百物語2015
Part1
6 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:08:15.72 ID:rKZkpF2O0
【台風】1/2
Uという知り合いの農家さんから聞いた話だ。
台風が来ると「ちょっと田んぼの様子見てくる」のAAがよく貼られるが、農家さん達は本当にあんな感じで見回りに出かけてしまう。
危ないのは百も承知なのだが、一年分の収入が左右されるだけに、やはり気が気ではないのだそうだ。
特に、車に乗っていれば大丈夫だろうと考えて、多くの農家さんが軽トラに乗って暴風雨の中を出かけていく。
その日のUさんもそうだった。
夜半過ぎ、台風が間近まで迫る中、Uさんは自分の田へ見回りに出かけた。
その棚田は山懐に抱かれたような場所にあり、一番奥の田の縁には山の木々が迫っている。
田と田の間を走る未舗装の農道は軽トラがギリギリ一台通れる程度の幅で、山に突き当たった所で折り返し用の広場になっており、広場の一番奥からは山奥へと続く細い獣道が伸びている。
Uさんの田は奥から二枚目なので、普段は広場まで行って車を停めてから自分の田まで歩いて戻るのだが、深夜の時間帯に他に来る車もいなかろうと、その時はヘッドライトも点けっ放しで自分の田の脇にそのまま停車した。
田や水路の確認を終えて、Uさんが車に乗り込もうとした時。
何か気配を感じ、Uさんはヘッドライトの照らす先へと目を向けた。
光は広場の中ほどまで届いていたのだが、横殴りの雨に遮られて視界は悪い。
それでもじっと目を凝らして広場を見つめていると、高音の耳鳴りが始まった。
音自体は小さいのだが、それは雨音を相殺するかのように脳内で鳴り続け、その中でUさんの耳は聞こえるはずもない音をとらえた。
ベチャリ、ガサガサ。ベチャリ、ガサガサ。
濡れた土を踏みしめ、草木を揺らしながら、何かが山から下りてくる…そんな音が、ノイズを切り裂いて妙にクリアに響いてきた。
本能的な恐怖が肌を粟立たせ、悪寒が背中を駆け抜ける。
これはヤバイと感じたUさんだったが、逃げ出そうにも体が動かない。
音はどんどん近付いてくる。
獣道を下りきったのか、草木を揺らすガサガサという音は消え、ベチャリという音だけがゆっくりとしたペースで規則的に繰り返される。
7 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:09:53.91 ID:rKZkpF2O0
【台風】2/3
やがて、ヘッドライトの光の端っこが照らす地面に、それはベチャリと右足をついた。
かなり遅れて、左足。
両足が揃うと、再び右足を踏み出す。
闇のように均一な黒色をした下半身が光の中に現れる。
見たくないのに、Uさんは視線を逸らす事ができない。
光の中に、ついに全身が現れる。
それは、ひどく太った人間のような形をした、泥の塊だった。
背丈は軽く2mを超えており、体を左右に大きく揺らしながら、左足を引きずるようにしてUさんの方へゆっくりと近付いてくる。
葉を付けたままの枝が体のあちこちから飛び出しており、それらが強風にあおられて ワサワサと震えていた。
目鼻も口も何もないのっぺらぼうの顔のど真ん中にも、大きな枝が斜めに刺さっていた。
ベチャッ、ズリズリズリ、という音を響かせながら、それは広場を通り抜けて農道の入り口へと足を踏み出した。
震えながら茫然とそれを見つめていたUさんだったが、次の瞬間、のっぺらぼうのそいつと目が合ったような気がした。
そいつは歩みを止め、ほんの少しだけ首を傾げてUさんをじっと見つめた。
Uさん曰く、その時がこれまでで一番ゾッとした瞬間だったという。
人間じゃない、と思ったのだそうだ。
見目形の明らかな異常さよりも、そいつの心とでもいうべき部分がUさんを凍りつかせた。
上手く言い表せないが、とした上で、Uさんはこう言った。
「感情が読み取れないとかじゃなく、感情が『なかった』んだよ、完璧に」
8 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:10:18.40 ID:rKZkpF2O0
【台風】3/3
それを感じた瞬間、Uさんは自分の体が動く事に気が付いた。
急いで車に飛び乗り、エンジンをかけようとするが、手が震えてなかなかうまくかからない。
悪戦苦闘している最中、再び濡れた足音が聞こえ始めた。
(来てしまう、あいつが来てしまう!)
ちっくしょう、つけよポンコツが!と悪態を吐いた直後、ようやくエンジンがかかった。
慌てて前を見ると、そいつはかなり近いところまで来ていた。
「ああああああ!」と叫びながら、Uさんは車を猛スピードでバックさせた。
幸いにも脱輪する事なくそのまま200m近くもバックのまま走り抜け、Uさんの軽トラは舗装された公道にお尻から飛び出した。
タイヤが悲鳴を上げるのも構わず乱暴にハンドルをきると、相当な速度超過で脱兎の如く逃げ帰った。
事故を起こさなかったのが不思議なくらいだった。
以来、台風が来てもUさんは夜の見回りへは行かなくなったそうだ。
【了】
10 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/29(土) 19:19:01.21 ID:WCE2gmw+0
『浜辺の寓話』
(1/2)
俺の旧来からの趣味に『釣り』がある。とは言っても、某巨大掲示板でそのスレッドを
度々賑やかす方の意味での『釣り』では無い。こっちは正真正銘のサーフフィッシング、
いわゆる『投げ釣り』というヤツだ。紺碧の大海原に向かい力の限りロッドを振り下ろす
爽快感たるや、これがなかなか癖になったり…。
その日も俺は、夜も明けきらぬうちから穴場のポイントへ向かうべくスクラップ扱いの
トヨタスプリンターのハンドルを握っていた。ここだけの話結構飛ばし、さほどの時間も
要さずに現地に着くとトランクを開け、さっそく軽く舌打ちをする。
「ありゃ。折りたたみ椅子を持って来るのを忘れちまったか」
基本的に立った姿勢でのアプローチが多い投げ釣りであるが、長時間夏の日差しを
浴びながらのそれは結構きついものがある。べったりと岸辺に腰を下ろすにしても、砂と
湿り気とでいたずらにズボンの尻を汚すだけだ。手頃な敷物を探すべく周囲を見渡した
俺は、砂の中に半分ほど埋まっている古ぼけた板に目を留めた。
大きさは縦横70?程、通常のベニヤ板よりもひと周り小さなそれは多少たわみも認め
られたものの、座る分には問題ない。さっそく掘り出して腰を下ろし、仕掛けを作り終えた
俺は第一投を試みた。
弓状にしなるロッドの風切り音と共に勢いよく射出されたジェット天秤はゆるやかな放物
線を描いた後、海上彼方のポイントに小さなしぶきを上げて着水する。それを認めて再び
板にどっかと座り込む俺。クリック音を響かせながらリールに巻かれたラインが幾重にも
シャフトを覆い、殆どそれが巻き取られた頃には仕掛けの先には4匹ほどのいい型をした
シロギスが、銀色の鱗光を伴いながら波打ち際に跳ねていた。
「うん、幸先がいいぞ」
針から外した獲物をシメて無造作にクーラーボックスへ放り込み、餌であるアオイソメを
針先に通していたその時である。
「座っちゃ駄目だよお…」」
11 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/29(土) 19:21:25.98 ID:WCE2gmw+0
(2/2)
俺の背後から初老の男性と思しき、間延びした声が聞こえた。
訪れる人も少ない釣り場であるが、早朝の散歩をする老人や漁師に声を掛けられる事は意外に多い。おそらくその声の主もそんな類の
おっさんであろう。しかし座っちゃ駄目とはちょいと挑発的な物言いだなあ、座っちゃいけないワケでも聞いてみるか。
「はい?」
『何で座っちゃいけないんですか?』との極めて紳士的な問いを喉の奥でスタンバイさせつつ、勢いよく振り返る俺。
…しかし、声の聞こえたと思しき辺りには人っ子一人居なかったものである。
「ありゃ?何かと聞き違えたのかなあ」
釈然とせぬまま、俺は再び針に餌をつけ始めた。
「座ったら駄目だって…」
今度は明らかに、俺の耳元で先ほど同様の声がする。いや、耳元と言うよりもむしろ、頭の中に直接響いて来たかの様な感覚であった。
「だから誰よ!」
ギョッとして再び背後を見据えた俺の目には、やはり誰一人の姿も映らない。
「何だろうね、薄気味悪いな」
俺はぶつぶつ呟きながらも二投目に入ったのであるが、不思議な事にそれ以降ピタリと当たりが無くなってしまったのである。針に掛かる
のはいわゆる『外道』として忌み嫌われる親指大のクサフグやらウグイやら、果てはゴム手袋に至るまでがまるで親の仇であるかの如く
何度も何度も俺の仕掛けに引っかかって来た。
焦り始める自分とは裏腹に、時間だけがただ無情に過ぎてゆくばかり…。
「波はほぼベタ凪ぎだしポイントには正確に打ち込んでるってのに、一体どういう…」
12 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/29(土) 19:22:40.92 ID:WCE2gmw+0
(正3/3)
そうこうするうちに日も天頂近くに達し、肌を焦がす熱波もいい加減鬱陶しく感じた俺は、忸怩たる思いでその場からの
戦略的撤退を決意した。
「あの変な声でケチが付いたな。もう納竿する事にしようっと」
ひとたび大きな欠伸をして、尻に敷いている件の板を拾い上げた俺はその時初めて気がついた。
その板を裏返したところ、わずかながらも掠れかけの文字が見て取れたのである。
「ん、○×丸…?ってこの板、近海漁船か何かの船尾板の破片だったのかよ」
俺の脳裏に蘇る、先ほどのあの間延びした声。
「さっきの声の主は、ひょっとしてこの舟にゆかりのある人だったのかな。そりゃあ自分がかつて関わってた舟に見ず知らずの
奴がケツ掛けたとあっちゃあ、誰だっていい気持ちはしないもんなあ、うん」
その板を元の場所へと戻し、心の中で軽く頭を垂れる俺。帰路につく際に背負い込んだ、完全敗北の証である釣果の入った
ボックスは殆ど空っぽ同然であるにも関わらず、俺の肩には妙にずっしりと重く感じられたものであった。
【了】
14 :わらび餅 ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 19:25:42.67 ID:uO4SmEpe0
『遺書に好かれた男』
私が大学生の頃、実際に友人が体験した話です。
その友人のことはAとしておきましょうか、彼は講義にはあまり真面目に出ないタイプの大学生だったのですが、本を読むのは好きだったらしく大学通りの古本屋に立ち寄ってはバイトで稼いだお金を使っていました。
そんな時、彼は普段趣味で読む為ではなく講義のための教科書を中古で買ったそうです。
遅れて講義にやってきた彼は、
「いやー、ぎりぎり間に合った。さっきそこで教科書買ってきたんだよ、よかったよかった」
と言って私の横の席に着いた。
程なくして講義が始まり、流石に一回目の講義だったこともあってか真面目に教科書をぱらぱらと眺めていた。(でも教授の話は全くメモしていなかった)
私は真面目に教授のメモを取っていたのですが、突如横にいたAは「えっ?」と声を上げてページをめくる手を止めた。
何かが本の間に挟まっていたいたようだ。
中古だしそういうこともあるだろう、と私は気にもとめずにメモを取っていたのですがそれからAは何かずっとそわそわしたような様子でした。
いつもどうでもいい講義のときは寝てることが多い彼なのですが、このときはずっとそんな感じでした。
その後、二人で学食で昼食をとっていたのですが、私が何か聞くよりも前に彼がさっきの講義でのことを話し始めた。
「あのさ……さっき買ってきた教科書なんだけど、こんなものが挟まっててさ……」
そうして見せてきたものは、折りたたまれた紙でした。
それだけならばどうと言うことはないのですが、その紙には『遺書』と折りたたまれた表の部分に書かれていたのです。
「うわっ、何だそれ……マジか」
「マジだよ、どうしようこれ、捨てるわけにも行かないよな……いや、それより」
この遺書を書いた人間はまだ生きているのか? ということに私も思い至ったのですが、Aはそれ以上言葉を続けませんでした。
15 :わらび餅 ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 19:26:41.26 ID:uO4SmEpe0
「中読んだ?」
「読んでない……でも、名前とかわかるかもだし開けてみるか」
そういって折りたたまれた遺書を開いたのですが、内容はとてもあっさりしたものだった。
ありきたりな感じで先立つ不孝をお許しください、といったようなことが書いてあったと思う。
しかし、明らかに内容が途中で切れていた、誰が書いたものかわかるような名前は書かれていなかった。
「書きかけっぽいな」
「そうだな……だったら大丈夫だろ」
そう言ってその場は彼と別れたのですが、どうやら後になってあの遺書は捨ててしまったようです。
それから、彼に不思議なことが起こるようになりました。
買った古本に、『遺書』が挟まっていることが何度か続いたそうなのです。
私は流石にお祓いに行くとか、遺書を焚き上げてもらうなどしたほうがいいんじゃないか、とアドバイスをしました。
Aもそれは実践したようなのですが、彼は日に日に体調を悪くしているようでした。
それから一年もしないうちに、Aは友人にも何も告げずに借りていたアパートを引き払って大学も中退してしまいました。
最後に話したとき、彼は青い顔でこんなことを言っていました。
「せめて名前がわかれば……名前がわかればなぁ……そうしたら……」
ぶつぶつとそんなことを言う彼は、どう見ても何かに憑かれているようでした。
Aのその後がどうなったかは他の友人も知りません。
あの遺書は、無念を残したまま自殺した、名前もわからない誰かの言葉だったのでしょうか……。
了
17 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 19:28:27.86 ID:uO4SmEpe0
【4話】ぺそ ◆qyVZC3tLJo 様
『キャンプ場』
今から20年ほど前、地元で療育団体のサマーキャンプをしたときの話です。
場所はK村とします。
そこは地元の診療所、スポーツ施設、ダイエット道場、キャンプ場などがあるいたって普通の地元の小学校も遠足で行くような場所です。
100人規模のキャンプだったので、中には霊感の強い方などもおり「ここやばいね」と最初からいわれていました。
私自身、感じるほうだったので無事おわるといいなーと思っていました。
ですが、キャンプのイベント中も何度人数確認しても合わない、風呂に人影が通り過ぎるなど怪奇現象は続発していましたね・・・・
キャンプの醍醐味といえば肝試し。
暗い夜の遊歩道の山道を歩き、山を登った先のキャンプ場でスタンプを押して帰る、そういう内容だったと思います。
しかし雰囲気どころか本気で怖い。しかし当時中学生だったので小学生の子達を連れて行かねばならず「大丈夫!」と言い聞かせ出発。
全員が終わったあと、怪奇現象報告がたくさんありました。
お化け役は一人で待機してたはずなのに何人もその場所には二人いたという。霊感の強いひとはなにか連れ帰ったのか宿泊場に戻ると泣きながらゲーゲー吐く・・・・思い出せるだけでそれくらいですがもっとあったと思います。
18 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 19:29:34.01 ID:uO4SmEpe0
そして怪奇現象だらけだった最終日前夜のキャンプファイヤー。
山の上にあり、街灯は一つ。ほぼ真っ暗です。
私がまず体験したのは班ごとに並んでいたのですが、猛烈な視線。
誰か話したいのかとそちらをみると、並んでる子どもの肩から顔全てが緑色のおかっぱの女の子がいました・・・・。
「うわーまずいなー嫌な予感しかしない」と内心おもっていました。
いざキャンプファイヤーが始まるといろんな出し物は楽しく参加してたのですが、猛烈に後ろが気になって仕方がない。チラチラうしろを見てしまうくらいに。
何度も見てるうちに白いワンピースの端だけがふわっと見えることがでてきました。
でもみんなを怖がらせるわけにはいかず、黙って脂汗をかいていました。
もうキャンプファイヤーもおわりに近づいた頃、ボランティアのJくんが真ん中でギターをひいてくれました。
みんなは、もうおわりだなーと聞き惚れてたのですが、私の姉が????しています。
姉はとても霊感が強かったのです。
「Jくんの後ろで白のワンピースの女の人が歌聞いてる・・・・・」
あ、さっきの人か、と私の中で納得しましたがその状況なのに誰も気づかないのが怖すぎるともう真夏なのにブルブル震えていました。
また、毎年キャンプの恒例としてキャンプファイヤーの最後は端からみんなと握手する、といういべんとがありました。
それぞれ楽しかったね、おつかれさまなど言いながら。
私は比較的最初に終わったのでさっきの姉の様子も気になっていたので姉をみていました。
すると・・・・最後の人を通り過ぎてもまた「お疲れ様でしたー」と握手しているのです。
うわーこれは絶対つれてくるぞ!と感じましたがやはり宿泊場に戻った時は「なんかわからんけど涙とまらん・・」とずっと泣き続けていました。
これは感極まって、とかいう種類ではなかったです。
詳しい方にその後の処理をしてもらいましたが、握手のことなど覚えていませんでした。
もう二度とあの場所でキャンプなどしたくないですね。
おわり
20 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:31:17.64 ID:rKZkpF2O0
【手】
小学校に上がった年の夏、じいちゃんの家へ泊まりに行った時の話だ。
その夏は親戚内での祝い事があり、親戚の大半がじいちゃんの家に集まっていた。
俺は集まった親戚の子供達の中ではKという男の子と一番年が近く、その時が初対面だったにも関わらず、悪ガキ同士あっという間に仲良くなった。
俺の家族もKの家族もじいちゃんの家にしばらく泊まる事になっており、俺はそこで過ごす間は毎日Kと二人で夏の冒険ごっこに勤しんだ。
じいちゃんの家は海のすぐ近くにあり、子供の足でも徒歩2分とかからずに浜辺へ出られた。
ただ、海は砂浜の少ない岩だらけの磯で、とがった岩が多い上に潮の流れも複雑なため、泳ぐ事は禁じられていた。
その代わり干潮になると岩伝いにかなり沖の方まで行く事ができ、磯遊びには最適の場所だった。
俺達は潮だまりで魚やカニを捕まえたり、うじゃうじゃいたアメフラシを雪合戦の如く投げ合ったり、こっそり泳いでいるところを見つかって親にゲンコツをもらったりと、実に悪ガキらしく夏の海を満喫していた。
じいちゃんの家に来て四日目。
その日は大潮だったのか、これまでよりさらに沖まで岩場が顔を出していた。
俺はバケツを、Kはタモ網を片手に、海面にほんの少しだけ出ている岩を飛び石のように渡りながら未開拓の岩場へと向かって行った。
いつもは海中に没している大きな潮だまりに近付いた時、俺の前を進んでいたKが急に足を止めた。
「見ろよ、あそこ、手があるぞ!」
Kの肩越しにそちらを覗くと、潮だまりの縁から1mくらい先の水中に人間の手のような物が沈んでいた。
行ってみようぜ、と促され、俺はKに続いて潮だまりの縁を回り込み、その物体へと近付いた。
21 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:34:25.76 ID:rKZkpF2O0
その潮だまりはそれなりの深さがあり、近くまで寄っても水の屈折に邪魔されて見えにくかったが、それが人間の右手の形をしている事だけは分かった。
指を軽く曲げた形の手に10cmほどの腕が付いており、手のひらを下にする形で沈んでいるようだ。
俺達から見て、指先が左、腕の端が右を向いている状態だった。
「マネキンかなぁ」
「分っかんねーよ、もしかしたらバラバラサツジンかも」
俺達は腕の断面がどうなってるかが気になり始めた。
マネキンなら均一な肌色に見えるだろうし、もしも本物なら赤い肉と白い骨が見えるはずだ。
だが、手に一番近い位置からは断面がよく見えず、断面の方の岩場に回り込むと今度は遠くてよく見えなかった。
手に一番近い位置まで戻ってくると、俺達は再びしゃがみこんでそれを眺めた。
人体の一部かも知れない物体が目の前にあるというのはひどく気味が悪かった。
同じ事を感じていたのか、いつもはガキ大将気質で強気なKが、ためらいがちに口を開いた。
「網で…獲ってみる…か?」
「うん…」
ビビリの俺はあれを間近で見る事になるのは怖かったが、獲るのはKがやってくれそうな流れだったので、俺はその提案をとりあえず受け入れた。
同意を得て決心がついたのか、Kは「よし、やるぞ」と気合を口にしつつ、恐る恐るタモ網を差し入れた。
だが、しゃがんだ姿勢では腕を精一杯伸ばしても目標までは届かず、タモ網の先端は手の少し手前の砂地を引っ掻いただけだった。
届かないなぁとぼやきながら、Kは水を揺らして手を転がせないかと砂地を引っ掻き続ける。
舞い上がった砂で濁っていく水の中で手はかすかに揺れているようだったが、転がるほどには動かない。
諦めてタモ網を引っ込めながらチラリと俺を見ると、Kは俺の腕を引っ張って自分の腕と長さを比べたが、ほんの少し自分の方が長いと分かるとガックリとうなだれた。
「どうすっかなー、水に入ったら母ちゃんにぶったたかれるしなー」
濁った水を睨みながら、俺達はしばし思案に暮れた。
22 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:40:47.25 ID:rKZkpF2O0
「…そうだ!うつ伏せになって手ぇ伸ばしたら届くんじゃない?」
俺の案をKはすぐに試そうとしたが、岩場は潮溜まりの水面に向かって落ち込むように下り坂になっており、腹這いになって手を離したら頭から水に突っ込んでいってしまいそうだった。
「お前、ちょっと俺の足押さえてろ」
そう言われ、俺はアシカみたいな体勢になっているKの足をまたいで足首あたりに腰を下ろし、ヒザの裏あたりをしっかりと押さえた。
ズリ落ちないのを確かめると、Kは再びタモ網を水に入れた。
肩近くまで水に浸けながらKが腕を伸ばすと、タモ網の先端は今度は手を軽々と越えて向こう側の砂地を突いた。
意を得たKはそのまま手前に引き寄せながら手を網の中に入れようとするが、向きが悪くてなかなか入らない。
しかも岩に押し当てられているヒザが痛かったらしく、いてーやべーもうムリだーと喚きながら飛び起き、デコボコに岩の痕が付いたヒザを押さえて悶絶し始めた。
「近いとこまで転がったから、あとお前やれ!」
げぇー、と露骨に嫌な顔をする俺に、Kは容赦なくタモ網を投げてよこした。
仕方なくタモ網を水の中に入れると、Kの言った通り、手はしゃがんだ体勢の俺でも十分に網が届く位置まで転がってきていた。
網の中に入れ易いようにつついて向きを変えていくと、気になっていた断面がこちらを向いた。
網を止めて目を凝らすと、幸いそれは肉の赤と骨の白ではなかったが、マネキンの断面とも違っていた。
断面は手や腕の部分と同じ色をしていたが、マネキンのような真っ平らではなく、イボのような丸っこい形状のもので一面びっしりと覆われていた。
あまりの気持ち悪さに怖気づいて一向に網を動かせない俺の背中に、「何ビビってんだよ、早く上げろよー」とKの不機嫌そうな声がぶつけられる。
そりゃこんなキモイの見たらビビるだろ、と思いながらも、口で説明するより見せた方が早いと判断して作業を再開する。
輪っかになっている網の縁で指の先を引っ掛けて持ち上げ、水中に全体が浮いたところで網の中にすくい取る。
そのままの勢いで水から引き揚げたが、水面を出た瞬間の予想外の重さに耐えかねて、半ば取り落とすような感じで自分の左側の岩場に網を下ろした。
23 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:43:54.04 ID:rKZkpF2O0
「おー、獲れた獲れたー!」
テンションの上がったKが真っ先に網先へと駆け寄った。
続いて俺も網先に近付き、網の中に入ったままの手を見た。
置いた拍子に網の輪っかから半分飛び出した断面を見て、Kは顔をしかめた。
「うわ、気持ちわりぃなー…なんだこれ」
親指以外の指はクシャっとなった網に隠れてよく見えなかったが、だからといってとても触る気にはなれず、俺達はしゃがみこんだ状態で様々な角度から覗きこみながら観察を開始した。
見た感じは若い男の右手で、マネキンのような無機質さは全くないが、妙に青白い肌をしていた。
親指には関節のシワも爪もあり、腕には全体的にうっすらと毛が生えていた。
イボのようなもので覆われている断面部分には毛がないようだったが、他はまさに人間の皮膚そのものだ。
見れば見るほど気味が悪く、俺は立ち上がって二三歩あとずさった。
「これ、なんかヤバイ気がする。大人に見せた方がいいんじゃないかな」
難しい顔で謎の手を見つめながら、Kも立ち上がった。
「そうだな、じゃあじいちゃん呼んでくる。海のこと詳しいし。お前、ここで見張ってろ」
「ちょっ、やだよ!」
地元民で元漁師のじいちゃんを選んだ事には何の文句もなかったが、こんな所にこんなモノと取り残されるのは御免だった。
「でも潮が満ちてきてるし、これが波にさらわれちゃったら意味ないだろ。それにお前、足遅いじゃん。俺が行くからお前残って見張れって」
「やだよ、やだってば!じゃあ持っていこうよ、これ網ごと持って二人でじいちゃんのとこに持っていこうよ!」
俺の言葉にKはタモ網の中の手と半泣きの俺の顔を交互に眺めると、怒ったような顔をしてしゃがみこんだ。
「ああもう、分かったよ!じゃあせめてお前も一緒に持てよな」
「やだよ、Kが持ってよ!」
24 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:49:45.93 ID:rKZkpF2O0
丸投げしたい俺と丸投げされたくないKとでケンカになりかけた時、立ち上がろうと一歩踏み出したKの足が偶然タモ網の柄を蹴ってしまった。
二人とも一瞬ハッとしたが、幸いにもタモ網は水に落ちるほどには動かなかった。
一応の確認のつもりで二人そろって手の方に視線を向けた、その時。
ガランガランと網の縁を岩にぶつけながら、手が、暴れ出した。
それは手首を支点に、おいでおいでをするような動きで激しくのたうちまわっていた。
あまりの事に茫然とそれを見つめていた俺は、Kが腰を抜かして尻餅をついた事で我に返り、わあああああ!と叫びながらKを置いて逃げ出した。
が、数歩も行かない所で蹴躓いて転び、結局はKと同様に腰が抜けて動けなくなってしまった。
声にならない悲鳴をもらしながら、体をよじって手の方を振り返る。
がくがく震えているKの向こうで、手は動きを少し緩めて指を複雑に動かし、ちょうど網から抜け出したところだった。
自由になった手は、指と手首を器用に動かして潮だまりの縁を登りきり、ドプンという音を立てて海へと飛び込んだ。
数秒の沈黙の後、俺達は大声を上げながら一目散に逃げ出した。
二人とも足がもつれて何度も水に落ちたり転んだりしたが、もうそれどころではなかった。
じいちゃんの家に帰り着いた俺達は今見たものを必死になって大人達に説明したが、子供の戯言と笑うばかりで取り合ってはもらえなかった。
ただ、俺達の忘れてきたタモ網とバケツを回収しに行ったじいちゃんだけは否定も肯定もせず、こう言った。
「海にはいろんなもんが棲んどる。わしらの知っとるもんなんてほんの一部にすぎん。それが何かなんて事は考えても埒が開かん。忘れろ」
夜になってKは高熱を出し、その日のうちに家族に連れられて自宅へと帰っていった。
俺はそれから二日間じいちゃんの家にいたが、もう海へは出なかった。
【了】
【台風】1/2
Uという知り合いの農家さんから聞いた話だ。
台風が来ると「ちょっと田んぼの様子見てくる」のAAがよく貼られるが、農家さん達は本当にあんな感じで見回りに出かけてしまう。
危ないのは百も承知なのだが、一年分の収入が左右されるだけに、やはり気が気ではないのだそうだ。
特に、車に乗っていれば大丈夫だろうと考えて、多くの農家さんが軽トラに乗って暴風雨の中を出かけていく。
その日のUさんもそうだった。
夜半過ぎ、台風が間近まで迫る中、Uさんは自分の田へ見回りに出かけた。
その棚田は山懐に抱かれたような場所にあり、一番奥の田の縁には山の木々が迫っている。
田と田の間を走る未舗装の農道は軽トラがギリギリ一台通れる程度の幅で、山に突き当たった所で折り返し用の広場になっており、広場の一番奥からは山奥へと続く細い獣道が伸びている。
Uさんの田は奥から二枚目なので、普段は広場まで行って車を停めてから自分の田まで歩いて戻るのだが、深夜の時間帯に他に来る車もいなかろうと、その時はヘッドライトも点けっ放しで自分の田の脇にそのまま停車した。
田や水路の確認を終えて、Uさんが車に乗り込もうとした時。
何か気配を感じ、Uさんはヘッドライトの照らす先へと目を向けた。
光は広場の中ほどまで届いていたのだが、横殴りの雨に遮られて視界は悪い。
それでもじっと目を凝らして広場を見つめていると、高音の耳鳴りが始まった。
音自体は小さいのだが、それは雨音を相殺するかのように脳内で鳴り続け、その中でUさんの耳は聞こえるはずもない音をとらえた。
ベチャリ、ガサガサ。ベチャリ、ガサガサ。
濡れた土を踏みしめ、草木を揺らしながら、何かが山から下りてくる…そんな音が、ノイズを切り裂いて妙にクリアに響いてきた。
本能的な恐怖が肌を粟立たせ、悪寒が背中を駆け抜ける。
これはヤバイと感じたUさんだったが、逃げ出そうにも体が動かない。
音はどんどん近付いてくる。
獣道を下りきったのか、草木を揺らすガサガサという音は消え、ベチャリという音だけがゆっくりとしたペースで規則的に繰り返される。
7 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:09:53.91 ID:rKZkpF2O0
【台風】2/3
やがて、ヘッドライトの光の端っこが照らす地面に、それはベチャリと右足をついた。
かなり遅れて、左足。
両足が揃うと、再び右足を踏み出す。
闇のように均一な黒色をした下半身が光の中に現れる。
見たくないのに、Uさんは視線を逸らす事ができない。
光の中に、ついに全身が現れる。
それは、ひどく太った人間のような形をした、泥の塊だった。
背丈は軽く2mを超えており、体を左右に大きく揺らしながら、左足を引きずるようにしてUさんの方へゆっくりと近付いてくる。
葉を付けたままの枝が体のあちこちから飛び出しており、それらが強風にあおられて ワサワサと震えていた。
目鼻も口も何もないのっぺらぼうの顔のど真ん中にも、大きな枝が斜めに刺さっていた。
ベチャッ、ズリズリズリ、という音を響かせながら、それは広場を通り抜けて農道の入り口へと足を踏み出した。
震えながら茫然とそれを見つめていたUさんだったが、次の瞬間、のっぺらぼうのそいつと目が合ったような気がした。
そいつは歩みを止め、ほんの少しだけ首を傾げてUさんをじっと見つめた。
Uさん曰く、その時がこれまでで一番ゾッとした瞬間だったという。
人間じゃない、と思ったのだそうだ。
見目形の明らかな異常さよりも、そいつの心とでもいうべき部分がUさんを凍りつかせた。
上手く言い表せないが、とした上で、Uさんはこう言った。
「感情が読み取れないとかじゃなく、感情が『なかった』んだよ、完璧に」
8 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:10:18.40 ID:rKZkpF2O0
【台風】3/3
それを感じた瞬間、Uさんは自分の体が動く事に気が付いた。
急いで車に飛び乗り、エンジンをかけようとするが、手が震えてなかなかうまくかからない。
悪戦苦闘している最中、再び濡れた足音が聞こえ始めた。
(来てしまう、あいつが来てしまう!)
ちっくしょう、つけよポンコツが!と悪態を吐いた直後、ようやくエンジンがかかった。
慌てて前を見ると、そいつはかなり近いところまで来ていた。
「ああああああ!」と叫びながら、Uさんは車を猛スピードでバックさせた。
幸いにも脱輪する事なくそのまま200m近くもバックのまま走り抜け、Uさんの軽トラは舗装された公道にお尻から飛び出した。
タイヤが悲鳴を上げるのも構わず乱暴にハンドルをきると、相当な速度超過で脱兎の如く逃げ帰った。
事故を起こさなかったのが不思議なくらいだった。
以来、台風が来てもUさんは夜の見回りへは行かなくなったそうだ。
【了】
10 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/29(土) 19:19:01.21 ID:WCE2gmw+0
『浜辺の寓話』
(1/2)
俺の旧来からの趣味に『釣り』がある。とは言っても、某巨大掲示板でそのスレッドを
度々賑やかす方の意味での『釣り』では無い。こっちは正真正銘のサーフフィッシング、
いわゆる『投げ釣り』というヤツだ。紺碧の大海原に向かい力の限りロッドを振り下ろす
爽快感たるや、これがなかなか癖になったり…。
その日も俺は、夜も明けきらぬうちから穴場のポイントへ向かうべくスクラップ扱いの
トヨタスプリンターのハンドルを握っていた。ここだけの話結構飛ばし、さほどの時間も
要さずに現地に着くとトランクを開け、さっそく軽く舌打ちをする。
「ありゃ。折りたたみ椅子を持って来るのを忘れちまったか」
基本的に立った姿勢でのアプローチが多い投げ釣りであるが、長時間夏の日差しを
浴びながらのそれは結構きついものがある。べったりと岸辺に腰を下ろすにしても、砂と
湿り気とでいたずらにズボンの尻を汚すだけだ。手頃な敷物を探すべく周囲を見渡した
俺は、砂の中に半分ほど埋まっている古ぼけた板に目を留めた。
大きさは縦横70?程、通常のベニヤ板よりもひと周り小さなそれは多少たわみも認め
られたものの、座る分には問題ない。さっそく掘り出して腰を下ろし、仕掛けを作り終えた
俺は第一投を試みた。
弓状にしなるロッドの風切り音と共に勢いよく射出されたジェット天秤はゆるやかな放物
線を描いた後、海上彼方のポイントに小さなしぶきを上げて着水する。それを認めて再び
板にどっかと座り込む俺。クリック音を響かせながらリールに巻かれたラインが幾重にも
シャフトを覆い、殆どそれが巻き取られた頃には仕掛けの先には4匹ほどのいい型をした
シロギスが、銀色の鱗光を伴いながら波打ち際に跳ねていた。
「うん、幸先がいいぞ」
針から外した獲物をシメて無造作にクーラーボックスへ放り込み、餌であるアオイソメを
針先に通していたその時である。
「座っちゃ駄目だよお…」」
11 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/29(土) 19:21:25.98 ID:WCE2gmw+0
(2/2)
俺の背後から初老の男性と思しき、間延びした声が聞こえた。
訪れる人も少ない釣り場であるが、早朝の散歩をする老人や漁師に声を掛けられる事は意外に多い。おそらくその声の主もそんな類の
おっさんであろう。しかし座っちゃ駄目とはちょいと挑発的な物言いだなあ、座っちゃいけないワケでも聞いてみるか。
「はい?」
『何で座っちゃいけないんですか?』との極めて紳士的な問いを喉の奥でスタンバイさせつつ、勢いよく振り返る俺。
…しかし、声の聞こえたと思しき辺りには人っ子一人居なかったものである。
「ありゃ?何かと聞き違えたのかなあ」
釈然とせぬまま、俺は再び針に餌をつけ始めた。
「座ったら駄目だって…」
今度は明らかに、俺の耳元で先ほど同様の声がする。いや、耳元と言うよりもむしろ、頭の中に直接響いて来たかの様な感覚であった。
「だから誰よ!」
ギョッとして再び背後を見据えた俺の目には、やはり誰一人の姿も映らない。
「何だろうね、薄気味悪いな」
俺はぶつぶつ呟きながらも二投目に入ったのであるが、不思議な事にそれ以降ピタリと当たりが無くなってしまったのである。針に掛かる
のはいわゆる『外道』として忌み嫌われる親指大のクサフグやらウグイやら、果てはゴム手袋に至るまでがまるで親の仇であるかの如く
何度も何度も俺の仕掛けに引っかかって来た。
焦り始める自分とは裏腹に、時間だけがただ無情に過ぎてゆくばかり…。
「波はほぼベタ凪ぎだしポイントには正確に打ち込んでるってのに、一体どういう…」
(正3/3)
そうこうするうちに日も天頂近くに達し、肌を焦がす熱波もいい加減鬱陶しく感じた俺は、忸怩たる思いでその場からの
戦略的撤退を決意した。
「あの変な声でケチが付いたな。もう納竿する事にしようっと」
ひとたび大きな欠伸をして、尻に敷いている件の板を拾い上げた俺はその時初めて気がついた。
その板を裏返したところ、わずかながらも掠れかけの文字が見て取れたのである。
「ん、○×丸…?ってこの板、近海漁船か何かの船尾板の破片だったのかよ」
俺の脳裏に蘇る、先ほどのあの間延びした声。
「さっきの声の主は、ひょっとしてこの舟にゆかりのある人だったのかな。そりゃあ自分がかつて関わってた舟に見ず知らずの
奴がケツ掛けたとあっちゃあ、誰だっていい気持ちはしないもんなあ、うん」
その板を元の場所へと戻し、心の中で軽く頭を垂れる俺。帰路につく際に背負い込んだ、完全敗北の証である釣果の入った
ボックスは殆ど空っぽ同然であるにも関わらず、俺の肩には妙にずっしりと重く感じられたものであった。
【了】
14 :わらび餅 ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 19:25:42.67 ID:uO4SmEpe0
『遺書に好かれた男』
私が大学生の頃、実際に友人が体験した話です。
その友人のことはAとしておきましょうか、彼は講義にはあまり真面目に出ないタイプの大学生だったのですが、本を読むのは好きだったらしく大学通りの古本屋に立ち寄ってはバイトで稼いだお金を使っていました。
そんな時、彼は普段趣味で読む為ではなく講義のための教科書を中古で買ったそうです。
遅れて講義にやってきた彼は、
「いやー、ぎりぎり間に合った。さっきそこで教科書買ってきたんだよ、よかったよかった」
と言って私の横の席に着いた。
程なくして講義が始まり、流石に一回目の講義だったこともあってか真面目に教科書をぱらぱらと眺めていた。(でも教授の話は全くメモしていなかった)
私は真面目に教授のメモを取っていたのですが、突如横にいたAは「えっ?」と声を上げてページをめくる手を止めた。
何かが本の間に挟まっていたいたようだ。
中古だしそういうこともあるだろう、と私は気にもとめずにメモを取っていたのですがそれからAは何かずっとそわそわしたような様子でした。
いつもどうでもいい講義のときは寝てることが多い彼なのですが、このときはずっとそんな感じでした。
その後、二人で学食で昼食をとっていたのですが、私が何か聞くよりも前に彼がさっきの講義でのことを話し始めた。
「あのさ……さっき買ってきた教科書なんだけど、こんなものが挟まっててさ……」
そうして見せてきたものは、折りたたまれた紙でした。
それだけならばどうと言うことはないのですが、その紙には『遺書』と折りたたまれた表の部分に書かれていたのです。
「うわっ、何だそれ……マジか」
「マジだよ、どうしようこれ、捨てるわけにも行かないよな……いや、それより」
この遺書を書いた人間はまだ生きているのか? ということに私も思い至ったのですが、Aはそれ以上言葉を続けませんでした。
15 :わらび餅 ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 19:26:41.26 ID:uO4SmEpe0
「中読んだ?」
「読んでない……でも、名前とかわかるかもだし開けてみるか」
そういって折りたたまれた遺書を開いたのですが、内容はとてもあっさりしたものだった。
ありきたりな感じで先立つ不孝をお許しください、といったようなことが書いてあったと思う。
しかし、明らかに内容が途中で切れていた、誰が書いたものかわかるような名前は書かれていなかった。
「書きかけっぽいな」
「そうだな……だったら大丈夫だろ」
そう言ってその場は彼と別れたのですが、どうやら後になってあの遺書は捨ててしまったようです。
それから、彼に不思議なことが起こるようになりました。
買った古本に、『遺書』が挟まっていることが何度か続いたそうなのです。
私は流石にお祓いに行くとか、遺書を焚き上げてもらうなどしたほうがいいんじゃないか、とアドバイスをしました。
Aもそれは実践したようなのですが、彼は日に日に体調を悪くしているようでした。
それから一年もしないうちに、Aは友人にも何も告げずに借りていたアパートを引き払って大学も中退してしまいました。
最後に話したとき、彼は青い顔でこんなことを言っていました。
「せめて名前がわかれば……名前がわかればなぁ……そうしたら……」
ぶつぶつとそんなことを言う彼は、どう見ても何かに憑かれているようでした。
Aのその後がどうなったかは他の友人も知りません。
あの遺書は、無念を残したまま自殺した、名前もわからない誰かの言葉だったのでしょうか……。
了
17 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 19:28:27.86 ID:uO4SmEpe0
【4話】ぺそ ◆qyVZC3tLJo 様
『キャンプ場』
今から20年ほど前、地元で療育団体のサマーキャンプをしたときの話です。
場所はK村とします。
そこは地元の診療所、スポーツ施設、ダイエット道場、キャンプ場などがあるいたって普通の地元の小学校も遠足で行くような場所です。
100人規模のキャンプだったので、中には霊感の強い方などもおり「ここやばいね」と最初からいわれていました。
私自身、感じるほうだったので無事おわるといいなーと思っていました。
ですが、キャンプのイベント中も何度人数確認しても合わない、風呂に人影が通り過ぎるなど怪奇現象は続発していましたね・・・・
キャンプの醍醐味といえば肝試し。
暗い夜の遊歩道の山道を歩き、山を登った先のキャンプ場でスタンプを押して帰る、そういう内容だったと思います。
しかし雰囲気どころか本気で怖い。しかし当時中学生だったので小学生の子達を連れて行かねばならず「大丈夫!」と言い聞かせ出発。
全員が終わったあと、怪奇現象報告がたくさんありました。
お化け役は一人で待機してたはずなのに何人もその場所には二人いたという。霊感の強いひとはなにか連れ帰ったのか宿泊場に戻ると泣きながらゲーゲー吐く・・・・思い出せるだけでそれくらいですがもっとあったと思います。
18 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 19:29:34.01 ID:uO4SmEpe0
そして怪奇現象だらけだった最終日前夜のキャンプファイヤー。
山の上にあり、街灯は一つ。ほぼ真っ暗です。
私がまず体験したのは班ごとに並んでいたのですが、猛烈な視線。
誰か話したいのかとそちらをみると、並んでる子どもの肩から顔全てが緑色のおかっぱの女の子がいました・・・・。
「うわーまずいなー嫌な予感しかしない」と内心おもっていました。
いざキャンプファイヤーが始まるといろんな出し物は楽しく参加してたのですが、猛烈に後ろが気になって仕方がない。チラチラうしろを見てしまうくらいに。
何度も見てるうちに白いワンピースの端だけがふわっと見えることがでてきました。
でもみんなを怖がらせるわけにはいかず、黙って脂汗をかいていました。
もうキャンプファイヤーもおわりに近づいた頃、ボランティアのJくんが真ん中でギターをひいてくれました。
みんなは、もうおわりだなーと聞き惚れてたのですが、私の姉が????しています。
姉はとても霊感が強かったのです。
「Jくんの後ろで白のワンピースの女の人が歌聞いてる・・・・・」
あ、さっきの人か、と私の中で納得しましたがその状況なのに誰も気づかないのが怖すぎるともう真夏なのにブルブル震えていました。
また、毎年キャンプの恒例としてキャンプファイヤーの最後は端からみんなと握手する、といういべんとがありました。
それぞれ楽しかったね、おつかれさまなど言いながら。
私は比較的最初に終わったのでさっきの姉の様子も気になっていたので姉をみていました。
すると・・・・最後の人を通り過ぎてもまた「お疲れ様でしたー」と握手しているのです。
うわーこれは絶対つれてくるぞ!と感じましたがやはり宿泊場に戻った時は「なんかわからんけど涙とまらん・・」とずっと泣き続けていました。
これは感極まって、とかいう種類ではなかったです。
詳しい方にその後の処理をしてもらいましたが、握手のことなど覚えていませんでした。
もう二度とあの場所でキャンプなどしたくないですね。
おわり
20 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:31:17.64 ID:rKZkpF2O0
【手】
小学校に上がった年の夏、じいちゃんの家へ泊まりに行った時の話だ。
その夏は親戚内での祝い事があり、親戚の大半がじいちゃんの家に集まっていた。
俺は集まった親戚の子供達の中ではKという男の子と一番年が近く、その時が初対面だったにも関わらず、悪ガキ同士あっという間に仲良くなった。
俺の家族もKの家族もじいちゃんの家にしばらく泊まる事になっており、俺はそこで過ごす間は毎日Kと二人で夏の冒険ごっこに勤しんだ。
じいちゃんの家は海のすぐ近くにあり、子供の足でも徒歩2分とかからずに浜辺へ出られた。
ただ、海は砂浜の少ない岩だらけの磯で、とがった岩が多い上に潮の流れも複雑なため、泳ぐ事は禁じられていた。
その代わり干潮になると岩伝いにかなり沖の方まで行く事ができ、磯遊びには最適の場所だった。
俺達は潮だまりで魚やカニを捕まえたり、うじゃうじゃいたアメフラシを雪合戦の如く投げ合ったり、こっそり泳いでいるところを見つかって親にゲンコツをもらったりと、実に悪ガキらしく夏の海を満喫していた。
じいちゃんの家に来て四日目。
その日は大潮だったのか、これまでよりさらに沖まで岩場が顔を出していた。
俺はバケツを、Kはタモ網を片手に、海面にほんの少しだけ出ている岩を飛び石のように渡りながら未開拓の岩場へと向かって行った。
いつもは海中に没している大きな潮だまりに近付いた時、俺の前を進んでいたKが急に足を止めた。
「見ろよ、あそこ、手があるぞ!」
Kの肩越しにそちらを覗くと、潮だまりの縁から1mくらい先の水中に人間の手のような物が沈んでいた。
行ってみようぜ、と促され、俺はKに続いて潮だまりの縁を回り込み、その物体へと近付いた。
21 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:34:25.76 ID:rKZkpF2O0
その潮だまりはそれなりの深さがあり、近くまで寄っても水の屈折に邪魔されて見えにくかったが、それが人間の右手の形をしている事だけは分かった。
指を軽く曲げた形の手に10cmほどの腕が付いており、手のひらを下にする形で沈んでいるようだ。
俺達から見て、指先が左、腕の端が右を向いている状態だった。
「マネキンかなぁ」
「分っかんねーよ、もしかしたらバラバラサツジンかも」
俺達は腕の断面がどうなってるかが気になり始めた。
マネキンなら均一な肌色に見えるだろうし、もしも本物なら赤い肉と白い骨が見えるはずだ。
だが、手に一番近い位置からは断面がよく見えず、断面の方の岩場に回り込むと今度は遠くてよく見えなかった。
手に一番近い位置まで戻ってくると、俺達は再びしゃがみこんでそれを眺めた。
人体の一部かも知れない物体が目の前にあるというのはひどく気味が悪かった。
同じ事を感じていたのか、いつもはガキ大将気質で強気なKが、ためらいがちに口を開いた。
「網で…獲ってみる…か?」
「うん…」
ビビリの俺はあれを間近で見る事になるのは怖かったが、獲るのはKがやってくれそうな流れだったので、俺はその提案をとりあえず受け入れた。
同意を得て決心がついたのか、Kは「よし、やるぞ」と気合を口にしつつ、恐る恐るタモ網を差し入れた。
だが、しゃがんだ姿勢では腕を精一杯伸ばしても目標までは届かず、タモ網の先端は手の少し手前の砂地を引っ掻いただけだった。
届かないなぁとぼやきながら、Kは水を揺らして手を転がせないかと砂地を引っ掻き続ける。
舞い上がった砂で濁っていく水の中で手はかすかに揺れているようだったが、転がるほどには動かない。
諦めてタモ網を引っ込めながらチラリと俺を見ると、Kは俺の腕を引っ張って自分の腕と長さを比べたが、ほんの少し自分の方が長いと分かるとガックリとうなだれた。
「どうすっかなー、水に入ったら母ちゃんにぶったたかれるしなー」
濁った水を睨みながら、俺達はしばし思案に暮れた。
22 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:40:47.25 ID:rKZkpF2O0
「…そうだ!うつ伏せになって手ぇ伸ばしたら届くんじゃない?」
俺の案をKはすぐに試そうとしたが、岩場は潮溜まりの水面に向かって落ち込むように下り坂になっており、腹這いになって手を離したら頭から水に突っ込んでいってしまいそうだった。
「お前、ちょっと俺の足押さえてろ」
そう言われ、俺はアシカみたいな体勢になっているKの足をまたいで足首あたりに腰を下ろし、ヒザの裏あたりをしっかりと押さえた。
ズリ落ちないのを確かめると、Kは再びタモ網を水に入れた。
肩近くまで水に浸けながらKが腕を伸ばすと、タモ網の先端は今度は手を軽々と越えて向こう側の砂地を突いた。
意を得たKはそのまま手前に引き寄せながら手を網の中に入れようとするが、向きが悪くてなかなか入らない。
しかも岩に押し当てられているヒザが痛かったらしく、いてーやべーもうムリだーと喚きながら飛び起き、デコボコに岩の痕が付いたヒザを押さえて悶絶し始めた。
「近いとこまで転がったから、あとお前やれ!」
げぇー、と露骨に嫌な顔をする俺に、Kは容赦なくタモ網を投げてよこした。
仕方なくタモ網を水の中に入れると、Kの言った通り、手はしゃがんだ体勢の俺でも十分に網が届く位置まで転がってきていた。
網の中に入れ易いようにつついて向きを変えていくと、気になっていた断面がこちらを向いた。
網を止めて目を凝らすと、幸いそれは肉の赤と骨の白ではなかったが、マネキンの断面とも違っていた。
断面は手や腕の部分と同じ色をしていたが、マネキンのような真っ平らではなく、イボのような丸っこい形状のもので一面びっしりと覆われていた。
あまりの気持ち悪さに怖気づいて一向に網を動かせない俺の背中に、「何ビビってんだよ、早く上げろよー」とKの不機嫌そうな声がぶつけられる。
そりゃこんなキモイの見たらビビるだろ、と思いながらも、口で説明するより見せた方が早いと判断して作業を再開する。
輪っかになっている網の縁で指の先を引っ掛けて持ち上げ、水中に全体が浮いたところで網の中にすくい取る。
そのままの勢いで水から引き揚げたが、水面を出た瞬間の予想外の重さに耐えかねて、半ば取り落とすような感じで自分の左側の岩場に網を下ろした。
23 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:43:54.04 ID:rKZkpF2O0
「おー、獲れた獲れたー!」
テンションの上がったKが真っ先に網先へと駆け寄った。
続いて俺も網先に近付き、網の中に入ったままの手を見た。
置いた拍子に網の輪っかから半分飛び出した断面を見て、Kは顔をしかめた。
「うわ、気持ちわりぃなー…なんだこれ」
親指以外の指はクシャっとなった網に隠れてよく見えなかったが、だからといってとても触る気にはなれず、俺達はしゃがみこんだ状態で様々な角度から覗きこみながら観察を開始した。
見た感じは若い男の右手で、マネキンのような無機質さは全くないが、妙に青白い肌をしていた。
親指には関節のシワも爪もあり、腕には全体的にうっすらと毛が生えていた。
イボのようなもので覆われている断面部分には毛がないようだったが、他はまさに人間の皮膚そのものだ。
見れば見るほど気味が悪く、俺は立ち上がって二三歩あとずさった。
「これ、なんかヤバイ気がする。大人に見せた方がいいんじゃないかな」
難しい顔で謎の手を見つめながら、Kも立ち上がった。
「そうだな、じゃあじいちゃん呼んでくる。海のこと詳しいし。お前、ここで見張ってろ」
「ちょっ、やだよ!」
地元民で元漁師のじいちゃんを選んだ事には何の文句もなかったが、こんな所にこんなモノと取り残されるのは御免だった。
「でも潮が満ちてきてるし、これが波にさらわれちゃったら意味ないだろ。それにお前、足遅いじゃん。俺が行くからお前残って見張れって」
「やだよ、やだってば!じゃあ持っていこうよ、これ網ごと持って二人でじいちゃんのとこに持っていこうよ!」
俺の言葉にKはタモ網の中の手と半泣きの俺の顔を交互に眺めると、怒ったような顔をしてしゃがみこんだ。
「ああもう、分かったよ!じゃあせめてお前も一緒に持てよな」
「やだよ、Kが持ってよ!」
24 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 19:49:45.93 ID:rKZkpF2O0
丸投げしたい俺と丸投げされたくないKとでケンカになりかけた時、立ち上がろうと一歩踏み出したKの足が偶然タモ網の柄を蹴ってしまった。
二人とも一瞬ハッとしたが、幸いにもタモ網は水に落ちるほどには動かなかった。
一応の確認のつもりで二人そろって手の方に視線を向けた、その時。
ガランガランと網の縁を岩にぶつけながら、手が、暴れ出した。
それは手首を支点に、おいでおいでをするような動きで激しくのたうちまわっていた。
あまりの事に茫然とそれを見つめていた俺は、Kが腰を抜かして尻餅をついた事で我に返り、わあああああ!と叫びながらKを置いて逃げ出した。
が、数歩も行かない所で蹴躓いて転び、結局はKと同様に腰が抜けて動けなくなってしまった。
声にならない悲鳴をもらしながら、体をよじって手の方を振り返る。
がくがく震えているKの向こうで、手は動きを少し緩めて指を複雑に動かし、ちょうど網から抜け出したところだった。
自由になった手は、指と手首を器用に動かして潮だまりの縁を登りきり、ドプンという音を立てて海へと飛び込んだ。
数秒の沈黙の後、俺達は大声を上げながら一目散に逃げ出した。
二人とも足がもつれて何度も水に落ちたり転んだりしたが、もうそれどころではなかった。
じいちゃんの家に帰り着いた俺達は今見たものを必死になって大人達に説明したが、子供の戯言と笑うばかりで取り合ってはもらえなかった。
ただ、俺達の忘れてきたタモ網とバケツを回収しに行ったじいちゃんだけは否定も肯定もせず、こう言った。
「海にはいろんなもんが棲んどる。わしらの知っとるもんなんてほんの一部にすぎん。それが何かなんて事は考えても埒が開かん。忘れろ」
夜になってKは高熱を出し、その日のうちに家族に連れられて自宅へと帰っていった。
俺はそれから二日間じいちゃんの家にいたが、もう海へは出なかった。
【了】
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