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傷(前編)

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211 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:01:52 ID:WmdfX0hw0
嫌韓の人とかは読み飛ばしてください。
以前、俺は韓国人の「祟られ屋」の所に半年ほどいた事がある。
その「祟られ屋」を仮に「マサさん」と呼ぶことにする。
マサさんは10代の頃に日本に渡ってきた、在日30年以上になる韓国人。
韓国人には珍しい「二文字姓」の本名を持つ一族の出身で、
在日朝鮮人実業家に呼び寄せられた先代の「拝み屋」だった父親に付いて来日したらしい。
「マサさん」というのは、その風貌から。
現役時代のマサ斎藤というプロレスラーに似ているから。
俺はある事件で「祟り」に遭い、命を落としそうになったことがある。
その事件が生涯初めての霊体験であり、マサさんと知り合うきっかけになった。
今日はその事件について書きたいと思う。

212 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:03:20 ID:WmdfX0hw0
俺の古くからの友人にPと言う在日朝鮮人の男がいる。
Pの実家は、焼肉屋にラブホテル、風俗店や金貸しを営む資産家だった。
P家の経営するラブホはカラオケやゲーム、ルームサービスも充実して流行っていた。
「事件」があったのは、そんなP家の経営するラブホの新店舗。
新店舗もオープン当初は立地条件も良く流行っていたらしい。
しかし、ある時を境に客足がガクッと落ち込んでしまった。
まあ、お約束ってやつかな。
どうもそのホテル、「出る」らしいんだ。
そのホテルに出るだけじゃなく、Pの実家の婆さんが亡くなり、お袋さんは重度の鬱病、
親父さんも胃癌になるといった具合に身内の不幸が重なった。
地元の商店街ではPの家が祟られているという噂が流れていたようだ。
そんな地元の噂を聞きつけたのか、拝み屋だか霊媒師だかのオバサンがPのところに売り込みに来たらしい。

213 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:06:16 ID:WmdfX0hw0
そのオバサンはPらのコミュニティーでは金には汚いけれど「本物」だということで結構有名な人だったようだ。
自信たっぷりに「お前の所に憑いている悪霊を祓ってやる。失敗したら金は要らない。
成功したら500万払え」と言って来たらしい。
P本人は信心深いタマではなく、ハナッから相手にする気はなかった。
タカリの一種くらいにしか見ていなかった。
しかし、Pのオヤジさんは病気ですっかり参っていたせいもあって、このお祓いの話に乗り気だったらしい。
それでも500万という金はデカイ。
社長はオヤジさんだが、馬鹿な無駄金を使うのを黙って見ている訳には行かない。
そこで、Pは俺に「報酬10万に女も付ける。出るという噂の部屋に一晩泊まってみてくれ」と頼んできた。
ガキの頃から知っている俺が泊まって、何もなかったと言えばアボジも納得するだろうと。
万が一、本当に出たらオバサンにお払いを頼む。
出なければシカトして500万は他のラブホの改装の足しにでもする。
俺はオカルトネタは大好きだけれど、霊感って奴は皆無。
心霊スポット巡りも嫌いじゃないので快諾した。

214 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:07:29 ID:WmdfX0hw0
Pに頼まれた翌週末、午後8時過ぎくらいにPの知り合いが経営する韓デリの女の子と落ち合って、
問題のホテルの508号室(角部屋)に入った。
部屋に入った時点では霊感ゼロの俺が感じるものは特になかった。
ただ、デリ嬢のユキちゃん(ほしのあき似、Fカップ美乳!)はしきりに「寒い」と言っていた。
夏とはいえキャミ姿で肩を出した服装。
「冷房がきついのかな」位にしか思わなかった。
エアコンを止めてもユキちゃんが「寒い」と言っていたので、俺たちはバスタブに湯を溜めて風呂に入った。
バスルームでいちゃつきながら口で1発抜いてもらって、ベッドで3発やった。
部屋にゴムは2個しかなかったので3発目は生だった。
ユキちゃんはスケベですごいテクニシャン。
3時間以上頑張って流石に疲れて、1時くらいには眠ってしまった。

215 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:09:17 ID:WmdfX0hw0
どれくらい眠っただろうか。
俺は、耳元で爪を切るような「パチン、パチン」と言う音を聞いて目が覚めた。
隣で眠っているはずのユキちゃんがいない。
ソファーの上に畳んであった服もバッグもない。
俺が寝ている間に帰ったのか?
オールナイトで朝食も一緒に食べに行くはずったのに…
俺はタバコに火を付けようとしたが、オイル切れという訳でも、石がなくなった訳でもないのにジッポに火がつかない。
部屋にあった紙マッチも湿ってしまっているのか火が付かない。
俺はタバコを戻して回りを見渡した。
部屋の雰囲気が違う。
物の配置は変わらないのだけれど、全てが色褪せて古ぼけた感じ。
それに微かに匂う土っぽい臭い…
俺は全身に嫌な汗をかいていた。
体が異様に重い。
目覚ましに熱いシャワーでも浴びようと思って、俺はバスルームに入った。
シャワーの蛇口をひねる。
しかし、お湯は出てこない。
「ゴボゴボ」と言う音がして、ドブが腐ったような臭いがしてきた。
俺は内線でフロントに「シャワーが壊れているみたいなのだけれど」と電話した。
フロントのオバサンは「今行きます」と答えた。


216 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:10:25 ID:OepwUrv70
俺は腰にバスタオルを巻いた状態で洗面台で顔を洗っていた。
すると、入り口のドアをノックする音がする。
ハンドタオルで顔を拭きながらドアの方を見ると、そこには全裸のユキちゃんが立っていた。
ユキちゃんの様子がおかしい。
目が黒目だけ?で真っ黒。
そして、左手には白鞘の日本刀を持っている。
「ユキちゃん?」と声をかけても無言。そのまま迫ってくる。
そして、刀を抜いた。やばい!
俺は部屋に退がりテーブルの上に合ったアルミの灰皿をユキの顔面に投げつけた。しかし、当らない。
いや、すりぬけた?
今度は胸元にジッポを投げつける。
しかし、これもすり抜けて?入り口のドアに当たり「ガンッ」と音を立てる。
ユキは刀を上段から大きく振り下ろした。
かわそうにも体が重くて思うように動かない。
俺は左手で顔面を守った。
ガツッ、どんっ!
前腕の半ばで切断された俺の左腕が床に転がる。
俺は小便を漏らしながら声にならない悲鳴を上げた。

217 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:11:22 ID:WmdfX0hw0
床にめり込んだ切っ先を抜いて構えたユキは、更に左の肩口に刀を振り下ろす。
左肩から鳩尾辺りまで切り裂かれる。
俺はユキに体当たりしてドアの方に走る。
血に滑って足を取られながら逃げたけれど背中を切られた。
ドアを開けて外に逃げようとしたが鍵が閉まっている!俺は後を振り返った。
その瞬間、ユキが刀を振り下ろした。
首に鈍い衝撃を感じ、次の瞬間ゴンッという音と共におでこに強い衝撃と痛みを感じた。
シューという音と生暖かい液体の感触を右の頬に感じながら、俺は意識を失った。

218 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:13:14 ID:WmdfX0hw0
俺は頭の先で「ガリガリ」と言う音を聞いて目が覚めた。
体中が痛い。
頭も酷い二日酔いのようにガンガンする。
音のする方をみるとユキがドアをガリガリ引っ掻いていた。
何時間そうしていたのかは知らないけれど、両手の爪は剥がれて血まみれ。
ドアには血の跡がいっぱい付いていた。
俺はユキの肩を揺すって「ユキちゃん」と声をかけたけれども、
空ろな目で朝鮮語らしい言葉でブツブツ言っているだけで無反応。
俺はユキを抱きかかえてベッドに運んだ。
ベッドにユキを横たえると俺は部屋を見渡した。
勿論、俺の首も左腕も付いてる。
部屋の内装も真新しい。
しかし、俺は恐怖に震えていた。
バスルームではシャワーが出しっぱなしになっていた。
入り口のドアの手前には俺が投げた灰皿とジッポライター。
ベッドの手前のフローリングの床には小便の水溜り…そして真新しい傷…
血痕とユキの持っていた刀は無かったが。

219 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:15:05 ID:WmdfX0hw0
俺はPに携帯で連絡を入れた。
Pは1時間ほどで人を連れて来るという。
とりあえず俺はユキに服を着せ、シャワーを浴びた。
熱い湯を体がふやけそうなくらいに浴び続けた。
シャワーを出て洗面台で自分の姿を見た俺はまた凍りついた。
首と左肩から鳩尾にかけて幅5ミリ位の線状のどす黒い痣になっていた。
左腕も。
背中を鏡に映すと背中にもあった。
いずれも昨晩ユキに刀で切られた場所だ。
約束の時間に30分ほど遅れてPはデリヘルの店長とホテルの支配人?、若い男2人を連れてやってきた。
支配人はドアの爪痕を見て青い顔をして無言で突っ立っていた。
デリヘルの店長は火病ってギャーギャー喚いていた。
ユキは頭からタオルケットを掛けられ、2人の若い男に支えられながら駐車場へ向かった。
俺は、Pの車を運転しながら(Pは物凄く酒臭かった。泥酔状態で運転してくるコイツの方が幽霊よりも怖い!)、
昨晩起こった出来事をPに話し、お祓いすることを強く勧めた。
流石のPも俺の首と腕の痣を目にして納得したようだった。

220 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:16:40 ID:WmdfX0hw0
1週間ほどしてPから連絡があった。次の月曜の晩にお払いをする。
現場を見るついでに俺の話しも直接聞きたいらしいから、霊媒師のオバサンに会って欲しいということだった。
俺の方も異存は無かった。
俺は約束の時間に待ち合わせの場所に行った。
霊媒師のオバサンは50歳ということだったが、割と綺麗な人だった。
Pに「ユキはどうした?」と聞くと、Pは「ぶっ壊れて、もうダメみたい。韓国から家族が迎えに来るらしい」
オバサンは俺の向かいの席に座り、俺の両手を握って俺の目を瞬きもしないで見つめた。
10分くらいそうしたか、無言で手を離すと、Pの家族も見たいと言う。
俺たちはPの車に乗ってPの実家に向かった。
オバサンはPの家の中を見て回り、俺のときと同じようにPのオヤジさんとお袋さんの手を握って顔を凝視した。
霊媒師のオバサンは、俺のときよりも更に険しい顔をしてPに「問題の部屋に連れて行って」と言った。
俺たちはPの車に乗って例のホテルに向かった。

221 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:18:38 ID:WmdfX0hw0
車中では3人とも無言だった。
後部座席のオバサンは水晶の数珠を手に持って声を出さずに唇だけでブツブツ何かを唱えていた。
15分ほどで俺たちはホテルに着いた。
俺たちは車から降りた。
後部座席のドアが開いてオバサンが車から降りた瞬間、オバサンが手にしていた数珠がパーンと弾け飛んだ。
オバサンは顔に汗をびっしょりかいて怯えた様子で「ごめんなさい、これは私の手には負えない。
気の毒だけれど、ごめんなさい」と言って大通りの方に足早に向かって行った。
するとPは物凄い剣幕で「ふざけるな!金はいくらでも出すから何とかしてくれよ!」と叫びながらオバサンを追った。
オバサンはPを無視して早足で歩く。
すがり付くようにPは朝鮮語で泣きそうな声で喚きたてた。
しかし、オバサンはタクシーを捕まえて、Pを振り切って去って行ってしまった。

222 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:21:12 ID:WmdfX0hw0
それから1ヶ月ほど経ったか?
俺は困り果てていた。
霊現象の類は無かったものの、ホテルで付いた痣が膿んで酷い事になっていた。
始めは化膿したニキビみたいなポツポツが痣の線に沿って出来る感じで、ちょっと痒いくらいだったが、
やがてニキビは潰れ爛れて、傷は深くなって行った。
ドロドロに膿んで痛みも酷かった。
皮膚科に通って抗生物質などの内服薬とステロイド系の軟膏を塗ったが全く効果は無かった。
そんな時にPから連絡があった。
今すぐ会いたいと。

223 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:25:06 ID:WmdfX0hw0
たった1ヶ月会わなかっただけなのに、Pの姿は変わり果てていた。
Pは安田大サーカスのクロちゃんに似たピザだったが、別人のようにゲッソリとやつれていた。
肌の色はドス黒い土気色で、白髪が一気に増え、円形脱毛症だらけになっていた。
Pが消え入りそうな声で「よう」と声をかけてきた。
俺が「どうしちゃったんだよ?」と聞くとPは答えた。
Pは俺をホテルに迎えにいった晩から今日まで「あの部屋で」「毎晩」「斬り殺されている」らしい。
殺されて次に目が覚めたときには自分の部屋にいるのだけれど、
今いる自分の部屋より「あの」ホテルの部屋での出来事の方がリアルなのだと言う。
Pの話を聞いて俺もあの晩のことを思い出して嫌な汗をかいた。
変わり果てたPの様子、霊媒師に逃げられた晩の必死な様子にも納得がいった。
そして、1ヶ月もの間、毎晩あの恐怖に晒されながら正気?を保っているPの精神力に驚きを隠せなかった。
俺はPに「御祓いはしなかったのか?」と聞いた。
Pは答えた「祈祷師、拝み屋の類も色々回ったけど、これを見ただけで追い払われたよ。
あのババアに逃げられたってだけで会ってももらえないのが殆どだったけれどな」
そう言うと、Pは着ていたTシャツを脱いだ。
Pの体には俺と同じ、夥しい数の「傷」があった。
膿んで深くなったもの、まだ痣の段階のもの…

224 :傷 ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 00:31:44 ID:WmdfX0hw0
Pの話だと、俺たちの傷は医者に治せる類のものではないらしい。
放って置けば傷はどんどん深くなり、やがては死に至ると…
そして、「祟り」の性質から、普通の拝み屋や祈祷師には手は出せないらしい。
だが、Pのオヤジさん、商工会の会長の伝で朝鮮人の起した祟りや呪といったトラブルを解決してくれる
「始末屋」がいるらしい。
Pはその始末屋のところに一緒に来いと言う。
そこに行けば3ヶ月から半年は戻って来れないという。
俺は迷った。
しかし、あのホテルでの出来事や傷の事、Pの様子から俺は腹を括った。
俺は勤め先に辞表を出して、Pと共に迎えの車に乗った。
その紹介された「始末屋」がマサさんだった。
半年間、俺たちはマサさんの下で過ごし、「機」を待った。
色々と恐ろしい思いもしたが、半年後、事件は解決した。
事件の解決についてはマサさんの下での生活の話しを読んでもらわなければ判りにくいと思う。

306 :傷(2) ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 19:01:31 ID:WmdfX0hw0
迎えの車が来る前に、俺たちは付き添いのキムさんの用意してくれた黒いスウェットのパンツとトレーナー、
サンダル履きの身一つの状態にされた。
そしてキムさんの車に乗って出発。
高速に乗って二つ先のインターで降りた。
車はインター近くの大型電気店の駐車場に入った。
キムさんは俺たちに便所に行って来いと言った。
車に戻ると後部座席に座らされ、薬を飲むように言われた。
睡眠薬だと言う。
俺たちはキムさんの言葉に従った。薬を飲んで暫くすると睡魔が襲ってきた。
目が覚めたとき、俺たちは工事現場などのプレハブ事務所のような建物の床に転がされていた。
少し離れた所に体格の良い40代位の男が胡坐をかいて座っていた。
この男がマサさんだった。

307 :傷(2) ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 19:04:40 ID:WmdfX0hw0
俺が体を起すとマサさんは無言で冷蔵庫を開けペットボトルの水をわたした。
喉が焼け付くように渇いていた俺は2L入りのペットボトルの半分以上を一気に飲み干した。
やがてPも目を覚ました。
Pが水を飲み終わるとマサさんが始めて口を開いた。

マサ:「カンさんから話しは聞いている。私の方で調べて状況も判っている。
私の指示には絶対に従ってもらうが、判らない事があれば聞いてくれ。
長い付き合いになる、遠慮はしなくていい。仕事に差し支えない範囲で要望も聞こう」

俺:「随分と回りくどい連れてこられ方をしたが、何か意味はあるのか?」

マサ:「君たちに取り憑いているのは一種の生霊だ。
そっちの兄さんの実家とホテルの部屋を浄化した水を君達に飲んでもらった。
キムさんの家に泊まって飯を食っただろう?ガッチリと取り憑いてはいるが、念には念をってやつだ」

P:「ふざけるな、何でそんな真似を!」

マサ:「生霊って奴は案外視野が狭い。取り憑いたら人にせよ場所にせよ、それしか目に入らない。
君等がキムさんの所にいる間にホテルと実家に結界を結んだ。
他に行き場のない生霊は君たちに取り付いているしかないが、君達がここに来るまでの道程も、
帰る道も判らないように、生霊にも間の道はわからない。
とりあえず呪いも祟りも君達止まりで、君等が取り殺されない限りは他に害は及ばないよ。
家族が助かったんだ、問題ないだろう?」
…あまりの言葉に俺たちは絶句してしまった。…問題大有りだろ!

308 :傷(2) ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 19:07:10 ID:WmdfX0hw0
言葉を失ってしまった俺たちにマサさんは服を脱げと言った。
もう、まな板の上の鯉の心境。
俺たちはマサさんの言葉に従った。
マサさんはバリカンと剃刀を持ってきて、俺たちの髪の毛と眉毛を剃り落とした。
そして、筆と赤黒い酢のような臭いのする液体を持ってきて、
腹ばいに寝かせた俺たちの背中に何かを書き出した。
乾いた文字を見ると十字型に並べられた5文字の梵字だった。

P:「何ですか、これは?」

マサ:「耳無し坊一の話は知っているかい?」

俺:「平家の亡霊から姿を隠す為に全身に経文を書いたのでしたよね?
これは俺達に取り憑いた生霊とやらから身を隠す呪文か何かですか?」

マサ:「ちょっと違うね。まあすぐに判る。この液体は皮膚に付くとちょっとやそっとでは落ちないけれど、
これから行く所では護符が消えると命の保障は出来ないよ。薄くなったらすぐに書いてあげるから気を付けてね」
マサさんは俺たちの髪の毛とシェービングフォームを拭き取ったタオル、
着てきた服とサンダルを火の入った焼却炉に放り込むと、腰にタオルを巻いただけの俺たちを車に乗せた。

310 :傷(2) ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 19:08:09 ID:WmdfX0hw0
車に乗ると俺達はアイマスクをさせられた。
暫く走ると舗装道路ではなくなったのだろう、車は酷く揺れた。
砂利道に入って5分もしないうちに車は止まった。
マサさんは俺達に少し待てと言った。
車外からはハンマーで鉄を打つような音が聞こえてきた。
実際、長さ50cm、直径5cm程の鉄の杭を地面に打ったのだという。
鉄杭を打つ事で地脈を断ち切り、外界とこの敷地を切り離しているのだと言う。
この敷地にはこの様な鉄杭が他に7本打たれているとマサさんは語った。
この敷地自体が一種の結界なのだと言う。
俺達はこの敷地から一歩たりとも足を踏み出す事を禁じられた。

311 :傷(2) ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 19:09:27 ID:WmdfX0hw0
敷地の中には普通の民家と大きな倉庫のような建物があった。
民家と倉庫の間に立って、マサさんが敷地の奥の方を指差した。
岩の低い崖の手前に小さな井戸のようなものがある。
実際それは深い井戸らしい。直径は60cm程でさほど大きくはない。
その上には一抱えほどもある黒くて丸い、滑らかな表面をした、直径80cmほどの天然石で蓋がしてあった。
井戸の周りには井戸を中心に直径180cmの円上に八方に先程と同じ鉄杭が打たれていると言う。
マサさんは井戸には絶対に近づくな、出来る限り井戸を見るな、井戸のことを考えるなと言った。
井戸に引かれるのだと言う。そして、もし万が一、井戸に引かれる事があっても鉄杭の結界の中に入るなという。
Pがあれは何だと尋ねた。
マサさんはこう答えた。「地獄の入り口だ」と。
季節はまだかなり暑い時期だった。
山に囲まれてはいるが、それほど山奥と言う感じではない。
まだ日も高く、日差しも強い。
しかし、この敷地に入って車から降りた時から何かゾクッとする寒気のようなものを感じた。
流石に、俺にもPにも判っていた。
この土地の「寒気」の中心があの井戸であることが…

312 :傷(2) ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 19:11:51 ID:WmdfX0hw0
まあ、この時には聞かなくても判っていたのだが、俺はマサさんに聞いた。
「背中の護符はあの井戸の中身から俺達の身を守るものなのですね?」

マサ:「そうだ。けれども、あの井戸があるから、君らに憑いた悪霊も君達に手出しする事は出来ないのだ。
君達を取り殺して、結界の中で一瞬でもあの井戸の前に晒されれば、たちまち取り込まれて、
井戸の中の悪霊と一体化してしまうからね。井戸の悪霊は君達の中の悪霊を取り込もうとして引き付ける。
一緒に引き込まれないように気を付けてくれ」


314 :傷(2) ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 19:14:08 ID:WmdfX0hw0
民家はマサさんの居宅だった。
家の中で俺たちは藍染めの作務衣のような服を渡されて着た。
マサさんは妙に薬臭いお茶を飲ませてから俺達に言った。
「その傷を何とかしなくちゃな」
傷の事を言われて始めて気がついたのだが、不思議なことに、この禍々しい土地に入ってから、
あれほど痛んだ傷の痛みはそれほどでもなくなっていた。
俺はそのことをマサさんに話した。
Pも「実は俺もだ」といった。
マサさんは言った。
本来、霊には生霊も死霊も生きている人間の肉体を直接傷付ける力はない。
殆どが怖い「雰囲気」を作るだけ。
相当強い「念」を持った霊でも「幻影」を見せるのが精一杯なのだと言う。
「祟り」で病気になったり、事故に遭ったりするのは祟られた人間の精神に起因する。
「雰囲気」に飲み込まれた人が抱いた「恐怖心」が核になり、雪だるまのように負の想念が大きくなって、
そのストレスにより精神や肉体、或いはその行動に変調を来した状態が「霊障」と呼ばれるものの大部分なのだと言う。
こういった「霊障」の御祓いは、所謂「霊能力者」や正しい儀式でなくとも、
「御祓い」を受ける被験者に信じ込ませる事が出来れば誰にでも出来る催眠術の類らしい。
しかし、俺達の場合は違うのだと言う。

316 :傷(2) ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 19:18:34 ID:WmdfX0hw0
マサさんは俺がユキに斬られた晩の話を聞き、ホテルの部屋を確認したという。
そして、フローリングの床を確認した。
ユキが刀の切っ先をめり込ませた作った傷があり、
俺が投げたライターか灰皿が当って出来たであろう部屋の入り口のドアの小さな凹みと塗装のはがれも発見したと言う。
出しっぱなしになっていたシャワーや小便の水溜りがあった話から、俺達の傷は所謂「霊体」に深手を負わされ、
それが肉体に反映したものだと判断したのだと言う。あの晩の出来事も、Pの体験も夢ではなかったのだ!
そして、そのことから、俺たちの霊体を斬った生霊の背後には「神」とでも言うべき霊格の高い存在が付いているのが判るのだと言う。
でなければ、肉体に外傷として現れるような深手を生きた人間の霊体に負わせることは不可能なのだ。
こういった霊格の高い存在が背後にある場合、祟られたのが朝鮮人の場合、
ごく例外的な場合を除いて通常の除霊も浄霊も不可能なのだと言う。
朝鮮人は「神」の助力を、特に日本国内では得られないのだという。
「個」や「家」ではなく、「血族」を重視する朝鮮人は祖先の「善業」も「悪業」も強くその子孫が受け継ぐのだそうだ。
朝鮮は遥かな過去から大陸の歴代王朝や日本の支配を受けてきた。
そして、同族を蹴落としながら支配者に取り入りつつ、その支配者に呪詛を仕掛け続けてきたのだ。
「恨」という朝鮮人の心性を表す言葉は、朝鮮人の宿業でもあるのだ。
自らを「神」として奉る民族や国家、王朝を呪う者に助力する「神」はいない。
そのような者への助力を頼めば逆にその神の逆鱗に触れかねない。
Pが、御祓いを頼みに行った祈祷師たちに悉く拒絶されたのはその為だったらしい。
「まあ、そのお陰で私の商売も成り立つのだけどね」とマサさんは笑った。

318 :傷(2) ◆cmuuOjbHnQ: sage 2007/03/10(土) 19:20:30 ID:WmdfX0hw0
朝鮮人を守ってくれる神様はいないのですか?とPが聞いた。
マサさん曰く、「神」の助力を得るには長い時間をかけた「信仰」ってヤツが必要なのだそうだ。
いや、長い時間を重ねた信仰が「神」を作ると言ってもいい。
朝鮮は支配王朝が変わるたびに文化を変え、信仰まで変えてきた。
しかも、同族同士で呪詛を掛け合っても来た。
民族の「神」がいない訳じゃないけれど、その霊格は高くなりようがない。
儒教は厳密な意味で宗教ではない。
キリストは「神」だけれど、孔子は「神」ではない。
日本や中国と同じ神仏の偶像はいっぱいあるけれど「神」には「なっていない」。
だから朝鮮では、生贄を利用する蟲毒のような「呪詛」、
地脈や方位を巧みに操って大地の「気」を利用する「風水」が発達したのだという。
そして、民族全体が共通して信仰する霊格或いは神格の高い「神」を持たないが故に、
生きた人間が神を僭称し、時に多くの民衆の信仰を集めてしまうのが朝鮮の病弊なのだ。
朝鮮人はある意味、異常な民族なのだという。

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