百物語2015
Part14
262 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 03:59:05.01 ID:AgCPeYID0
【75話】雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『義実家の人々』
元同僚の話。
彼の奥さんの実家は、人の死が見える家族なのだという。
義両親は共にはっきりと、義妹はボンヤリと見えるのだそうだが、
なぜか奥さんだけはまったく見えない質らしい。
夫婦で実家に遊びに行くと、
「あぁ、君は○○で死ぬだろうから、準備をしておいてくれ」
「娘を必要以上に苦労させたくないから、保険とかもきちんとしておいてね」
などと反応に困るようなことを言われたそうだ。
奥さんが泣きながら「あの人たちには、本当に人の死に目が見えるの」と訴えた。
「ま、用心しておくさ」と彼は返し、自分が可能な対応をすることにした。
○○から連想される場所に、絶対に近寄らないよう暮らし振りを変えてみる。
その少し後、再び訪れた実家で、今度はこんなことを言われた。
「おや、○○で死ななくなったみたいだねぇ」
「でもまだ△△かもしれないし」
「だから今は△△を避けて生活しているんだ。
かなり天然入っているけど、義実家の人たちって悪い人じゃないんだよ。
見方を変えれば、危険を未然に注意してくれているとも言える訳だし」
ニコニコとそう述べる彼の横で、乾いた笑いを浮かべる奥さんが印象的だった。
彼自身も強烈な天然であるのだが、当の本人はそれに気がついていない様子である。
(終)
264 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:00:49.18 ID:AgCPeYID0
【76話】雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『旧校舎の肝試し』
友人の話。
学生時代の夏休み、取り壊される予定の旧校舎で肝試しをしたのだという。
学校からかなりうるさく言われたので、かっちりとした計画を立て、
使用許可もちゃんと出して、スケジュール通り執り行った。
イベント自体は何も起こらず無事に終了したのだが、校舎から出た途端、
先生方が怒りながら飛んできた。
「こんな時間までどこで何やってた!?」
時計を見ると、もう少しで日が変わる刻限になっていた。
おかしい。
計画ではどんなに遅くとも、21時までには終了する予定だったのだが。
265 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:01:38.32 ID:AgCPeYID0
先生方が言うには、帰りが遅いので心配し、旧校舎内を確認したのだが、
誰一人として姿が見つからなかったと。
さては連絡もせずに帰ったかと家に電話をすると、まだ誰も帰っていない
と言われたので、手分けをして探していたのだという。
しかし彼らは旧校舎からは出ていない。
彼ら生徒たちの腕時計は、皆揃ったように五時間以上遅れた時刻を指していた。
「結局、俺たちが時間を忘れて遅くなったという仕舞をつけられてさ。
親にも学校にもえらく怒られたよ。
でも、警察の人にまで怒られたのは困ったなぁ。
あの人たち、マジに怖いんだもん」
彼はそう言うと肩を竦めた。
(終)
267 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:03:11.50 ID:AgCPeYID0
【77話】Big ◆iq3nGde8rU 様
山の中の濃霧は、登山界ではガスと言うことも多いですね。
ひどいときには、まったく視界を失って遭難の原因となることもあります。
実際、すぐ目の前を行く人の後頭部や、
自分のはいている登山靴さえ見えなくなることもあるのです。
登山をしない人でも、飛行機が雲海に突っ込み窓の外が一面に白くなるのを、
見た経験がある方もいるのではないでしょうか。霧と雲は基本的には同じものです。
「五里霧中」という故事成語があります。
国語の試験問題に出て、「夢中」という誤答例が紹介されることがありますが、
「五里霧」は五里四方に立ち込める深い霧という意味で、
中国の正史の一つである『後漢書』に初出します。
今夜させていただく話は、こうした山中での濃霧に関するものです。
『体をつかめ』
山行、この場合は近代的な登山ではなく、山菜採りや渓流釣り、
猟などで山に入った場合の山人の心得ですが、一寸先も見えないような濃霧の中では、
行動をせずに晴れ間を待つのがベストです。
しかしなかなかそうも言ってはいられません。時間的な制約もあり、
どうしても先へ進まなければならない場合、
例えば4人同行であれば、リーダーが先頭に立ち、
後ろの3人は両手を空けて前の人の腰をつかんで、そろそろと行動をします。
このとき、ザイルを伸ばしたものをつかんだり、
前を行く人のザックをつかんだりするのはあまりよくないことのようです。
こういう話があります。あるとき4人の一行が、冬に集団で巻き猟をした帰り、
ひどい濃霧に出くわしました。そこらの山塊一体がつつまれてしまったのです。
268 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:04:27.17 ID:AgCPeYID0
リーダーの指示で、先にお話したように一列縦隊になり、前の者の腰をつかんで、
そろそろと下っていったのですが、3番目の男は手に獲物のウサギを下げておったため、
前の者の腰から手を離してザックの一部をつかんでしまいました。
そのまま20分ほど下ったところで、前の者がまったく動かなくなったのです。
視界はきかなくとも、ザックをつかんだ感触は間違いないので、
「おおい、どした。なんで止まっとる」と声かけをしても返事はなし。
今度は最後尾の者が声をかけましたが、やはり同じでウンともスンとも言わない。
そこで手探りでザックの前を探ってみると、驚いたことにザラザラとした木の感触。
立木がザックを背負っているとしか思えませんでした。
しかし、そんなことがあるはずはない。それはそうでしょう。
そこまで前の者をつかんで、立ち止まりもせずに歩いてきたんですから。
これは何かに化かされていると感じた男は、後ろの男に、
その場に腰掛けるように言い、2人でブカブカと煙草をふかし始めました。
物の怪や獣の化かしには、煙草の煙がよいとされていたのですよ。
そうして、霧が晴れるのをじっくりと待ちました。
視界が回復してびっくり仰天、やはりさきほど手さぐりしたとおりに、
大きなブナの木がザックを背負った形になっていたのです。
そして、そのザックは2人目の男のものに間違いはありませんでした。
ためすがめつ調べても仲間のザックなので、少々気味悪くとも持って山を降りました。
幸いなことに、前にいた2人もすでに山を下りて里に入っていましたが、
2人目の男のザックは当然ながら、なし。両腕を通して背負っているものが、
本人が気づかないうちにするりと脱げてなくなってしまっていたのです。
(終)
270 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:06:40.87 ID:AgCPeYID0
【78話】Big ◆iq3nGde8rU 様
『反魂』
このような濃霧の中では、何かがくるとも言われます。
何か・・・とは、前の話のようにキツネやタヌキなのかもしれませんし、
あるいは人や獣どころか、この世のものではないかもしれません。
やはり猟をしていた5人組が、山中で濃霧に遭遇し、
前の者の腰をつかんで、そろそろとムカデ歩きをしていたときのことです。
最後尾の男が、「おやあ、何か来た」と声を出しました。
こういう場合、前に立つリーダーは、「何も来ねえ、気をしっかり持て」
と声をかけます。仮に他の登山者が後ろにいるのだとしても、
何もしてやることはできませんし。お話したように、
来たのがこの世のものとはかぎらないからです。
「うんだな」最後の男はつぶやきましたが、またしばらくして、
「何か来た、何か来た」と叫びました。「何かが俺の腰に取りついとる!」と。
リーダーが「何も来てねえ」とまた言い、残りの者も「んだ。何も来てねえぞ」
と復唱します。最後尾の男は黙りましたが、またしばらくして、
「来たぞ、来てるぞ。女の手だあ。こらあ俺の女房の手だろう」
これを聞いて皆はぞっと背筋が寒くなりました。
男の女房は去年の冬に肺炎で死んだのを知っていたからです。
それもちょうど今頃の時期に。「〇〇さぁ」最後尾の男はリーダーの名前を呼びました。
271 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:07:24.61 ID:AgCPeYID0
「俺、ここに残ってもいいかあ。女房が来てるようだども」
「ダメだあ!」リーダーが叫び、残りの者も復唱します。
「おめえの女房はもう鬼籍に入っとるだろうに。そら、おおかたメス狐だろうて」
リーダーはそう言うと4人目の男の名を呼び、
「□□が離れねえようにおめえ、手首を引いてやれ」こう指示したのです。
しばらく進むとまた、最後尾の男の声が聞こえて、
「今よう、俺の女房が隣について歩いておる」こんな内容です。
リーダーは「この霧じゃあ見えるわけがなかろう。そら、この世のもんではねえから」
そしてひときわ声を張り上げて、「オン アビラウンケンソワカ」と唱えました。
そのあたりの山はいわゆる霊山でもあり、修験者の姿を見かけることも多く、
猟師連中も真言(マントラ)を知っていたのです。一行はそのまま、
「阿 毘 羅 吽 欠 蘇 婆 訶」と地水火風空の真言を唱和しながら、
ムカデ姿のまま、ゆっくりとゆっくりと山を下ったのです。
もしもはたから見ることができれば、さぞや異様な光景だったことでしょう。
ともかく、そうしているうちに霧は晴れ、一人の脱落者も出さず戻ることができたそうです。
(終)
273 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:10:17.35 ID:AgCPeYID0
【79話】Big ◆iq3nGde8rU 様
『遊郭』
前の話で、最後尾の男に働きかけてきたものは何だったのでしょう。
キツネやタヌキなど山の獣がちょっかいを仕掛けてきたのでしょうか。
そうかもしれませんし、本当に、男の死んだ女房が姿を見せたのかもしれません。
そうです。このような濃霧のときには、この世とあの世の道がつながるということも、
けしてないとは言えないでしょう。
さて、前の話ではリーダーがしっかりした山の男だったので、
無事に戻ることができたのですが、そういうケースばかりではありません。
リーダーには歳はあまり関係がなく、仲間に信頼のあるものがなるのです。
せまい集落で生まれ育ったものどうし、気性は子どもの頃から知っているわけですから。
ただし毎回そううまくいくとも限りません。
そのリーダーねらわれてしまうこともあるのです。
やはり霧の中で、4人がそろそろとムカデ歩きをしておりますと、
まったく視界がない中ながら、どうも道が違うような気がしてきました。
そこで2番めの男がリーダーに、「これはどうも道がおかしくねえか」と聞くと、
「これでええんじゃ」という答え。まあ、一本道のはずですから気のせいかと思ったものの、
やはりおかしい感がある。そのうちに下ってるはずの道が登り始め、
これは絶対におかしいと後ろの3人は確信しました。
「〇〇さあ、これで本当にええんか」とリーダーに呼びかけると、
「ええんじゃよ。もうすぐ着くし、着いたらまずはゆっくり風呂につかろう」
これを聞いて仰天「風呂って何のことだ? 温泉は山の向こうだろうが」
そう言うと、「うんにゃ温泉でねえ。△△閣だって」 「△△閣!?」
皆が絶句したのも無理はありません。
274 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:11:55.54 ID:AgCPeYID0
それは大正時代、そのあたりが木材の集積地だった頃にできた遊郭の名前ですが、
なくなってからもう数十年がたっていたのですから。
リーダーにしても子ども時分の話で、△△閣に入ったことがあるとは思えませんでした。
「おめえ、こら、気をしっかり持て。△△閣など、そんなものはもうどこにもねえ」
一行は止まって、リーダーを無理矢理に交代させ、
いっそうぴったりとくっつくようにして山を下ったのです。
後になってから、途中までリーダーを務めていた男に、
「おめえ、何であんなことを言った?」と聞いてみましたら、
発言そのものは覚えてましたが、そこからは自分でもわけがわからない様子で、
「△△閣はなあ、確かに子ども時分に何度か前を通ったことはあるがなあ。
夜でもたくさん明かりがついて、きれいだったなあ」こんな述懐をしました。
(終)
276 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:14:39.37 ID:AgCPeYID0
【80話】クラリス ◆LdeleVChTE 様
『音』
夜中過ぎ、布団に入ってもなかなか寝付けずにいる時に決まって聞こえてくる音がある。
枕元の窓の外、ベランダに敷いてあるパネルを踏みしめるようなグググッという音。
不思議に思ってベランダをライトで照らしてみても何も無い。
気のせいかと思って横になるとまた音がする。
出処を探ろうと聞き耳を立ててみるが、少し左右に動くことはあるものの、やはり頭の上、ベランダから聞こえてくるような気がする。
音が聞こえる間隔は不規則で、音自体もククッと軽くて短い音もあれば、ググググと重く少し長い音もある。
ベランダや部屋の中で音源を探してみてもそれらしきものは見当たらない。
起きている時や布団に入っていても日付が変わる前に眠ってしまう時には聞こえない。
夜中過ぎ、布団の中で睡魔を待っているときに限って耳にするのだ。
今夜、音は聞こえるだろうか?
(終)
278 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:18:31.35 ID:AgCPeYID0
【81話】雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『夏祭り』
知り合いの話。
彼女が夏祭りに出かけたある夜のこと。
屋台を冷やかしていると「ママ」と呼ぶ声が耳に届いた。
娘の声だ。彼女を呼んでいる。
慌てて姿を探すも、人混みのどこにも見つからない。
人がいない寂しい方へ進む内に、友人たちと出会う。
「娘を探しているの! 探すの手伝って!」
とパニックになりながら伝えると、不思議そうな顔で聞き返された。
「誰の娘のこと? あなた、まだ結婚していなかったよね?」
そこで我に返る。
自分には彼氏も旦那もいない。未婚だし、子供など当然産んだこともない。
そもそも、誰と一緒に祭りへ来たのか、それさえも思い出せない。
279 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:19:45.16 ID:AgCPeYID0
別のパニックに襲われた彼女を見て、友人たちは只事ではないと感じたらしい。
彼女を落ち着かせようとする者、彼女の家へ連絡する者に別れ、場は騒然とした。
皆に送られて家へ帰ったのだが、そこで母親から奇妙なことを聞かされた。
「あれ貴女、一緒に出かけた男性と女の子はどうしたの?
え、誰のことかって? 家の前を三人で並んで歩いていたじゃない。
”知り合いなの?”って声を掛けても振り返らないから、そっとしといたんだけど」
すると父親がこれまたおかしなことを言う。
「わしが車で帰ってきた時、お前と擦れ違ったんだが、気がつかなかったみたいだな。
でもお前、どう見ても一人だったんだが」
家族間で言い争いになりかけたが、友人たちが取りなしてくれてその場は治まった。
その後は、特におかしなことも起こっていないそうだ。
しかし、今でも気になって仕方がないのだという。
あれは一体、誰の声だったのか。
彼女はあれ以来、夏祭りがどうにも恐ろしく感じられるのだといっていた。
(終)
【75話】雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『義実家の人々』
元同僚の話。
彼の奥さんの実家は、人の死が見える家族なのだという。
義両親は共にはっきりと、義妹はボンヤリと見えるのだそうだが、
なぜか奥さんだけはまったく見えない質らしい。
夫婦で実家に遊びに行くと、
「あぁ、君は○○で死ぬだろうから、準備をしておいてくれ」
「娘を必要以上に苦労させたくないから、保険とかもきちんとしておいてね」
などと反応に困るようなことを言われたそうだ。
奥さんが泣きながら「あの人たちには、本当に人の死に目が見えるの」と訴えた。
「ま、用心しておくさ」と彼は返し、自分が可能な対応をすることにした。
○○から連想される場所に、絶対に近寄らないよう暮らし振りを変えてみる。
その少し後、再び訪れた実家で、今度はこんなことを言われた。
「おや、○○で死ななくなったみたいだねぇ」
「でもまだ△△かもしれないし」
「だから今は△△を避けて生活しているんだ。
かなり天然入っているけど、義実家の人たちって悪い人じゃないんだよ。
見方を変えれば、危険を未然に注意してくれているとも言える訳だし」
ニコニコとそう述べる彼の横で、乾いた笑いを浮かべる奥さんが印象的だった。
彼自身も強烈な天然であるのだが、当の本人はそれに気がついていない様子である。
(終)
264 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:00:49.18 ID:AgCPeYID0
【76話】雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『旧校舎の肝試し』
友人の話。
学生時代の夏休み、取り壊される予定の旧校舎で肝試しをしたのだという。
学校からかなりうるさく言われたので、かっちりとした計画を立て、
使用許可もちゃんと出して、スケジュール通り執り行った。
イベント自体は何も起こらず無事に終了したのだが、校舎から出た途端、
先生方が怒りながら飛んできた。
「こんな時間までどこで何やってた!?」
時計を見ると、もう少しで日が変わる刻限になっていた。
おかしい。
計画ではどんなに遅くとも、21時までには終了する予定だったのだが。
265 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:01:38.32 ID:AgCPeYID0
先生方が言うには、帰りが遅いので心配し、旧校舎内を確認したのだが、
誰一人として姿が見つからなかったと。
さては連絡もせずに帰ったかと家に電話をすると、まだ誰も帰っていない
と言われたので、手分けをして探していたのだという。
しかし彼らは旧校舎からは出ていない。
彼ら生徒たちの腕時計は、皆揃ったように五時間以上遅れた時刻を指していた。
「結局、俺たちが時間を忘れて遅くなったという仕舞をつけられてさ。
親にも学校にもえらく怒られたよ。
でも、警察の人にまで怒られたのは困ったなぁ。
あの人たち、マジに怖いんだもん」
彼はそう言うと肩を竦めた。
(終)
267 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:03:11.50 ID:AgCPeYID0
【77話】Big ◆iq3nGde8rU 様
山の中の濃霧は、登山界ではガスと言うことも多いですね。
ひどいときには、まったく視界を失って遭難の原因となることもあります。
実際、すぐ目の前を行く人の後頭部や、
自分のはいている登山靴さえ見えなくなることもあるのです。
登山をしない人でも、飛行機が雲海に突っ込み窓の外が一面に白くなるのを、
見た経験がある方もいるのではないでしょうか。霧と雲は基本的には同じものです。
「五里霧中」という故事成語があります。
国語の試験問題に出て、「夢中」という誤答例が紹介されることがありますが、
「五里霧」は五里四方に立ち込める深い霧という意味で、
中国の正史の一つである『後漢書』に初出します。
今夜させていただく話は、こうした山中での濃霧に関するものです。
『体をつかめ』
山行、この場合は近代的な登山ではなく、山菜採りや渓流釣り、
猟などで山に入った場合の山人の心得ですが、一寸先も見えないような濃霧の中では、
行動をせずに晴れ間を待つのがベストです。
しかしなかなかそうも言ってはいられません。時間的な制約もあり、
どうしても先へ進まなければならない場合、
例えば4人同行であれば、リーダーが先頭に立ち、
後ろの3人は両手を空けて前の人の腰をつかんで、そろそろと行動をします。
このとき、ザイルを伸ばしたものをつかんだり、
前を行く人のザックをつかんだりするのはあまりよくないことのようです。
こういう話があります。あるとき4人の一行が、冬に集団で巻き猟をした帰り、
ひどい濃霧に出くわしました。そこらの山塊一体がつつまれてしまったのです。
268 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:04:27.17 ID:AgCPeYID0
リーダーの指示で、先にお話したように一列縦隊になり、前の者の腰をつかんで、
そろそろと下っていったのですが、3番目の男は手に獲物のウサギを下げておったため、
前の者の腰から手を離してザックの一部をつかんでしまいました。
そのまま20分ほど下ったところで、前の者がまったく動かなくなったのです。
視界はきかなくとも、ザックをつかんだ感触は間違いないので、
「おおい、どした。なんで止まっとる」と声かけをしても返事はなし。
今度は最後尾の者が声をかけましたが、やはり同じでウンともスンとも言わない。
そこで手探りでザックの前を探ってみると、驚いたことにザラザラとした木の感触。
立木がザックを背負っているとしか思えませんでした。
しかし、そんなことがあるはずはない。それはそうでしょう。
そこまで前の者をつかんで、立ち止まりもせずに歩いてきたんですから。
これは何かに化かされていると感じた男は、後ろの男に、
その場に腰掛けるように言い、2人でブカブカと煙草をふかし始めました。
物の怪や獣の化かしには、煙草の煙がよいとされていたのですよ。
そうして、霧が晴れるのをじっくりと待ちました。
視界が回復してびっくり仰天、やはりさきほど手さぐりしたとおりに、
大きなブナの木がザックを背負った形になっていたのです。
そして、そのザックは2人目の男のものに間違いはありませんでした。
ためすがめつ調べても仲間のザックなので、少々気味悪くとも持って山を降りました。
幸いなことに、前にいた2人もすでに山を下りて里に入っていましたが、
2人目の男のザックは当然ながら、なし。両腕を通して背負っているものが、
本人が気づかないうちにするりと脱げてなくなってしまっていたのです。
(終)
【78話】Big ◆iq3nGde8rU 様
『反魂』
このような濃霧の中では、何かがくるとも言われます。
何か・・・とは、前の話のようにキツネやタヌキなのかもしれませんし、
あるいは人や獣どころか、この世のものではないかもしれません。
やはり猟をしていた5人組が、山中で濃霧に遭遇し、
前の者の腰をつかんで、そろそろとムカデ歩きをしていたときのことです。
最後尾の男が、「おやあ、何か来た」と声を出しました。
こういう場合、前に立つリーダーは、「何も来ねえ、気をしっかり持て」
と声をかけます。仮に他の登山者が後ろにいるのだとしても、
何もしてやることはできませんし。お話したように、
来たのがこの世のものとはかぎらないからです。
「うんだな」最後の男はつぶやきましたが、またしばらくして、
「何か来た、何か来た」と叫びました。「何かが俺の腰に取りついとる!」と。
リーダーが「何も来てねえ」とまた言い、残りの者も「んだ。何も来てねえぞ」
と復唱します。最後尾の男は黙りましたが、またしばらくして、
「来たぞ、来てるぞ。女の手だあ。こらあ俺の女房の手だろう」
これを聞いて皆はぞっと背筋が寒くなりました。
男の女房は去年の冬に肺炎で死んだのを知っていたからです。
それもちょうど今頃の時期に。「〇〇さぁ」最後尾の男はリーダーの名前を呼びました。
271 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:07:24.61 ID:AgCPeYID0
「俺、ここに残ってもいいかあ。女房が来てるようだども」
「ダメだあ!」リーダーが叫び、残りの者も復唱します。
「おめえの女房はもう鬼籍に入っとるだろうに。そら、おおかたメス狐だろうて」
リーダーはそう言うと4人目の男の名を呼び、
「□□が離れねえようにおめえ、手首を引いてやれ」こう指示したのです。
しばらく進むとまた、最後尾の男の声が聞こえて、
「今よう、俺の女房が隣について歩いておる」こんな内容です。
リーダーは「この霧じゃあ見えるわけがなかろう。そら、この世のもんではねえから」
そしてひときわ声を張り上げて、「オン アビラウンケンソワカ」と唱えました。
そのあたりの山はいわゆる霊山でもあり、修験者の姿を見かけることも多く、
猟師連中も真言(マントラ)を知っていたのです。一行はそのまま、
「阿 毘 羅 吽 欠 蘇 婆 訶」と地水火風空の真言を唱和しながら、
ムカデ姿のまま、ゆっくりとゆっくりと山を下ったのです。
もしもはたから見ることができれば、さぞや異様な光景だったことでしょう。
ともかく、そうしているうちに霧は晴れ、一人の脱落者も出さず戻ることができたそうです。
(終)
273 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:10:17.35 ID:AgCPeYID0
【79話】Big ◆iq3nGde8rU 様
『遊郭』
前の話で、最後尾の男に働きかけてきたものは何だったのでしょう。
キツネやタヌキなど山の獣がちょっかいを仕掛けてきたのでしょうか。
そうかもしれませんし、本当に、男の死んだ女房が姿を見せたのかもしれません。
そうです。このような濃霧のときには、この世とあの世の道がつながるということも、
けしてないとは言えないでしょう。
さて、前の話ではリーダーがしっかりした山の男だったので、
無事に戻ることができたのですが、そういうケースばかりではありません。
リーダーには歳はあまり関係がなく、仲間に信頼のあるものがなるのです。
せまい集落で生まれ育ったものどうし、気性は子どもの頃から知っているわけですから。
ただし毎回そううまくいくとも限りません。
そのリーダーねらわれてしまうこともあるのです。
やはり霧の中で、4人がそろそろとムカデ歩きをしておりますと、
まったく視界がない中ながら、どうも道が違うような気がしてきました。
そこで2番めの男がリーダーに、「これはどうも道がおかしくねえか」と聞くと、
「これでええんじゃ」という答え。まあ、一本道のはずですから気のせいかと思ったものの、
やはりおかしい感がある。そのうちに下ってるはずの道が登り始め、
これは絶対におかしいと後ろの3人は確信しました。
「〇〇さあ、これで本当にええんか」とリーダーに呼びかけると、
「ええんじゃよ。もうすぐ着くし、着いたらまずはゆっくり風呂につかろう」
これを聞いて仰天「風呂って何のことだ? 温泉は山の向こうだろうが」
そう言うと、「うんにゃ温泉でねえ。△△閣だって」 「△△閣!?」
皆が絶句したのも無理はありません。
274 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:11:55.54 ID:AgCPeYID0
それは大正時代、そのあたりが木材の集積地だった頃にできた遊郭の名前ですが、
なくなってからもう数十年がたっていたのですから。
リーダーにしても子ども時分の話で、△△閣に入ったことがあるとは思えませんでした。
「おめえ、こら、気をしっかり持て。△△閣など、そんなものはもうどこにもねえ」
一行は止まって、リーダーを無理矢理に交代させ、
いっそうぴったりとくっつくようにして山を下ったのです。
後になってから、途中までリーダーを務めていた男に、
「おめえ、何であんなことを言った?」と聞いてみましたら、
発言そのものは覚えてましたが、そこからは自分でもわけがわからない様子で、
「△△閣はなあ、確かに子ども時分に何度か前を通ったことはあるがなあ。
夜でもたくさん明かりがついて、きれいだったなあ」こんな述懐をしました。
(終)
276 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:14:39.37 ID:AgCPeYID0
【80話】クラリス ◆LdeleVChTE 様
『音』
夜中過ぎ、布団に入ってもなかなか寝付けずにいる時に決まって聞こえてくる音がある。
枕元の窓の外、ベランダに敷いてあるパネルを踏みしめるようなグググッという音。
不思議に思ってベランダをライトで照らしてみても何も無い。
気のせいかと思って横になるとまた音がする。
出処を探ろうと聞き耳を立ててみるが、少し左右に動くことはあるものの、やはり頭の上、ベランダから聞こえてくるような気がする。
音が聞こえる間隔は不規則で、音自体もククッと軽くて短い音もあれば、ググググと重く少し長い音もある。
ベランダや部屋の中で音源を探してみてもそれらしきものは見当たらない。
起きている時や布団に入っていても日付が変わる前に眠ってしまう時には聞こえない。
夜中過ぎ、布団の中で睡魔を待っているときに限って耳にするのだ。
今夜、音は聞こえるだろうか?
(終)
278 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:18:31.35 ID:AgCPeYID0
【81話】雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『夏祭り』
知り合いの話。
彼女が夏祭りに出かけたある夜のこと。
屋台を冷やかしていると「ママ」と呼ぶ声が耳に届いた。
娘の声だ。彼女を呼んでいる。
慌てて姿を探すも、人混みのどこにも見つからない。
人がいない寂しい方へ進む内に、友人たちと出会う。
「娘を探しているの! 探すの手伝って!」
とパニックになりながら伝えると、不思議そうな顔で聞き返された。
「誰の娘のこと? あなた、まだ結婚していなかったよね?」
そこで我に返る。
自分には彼氏も旦那もいない。未婚だし、子供など当然産んだこともない。
そもそも、誰と一緒に祭りへ来たのか、それさえも思い出せない。
279 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 04:19:45.16 ID:AgCPeYID0
別のパニックに襲われた彼女を見て、友人たちは只事ではないと感じたらしい。
彼女を落ち着かせようとする者、彼女の家へ連絡する者に別れ、場は騒然とした。
皆に送られて家へ帰ったのだが、そこで母親から奇妙なことを聞かされた。
「あれ貴女、一緒に出かけた男性と女の子はどうしたの?
え、誰のことかって? 家の前を三人で並んで歩いていたじゃない。
”知り合いなの?”って声を掛けても振り返らないから、そっとしといたんだけど」
すると父親がこれまたおかしなことを言う。
「わしが車で帰ってきた時、お前と擦れ違ったんだが、気がつかなかったみたいだな。
でもお前、どう見ても一人だったんだが」
家族間で言い争いになりかけたが、友人たちが取りなしてくれてその場は治まった。
その後は、特におかしなことも起こっていないそうだ。
しかし、今でも気になって仕方がないのだという。
あれは一体、誰の声だったのか。
彼女はあれ以来、夏祭りがどうにも恐ろしく感じられるのだといっていた。
(終)
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