百物語2011
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68 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/19(金) 22:10:11.70 ID:pJf+sL8/0
キツネ ◆8yYI5eodys様
「小さなワンピース」
【小さなワンピース】1/4
私が子供の頃、近所に仲の良い幼馴染がいました。
1人は同級生のAくんで、もう1人はその2歳年上のお姉ちゃん。
家が近く家族ぐるみの付き合いもあって、ほぼ毎日のように遊んでいたもんです。
あれは小学生の夏休みのこと。
いつものように幼馴染宅の裏手の河原で目一杯遊んでいた私たちは、
突然降り出した夕立でずぶ濡れになりながら逃げるように幼馴染宅に駆け込みました。
おばさんから「あんたたち今日もね!」とお小言を頂戴し、
みんなでお風呂から上がった後、私とAくんがゲームで遊んでいた時です。
ちょいちょい、とお姉ちゃんに手招きされて私とAくんが付いて行くと、そこは見慣れたAくんとお姉ちゃんの部屋。
私とAくんが腰掛けるなり、お姉ちゃんが切り出しました。
「暑いからちょっと怖い話してあげよっか」
私たちの返事も聞かずに、お姉ちゃんはポツリ、ポツリと語り始めました。
69 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/19(金) 22:10:52.85 ID:pJf+sL8/0
【小さなワンピース】2/4
それは昨晩の話だそうで。
その晩は夕方の大雨のせいか蒸し暑さを増した熱帯夜で、お姉ちゃんはなかなか寝付けませんでした。
真っ暗な部屋の中で聞こえてくるのは寝ている弟のAくんの寝息と、開け放した窓の外、堤防を挟んだ川の音。
その時、お姉ちゃんは『川の音』が妙に耳に付いて、ますます意識が冴えてしまったそうです。
不意に川の音に混じって、
ずる……ぺちゃり。
と、如何とも形容しがたい音が耳に届きました。
ずる……ぺちゃり。
ずる…ぺちゃり。
ず…ぺちゃ。
音は次第に間隔が短く、次第に大きく。
まるで自分に向かって近付いている、と感じたお姉ちゃんは真夏の熱帯夜だというのに寒気を感じたといいます。
ぺちゃ…ぺちゃ…ず…ぺちゃ。
耐えきれなくなったお姉ちゃんは頭からすっぽり布団をかぶって、泥棒だったらどうしよう?早く弟を起こして逃げた方がいいんじゃないか?などと考えたそうです。
70 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/19(金) 22:11:46.03 ID:pJf+sL8/0
【小さなワンピース】3/4
どれほどの間そうしていたのでしょうか。
お姉ちゃんがじっと耳を澄ますと音が止んでいます。
―――そうだ、今のうちにお母さんのところに行こう。
そう考えて、恐る恐る布団の端を持ち上げた時でした。
……ぺちゃ!
布団の隙間に見えたのは小さな目。
いいえ。
眼球の無い真っ黒に窪んだ眼窩で、じっ、とお姉ちゃんを覗き込む小さな女の子の顔でした。
―――痛い。冷たい。痛い。動けない。助けて。
そんな感情が奔流のように混ざり合ったところで、お姉ちゃんの記憶が途切れたのだそうです。
翌朝、お姉ちゃんが目を覚ますと、そこは朝日が差し込む自分の部屋でした。
気持ち良さそうに寝ていた弟のAくんを蹴り起こそうとした時、ふと昨晩の記憶が蘇って何気なく窓の外に目を遣りました。
窓の下、日差しが照り返すコンクリートの上の何かが目に入ります。
お姉ちゃんが網戸を開けて拾い上げたのは、水玉模様の布切れ。
それは所々が大きく破れた、びしょ濡れの小さなワンピースでした。
71 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/19(金) 22:12:27.11 ID:pJf+sL8/0
【小さなワンピース】4/4
以上がその日お姉ちゃんから聞いた、じゃなくて無理やり聞かされた話でした。
お姉ちゃんが語った内容は強く印象に残っているのですが、いやはや、文章にするとなかなか再現できないものですね。
お恥ずかしい限りです。
さて、余談ではありますがこの話にはちょっとした続きがあります。
お姉ちゃんの話を聞いて2日過ぎた頃だったと思います。
家族で食卓を囲んでいた時、テレビから私が住んでいる町の名前が聞こえてきました。
普段、ご町内で交通事故や火事が起きると大事件として話題を独占するような小さな田舎町です。
しめた、明日の登校日の時友達と話すネタになる、とでも思った私はテレビに釘付けになりました。
テレビに表示されていたのは、私の家から5キロほど離れた地区の名前。
簡略化された地図の、川の真上に描かれた赤い×印。
後ろに(5)と書かれた女の子の名前。
その名前の前に書かれた『死亡』の文字。
そして……ローカルニュースのキャスターは最後に「死因は水死とみられています」と読み上げました。
後で分かったことなのですが、亡くなられたのは10キロ以上離れた川の上流の隣町の女の子で、
ちょうどあの日―――お姉ちゃんが夜中に奇妙な体験をした日に行方不明になっていたのだそうです。
川で亡くなった女の子と、私の幼馴染お姉ちゃんの体験は何か関係あったのでしょうか?
今となっては分かりませんが、ただ一つだけ。
翌日から幼馴染のお母さんのお小言に「川で遊んじゃダメだからね!」という一言が追加されたのを鮮明に覚えていることぐらいでしょうか?
【完】
キツネ ◆8yYI5eodys様
「小さなワンピース」
【小さなワンピース】1/4
私が子供の頃、近所に仲の良い幼馴染がいました。
1人は同級生のAくんで、もう1人はその2歳年上のお姉ちゃん。
家が近く家族ぐるみの付き合いもあって、ほぼ毎日のように遊んでいたもんです。
あれは小学生の夏休みのこと。
いつものように幼馴染宅の裏手の河原で目一杯遊んでいた私たちは、
突然降り出した夕立でずぶ濡れになりながら逃げるように幼馴染宅に駆け込みました。
おばさんから「あんたたち今日もね!」とお小言を頂戴し、
みんなでお風呂から上がった後、私とAくんがゲームで遊んでいた時です。
ちょいちょい、とお姉ちゃんに手招きされて私とAくんが付いて行くと、そこは見慣れたAくんとお姉ちゃんの部屋。
私とAくんが腰掛けるなり、お姉ちゃんが切り出しました。
「暑いからちょっと怖い話してあげよっか」
私たちの返事も聞かずに、お姉ちゃんはポツリ、ポツリと語り始めました。
69 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/19(金) 22:10:52.85 ID:pJf+sL8/0
【小さなワンピース】2/4
それは昨晩の話だそうで。
その晩は夕方の大雨のせいか蒸し暑さを増した熱帯夜で、お姉ちゃんはなかなか寝付けませんでした。
真っ暗な部屋の中で聞こえてくるのは寝ている弟のAくんの寝息と、開け放した窓の外、堤防を挟んだ川の音。
その時、お姉ちゃんは『川の音』が妙に耳に付いて、ますます意識が冴えてしまったそうです。
不意に川の音に混じって、
ずる……ぺちゃり。
と、如何とも形容しがたい音が耳に届きました。
ずる……ぺちゃり。
ずる…ぺちゃり。
ず…ぺちゃ。
音は次第に間隔が短く、次第に大きく。
まるで自分に向かって近付いている、と感じたお姉ちゃんは真夏の熱帯夜だというのに寒気を感じたといいます。
ぺちゃ…ぺちゃ…ず…ぺちゃ。
耐えきれなくなったお姉ちゃんは頭からすっぽり布団をかぶって、泥棒だったらどうしよう?早く弟を起こして逃げた方がいいんじゃないか?などと考えたそうです。
70 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/19(金) 22:11:46.03 ID:pJf+sL8/0
【小さなワンピース】3/4
どれほどの間そうしていたのでしょうか。
お姉ちゃんがじっと耳を澄ますと音が止んでいます。
―――そうだ、今のうちにお母さんのところに行こう。
そう考えて、恐る恐る布団の端を持ち上げた時でした。
……ぺちゃ!
布団の隙間に見えたのは小さな目。
いいえ。
眼球の無い真っ黒に窪んだ眼窩で、じっ、とお姉ちゃんを覗き込む小さな女の子の顔でした。
―――痛い。冷たい。痛い。動けない。助けて。
そんな感情が奔流のように混ざり合ったところで、お姉ちゃんの記憶が途切れたのだそうです。
翌朝、お姉ちゃんが目を覚ますと、そこは朝日が差し込む自分の部屋でした。
気持ち良さそうに寝ていた弟のAくんを蹴り起こそうとした時、ふと昨晩の記憶が蘇って何気なく窓の外に目を遣りました。
窓の下、日差しが照り返すコンクリートの上の何かが目に入ります。
お姉ちゃんが網戸を開けて拾い上げたのは、水玉模様の布切れ。
それは所々が大きく破れた、びしょ濡れの小さなワンピースでした。
71 :代理投稿 ◆96j0kyRRhEF2 :2011/08/19(金) 22:12:27.11 ID:pJf+sL8/0
【小さなワンピース】4/4
以上がその日お姉ちゃんから聞いた、じゃなくて無理やり聞かされた話でした。
お姉ちゃんが語った内容は強く印象に残っているのですが、いやはや、文章にするとなかなか再現できないものですね。
お恥ずかしい限りです。
さて、余談ではありますがこの話にはちょっとした続きがあります。
お姉ちゃんの話を聞いて2日過ぎた頃だったと思います。
家族で食卓を囲んでいた時、テレビから私が住んでいる町の名前が聞こえてきました。
普段、ご町内で交通事故や火事が起きると大事件として話題を独占するような小さな田舎町です。
しめた、明日の登校日の時友達と話すネタになる、とでも思った私はテレビに釘付けになりました。
テレビに表示されていたのは、私の家から5キロほど離れた地区の名前。
簡略化された地図の、川の真上に描かれた赤い×印。
後ろに(5)と書かれた女の子の名前。
その名前の前に書かれた『死亡』の文字。
そして……ローカルニュースのキャスターは最後に「死因は水死とみられています」と読み上げました。
後で分かったことなのですが、亡くなられたのは10キロ以上離れた川の上流の隣町の女の子で、
ちょうどあの日―――お姉ちゃんが夜中に奇妙な体験をした日に行方不明になっていたのだそうです。
川で亡くなった女の子と、私の幼馴染お姉ちゃんの体験は何か関係あったのでしょうか?
今となっては分かりませんが、ただ一つだけ。
翌日から幼馴染のお母さんのお小言に「川で遊んじゃダメだからね!」という一言が追加されたのを鮮明に覚えていることぐらいでしょうか?
【完】
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