百物語2010
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263 :枯野 ◆BxZntdZHxQ :2010/08/21(土) 02:45:33 ID:K36XqKfnP
「刑場跡にて」 1/2
俺の従妹が劇団もどきのサークルにいたことがある。
もどき、というのは大掛かりな公演などをやらず、
ネットに朗読劇などを上げるのが主な活動内容だったからだ。
このサークルに籍を置いていた頃、親睦会と称して心霊スポット巡りをしたそうだ。
別にホラーの朗読をやっていた訳ではない。
今考えるとちょっとどうかと思うが、
有名なバトル漫画の戦闘シーンをラジオドラマ風に演じたり、
やたら独白の多い少女漫画を朗読したり、そんな遊びをするサークルである。
取材とか役作りとかではなく、どうやら主宰の趣味だったようだ。
そんな親睦会で、印象に残った場所がいくつかあると彼女は言う。
その話をしたい。
従妹の名前は仮に美保としよう。
薄曇りの春の日、一行が訪れたのは刑場跡だった。
行く前にイメージしていた程広い場所ではなく、
街中の、道路に挟まれた川の中州の様な僅かな空間。
外から見ると、古い街でたまに出会う稲荷社や地蔵堂の敷地の様だった。
賑やかに中に入って行く主宰以下仲間たちを見送って、
美保は何だか進む気になれなかった。
怖いとか気持ち悪い感じはしないが、
はしゃぐ一行を見てむしろそっちに呆れて乗り気になれない。
仕方なく2メートル程入って両脇に背の高い木が立っている場所に立ち止まり、
ああだこうだ言いながら奥へ進む背中を眺めていた。
ふと、頭上で音がした。
右側の木の上で、生木がキーコキーコと軋む音。木の葉がざわめく音。
風は殆どないから、鳥でもいるのかもしれない。
美保が何の気なしに音がした方向を見上げると…
常緑樹の青々とした梢に、黒ずんだ素足がにょっきりと生えていた。
264 :枯野 ◆BxZntdZHxQ :2010/08/21(土) 02:47:59 ID:K36XqKfnP
「刑場跡にて」 2/2
見間違いかとよく目をこらすと、脛から下の脚の上には黄ばんだ灰色の着物、
黒っぽい男帯、厚みのない薄い肩、袖から覗くこれまた黒ずんだ手、
重なり合う葉のあいだあいだに、着物姿の小柄な男であろう姿があった。
全体に彩度を落とした様に、全てが暗くくすんだ色合いだ。
男の足が乗っかっている辺りの枝が不自然に揺れて音を立てているが、
実際に人が乗っているにしては音は小さく、枝もしなっていない。
奇妙な光景だった。
彼女は基本的にそう言ったモノをしげしげと見たりしないことにしている。
こちらが見えていると悟られたら、都合の悪い事態が発生する場合がままあるからだ。
だが、その時は何だか呆気にとられて、爪先から頭の天辺まで眺めてしまった。
いや。
ちょっとよれた襟のあわせまで、確認した。
その上は見えなかった。木の葉の影が黒ずんだ肌色と重なって、顔は見えない。
どのくらいぼんやりしていたのか、賑やかな一行が戻って来た。
相変わらずきゃっきゃとはしゃいでいるが、そういえばこんな狭い場所なのに、
奥に行った彼らが騒ぐ声は不思議と聴こえていなかった。
昼食を食べに行こうと盛り上がる仲間たちの後ろについて刑場跡を出て、
入り口のところで振り返って手を合わせた。
見れば、少し離れた場所でもう一人手を合わせている仲間がいた。
木の上にはもう誰もいない様だった。
【完】
「刑場跡にて」 1/2
俺の従妹が劇団もどきのサークルにいたことがある。
もどき、というのは大掛かりな公演などをやらず、
ネットに朗読劇などを上げるのが主な活動内容だったからだ。
このサークルに籍を置いていた頃、親睦会と称して心霊スポット巡りをしたそうだ。
別にホラーの朗読をやっていた訳ではない。
今考えるとちょっとどうかと思うが、
有名なバトル漫画の戦闘シーンをラジオドラマ風に演じたり、
やたら独白の多い少女漫画を朗読したり、そんな遊びをするサークルである。
取材とか役作りとかではなく、どうやら主宰の趣味だったようだ。
そんな親睦会で、印象に残った場所がいくつかあると彼女は言う。
その話をしたい。
従妹の名前は仮に美保としよう。
薄曇りの春の日、一行が訪れたのは刑場跡だった。
行く前にイメージしていた程広い場所ではなく、
街中の、道路に挟まれた川の中州の様な僅かな空間。
外から見ると、古い街でたまに出会う稲荷社や地蔵堂の敷地の様だった。
賑やかに中に入って行く主宰以下仲間たちを見送って、
美保は何だか進む気になれなかった。
怖いとか気持ち悪い感じはしないが、
はしゃぐ一行を見てむしろそっちに呆れて乗り気になれない。
仕方なく2メートル程入って両脇に背の高い木が立っている場所に立ち止まり、
ああだこうだ言いながら奥へ進む背中を眺めていた。
ふと、頭上で音がした。
右側の木の上で、生木がキーコキーコと軋む音。木の葉がざわめく音。
風は殆どないから、鳥でもいるのかもしれない。
美保が何の気なしに音がした方向を見上げると…
常緑樹の青々とした梢に、黒ずんだ素足がにょっきりと生えていた。
264 :枯野 ◆BxZntdZHxQ :2010/08/21(土) 02:47:59 ID:K36XqKfnP
「刑場跡にて」 2/2
見間違いかとよく目をこらすと、脛から下の脚の上には黄ばんだ灰色の着物、
黒っぽい男帯、厚みのない薄い肩、袖から覗くこれまた黒ずんだ手、
重なり合う葉のあいだあいだに、着物姿の小柄な男であろう姿があった。
全体に彩度を落とした様に、全てが暗くくすんだ色合いだ。
男の足が乗っかっている辺りの枝が不自然に揺れて音を立てているが、
実際に人が乗っているにしては音は小さく、枝もしなっていない。
奇妙な光景だった。
彼女は基本的にそう言ったモノをしげしげと見たりしないことにしている。
こちらが見えていると悟られたら、都合の悪い事態が発生する場合がままあるからだ。
だが、その時は何だか呆気にとられて、爪先から頭の天辺まで眺めてしまった。
いや。
ちょっとよれた襟のあわせまで、確認した。
その上は見えなかった。木の葉の影が黒ずんだ肌色と重なって、顔は見えない。
どのくらいぼんやりしていたのか、賑やかな一行が戻って来た。
相変わらずきゃっきゃとはしゃいでいるが、そういえばこんな狭い場所なのに、
奥に行った彼らが騒ぐ声は不思議と聴こえていなかった。
昼食を食べに行こうと盛り上がる仲間たちの後ろについて刑場跡を出て、
入り口のところで振り返って手を合わせた。
見れば、少し離れた場所でもう一人手を合わせている仲間がいた。
木の上にはもう誰もいない様だった。
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