百物語2013
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283 :おんなのな ◆2uEeM5k78XaD :2013/08/24(土) 06:14:20.86 ID:cicgCVLH0
道化恐怖症 (1/3)
世界中に結構多いんだよね。道化(ピエロ)恐怖症。
大抵はなんらかのきっかけがあって、あのメイクを怖いものと認識するようになったんだろうけど。
ホラー映画とか。
自分の場合は人形だった。
物心ついた時から親兄弟みんなで寝ていた寝室。
そのベッドの上、天井の隅にぶら下げられていたピエロの人形。割とリアル系。
ボロボロのつぎはぎだらけの服。赤と白のボーダーの長袖Tシャツにサスペンダーで吊るされた
黒いスボン。つま先の膨らんだ黒い靴。
これまたつぎはぎの当たった黒いチューリップ帽子から、金髪がこんもりとはみ出ている。
白塗りの顔に赤くて丸い大きな鼻。顔の下半分は髭の剃り跡のように灰色に塗られている。
微笑みの形に大きく赤く塗られた唇。
ダイヤ型に目の周りを縁取った、その左目の下に、水色の涙模様。
小さい頃はそれを時折眺めては「なんでボロボロの服なんだろう?」「なんで笑ってるのに
泣いてるんだろう?」などと考えていたが特に怖いと感じる事は無かったと思う。
数年後家を改築し両親の部屋、子供部屋と分かれ、あのピエロ人形もどこへいったのか、
見る事は無くなった。
そして時は流れ…と言いたいが、多分せいぜい1年か2年という程度。
まだまだ無邪気で愛らしかった小学校低学年頃だろう。
夜中に目覚めた。
ふと顔を上げてみた。
子供部屋のドアは開け放ち、その向かいにあるリビングのドアも開けられていたので、
顔を向けるだけでリビングが見える。そのリビングに。
284 :おんなのな ◆2uEeM5k78XaD :2013/08/24(土) 06:15:29.04 ID:cicgCVLH0
(2/3)
奥のほう、キッチンの窓から差し込むうっすらとした月明かりの中、誰かが立っていた。
身長も横幅も大きな体格の、黒いシルエット。
父も割と大柄なのだが、それより大きいし明らかに父とは違う。
妙にダボッとしたズボン。禿げてツルッと丸い頭の耳の上辺りから横に丸く大きく膨らんだ髪。
ゆっくり、ゆっくり、フワリフワリとした歩調で、あちらを見ながら、そちらを見ながら
歩いている。否、歩いて来る。
リビングのドアの横にある棚。そこを上から下、下から上、と眺めていたその視線が、頭部が、
こちらを向いた。
その顔はあの、寝室に吊るされていたピエロと同じメイクをしていた。
『人形だ!でも人間だ!』『見られた?!』『起きている事気付かれた?』
『なんで人形が?』『見ていたのを気付かれた?』『こっちを見た』
『こっちを見ただけだろうか?』『自分を見たんだろうか?』
一瞬の間に様々な考えが頭の中を駆け巡る。
急いで顔を伏せた。
『気付かれてたらどうなる?』
『見付かったらどうなる?』
『こっちまで来たら』
その疑問の答えを考える間も無く、恐怖が頂点に達し、気を失った。
翌日だろうか、それとももう少し、いやもっと後だろうか。
母親に「あのピエロ人形ってどこやったの?」と尋ねてみた。
改築の後、屋根裏にしまい込んだと言う。
『しまい込まれたピエロが出てきた!!』
『閉じ込められたと怒って出てきた!!』
頭の中では、ダンボールの蓋をこじ開けベタリベタリと這い出て来た人形がズモモモモと
大きくなって…という映像が出来上がってしまった。
285 :おんなのな ◆2uEeM5k78XaD :2013/08/24(土) 06:16:13.49 ID:cicgCVLH0
(3/3)
それ以来ピエロが怖い。人形全般が怖くなったが、ピエロは絵でもダメ。
なのにうちのカーチャン、人形大好きピエロ大好き。
あのピエロ人形はしまい込まれたままだけど、他のピエログッズが徐々に増えていく。
紙粘土でピエロの飾り作ったり。
知り合いの人形師にでっかい80cmくらいの女の子人形2つも作ってもらったり。
それがあの(元)子供部屋に(またしても)ぶら下げられてるんだけど、この人形達、
いつの間にか俺の座ってるほうにぶら〜んと向いてくるんだ…。
気のせいかと座る場所を反対側にすると、やっぱりいつの間にかこっち向くんだ。2体とも。
すごいよ。なんでそっからほぼ180°回転してこっち向くの?って。
実家離れて久しいが、帰省する度にピエログッズとこっち向く人形2体に囲まれて、
もうどんな拷問だよって感じ。
とはいえ前回2月に帰った時は、人形はぶら下がったままこっち向かなくなっていて、
ようやく魂でも抜けてくれたのかと、ちょっと安心したけど。
…なんか微妙に話が主題からずれ気味だな。
まぁそんなこんなで、別にピエロ人形が復讐しに来たとかではなかったみたいだけど
20年以上経っても、例えあれが夢だったと証明されたとしても、一旦根付いた恐怖は消えず、
「アレがキャラクターだとか、マクドナルドマジキチだろ」と周囲に吼え続ける
道化恐怖症のひとりなのでした。
【終わり】
道化恐怖症 (1/3)
世界中に結構多いんだよね。道化(ピエロ)恐怖症。
大抵はなんらかのきっかけがあって、あのメイクを怖いものと認識するようになったんだろうけど。
ホラー映画とか。
自分の場合は人形だった。
物心ついた時から親兄弟みんなで寝ていた寝室。
そのベッドの上、天井の隅にぶら下げられていたピエロの人形。割とリアル系。
ボロボロのつぎはぎだらけの服。赤と白のボーダーの長袖Tシャツにサスペンダーで吊るされた
黒いスボン。つま先の膨らんだ黒い靴。
これまたつぎはぎの当たった黒いチューリップ帽子から、金髪がこんもりとはみ出ている。
白塗りの顔に赤くて丸い大きな鼻。顔の下半分は髭の剃り跡のように灰色に塗られている。
微笑みの形に大きく赤く塗られた唇。
ダイヤ型に目の周りを縁取った、その左目の下に、水色の涙模様。
小さい頃はそれを時折眺めては「なんでボロボロの服なんだろう?」「なんで笑ってるのに
泣いてるんだろう?」などと考えていたが特に怖いと感じる事は無かったと思う。
数年後家を改築し両親の部屋、子供部屋と分かれ、あのピエロ人形もどこへいったのか、
見る事は無くなった。
そして時は流れ…と言いたいが、多分せいぜい1年か2年という程度。
まだまだ無邪気で愛らしかった小学校低学年頃だろう。
夜中に目覚めた。
ふと顔を上げてみた。
子供部屋のドアは開け放ち、その向かいにあるリビングのドアも開けられていたので、
顔を向けるだけでリビングが見える。そのリビングに。
284 :おんなのな ◆2uEeM5k78XaD :2013/08/24(土) 06:15:29.04 ID:cicgCVLH0
(2/3)
奥のほう、キッチンの窓から差し込むうっすらとした月明かりの中、誰かが立っていた。
身長も横幅も大きな体格の、黒いシルエット。
父も割と大柄なのだが、それより大きいし明らかに父とは違う。
妙にダボッとしたズボン。禿げてツルッと丸い頭の耳の上辺りから横に丸く大きく膨らんだ髪。
ゆっくり、ゆっくり、フワリフワリとした歩調で、あちらを見ながら、そちらを見ながら
歩いている。否、歩いて来る。
リビングのドアの横にある棚。そこを上から下、下から上、と眺めていたその視線が、頭部が、
こちらを向いた。
その顔はあの、寝室に吊るされていたピエロと同じメイクをしていた。
『人形だ!でも人間だ!』『見られた?!』『起きている事気付かれた?』
『なんで人形が?』『見ていたのを気付かれた?』『こっちを見た』
『こっちを見ただけだろうか?』『自分を見たんだろうか?』
一瞬の間に様々な考えが頭の中を駆け巡る。
急いで顔を伏せた。
『気付かれてたらどうなる?』
『見付かったらどうなる?』
『こっちまで来たら』
その疑問の答えを考える間も無く、恐怖が頂点に達し、気を失った。
翌日だろうか、それとももう少し、いやもっと後だろうか。
母親に「あのピエロ人形ってどこやったの?」と尋ねてみた。
改築の後、屋根裏にしまい込んだと言う。
『しまい込まれたピエロが出てきた!!』
『閉じ込められたと怒って出てきた!!』
頭の中では、ダンボールの蓋をこじ開けベタリベタリと這い出て来た人形がズモモモモと
大きくなって…という映像が出来上がってしまった。
285 :おんなのな ◆2uEeM5k78XaD :2013/08/24(土) 06:16:13.49 ID:cicgCVLH0
(3/3)
それ以来ピエロが怖い。人形全般が怖くなったが、ピエロは絵でもダメ。
なのにうちのカーチャン、人形大好きピエロ大好き。
あのピエロ人形はしまい込まれたままだけど、他のピエログッズが徐々に増えていく。
紙粘土でピエロの飾り作ったり。
知り合いの人形師にでっかい80cmくらいの女の子人形2つも作ってもらったり。
それがあの(元)子供部屋に(またしても)ぶら下げられてるんだけど、この人形達、
いつの間にか俺の座ってるほうにぶら〜んと向いてくるんだ…。
気のせいかと座る場所を反対側にすると、やっぱりいつの間にかこっち向くんだ。2体とも。
すごいよ。なんでそっからほぼ180°回転してこっち向くの?って。
実家離れて久しいが、帰省する度にピエログッズとこっち向く人形2体に囲まれて、
もうどんな拷問だよって感じ。
とはいえ前回2月に帰った時は、人形はぶら下がったままこっち向かなくなっていて、
ようやく魂でも抜けてくれたのかと、ちょっと安心したけど。
…なんか微妙に話が主題からずれ気味だな。
まぁそんなこんなで、別にピエロ人形が復讐しに来たとかではなかったみたいだけど
20年以上経っても、例えあれが夢だったと証明されたとしても、一旦根付いた恐怖は消えず、
「アレがキャラクターだとか、マクドナルドマジキチだろ」と周囲に吼え続ける
道化恐怖症のひとりなのでした。
【終わり】
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