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百物語2010

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Part62
208 :おだに ◆XCWHqwntwSPj :2010/08/21(土) 01:25:29 ID:LIlw5BKFO
【公民館の足音】
私の友人の、名前は仮に鍋丘としますが、彼から聞いた話です。
鍋丘は、大学のころに演劇部に入って、卒業してからも金沢でずっと舞台俳優をしてるんですが、これは彼が卒業して二年位の経ったころの話なんです。
彼がその時所属していた劇団というのは、年に6、7回公演を行ってて、1回の公演は大体4日間続けてたそうです。
それでその年の梅雨明け頃なんですが、お隣の福井県の別の劇団と合同でひとつ公演をやろうって話になりまして、
県を行き来して脚本の作成だとか、実際の演技の練習をしたんです。
向こうの劇団のリーダーが間宮さん(仮名)っていうんですが、感じのいい人で、鍋丘もすぐに親しくなれたそうです。
それで一緒に飲みに行ったりして、演劇だとかその時流行ってた映画だとかの話をしてたんですよ。
それで、まずはいつも鍋丘の劇団が借りている所で3日間公演を行い、その2日後に福井県でやることになったんです。

209 :本当にあった怖い名無し:2010/08/21(土) 01:27:43 ID:LIlw5BKFO
なぜ2日後かというと、当然なんですが小道具大道具の搬入だとか、
実際にその会場でのリハーサルだとか、中々準備に時間がかかるからなんです。
それで、石川県での公演が終わって、次の日に福井県に車で行った訳ですよ。
昼頃から色々と搬入を始めたんですが、これが意外に早くおわって、って言っても終わったのは夕方6時位だったんですが、
まずは各自軽く夕食をとってから明日の為のリハーサルをやろうってことで、一旦解散したわけだ。そしたら間宮さんが、いい人なんでしょうね、「おい鍋丘君、一緒にメシ食いに行こうや。」と声をかけてくれたんですが、
まだプロになって二年目ですからね、不安もあったからリハーサルの前に少し1人で練習したいんでって、断っちゃった。
それでリハーサルは夜の8時位から始めることになったんで、それまでは1人で会場に残ることになった。
この会場というのは、かれこれ二十年くらい前に建てられた公民館で、一度改装したらしいんですがどことなく古い雰囲気があるわけです。

210 :おだに ◆XCWHqwntwSPj :2010/08/21(土) 01:30:01 ID:LIlw5BKFO
でもまあ、古いし客席もパイプ椅子だけども安いからってことで、そこを借りたんですよね。
それで彼は舞台で、1人で動作だとか台詞だとかを確認し出したんですが、借り物の会場ですからね、
電気が勿体ないですから舞台を照らす明かりだけをつけてやってた訳です。
この舞台というのが、丁度南の方角にあって、真向いの北に2つ大きな出入口があるんです。
それで出ると廊下が横に伸びてて、舞台の右側、つまり東側には壁一つ隔てて楽屋代わりにしてる部屋がある。
練習を始めてほんの30分位経ったころに南側から、コッコッコッコッと足音が聞こえてきた。
鍋丘は「誰かこの部屋の前の廊下を歩いてるんだろう」と思って、気にも止めなかったんです。
その足音は、舞台を背にして左から右に歩いていたようなんですが、丁度右端位で音が止まったようなんです。

211 :おだに ◆XCWHqwntwSPj :2010/08/21(土) 01:32:25 ID:LIlw5BKFO
鍋丘が「あれ」と思ってると、今度は東側の壁一つ挟んだ部屋、つまり楽屋の辺りを歩いてる音が聞こえたんですよ。
それで鍋丘、「ああ、そうか。誰かが忘れ物でもとりに来たんだな」と思ったんですが、よく考えてみるとおかしいんですよ。
というのは、楽屋と舞台のある今まさに自分がいる部屋の間の壁というのは、かなり分厚くできてて隣の騒ぎ声とかならいざ知らず、
足音なんて聞こえるわけがないんだ。そして彼は気付いたんですよねえ、「こいつ壁伝いにこの部屋の中を歩いてるんだ。」
その瞬間、一気に暑くもないのに変な汗がぶわっと出てきて、膝がガタガタと震えだした。だって姿は見えないのに、確かに足音だけは聞こえるんだから。
しかもそいつは、コッコッコッコッと足音をたてながら確実に壁伝いにこっちに向かって来てる。

212 :おだに ◆XCWHqwntwSPj :2010/08/21(土) 01:34:54 ID:LIlw5BKFO
鍋丘は腰が抜けそうになるのを必死に抑えながら、向いの扉まで歩いていった。
それで2つあるうち、左側の扉に手をかけたんですが、これが開かないんだ。鍵はかかってないんですよ。かかってないのに開かない。
それで力を振り絞ってもう一方の扉まで行ったんだけど、こっちも開かない。
その瞬間、彼は足腰の力が抜けてその場にガクっと座り込んでしまった。立とうにも力が全く入らないんだ。
そうこうしてる間に、足音はほぼ部屋を一周して、また南側の壁の端まで来てしまってた。
そこで止まってくれと鍋丘は思ったんですがね、また足音がコッコッコッコッとこちらに向かって来た。
もう鍋丘は立てないもんですからね、這って逃れようと思ったんですが、
足に力が入らないもんだから、両腕の力だけで逃げるしかない。これがまた遅いんだ。
その間もコッコッコッコッと足音が迫ってくる。
「やめてくれ〜、来ないでくれ〜」と必死なんですが、もうすぐそこまで足音が迫って来た。


213 :おだに ◆XCWHqwntwSPj :2010/08/21(土) 01:37:51 ID:LIlw5BKFO
丁度そこで、ガタンと音がしてさっき開かなかった方の扉が開いたんですよ。
それでひょこっと間宮さんが顔出して、「やっぱ俺も練習しようと思ってね。
ところで喉乾いただろうからコーヒー買ってきたんだけど、どうしたの?」と声をかけてくれた。
するとさっきまでの足音がピタッと止んだんですよ。鍋丘も全身に力が入るようになって立ち上がって、
「間宮さん、とりあえずこの部屋出ましょう。」と言って、一緒に公民館前の自販機コーナーのベンチまで行ったんですよ。
それで間宮さんに、一部始終を話した訳だ。すると間宮さんが「ああ、君もあったのか。」と言って、
実はかつて同じ体験をしたということを話したんですよね。体験したのが今まで自分一人なもんで大丈夫だろうと思ったらしいんですが。
以上です、長文駄文失礼しました

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