あは。いっぱいします?
Part4大晦日と元日とのんびりして貰って。帰り際に親父と婆ちゃんは彼女にお年玉渡して。
部屋帰って二人になった時に「お年玉もらったの初めてなんです。」興奮気味で早口になってて。
喜びように驚いて用意しとけば良かった何て事を言ったら「それ変ですよぉ。」笑われて。
「カレシから貰うのは変です。」言い切られると渡せる感じでもなくて。親父達に嫉妬した。
その中身確認して「…わ。こんなにいいんですか?」かなり驚いて、困ってもいて。
親父とおかん連名と、婆ちゃんから一万円ずつで二万円。自分のお金として持つのは初めてだと。
何か欲しい物あったら買っちゃえば?そう言って連れ出したけど、行ったのは文房具屋と銀行。
印鑑買って通帳とカード作って「オッケーです。」何がオッケーなのか解らなくて聞いたら、
高校入ったらバイトするから必要になるし「アルバイトしてた方が就職有利みたいです。」
先見すぎと思ったけど大真面目に考えていて。俺にとっては部活やって遊ぶ時間だった高校生活は、
彼女にとっては就職までの足掛かりになる期間という位置づけ。歴然たる意識の差。
姿形は普通よりかなり小柄な中学生なのに、思考は二十歳過ぎた社会人の俺よりもかなり大人で。
ギャップ激しくて。どう接してればいいのか解らなくなりかけて、時々悩んだ時期だった。
お年玉は何に使うでも無く「無くなる予定が無いお金です。」通帳眺めて嬉しそうにしてて。
俺が十五の正月に貰ったお年玉の使い道を思い出すと、あまりに子供っぽくて恥ずかしさ感じた。
ふと気になって「入試大丈夫?」言ってみたら「ちゃんとやってますよ。」自信ありげで。
「心配しなくていい?」「ですよ。」「ホントに?」「って思ってないと。」やっと少し本音で。
選んだ学校はまず落ちないレベル。でも周りは塾とかでどれだけ伸びてるか解らないのは、不安。
俺や親父達やお婆さんが進学勧めて。進学決めたら一緒に行こうと喜んでくれた友達もいて。
「落ちれないですね。みんな期待してくれてるし。」重荷にならなければいいなと思ったけど、
「制服かわいいし。」付け足して。「まさかそれで?」「あは。ちょっと。ちょっとですよ。」
自分から頭持ってきて。手、乗っけて。そういうのもアリかなと、余分に撫でた。
二月の半ば過ぎに入試。入試前には同じ学校受ける友達を市営に呼んで一緒に勉強して。
彼女の学校での事は最初に聞いた時に微妙な雰囲気になって以来聞けなかったけど、
ちゃんと仲いい友達がいて楽しく過ごせてるってのは感じられて。それには安心して。
でも集まると話し始めるのは仕方の無い事らしく。身が入ってる様子は無いとお婆さんは笑って、
「なるようにしかならんからね。」気負ってるよりは安心してられると。俺もそう思う事にした。
彼女は「見たいって言うから。」と俺の部屋に友達連れて来たりもして。
後で「大きいー。」「怖くない?」その二つは必ず言われると笑って。だろうなと納得した。
入試の前日に「入学祝い何がいい?」フライングして聞いたら「制服です。」って答えで。
その時着てた中学の制服ちょっと持って「これ、着れなくなるし。」少し寂しげで。
お母さんに買って貰った最後の服。思い入れはあっても中学出て着続ける事は出来ない。
「高いけど、いいですか?」「いいよ。」彼女から買って欲しい物の指定があったのはそれが最初。
制服ならサイズ合わせだけだから選ばなくていいのに少し安心した。
合格発表当日。たまたま休みが合ったから、一緒に見に行く事になって。彼女も友達も一緒で。
女の子四人連れて徒歩で高校まで。殆ど引率。みんな全然緊張感無くて。拍子抜けして。
理由聞いたら「今年三人しか落ちないから。」だから大丈夫。でも逆に残酷な状況でもあって。
掲示板に結果張り出されて、すぐ彼女と友達三人とは番号見つけて喜び合ってたんだけど、
大泣きしてる男子がいて。仕方の無い事だけど、気の毒に。そう思ってたら急に振り向いて。
「生活保護!学費どうすんだよ!就職じゃねぇのかよ!迷惑なんだよ!!」一瞬で周囲の空気凍って。
こっち突っ込んできて。先生とか周囲の男子が止めに入って。それ後目に、足早にその場離れて。
彼女に視線落としたら、俺の腕引いて「慣れてます。」かける言葉無くて。軽く肩抱いて。
彼女が動かないから俺も動けないでいると、彼女の友達が「はい、交代。」と、手挙げて。
「ダメ。」「あ、ケチ。」「私の。」「はいはいそーだよねー。」笑わせてくれて。
やっとまた喜び合えて。合格と、良い友達いてくれた事。二重に嬉しかった。
あの時彼女に罵声浴びせた男子は、学校でも同じ感じで、彼女が進学取り止めれば、
自分が繰り上がるんじゃないかと思って、付け回して怒鳴りつけて何て事もあったらしい。
「親いねぇから怖くねぇ。」と放言してたとも。でも彼女は俺に何も言わなかった。
俺はそれを、一緒に合格発表見に行った中の一人と携帯で話して知った。
ただ周囲もその男子の行動を異常と見て彼女と二人にするような事は無かったし、
教師も事態を重く見て男子呼び出して指導したりと言う事もあったけどおさまらないで、
「すっごい嫌味なハゲ」の先生がHRの時に担任でもないのに来てその男子立たせて、
「繰り上がりなんか無いよ。バカがみっともない逆恨みすんな。」直接言ったそうで。
「惨いけど、何かスッキリしました。」それ以来は何もしなくなったと、笑って。
「黙って我慢するからチョーシ乗らせちゃうんですよ。」我慢強すぎるとも言って。
彼女の「慣れてます」って言葉と、そんなが事あっても俺には何も言わなかった事。
やっぱり嫌な思いして、それ押し殺してた事もあったのかなと考えると、やっぱり情けなくて。
何もせずにいられなくて、彼女帰ってきたらすぐ制服買いに連れて行って。
採寸して貰って一揃い。試着してはしゃぐ姿見て嬉しくて。ネクタイの結び方知らなくて、
部屋帰ってから教えながら「他に何かない?」「他に?」「進学祝い。」彼女、手止めて。
意外な顔して振り向いて「なんでもいいんですか?」「いいよー。」軽い気持ちで言ったら、
「んじゃ、高校入ったらもう少しカノジョ扱いしてください。」何かやたらと困る事言われて。
友達に「三年も付き合って何も無いのはゼッタイに変。」と言われまくったらしくて。
俺に反論とかする暇も与えずぺこ、と頭下げて「お願いします。」何よりも困る事柄で。
「…そのうち。」曖昧な言葉返したけど彼女も突っ込んでは来ずに。照れ笑いしてた。
中学の卒業式には、俺も出席。お婆さんに「あんたには来てもらわんと。」そう強く言われて。
同僚に勤務日変わって貰って出席決定。前日から自分の時より緊張して。変な気分だった。
式は淡々と進行して。解散した後も写真撮ったりビデオ回したりで明るくて。イベント後な感じ。
俺も彼女とお婆さんと一緒に写真撮って貰う事になって。カメラ持ってた彼女の友達がノリノリで、
「もっとくっついて下さいー。」俺に指示出して。彼女も寄ってきて、位置的に肩に手乗っけて。
「顔遠いから頭下げて下さいー。」俺が少し屈んだら彼女に向かって「ほっぺにキスしてー。」
ゆっくり俺の方見る彼女がいて。しないしない、と手振ったら「後でこっそりだよねー。」
一斉にひやかされて。照れる彼女の顔、手で包んで隠したら「やさしー。」困った状況だった。
いつもそうなのか、式の後でハイだったからなのか。彼女の友達、みんなうるさいくらい賑やかで。
彼女は俺とセットでいいオモチャにされてたというか。たくさん笑わせて貰って。
湿っぽさを感じる事は全く無く。卒業式も今はこんな感じなのかなと。ちょっとギャップを感じて。
普段は殆ど感じなかった年齢差だけど、何となく気付かされた六歳差。まだ大きな差だった。
帰る雰囲気になった時はもう四時半回ってて、こんな日くらいはと夕食誘って回転寿司屋行って。
ワサビがダメな彼女、さび抜き注文するの俺に頼んで。俺から店員さんに声かけて頼んで。
お婆さんがそれ見て「世話焼きやなぁ。」彼女にも「甘えきってからに。」嬉しげに笑って。
世話になりっぱなしで何とか中学出せたと頭下げられて。そんな事されると何か慌てて。
「俺もお世話になってますから。」「なんちゃ釣り合い取れとらせん。」断じられて。
お婆さんは彼女の髪撫でながら「あんたもチューくらいしたげんと。」冗談で言ったんだろうけど、
彼女はワンテンポ置いてから「う、うん。」真面目な顔で返事して。その時はそれですんだけど、
帰って二人になった時。彼女が俺の肩つついて「あは。教えてください。」ちょっと顔赤くして。
「教えてって。」「した事無いもん。」「いずれね。」余裕見せたつもりだったけど、
結構強く、肩叩かれた。明らかな抗議。不満げな表情。それ消すためにずいぶん長く、撫でた。
高校の入学式当日。俺は仕事。しかも夜勤明け。彼女は残念がったけど出席出来なかった。
色々あって家帰れたのが一時。夕方六時頃に彼女が顔触ってるのに気付いて、目を覚ました。
ヒゲ触ってる手止めさせたら「おはようございます。」「おはよ。」眠気はまだあったけど起きて。
彼女はまだ制服着たまま。きちんと着た姿は初めて。突然大人びた感じがして、違和感すら感じた。
彼女がかわいいと言った制服は、公立校にしては派手目な色使いで。田舎では珍しかった。
紺ブレザーと赤いタータンチェックのスカート。濃い赤地に細く斜めラインのネクタイ。
中学よりは校則緩くて髪結ばなくて良かったから、肩胛骨までの髪はおろしたままで。
見せたかったから着替えなかったと言って「今日から高校生です。」「うん、おめでとー。」
言わんとする事は解ってたけど気付いてないフリして。その時は彼女も笑っただけで。
夕食食べさせて貰いに市営の方行って。彼女は友達が多いクラス入れて安心だと。そんな話して。
保護の事は合格発表の時の事で知れ渡ってたけど、興味はそこには無く。他校から来た生徒は、
「あの人って何?」それ取っ掛かりに会話始めようとする事が多かったらしく。
「めんどくさいからカレシって言っちゃいましたからね。」事後承諾求められて、頷いて。
高校生と社会人。でかい壁。疑う材料はいくらでもある。面倒な事にならなきゃいいなとは思いつつ、
彼女が友達作れるならいいのかなと。そんな風に考える事にした。
中学卒業と高校入学。式だの手続きだので煩雑な毎日過ごしてたお婆さんは疲れ気味で早々に就寝。
彼女は着替えて俺の部屋来て。床で寝かかってた俺の顔触って起こしてくれて。
「あは。今日からですよ。」「…うん。」「お願いします。」悪戯っぽい顔した彼女がいて。
「何を?」「カノジョ扱い。」難しい要求で。それまでカノジョ扱いしてなかったかというと、
俺は全くそんなつもりはなかった。けど彼女はそうは感じてなかったらしく。足りないモノがあると。
彼女はじー…っと俺の目を見たまま。真っ直ぐすぎて、引きこまれそうな。そんな瞳で。
その瞳に負けたと言うと言い訳にしかならないけど。応えなきゃと。そう思わされた。
…キスまでならセーフだろう。まだ逃げ腰だったけど、頭に手乗っけて。
髪に指通して。くすぐったそうにする彼女に「キス、していい?」「あ、はい。」即答で。
溜とか間とか全く無し。何か笑えて。頭撫でてた手でぺし。と一つ、頭頂部叩いて。
「驚くとかしないの?」「してほしいもん。」「…そう。」撫でて、仕切り直し。
何言うでもなく膝の上乗った彼女は胸にくっついて。小さくて、腕の中にすっぽり収まって。
甘えて「ぎゅっ、ってして下さい。」所謂『抱っこ』要求されてたのと同じ姿勢。
でも腕の中にいる彼女の肌がだんだん熱を帯びていくのが解って。つい手で頬に触れて。
白い肌がどんどん染まって、あっと言う間に耳まで真っ赤。お婆さんが「茹だる」と言う状態。
いつもは恥ずかしがって顔隠す彼女だけど、その時はそれもせず。俺の行動を待っていて。
俺は俺で、高三の秋に前カノと別れて以来。久々過ぎての緊張。落ち着いてるフリだけはして。
軽く額に額くっつけたら、彼女は自然と目伏せて。少し力入ってる体、何度かさすって。
出来るだけやさしく、触れるだけのキス。そのまま動かずに。ほんの数秒。それだけ。
彼女は大きく息吐いて「…あは。」笑み浮かべて、胸に額くっつけて。多分、赤い顔隠して。
よしよし。そんな感じで背中撫でてる時にはもう、ただ単に甘えてる時の彼女相手の感覚で。
しばらくそのまま。あんまり長いんで、ちょっとくすぐったらビクッとなって。
やっと顔上げたと思ったら「…舌入れないんですか?」思わず、頭ぐりぐりやって。
「普通と思ってた?」「え。あ。…じゃないけど。どんなのかなって。」
「まぁ、ちょっとずつ。」「はい。」やっぱり即答で。「だから。」「はい?」「…いいよ。」
冗談でも何か言ってしまうと、引っ込みがつかなくなる。そう思って、気を付ける事にした。
彼女は高校生活始まってすぐにバイトを見つけられて、大喜びして。
平日週三回学校終えてからの二時間くらいと土日の六時間を働いて月四万円くらいになる。
事前に福祉科の担当さんに相談したら、お婆さんの内職と合わせての収入が限度を超える。
二人の収入は一部控除から全額控除になってしまうと説明を受けた。働いてるのに収入が減る。
どうにも納得いかず長い事ブツブツ言ってたら「決まりなんですから。」と、彼女にたしなめられた。
バイト先は地域の特産品を扱う個人商店。レジ打ちと地方発送の梱包を担当する事になった。
初日に帰ってきた時の顔が楽しげだったから続けられそうだなと安心してたけど、
二日目の夜部屋来ていきなり「…足、痛い。」足の裏痛いし、ふくらはぎはもっと痛いと。
運動の経験無い彼女にいきなり六時間立ちっぱなしは苦痛だったらしく。珍しく弱音吐いた。
それが何か嬉しかった。隠して我慢して溜め込んでる事も色々あったと彼女の友達に聞いて。
お婆さんに心配かけまいとするのは解る。けど俺に相談しても無駄と思われてたら嫌だなと。
少しは役立てそうな事柄だったからだろうけど、それでも頼りに思ってくれてるのは嬉しかった。
「風呂入って、マッサージして、湿布張って朝まで様子見よ。」頷く彼女を一度風呂に帰らせて。
マッサージと行っても当然専門外だし知識もなく。病棟で頼まれてちょっと揉んだり、
リハビリ室に行った時に少し習った程度。普通に素人。いざ俯せに寝る彼女前にすると躊躇した。
痛く無いようにと怖々揉む。それでもそれなりに緊張緩んでくると、彼女もだんだん力抜けてきて。
「ん…気持ちい…。」少しは効果あるかなと。続けてると呼吸緩くなって、静かに入眠。
内緒にと言われてたから迷ったけど、お婆さんに報告。まず男に足揉ませたって事を申し訳ながって、
「甘えてもええ人にされてしもうとるね。」私には意地張る癖にと苦笑いしてた。
深く寝入りすぎて起こせなかったから預かる事になって。一応足に湿布張って。
やっぱり疲れもあったのか、凄く気持ちよさそうな寝顔で。眺めてたら色々考え出した。
何でこんな子が痛い思いまでして働かないかんかなとか、俺に稼ぎがあったらなぁとか。そんな事を。
全然寝付けなくなって。揃って朝起きれなくて、出掛けバタバタして。お婆さんに笑われた
何とか一ヶ月頑張って漸く手にしたバイトの初任給は十五日締めで約半月分、約二万円。
彼女は明細見せてくれて。自分が働けた事の証明だと嬉しそうに眺めながら、
「ちゃんと働いたお金ですよね。」「うん。」「あは。やっとですね。」思わず撫でた。
振り込みあった次の日に全額引き落として。遣り繰り任せる為にお婆さんに渡したけど、
お婆さんは「あんたの稼いだ物やから。」と、一万円を彼女にお小遣いとして返した。
それまでは必要な物出来たら貰うだけで、お小遣い貰った事無くて。多すぎると慌てながら、
半分でいいとか、収入減ってお小遣い貰って家計は大丈夫なのかという心配も口にした。
けど「全部は取れん。」の一点張りで譲らず。彼女も戸惑いながらも受け取る事になって。
財布に一万円札持つの怖いからと、千円札と五百円玉に崩してから貰ってた。
ずっと貰ってばっかりですからと、牛丼奢ってくれた。普通の牛丼がやたらと美味かった。
もうこの頃にはバイトにすっかり慣れて。立ち疲れる事も足痛い何て事も無くなったけど、
度々足と背中と頼まれるようになった。最初の時が気持ちよくてよく寝れたからか、癖がついて。
せっかくだからちゃんと習おうとリハ室で資料貰って見学して。少し知識を得ると試したくて、
風呂入ってからジャージ姿の彼女が部屋来て「お願いします。」その言葉を待ちかまえてる感じに。
お婆さんが「賃も出さんのに。」と申し訳ながってたから「勉強なります。」とか言ってたけど、
実際のは脱力しきって寝入る彼女見てると妙に幸せ感じられて。ホッと出来て。完全に趣味化してた。
彼女は「一緒にいる時間減ったから。」そう言って揉まない日でも泊まりに来る回数が増えて。
家帰るのは食事だけの日が続いてもお婆さんは「ようやばば離れしたかね。」と、むしろ嬉しげ。
信頼してくれてるがゆえの無警戒。そう思うと、裏切る事は出来ないと思い。
カレシと言うよりは保護者。彼女が制服着てる間はそのスタンスでいようと努力はした。
とはいえ相変わらずちっちゃくて細くて華奢な彼女も、体型はすっかり女性で。
意識してか単に甘えてか、体寄せられて。柔らかな感触感じて、激しく理性の留め金が揺らぐ。
そんな事がしょっちゅう。でも俺は『お兄ちゃん』なんだからと、ギリギリ耐えた。
仕事に慣れが出てくると一日が楽に過ぎるようになって、そうなると一日過ぎるのが早くなって。
気が付いたら一ヶ月過ぎてるような、穏やかながらあまり変化の無い毎日。とにかく気楽で。
仕事終えて市営行けばお婆さんが食事作ってくれてて。俺より少し遅くに彼女が帰ってきて。
夕食食べて風呂入って。夜早いお婆さんにおやすみなさい言って、それから部屋に来て。
いつも横にいて。足と背中頼まれない日はゆるゆると本読んでたり、ゲームしたり。テレビ見てたり。
チャンネル争いをしだしたのはその頃。お互い一人っ子。そんな経験は無かったから新鮮だった。
ニュースとスポーツ中継くらいしか見ない俺。映画がある時だけ見る彼女。見る時間帯はかぶらない。
テレビはBGM代わりに付いてるだけ。チャンネル争いも結局甘える口実。彼女の思う壺だった。
それも慣れなのか、ホントの意味で心開いてくれたのか。どんどん素の甘えっ子な顔出してきて。
カノジョ扱い、大人扱いしてくれと言う癖に行動はまるで子供。中学の頃より幼いくらい。
しっかりしてて大人びてはいるけど押し殺してる部分も有ったのかなと思ってつい許してた。
膝乗ってくるのはだいぶ慣れてたけど、横になってる時に上乗られだすと落ち着いてもいられず。
眠い時とか相手しないでいると突然「無視したー。」それ言い出したらもうダメで。
仰向けだろうが俯せだろうが胴体跨いで乗っかって体重預けて。くっついて離れなくなる。
口では「重いー。」とか「暑いー。」とか言いながら、ただ単に甘えてるだけだと理解しつつも、
頭の隅の方でこの行為、実は誘惑か挑発じゃないのかとか考えて。打ち消すのも結構大変だった。
離れるかわりに『高い高い』して欲しいと頼まれた時は思わず笑ってちょっと噛まれた。
小さい頃誰かにして貰う機会無かったんだろうかなとか思うと、俺で良ければな感じで。
脇の下持ってひょいっと抱き上げて、ちょっと放るように差し上げて、しっかり受け止める。
繰り返してたら「怖い怖い怖い。」言って、笑いながら首に抱きついて。ゆっくり降ろしたら、
「あは。小さくて良かったです。」背の低さ、体格の細さ。本人も気にしてはいたけど、
俺と対比しての自分の小ささを楽しんでもいて。それを利用してベタベタに甘える。かなり困った。
彼女が高二の夏。専門学校時代の友達が結婚。仲良い友達だから俺と彼女二人とも呼んで貰った。
新郎は大卒組で年上、色々お世話になった方。新婦は彼女が俺の携帯でメールの遣り取りしてる友達。
俺も彼女も結婚式に出た事無くてどんな物か知りたくて、行くと即答。早速準備始めた。
遠いのと夜遅くなるから一泊の予定、宿の最終決定は彼女に一任。彼女の式服買いに行って完了。
当日式場で学校の友達と合流。彼女は速攻で捕まって、化粧室連れ込まれて顔塗られてた。
出来上がって戻ってきたら薄いピンクの口紅が妙に艶めかしくて変に動揺して。大概冷やかされた。
式の最中、彼女が俺の手を持って「いーなぁ。」引っ張ったり揺すったりしながら繰り返して。
その場では式や結婚に対する憧れが強いんかなぁとか漠然と思ったけど、微妙にズレていた。
俺は二次会の開始時に知った、新婦の懐妊。彼女の「いーなぁ。」はそれに向けての事。
「赤ちゃんいーなぁ。」心底羨ましそうな彼女に新婦が「頼めばいいのに。」無責任な言葉吐いて。
その場の雰囲気と酒の所為とで新郎新婦他全員がイケイケ状態。その場で決断を迫られた。
四年も付き合ってちゃんと意思表示しないのは駄目だと追いつめられた。半ばやけくそで、
「とりあえず婚約からお願いします。」みたいな事を言わされて。頷いた彼女、盛大に茹だった。
缶ビール一本で死ねる下戸なのにアホみたいに酒持って来られて祝いだとかって訳解らなかったし、
彼女まで飲まされて目真っ赤にしてるしで拒否るのに苦労。二次会終了でやっと解放されて。
十二時まわってから宿に到着。普通のビジネスホテルの和室。座って、暫く二人して放心してたら、
「やっぱり無しとか。冗談だったとか。無しですよ?」ぽつんと言って、見上げられて。
ここまで来て引っ込みが付く訳も無く「心配ないよ。」「…あは。」「返事は?」「え、返事?」
「返事聞いてない。」意地悪く言ったつもりだったけど、元気に「お願いします!」言ってくれた。
お婆さんと親父達には、とりあえず内緒。俺の実家に帰って全員揃ってる時に言う事に決めた。
帰りに彼女と俺と、揃いの指輪買った。勿論安物。見られたらバレるからと、俺の部屋でだけしてた。
仮にとは言え婚約しても相変わらず「子供かよ。」ってくらい甘えられて。それには何か、安心できた。
仮婚約決めてすぐ、彼女は突然髪を切った。背中まであった髪バッサリ。耳が出るくらい短く。
大人っぽくなるかと思ったら失敗したと謝られた。実際かなり印象変わってやんちゃな感じ。
でも涼しげで軽そうで似合ってて。風とか当たるとくすぐったいと言う耳、つい触れて。
反応楽しくて繰り返してたら俺も触り返されて「ビクッてならないですね?」不思議がられた。
でもやっぱり長かった髪切った事で女の子連中は「絶対なんかあった。」と俺と彼女に電話攻勢。
色々聞かれたけどすっとぼけて。彼女もだんまり決め込んで。とにかく秘密は守った。
誰にも言わない二人だけの秘密。そんな物があると言うだけで妙に浮ついた。
その年の年末、十二月に半ば。お互いの仕事の忙しい時期避けて早めに休み取って帰省。
流石にその日が近付いてくると緊張と言うか「何言おうか。」そればかり考え始めた。
話し合いはしたけど初めての事で何を事言えばいいのとか解らないから、結局考える事を放棄。
家帰って、飯喰う前に彼女と二人でならんで正座。ストレートに「婚約許して下さい。」それだけ。
「ん、いいんじゃないか。」親父のその一言に反対は出ず。簡単に承認された。
毎年一度は彼女とお婆さんと一緒に帰省して、俺と彼女以外の四人は酒好き、必ず酒が入る。
そんな場では冗談半分ながらそのうち一緒にさせてしまおうと言う話が繰り返されてたし、
本家の姉さん夫婦とか、下のおじさんとか近しい親類が一緒の時もあり、彼女も顔見せはしてて。
そんな状態だったから俺も彼女も不安は感じてなかったけどちゃんと認めて貰えれば一安心。
内祝いとか言って結局酒が入って。酔って「ありがとうねぇ。」ばかり言うお婆さんと、
「あんたは肝の小さい男や。」と怒る婆ちゃん。今すぐ結婚しろと暴走。お婆さんも乗っかって。
彼女と二人、早々に逃げ出した。さっさと風呂入って寝る準備。風呂上がりに親父と出くわして。
「二人でかしこまってるから『子供出来ました』かと思って変な汗かいたぞ。」苦笑いしてた。
「まだ無いよな?」「まだ。」「当たり前だ。」珍しく笑いっぱなしの親父がいた。
正式に婚約。特に知らせない人もいつの間にか嗅ぎつけてくるのが田舎の情報伝播力の怖さ。
速攻で知れ渡り。祝ってくれる人が多い中で、やっぱり難癖付ける人も出てきた。
どこにも相談が無かった。勝手な振る舞いばかりしてると親戚内からもはじかないかんなる。
本家に逆らって勘当されてまだ懲りないのかと説教態勢の方々。とにかくうるさかった。
面白かったのが「こんなやり方は無い世間に顔向けでけん恥になる。」と怒鳴り込んできた婆様。
「高校出るの待って見合いしてやる気でいたのにこんな常識外れの抜け駆けはなかろうが。」
こんなのは誰にも認めてもらわれん。格も低い年も若いで順番が違う。歳がさから順にが当たり前。
要するに何が言いたいのかというと、その家の息子が未婚だったと言う話で。彼女を譲れと。
しかも息子さん五十近かった。有り得なさすぎてその場にいた俺と親父と下のおじさんで爆笑。
下のおじさんに「あんた人のカノジョと見合いは無いやろ。」どっちが常識外れかと言われ、
可笑しげな事を考えるなと笑われ。すると身内に恥をかかすのかと喚き散らしだし。
「若い嫁とってもあんたら種無しの筋が相手じゃ子が出来んてかわいそうな事になるだけや。」
その言葉で下のおじさんが切れて。婆様をひっ掴んで庭を引きずり出して警察が出動する事態に。
今でこそなんとか笑い話に出来るけどその時は修羅場というか、かなりみっともない事になった。
種無しって何の事だと親父に聞いたら、親父の二人の兄が共に結婚しても子供が無くて、
親父もおかんと結婚して俺が出来るまで八年かかって、その間に「種無しの筋」と言われだしたと。
上のおじさん(故人)は橋屋で財産作った人。下のおじさんは一緒にやってて今は引き継いでる人。
親父は当時としては珍しく、大学出て地元に戻って公務員になった。どっちも農村では妬みの対象。
みんな結婚も早かったし経済的にも豊かで、陰口叩ける所は子供が無い事ぐらいだったから、
「種無し」と呼ばれるようになったと。親父は俺が産まれてるんだから無い訳はないんだけど、
下のおじさんにとっては我慢ならない言葉。切れて当然。警察から帰ってきて、かなり落ち込んで。
俺への遺伝まで気にしだしてたから安心させようと「検査受けてみるよ。」軽い気持ちで言った。
職場の院長に事情話して紹介状書いて貰って、精液検査を受けた。後学の為にとか言いながら。
結果は「ちょっと(精子数)少なめ。何度か検査してみますか。」聞いて一分間くらいは固まってた。
四度目の検査を終えて。軽度の造精子機能障害との診断。所謂「種が薄い」と言う状態。
自然妊娠は可能なレベルだし若いんだから深刻になるなと言われたけど、ショックだった。
院長に結果を報告したら焼き肉喰わせてくれて。メジロアサマ(競走馬)の話をしてくれて。
競馬は知らないけど、頑張れば立派に子孫を残せると言いたい事は理解できて。とにかく泣いた。
迷ったけど親父達には「妊娠に問題無し。」だけ伝えた。下のおじさんは喜んで涙声。心苦しかった。
高校三年になった彼女は、一生懸命バイト頑張ってた。卒業後に正社員で働く事が決まったから。
パートさん入れても十人くらいの小さな所だけど、少しはボーナスも出してくれると。
真面目なのと仕事にキッチリこなしていたのを認められての事。やっと普通になれると喜んで。
「…赤ちゃん欲しいです。」初めてハッキリと言った彼女におそるおそる「…今?」そう聞いたら、
「卒業して一年くらいお金貯めてからですね。」準備も勉強も出来てないから今はまだ無理だと。
「お母さんが二十歳で私産んでくれたから私もできたら二十歳でお母さんになりたいです。」
お母さんになってお父さんと一緒に子供を育てたい。大きな夢を語るみたいに楽しげに語って。
それ聞いてて俺がどんな状態なのかを伝える事を決心した。どんな反応帰ってくるか怖かったけど、
「確率ちょっと低いだけなんですよね?」頷いたら「あは。いっぱいします?」思わず抱き締めた。
その頃はまだ、子供が出来るような行為には至って無くて。でもキスは毎日のようにしてて、
そのどさくさに紛れてどこかしら触れたり、布団の中で体寄せられて、つい手が伸びたり。
「胸は、やだ。」それ以外は良いというか、嫌がる事も無く。むしろ待たれてるような。
甘えられて、何となく撫でる。その延長のちょっと深いスキンシップの様な感覚。その程度まで。
まだ学生。まだ子供。俺の中ではそうだったから、それ以上は踏み込めなかった。
彼女が高校卒業して。正社員としての初任給貰うと共に、生活保護を止めて貰った。
「これでやっとフツーですよね。」彼女は興奮気味にそう言って、顔全部で笑顔作った。
初任給十三万くらい。生活費として八万円をお婆さんに。自分のお小遣いは一万円。
残りは全部貯金。「赤ちゃん用貯金。」そう公言されて、照れくさくて。俺も一緒に貯め始めた。
俺と彼女の共通の趣味は読書。休みの日も二人で漫画喫茶行くくらいで、使い所無いから貯められる。
月々貯まるのが嬉しかった。けど仕事帰ってきて、風呂入って来た彼女の足をいつも通り揉んでる時。
「…貯金、貯まるのはいんですけど。…赤ちゃんは?」焦れたのか、突然言われて。
「もう社会人なんだから。子供じゃないです。…よね?」そこまで言わせてごまかせる訳もなく。
やっと思い切れた…とは言え。俺も高三の時以来だし彼女は初めてだしで。かなり戸惑って。
日を改めながらの四度目のチャレンジで何とかできて。嬉しいと言ってくれる彼女前にして、
凄い罪悪感と嫌悪感に襲われた。彼女の願い叶えてあげられるのかなと不安にもなった。
けど彼女が言ってくれた「あは。だいじょぶですよ。」それだけで何か安心できた。
あの時からの俺と彼女がおかれている状況は、殆ど変わりがありません。結婚もまだです。
お婆さんが「もう子守りは済んだで。」そう言って、彼女の住所が俺の部屋になったくらいです。
俺達の仕事も同じ。お婆さんも内職続けてます。彼女の求めたごく普通の暮らしだと思います。
最近彼女が積極的に子作りを考えて。食べる物まで気を使い始めて。
排卵日とかの計算もしてるし、いろんな俗説やら仕入れてきては実行したりして。
友達のナースや介護職の女の子達がある事ない事吹き込んでくれるのには少し困ってます。
毎年、命日に近い日に二人でお母さんのお墓参りに行きます。今年も行けました。
いつか三人で行ける時が来たらいいなと。今願う事はそれだけです。長々とすいませんでした。
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妹の結婚が決まった
両親を亡くし、男手一つで妹を育て上げてきた兄。ついに妹が結婚し、一安心したところに突然義母から「元々妹なんて存在しなかったと思ってくれ」という連絡を受けてしまう。失意のどん底に居た兄を救う為、スレ民が立ち上がる!
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急に色々気づいたら、死にたいって思った
積もり積もって七転び八起き◆3iQ.E2Pax2Ivがふと考えついたのが 「死にたい」 という気持ち。そんな中、一つのスレが唯一の光を導き出してくれた。書き込みしてくれる奥様方、なにより飼い猫のチャムちゃん。最後にはー‥七転び八起きとはまさにこのこと。
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番外編「I Love World」
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昨日、嫁の墓参りに行ってきた
>>1と亡き嫁、そして幼馴染みの優しい三角関係。周りの人々に支えられながら、家族は前に進む。
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介護の仕事をしていた俺が精神崩壊した話
介護とは何か。人を支えるとは何か。支えられるとは何か。色々考えさせるスレでした。
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過去の自分に一通だけメールを送れるとしたら
永遠に戻ってくれない時間。それでも、、
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多重人格 解離性同一性障害(DID)の弟君と家族の話
>>1と両親、そして弟の長年に渡る闘い。ナナミちゃん、レン、ヒロ。3人の人格を内に秘めた弟。きっかけは幼い頃>>1が起こした小さな罪からだった。僕を、あたしを、オレを、どうか怖がらないで。
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