承太郎×ミドラー
Part1
635 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:44:43 ID:0uEHz3N6
ジョースター家因縁の宿敵DIOを倒し、熱砂の国から日本へ帰国した承太郎を待っていたのは、すっかり元気を取り戻した母と
50日余りの休学のせいでギリギリの出席日数だった。
あの旅で失ったものはあまりにも多かったが、承太郎は再び平穏な生活へと戻った……はずだった。
出席日数を補うため一応まじめに授業を受け、下校する途中の承太郎のそばに黒塗りの外車が近づいてきた。
承太郎に並んで徐行する車のウィンドウが開き、運転席から女が顔を出した。
どこの国のものともつかないエキゾチックな雰囲気を醸す美貌を、艶っぽいメイクが彩っている。
ウェーブのかかった黒髪をポニーテールに結い、ゆったりした衣服の上からでもわかるほど胸が張り出していた。
何者かと警戒する承太郎に、女は親しげに声をかけてきた。
「久しぶりね承太郎、あたしよ」
「……? テメーなんか知らん」
承太郎は一瞬不審そうな顔をしただけで、さっさと歩きだしてしまった。
その反応に、車のドアを蹴り開けて女が飛び出してきた。
「待てーーーッ! あたしだよッ!『女教皇』のミドラーッ! あの時はよくもやってくれたわねぇ! 承太郎!」
「!! ミドラーだと……? テメーだったのか」
その名を聞いて、承太郎はようやく思い当たった。
DIOを倒す旅の途中、海中で襲ってきて承太郎に一杯食わせたが破れ去ったスタンド使いの女。
ジョースター一行は当然知らぬ事だが、あの後ミドラーは這々の体でスタンド使いの闇医者に治療を受け、
無惨に砕かれた歯と美貌は元通りになった。
その代わり治療費をずいぶんボッたくられたものだが、もちろんミドラーはそんな事が言いたくてわざわざ現れたのではない。
「わざわざお礼参りに日本まで追いかけてくるたあ、歯をへし折られただけじゃあ懲りねーとみえるな……」
承太郎の傍らに『星の白金』が現れた。 相手が妙な動きをすれば即座にラッシュを繰り出せるよう、闘志満々で拳を固めている。
しかしミドラーはスタンドを出す事はしなかった。 呆れたように両掌を上に向ける。
636 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:47:03 ID:0uEHz3N6
「早とちりしないでよ、あたしはあんたに『忠告』しに来ただけよ」
「『忠告』だと?」
「あんた、DIO様だけでなくスタンド使いの刺客を山ほど倒してきたでしょ?
そいつらのほとんどは一匹狼を気取ってたし、もともと金目当てだったんだから復讐に来る根性なんてありゃしないわ。
でも、短い間に何人も凄腕の殺し屋を再起不能にしたあんたやポルナレフは、すでに裏社会のスタンド使いの間じゃ
けっこうな有名人なのよ……」
「……やれやれだぜ」
承太郎はミドラーの言いたい事を察した。
DIOを倒しはしたがそれで終わりではなく、自分の意思に関わらず厄介な事になるというわけだ。
「ポルナレフの方は天涯孤独だからいいとしても、あんたには家族がいるでしょ、SPW財団がバックについてるとはいえ、
もし人質にとられでもしたら面倒な事になるかもね」
ミドラーの人質という言葉に、承太郎の目元が険しくなった。
あの旅でも、卑劣な刺客に仲間や無関係の者を人質にされたことはあるが、承太郎が気を許せる数少ない身内である
ホリィにもし手を出されたら、そいつを骨も残らないほどにブチのめすだろう。
「それで、おめーは何が目的だ」
「え?」
「ただそれだけの事を言うためにわざわざご親切にやって来たとは思えねえ、何のつもりだ」
承太郎に核心を突かれ、ミドラーはいきなり両手を擦り合わせてもじもじし始めた。
さっきまでの嬌慢な表情は消え失せ、ほんのり顔を赤らめてうつむいている。
「だ、だから……あたししばらく日本で骨休めするから、その間あんたのボディガードになってやってもいいかなって……
いくらスタープラチナが強いっていっても、いつ襲ってくるか分からない新手のスタンド使い相手に一人で戦うのは危険じゃない?」
ちら、とミドラーは上目遣いで反応をうかがったが、承太郎の返事は簡潔だった。
「断る」
ミドラーが承太郎の命を狙わない保証はどこにもない。
刺客が身辺をうろついているほど危険な事はないだろうし、言っている事が嘘でないとしても
こんな油断ならない女に借りなど作りたくない。
「あ〜ん、待ちなさいよッ!」
わめくミドラーを無視して、承太郎はさっさと自宅の門をくぐった。
637 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:48:19 ID:0uEHz3N6
しかしミドラーが現れたのはそれで終わりではなく、翌日から承太郎が行く先々に待ち伏せしていた。
登校途中にまたミドラーの車と出くわし「送ってあげるわ」と声をかけられ、間の悪いことにその場面を
同級生に見られて騒ぎになり、あれこれ詮索されて承太郎は朝から非常に鬱陶しい思いをした。
逃れようと保健室に入ったら、白衣を着て保険医の格好をしたミドラーが何食わぬ顔でベッドに座っていたので、
承太郎はそのまま教室へ戻ってまじめに授業を受けた。
いいかげん神経をすり減らされ、一服しようとして煙草を切らしたのに気付き、帰りがけに行きつけのさびれた煙草屋で
いつもの銘柄を求めたところ、煙草の箱を差し出したのはネイルを施した優美な手だった。
「あんまり吸うと体に悪いわよ、承太郎」
「!!」
なんと店番の老婆とミドラーが入れ替わっていた。
動揺を隠して煙草に火をつけようとした承太郎だったが、煙草を逆さにくわえていた。
(しつこいアマだ……これでは四六時中つけ狙われているも同じ事だぜ……)
しかし、相手から何もしてこない以上、スタンド使いとはいえか弱い女を力ずくで叩きのめすわけにもいかない。
承太郎は苦りきった表情をしていたが、ミドラー本人にはつけ狙っているつもりはなく、この自分を倒したほどの男を
つまらない連中に殺させるわけにはいかないというプライドで承太郎を護衛しているつもりなのであった。
「そういえば明日は日曜日よね、承太郎は何か予定あるの?」
ミドラーの言葉に、承太郎の脳裏に閃くものがあった。
ジョースター家伝統の戦法「逃げる」が通用しないと考えた承太郎は思考を切り替え、「逆に考える」ことにした。
相手が自分につきまとって来るなら、逃げるのではなくあえて相手の誘いに乗ってやり、観察して対策を立てるのだ。
少なくとも、ミドラーの言動に裏があるのかどうかぐらいははっきりさせたい。
「ああ、あるぜ……オメーと過ごす予定がな」
「えッ!!」
冷たくあしらわれると思っていただけに、あまりに意外な返事にミドラーはうろたえた。
「ゆっくり話がしたいと思っていたところだ、付き合ってもらうぜ」
「明日、あたしと……そ、それってデートってやつかしら?」
「……やれやれだぜ」
デートどころか決闘でもするようなドスの効いた口調での誘いだったが、花が咲くような満面の笑みで浮かれている
ミドラーを横目に、承太郎は煙草を靴底で踏み消した。
638 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:49:28 ID:0uEHz3N6
翌日、承太郎は約束した場所でミドラーを待っていた。
いつもと同じ一張羅の改造学ランに学帽姿だが、ただ立っているだけでも絵になっている。
高校生にはあるまじきことだが、煙草をくゆらす仕草に目を奪われる通行人の女もいた。
やがて時間ぴったりにミドラーがやって来た。スタープラチナの視力なしでも、その目立つ姿はすぐに雑踏の中に見つけられた。
「あっ、承太郎♪ 待った?」
今日のミドラーは胸元が大きく開いた鮮やかな色のニットワンピースの上に、裾が優美なフリル状になった細身のコートを羽織っていた。
街にいる普通の女の子と変わらない格好だったが、大輪の華のような美貌と抜群のスタイルは男の目を引かずにおかない。
隣にいる承太郎も長身でハンサムなだけに、二人は嫌でも目立っていた。
周りの通行人の視線を心地よさそうに受け止め、悠々と歩くミドラーの胸元でプラチナのネックレスが揺れてきらめいた。
「ねえ、これからどこに行く? 映画でも観に行こうかしら? それともお買い物?」
デート気分ではしゃぐミドラーの言う事など聞いていないように、承太郎は余所を向いている。
恋人同士だと周りに思われるのさえ嫌なようだ。
(何よ、冷たい奴……)
そこらの男ならミドラーがちょっと甘い声を出せば言いなりになったが、承太郎はあくまでも冷淡な態度を崩さない。
自分の魅力に絶対の自信を持っているミドラーだったが、承太郎にはそんな態度を取られても不快ではないのが不思議だった。
639 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:51:00 ID:0uEHz3N6
二人は人混みを離れ、港のそばの大きな公園にたどり着いた。
海風は冷たいが陽射しは暖かく、波の音やウミネコの鳴き声も心地よい。
尾行者がいないことを確認した承太郎は、万一騒ぎになっても無関係の者に被害が及ばないと判断し、
ひと気の少ないこの公園で一休みする事にした。
「ふーん、たまにはこういう所でのんびりするのもいいわね……」
ミドラーは柵に手をつき、陽光に輝く海を眺める。
潮風にワンピースの裾が揺れ、すんなりした脚が覗いた。
承太郎は隣にいるミドラーよりも港に停泊している船や、出港する大小さまざまな船に目を奪われていた。
「あんた、船が好きなの?」
「嫌いじゃねえ」
素っ気ない返事ではあったが、嘘ではないらしく、飽きずに船を見つめている。
その中には外国に行くような大きな客船もあった。
「二人で船に乗ってどこか遠くまで旅行に行けたら素敵よね」
「オメーと……誰がだ?」
「もう!」
「潜水艦にも一度だけ乗った事があるが、その時はすぐ沈められちまったからな」
「あぁ! 紅海での事ね。 承太郎、覚えててくれたのねッ」
「いちいち感動してくっつくな、ウットーしい」
ミドラーにとっては刺客として初めての敗北を喫した苦い思い出のはずだが、それさえも今となっては
出会いのきっかけとしてすり替わっている。
「あ、JOJO!」
「ほんとだ、JOJOだわ! 何してるのー?」
いきなり耳に飛び込んできた黄色い声に承太郎が振り向くと、連れ立ってどこかへ遊びに行く途中なのか、
同じクラスの女生徒たちがいた。
承太郎の大ファンである彼女らは「偶然JOJOと出くわすなんて超ラッキーだわ!」とはしゃいでいたが、
隣にいるミドラーの存在に気付き、はっとした顔になった。
「JOJO……隣の人は誰? もしかして……彼女?」
「ま、まさか! あの硬派なJOJOが彼女なんてつくるわけないわッ!」
普段から人を寄せ付けず一匹狼の承太郎が女連れという珍しいものを見れば誤解するのも無理もないことだが
勝手に騒ぎ出すクラスメイトに、承太郎は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「てめーらには関係のねーことだ」
と一喝する前に、ミドラーは承太郎の腕に抱きつき、服ごしでも分かるたわわな胸を押しつけながら
「はじめまして、わたくし、承太郎の婚約者ですの」
と、今までの蓮っ葉な言葉遣いからはかけ離れたお上品な台詞を吐いた。
640 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:52:45 ID:0uEHz3N6
瞬間、その場の時間が凍り付いた。
「あァんまりだぁぁぁ〜〜〜!!」
「あーん! JOJO様が婚約した!!」
あまりの爆弾発言に放心する者、号泣する者、ショックで失神する者と、平和な公園は混乱の坩堝となった。
……その修羅場からどうやって逃れたか、承太郎自身もよく覚えていない。
「きゃははは! あの子たち月までぶっ飛ぶほど驚いてたわね、見た?」
心底愉快そうに笑うミドラーを睨みながら、承太郎は明日学校に行きたくないという気持ちでいっぱいだった。
「テメーの歯でなくて舌の方を引き抜いておくべきだったぜ」
「ふふん」
承太郎に一泡吹かせてやり、してやったりという表情のミドラーだったが、本心ではそれが目的ではなかった。
普通の女の子として、平凡だが幸せな暮らしをしている彼女らが少し羨ましくなってあんな意地悪をしたのだった。
(承太郎と同じ学校に毎日通ってるなんて、ほんと恵まれてるわよねー……フン)
彼女らぐらいの年にはもう自分は裏の世界に足を踏み入れていた、と懐かしく思っていた時、どこからかいい匂いがしてきた。
それがオリーブオイルの香りで、いま横切ったイタリア料理店から漂ってきたものだと気付いたミドラーは急に空腹を覚え、承太郎に声をかけた。
「もうお昼なのね、承太郎、何食べたい? 中華? フランス料理? 奢るわよ」
「勝手にしな」
「何でもイイの? じゃあケーキバイキングにしようかしら、女の子に人気で行列ができる店知ってるのよ」
「…………」
結局、数ある有名店の中から承太郎が選んだのは懐石料理だった。
料金以下の食事を出すレストランには代金を払わない事もしょっちゅうの承太郎だったが、今回は味に満足したようできっちり支払った。
ミドラーが「はい、あーん♪」と箸を差し出してくるのにはさすがに閉口したが。
その後も承太郎をあちこち連れ回し、締めくくりにホテルのラウンジで優雅にお茶を飲みながら、ミドラーは顔を寄せて囁いてきた。
「ねえ承太郎……ここに部屋をとってるんだけど、よかったらこの後来ない?」
「部屋だと? お前ここに滞在してるのか」
「そうよ、でも同じところじゃ飽きるから明後日には別のホテルに移ろうと思ってるの」
全く優雅なご身分だが、居場所を転々と変えるのは予期せぬ襲撃を防ぐための対策でもあった。
「いいでしょう?」
ミドラーが誘ったのはもちろん下心からだったが、相手が身持ちの堅そうな男なので、明日の朝まで、とはあえて言わなかった。
「…………」
毒を食らわば皿までだと思い、承太郎は黙って席を立ち、ミドラーについて行った。
641 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:54:14 ID:0uEHz3N6
ミドラーが滞在している部屋は、夜景が一望できる高級スイートだった。
部屋に入る時、承太郎は一応用心して身構えていたが、罠らしい気配は何もない。
もっともきょう一日の間に攻撃のチャンスは何度もあったのに、襲われる事は結局なかったのだからミドラーに敵意がない事はほぼ確定したと言っていいだろう。
その時、するっ、と衣擦れの音がした。
なんとミドラーは承太郎が同じ部屋にいるにも関わらず、平気で服を脱ぎだしたのだ。
コートを脱ぐだけならまだしも、その下の衣服まで。
(なんだこの女、服なんか脱ぎだして……露出癖でもあるのか?)
一枚ずつ脱いでいき、ついに紐のような下着に手がかかり最後の一枚が床に落ちた。
「あたし、汗かいちゃったからシャワー浴びてくるわね。 喉がかわいてたら勝手にルームサービスで何か頼んでいいから」
それだけ言って、ミドラーの裸の後ろ姿がバスルームに消えた後には、脱ぎ捨てられた衣服だけが山になっていた。
その頂上のまだ体温の残る小さな下着には目もくれず、承太郎はソファに腰掛けた。
「承太郎、いっしょに浴びる?」
「!! 出てくるなーッ一人で浴びてろーッ!!」
ドアから顔だけのぞかせたミドラーに、承太郎が一喝するとくすくす笑いながらまたバスルームに引っ込んだ。
・
・
・
「ああ、さっぱりしたわ」
やがてシャワーから上がってきたミドラーは、備え付けのバスローブなどは羽織っておらず、素肌にバスタオル一枚巻いただけの格好だった。
ほかほかと上気した肌からはシャボンの香りが匂い立つようで、隠しきれないほどの量感のバストがタオルの下できゅうくつそうに押さえつけられていた。
すっかりくつろいだ無防備な姿は、とても凄腕の女刺客とは思えない。
ソファに座って煙草をくゆらせている承太郎の腿を跨ぐようにして、バスタオル一枚の肢体が覆い被さってくる。
室内でもとらない学帽の鍔を少し持ち上げて、ミドラーは承太郎の肉厚な唇から煙草を奪い、代わりに自分の唇を合わせた。
ちょっとした悪戯のつもりで、すぐ離れるはずだったが、意外にも承太郎はミドラーの腰に手を回し、より深く重なるよう自分からも顔を寄せてきた。
(うわぁ、やる気なのね……やっぱり男だわねぇ)
相手がその気になってくれて嬉しく、ミドラーが舌を差し出すと、向こうからも熱い舌を絡ませてきた。
煙草の味がしたが嫌ではなく、ミドラーはその甘美な苦味さえもうっとりと味わった。
こんなに情熱的なキスを交わしたのはどのくらい前だったろうか。
短いがこの上なく充実したひと時に、いつのまにかバスタオルの前がはだけていた事にも気付かなかった。
未練げに唇を離したミドラーは甘い息を弾ませながら、承太郎に言った。
「あんた巧いのね……全然女の子に興味ないように思えたけど、意外にやる事やってんのね」
正直な感想だった。 もし経験がないならそれをいい事に弄んでやろうと思っていたが、これでは自分の方が翻弄されてしまいそうだ。
でも、たまには一方的に責められたりするのもいいかもしれない。
642 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:55:25 ID:0uEHz3N6
「まさか、門限があるからもう帰るなんて言わないわよね? これからもっと楽しい事をするんだから、ふふ」
これから承太郎と過ごす時間を想像し、ミドラーは艶めかしい仕草で舌なめずりした。
もうすっかりやる気のミドラーを前にして、どう扱っていいものかと承太郎は呆れたような表情になった。
「やれやれ、風邪引くぜ」
「いいわよ、あんたにすぐあったかくしてもらうから」
実際、ミドラーの体は湯冷めして冷えるどころか火照って仕方ないぐらいだった。
その熱が衣服越しに分かり、承太郎は嘆息した。
(さてと……きもっ玉ってやつをすえてかからねーといけねーようだな)
正直な話、承太郎はミドラーが自分を罠にはめようと近づいてきたならただブチのめせば済む事で、まだ分かりやすいと思っていた。
しかし、今日一日行動を共にして彼女の好意に裏がないと分かり、かえって扱いに困っていたのだった。
(わけのわからん騒がしい女だが……救いようのねー悪党というわけでもなさそうだ)
今のミドラーは情欲に潤んだ眼でこちらを見つめ、唇は先程のキスの余韻でつやつやと濡れている。
化粧を落とすと少女のようなあどけなさの残る顔になるのを、承太郎は間近で見て初めて気付いた。
はだけたタオルの間からは深い谷間と淡い陰りが見え、桜色に上気した裸身は眩しいばかりだ。
並の男なら思考停止しかねない媚態だったが、承太郎はなお冷静さを保っていた。
こんな時ポルナレフなら「男は度胸! 何でも試してみるのさーッ」とあからさまな罠と分かっていてもホイホイ誘いに乗るのだろうが。
「ウブな学生をあまりからかうもんじゃあねーぜ」
ふてぶてしい面構えでそんな事を言うのがミドラーにはおかしく、逆にもっとからかってやりたくなった。
第一、こんな土壇場で獲物を逃がすなど女としてのプライドに関わる。
「ふん、それじゃあイヤでもその気にさせてやろうじゃない」
言うやいなやミドラーは再び唇を合わせ、発情した猫のようにすりすりと柔らかい身体を擦り付けてきた。
頭の芯が蕩けそうな甘い香りが髪や肌から立ち上るのが至近距離で感じられた。
承太郎が動かないのをいいことにミドラーは勝手にシャツを捲り上げ、筋肉の線に沿って細い指を這わせる。
身体のあちこちをくすぐりながら、指が艶めかしく下降していく。
しかし指が下半身にたどり着いてもすぐにベルトを外すような事はせず、ズボンの布地越しに優しく撫でるだけだった。
初めは赤ん坊をあやすような手つきが、徐々に形を成すものの輪郭をなぞる淫らなものに変化していく。
この絶妙な愛撫に、承太郎は恍惚とするどころか不快そうに眉をひそめただけだった。
ジョースター家因縁の宿敵DIOを倒し、熱砂の国から日本へ帰国した承太郎を待っていたのは、すっかり元気を取り戻した母と
50日余りの休学のせいでギリギリの出席日数だった。
あの旅で失ったものはあまりにも多かったが、承太郎は再び平穏な生活へと戻った……はずだった。
出席日数を補うため一応まじめに授業を受け、下校する途中の承太郎のそばに黒塗りの外車が近づいてきた。
承太郎に並んで徐行する車のウィンドウが開き、運転席から女が顔を出した。
どこの国のものともつかないエキゾチックな雰囲気を醸す美貌を、艶っぽいメイクが彩っている。
ウェーブのかかった黒髪をポニーテールに結い、ゆったりした衣服の上からでもわかるほど胸が張り出していた。
何者かと警戒する承太郎に、女は親しげに声をかけてきた。
「久しぶりね承太郎、あたしよ」
「……? テメーなんか知らん」
承太郎は一瞬不審そうな顔をしただけで、さっさと歩きだしてしまった。
その反応に、車のドアを蹴り開けて女が飛び出してきた。
「待てーーーッ! あたしだよッ!『女教皇』のミドラーッ! あの時はよくもやってくれたわねぇ! 承太郎!」
「!! ミドラーだと……? テメーだったのか」
その名を聞いて、承太郎はようやく思い当たった。
DIOを倒す旅の途中、海中で襲ってきて承太郎に一杯食わせたが破れ去ったスタンド使いの女。
ジョースター一行は当然知らぬ事だが、あの後ミドラーは這々の体でスタンド使いの闇医者に治療を受け、
無惨に砕かれた歯と美貌は元通りになった。
その代わり治療費をずいぶんボッたくられたものだが、もちろんミドラーはそんな事が言いたくてわざわざ現れたのではない。
「わざわざお礼参りに日本まで追いかけてくるたあ、歯をへし折られただけじゃあ懲りねーとみえるな……」
承太郎の傍らに『星の白金』が現れた。 相手が妙な動きをすれば即座にラッシュを繰り出せるよう、闘志満々で拳を固めている。
しかしミドラーはスタンドを出す事はしなかった。 呆れたように両掌を上に向ける。
636 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:47:03 ID:0uEHz3N6
「早とちりしないでよ、あたしはあんたに『忠告』しに来ただけよ」
「『忠告』だと?」
「あんた、DIO様だけでなくスタンド使いの刺客を山ほど倒してきたでしょ?
そいつらのほとんどは一匹狼を気取ってたし、もともと金目当てだったんだから復讐に来る根性なんてありゃしないわ。
でも、短い間に何人も凄腕の殺し屋を再起不能にしたあんたやポルナレフは、すでに裏社会のスタンド使いの間じゃ
けっこうな有名人なのよ……」
「……やれやれだぜ」
承太郎はミドラーの言いたい事を察した。
DIOを倒しはしたがそれで終わりではなく、自分の意思に関わらず厄介な事になるというわけだ。
「ポルナレフの方は天涯孤独だからいいとしても、あんたには家族がいるでしょ、SPW財団がバックについてるとはいえ、
もし人質にとられでもしたら面倒な事になるかもね」
ミドラーの人質という言葉に、承太郎の目元が険しくなった。
あの旅でも、卑劣な刺客に仲間や無関係の者を人質にされたことはあるが、承太郎が気を許せる数少ない身内である
ホリィにもし手を出されたら、そいつを骨も残らないほどにブチのめすだろう。
「それで、おめーは何が目的だ」
「え?」
「ただそれだけの事を言うためにわざわざご親切にやって来たとは思えねえ、何のつもりだ」
承太郎に核心を突かれ、ミドラーはいきなり両手を擦り合わせてもじもじし始めた。
さっきまでの嬌慢な表情は消え失せ、ほんのり顔を赤らめてうつむいている。
「だ、だから……あたししばらく日本で骨休めするから、その間あんたのボディガードになってやってもいいかなって……
いくらスタープラチナが強いっていっても、いつ襲ってくるか分からない新手のスタンド使い相手に一人で戦うのは危険じゃない?」
ちら、とミドラーは上目遣いで反応をうかがったが、承太郎の返事は簡潔だった。
「断る」
ミドラーが承太郎の命を狙わない保証はどこにもない。
刺客が身辺をうろついているほど危険な事はないだろうし、言っている事が嘘でないとしても
こんな油断ならない女に借りなど作りたくない。
「あ〜ん、待ちなさいよッ!」
わめくミドラーを無視して、承太郎はさっさと自宅の門をくぐった。
637 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:48:19 ID:0uEHz3N6
しかしミドラーが現れたのはそれで終わりではなく、翌日から承太郎が行く先々に待ち伏せしていた。
登校途中にまたミドラーの車と出くわし「送ってあげるわ」と声をかけられ、間の悪いことにその場面を
同級生に見られて騒ぎになり、あれこれ詮索されて承太郎は朝から非常に鬱陶しい思いをした。
逃れようと保健室に入ったら、白衣を着て保険医の格好をしたミドラーが何食わぬ顔でベッドに座っていたので、
承太郎はそのまま教室へ戻ってまじめに授業を受けた。
いいかげん神経をすり減らされ、一服しようとして煙草を切らしたのに気付き、帰りがけに行きつけのさびれた煙草屋で
いつもの銘柄を求めたところ、煙草の箱を差し出したのはネイルを施した優美な手だった。
「あんまり吸うと体に悪いわよ、承太郎」
「!!」
なんと店番の老婆とミドラーが入れ替わっていた。
動揺を隠して煙草に火をつけようとした承太郎だったが、煙草を逆さにくわえていた。
(しつこいアマだ……これでは四六時中つけ狙われているも同じ事だぜ……)
しかし、相手から何もしてこない以上、スタンド使いとはいえか弱い女を力ずくで叩きのめすわけにもいかない。
承太郎は苦りきった表情をしていたが、ミドラー本人にはつけ狙っているつもりはなく、この自分を倒したほどの男を
つまらない連中に殺させるわけにはいかないというプライドで承太郎を護衛しているつもりなのであった。
「そういえば明日は日曜日よね、承太郎は何か予定あるの?」
ミドラーの言葉に、承太郎の脳裏に閃くものがあった。
ジョースター家伝統の戦法「逃げる」が通用しないと考えた承太郎は思考を切り替え、「逆に考える」ことにした。
相手が自分につきまとって来るなら、逃げるのではなくあえて相手の誘いに乗ってやり、観察して対策を立てるのだ。
少なくとも、ミドラーの言動に裏があるのかどうかぐらいははっきりさせたい。
「ああ、あるぜ……オメーと過ごす予定がな」
「えッ!!」
冷たくあしらわれると思っていただけに、あまりに意外な返事にミドラーはうろたえた。
「ゆっくり話がしたいと思っていたところだ、付き合ってもらうぜ」
「明日、あたしと……そ、それってデートってやつかしら?」
「……やれやれだぜ」
デートどころか決闘でもするようなドスの効いた口調での誘いだったが、花が咲くような満面の笑みで浮かれている
ミドラーを横目に、承太郎は煙草を靴底で踏み消した。
638 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:49:28 ID:0uEHz3N6
翌日、承太郎は約束した場所でミドラーを待っていた。
いつもと同じ一張羅の改造学ランに学帽姿だが、ただ立っているだけでも絵になっている。
高校生にはあるまじきことだが、煙草をくゆらす仕草に目を奪われる通行人の女もいた。
やがて時間ぴったりにミドラーがやって来た。スタープラチナの視力なしでも、その目立つ姿はすぐに雑踏の中に見つけられた。
「あっ、承太郎♪ 待った?」
今日のミドラーは胸元が大きく開いた鮮やかな色のニットワンピースの上に、裾が優美なフリル状になった細身のコートを羽織っていた。
街にいる普通の女の子と変わらない格好だったが、大輪の華のような美貌と抜群のスタイルは男の目を引かずにおかない。
隣にいる承太郎も長身でハンサムなだけに、二人は嫌でも目立っていた。
周りの通行人の視線を心地よさそうに受け止め、悠々と歩くミドラーの胸元でプラチナのネックレスが揺れてきらめいた。
「ねえ、これからどこに行く? 映画でも観に行こうかしら? それともお買い物?」
デート気分ではしゃぐミドラーの言う事など聞いていないように、承太郎は余所を向いている。
恋人同士だと周りに思われるのさえ嫌なようだ。
(何よ、冷たい奴……)
そこらの男ならミドラーがちょっと甘い声を出せば言いなりになったが、承太郎はあくまでも冷淡な態度を崩さない。
自分の魅力に絶対の自信を持っているミドラーだったが、承太郎にはそんな態度を取られても不快ではないのが不思議だった。
639 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:51:00 ID:0uEHz3N6
二人は人混みを離れ、港のそばの大きな公園にたどり着いた。
海風は冷たいが陽射しは暖かく、波の音やウミネコの鳴き声も心地よい。
尾行者がいないことを確認した承太郎は、万一騒ぎになっても無関係の者に被害が及ばないと判断し、
ひと気の少ないこの公園で一休みする事にした。
「ふーん、たまにはこういう所でのんびりするのもいいわね……」
ミドラーは柵に手をつき、陽光に輝く海を眺める。
潮風にワンピースの裾が揺れ、すんなりした脚が覗いた。
承太郎は隣にいるミドラーよりも港に停泊している船や、出港する大小さまざまな船に目を奪われていた。
「あんた、船が好きなの?」
「嫌いじゃねえ」
素っ気ない返事ではあったが、嘘ではないらしく、飽きずに船を見つめている。
その中には外国に行くような大きな客船もあった。
「二人で船に乗ってどこか遠くまで旅行に行けたら素敵よね」
「オメーと……誰がだ?」
「もう!」
「潜水艦にも一度だけ乗った事があるが、その時はすぐ沈められちまったからな」
「あぁ! 紅海での事ね。 承太郎、覚えててくれたのねッ」
「いちいち感動してくっつくな、ウットーしい」
ミドラーにとっては刺客として初めての敗北を喫した苦い思い出のはずだが、それさえも今となっては
出会いのきっかけとしてすり替わっている。
「あ、JOJO!」
「ほんとだ、JOJOだわ! 何してるのー?」
いきなり耳に飛び込んできた黄色い声に承太郎が振り向くと、連れ立ってどこかへ遊びに行く途中なのか、
同じクラスの女生徒たちがいた。
承太郎の大ファンである彼女らは「偶然JOJOと出くわすなんて超ラッキーだわ!」とはしゃいでいたが、
隣にいるミドラーの存在に気付き、はっとした顔になった。
「JOJO……隣の人は誰? もしかして……彼女?」
「ま、まさか! あの硬派なJOJOが彼女なんてつくるわけないわッ!」
普段から人を寄せ付けず一匹狼の承太郎が女連れという珍しいものを見れば誤解するのも無理もないことだが
勝手に騒ぎ出すクラスメイトに、承太郎は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「てめーらには関係のねーことだ」
と一喝する前に、ミドラーは承太郎の腕に抱きつき、服ごしでも分かるたわわな胸を押しつけながら
「はじめまして、わたくし、承太郎の婚約者ですの」
と、今までの蓮っ葉な言葉遣いからはかけ離れたお上品な台詞を吐いた。
瞬間、その場の時間が凍り付いた。
「あァんまりだぁぁぁ〜〜〜!!」
「あーん! JOJO様が婚約した!!」
あまりの爆弾発言に放心する者、号泣する者、ショックで失神する者と、平和な公園は混乱の坩堝となった。
……その修羅場からどうやって逃れたか、承太郎自身もよく覚えていない。
「きゃははは! あの子たち月までぶっ飛ぶほど驚いてたわね、見た?」
心底愉快そうに笑うミドラーを睨みながら、承太郎は明日学校に行きたくないという気持ちでいっぱいだった。
「テメーの歯でなくて舌の方を引き抜いておくべきだったぜ」
「ふふん」
承太郎に一泡吹かせてやり、してやったりという表情のミドラーだったが、本心ではそれが目的ではなかった。
普通の女の子として、平凡だが幸せな暮らしをしている彼女らが少し羨ましくなってあんな意地悪をしたのだった。
(承太郎と同じ学校に毎日通ってるなんて、ほんと恵まれてるわよねー……フン)
彼女らぐらいの年にはもう自分は裏の世界に足を踏み入れていた、と懐かしく思っていた時、どこからかいい匂いがしてきた。
それがオリーブオイルの香りで、いま横切ったイタリア料理店から漂ってきたものだと気付いたミドラーは急に空腹を覚え、承太郎に声をかけた。
「もうお昼なのね、承太郎、何食べたい? 中華? フランス料理? 奢るわよ」
「勝手にしな」
「何でもイイの? じゃあケーキバイキングにしようかしら、女の子に人気で行列ができる店知ってるのよ」
「…………」
結局、数ある有名店の中から承太郎が選んだのは懐石料理だった。
料金以下の食事を出すレストランには代金を払わない事もしょっちゅうの承太郎だったが、今回は味に満足したようできっちり支払った。
ミドラーが「はい、あーん♪」と箸を差し出してくるのにはさすがに閉口したが。
その後も承太郎をあちこち連れ回し、締めくくりにホテルのラウンジで優雅にお茶を飲みながら、ミドラーは顔を寄せて囁いてきた。
「ねえ承太郎……ここに部屋をとってるんだけど、よかったらこの後来ない?」
「部屋だと? お前ここに滞在してるのか」
「そうよ、でも同じところじゃ飽きるから明後日には別のホテルに移ろうと思ってるの」
全く優雅なご身分だが、居場所を転々と変えるのは予期せぬ襲撃を防ぐための対策でもあった。
「いいでしょう?」
ミドラーが誘ったのはもちろん下心からだったが、相手が身持ちの堅そうな男なので、明日の朝まで、とはあえて言わなかった。
「…………」
毒を食らわば皿までだと思い、承太郎は黙って席を立ち、ミドラーについて行った。
641 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:54:14 ID:0uEHz3N6
ミドラーが滞在している部屋は、夜景が一望できる高級スイートだった。
部屋に入る時、承太郎は一応用心して身構えていたが、罠らしい気配は何もない。
もっともきょう一日の間に攻撃のチャンスは何度もあったのに、襲われる事は結局なかったのだからミドラーに敵意がない事はほぼ確定したと言っていいだろう。
その時、するっ、と衣擦れの音がした。
なんとミドラーは承太郎が同じ部屋にいるにも関わらず、平気で服を脱ぎだしたのだ。
コートを脱ぐだけならまだしも、その下の衣服まで。
(なんだこの女、服なんか脱ぎだして……露出癖でもあるのか?)
一枚ずつ脱いでいき、ついに紐のような下着に手がかかり最後の一枚が床に落ちた。
「あたし、汗かいちゃったからシャワー浴びてくるわね。 喉がかわいてたら勝手にルームサービスで何か頼んでいいから」
それだけ言って、ミドラーの裸の後ろ姿がバスルームに消えた後には、脱ぎ捨てられた衣服だけが山になっていた。
その頂上のまだ体温の残る小さな下着には目もくれず、承太郎はソファに腰掛けた。
「承太郎、いっしょに浴びる?」
「!! 出てくるなーッ一人で浴びてろーッ!!」
ドアから顔だけのぞかせたミドラーに、承太郎が一喝するとくすくす笑いながらまたバスルームに引っ込んだ。
・
・
・
「ああ、さっぱりしたわ」
やがてシャワーから上がってきたミドラーは、備え付けのバスローブなどは羽織っておらず、素肌にバスタオル一枚巻いただけの格好だった。
ほかほかと上気した肌からはシャボンの香りが匂い立つようで、隠しきれないほどの量感のバストがタオルの下できゅうくつそうに押さえつけられていた。
すっかりくつろいだ無防備な姿は、とても凄腕の女刺客とは思えない。
ソファに座って煙草をくゆらせている承太郎の腿を跨ぐようにして、バスタオル一枚の肢体が覆い被さってくる。
室内でもとらない学帽の鍔を少し持ち上げて、ミドラーは承太郎の肉厚な唇から煙草を奪い、代わりに自分の唇を合わせた。
ちょっとした悪戯のつもりで、すぐ離れるはずだったが、意外にも承太郎はミドラーの腰に手を回し、より深く重なるよう自分からも顔を寄せてきた。
(うわぁ、やる気なのね……やっぱり男だわねぇ)
相手がその気になってくれて嬉しく、ミドラーが舌を差し出すと、向こうからも熱い舌を絡ませてきた。
煙草の味がしたが嫌ではなく、ミドラーはその甘美な苦味さえもうっとりと味わった。
こんなに情熱的なキスを交わしたのはどのくらい前だったろうか。
短いがこの上なく充実したひと時に、いつのまにかバスタオルの前がはだけていた事にも気付かなかった。
未練げに唇を離したミドラーは甘い息を弾ませながら、承太郎に言った。
「あんた巧いのね……全然女の子に興味ないように思えたけど、意外にやる事やってんのね」
正直な感想だった。 もし経験がないならそれをいい事に弄んでやろうと思っていたが、これでは自分の方が翻弄されてしまいそうだ。
でも、たまには一方的に責められたりするのもいいかもしれない。
642 :承太郎×ミドラー:2010/12/19(日) 20:55:25 ID:0uEHz3N6
「まさか、門限があるからもう帰るなんて言わないわよね? これからもっと楽しい事をするんだから、ふふ」
これから承太郎と過ごす時間を想像し、ミドラーは艶めかしい仕草で舌なめずりした。
もうすっかりやる気のミドラーを前にして、どう扱っていいものかと承太郎は呆れたような表情になった。
「やれやれ、風邪引くぜ」
「いいわよ、あんたにすぐあったかくしてもらうから」
実際、ミドラーの体は湯冷めして冷えるどころか火照って仕方ないぐらいだった。
その熱が衣服越しに分かり、承太郎は嘆息した。
(さてと……きもっ玉ってやつをすえてかからねーといけねーようだな)
正直な話、承太郎はミドラーが自分を罠にはめようと近づいてきたならただブチのめせば済む事で、まだ分かりやすいと思っていた。
しかし、今日一日行動を共にして彼女の好意に裏がないと分かり、かえって扱いに困っていたのだった。
(わけのわからん騒がしい女だが……救いようのねー悪党というわけでもなさそうだ)
今のミドラーは情欲に潤んだ眼でこちらを見つめ、唇は先程のキスの余韻でつやつやと濡れている。
化粧を落とすと少女のようなあどけなさの残る顔になるのを、承太郎は間近で見て初めて気付いた。
はだけたタオルの間からは深い谷間と淡い陰りが見え、桜色に上気した裸身は眩しいばかりだ。
並の男なら思考停止しかねない媚態だったが、承太郎はなお冷静さを保っていた。
こんな時ポルナレフなら「男は度胸! 何でも試してみるのさーッ」とあからさまな罠と分かっていてもホイホイ誘いに乗るのだろうが。
「ウブな学生をあまりからかうもんじゃあねーぜ」
ふてぶてしい面構えでそんな事を言うのがミドラーにはおかしく、逆にもっとからかってやりたくなった。
第一、こんな土壇場で獲物を逃がすなど女としてのプライドに関わる。
「ふん、それじゃあイヤでもその気にさせてやろうじゃない」
言うやいなやミドラーは再び唇を合わせ、発情した猫のようにすりすりと柔らかい身体を擦り付けてきた。
頭の芯が蕩けそうな甘い香りが髪や肌から立ち上るのが至近距離で感じられた。
承太郎が動かないのをいいことにミドラーは勝手にシャツを捲り上げ、筋肉の線に沿って細い指を這わせる。
身体のあちこちをくすぐりながら、指が艶めかしく下降していく。
しかし指が下半身にたどり着いてもすぐにベルトを外すような事はせず、ズボンの布地越しに優しく撫でるだけだった。
初めは赤ん坊をあやすような手つきが、徐々に形を成すものの輪郭をなぞる淫らなものに変化していく。
この絶妙な愛撫に、承太郎は恍惚とするどころか不快そうに眉をひそめただけだった。
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