百物語 第二回
Part5
19 :クリやん ◆aHHsHtXLnA :2006/08/11(金) 20:47:32 ID:TL+No2S00
第5話 『主(ぬし)』
田舎に移り住んだ両親が、新しく建てたばかりの家でのこと――――。
そこは住宅街ではあったが、小高い丘の南側を段々畑のように切り崩し、造成された土地だった。
夜中になれば野生動物が徘徊し、夏はカブトムシが飛んでくる、そんな場所。
2階の広間は3方向すべてに窓があり、ドアがある南側が玄関の吹き抜けに通じていた。
全ての窓を開け放すと、まるで屋外にいるかのように風が気持ちいい。
夕方の4時頃だっただろうか。
広間に仰向けに寝転び、目を閉じてくつろいでいた、その時だった。
階段を上ってくる足音。母親だろうか。
階段では確かに、それは人の足音に聞こえた。
しかし2階へ上りきったところで、足音は別の何かに変わっていた。
妙に軽やかで、歩幅の狭い…まるで、4本足の動物のような。
足音が変わった瞬間、金縛りになった。
足音は「タタタッ」と軽快に、真っ直ぐこちらに向かってきた。
つい今し方まで窓の外から聞こえていたはずの、川の水音がまったく聴こえない。
かわりに間近で聴こえたのは、体の周囲をグルグルと歩き回る動物の足音。
そして、犬のような動物が匂いを嗅ぐときのような、鼻を鳴らす音。
『それ』はまもなく、部屋の外へ出ていった。階段を下りる音はしなかった。
金縛りもフッと解けたが、暫くの間は天井を見つめたまま呆然としていた。
後で母に確認すると、やはり「2階には行っていない」という。家には他に誰もいない。
辺りが暗くなった頃、母が庭にパンをばら撒いていた。
「ここにね、沢山の狸がごはんをもらいにくるんだよ」
ああ、そうなのか、と思った。
恐怖ではない、あのときの奇妙な感覚。悪いものではない気がしていた。
あれはきっと、この土地を守る動物の霊。
この場に住み着く人間がどんな奴らか、ちょっと見に来ていたのだろう。
【完】
第5話 『主(ぬし)』
田舎に移り住んだ両親が、新しく建てたばかりの家でのこと――――。
そこは住宅街ではあったが、小高い丘の南側を段々畑のように切り崩し、造成された土地だった。
夜中になれば野生動物が徘徊し、夏はカブトムシが飛んでくる、そんな場所。
2階の広間は3方向すべてに窓があり、ドアがある南側が玄関の吹き抜けに通じていた。
全ての窓を開け放すと、まるで屋外にいるかのように風が気持ちいい。
夕方の4時頃だっただろうか。
広間に仰向けに寝転び、目を閉じてくつろいでいた、その時だった。
階段を上ってくる足音。母親だろうか。
階段では確かに、それは人の足音に聞こえた。
しかし2階へ上りきったところで、足音は別の何かに変わっていた。
妙に軽やかで、歩幅の狭い…まるで、4本足の動物のような。
足音が変わった瞬間、金縛りになった。
足音は「タタタッ」と軽快に、真っ直ぐこちらに向かってきた。
つい今し方まで窓の外から聞こえていたはずの、川の水音がまったく聴こえない。
かわりに間近で聴こえたのは、体の周囲をグルグルと歩き回る動物の足音。
そして、犬のような動物が匂いを嗅ぐときのような、鼻を鳴らす音。
『それ』はまもなく、部屋の外へ出ていった。階段を下りる音はしなかった。
金縛りもフッと解けたが、暫くの間は天井を見つめたまま呆然としていた。
後で母に確認すると、やはり「2階には行っていない」という。家には他に誰もいない。
辺りが暗くなった頃、母が庭にパンをばら撒いていた。
「ここにね、沢山の狸がごはんをもらいにくるんだよ」
ああ、そうなのか、と思った。
恐怖ではない、あのときの奇妙な感覚。悪いものではない気がしていた。
あれはきっと、この土地を守る動物の霊。
この場に住み着く人間がどんな奴らか、ちょっと見に来ていたのだろう。
【完】
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