百物語2011
Part1
8 :昨日の人 ◆3wiF1V29nQ :2011/08/19(金) 21:01:40.53 ID:inQZMRwE0
夏の風景 1/4
小学校低学年の頃のお話。
妹(ちい)を連れて市民プールへ遊びに行った帰り道。
遠くで蝉がシワシワ鳴いている、何処までも続く田んぼ道。
急に風が冷たくなってきたので(雷(らい)さまがきそうだー。)と思った。
(これ以上は早くこげんー。)後ろに妹を乗せた私は既に立ち漕ぎ状態だ。
「間に合わなかったら一本(いっぽん)さんなー。ちい、落ちるなよー。」後ろを向き妹に言う。
ギュッと私のシャツをつかみ返して「にいちゃん、降りようか?」と聞き返してくる。
「カラータイマーはまだふつーだ!」兄の意地。
一本さんが見える頃には、空は暗く時折シカッゴロゴロゴロと眩しい位に輝いた。
「雷さま早いから、一本さんとこで雨宿りするぞー。」「うん。」
一本さんの道を挟んで斜め前に、それはそれはボロボロのトタン屋根。
小さなバス停に二人で逃げ込んだ。埃の匂いと共に大粒の雨が降り出した。
12 :昨日の人 ◆3wiF1V29nQ :2011/08/19(金) 21:03:59.59 ID:inQZMRwE0
2/4
一本さんは田んぼの真ん中にある、大きな栗の木。根元に小さな御キツネ様が奉られている。
四方を見渡しても田園が彼方まで広がっている。広大な田園の中に一本さんと道を挟んでボロバス停。
妹と入ったバス停も雨宿り程度なら心配要らないようだった。いつもの夕立なら。
雷さまと夕立は、この辺なら当たり前に夏の夕方にくる。雷さまが鳴り出し、物凄い雨が降り、
あっという間(30分〜1時間程度)に去って行く。だけど今回は雷さまが止まない、近い。
雨が降り出せば雷さまは遠のく、はずなんだけど。
シカッッ!ドンッッ!!キカッッ!ドゴーン!!
眩しいストロボを焚かれたかと思えば、お腹を飛ばされるような衝撃。光と音が近い。
「にいちゃん、一本さんあぶない!」妹が叫ぶ。釣られて一本さんを見た。
ピッッッシュルルルルゴッ!ッズズゥゥゥン・・・
距離にしても子供の歩幅で20m離れていない、一本さんに直撃した。
音が聞こえない。豪雨も雷さまの音も聞こえないィイーンって音しか聞こえない。
片手で私のシャツを掴んだままの妹が指差す、一本さんの木を。
14 :昨日の人 ◆3wiF1V29nQ :2011/08/19(金) 21:06:13.46 ID:inQZMRwE0
3/4
一本さんの木の根元には青く光るの子供がいた。
その子はしばらく木の周りをウロウロすると、顔を覆うように泣き出したように見えた。
「・・・ぃいちゃん!にいちゃん!一本さん!」やっと耳が聞こえた。妹が叫んでいる。
「一本さんこっちへ来てー!」「一本さん早くこっちへー!」わけも分からず兄妹で子供に叫び続けた。
木の焼けた匂いがした。一本さんに雷さま落ちたのかってあらためて感じた。
一本さんは私たちを見ると、今度はこっちへ来いと手招きをしていた。
「にいちゃん、いこ!一本さんとこいこ!」圧倒され妹をおぶって道を横切った。
ッキシャッッッ!ドンッッ!!
今まで居たバス停が無くなった・・・子供も・・・
帰り道今までの空が嘘のよう、妹を乗せ家路につく。
17 :昨日の人 ◆3wiF1V29nQ :2011/08/19(金) 21:08:15.48 ID:inQZMRwE0
4/4
翌日兄妹どちらからともなく「一本さんとこいこ」となった。
当時ラムネは20円。瓶代込みの値段だ。二人で小遣い20円。
「一本さん、熱かったから」って置いてきた。
一本さんは落雷で枯れたけど、新芽がそのまま育ってる。
今でも田園の只中に小さくなっちゃったけど、一本さんはあります。
夏の風景 1/4
小学校低学年の頃のお話。
妹(ちい)を連れて市民プールへ遊びに行った帰り道。
遠くで蝉がシワシワ鳴いている、何処までも続く田んぼ道。
急に風が冷たくなってきたので(雷(らい)さまがきそうだー。)と思った。
(これ以上は早くこげんー。)後ろに妹を乗せた私は既に立ち漕ぎ状態だ。
「間に合わなかったら一本(いっぽん)さんなー。ちい、落ちるなよー。」後ろを向き妹に言う。
ギュッと私のシャツをつかみ返して「にいちゃん、降りようか?」と聞き返してくる。
「カラータイマーはまだふつーだ!」兄の意地。
一本さんが見える頃には、空は暗く時折シカッゴロゴロゴロと眩しい位に輝いた。
「雷さま早いから、一本さんとこで雨宿りするぞー。」「うん。」
一本さんの道を挟んで斜め前に、それはそれはボロボロのトタン屋根。
小さなバス停に二人で逃げ込んだ。埃の匂いと共に大粒の雨が降り出した。
12 :昨日の人 ◆3wiF1V29nQ :2011/08/19(金) 21:03:59.59 ID:inQZMRwE0
2/4
一本さんは田んぼの真ん中にある、大きな栗の木。根元に小さな御キツネ様が奉られている。
四方を見渡しても田園が彼方まで広がっている。広大な田園の中に一本さんと道を挟んでボロバス停。
妹と入ったバス停も雨宿り程度なら心配要らないようだった。いつもの夕立なら。
雷さまと夕立は、この辺なら当たり前に夏の夕方にくる。雷さまが鳴り出し、物凄い雨が降り、
あっという間(30分〜1時間程度)に去って行く。だけど今回は雷さまが止まない、近い。
雨が降り出せば雷さまは遠のく、はずなんだけど。
シカッッ!ドンッッ!!キカッッ!ドゴーン!!
眩しいストロボを焚かれたかと思えば、お腹を飛ばされるような衝撃。光と音が近い。
「にいちゃん、一本さんあぶない!」妹が叫ぶ。釣られて一本さんを見た。
ピッッッシュルルルルゴッ!ッズズゥゥゥン・・・
距離にしても子供の歩幅で20m離れていない、一本さんに直撃した。
音が聞こえない。豪雨も雷さまの音も聞こえないィイーンって音しか聞こえない。
片手で私のシャツを掴んだままの妹が指差す、一本さんの木を。
14 :昨日の人 ◆3wiF1V29nQ :2011/08/19(金) 21:06:13.46 ID:inQZMRwE0
3/4
一本さんの木の根元には青く光るの子供がいた。
その子はしばらく木の周りをウロウロすると、顔を覆うように泣き出したように見えた。
「・・・ぃいちゃん!にいちゃん!一本さん!」やっと耳が聞こえた。妹が叫んでいる。
「一本さんこっちへ来てー!」「一本さん早くこっちへー!」わけも分からず兄妹で子供に叫び続けた。
木の焼けた匂いがした。一本さんに雷さま落ちたのかってあらためて感じた。
一本さんは私たちを見ると、今度はこっちへ来いと手招きをしていた。
「にいちゃん、いこ!一本さんとこいこ!」圧倒され妹をおぶって道を横切った。
ッキシャッッッ!ドンッッ!!
今まで居たバス停が無くなった・・・子供も・・・
帰り道今までの空が嘘のよう、妹を乗せ家路につく。
17 :昨日の人 ◆3wiF1V29nQ :2011/08/19(金) 21:08:15.48 ID:inQZMRwE0
4/4
翌日兄妹どちらからともなく「一本さんとこいこ」となった。
当時ラムネは20円。瓶代込みの値段だ。二人で小遣い20円。
「一本さん、熱かったから」って置いてきた。
一本さんは落雷で枯れたけど、新芽がそのまま育ってる。
今でも田園の只中に小さくなっちゃったけど、一本さんはあります。
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