百物語2014
Part11
197 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/24(日) 01:10:32.34 ID:bIEXoD6G0
【第63話】 ら年 ◆9w6FQlB7l1rE 様
『先輩が一人旅でしばらく滞在した某地方で、夜中に鬼ごっこなどした話。』
(1/5)
先輩が一人旅でしばらく滞在した某地方で、夜中に鬼ごっこなどした話。
先輩は宿代を浮かそうとして、山村の掘建て小屋のようなもんを安く借りた。
小屋にガスと風呂はなかったが、電気も水道もあり、トイレは水洗だし、
寝具一式には新しいカバーをかけてあったので、先輩は全く不満はなかった。
到着は夜で、小屋から少し離れた所につくねんと電灯が灯っていた。
ぽつぽつと民家があるようだったが、他に灯りは見えず、ほぼ真っ暗で寂しいところだ。
先輩は早々に布団に潜りこんだ。季節は春、しかし山の夜はやはり寒かった。
最初の晩はそうして過ぎた。
198 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/24(日) 01:11:47.62 ID:bIEXoD6G0
(2/5)
翌朝、先輩は小屋を出ると、起伏の多い道を歩いて少し山を下り、バス停へ向かった。
人影はない。しかし明るくなってみると、辺りは昨夜とは見違えるような印象だった。
民家はまばらだが、どの家にも美しい生け垣があり、所々鮮やかな花の色がこぼれていた。
それらを新緑が大きく包むような、いかにものどかな山村の風景だ。
やがて路線バスが来て、先輩はそれに乗って観光に出かけた。
そして晩に小屋に戻り、隅に布団を敷いて寝ようとすると…
「おおおおおぉぉお」
奇妙な音が鳴り響いた。
電気も消して寝る寸前だった先輩は、布団の中で飛び上がった。
サイレンや警報などではない。しかし何かが、小屋の外で音を立てている。
「おおおおぉおおぉお」「ぉおおおぉおおぉぉぉ」
少なくとも人間の声とは思えなかったと言う。人間だったら逆に怖い。
…が、割と図太い先輩は、疲れて眠い!という理由で、そのまま寝ることにした。
しばらくの間その音は続いたが、先輩は布団をかぶって無視して眠った。
二日目の晩はそうして過ぎた。
199 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/24(日) 01:13:07.33 ID:bIEXoD6G0
(3/5)
翌日、先輩は温泉巡りに出かけ、晩に戻って来て寝ようとすると、また、
「ぉおおおぉおおお」
…野犬か、何か獣の吠え声か?脅かしてやるから逃げてくれ。
先輩はそう願って、声のする方の窓を勢いよくガラッと開けた。
何もいなかった。
しかし、
「ぉおぉおぉおぉおおぉおおおぉおお」
声は近くから聞こえ、一層大きく響いた。
小屋にあった懐中電灯で窓の外を照らしてみたが、木々と茂みの他は何も見えない。
イタズラか?ムカッと来た先輩は後先考えずに、懐中電灯片手に表に飛び出した。
「おおぉおお」「おおぉおおお」「おぉぉおお」「ぉぉおおおおぉおお」
姿は見えないが、声はさらにけたたましくなった。
数歩近付くと、何かがすっと下がる気配がした、「ぉぉぉお」
数歩退くと、今度はすっと寄って来る気配だ、「おぉおぉお」
何なんだこいつ!?と、先輩は小屋の周りをぐるぐる回って追っかけたが、
向こうは付かず離れずの距離を保ち続け、それ以上近付くことは出来なかった。
結局正体はわからず、小屋から離れるのもさすがに怖かったので、
いい加減あきらめて、戸締まりして布団かぶって寝ることにした。
窓の外ではおぉおぉがしばらく聞こえていた。
三日目の晩はそうして過ぎた。
四日目の早朝、
「…ぉぉ…ぉぉぉ…ぉ…」
そんな、遠くから聞こえるような音を耳にして、目が覚めたそうだ。
しかしこれは夢だかどうだかわからない、と先輩は言う。
200 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/24(日) 01:14:24.67 ID:bIEXoD6G0
(4/5)
そしてその四日目の晩、電気を消して寝ようとすると、待ち構えたかのように、
「おおおおおおおおお」
「おぉおおおぉおおおおおおおお」
またか、うるさい。先輩はうんざりして、もう起きるのもめんどくさかったので、
横になったまま思いっきり壁ドンした。
ドンドンドンドン。
「おおおおおおおお」
ドンドンドンドン。
壁を叩き続けるうち、妙な事に、壁ドンとおぉおぉが交互に続く、
という、掛け合いのような展開になっていった。
ドンドン。
「おおおお」
ドンドンドン。
「おおおおおお」
ドン。
「おお」
ドッ。
「おぉ」
ド。
「お」
トトトト。
「ぉぉぉぉ」
ト。
「ぉ」
…。
「…」
…四日目の晩はそうして静まった。
201 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:22:47.32 ID:JeOcyvlKi
(5/5)
そして五日目の晩からは、何の物音にも悩まされず、寝る事が出来たそうな。
他に怪異に遭遇する事もなく、先輩は無事滞在先から帰って来た。
「アレが動物か何かわからないが、多分かまって欲しかったんだと思う」
と先輩は言う。
アレ は、相手をしてもらえたので、満足して去ったのだろうか?…
また先輩は「最終的に、壁叩いてる時、俺もちょっと面白かった」とも言った。
そんな先輩は後にバンドを組んで、ドラムを叩くようになり、
今も趣味のセッションを楽しんでいるそうだ。
【了】
203 :ガタロー ◆l7Mb16VB82 :2014/08/24(日) 01:23:50.38 ID:5HvraHkU0
【第六十四話】『奇妙なオジサン』
幼少の頃、奇妙なオジサンと遊んでいた
俺が3歳か4歳くらいの頃だったと思う。両親は自営業で自宅の隣に店を出して働いていた。
まあすぐに行き来できるから俺が自宅の部屋に一人で遊んでることもよくあった
その時に現れるのがそのオジサン。うろ覚えだが憶えてる限り書くと、現れる時はいつも押入れから出てくる。
そのオジサンは常に四つん這いで動く、そしてそれ以上に奇妙なのは首が180度上を向いてて背中から上を見る状態でいる事。
俺は最初怖くて泣き叫んでたが、オジサンは普通にやさしく接してくれてすぐに慣れて一緒に遊んでくれた。
そしていなくなる時は突然に、毎回いつの間にか消えていた。だがその時は不思議とそんなものだと俺は思っていた。
オジサンについては、名前は聞いたけど忘れた。首は怪我して立てなくなってこんな状態らしい。
そのオジサンの事を親に話ても仕事が忙しい事やいい加減な性格であまり真剣に聞いてくれなかった。
オジサンと一緒に居る時はおもちゃで遊んだり、話をしたりした。お菓子はあげたけど俺が食べなと言って食う事は無かった。
話については、どこどこの誰が生まれた、誰が死んだってのが多かったが、子供だったのでそれが誰なのかは全く分からなかった
ただ、夕飯とかで両親が話し込んでる時に聞く名前もあったので実在の人物なのだろうとは思った。
結局そのオジサンは1ヶ月もしないうちに仕事で遠くに行く、また会えるかもなと言って握手してくれた後
初めてトイレに行くと言ってトイレに入ってそれっきり。トイレを開けてもそこには誰もいなかった。
それが子供の作り出した幻覚なのか、家々を行き来する座敷童や疫病神の類なのかは分からない。
この間飲み屋で隣の客が似たようなオジサンの話をしてて何故か今の今まで忘れててイキナリ思い出した話
【終】
205 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:28:22.28 ID:JeOcyvlKi
【第65話】 雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM様
『挨拶』
知り合いの話。
彼女は山菜を採るため、近場の山へちょくちょくと出掛けている。
途中にいつも腰を下ろして休憩している石があるのだが、そこで休んでいると
「やぁこんにちは。今朝も元気そうですね」
決まってそう挨拶をしてくる何者かがいるのだと。
しかし、周りには人っ子一人見えない。
彼女はいつものように
「はい、こんにちは。そちらも元気そうですねぇ」
と何もいない空中に挨拶を返してから、山の奥へ向かうのだそうだ。
声の主については、彼女は特に気にしていないという。
「姿が見えないのはアレだけど、声の調子からすると、悪いモノじゃないよぉ」
そう言って笑っていた。
【了】
208 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:34:42.43 ID:JeOcyvlKi
【第66話】 ころげっと ◆8Tb0.jWhUc 様
『守護するもの』
(1/5)
これは昨年の冬も近いころ、私自身に起きた出来事です。
酒の席での恥のため顰蹙を買いそうですが、お話しします。
酒嫌いの方には、あらかじめ謝ります。ごめんなさい。
会社で仲の良い後輩が、同じ会社の長年片思いしていた男性に告白したところ、ふられて失恋。
落ち込んでいる彼女を放っておけず、ちょうど私自身も仕事でストレスがあり、
お互い酒好き同士だったため、翌日仕事が休みの日を選び、さしで飲む事にしました。
とはいえ、奥手で恋愛に疎い私。
良いアドバイスも出来ず、うまい励ましの言葉も出ず、ひたすら思いのたけを聞くしか出来ません。
注いで注がれるまま、ちゃんぽんで飲み続けました。
最後には、お店の人にストップをかけられるぐらいで。
お互い帰りは逆方向だったため、後輩とは店の外で別れました。
別れてすぐ、マズイと思いました。
後輩の前では自制心が働き平気だったのですが、一人になった途端に酔いが回って来たのです。
とにかく家に帰らなくては。一刻も早く家に帰って休みたい。
帰巣本能というのでしょうか。私の頭にあったのは、その一心。
209 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:35:28.29 ID:JeOcyvlKi
(2/5)
二つ上の兄と住むマンションは、幸い、電車で一本のところです。
座れたのと、車内は明るく、人も乗っていたため、なんとか正気を保ち、最寄り駅で下車。
十五分の道のりを歩いて帰る自信はありませんでしたが、
遅くに兄に迎えに来てもらうのも気が引けましたし、
こんな状態では、口の悪い兄の事ですから、何を言われるかわかりません。
それに、兄の到着を待っている間に倒れ込んでしまう予感もあり、一人で歩いて帰ろうと決心しました。
とはいえ、ひょっとすると、兄は帰りの遅い私を心配してくれているかもしれない。
だとしたら、メールぐらい出そうかと携帯電話を取り出すべく、バッグをあさりました。
しかし、どこへしまったのか、携帯が見つかりません。
探すのもめんどうになり、連絡するのを諦めた瞬間、
なぜか、ここから記憶がすっぽりと抜け落ちています。
次にある記憶は、自宅の便器にしがみついているところです。
誰かが背中を強くさすっています。
「吐けよ。吐かないと死ぬぞ。お前、死にたいのかよ。俺、この年で、お前の葬式出すの嫌だからな」
遠くから聞こえる兄の声。
という事は、自力で帰れたのでしょう。
その日、私の着ていた服は、一目ぼれして買ったばかりのウールのワンピースでした。
やだ、お兄ちゃん、強くさすらないでよ。ワンピースが毛羽立っちゃうじゃん。
なんて、緊張感なく考えていた覚えがあります。
やかんの口の先を突っ込まれ、ひたすら水をがぶ飲みさせられました。
「飲んで全部吐き出せ」
「いやだ! 苦しいよう。コン、コンッ」
息苦しくて咳きこみ、ここで、また記憶が飛びます。
210 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:36:10.85 ID:JeOcyvlKi
(3/5)
その次の記憶は、ベッドの中です。
すでに外はすっかり明るく、時計を見ると十三時を過ぎていました。
例のワンピースを着たままです。
頭がガンガンし、胸もムカムカします。当然ながら、二日酔いです。
なぜか、顔がヒリヒリしていました。鏡を見ると、うっすらと赤いすり傷が数本出来ています。
兄は仕事に出かけており、家には私一人。
キッチンのテーブルに、一本のリ○ビタンDが置かれていました。傍には兄の手書きのメモが。
「これでも飲んでゆっくり休め。疲れているんだろう。たまには休めよ」
兄はろくに寝ずに仕事に出かけたんだろうと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
痛む頭を取り替えたいと、ベッドの上でのたうち回っていたら、自宅の電話が鳴りました。
兄からでした。
「そろそろ起きる頃じゃないかと思って。大丈夫か、生きているか?」
「うん、だいじょぶ。頭、痛いけど。気持ちも悪いけど」
「お前、ほんとバカだなあ」
「うん」
いつもなら言い返すのですが、大人しくうなづきました。
「今夜はメシ作らなくていいぞ。なんか適当に買ってくから」
「うん、分かった。ありがと」
「やけに素直で気持ち悪いな。昨日は本当にビビったぜ。お前が死ぬんじゃないかと思って。
吐けっつっても、なかなか吐こうとしないし。こいつ、死にたがってるんじゃないかって。
なーに、俺よりいい男が見つからないからって、人生、悲観する事はないぜ」
「バッカじゃないの」
「あはははっ。元気が出てきたな。安心したぜ。
そういや、昨日のメール、あれ、何だよ。マジでビビった。こいつ、とうとう気が変になったって」
「メール? 何の事?」
「あの、訳わかんないやつだよ。お陰でウトウトしてたのに飛び起きたわ。そんで、慌てて迎えに行ったんだ。
タバコ屋の前の生垣に頭突っ込んで倒れてて。叩き起こしたら、いきなりすごい咳きこむの。コンコンって。
まあ、いいや、横になれ。今日は、俺、早く帰るから。帰ったら、土下座して感謝しろよ」
立っているのもやっとだったため、これ幸いと、すぐにベッドに戻りかけましたが、兄の言葉が気にかかります。
211 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:37:10.74 ID:JeOcyvlKi
(4/5)
携帯のメールを見ようと、バッグの中の携帯を探し始めました。が、ありません。
ワンピースも探しましたが、飾り用のポケットがあるだけで本物はついていませんから、当然ありません。
家の中? 自宅電話を使って鳴らしても反応なし。
ひょっとして、歩きながらカバンをゴソゴソやった時、落としてしまったんじゃないか。
駅までの道を歩きましたが、落ちていません。
駅前交番、駅の事務室にも確認しましたが、ダメでした。
タバコ屋前で倒れている時に、カバンから盗まれた?
半泣きで家に戻り、玄関のカギを開けようとしていると、またもや家の電話の鳴る音が。
靴を脱ぎ捨て、急いで出れば、聞き覚えのない爽やかな男性の声。
「携帯電話を忘れておられませんか?」
昨晩飲んだ居酒屋の店員さんでした。
私たちが店を出てすぐ、テーブルに携帯が置き忘れられているのに気が付き、
追いかけたものの、すでに姿は見当たらなかったそうです。
二日酔いもすっかり吹き飛び、居酒屋へ急ぎました。
応対してくれたのは、電話で話した男性。拾ってくれたのも彼でした。
何度も何度も頭を下げて、携帯を受け取りました。
「すぐにご連絡すればよかったんですが、片付けやらなんやらで忙しくて、
俺もだけど、皆、忘れちゃってたんですよ。で、今日仕事来て思い出して。すみませんでした」
謝るのはこちらの方だと伝え、丁重にお礼を言って、店を出ました。
212 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:39:19.39 ID:JeOcyvlKi
(5/5)
さっそく、兄への送信メールを見てみました。
そこに書かれていた文章を読み、わさわさわさっと全身に鳥肌が立ちました。
書かれていたのは、こうでした。
「ヤバイじゃん今またいやばい! シヌカ」
支離滅裂な言葉の羅列。
酔っぱらって書いたのかと思いましたが、送信時刻と状況から考えて、私が書いたものではありません。
だとしたら、誰が?
ふと、中学生の時、友人とやったコックリさんで、守護霊を尋ねてみたのを思い出しました。
十円玉が動いた先の文字は、「シ、ロ、イ、キ、ツ、ネ」でした。
確かに実家の裏には神社があり、白狐が祀られていました。
兄や友達と遊ぶ約束をしていない日は、一人でその境内で遊んでいました。
一人でも不思議と怖くありませんでした。
これが、私の経験した守護霊は本当にいるのかもと思った出来事です。
こんなダメ人間でも助けてくれるなんて、ありがたい事です。
それはそうと、完全なる余談ですが、後日、お礼を兼ねて、あの居酒屋に客として訪れました。
もちろん、今度は節度を保って飲みました。
そして、あの爽やか店員さんと親しくなりたいと、守護霊にお願いしてみたのですが、
何も起こりませんでした。
それぐらい、自分で何とかしろよって事なんでしょうね。
【了】
【第63話】 ら年 ◆9w6FQlB7l1rE 様
『先輩が一人旅でしばらく滞在した某地方で、夜中に鬼ごっこなどした話。』
(1/5)
先輩が一人旅でしばらく滞在した某地方で、夜中に鬼ごっこなどした話。
先輩は宿代を浮かそうとして、山村の掘建て小屋のようなもんを安く借りた。
小屋にガスと風呂はなかったが、電気も水道もあり、トイレは水洗だし、
寝具一式には新しいカバーをかけてあったので、先輩は全く不満はなかった。
到着は夜で、小屋から少し離れた所につくねんと電灯が灯っていた。
ぽつぽつと民家があるようだったが、他に灯りは見えず、ほぼ真っ暗で寂しいところだ。
先輩は早々に布団に潜りこんだ。季節は春、しかし山の夜はやはり寒かった。
最初の晩はそうして過ぎた。
198 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/24(日) 01:11:47.62 ID:bIEXoD6G0
(2/5)
翌朝、先輩は小屋を出ると、起伏の多い道を歩いて少し山を下り、バス停へ向かった。
人影はない。しかし明るくなってみると、辺りは昨夜とは見違えるような印象だった。
民家はまばらだが、どの家にも美しい生け垣があり、所々鮮やかな花の色がこぼれていた。
それらを新緑が大きく包むような、いかにものどかな山村の風景だ。
やがて路線バスが来て、先輩はそれに乗って観光に出かけた。
そして晩に小屋に戻り、隅に布団を敷いて寝ようとすると…
「おおおおおぉぉお」
奇妙な音が鳴り響いた。
電気も消して寝る寸前だった先輩は、布団の中で飛び上がった。
サイレンや警報などではない。しかし何かが、小屋の外で音を立てている。
「おおおおぉおおぉお」「ぉおおおぉおおぉぉぉ」
少なくとも人間の声とは思えなかったと言う。人間だったら逆に怖い。
…が、割と図太い先輩は、疲れて眠い!という理由で、そのまま寝ることにした。
しばらくの間その音は続いたが、先輩は布団をかぶって無視して眠った。
二日目の晩はそうして過ぎた。
199 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/24(日) 01:13:07.33 ID:bIEXoD6G0
(3/5)
翌日、先輩は温泉巡りに出かけ、晩に戻って来て寝ようとすると、また、
「ぉおおおぉおおお」
…野犬か、何か獣の吠え声か?脅かしてやるから逃げてくれ。
先輩はそう願って、声のする方の窓を勢いよくガラッと開けた。
何もいなかった。
しかし、
「ぉおぉおぉおぉおおぉおおおぉおお」
声は近くから聞こえ、一層大きく響いた。
小屋にあった懐中電灯で窓の外を照らしてみたが、木々と茂みの他は何も見えない。
イタズラか?ムカッと来た先輩は後先考えずに、懐中電灯片手に表に飛び出した。
「おおぉおお」「おおぉおおお」「おぉぉおお」「ぉぉおおおおぉおお」
姿は見えないが、声はさらにけたたましくなった。
数歩近付くと、何かがすっと下がる気配がした、「ぉぉぉお」
数歩退くと、今度はすっと寄って来る気配だ、「おぉおぉお」
何なんだこいつ!?と、先輩は小屋の周りをぐるぐる回って追っかけたが、
向こうは付かず離れずの距離を保ち続け、それ以上近付くことは出来なかった。
結局正体はわからず、小屋から離れるのもさすがに怖かったので、
いい加減あきらめて、戸締まりして布団かぶって寝ることにした。
窓の外ではおぉおぉがしばらく聞こえていた。
三日目の晩はそうして過ぎた。
四日目の早朝、
「…ぉぉ…ぉぉぉ…ぉ…」
そんな、遠くから聞こえるような音を耳にして、目が覚めたそうだ。
しかしこれは夢だかどうだかわからない、と先輩は言う。
200 :OMT@投稿代理 ◆lkP/qpIb6E :2014/08/24(日) 01:14:24.67 ID:bIEXoD6G0
(4/5)
そしてその四日目の晩、電気を消して寝ようとすると、待ち構えたかのように、
「おおおおおおおおお」
「おぉおおおぉおおおおおおおお」
またか、うるさい。先輩はうんざりして、もう起きるのもめんどくさかったので、
横になったまま思いっきり壁ドンした。
ドンドンドンドン。
「おおおおおおおお」
ドンドンドンドン。
壁を叩き続けるうち、妙な事に、壁ドンとおぉおぉが交互に続く、
という、掛け合いのような展開になっていった。
ドンドン。
「おおおお」
ドンドンドン。
「おおおおおお」
ドン。
「おお」
ドッ。
「おぉ」
ド。
「お」
トトトト。
「ぉぉぉぉ」
ト。
「ぉ」
…。
「…」
…四日目の晩はそうして静まった。
201 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:22:47.32 ID:JeOcyvlKi
(5/5)
そして五日目の晩からは、何の物音にも悩まされず、寝る事が出来たそうな。
他に怪異に遭遇する事もなく、先輩は無事滞在先から帰って来た。
「アレが動物か何かわからないが、多分かまって欲しかったんだと思う」
と先輩は言う。
アレ は、相手をしてもらえたので、満足して去ったのだろうか?…
また先輩は「最終的に、壁叩いてる時、俺もちょっと面白かった」とも言った。
そんな先輩は後にバンドを組んで、ドラムを叩くようになり、
今も趣味のセッションを楽しんでいるそうだ。
【了】
【第六十四話】『奇妙なオジサン』
幼少の頃、奇妙なオジサンと遊んでいた
俺が3歳か4歳くらいの頃だったと思う。両親は自営業で自宅の隣に店を出して働いていた。
まあすぐに行き来できるから俺が自宅の部屋に一人で遊んでることもよくあった
その時に現れるのがそのオジサン。うろ覚えだが憶えてる限り書くと、現れる時はいつも押入れから出てくる。
そのオジサンは常に四つん這いで動く、そしてそれ以上に奇妙なのは首が180度上を向いてて背中から上を見る状態でいる事。
俺は最初怖くて泣き叫んでたが、オジサンは普通にやさしく接してくれてすぐに慣れて一緒に遊んでくれた。
そしていなくなる時は突然に、毎回いつの間にか消えていた。だがその時は不思議とそんなものだと俺は思っていた。
オジサンについては、名前は聞いたけど忘れた。首は怪我して立てなくなってこんな状態らしい。
そのオジサンの事を親に話ても仕事が忙しい事やいい加減な性格であまり真剣に聞いてくれなかった。
オジサンと一緒に居る時はおもちゃで遊んだり、話をしたりした。お菓子はあげたけど俺が食べなと言って食う事は無かった。
話については、どこどこの誰が生まれた、誰が死んだってのが多かったが、子供だったのでそれが誰なのかは全く分からなかった
ただ、夕飯とかで両親が話し込んでる時に聞く名前もあったので実在の人物なのだろうとは思った。
結局そのオジサンは1ヶ月もしないうちに仕事で遠くに行く、また会えるかもなと言って握手してくれた後
初めてトイレに行くと言ってトイレに入ってそれっきり。トイレを開けてもそこには誰もいなかった。
それが子供の作り出した幻覚なのか、家々を行き来する座敷童や疫病神の類なのかは分からない。
この間飲み屋で隣の客が似たようなオジサンの話をしてて何故か今の今まで忘れててイキナリ思い出した話
【終】
205 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:28:22.28 ID:JeOcyvlKi
【第65話】 雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM様
『挨拶』
知り合いの話。
彼女は山菜を採るため、近場の山へちょくちょくと出掛けている。
途中にいつも腰を下ろして休憩している石があるのだが、そこで休んでいると
「やぁこんにちは。今朝も元気そうですね」
決まってそう挨拶をしてくる何者かがいるのだと。
しかし、周りには人っ子一人見えない。
彼女はいつものように
「はい、こんにちは。そちらも元気そうですねぇ」
と何もいない空中に挨拶を返してから、山の奥へ向かうのだそうだ。
声の主については、彼女は特に気にしていないという。
「姿が見えないのはアレだけど、声の調子からすると、悪いモノじゃないよぉ」
そう言って笑っていた。
【了】
208 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:34:42.43 ID:JeOcyvlKi
【第66話】 ころげっと ◆8Tb0.jWhUc 様
『守護するもの』
(1/5)
これは昨年の冬も近いころ、私自身に起きた出来事です。
酒の席での恥のため顰蹙を買いそうですが、お話しします。
酒嫌いの方には、あらかじめ謝ります。ごめんなさい。
会社で仲の良い後輩が、同じ会社の長年片思いしていた男性に告白したところ、ふられて失恋。
落ち込んでいる彼女を放っておけず、ちょうど私自身も仕事でストレスがあり、
お互い酒好き同士だったため、翌日仕事が休みの日を選び、さしで飲む事にしました。
とはいえ、奥手で恋愛に疎い私。
良いアドバイスも出来ず、うまい励ましの言葉も出ず、ひたすら思いのたけを聞くしか出来ません。
注いで注がれるまま、ちゃんぽんで飲み続けました。
最後には、お店の人にストップをかけられるぐらいで。
お互い帰りは逆方向だったため、後輩とは店の外で別れました。
別れてすぐ、マズイと思いました。
後輩の前では自制心が働き平気だったのですが、一人になった途端に酔いが回って来たのです。
とにかく家に帰らなくては。一刻も早く家に帰って休みたい。
帰巣本能というのでしょうか。私の頭にあったのは、その一心。
209 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:35:28.29 ID:JeOcyvlKi
(2/5)
二つ上の兄と住むマンションは、幸い、電車で一本のところです。
座れたのと、車内は明るく、人も乗っていたため、なんとか正気を保ち、最寄り駅で下車。
十五分の道のりを歩いて帰る自信はありませんでしたが、
遅くに兄に迎えに来てもらうのも気が引けましたし、
こんな状態では、口の悪い兄の事ですから、何を言われるかわかりません。
それに、兄の到着を待っている間に倒れ込んでしまう予感もあり、一人で歩いて帰ろうと決心しました。
とはいえ、ひょっとすると、兄は帰りの遅い私を心配してくれているかもしれない。
だとしたら、メールぐらい出そうかと携帯電話を取り出すべく、バッグをあさりました。
しかし、どこへしまったのか、携帯が見つかりません。
探すのもめんどうになり、連絡するのを諦めた瞬間、
なぜか、ここから記憶がすっぽりと抜け落ちています。
次にある記憶は、自宅の便器にしがみついているところです。
誰かが背中を強くさすっています。
「吐けよ。吐かないと死ぬぞ。お前、死にたいのかよ。俺、この年で、お前の葬式出すの嫌だからな」
遠くから聞こえる兄の声。
という事は、自力で帰れたのでしょう。
その日、私の着ていた服は、一目ぼれして買ったばかりのウールのワンピースでした。
やだ、お兄ちゃん、強くさすらないでよ。ワンピースが毛羽立っちゃうじゃん。
なんて、緊張感なく考えていた覚えがあります。
やかんの口の先を突っ込まれ、ひたすら水をがぶ飲みさせられました。
「飲んで全部吐き出せ」
「いやだ! 苦しいよう。コン、コンッ」
息苦しくて咳きこみ、ここで、また記憶が飛びます。
210 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:36:10.85 ID:JeOcyvlKi
(3/5)
その次の記憶は、ベッドの中です。
すでに外はすっかり明るく、時計を見ると十三時を過ぎていました。
例のワンピースを着たままです。
頭がガンガンし、胸もムカムカします。当然ながら、二日酔いです。
なぜか、顔がヒリヒリしていました。鏡を見ると、うっすらと赤いすり傷が数本出来ています。
兄は仕事に出かけており、家には私一人。
キッチンのテーブルに、一本のリ○ビタンDが置かれていました。傍には兄の手書きのメモが。
「これでも飲んでゆっくり休め。疲れているんだろう。たまには休めよ」
兄はろくに寝ずに仕事に出かけたんだろうと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
痛む頭を取り替えたいと、ベッドの上でのたうち回っていたら、自宅の電話が鳴りました。
兄からでした。
「そろそろ起きる頃じゃないかと思って。大丈夫か、生きているか?」
「うん、だいじょぶ。頭、痛いけど。気持ちも悪いけど」
「お前、ほんとバカだなあ」
「うん」
いつもなら言い返すのですが、大人しくうなづきました。
「今夜はメシ作らなくていいぞ。なんか適当に買ってくから」
「うん、分かった。ありがと」
「やけに素直で気持ち悪いな。昨日は本当にビビったぜ。お前が死ぬんじゃないかと思って。
吐けっつっても、なかなか吐こうとしないし。こいつ、死にたがってるんじゃないかって。
なーに、俺よりいい男が見つからないからって、人生、悲観する事はないぜ」
「バッカじゃないの」
「あはははっ。元気が出てきたな。安心したぜ。
そういや、昨日のメール、あれ、何だよ。マジでビビった。こいつ、とうとう気が変になったって」
「メール? 何の事?」
「あの、訳わかんないやつだよ。お陰でウトウトしてたのに飛び起きたわ。そんで、慌てて迎えに行ったんだ。
タバコ屋の前の生垣に頭突っ込んで倒れてて。叩き起こしたら、いきなりすごい咳きこむの。コンコンって。
まあ、いいや、横になれ。今日は、俺、早く帰るから。帰ったら、土下座して感謝しろよ」
立っているのもやっとだったため、これ幸いと、すぐにベッドに戻りかけましたが、兄の言葉が気にかかります。
211 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:37:10.74 ID:JeOcyvlKi
(4/5)
携帯のメールを見ようと、バッグの中の携帯を探し始めました。が、ありません。
ワンピースも探しましたが、飾り用のポケットがあるだけで本物はついていませんから、当然ありません。
家の中? 自宅電話を使って鳴らしても反応なし。
ひょっとして、歩きながらカバンをゴソゴソやった時、落としてしまったんじゃないか。
駅までの道を歩きましたが、落ちていません。
駅前交番、駅の事務室にも確認しましたが、ダメでした。
タバコ屋前で倒れている時に、カバンから盗まれた?
半泣きで家に戻り、玄関のカギを開けようとしていると、またもや家の電話の鳴る音が。
靴を脱ぎ捨て、急いで出れば、聞き覚えのない爽やかな男性の声。
「携帯電話を忘れておられませんか?」
昨晩飲んだ居酒屋の店員さんでした。
私たちが店を出てすぐ、テーブルに携帯が置き忘れられているのに気が付き、
追いかけたものの、すでに姿は見当たらなかったそうです。
二日酔いもすっかり吹き飛び、居酒屋へ急ぎました。
応対してくれたのは、電話で話した男性。拾ってくれたのも彼でした。
何度も何度も頭を下げて、携帯を受け取りました。
「すぐにご連絡すればよかったんですが、片付けやらなんやらで忙しくて、
俺もだけど、皆、忘れちゃってたんですよ。で、今日仕事来て思い出して。すみませんでした」
謝るのはこちらの方だと伝え、丁重にお礼を言って、店を出ました。
212 :50@投稿代理 ◆4gJVpc7IX. :2014/08/24(日) 01:39:19.39 ID:JeOcyvlKi
(5/5)
さっそく、兄への送信メールを見てみました。
そこに書かれていた文章を読み、わさわさわさっと全身に鳥肌が立ちました。
書かれていたのは、こうでした。
「ヤバイじゃん今またいやばい! シヌカ」
支離滅裂な言葉の羅列。
酔っぱらって書いたのかと思いましたが、送信時刻と状況から考えて、私が書いたものではありません。
だとしたら、誰が?
ふと、中学生の時、友人とやったコックリさんで、守護霊を尋ねてみたのを思い出しました。
十円玉が動いた先の文字は、「シ、ロ、イ、キ、ツ、ネ」でした。
確かに実家の裏には神社があり、白狐が祀られていました。
兄や友達と遊ぶ約束をしていない日は、一人でその境内で遊んでいました。
一人でも不思議と怖くありませんでした。
これが、私の経験した守護霊は本当にいるのかもと思った出来事です。
こんなダメ人間でも助けてくれるなんて、ありがたい事です。
それはそうと、完全なる余談ですが、後日、お礼を兼ねて、あの居酒屋に客として訪れました。
もちろん、今度は節度を保って飲みました。
そして、あの爽やか店員さんと親しくなりたいと、守護霊にお願いしてみたのですが、
何も起こりませんでした。
それぐらい、自分で何とかしろよって事なんでしょうね。
【了】
百物語2014
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