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料理人と薬学士

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Part13
163 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:20:54.03 ID:Fga/dJyAO
…………
料理人「まず薬学士と南港、お二人に謝らなくてはならないことがあります」
薬学士「……ごくり」
南港「妙に引っ張るのう……」
料理人「グラタンは時間がかかるのでおかわりはありませ〜ん!」
薬学士「ええええっ」
南港「マジかあああっ」
料理人「代わりにと言っては何ですが食べたければ厚切りベーコンを焼けます」
南港「やっほう!」
薬学士「食べたい!」
料理人「チーズを一杯食べたかったのでチーズハンバーグを量産致しました!」
薬学士「わああああ!」
南港「やほおおお!」
料理人「皆様にご満足頂けたら幸いです」
学者「……早く食べたいですのん……」
料理人「では、いただきます!」
薬学士「いたらきまーっ!」
南港「ひゃはーっ!」
狩人「……いたらきまーっす!」
学者「うむ、いたらきまっでござる」
料理人「……食卓の戦場なら平気なんだけどなあ……」
料理人「そうだ、南港に大戦の話を聞いておきたかったんだよね」
南港「そうじゃな……自分達で残さなかったのもあるが、ある問題があって記録があまり残っておらんからのう」

164 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:25:40.38 ID:Fga/dJyAO
しかし、その前に重大な案件を抱えてしまったことに、薬学士は気付いた
薬学士「お肉ばっかりだから確実に太る!」
料理人「その点は赤身中心に使うとか配慮しますのでご了承ください……」
南港「美味ければよし!」
魔王になるとウェイトのコントロールも可能なのかも知れない
薬学士「うらやましい……」
料理人「ダイエットには付き合うよ?」
栄養学も料理の一分野であろう
料理人自身もダイエットは必要だと薄々感じていたし……
……お話を戻そう
まず今は南港に話を聞こう
南港「つーてもどこから話せばいいのかのう?」
南港「百余年前、西大陸と聖都からずっと南の大国、ツツジ国が戦争を始めたのが始まりじゃったかのう?」
南港「チーズ美味い」モグモグ
南港「その前に小競り合いはあったんじゃが、ずいぶんたくさんの魔王が駆り出されての」
南港「その中に身内がいたもんで儂等も……ああ、身内については後で話そうかの」
南港「戦争じゃから仕方ないが、殺し合いじゃったわ」
南港「その時儂はずっと泣いてばかりだったから実は前線には余り立たせてもらってないんじゃけどな」
南港「秋風や他の仲間も儂がウザかったかもな」グスッ

165 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:27:44.30 ID:Fga/dJyAO
料理人「……」
たぶんそうじゃない
秋風達は料理人と同じ結論に辿り着いたのでは無いだろうか
南港「寂しい話じゃ」
南港「でも儂のうざったい性格は治らんのじゃ」
それは子供が魔王になるとずっと子供の性格のまま、と言うこと
そしてそれは大楠の魔王も同じだったのではないか
秋風達が大楠の魔王を失ったショックが分かる気がした
子供を持てない魔王達にとって、彼女達は一層大切な身内
南港を置いていったのは料理人達のボディガードの意味も有ったろうが、そう言った意味合いもあったのではないか
大切な身内を死なせたく無かったのではないか
南港「大戦は大混乱じゃった」
南港「なんせ魔王が二百人から参加したからの」
料理人「それは凄まじいだろうね……」
南港「大戦は意外な形で終わった」
南港「まず、魔王が半分ほど倒れた辺りから、世界中に破壊神がランダムに現れるようになったのじゃ」
料理人「ええっ?」
薬学士「うわあ……」
学者「そりゃ生きた心地がしなかったでしょうなあ」
学者「しかしうちの国でも殆ど大戦の記録が残ってないのは謎でごじゃる」

166 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:31:31.67 ID:Fga/dJyAO
南港「まあそれも大戦が終わった理由に原因がある」
南港「もう一つ言えば生き残った数十人ほどの魔王が悉くバラけた理由にもなった」
学者「ふうむ……魔王同士や破壊神との戦争に疲れたんですかにゃ?」
南港「いや、もっと根元的な理由じゃ」
南港「戦争を止める存在が現れたのじゃ」
料理人「魔王の戦争を止める……存在……?」
南港「うむ、知っておるか?」
南港「魔王と呼ばれる者達を作った存在……」
南港「七魔女」
薬学士「名前だけは聞いたことある」
薬学士「哲学者の石を作り出し永遠にして完全な存在になった原初の魔女」
学者「七魔女と言えば高塔では女神と讃えられる存在ですにゃ」
学者「いったい何の目的でそんな伝説が現れたでやすか?」
南港「元々その時現れた魔女が七魔女になったのが破壊神を消し去る目的だったかららしいのじゃ」
南港「当然そんな伝説上の存在が現れれば皆混乱する」
南港「因みに七魔女とは原始の七魔法を一人で極めた存在じゃから七魔女と呼ばれるのであって七人居る訳じゃない」
南港「それぞれ目的の違う者が数人は居るらしいがの」
南港「そして大昔からの慣例で彼女の存在は隠された」

167 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:35:47.38 ID:Fga/dJyAO
学者「特別な力のある存在は驚異になりやすいですからなあ」
南港「少し喋り疲れたの」
料理人「冷めても不味いから食べて」
南港「うむ」
南港「グラタンあつあつで美味いのじゃ!」
料理人「ありがと」フフッ
…………
南港「魔女が現れてやったこと、それは戦争の原因を作った魔王の」
南港「完全なる殲滅」
南港「立ち向かった者は全く歯が立たなかったらしい」
南港「もうそれは化け物じゃ、魔王が全力を尽くそうが破壊神を大量発生させようが一方的、攻撃は効かんし、……一薙ぎで全滅だったそうな」
南港「それから多くの魔王は表立った接触や戦争を避けるようになった」
料理人「では今の魔王狩りと言うのは……」
南港「戦争後に再び破壊神封印のために作られた新世代か、可能性は低いが自身で魔王になる方法を見いだした者かの?」
南港「狂っとるだけかも分からんが」
学者「狂っとるのが正解かも分かりやせんなあ」
学者「なんせ北終は大国でやす、後から来た魔王が支配できるとは考えにくいでやす」
南港「うーむ、そうすると儂も知っとる奴かも分からん」
南港「まあ心当たりが無いし、大戦に参加してなかった臆病者の線もあるかの?」


168 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:38:04.04 ID:Fga/dJyAO
南港「……ふう……」
料理人「今日はこれくらいにしておく?」
南港「うむ……お腹いっぱいで眠くなってきたのじゃ」
料理人「よし、今日は一緒に寝よう」
南港「うん、嬉しいのじゃ」
南港「まあ七魔女の歴史や詳しい大戦の内容は機会が有れば別のお話で」
学者「誰に言ってるでやすか?」
南港「後、儂等が戦争に参加する理由になった魔王とは、儂等を魔王にした存在、儂等はママと呼んでおった」
南港「ママは大混戦の中で亡くなったが、ママの直接の弟子であった秋風はその技をいくつか受け継いでおる」
南港「じゃから秋風を死なせたくない」
料理人「うん」
薬学士「私も死なせたくない」
学者「まだ色々教わりたいですしにゃあ」
南港「じゃあ儂はもう寝るのじゃ、料理人だっこ」
料理人「はいはい」
学者「では拙者も失礼しやすにゃん」
料理人「あ、学者さん」
料理人「近いうちに高塔に行きたいんだけど、考えておいてくれない?」
学者「……うみゅ、了解でさあ」
学者「里帰りは非常に緊張いたしますが……」
料理人「まともに喋った!?」

169 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:40:50.32 ID:Fga/dJyAO
そして料理人達は、四日後に騎士が帰ってくるのを待ってそれから高塔に旅立つことになった
…………
前線では人間の兵が戦える状態では無かった
強化された聖都北の魔王軍はもはや人間で止められる物ではない
そのため必然的に敵魔王も前線に出てくる
大剣「砦に強力な結界が張られた」
秋風「奴が出てきたな」
鉄斧「なかなか硬いわ、大したもんだわい」
東磯「俺の銛……刺さらない……」
西浜「……」ゥ
鉄斧「悔しそうだのう」
東磯「もう一発……撃ってみる……」
西浜「……」コクン
西浜のエールを受け、東磯は銛の魔晶石にその強力な魔力を込めていく
東磯「……薙払え……」
東磯が全身の筋肉を繋ぎ合わせるような動きで、力を銛の進行方向一点に込め、放つ
土を巻き込み轟音と雷撃をまとった銛が砦までの大地を抉りとる
結界と激突した銛が派手な爆発をするが、結界はその攻撃を凌ぎきる
東磯「……」
東磯「……戻ってこい」
敵陣に落ちた銛が高速で手元に返る
東磯の魔王のオリジナル魔法、手に触れた物を記憶がある限り自在に操る能力だ
秋風「東磯は強いな」
大剣「……本当は戦わせたくないんだがな」

170 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:42:57.08 ID:Fga/dJyAO
大剣「しかしあの性格だろ?」
秋風「止めたら銛で刺されるな」
秋風「もう少し上手に誤魔化せばいいのに」
大剣「そう言うのは任せるわ」
秋風「本当に魔王らしくない奴だな、お前は」
大剣「人のこと言えるのか? お前もそこらのお嬢さんに紛れても分からんぜ?」
秋風「ほめ言葉と受け取っておくよ」
大剣「実際は婆だがな」
秋風「死にたいのか?」ニッコリ
大剣「こえーよ……」
鉄斧「埒が明かんわ、ワシも一緒にやろう」
鉄斧「ほれ東磯、ワシの斧にもお主の魔法をかけろ」
東磯「……分かった……ダブルでぶっ飛ばすぞ……」
秋風「よし、私の魔力も足してやる、西浜もやれ」
西浜「……」コクン
大剣「おいおい、大楠が無くなっちまうぞ……」
秋風「耐えるだろ、一発なら」
…………
魔王狩り「くそっ、何だってんだアイツら!」
魔王狩り「こんなペースで攻撃されたら流石に持たん、おい、魔晶石持って来い!」
敵兵「はっ、どうなさるのですか?」
魔王狩り「援軍を呼ぶんだよ!!」
魔王狩りは手に掴めるだけ魔晶石を持つと、魔力を込め、超音速で敵陣に投げつけた
…………

171 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:45:43.49 ID:Fga/dJyAO
秋風「待て、敵からの攻撃!」
秋風「私の結界に魔力を注げ!」
西浜「……」ン
東磯「分かった……!」
鉄斧「石か!?」
大剣「破壊神が出るぞ!」
一瞬の後、結界に当たり、砕け散る魔晶石
激しいエネルギーの暴走……それがやがてまとまり、何匹もの光り輝く蛇のような姿を成して暴れ始める
秋風「くそっ、厄介だ!」
鉄斧「ワシが倒す!」
大剣「俺も仕事しないとな!」
大剣「秋風、西浜、結界は任せる!」
西浜「……」ン
秋風「任された!」
東磯「俺……遊撃!」
大剣「頼むぞ!」
東磯の魔王は本当に頼もしい
思わず大剣はニヤリと笑ってしまう
…………
魔王狩り「……よし、少し休む」
魔王狩り「こっちの援軍はまだか?」
敵兵「北終の魔王が何人か自国領内の魔王に話を持ちかけているようですが、難航しております」
魔王狩り「まあこっちは魔王狩ってる訳だからな」
魔王狩り「魔晶石売りはどうだ、追加を持ってきたか?」
敵兵「そちらは問題なく、ただ傭兵雇用の為の費用をかなりの額請求してきたのですが……」
魔王狩り「足元見やがる……仕方なかろう、払え」

172 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:49:04.22 ID:Fga/dJyAO
魔王狩り「いいか、一般兵でシューターを使って魔晶石を30分毎に撃て!」
魔王狩り「対策を練る! 豚に北砦まで出てこさせろ!」
魔王狩り「それから敵に警告を出せ、豚が死んだら女神が出るぞ、とな!」
敵兵「ははっ!」
その時、魔王狩りの砦は追撃を受ける
派手な爆発は東磯の攻撃だろう
魔王狩り「うおおおおっ!?」
魔王狩り「くっ、相手方の魔王が多すぎるか!」
…………
大剣「あいつらどんだけ魔晶石持ってるんだ?」
秋風「最近魔晶石狩りが出ただろ、それがあいつらに流れてるんだ」
秋風「他に出所は考えられんからな」
大剣「さっさと押さえておけば良かったか」
秋風「恐らくは商人たちが動いているんだろう、あいつらは戦局が硬直した方が儲かるからな」
秋風「単純に一人二人押さえても無駄だ、流通を断たないと」
大剣「秋風が国で指揮してくれたらそういう動きも出来るんだろうが、今は眼前の敵を押さえきらないとな!」
秋風「そうだ、魔晶石なんぞ無限には無いし、市販品は魔王の魔晶石より遥かに劣る」
秋風「耐えきれば絶対に相手は引く、ここは我慢だ」
鉄斧「もう一発来るぞぉ!」
大剣「おおおっ!」

173 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:55:29.19 ID:Fga/dJyAO
戦局は硬直するかに見えたが、北終の魔王は動かず、高塔の魔王により大楠西砦が落とされたことで魔王狩りが後退
数日後には大楠北砦まで撤退した魔王狩りを他の魔王が取り囲む形に落ち着いた
…………
そして、その戦争の影で料理人達は動き出す
少しでも早く合流せねば秋風達の危険はどんどん増していくのだ
四日を待っていられずに、料理人達は高塔を目指し旅立つことになった
薬学士「お師匠さま……」
薬学士「早まらないでください……」
道中南港がいたために、秋風峡谷を目指した旅よりも圧倒的に楽だった
旅を始めて二日目の朝には騎士と合流し、夜までには高塔の国西端に辿り着く
ここから高塔中心まで馬車で二時間かかるため、まずは一泊することになった
…………
夜、料理人と薬学士は南港に質問を浴びせ続けていた
薬学士「どうして南港ちゃんは魔王になったの?」
南港「儂が魔王になったのは10歳の時じゃったかのう」
南港「その当時も破壊神は暴走していたと思うんじゃが……」
南港「申し訳ないが10歳の子供の頃じゃ、覚えている事はそんなにないのじゃ」
料理人「うん」

174 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/03/16(日) 20:59:13.31 ID:Fga/dJyAO
南港「もちろん、両親が破壊神に殺されたのは覚えておる」
南港「敵を討ちたかったのは間違いない」
薬学士「永遠に生きることは苦しいと思わなかった?」
南港「確かに、当時はそんな考えは無かったのう」
南港「ママのためにって気持ちもあったかな」
南港「覚悟はあったが多くの人は止めた」
南港「まあガキじゃからな、ムキになっとったのも間違いないわ」
料理人「後悔しているか……?」
南港「後悔することもそりゃあるわ」
南港「じゃがの、幸せな時もある」
南港「後悔なんてものは一過性の感情にすぎん、捕らわれるのは馬鹿じゃ」
料理人「私が魔王になりたいと言ったら止めるか?」
南港「なりたいのか?」
南港「……それは個人の問題、としか言えんが、チャンスが有るかも分からんぞ」
南港「魔王狩りなんてやらかしてる奴がいるんじゃからの」
学者「また女神様が現れる可能性があるんでやすな?」
南港「うむ」
南港「しかし今更ながら謎じゃ、何故北終の奴等は急に魔王狩りなんぞやらかし始めたのか……?」
学者「女神様に会って文句を言いたいとか」
南港「アホじゃな、まず何も聞かずに殺されるわ」