料理人と薬学士
Part5
56 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:33:53.45 ID:1Ke1jIMAO
秋風「……」
秋風「うむ、私と弟子が一緒に寝るとして……」
秋風「どうしても一人はソファーで毛布になるな」
狩人「それでも野宿より良いです、僕ソファーで寝ます」
秋風「すまんな、客用にベッドを追加しておくか」
…………
料理人はあまり気は進まないものの、学者と寝ることになった
蹴り落としても悪いので仕方がないから寄り添って寝る
学者がメガネを外すと、見たことの無い美人が現れた
料理人「うおっ」
学者「どうかしやしたか旦那! モンスター?!」
むしろメガネをかけると汚いモンスターに戻る
学者「何気に失礼なことを考えられた気がしますにゃん」
うるさい
学者が再びメガネを取る
なんという萌えキャラ
これはこれで一緒に寝るのが気まずい
良く見えないのだろう、こちらに顔を近付け、真っ直ぐに見つめてくる
料理人(危ない、これは危ない)
学者「こうやって見ると料理人さんは可愛いでやすな、ムラムラしやす」
するな
57 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:35:50.24 ID:1Ke1jIMAO
学者「灯り消しやす」
料理人「あ、うん」
顔が近いし、少し酒臭い
そう言えば学者は結構飲んでいた
ヤバいかも知れない
学者「んふっ」
ヤバいかも知れない
学者「すいやせん、あっちむきやす、食っちまいそうなんで」
料理人は学者を蹴り落とすのをギリギリ我慢した
なんとか襲いも襲われも蹴り落としもせずにその日はやり過ごせた
考えてみれば初めて妖精さんと寝た時も耐えたのである
いや、薬学士とは抱き合って寝たけど
…………
秋風「弟子」
秋風も酒が入っている
秋風「弟子ぃ」
薬学士「はい、お師匠さま」
弟子、弟子と何度も呼んだ挙げ句、抱きしめてきた
薬学士「お師匠さま、寂しくさせてすみません」
薬学士は抱きしめ返す
秋風「うん」
薬学士「お師匠さまは私の大切な家族です」
秋風「うん」グスッ
薬学士「もう、あの事は無理なことは分かっています」
秋風「そうだな」
薬学士「また家族に戻っていいですか?」
秋風「破門はしたけれど、家族をやめた記憶はない」
薬学士「……!」グスッ
秋風「弟子ぃ……」グスン
秋風は薬学士の額にキスをして、強く抱きしめて、泣いた
58 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:37:14.33 ID:1Ke1jIMAO
狩人「……」
狩人「……寂しい」グスン
…………
朝ーー
秋風「……」
秋風は少し記憶が飛んでいて、目が覚めた時になぜ妖精さんを抱きしめているのか一瞬考えた
そうだ、可愛い可愛い私の弟子だった
秋風はまた薬学士の額にキスをする
小さな薬学士は、頭も小さいな、とか考える
まだ寒いので、この体温を手放したくないな、とも思う
しばらくは抱きしめただけでいたが、思わず薬学士の体をさすってしまう
秋風「やーらかいのう」
自分は母親代わりだと思っていたが、変態オヤジだったようだ
あまりあちこち触ったので薬学士が目を覚ましてしまった
秋風が本格的に目覚める前に起きて良かった
薬学士「ん……ママ……」ギュッ
寝ぼけている
可愛い
何か切れそうだ
いや、切れた
秋風「弟子ぃ」ガバッ
抱きしめる
あちこち撫で回す
薬学士「あ、あ、お、師匠さま……!」
薬学士「ごごご、ごめんなさい!」
慌ててベッドを飛び出す薬学士
秋風は思い切り残念そうな顔をした……
59 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:38:53.55 ID:1Ke1jIMAO
料理人がキッチンに立っていると、顔を真っ赤にした薬学士が飛び出してきた
見たこと無い
こんな可愛い妖精さん見たこと無い
恐らく秋風と何かあったのだろう
ムカつく
料理人「顔洗っておいで」
薬学士「う、うん///」
何故かこちらを見て、一層赤くなる
たぶん哲学者の石はこんな色だろう
料理人「……」
料理人「帰ったら寝室を分けなければ……」
あんな顔を毎日されたら楽々一線を超える自信がある
如何に鋼のごとくそう言った、それ、を否定していても
鋼くらいは楽々ポッキリと曲がりそうである
料理人「うおっ、焦がすとこだった!」
シチューの残りを温め、サイコロに切ったパンにかけ、チーズをかける
ちょっと表面を焦がす
料理人「……うん、これでいいかな」
薬学士「美味しそう」
急に横にぴったり妖精さんがくっつく
必死に頭から追い出したのに……
料理人「ちょ、席に着きなさい///」
薬学士「はあい」
60 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:41:03.17 ID:1Ke1jIMAO
学者「朝からいちゃいちゃしておりやすなあグヒヒ」
料理人がベッドから出て、うっかりちょっと踏んでしまっても起きなかった学者が美しい顔を丸出しで起きてきた
早くモンスターに戻れ、ツッコミを入れ難い
料理人「早く顔を洗ってきなよ」
学者「ういっす」
帰ってきた学者はメガネをちゃんとかけていた
ひょっとしたらモテすぎるとかの理由でわざと似合わないメガネをかけてあんなしゃべり方をしているのかも知れない
…………
秋風はだらしなくお腹をかきながら起きてきた
秋風「水ちょうだい」
秋風が呟くと薬学士がトテトテ走ってくる
料理人「はい」
コップに水を入れて渡す
薬学士「ありがと」ニコッ
うん、可愛い
秋風「弟子ぃ」ダキッ
薬学士「こっ、こぼれます!」
狩人「はあ……」
料理人(狩人くんいたの気付かなかったよ……)
61 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:41:50.29 ID:1Ke1jIMAO
…………
秋風「よし、飯も美味かったし、飛ぶぞ」
薬学士「はい、お師匠さま」
五人は手早く荷物をまとめて、外に出た
秋風の指示で四人は秋風を取り囲み円陣を組む
秋風「帰還魔法……」
秋風が目を閉じ、意識を集中しているのが分かる
力が集まってくるのを感じる
光が全員を包むと、ゆっくり体が浮き上がる
学者「おおお、初体験!」
狩人「すご……」
言い終わる前に、急激にスピードが上がる
四日かけて旅してきた道が眼下に見える
数分後、やがて逆向きの力がかかる
料理人「酔いそうだ……」
対面の学者の顔が青い
秋風に吐きかけないと良いのだが
空から降りてくる五人を見て、村人たちが騒ぎ出す
秋風「ん、夜のうちに飛べば良かったな」
村長「おお、秋風峡谷の魔王様ではありませんか」
秋風「うん、村長くんか、皆を静かにさせてくれるか?」
狩人「お知り合いなんですか?」
村長「秋風様は昔はここに住んでおられたからな」
狩人「そうなんですか」
…………
料理人「……気持ち悪い」ウプッ
薬学士「……」フラフラ
学者「えれえれ……」
狩人「だ、大丈夫ですか、皆さん」
62 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:42:57.22 ID:1Ke1jIMAO
秋風「まああんまり放置出来ないから、さっさと処理しに行くぞ、無駄な荷物は置いておいで」
秋風「ああ、弟子は薬品揃えてきなさい」
薬学士「はあい……」
料理人「……うう……」
学者「わ、私も……手伝うううっ」パタン
狩人「無理はしないでくださいね」
狩人は学者を抱えて薬学士の家に入っていく
料理人「……食材が痛んでないか見てくるか……」
…………
巨大魔晶石の在処に辿り着いた五人
秋風の見ている中、薬学士と学者の作業が始まる
薬学士「まずは外殻を溶かす……」
秋風「外殻だけを溶かすギリギリの量をきっちり見極めろよ」
秋風「爆発するぞ」
薬学士「……」ビクン
学者「……」ビクン
秋風「まあそんな簡単には爆発しないけどな」
薬学士「……」
学者「……」
料理人は危険なシーンの筈なのに何故か笑いが堪えられなくなった
料理人「……ぷっ……くくっ……」
薬学士「……」
学者「……」
狩人「あははっ」
秋風「さあさあ、手を動かせ、ここで時間をかけるのはマズいぞ」
秋風「しかし見事な群体だな、ここまで集まることなど、この先千年であるだろうか?」
63 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:44:44.50 ID:1Ke1jIMAO
料理人「そこまですごいものなんですか」
秋風「ああ、現にこいつら専門家が取り乱す程だからな」
秋風「だがキッチリ処理すれば基本はただの魔晶石だ」
薬学士「しかしこれだけ純度が高くて大きいとかなり危険ですよね?」
秋風「だから不肖の弟子にやらせている」
学者「不肖と言いながらも信用されてるんでしなあ、弟子だけに」
料理人「……」ニッコリ
学者「その笑顔は怖いでやす……」
秋風「話を聞いてないのか、手を動かせ」
薬学士は黙々と作業を続けている
ぷつぷつと額に汗をかいているのを見て、料理人はそれを拭ってやる
緊張感が高まっているのが手に取るように分かる
最悪この辺りの土地と一緒に全員吹き飛ぶことになるのだ……
緊張しない方がおかしいだろう
薬学士「外殻、抜けました」
秋風「よし、溶剤を薄めろ、間違うなよ?」
学者「ういっすおいっす」
料理人「……」
料理人(今、こんなのに命を預けてるわけか……?)グスッ
ちょっと泣きそうになった
その時、背後で音がする……
もれる吐息の音と醜悪な臭い……
秋風「魔物か」
64 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:46:17.54 ID:1Ke1jIMAO
秋風は魔物の存在を認めると、手のひらを向ける
料理人は、その白い指を綺麗だな、と思いながら見つめた
秋風「……爆裂魔法」
ドン、と言う爆発音
薬学士「」
学者「」
秋風「すまん、魔法のチョイスを間違えたな」
大型のトロールだったが、一撃で消え去っていた
二人は自分の手元に爆発物があるので、思い切り驚いたことだろう
心臓が止まってないと良いが
しばらく硬直していたが、再び動き出す二人
秋風「薄めた溶剤に安定剤を少しずつ足していけ、間違うなよ」
秋風が、間違うなよ、と言う度に二人の顔に緊張が走る
だんだん可哀想にも思えてきた
しかし、危険なのは間違いないのだ
やがて外殻を更に上から溶かして行く
ジリジリとした緊張感の中で、なかなか進まない作業
料理人(一旦帰って昼食を作って持ってこよう……)
秋風「……帰るのか?」
料理人「お弁当作ってきます」
秋風「そうか、楽しみだ」
この緊張感の中で食欲が落ちない辺り、魔王なのかも知れない……
65 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:48:17.39 ID:1Ke1jIMAO
秋風「お前の飯は美味いからな……」
料理人「有り難う御座います」
薬学士もこっちを見て涎を垂らしている
何も言わなかったが、その顔を見ると料理人も緊張感が和らいで、自分もお腹が空いてるのが分かった
料理人「……」
料理人(死ぬ時は一緒だ……)
…………
料理人はトーストサンドやフルーツサラダ、魚のフライなどを作り、早々と帰ってきた
狩人「ここまで上り下りするだけでも大変なのに、すごい」
料理人「待ってる人がいると気合いも入るよ」
秋風「うむ、待ってたぞ」
秋風は早速バスケットを開ける
料理人(あ、この人も結構大食だっけ?)
料理人(まあかなりたくさん作ったけど)
二人が手を休めず作業している後ろでパクパクと食べ出す秋風
薬学士「おのれ、まおうめ……」
料理人は可愛い獣を見つけた気がした
秋風「食ったら変わってやろう」
薬学士「さすがお師匠さま!」
料理人(ほんとに食べるの好きなんだな〜)
66 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:49:38.54 ID:1Ke1jIMAO
料理人はふと気付いた
料理人(そっか)
料理人(あの子とおんなじなんだな)
料理人(……)
遠い目をしていると、秋風に悟られる
秋風「そう言えばキミはどこの町から来たんだ?」
薬学士「……!」
料理人「……東森地方の大楠の国です」
秋風「……」
秋風「そうか」
恐らく秋風はあの戦争のことを知っているのだろう
しかし眉一つ動かしはしなかったが
薬学士「……?」
秋風「東森には二人ほど知り合いがいるな」
料理人「……!」
料理人「大楠の魔王もですか?!」
秋風「……うむ」
秋風「さて薬学士、変わってやる」
料理人「あ、待って……」
秋風「薬学士も腹を空かせてるからな」
料理人「……くっ……!」
はぐらかされた
その事が全てを示している気がした
料理人「……」グスッ
料理人「ううっ……」ポロポロ
料理人(駄目だ、皆がキツい作業をしている中で動揺しては……)
料理人「ぐっ……」ポロポロ
薬学士「……料理人ちゃん……」
秋風「……」
秋風「うむ、私と弟子が一緒に寝るとして……」
秋風「どうしても一人はソファーで毛布になるな」
狩人「それでも野宿より良いです、僕ソファーで寝ます」
秋風「すまんな、客用にベッドを追加しておくか」
…………
料理人はあまり気は進まないものの、学者と寝ることになった
蹴り落としても悪いので仕方がないから寄り添って寝る
学者がメガネを外すと、見たことの無い美人が現れた
料理人「うおっ」
学者「どうかしやしたか旦那! モンスター?!」
むしろメガネをかけると汚いモンスターに戻る
学者「何気に失礼なことを考えられた気がしますにゃん」
うるさい
学者が再びメガネを取る
なんという萌えキャラ
これはこれで一緒に寝るのが気まずい
良く見えないのだろう、こちらに顔を近付け、真っ直ぐに見つめてくる
料理人(危ない、これは危ない)
学者「こうやって見ると料理人さんは可愛いでやすな、ムラムラしやす」
するな
57 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:35:50.24 ID:1Ke1jIMAO
学者「灯り消しやす」
料理人「あ、うん」
顔が近いし、少し酒臭い
そう言えば学者は結構飲んでいた
ヤバいかも知れない
学者「んふっ」
ヤバいかも知れない
学者「すいやせん、あっちむきやす、食っちまいそうなんで」
料理人は学者を蹴り落とすのをギリギリ我慢した
なんとか襲いも襲われも蹴り落としもせずにその日はやり過ごせた
考えてみれば初めて妖精さんと寝た時も耐えたのである
いや、薬学士とは抱き合って寝たけど
…………
秋風「弟子」
秋風も酒が入っている
秋風「弟子ぃ」
薬学士「はい、お師匠さま」
弟子、弟子と何度も呼んだ挙げ句、抱きしめてきた
薬学士「お師匠さま、寂しくさせてすみません」
薬学士は抱きしめ返す
秋風「うん」
薬学士「お師匠さまは私の大切な家族です」
秋風「うん」グスッ
薬学士「もう、あの事は無理なことは分かっています」
秋風「そうだな」
薬学士「また家族に戻っていいですか?」
秋風「破門はしたけれど、家族をやめた記憶はない」
薬学士「……!」グスッ
秋風「弟子ぃ……」グスン
秋風は薬学士の額にキスをして、強く抱きしめて、泣いた
58 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:37:14.33 ID:1Ke1jIMAO
狩人「……」
狩人「……寂しい」グスン
…………
朝ーー
秋風「……」
秋風は少し記憶が飛んでいて、目が覚めた時になぜ妖精さんを抱きしめているのか一瞬考えた
そうだ、可愛い可愛い私の弟子だった
秋風はまた薬学士の額にキスをする
小さな薬学士は、頭も小さいな、とか考える
まだ寒いので、この体温を手放したくないな、とも思う
しばらくは抱きしめただけでいたが、思わず薬学士の体をさすってしまう
秋風「やーらかいのう」
自分は母親代わりだと思っていたが、変態オヤジだったようだ
あまりあちこち触ったので薬学士が目を覚ましてしまった
秋風が本格的に目覚める前に起きて良かった
薬学士「ん……ママ……」ギュッ
寝ぼけている
可愛い
何か切れそうだ
いや、切れた
秋風「弟子ぃ」ガバッ
抱きしめる
あちこち撫で回す
薬学士「あ、あ、お、師匠さま……!」
薬学士「ごごご、ごめんなさい!」
慌ててベッドを飛び出す薬学士
秋風は思い切り残念そうな顔をした……
59 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:38:53.55 ID:1Ke1jIMAO
料理人がキッチンに立っていると、顔を真っ赤にした薬学士が飛び出してきた
見たこと無い
こんな可愛い妖精さん見たこと無い
恐らく秋風と何かあったのだろう
ムカつく
料理人「顔洗っておいで」
薬学士「う、うん///」
何故かこちらを見て、一層赤くなる
たぶん哲学者の石はこんな色だろう
料理人「……」
料理人「帰ったら寝室を分けなければ……」
あんな顔を毎日されたら楽々一線を超える自信がある
如何に鋼のごとくそう言った、それ、を否定していても
鋼くらいは楽々ポッキリと曲がりそうである
料理人「うおっ、焦がすとこだった!」
シチューの残りを温め、サイコロに切ったパンにかけ、チーズをかける
ちょっと表面を焦がす
料理人「……うん、これでいいかな」
薬学士「美味しそう」
急に横にぴったり妖精さんがくっつく
必死に頭から追い出したのに……
料理人「ちょ、席に着きなさい///」
薬学士「はあい」
60 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:41:03.17 ID:1Ke1jIMAO
学者「朝からいちゃいちゃしておりやすなあグヒヒ」
料理人がベッドから出て、うっかりちょっと踏んでしまっても起きなかった学者が美しい顔を丸出しで起きてきた
早くモンスターに戻れ、ツッコミを入れ難い
料理人「早く顔を洗ってきなよ」
学者「ういっす」
帰ってきた学者はメガネをちゃんとかけていた
ひょっとしたらモテすぎるとかの理由でわざと似合わないメガネをかけてあんなしゃべり方をしているのかも知れない
…………
秋風はだらしなくお腹をかきながら起きてきた
秋風「水ちょうだい」
秋風が呟くと薬学士がトテトテ走ってくる
料理人「はい」
コップに水を入れて渡す
薬学士「ありがと」ニコッ
うん、可愛い
秋風「弟子ぃ」ダキッ
薬学士「こっ、こぼれます!」
狩人「はあ……」
料理人(狩人くんいたの気付かなかったよ……)
…………
秋風「よし、飯も美味かったし、飛ぶぞ」
薬学士「はい、お師匠さま」
五人は手早く荷物をまとめて、外に出た
秋風の指示で四人は秋風を取り囲み円陣を組む
秋風「帰還魔法……」
秋風が目を閉じ、意識を集中しているのが分かる
力が集まってくるのを感じる
光が全員を包むと、ゆっくり体が浮き上がる
学者「おおお、初体験!」
狩人「すご……」
言い終わる前に、急激にスピードが上がる
四日かけて旅してきた道が眼下に見える
数分後、やがて逆向きの力がかかる
料理人「酔いそうだ……」
対面の学者の顔が青い
秋風に吐きかけないと良いのだが
空から降りてくる五人を見て、村人たちが騒ぎ出す
秋風「ん、夜のうちに飛べば良かったな」
村長「おお、秋風峡谷の魔王様ではありませんか」
秋風「うん、村長くんか、皆を静かにさせてくれるか?」
狩人「お知り合いなんですか?」
村長「秋風様は昔はここに住んでおられたからな」
狩人「そうなんですか」
…………
料理人「……気持ち悪い」ウプッ
薬学士「……」フラフラ
学者「えれえれ……」
狩人「だ、大丈夫ですか、皆さん」
62 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:42:57.22 ID:1Ke1jIMAO
秋風「まああんまり放置出来ないから、さっさと処理しに行くぞ、無駄な荷物は置いておいで」
秋風「ああ、弟子は薬品揃えてきなさい」
薬学士「はあい……」
料理人「……うう……」
学者「わ、私も……手伝うううっ」パタン
狩人「無理はしないでくださいね」
狩人は学者を抱えて薬学士の家に入っていく
料理人「……食材が痛んでないか見てくるか……」
…………
巨大魔晶石の在処に辿り着いた五人
秋風の見ている中、薬学士と学者の作業が始まる
薬学士「まずは外殻を溶かす……」
秋風「外殻だけを溶かすギリギリの量をきっちり見極めろよ」
秋風「爆発するぞ」
薬学士「……」ビクン
学者「……」ビクン
秋風「まあそんな簡単には爆発しないけどな」
薬学士「……」
学者「……」
料理人は危険なシーンの筈なのに何故か笑いが堪えられなくなった
料理人「……ぷっ……くくっ……」
薬学士「……」
学者「……」
狩人「あははっ」
秋風「さあさあ、手を動かせ、ここで時間をかけるのはマズいぞ」
秋風「しかし見事な群体だな、ここまで集まることなど、この先千年であるだろうか?」
63 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:44:44.50 ID:1Ke1jIMAO
料理人「そこまですごいものなんですか」
秋風「ああ、現にこいつら専門家が取り乱す程だからな」
秋風「だがキッチリ処理すれば基本はただの魔晶石だ」
薬学士「しかしこれだけ純度が高くて大きいとかなり危険ですよね?」
秋風「だから不肖の弟子にやらせている」
学者「不肖と言いながらも信用されてるんでしなあ、弟子だけに」
料理人「……」ニッコリ
学者「その笑顔は怖いでやす……」
秋風「話を聞いてないのか、手を動かせ」
薬学士は黙々と作業を続けている
ぷつぷつと額に汗をかいているのを見て、料理人はそれを拭ってやる
緊張感が高まっているのが手に取るように分かる
最悪この辺りの土地と一緒に全員吹き飛ぶことになるのだ……
緊張しない方がおかしいだろう
薬学士「外殻、抜けました」
秋風「よし、溶剤を薄めろ、間違うなよ?」
学者「ういっすおいっす」
料理人「……」
料理人(今、こんなのに命を預けてるわけか……?)グスッ
ちょっと泣きそうになった
その時、背後で音がする……
もれる吐息の音と醜悪な臭い……
秋風「魔物か」
64 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:46:17.54 ID:1Ke1jIMAO
秋風は魔物の存在を認めると、手のひらを向ける
料理人は、その白い指を綺麗だな、と思いながら見つめた
秋風「……爆裂魔法」
ドン、と言う爆発音
薬学士「」
学者「」
秋風「すまん、魔法のチョイスを間違えたな」
大型のトロールだったが、一撃で消え去っていた
二人は自分の手元に爆発物があるので、思い切り驚いたことだろう
心臓が止まってないと良いが
しばらく硬直していたが、再び動き出す二人
秋風「薄めた溶剤に安定剤を少しずつ足していけ、間違うなよ」
秋風が、間違うなよ、と言う度に二人の顔に緊張が走る
だんだん可哀想にも思えてきた
しかし、危険なのは間違いないのだ
やがて外殻を更に上から溶かして行く
ジリジリとした緊張感の中で、なかなか進まない作業
料理人(一旦帰って昼食を作って持ってこよう……)
秋風「……帰るのか?」
料理人「お弁当作ってきます」
秋風「そうか、楽しみだ」
この緊張感の中で食欲が落ちない辺り、魔王なのかも知れない……
65 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:48:17.39 ID:1Ke1jIMAO
秋風「お前の飯は美味いからな……」
料理人「有り難う御座います」
薬学士もこっちを見て涎を垂らしている
何も言わなかったが、その顔を見ると料理人も緊張感が和らいで、自分もお腹が空いてるのが分かった
料理人「……」
料理人(死ぬ時は一緒だ……)
…………
料理人はトーストサンドやフルーツサラダ、魚のフライなどを作り、早々と帰ってきた
狩人「ここまで上り下りするだけでも大変なのに、すごい」
料理人「待ってる人がいると気合いも入るよ」
秋風「うむ、待ってたぞ」
秋風は早速バスケットを開ける
料理人(あ、この人も結構大食だっけ?)
料理人(まあかなりたくさん作ったけど)
二人が手を休めず作業している後ろでパクパクと食べ出す秋風
薬学士「おのれ、まおうめ……」
料理人は可愛い獣を見つけた気がした
秋風「食ったら変わってやろう」
薬学士「さすがお師匠さま!」
料理人(ほんとに食べるの好きなんだな〜)
66 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/02/15(土) 21:49:38.54 ID:1Ke1jIMAO
料理人はふと気付いた
料理人(そっか)
料理人(あの子とおんなじなんだな)
料理人(……)
遠い目をしていると、秋風に悟られる
秋風「そう言えばキミはどこの町から来たんだ?」
薬学士「……!」
料理人「……東森地方の大楠の国です」
秋風「……」
秋風「そうか」
恐らく秋風はあの戦争のことを知っているのだろう
しかし眉一つ動かしはしなかったが
薬学士「……?」
秋風「東森には二人ほど知り合いがいるな」
料理人「……!」
料理人「大楠の魔王もですか?!」
秋風「……うむ」
秋風「さて薬学士、変わってやる」
料理人「あ、待って……」
秋風「薬学士も腹を空かせてるからな」
料理人「……くっ……!」
はぐらかされた
その事が全てを示している気がした
料理人「……」グスッ
料理人「ううっ……」ポロポロ
料理人(駄目だ、皆がキツい作業をしている中で動揺しては……)
料理人「ぐっ……」ポロポロ
薬学士「……料理人ちゃん……」