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半年前に母親が亡くなりました。

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この話を読んだ方は、今日だけでも優しくしてやって下さい。これが、家族ぬくもりてぃー。うぉぉぉぉぉぉ母さぁぁぁぁぁぁん!!

1: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 21:49:29 ID:DBFmxdQH
板違いかもしれないけど
ちょっと人に話して気持ちに整理つけたいんだ
まとめてないからgdgdだけどごめん

2: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 21:51:12 ID:DBFmxdQH
俺は今23歳。九州の田舎に住んでる。
生まれたのは隣の県で実家もそこにある。
今からする話は今から12年位前のことになります。

3: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 21:53:40 ID:DBFmxdQH
俺は小さいとき母さんっ子で、今思うとかなりのマザコンだった。
さすがにちゃん付けで呼ばれてたり一緒に寝てたりはしなかったけど。
父親もとても優しかった。でも残業の多い中小企業の平だったから、いつも俺が寝るころに帰ってきてたんだ。

4: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 21:56:04 ID:V452TcSV
>>1
お前、大坊か?とりあえずしゃぶれよ。

7: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:04:25 ID:DBFmxdQH
>>4 一応社会人だよ 印刷会社で営業やってる
ある日父さんが疲れきった顔して帰ってきた。
話をまとめると、会社内で大きなトラブルがあったらしく、
父さんはその責任を被ったという。
新人のミスだったが、その新人は当日で会社を辞めて実質責任逃れしたらしい。


5: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 21:57:21 ID:DBFmxdQH
生活は中流の下くらいで、子供心に不満を感じるようなことはなかった。
母さんはコーヒーが大好きで、一日に軽くマグカップ10杯は飲んでいた。
台所にはいつでも使えるようにドリップのペーパーと挽いたコーヒー豆の缶がおいてあって、家に居るときは必ずコーヒーの香りがしてた。

6: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:00:57 ID:DBFmxdQH
俺が家に居るときは、いつもコーヒーを入れてあげていた。
特に意味もないけど、コーヒー豆はお湯で1分きっかり蒸らして、砂糖は角砂糖2個にミルクはスプーン二杯。
何処で覚えたのか、俺は自分でそれをオリジナルスペシャルブレンドって呼んでた。
何処がブレンドなのか知らないけど、俺がいつも入れるそれを母さんはいつもおいしいといって飲んでいた。
空のマグカップを見るのが何より嬉しかった。

8: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:08:08 ID:DBFmxdQH
それで会社から出た辞令が出張。
人手不足の営業所に2年間。
母さんと俺は付いていく覚悟をしたが、父さんは自分ひとりで言ってくると言い張って、翌々週に遠くへ単身赴任した。
元々高くなかった給料をさらに下げるのを防ぐための出張だったらしい。
生活は少し苦しくなった。母さんはスーパーでパートを始めた。

9: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:11:25 ID:DBFmxdQH
母さんがパートを始めてから、俺は家で一人で居ることが多くなった。
夜7時には帰ってくるものの、小学校から帰ってきたときは部屋ががらんとしてて寂しかった。
でも、帰ってきたら俺のオリジナルスペシャルブレンドで必ず出迎えた。
砂糖とミルクは変わらなかったけど、コーヒー豆は前より安いものになった。

10: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:16:47 ID:DBFmxdQH
日曜日に、俺は母さんと出かけた。
行き先は母さんが勤めてるスーパー。
俺はその日に始めて店の場所を知った。ちょうど通学路に有って、今まで学校帰りに寄った事もある。
中に入ると、母さんと同じくパートであろうおばちゃんと母さんが挨拶してた。
大きなお子さんね、といわれた。この時11だったから、母親に引っ付いてる小学校高学年なんて珍しかったのかもしれない。

12: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:21:25 ID:DBFmxdQH
買い物をしてると、母さんがある棚の前で立ち止まった。
そこにはコーヒー豆の缶が並べられていた。
母さんがいつも飲んでるのは、この中でも一番安い奴。
俺は母さんが高いコーヒーを眺めてため息をついているのを見た。
「いつものやつおいしくないの?」と聞いたら、「ううん、ただちょっと高いコーヒーも飲んでみたいなって」
母さんは名残惜しげに売り場を立ち去った。
俺もすぐに母さんのあとを追ったけど、ずっと頭には始めてみる母さんのため息が引っかかっていた。

13: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:24:21 ID:DBFmxdQH
結局晩御飯の分だけ最低限の買い物をしてその日は帰った。そして、今日も安いコーヒーを入れてあげる。
母さんはいつもどおりおいしいと言っているけれど、なぜかその日は満足そうには見えなかった。

14: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:28:55 ID:DBFmxdQH
いつしか俺はどうしたら母さんにあのコーヒーを飲ませてやれるかを考えていた。
お小遣いもないし、親戚も少ないからお年玉だって残ってない俺にとって、1500円ほどのそれはとても手が届かない代物だった。
おれはない頭で考えた結果、万引きをしてしまった。しかも母さんの働くそのスーパーで。
店員が居ないところを歩いて、コーヒーを抱えながら店を出ようとした俺は、店を出る直前に前挨拶をしたおばちゃんに捕まった。

17: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:34:23 ID:DBFmxdQH
スーパーの事務所みたいなところでさ、おばちゃんと店長さんらしきおじさんに囲まれてたら、勢い良く誰かが事務所に飛び込んできた。
母さんだった。
入ってくるなり俺の頭を思いっきり引っぱたいた。
「何でこんなことしたの!!こんなことしていいと思ったの!!?」
俺は何も言わないでただ泣きそうになるだけ。
「答えなさい!!あんたは犯罪者なんだよ!!人のものとって良いなんて教えた覚えはない!!」
俺はこの時初めて母さんに叩かれた。今までに見たことないほど母さんは怒っていた。
そんなときでも俺は、ブツブツと母さんのためなのに…とかほざいていた。
呆れるほど反省のない奴だった。

18: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:38:40 ID:DBFmxdQH
母さんはパートをやめた。俺のせいで止めざるを得なくなったから。
結局俺が盗ったコーヒー豆は、母さんが電気代を延滞して買い取った。
初めて体罰というものを受けふてくされている俺。この日はまだオリジナルスペシャルブレンドを作ってなかったけど、そんな気分じゃなかった。
俺が居間の隅で不貞寝してると、母さんが俺の名前を呼んだ。
「○○、こっち来なさい」
振り向く気になれなかったけど、しょうがなく立ち上がってダイニングに向かった。

20: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:44:17 ID:DBFmxdQH
「これ飲みなさい」
母さんは、コーヒーがなみなみと入ったマグカップを俺に差し出した。
台所を見ると、俺が万引きしたあのコーヒーの封が切られていた。
「これ…」
「良いから飲みなさい」
母さんの語気に気おされて、俺はコーヒーに口をつけた。
ブラックコーヒーだった。小学生の俺には飲めたものではなかった。
「苦いでしょ、でもね、あんたがこれを人から取ろうとしたんだよ。今はうちのものだけどね、責任を取りなさい」
母さんの顔がいつもの優しい顔からはかけ離れた怖い顔をしていた。
俺はえづきながらブラックコーヒーを少しずつ飲んだ。

22: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:49:50 ID:DBFmxdQH
俺がコーヒーをやっとの思いで飲み干すと、母さんが涙を流し始めた。
俺は混乱した。何故母さんが泣いているのか分からなかった。
「…ありがとうね…ごめんね」
母さんが目を赤くしているのを見て、俺はその時思い知ったんだ。母さんはただ怒ってるんじゃない。ちゃんと俺の考えを分かってたんだ。
俺は何をしていいか分からず、空になったマグカップを握ったまま固まっていた。
「とっても嬉しかった。うん。でもやっぱり人のものを取ったらだめなのよ。それは分かるでしょ?」
母さんの顔が少し柔らかくなった。俺は自分が恥ずかしくて下を向いていた。

23: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 22:58:23 ID:DBFmxdQH
「○○が優しい子ってのはお母さんが一番よく知ってる。だから、絶対に優しさの表現を間違えちゃダメ。誰かを傷つけてまで、お母さんは優しくして欲しくないな」
いつの間にか俺はまた泣き出していた。
ごめんなさい、ごめんなさい、とずっと繰り返していることしか出来なかった。
「お父さんには内緒にしといてあげる。次はないよ?」
母さんが俺の頭を撫でた。自分のやったことへの後悔と、母さんの優しさで俺は号泣した。
「ほら、もう5年生なんだからそんなに泣かないの」
俺が泣いている間、ずっと母さんは頭を撫で続けてくれた。
数十分して俺が泣き止んだ頃、母さんが俺に話しかけてきた。
「もう大丈夫?なら、オリジナルスペシャルブレンドを一杯お願いしようかな」
俺は、母さんのために今迄で一番おいしいオリジナルスペシャルブレンドを淹れた。
それを飲んだ時の母さん顔は、今まで以上に優しく、嬉しそうに見えた。

26: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:02:25 ID:DBFmxdQH
この出来事以来、俺は学校でも真面目な奴として生活し始めた。
言ってみればただのマザコンだけど、絶対に母さんに苦労はかけないと心に決めた。
中学はオール5をとり、地元の良い公立高校に推薦入学して、高校生でも出来るバイトを渡り歩いて家に金を入れた。
俺が中学になったとき父さんは家に戻ってきたけど、結局俺が中2の時に元の会社を辞めて、安い働き口に職を移していた。

28: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:08:17 ID:DBFmxdQH
周りの目は気にしなかった。部活には入らずに勉強とバイトだけ。
大学は準特待生として入った。本当は特待生を目指していたけど届かず、半分に減額された学費も全てバイトで賄った。
そんな矢先に、俺が交通事故にあった。
両足複雑骨折。全治9ヶ月で俺は4ヶ月入院した。


29: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:11:58 ID:DBFmxdQH
家のためにと貯金していた金も全て治療費に消えた。
事故自体は相手の過失だったけど、全額を支払ってはくれなかった。
毎日毎日、リハビリと大学のレポートだけをこなして、金を稼げない自分にいらだっていたんだ。
でも、母さんは毎日見舞いに来てくれた。
友人が見舞いに来たりして少し恥ずかしかった。

30: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:17:39 ID:DBFmxdQH
通院でのリハビリを終えて普通に歩けるようになってから、俺は大学に復学した。
5ヶ月休学していたが、単位は取りためていた。この時大学3年だ
何とかダブるのは免れ無事に4年になったが、5月に母さんが倒れた。
末期の胃がんになっていて、肺にも転移しているらしい。

31: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:18:04 ID:eQ4Pjzol
ちょっと待て話しがおかしい。相手の過失でそんな怪我をすれば相手の保険で確実に儲かるはずだお
やっぱ造り話しか…

33: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:23:49 ID:DBFmxdQH
>>31
入院代は全額向こう持ちだけど処置料とリハビリ代が結構かかる
入院したら分かるよ

32: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:22:10 ID:DBFmxdQH
俺は母さんが倒れた知らせをバイト先で聞いた。
居酒屋のキッチンだったが、店長さんは事情を聞くとすぐに上がれといってくれた。
急いでタクシーで病院に向かうと、急患用(?)の入り口で父さんが立っていた。
「父さん!母さんどうしたって!?」
「今向こうに居る、落ち着け」
父さんは目に見えて元気がなかった。
その日は薬で眠る母親のベッドの横で夜を明かした。
俺が母さんの病状を知ったのは、精密検査を終えたその2週間後だった。

34: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:26:43 ID:DBFmxdQH
俺は講義を終えると必ず見舞いに行って、そこからバイト先へ向かった。
バイトから帰ると、母さんの着替えや生活用品を持って大学へ向かうことを繰り返す。
この時期から母さんが死ぬまで、俺はきっと友人たちにとって付き合いが悪い奴だったはずだ。

35: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:32:52 ID:DBFmxdQH
今からちょうど1年前くらいに、俺と父さんは母さんの主治医から呼び出しを受けた。
母さんの余命宣告だった。テレビでは聴いた瞬間に泣き崩れたりするけど、俺も父さんも一言も喋らずにただ医者の話を聞いていた。
そのあと、医者は俺と父さんに、延命のための治療をするかどうかを訪ねた。
このままの進行ならば4ヶ月の命だが、機械に頼れば1年は頑張れるかもしれない、というのだ。
俺は心底迷った。母さんが、植物人間で居ることを望んでいるか分からなかった。
その日は家に帰って父さんと話し合い、一週間後に延命治療はしないとの結論を主治医に伝えた。

39: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:41:17 ID:DBFmxdQH
結論を出す4日前、3人で病室に居る時、父さんが母さんにこう訪ねた。
「お母さん、家に帰ったらまず何をしようか」
「ん?どうして?」
「ほら、ずっとここに居るだろう。外とか…ほら…息抜きもしたくなるだろ?」
父さんいつも無口なくせに。口ごもるなって。
「うーん…そこまでここを出たくもないわね」
「?…どうして?」
元々痩せていたのが病気のせいでやつれている母さんの顔が微笑んだ。
「家族三人がずっと居るのって、新婚の時みたいで楽しいじゃないの」
そういや母さん、なぜか入院してから良く笑うようになった。
無理してるのかと思ってたけど、違ったんだね。

41: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:49:53 ID:DBFmxdQH
そんなやり取りのあと、父さんは「売店行ってくる」といって病室を出た。
俺は、ニコニコしてる母さんに昔と同じマグカップでコーヒーを淹れてやる。
しばらくしても父さんが戻ってこないから外に出てみると、ナースステーションのところのベンチですぐ見つかった。
売店の袋持ってたから、部屋戻らないのと声をかけようかと思ったけど止めた。
俺は初めて父さんの目が赤くなってるのを見た。ちょっと衝撃だった。
俺は何も言わないで父さんの横に座る。すると父さんが口を開いた。
「母さん楽しそうだな…」
「少なくとも辛くはなさそうだよね」
「阿呆、辛いに決まってるだろう。辛いなりに母さんも頑張ってるんだ」
「母さんは…機械で生きたいのかな」
「俺は…いや、まだゆっくり考えなきゃあな」
「うん」

44: 774号室の住人さん :2007/10/03(水) 23:56:32 ID:DBFmxdQH
「お前、小学校の時万引きしたのか」
少し驚く。父さん、知ってたのか。多分母さんが話したんだろうけど。
「息子の非行を10年もたって知ることになるとはなぁ」
「あれは…うん、子供だった」
「母さんのためだったんだろう?なら、反省さえしてれば良い」
俺の頭にあの時のことがよみがえった。
母さんの手はとっても大きく感じたし、ブラックコーヒーは苦かった。
でも、今は母さんの身長を30cm追い越して、ブラックコーヒーもすんなりのめる。
「成長って奴は怖いな、俺もお前が支えてる。いつ追い越されたんだか」

46: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:02:15 ID:BZRpdB8i
父さんは今介護休暇という名目で休職してる。つまりここの入院費も、家での生活費も全て俺が稼いでいた。
どうしても足りない時は、父さんが親戚に借金を頼み込んで、俺が必ず返済した。
「戻らないと、母さん寂しがるよ。俺、バイト行ってくるからさ」
「ああ。頑張れよ、大黒柱」
「冗談だろ全く」
父さんもそういや最近良く喋るな。そう思いながら俺はベンチから立つ。
それに続いて父さんもベンチから立ち上がって病室に向かう。
いつの間にか父さんすらも身長で追い越したけど、俺の母親を心から愛している男の背中は、いつでも大きかった。

47: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:08:55 ID:BZRpdB8i
母さんに延命治療を施さないと決めてから、俺はバイトを止めた。
少し前からバイトを掛け持ちして、当面の費用は得ていた。足りなくなったら、また働けば良い。
母さんに、そこらへんで売ってる奴とは比べ物にならないくらい高価なコーヒー豆を買ってあげた。
制限はあったものの、一日1杯はその豆でコーヒーを淹れてあげた。
検査の時は水以外の水分を取ってはいけなかったため、60日分の豆は85日目でなくなった。
朝から晩まで、ずっと家族三人。
小さい頃ですらあまりそんな時間を持てなかったのに、何で今になってこんな幸せな家庭が身近にあるんだろう。
父さんの頭は白髪増えたし、母さんの肌はシミが増えた。俺は図体だけでかくなってかわいげも無くなったのに、両親が身近に居るこの時がずっと続けばいいのにと思った。

49: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:15:27 ID:BZRpdB8i
2月になり、当初宣告されていた期間を超えても母さんは生きていた。
明らかにやつれてはいるけど、ずっとニコニコしているし、俺が淹れたコーヒーをおいしそうに飲んでいる。
この時期に、外出許可が出た。
体調が安定している日の、気温が高い午前10時から午後4時までの6時間だったけど、その時間を利用して俺たち三人は我が家に帰ってきた。
母さんからしてみれば5ヶ月ぶりの我が家。家の中は車椅子で通れなかったから、父さんが母さんを負ぶった。
居間に座って、俺が3人分のコーヒーを台所で淹れていると、母さんの声が聞こえた。
声が小さくて聞き取れなかったので居間に戻ると、母さんが「天袋の右をあけて見なさい」と言った。

50: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:19:58 ID:BZRpdB8i
俺が一度も手を書けたことのなかった台所横の天袋。
取っ手の部分に台所から飛んできたであろう油汚れがこびりついていた。
そこを開けてみると、なにやら使わなくなった食器類が置かれていた。
居間に戻って「何か取るの?」と母さんに聞くと、「白い袋があるでしょ」とだけ答えた。
戻って確認してみると確かにある。袋が半透明だったから、中に何かの缶があるのがわかった。
袋から取り出したそれは、12年前の製造日が刻印されたインスタントコーヒーの空き缶だった。

52: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:24:15 ID:BZRpdB8i
びっくりしてそれを持ちながら急いで居間に戻る。
「これ取って置いてたの!?」
「うん、びっくりしたでしょ?」
12年前俺が万引きしたあの缶。錆びて塗装がはげかけてるけど、確かにそれだ。
「あの時のコーヒーが一番おいしかったかな」
いっそう微笑む母さんの顔を見て、俺は涙をこらえ切れなかった。
ちなみに母さんが缶を取っておいていた理由は、俺が優しいことの証拠品だから、だそうだ。

54: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:29:40 ID:BZRpdB8i
4月になり、俺は大学を卒業した。これで、学費の分少しは生活が楽になると思った。
母さんの調子が少しよくなったので、俺はまたバイトを始めた。就職は、全てが終わってからでもいいと思った。
4月上旬、俺はいつもどおりバイト前に母さんの病室に来ていた。
母さんに投与されるモルヒネの量は増え続けていて、最低限の抗がん剤もその副作用を強めていっていた。
体重が28kgになった母さん。髪の毛は、1ヶ月で抜けた。
ある日俺と父さんがうとうとしていると、不意に母さんが俺の名前を呼んだ。

55: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:32:25 ID:BZRpdB8i
「○○、○○、お願いがあるんだけど」
「ん?なに?」
母さんが笑顔で、コーヒーを頂戴、と言った。
もうこの時には検査なども少なく、比較的自由にコーヒーを淹れてあげていた。
俺がカップにドリップペーパーを入れて、インスタントコーヒーの缶を開けたとき、後ろから母さんの泣く声が聞こえた。

58: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:37:00 ID:BZRpdB8i
「母さん?どうした?」
俺が母さんの肩に手を当てると、母さんはさらに泣き始めた。
異変に気づいた父さんもベットの横に来て、母さんの手を握った。
「○○、お父さん、寂しい、寂しいよ。ありがとう、ありがとう…!」
母さんが、今まで溜め込んでいた感情を爆発させた。
辛くないはずないじゃないか。痛くないわけないじゃないか。
そう思ってはいたけれど、母さんは、何より寂しかったんだ。
「大丈夫、大丈夫」
父さんが母さんを抱きしめる。母さんは、数分の間泣き続けた。

60: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:41:06 ID:BZRpdB8i
泣き止んだ母さんは、赤い目のままで、俺にコーヒーの催促をした。
「今迄で一番おいしいのがのみたいな。12年前に負けないくらいの」
母さんが微笑む。
俺は、12年前のあの時を思い出して、ただ母さんのためだけにコーヒーを淹れた。
幾分豆は高いものになったけど、今なら分かる。母さんは、豆の値段でおいしいと言ってたんじゃない。
俺が淹れたものだから、おいしいと言ってくれていたんだ。
母さんが望むなら、俺は世界で一番おいしいコーヒーを淹れる。

61: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:46:36 ID:BZRpdB8i
コーヒー豆はお湯で1分きっかり蒸らして、砂糖は角砂糖2個にミルクはスプーン二杯。
おれが小さい頃編み出したオリジナルスペシャルブレンド。
母さんのためだけに編み出した、俺だけの味。
完成したコーヒーを、母さんは今迄で一番の笑顔で飲んだ。
痛み止めで、あまり味覚も敏感じゃないらしい。のども活発に動かないから、すぐに飲み干すことも出来ない。
俺と父さんは、母さんがコーヒーを飲み干すまでの一時間、一言も話さなかった。
飲み干したカップを置いた母さんの顔は、とても元気そうだった。
今にも立ち上がって、そのままパートにでも行きそうなくらいに。
どんなに体が蝕まれても、母さんは母さんだった。
俺を撫でてくれた時の温もりは、まだ失われてなんかない。

63: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:51:33 ID:BZRpdB8i
「ありがとう、ありがとうね。こんな飲み物、何処行ってもめぐり合えないよ。あなたが私の息子でよかった」
「母さん…」
何かおかしい、落ち着きすぎている。もしかして、と嫌な予感がした。
「ちょっと眠たいな、お父さん、カーテン閉めて頂戴」
父さんが、はっとしてカーテンを閉めに行く。
そしてまたベッドに戻ってくる。
「ありがとう。お父さん、大好き」
突然母さんが父さんにキスをした。父さんの目から、涙が流れてくる。
ゆっくり体を傾ける母さんは、目を閉じても微笑んでいた。

64: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 00:57:01 ID:BZRpdB8i
母さんが体をベッドに預けてから、俺は気づいた。母さん、息してない。
「母さん?…母さん!?どうしたの?おきて!起きてってば!違う、まだ寝たらダメだよ!お願い、寝たふりとかしないで!!
 おれまだ世界で一番うまいコーヒー淹れてないよ!!ほら、高い豆買ってくるから!!スプーン一杯を一分蒸らして角砂糖2ことミルクでしょ!?
 ほら、おいしい奴作るから!ねえ!お願い!」
延命治療はしないと決めてたのに。何でこんなに辛いんだろう。
父さんがナースコールを押して、母さんにお返しのキスをした。

65: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 01:04:38 ID:BZRpdB8i
その日、母さんは帰らぬ人となった。命日は4月6日。偶然俺の誕生日だった。
半年経った今でも、全部の悲しみをぬぐえているわけじゃあないけど、人に話せるようになったら辛さも減るかもしれないと思ってここに書き込みました。
父さんと俺は親子ともどもハローワークに行って就職をした。
父さんは一般企業の派遣、俺は印刷会社。二人揃ってスーツ姿になったけど、きっとこれ見たら母さん笑ってたと思う。
別にコーヒーを淹れることは仕事には何のプラスにもならなかったけど、それでも俺は毎日自分と父さんのコーヒーを淹れる。
父さんには、母さんとおそろいのオリジナルスペシャルブレンド。
自分には、母さんが俺に優しさを教えてくれた、苦いブラックコーヒーを。
母さんの墓、月命日には、あまり他では見かけないコーヒー豆のお供え物が置いてあります。
以上です。延々とお付き合いありがとうございました。

66: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 01:11:13 ID:QLXedjHG
母さん今もきっとオリジナルスペシャルブレンド?飲んでるよ。
>>1に幸あれ
いい話ありがとう。自分も彼氏と別れて落ち込んでたけどそんなんどーでもよくなったわ!はずかし!母さん大事にします。

67: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 01:12:12 ID:3OLLxsxn
>>1
最初から全て読んだ。涙が自然と溢れてきました。とても素敵な家族ですね。羨ましいです。いいお話し聞けて良かった。

68: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 01:13:25 ID:6ExQ/xEr
>>1営業大変やろけどね。まっすぐ生きれよ。もう万引きすんなよw

70: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 01:28:33 ID:k5dsDkSa
最後まで読んだよ。明日読もうと思ったけどPCの電源を落とせなかった
俺と1歳違いの1さん、良い話と言うには未だ半年だから本当に辛い時だろう。
俺に取っては普段、母さんにキツイ事言ったりしているからこの話読んで
本当に目が覚めたよ。未だ暫くは辛い日が続くと思うけど頑張ってな。
俺は大した事が出来ないけど1さんのおかげで母さんを大事にしようと思う気持ちが
素直に出てきたし行動に移そうと思う。俺の母さんもあまり丈夫では無いから心配になってきた。
今、涙目でモニターとキーボードが滲んでるよ。

71: 1 :2007/10/04(木) 02:45:31 ID:BZRpdB8i
すみません、そのまま去るつもりだったのですが補足を。
自分が一人暮らしをしていたのは大学の1〜3年の事故に遭うまでと、今年の6月に就職してからです。
ほぼ毎日実家に行って(どちらも県境なんで)父さんの世話とかしてます。
文章の中に誤解を招く文章があったらおわびいたします。
深夜までありがとうでした。

72: 774号室の住人さん :2007/10/04(木) 03:06:15 ID:zjhpLMRc
若いのに…。
話てくれてありがとう。
頑張ってね。

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積もり積もって七転び八起き◆3iQ.E2Pax2Ivがふと考えついたのが 「死にたい」 という気持ち。そんな中、一つのスレが唯一の光を導き出してくれた。書き込みしてくれる奥様方、なにより飼い猫のチャムちゃん。最後にはー‥七転び八起きとはまさにこのこと。

今から何十年も開かずの間だった蔵を探索する

よくある実況スレかと思いきや、蔵からはとんでもない貴重なお宝が…!誠実な>>1と彼を巡る奇跡のような縁の数々。人の縁、運命、命について考えさせられ、思わず涙するスレです

番外編「I Love World」

昨日、嫁の墓参りに行ってきた

>>1と亡き嫁、そして幼馴染みの優しい三角関係。周りの人々に支えられながら、家族は前に進む。

介護の仕事をしていた俺が精神崩壊した話

介護とは何か。人を支えるとは何か。支えられるとは何か。色々考えさせるスレでした。

彼女との待ち合わせで4時間待たされて着信拒否にした結果wwwww

拒むこと、諦めること、切り捨てることはとても容易い。それでも、もう一度だけ待ってみませんか。拒む掌の向こうの大切なもの、もう一度だけ見つめ直してみませんか。