじゃ!」
西浜「…………」
料理人には無視しているようにしか見えない
しかし、魔王なのだ
圧倒的な長時間の寿命のうちでの濃厚な接触
そう言う存在なのだから、常人では計り知れない特殊なコミュニケーションを形成してるのかも知れない
118 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:42:13.77 ID:iF91AmcAO
料理人「とりあえずご飯の時間だから、座って座って!」
西浜「……」スッ
反応が全くない
何かマネキンが歩いている感じがする
料理人「これをこじ開けるのが料理人の腕じゃ無いだろうか……」
料理人はあの手この手を考えて、彼女の好みを探る
しかし反応がない
秋風「なんだ、久しぶり西浜、ずいぶん張り切ってるな」
わかんねーよ
南港「楽しみなんじゃな! 儂がイカ焼きを奢った時と同じ顔じゃ!」
どうせイカ焼きレベルの料理ですよ
西浜「……」フ
秋風「やめろ、それ以上笑うと死ぬぞ!」
料理人「いや、笑ったのかもわかんねーよ!」
料理人「あ」
西浜「……」ズーン
南港「あ、いつもに戻ったのう」
秋風「酷いことを言う奴だな」
料理人「あ、はい、すみません」
スプーンをガツンと投げ出したくなった
料理を一口食べた西浜の反応
西浜「……」フ
南港「おお、お気に入りか、絶品じゃろう? のう!」
学者「全く表情が分かりませんなあ」
薬学士「お師匠さまもお知り合いなんですか?」
秋風「こいつは気のいい奴でな、西浜の民もコイツに惚れ込んで仕えている奴ばかりだ」
西浜「……」シーン
次の瞬間、ごりっと言う重い音がした
薬学士(南港ちゃ〜ん)
南港「ん? ……おうっそこで待っているのじゃ!」
料理人は後ろが激しく気になったが、火を使う作業をしているのであまり振り向けない
しばらくすると薬学士に肩を叩かれた
料理人「ん?」
料理人「何そのはこ……」
薬学士は自分の背丈ほどの箱の隣に立っていた
薬学士「冷蔵庫出来たよ〜!」
料理人「……!」
料理人「やったあ!」ダキッ
薬学士「えへへ〜」
南港「儂も今重力操作したのじゃ!」
料理人「はいはい、偉いね」ナデナデ
南港「えへへ〜」
料理人「老婆でなければ可愛いな」
南港「老婆でなければは余計じゃ!」
料理人「……これで食材を更に長く保存できるなあ」
南港「毎日美味いもの食えるのか?」
料理人「頑張るよ、っと肉焦げるとこだった」
薬学士「テーブルで待ってよ?」
南港「うむ、座るか、しかし良い香りじゃ」
料理人(そう言えば南港も大食だったな)
料理人(狩人くんが釣ったデカい魚は何にでも使えるな)
料理人(ん、野菜とマスで煮込みスープだな)
料理人(味付けに塩漬けも使おう)
109 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:17:17.30 ID:iF91AmcAO
料理人「肉料理ばっかりだが、今日は猪が穫れたからね」
料理人「まあハンバーグやカレーが大好きな幼児が二人いるからいいか」
南港「幼児ではないのじゃ!」
薬学士「老婆?」
秋風「弟子……!」
薬学士「すみませんごめんなさいすみません」
…………
料理人「じゃあ、いただきます!」
全員「いただきま〜す!」
狩人「肉も魚も美味しいです」
学者「ふむふむ、ワイン用意して良かったでやす」
南港「用意が良いのじゃ!」
料理人「やっぱり飲むのか?」
秋風「いただこう」
料理人「魔王たちは飲まない方が良くないか?」
薬学士「…おかわり!」モグモグ
料理人「速いな!」
秋風「ううっ……ぐすっ」
料理人「速いな!」
南港「きゃはははは!」
料理人「こっちは笑い上戸か」
狩人「食べないと無くなりますよ!」
料理人「うん……」
学者「ツッコミ二人が食べてる間にぼけ倒しかましますぞ!」
薬学士「おかわり!」
そんなにぎやかな生活を始めて、あっという間に一週間が過ぎた
…………
料理人「……」ニヘラ
料理人「……」ウフッ
南港「包丁を見てニヤニヤしてるのは怖いし気持ち悪いのじゃ」
110 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:19:41.53 ID:iF91AmcAO
料理人「やっと包丁が出来たんだよ〜」
南港「一週間前にレプリカで作ってた奴じゃのう」
料理人「あの時はまさか四本も包丁作ったのかと思ったよ」
料理人は南港の魔王に止められてもニヤニヤが止まらない
切れ味最高でどれだけ使っても切れ味が変わらず、仮に折れても元に戻る
料理人「えへへ///」
南港「ツッコミきれんのじゃ」
秋風「変態だな」
南港「いきなり後ろに立つでない!」
秋風「ドキドキしてるな」サワサワ
料理人「誰が変態だって?」
秋風「まあそれはそれ」
料理人「話をそらしたよこのセクハラ魔王」
秋風「そいつの試し斬りしてみないか?」
料理人「?」
薬学士「それは一応魔法剣として作ってるから、出力を確認しておきたいの」
学者「それは一見の価値がありやすな」
料理人「ん〜、まあ包丁一刀流を極めてくるか」
秋風「よし、山に行こう」
…………
料理人「このあたりでいいか」
秋風「ん、絶対街に向けて放つなよ」
料理人「?」
一瞬何を言ってるのかわからなかった
所詮包丁ではないのか、と
思っていた
料理人「とりあえずあの小石でも狙ってみるか……」
111 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:21:54.82 ID:iF91AmcAO
薬学士「あ、料理人ちゃん」
料理人「ん?」
薬学士「山もやめた方が良いと思う」
料理人「へ?」
更に意味が分からない
今狙ったのは小石である
軽く魔力を込めて振ってみるだけじゃないのか
山も街もそんなに近くないし……
だが嫌な予感がし始めた、誰もいないはずの小さい丘に向かって、一応試し斬りなので最大限の魔力を込めて振ってみる
……
丘に向けて振ったつもりが、海に向かっていた
一瞬何が起こったのか分からなかった
秋風「……」オー
薬学士「……」プルプル
学者「……」ガクガク
狩人「」
南港「……」ウンウン
料理人「アホか」
料理人「威力有りすぎだろ!! 山も街も確かにヤバいわ!」
秋風「名付けて、破壊神キラー!」キラーン
料理人「そんな物騒な名前つけるなマイ包丁に!」
小さいとは言え丘を削るとは、いくら破壊神でも過剰防衛になるのではないか
薬学士「魔力の込め方で威力調整できるよ」
秋風「お前の元々のポテンシャルは予想より高かったな」
薬学士「試しにお師匠さまの魔晶石で高純度化の実験をしたんだ」
112 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:26:38.25 ID:iF91AmcAO
調整するために、何度か振ってみる
だんだん地面が削れていくのが少し楽しくなってくる
秋風「文字通り、荒削りだな」
薬学士「やっぱり大型魔晶石数個分は規格外れですね〜」
南港「ま、これでも魔王狩りには足りんじゃろうな」
料理人「……そんなに強いの?!」
南港「うん」
南港は頷くと料理人の包丁を受け取り、振った
べこん、と言う音と共に目の前の一生懸命削っていた丘が、一撃で崖に変わっていた
薬学士「……」プルプル
学者「……」アガガ
狩人「」
料理人「あ、狩人息してない!」
秋風「まあ魔王だしな」
料理人「そんなに強いとは聞いてない!」
秋風「そうか?」
秋風「大楠はこんな丘程に小さかったのか?」
料理人「……」ゾクッ
南港「お前は今まで魔力制御をしきれて居なかったんじゃから、魔晶石を使ってコントロールの練習をするのじゃ」
秋風「魔王に並ぶくらいにはなるだろうな」
料理人「……でもそれじゃ魔王狩りなんて……」
南港「聖都北の国に任せておけ」
南港「あそこは元々聖都を護る騎士団であったはず」
南港「料理人が太刀打ちできるはずが無いのじゃ」
秋風「そう言うことだ」
南港「しかし今ので少し分かった」
南港「魔王狩りも魔法剣を持っとるかもな」
秋風「ふむ……」
料理人「それにしても南港がこんな力を隠してるなんて」
南港「嫌われるのは嫌じゃし」
料理人「おんぶしなくて良かったんじゃないの?」
南港「甘えたいお年頃なんじゃ!」
薬学士「老婆なのに?」
南港「婆孝行、させたい時には孫はなしじゃ」
料理人「……え、子供いたの?」
南港「言ってみただけじゃ!」
秋風「まあ魔王として生きることが分かってて子作りなんてできんだろ」
秋風「察しろ」
料理人「……辛いな、魔王」
南港「別に」
秋風「……そうだな、可愛い弟子にも良い料理人にもこうやって出会えたんだ」
秋風「辛いばかりではない……」
料理人は、じゃああんたはなんで泣き上戸なんだよ、と聞きたくなった
だがそれは酷いこと
たぶん今までに、何回も、
もしかしたら大楠の魔王が死んだ時だって独り泣いていたんだろう……
例えば彼女らや薬学士達が死んだら、料理人の心はどれほど傷付くか……
自分ならそんな苦しみに耐えられるだろうか……?
ただそう考えて、料理人は言葉を飲み込んだ
114 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:31:25.23 ID:iF91AmcAO
横を見ると、薬学士と目が合う
同じ事を考えていたのかも知れない
……また、この家族を、失ったら……
そんな苦しみをまた彼女達に与えることになったら……
嫌だ……
そんなのは嫌だ
護りたい
皆を護りたい
人間も、魔王も、関係なく……
ただ一緒に居たい
……この時、料理人の心に小さな火が灯った
…………
深夜ーー
薬学士の部屋の前に、料理人は立っていた
料理人(……)トントン
薬学士(はぁい)
料理人「私」
薬学士(……)カチャッ
薬学士「入って〜」ニッコリ
薬学士の笑顔を見て、料理人は思わず彼女を抱きしめる
料理人「……あのさ」
薬学士は料理人の雰囲気で何事か悟ったが、ただ彼女を抱きしめ返す
料理人「……黙って聞いてくれ」
薬学士「……うん」
料理人「……私を」
料理人「私を彼女達と同じにして欲しい」
115 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:33:40.80 ID:iF91AmcAO
…………
翌朝ーー
料理人「……」
薬学士「……」
料理人「……」ジリジリ
南港「……焦げてるぞ」
料理人「ぐわあっ!」
料理人「長年共にした鍋が……」ガクッ
料理人の言葉に、薬学士が一瞬だけビクッと反応する
南港「珍しいのう」
南港「……お主大楠の出らしいの?」
料理人「ん? ……うん」
南港「敵を討ちたかったのか?」
料理人「それはね……でも今は生きていたいから」
南港「そうじゃな」
南港「身内の身を守るための修業なら見てやるぞ」
料理人「なんか屈辱的だからいい」ビシッ
南港「デコピンの威力が上がったのじゃ〜!」シクシク
料理人「……鍋変えなきゃ……」
料理人「今日はとりあえず冒険用の鍋でいいや」
南港「冒険用の鍋って……骨の髄まで料理人じゃのう」
料理人「……そう育てられたからね」
南港「儂と大楠の奴も年が近いのは分かるか?」
料理人「ああ、なんとなく」
料理人「何が言いたいの?」
南港「……儂と奴とは同期だった、それだけじゃ」
料理人「……そう」
南港「儂の方が辛かったわい」
料理人「……分かるよそれくらい」
116 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:36:19.91 ID:iF91AmcAO
南港「分かっとらん!」
料理人「分かってる!」ビシッ
南港「分かっとらん! デコピンばっかりしおって!」シクシク
南港「儂の飯が焦げる!」
料理人「あっ……くそっ」
南港「……友を亡くすのは、辛い……儂だって同じじゃ」
南港「儂が言いたいのはそれだけじゃ」
料理人「……分かってるよっ!」
料理人「もう……」
料理人「ちょっとお皿並べて」
料理人「友達でしょ?」
南港「……儂の飯のためじゃ」ガチャガチャ
南港「お前みたいな小娘友達なんかじゃないわあ」グスッ
薬学士「……」
秋風「……阿呆め……」
学者「……とりあえずご飯を食うでやんす」
学者「ご飯を食えば元気になるじゃないでやんすか」
学者「元気になれば前向きになれるじゃないでやんすか」
学者「前向きになれば猟ができるんでやす」
学者「猟ができればご飯が食べられるじゃないでやんすか」
学者「……私は何が言いたかったんでしょ?」
秋風「知らん」
料理人「……ぷっ」
薬学士「あはっ、あはは!」
南港「ぎゃははははは!」
……その後秋風も学者も笑い出して、もう誰も辛い話はしなくなった
117 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:39:23.75 ID:iF91AmcAO
ーー昼
薬学士の家にコンコン、とノックする音が響く
それは運命の訪問者ーー
南港「はいはい、待つのじゃ〜!」
南港が扉を開けると、そこにいたのは赤髪の少女である
容姿はメガネを取った学者と言えば良いだろうか
身長は学者より少し低いが、美しい顔立ちをしている
南港「……西浜の……」
西浜「……」
西浜と呼ばれた少女は、喋らない
南港「相変わらず元気いっぱいじゃのう!」ニカッ
西浜「……」フ……
料理人「……めちゃくちゃ暗いけど」
南港「おう、料理人、こいつは西浜の魔王じゃ、儂と仲良しなんじゃ!」
西浜「…………」
料理人には無視しているようにしか見えない
しかし、魔王なのだ
圧倒的な長時間の寿命のうちでの濃厚な接触
そう言う存在なのだから、常人では計り知れない特殊なコミュニケーションを形成してるのかも知れない
118 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/09(日) 01:42:13.77 ID:iF91AmcAO
料理人「とりあえずご飯の時間だから、座って座って!」
西浜「……」スッ
反応が全くない
何かマネキンが歩いている感じがする
料理人「これをこじ開けるのが料理人の腕じゃ無いだろうか……」
料理人はあの手この手を考えて、彼女の好みを探る
しかし反応がない
秋風「なんだ、久しぶり西浜、ずいぶん張り切ってるな」
わかんねーよ
南港「楽しみなんじゃな! 儂がイカ焼きを奢った時と同じ顔じゃ!」
どうせイカ焼きレベルの料理ですよ
西浜「……」フ
秋風「やめろ、それ以上笑うと死ぬぞ!」
料理人「いや、笑ったのかもわかんねーよ!」
料理人「あ」
西浜「……」ズーン
南港「あ、いつもに戻ったのう」
秋風「酷いことを言う奴だな」
料理人「あ、はい、すみません」
スプーンをガツンと投げ出したくなった
料理を一口食べた西浜の反応
西浜「……」フ
南港「おお、お気に入りか、絶品じゃろう? のう!」
学者「全く表情が分かりませんなあ」
薬学士「お師匠さまもお知り合いなんですか?」
秋風「こいつは気のいい奴でな、西浜の民もコイツに惚れ込んで仕えている奴ばかりだ」
西浜「……」シーン
料理人と薬学士
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